説明

シンクロナイザリング

【課題】衝撃や過大荷重に対して爪片が折れ難いシンクロナイザリングを提供する。
【解決手段】軸方向に亙って直径が変化するテーパ円筒部13と、このテーパ円筒部13の大径側端部に形成された複数の爪片14とからなるシンクロナイザリングにおいて、テーパ円筒部13の硬度が爪片14の硬度より高く設定されている。テーパ円筒部13の硬度がHRC57以上でHRC65以下に設定され、爪片14の硬度がHRC33以上でHRC57未満に設定されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、トラクタ、フォークリフト用などの手動変速機、或はパワーテイクアウト機構のシンクロ機構に組み込むシンクロナイザリングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに用いられる手動変速機にはシンクロ機構が組み込まれ、変速操作時にドライブシャフトと変速ギヤとが同期して回転するようになっている。このようなシンクロ機構にはシンクロナイザリングが組み込まれている。図3は、このようなシンクロナイザリング1を組み込んだシンクロ機構の一例として、例えば特許文献1,2等に記載のダブルコーン型のものを示している。このシンクロ機構は、ドライブシャフト2と共に回転するシンクロハブ3の外周にインサートスプリング4が装着され、このインサートスプリング4に、シフトレバーの操作に基づいて軸方向(図3の左右方向)に変位するカップリングスリーブ5が係合されている。また、このカップリングスリーブ5と、変速ギヤ6と同期して回転するクラッチギヤ7との間に、アウターボークリング8と前記シンクロナイザリング1とインナーボークリング9とが設けられている。
【0003】
変速操作に伴なって、カップリングスリーブ5が図3の左方に押されると、先ず、アウターボークリング8とシンクロナイザリング1との間、およびこのシンクロナイザリング1とインナーボークリング9との間に働く摩擦力の作用によって、カップリングスリーブ5とクラッチギヤ7との回転速度差がなくなる。この状態から更にカップリングスリーブ5が押されると、このカップリングスリーブ5の内周面に形成されたスプライン溝10が、クラッチギヤ7の外周縁に形成されたスプライン溝11とインサートスプリング4の外周縁に形成されたスプライン溝12とに掛け渡すように係合し、ドライブシャフト2と変速ギヤ6とが同期して回転するようになる。
【0004】
前述のように構成され作用するシンクロ機構に組み込まれるシンクロナイザリング1は、図4および図5に示すように構成されている。すなわち、このシンクロナイザリング1は、軸方向に亙って直径が変化するテーパ円筒部13と、このテーパ円筒部13の大径側端面13aに互いに等間隔に形成された複数の爪片14とから構成されている。これら各爪片14の厚さ寸法tは、テーパ円筒部13の厚さ寸法Tよりも小さい(T>t)。なお、各爪片14の延びる方向は、シンクロナイザリング1が組み込まれるシンクロ機構の構造により異なり、例えば、テーパ円筒部13と同方向に傾斜させる場合も、或は各爪片14同士を互いに平行にする場合もある。
【0005】
このような形状を有するシンクロナイザリング1を製造する方法として、例えば、特許文献1には、金属の平板にプレス加工を施すことにより、シンクロナイザリング1を製造する方法が記載されている。図6〜図10は、このような従来のシンクロナイザリングの製造方法を示している。
【0006】
すなわち、先ず、SCr420の如き浸炭鋼あるいはSK5の如き炭素工具鋼等の金属の平板を打ち抜く、所謂ブランキングにより、図7および図8に示すような第1中間素材15を形成する。この第1中間素材15は、円輪状の本体部分16と、この本体部分16の外周縁から互いに等間隔で突出する複数の舌状部17とを有する。
次いで、この第1中間素材15をプレス成形することにより、図9および図10に示すような第2中間素材18とする。すなわち、この成形工程では、本体部分16(図7および図8参照)を、各舌状部17から離れるに従って径が小さくなるように傾斜したテーパ円筒部19として、第2中間素材18とする。
【0007】
次いで、この第2中間素材18を構成するテーパ円筒部19の端面および舌状部17に、旋削等の機械加工を施すことにより、これら各部19、17の形状寸法を所定のものにする。
次いで、前記機械加工に基づいて生じたバリを除去した後、所望の硬度を得るための熱処理を施す。この熱処理としては、例えば浸炭熱処理を行ない、その後、熱処理に基づく変形を矯正する。
次いで、このようにして熱処理を施した第3中間素材には、前記各舌状部17の平面を仕上げて前記各爪片14とするための平面研削、並びに前記テーパ円筒部19の内外両周面を平滑にして前記テーパ円筒部13とするための内外径研削を施して、シンクロナイザリング1とする。
【0008】
このようにして製造したシンクロナイザリング1は、所定の検査を行なってから出荷する。
なお、前記熱処理としては、焼き入れ・焼き戻しなどの他の方法を用いることもでき、また熱処理工程の順番も変えることも可能である。
【0009】
また、特許文献2には、リング状素材を機械加工等してセンターリング(シンクロナイザリング)を製造する技術が開示されており、そしてこの特許文献2の段落番号[0010]には、センターリング全体を浸炭焼入するか爪部(爪片)を高周波焼入して爪部の硬度を確保することが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平3−297527号公報
【特許文献2】特開平11−179481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、シンクロナイザリングは、その使用上、テーパ円筒部は摩耗し難く、爪片は折れ難いことが好ましい。
しかしながら、特許文献1に記載のシンクロナイザリングでは、テーパ円筒部に必要な硬度を得るために、シンクロナイザリング全体に熱処理を施しているので、爪片の硬度が必要以上に高くなるという問題はある。
