説明

シリンダライナ及びその製造方法

【課題】シリンダブロックとの接合力を保持でき、しかもシリンダブロックの変形に追従しにくいシリンダライナ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】外周面4に多数の突起5が形成されているシリンダライナ2において、突起が存在しない外周面部分4Aが周方向において部分的に存在する、あるいは突起5の高さが他の部分の突起高さよりも低い外周面部分が周方向において部分的に存在する。上記シリンダライナ2を遠心鋳造法により製造する方法において、外周面に多数の突起を形成した円筒状部材を遠心鋳造後に鋳型から引き抜く工程で、鋳型または鋳型の外部に配置された固定刃具に前記突起を接触させながら通過させることで、前記円筒状部材の外周面の突起を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに鋳包まれるシリンダライナに関し、特に外周面に多数の突起を有しているシリンダライナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンにおいてアルミニウム合金等からなるシリンダブロックに鋳鉄製等のシリンダライナが鋳包まれる場合がある。この場合、両者の接触面積を大きくして熱伝導性を良好にするとともに、両者を堅固に接合させるために、外周面に多数の突起を形成したシリンダライナを遠心鋳造法により製造することが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭43−4842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリンダライナとシリンダブロックとの接合力が高すぎると、熱などによりシリンダブロックが変形した場合、シリンダライナも追従して変形し、その結果、シリンダライナの内周面が変形してしまう場合がある。
【0005】
本発明の目的は、シリンダブロックとの接合力を保持でき、しかもシリンダブロックの変形に追従しにくいシリンダライナ、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外周面に多数の突起が形成されているシリンダライナにおいて、突起が存在しない外周面部分が周方向において部分的に存在していることを特徴とする。
【0007】
上記では、突起のない外周面部分を設けたが、本発明は次のように構成してもよい。すなわち、突起は存在させるが、他の部分よりも突起高さの低い外周面部分を設ける。すなわち、本発明は、外周面に多数の突起が形成されているシリンダライナにおいて、突起の高さが他の部分の突起高さよりも低い外周面部分が周方向において部分的に存在していることを特徴とする。
【0008】
本発明のシリンダライナの製造方法は、上記のシリンダライナを遠心鋳造法により製造する方法において、外周面に多数の突起を形成した円筒状部材を遠心鋳造後に鋳型から引き抜く工程で、鋳型または鋳型の外部に配置された固定刃具に前記突起を接触させながら通過させることで、前記円筒状部材の外周面の突起を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリンダライナによれば、外周面に多数の突起を有しているので、シリンダブロックとの所定の接合力を保持できる。また、本発明のシリンダライナは、突起のない外周面部分、あるいは突起はあるが、他の部分よりも突起高さの低い外周面部分を設けており、シリンダライナとシリンダブロックとの接合力を低下させた部分が存在するため、シリンダブロックの変形にシリンダライナの全てが追従することがなく、シリンダライナ内周面の変形を抑制することができる。本発明のシリンダライナの製造方法によれば、突起の加工を遠心鋳造後の引抜工程で行えるため、工程追加によるコストアップをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)はシリンダライナの斜視図、(b)はその外周面部分の断面図である。
【図2】シリンダライナを装着したシリンダブロックの一部分を示す平面図である。
【図3】本発明のシリンダライナの製造工程を示し、塗型材の塗布工程を示す断面図である。
【図4】本発明のシリンダライナの製造工程を示し、溶湯注入工程を示す断面図である。
【図5】本発明のシリンダライナの製造工程を示し、溶湯注入後を示す断面図である。
【図6】本発明のシリンダライナの製造工程を示し、遠心鋳造後の引抜工程を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線断面図(引抜ロッドは省略)である。
【図8】本発明のシリンダライナの製造工程の別の例を示し、塗型材の塗布工程を示す断面図である。
