説明

シンチレータ用単結晶の製造方法およびシンチレータ用単結晶

【課題】ガンマ線検出装置用に、極めて高い発光量、蛍光の減衰時間が極めて短い特徴を有するPrを含むガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を提供すること。
【解決手段】(PrLu1−xAl12で表される初期融液を結晶化して、シンチレータ用単結晶を製造する方法において、前記初期融液のxが0.02≦x≦0.03、yが5<y≦5.2となるように調整することを特徴とするシンチレータ用単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラセオジム(Pr)を含むシンチレータ用単結晶の製造方法およびシンチレータ用単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出核種断層撮影(PET)装置においては、電子・陽電子の結合時に同時に発生するエネルギーの高いガンマ線(511KeV)を検出するために密度が高く、かつ高速応答に対応するために蛍光の減衰時間の短いシンチレータが必要になる。さらに、分解能、感度向上のため発光量の多いことが要求される。
【0003】
これらの要求を満たすシンチレータ結晶として長年BiGe12(BGO)単結晶が使用されてきた。BGOは密度が7.13g/cmと高くガンマ線に対し高い吸収係数を持っているが、発光量の少ないことが欠点となっている。近年、PET装置の特性向上のため、より発光量が多く蛍光の減衰時間の短いCe:GdSiO(Ce:GSO)、Ce:LuSiO(Ce:LSO)単結晶が使用されるようになっている。
【0004】
さらに、PET装置分解能の向上、検査時間の短縮化を目指してTime of Flight(TOF)方式のPET装置の開発が始まったが(特許文献1参照)、TOF方式PET用にはより蛍光の減衰時間の短い単結晶が必要となる。
そこで、本発明者等が鋭意研究した結果、Prをドープした(LuAl12)(Pr:LuAG)結晶は、ガンマ線励起による発光量がBGO比で3倍程度であり、かつ減衰時間が22nsと短い特性を有し、上記のTOF方式PET用のシンチレータ結晶として十分な特性を有することが見出された(特許文献2、非特許文献1参照)。また、この結晶は、劈開性がないので、GSOより加工が容易であり、またその融点はLSOより低く、線膨張係数の異方性がGSOやLSOに比べて小さく、単結晶成長が容易であるこという特徴を有する。
ところで、従来、Pr:LuAGを引上げ法で製造する場合は、式:(Pr,Lu1−x)Al12に基づいて、結晶化時における坩堝内の初期融液の組成比、(Lu+Pr):Alが3:5(mol比)の化学量論比となるように、原料であるPr11、LuおよびAlの粉末を秤量し、混合、溶融した後に、結晶化することによって行っていた(非特許文献1)。この場合、(Lu+Pr):Alの比は、作製された結晶中の全ての領域で3:5とはならず、LuやAl等の析出物の混入、気泡の混入、およびLuのAlサイトへの固溶などのために、得られた結晶の発光量はBGOの3倍までであった。
【特許文献1】特開2001−72968号公報
【特許文献2】WO2006/049284号公報
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth 292(2006)239−242,"Scintillation characteristics of Pr−doped Lu3Al5O12 single crystals"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Pr:LuAG結晶は、TOF方式PET用のシンチレータ結晶として用いるために、さらなる発光量の向上が求められており、これを実現するためには、結晶製造方法のさらなる改良が必要であった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされてものであり、ガンマ線による発光量がBGOの3倍以上であり、蛍光の減衰時間がGSO(60ns)、LSO(40ns)より短い、シンチレータ用単結晶を安定的に製造することが可能な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明によれば、(PrLu1−xAl12で表される初期融液を結晶化して、シンチレータ用単結晶を製造する方法において、前記初期融液のPr含有量xが0.02≦x≦0.03、Al含有量yが5<y≦5.2であることを特徴とするシンチレータ用単結晶の製造方法が提供される。
【0008】
この製造方法においては、初期融液(PrLu1−xAl12の組成が、0.02≦x≦0.03、5<y≦5.2となるように調整される。これにより、生成した結晶中に、発光に有害な気泡や析出物等が生成せず、生成した結晶は、BGOの3倍以上の発光量を有し、30ns以下(発光のピークは310nm付近)と短い発光減衰時間を有する。したがって、時間分解能に優れたTOF型PET用のシンチレータ結晶を得ることができる。
【0009】
また、単結晶の製造方法をチョコラルスキー法(引上げ法)としてもよく、これにより大型結晶が安定的に安価で製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、BGOの3倍以上の発光量を有し、30ns以下の短い発光減衰時間を有するシンチレータ結晶を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のシンチレータ用単結晶の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の実施形態では、チョコラルスキー法による製造方法の例を説明する。