一方、特許文献2に記載のセンターリングでは、センターリング全体ではなく、爪部を高周波焼入して爪部の硬度を確保する場合があり、この場合にリング部(テーパ円筒部)に必要な硬度が確保できない虞がある。
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、衝撃や過大荷重に対して爪片が折れ難いシンクロナイザリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明のシンクロナイザリングは、軸方向に亙って直径が変化するテーパ円筒部と、このテーパ円筒部の大径側端部に形成された複数の爪片とからなるシンクロナイザリングにおいて、前記テーパ円筒部の硬度が前記爪片の硬度より高く設定されていることを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記テーパ円筒部の硬度がHRC57以上でHRC65以下に設定され、前記爪片の硬度がHRC33以上でHRC57未満に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシンクロナイザリングによれば、爪片の硬度をテーパ円筒部の硬度よりも低くしているので、衝撃や過大荷重に対して爪片を折れ難くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、テーパ円筒部および爪片の硬度関係にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図4および図5と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0017】
図1および図2は、本発明の実施の形態に係るシンクロナイザリングを示す図である。このシンクロナイザリング1Aは、硬度以外は、図4および図5と同様に構成されている。すなわち、このシンクロナイザリング1Aは、SK5やSK85などの炭素工具鋼、SCr420などのクロム鋼、SUJ2などの軸受鋼あるいはクロムモリブデン鋼などの金属からなるもので、軸方向に亙って直径が変化するテーパ円筒部13と、このテーパ円筒部13の大径側端面13aに互いに等間隔に形成された複数の爪片14とから構成されている。これら各爪片14の厚さ寸法tは、テーパ円筒部13の厚さ寸法Tよりも小さい(T>t)。なお、各爪片14の延びる方向は、シンクロナイザリング1が組み込まれるシンクロ機構の構造により異なり、例えば、テーパ円筒部13と同方向に傾斜させる場合も、或は各爪片14同士を互いに平行にする場合もある。
【0018】
そして、このシンクロナイザリング1Aでは、テーパ円筒部13の硬度(表面硬度)が爪片14の硬度より高く設定されている。例えば、テーパ円筒部13の硬度がHRC57以上でHRC65以下に設定され、爪片14の硬度がHRC33以上でHRC57未満に設定されるのが好ましい。
【0019】
このシンクロナイザリング1Aは、硬度向上のための熱処理の方法以外は、図6〜図10に示す製造方法と同様に製造される。
そして、硬度向上のための熱処理を、例えば、次のようにして行う。
すなわち、テーパ円筒部13のみを高周波焼入れし、テーパ円筒部13の硬度を爪片14の硬度より高くする。この場合、シンクロナイザリング1Aの製造に用いる金属材料の炭素濃度は、0.5%以上のものが好ましく、Cr420のように炭素濃度の低い材料を用いる場合は、浸炭して高周波焼入れする。
また、他の熱処理方法として、一度全体に焼入れを施した後、爪片14を高周波で焼戻しして、爪片14を軟らかくする。
さらに、他の熱処理方法として、爪片14を防炭して、浸炭焼入れを施し、爪片14が硬くならないようにする。
【0020】
このシンクロナイザリング1Aにあっては、爪片14の硬度をテーパ円筒部13の硬度よりも低くしているので、衝撃や過大荷重に対して爪片を折れ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るシンクロナイザリングを示す平面図である。
【図2】図21のA´−A´線に沿う断面図である。の製造方法を説明するための図であって、平面図である。
【図3】鋼製環状部材の一種である、シンクロナイザリングを組み込んだシンクロ機構の1例を示す部分断面図である。
【図4】シンクロナイザリングの一例を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】従来のシンクロナイザリングの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】第1中間素材を示す平面図である。
【図8】図7のB−B線に沿う断面図である。
【図9】第2中間素材を示す平面図である。
【図10】図9のC−C線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1A シンクロナイザリング
13 テーパ円筒部
14 爪片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に亙って直径が変化するテーパ円筒部と、このテーパ円筒部の大径側端部に形成された複数の爪片とからなるシンクロナイザリングにおいて、
前記テーパ円筒部の硬度が前記爪片の硬度より高く設定されていることを特徴とするシンクロナイザリング。
【請求項2】
前記テーパ円筒部の硬度がHRC57以上でHRC65以下に設定され、前記爪片の硬度がHRC33以上でHRC57未満に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のシンクロナイザリング。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−309294(P2008−309294A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159718(P2007−159718)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】