【図9】本発明のシリンダライナの製造工程の別の例を示し、溶湯注入工程を示す断面図である。
【図10】本発明のシリンダライナの製造工程の別の例を示し、溶湯注入後を示す断面図である。
【図11】本発明のシリンダライナの製造工程の別の例を示し、遠心鋳造後の引抜工程を示す断面図である。
【図12】図11のA−A線断面図(引抜ロッドは省略)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図7を参照しながら説明する。
【0012】
図1にシリンダライナを示し、図2にシリンダライナを装着したシリンダブロックの一部分を示す。シリンダブロック1の材料としては、軽量化及びコスト面を考慮して、例えばアルミニウム合金が用いられる。シリンダライナ2の材料としては、耐摩耗性、耐焼付性及び加工性を考慮して、例えば鋳鉄が用いられる。
【0013】
シリンダライナ2はシリンダブロック1に装着されて、シリンダライナ2の内周面3がシリンダボアを形成する。すなわち、シリンダブロック用の鋳型内にシリンダライナ2が予めセットされ、鋳型内にアルミニウム合金溶湯が充填されることにより、鋳鉄製シリンダライナ2がアルミニウム合金製のシリンダブロック1に鋳包まれて一体結合された鋳包構造体が製造される。
【0014】
シリンダライナ2の外周面4には突起5が多数形成されている。突起5の高さは例えば0.3〜1.2mmである。突起5の個数は例えば20〜120個/cmである。突起5はアンダーカット部を有している。アンダーカット部の例として、本実施形態では、突起5は括れた形状に形成されている。すなわち、突起5は中間部が細く、中間部に括れ部6を有している。
【0015】
シリンダライナ2の突起5は外周面4の全体にわたって多数形成されているが、図1に示されているように、軸方向全長にわたって突起が存在しない外周面部分4Aが周方向において部分的に存在している。本実施形態にあっては、軸方向全長にわたって突起が存在しない外周面部分4Aが円周方向に等間隔をおいて4箇所存在している。
【0016】
シリンダライナ2とシリンダブロック1は、シリンダライナ2の突起5の存在している外周面部分4Bにおいて、シリンダブロック1の一部分がシリンダライナ2の突起5の括れ部6の周りの空間に入り込んだ状態で接合されるため、シリンダライナ2とシリンダブロック1とは所定の接合強度が確保される。また、本発明のシリンダライナ2は、突起が存在しない外周面部分4Aを設けているので、シリンダライナ2とシリンダブロック1との接合力を低下させた部分が存在するため、シリンダブロック1の変形にシリンダライナ2の全てが追従することがなく、シリンダライナ2の内周面3の変形を抑制することができる。
【0017】
シリンダライナ2は遠心鋳造法により製造される。遠心鋳造法によれば、均一な複数の突起5を外周面4に有するシリンダライナ2を生産性よく製造できる。以下、シリンダライナ2の製造方法の一例を図3〜図7により説明する。
【0018】
平均粒径0.002〜0.02mmの珪藻土、ベントナイト(粘結剤)、水、及び界面活性剤を所定の割合で混合して塗型材が作製される。200〜400℃に加熱されて回転する鋳型(金型)10の内面に塗型材が塗型材塗布装置11によって噴霧塗布され(図3参照)、鋳型10の内面に塗型層12が形成される。塗型層12の厚さは0.5〜1.1mmである。界面活性剤の作用により、塗型層12内から発生する蒸気の泡によって塗型層12に複数の凹穴が形成される。塗型層12を乾燥後、回転する鋳型10内にトラフ13から鋳鉄溶湯14が注入される(図4参照)。このとき、塗型層12の凹穴に溶湯14が充填され、均一な複数の括れた形状の突起が形成される。溶湯14が硬化して円筒状部材15(図5参照)が形成された後、引抜工程において、鋳型10から蓋体16が取り外され、円筒状部材15が引抜装置17によって鋳型10から取り出される(図6参照)。引抜装置17は進退可能な引抜ロッド17aを有しており、引抜工程で引抜ロッド17aが円筒状部材15の内部に進入し、ロッド先端部のチャックが拡張して円筒状部材15の内周を掴み、引抜装置17が載置された移動体(図示せず)が後退することにより、円筒状部材15が鋳型10から軸方向に引き抜かれて取り出される。
【0019】
本発明においては、上記の円筒状部材15の引抜工程において、円周方向に等間隔をおいて4箇所の外周面部分の突起が軸方向全長にわたって除去され、軸方向全長にわたって突起が存在しない部分が周方向において4ヶ所形成される。
【0020】
上記突起の除去は以下のようにして行われる。すなわち、図6及び図7に示されているように、鋳型10の出口側端部の内周に刃具18が固定されている。刃具18は鋳型10の内周に円周方向に等間隔をおいて4箇所に設けられている。
【0021】