本発明において、(PrLu1−xAl12で表される初期融液を結晶化して、シンチレータ用単結晶を製造する方法において、初期融液のxが0.02≦x≦0.03、yが5<y≦5.2であることを特徴とするシンチレータ用単結晶の製造方法が提供される。
一実施形態において、シンチレータ用単結晶の製造は、(PrLu1−xAl12の組成で表され、xは0.02≦x≦0.03であり、yは5<y≦5.2である初期融液を、坩堝内で結晶化することにより行われる。
初期融液である(PrLu1−xAl12のxおよびyを、それぞれ、0.02≦x≦0.03、5<y≦5.2とすることにより、BGOの3倍以上の発光量を有し、30ns以下の短い発光減衰時間を有する単結晶が得られる。この理由は、必ずしも明らかではないが、上記範囲の組成にすることにより、得られる結晶中のAlインクルージョンが低下するとともに、アンチサイトディフェクトが減少することによると考えられる。
【0012】
本実施形態において、初期融液(PrLu1−xAl12の組成が、0.02≦x≦0.03、5<y≦5.2を満たすように、出発原料のPr11、Lu、およびAlを秤量し、イリジウム(Ir)坩堝、モリブデン(Mo)坩堝、もしくはタングステン(W)坩堝、またはIrとレニウム(Re)との合金からなる坩堝に入れて混合、溶融し、チョコラルスキー法(引上げ法)により単結晶を育成する。
【0013】
本実施形態の単結晶製造方法において、出発原料として一般的な酸化物原料が使用可能であるが、シンチレータ用単結晶として使用する場合は、99.99%以上(4N以上)の高純度原料を用いることが特に好ましく、これらの出発原料を融液形成時に目的組成となるように秤量、混合したものを用いる。さらにこれらの原料中には特に目的とする組成以外の不純物が極力少ない(例えば、10ppm以下)ものが特に好ましい。特に目的とする結晶の発光波長付近に発光を有する元素(例えば、Tbなど)が極力含まれていない原料を用いることが好ましい。
【0014】
チョコラルスキー法とは、坩堝内に原材料を入れ、坩堝を加熱して坩堝内の原材料を溶融し、この原材料の融液に種結晶を浸けて引上げることにより単結晶を成長させる、単結晶の製造方法である。チョコラルスキー法は、高周波誘導加熱装置を用いて行うことができる。
【0015】
結晶の育成を不活性ガス(たとえば、Ar、N、He、CO等)雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを使用しても良い。但し、酸素との混合ガスを使用する場合は、坩堝材料の酸化を防ぐ目的で、酸素の分圧は3%以下であることが好ましい。尚、結晶育成後の熱処理などの後工程においては、酸素ガス、不活性ガス、および不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いることができる。この場合は、酸素分圧の制限は受けず酸素濃度0%から100%までいずれの混合比のものを使用しても良い。但し、この場合は、熱処理温度で酸素や育成単結晶と反応しない容器材料を使用することが必要である
【0016】
チョコラルスキー法の他に、マイクロ引下げ法、ブリッジマン法、帯溶融法(ゾーンメルト法)、キュロポーラス法、または縁部限定薄膜供給結晶成長(EFG法)等、特に制限なく採用可能であるが、加工ロスを低減し、歩留まりを向上させる目的で大型単結晶を得るためには、引上げ法、ブリッジマン法、キュロポーラス法が好ましい。さらに、大型の単結晶を安定的に得るために、チョコラルスキー法が特に好ましい。
一方、小型の単結晶のみを作製する場合は、ゾーンメルト法、EFG法、マイクロ引下法、引上げ法が好ましく、坩堝との濡れ性などの理由から、EFG法、マイクロ引下法が特に好ましい。
【0017】
また、使用する坩堝・アフターヒーターとして、白金、モリブデン、タングステン、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金を使用することも可能である。
【0018】
さらに、坩堝の加熱溶解方法は、高周波誘導加熱溶解のみならず、抵抗加熱溶解の使用も可能である。
【0019】
本発明の製造方法で得られたPrを含むシンチレータ用単結晶からの発光は、Pr3+の5d−4f間遷移に伴う発光と考えられ、それにより、絶対光収率をBGOの8200光子/MeVより大幅に向上させることが可能であるとともに、蛍光の減衰時間もBGOの300nsより大幅に短縮させることが可能である。
【0020】
また、本発明の製造方法で得られたシンチレータ用単結晶は、ガンマ線により励起されて発する蛍光波長が250〜350nmである。蛍光波長がこの範囲にあると、蛍光の減衰時間が短く、高速応答の放射線検出の用途に好適に用いることができる。
【0021】
このシンチレータ用単結晶から発せられる蛍光は短寿命であり、例えば室温における蛍光の減衰時間は1〜30nsの範囲にある。
【0022】
このような高性能のシンチレータ用単結晶は、より高性能なPET装置、たとえばタイム・オブ・フライト(TOF)型PET装置などへの応用が期待される。
【0023】
PET装置では、検出の分解能を高めるためには、特定部位からの放射線(例えばガンマ線)励起によるシンチレータ用単結晶の蛍光時間が短いほど良い。そこで、本実施形態による単結晶を用いたシンチレータにより放射線検出器を構成することで、蛍光を短時間で減衰させるとともに、短時間でも測定可能な程度の高エネルギーの発光を得ることが可能になり、その結果、時間分解能が高まって単位時間あたりのサンプリング数を増加させることができるので検出性能が大きく向上する。