したがって、外周面に多数の突起を形成した円筒状部材15を遠心鋳造後に鋳型10から引き抜く工程で、鋳型10に配置された固定刃具18に前記突起が接触しながら通過することで、円筒状部材15の外周面の突起が周方向において4箇所、軸方向全長にわたって切削除去される。
【0022】
引き抜かれた円筒状部材15は、その後、ブラスト処理により塗型層12が除去され、所望の形状に切断されて、シリンダライナが製造される。
【0023】
図8〜図12はシリンダライナ2の製造方法の別の例を示している。上記実施形態では、円筒状部材の外周面の突起を鋳型に固定された刃具で除去したが、本例は円筒状部材の外周面の突起を鋳型の外部に配置された固定刃具で除去する例を示している。
【0024】
図11及び図12に示されているように、鋳型10と引抜装置17との間に刃具装置19が設けられている。刃具装置19は鋳型10から引き抜かれる円筒状部材15が通過する断面円形孔20を内部に有している。刃具装置19の断面円形孔20の内周には円周方向に等間隔をおいて4箇所に刃具18が配置して固定されている。
【0025】
図8〜図10に示す塗型材の塗布工程、及び溶湯注入工程は上記実施形態で説明したのと同じであるので説明は省略する。以下、円筒状部材の引抜工程を説明する。
【0026】
引抜工程において、鋳型10から蓋体16が取り外され、引抜装置17の進退可能な引抜ロッド17aが円筒状部材15の内部に進入し、ロッド先端部のチャックが拡張して円筒状部材15の内周を掴み、引抜装置17が載置された移動体(図示せず)が後退することにより、円筒状部材15が鋳型10から軸方向に引き抜かれて取り出される際に、引き抜かれた円筒状部材15が刃具装置19の断面円形孔20を通過する。したがって、この際、刃具装置19の断面円形孔20の内周に配置された固定刃具18に円筒状部材15の突起が接触しながら通過することで、円筒状部材15の外周面の突起が周方向において4箇所、軸方向全長にわたって切削除去される。
【0027】
引き抜かれた円筒状部材15は、その後、ブラスト処理により塗型層12が除去され、所望の形状に切断されて、シリンダライナが製造される。
【0028】
上記実施形態においては、突起を高さ方向において根元から全て除去する例を示したが、本発明はこれに限ることはなく、突起を高さ方向において部分的に残すように除去するようにしてもよい。すなわち、突起の高さが他の部分の突起高さよりも低い外周面部分が周方向において部分的に存在するように構成してもよい。例えば、上記実施形態での突起のない外周面部分4Aに突起を存在させるが、この部分の突起を高さ方向において一部除去して他の外周面部分4Bの突起高さよりも低い突起高さとする。これは固定刃具の刃先の位置を調整することにより容易に行える。
【符号の説明】
【0029】
1 シリンダブロック
2 シリンダライナ
3 ライナ内周面
4 ライナ外周面
4A 突起が存在しない外周面部分
4B 突起の存在する外周面部分
5 突起
6 括れ部
10 鋳型
11 塗型材塗布装置
12 塗型層
13 トラフ
14 溶湯
15 円筒状部材
16 蓋体
17 引抜装置
17a 引抜ロッド
18 刃具
19 刃具装置
20 断面円形孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に多数の突起が形成されているシリンダライナにおいて、突起が存在しない外周面部分が周方向において部分的に存在していることを特徴とするシリンダライナ。
【請求項2】
外周面に多数の突起が形成されているシリンダライナにおいて、突起の高さが他の部分の突起高さよりも低い外周面部分が周方向において部分的に存在していることを特徴とするシリンダライナ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシリンダライナを遠心鋳造法により製造する方法において、外周面に多数の突起を形成した円筒状部材を遠心鋳造後に鋳型から引き抜く工程で、鋳型または鋳型の外部に配置された固定刃具に前記突起を接触させながら通過させることで、前記円筒状部材の外周面の突起を加工することを特徴とするシリンダライナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−67717(P2012−67717A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215101(P2010−215101)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000215785)TPR株式会社 (80)
【出願人】(591206120)TPR工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】