さらに、TOF型PETでは、放射線検出器までの到達時間差により部位を特定するので、蛍光の減衰時間は極力短い方が良い。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の具体例について説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0025】
(実施例1)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.025Lu0.975Al5.1512の組成の融液(チャージ量Pr11:6g、Lu:271.5g、Al:122.5g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比3.2〜3.5倍、減衰時間は22nsであった。
【0026】
(実施例2)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.03Lu0.97Al5.1512の組成の融液(チャージ量Pr11:7.2g、Lu:272.6g、Al:120.2g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比3.1〜3.3倍、減衰時間は22nsであった。
【0027】
(実施例3)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.02Lu0.98Al5.0112の組成の融液(チャージ量Pr11:3.2g、Lu:276.8g、Al:120.0g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比3.0〜3.2倍、減衰時間は22nsであった。
【0028】
(実施例4)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.03Lu0.97Al5.0512の組成の融液(チャージ量Pr11:7.2g、Lu:271.9g、Al:120.9g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比3.0〜3.4倍、減衰時間は22nsであった。
【0029】
(実施例5)
φ25mmのIr坩堝を使用し、ブリッジマン法により、(Pr0.03Lu0.97Al5.1512の組成の融液(チャージ量Pr11:7.2g、Lu:270.3g、Al:122.6g)からAr雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、の条件で、φ25mm、長さ65mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は大部分透明であり、最終結晶化部分に白濁部分が少し見られた。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比3.0〜3.3倍、減衰時間は22nsであった。
【0030】
(比較例1)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.025Lu0.975Al12の組成の融液(チャージ量Pr11:6g、Lu:274.0g、Al:120.0g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比2.9〜3.0倍、減衰時間は22nsであった。
【0031】
(比較例2)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.025Lu0.975Al5.2512の組成の融液(チャージ量Pr11:5.9g、Lu:269.9g、Al:124.1g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は途中から不透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比2.0〜3.1倍、減衰時間は22nsであった。
【0032】
(比較例3)
φ50mmのIr坩堝を使用し、引上げ法により、(Pr0.025Lu1.005Al12の組成の融液(チャージ量Pr11:5.9g、Lu:276.6g、Al:117.5g)からN雰囲気下、成長速度1.0mm/時間、種回転数13〜10rpmの条件で、φ22mm、長さ80mmのPr:LuAGガーネット型酸化物シンチレータ用単結晶を育成した。この単結晶は透明であった。137Csからのガンマ線により発光量、減衰時間を測定したところ、発光量はBGO比1.2〜2.7倍、減衰時間は22nsであった。
【0033】
図1は、実施例1〜5および比較例1〜3で得られた単結晶の、137Csからのガンマ線励起による発光量を示すグラフである。縦軸はBGOの発光量を1とした場合の発光量であり、横軸は結晶化率(%)である。ここで、結晶化率は、以下の式により定義される:
結晶化率(%)=(結晶量(g)/初期融液量(g))×100。
【0034】
この図から、(PrLu1−xAl12で表される融液において、Prの組成xを、0.02≦x≦0.03とした場合、AlおよびLuを、(Lu+Pr):Al=3:5となるように仕込む(y=5とする)よりも、Alを約3%過剰で仕込み、yが5<y≦5.2となるよう調整した融液から単結晶を育成した方が、発光量の高いことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1(■)、実施例2(▲)、実施例3(●)、実施例4(◆)、実施例5(*)、比較例1(△)、比較例2(□)、比較例3(○)で得られた結晶の137Csからのガンマ線励起による発光量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(PrLu1−xAl12で表される初期融液を結晶化して、シンチレータ用単結晶を製造する方法において、前記初期融液のxが0.02≦x≦0.03、yが5<y≦5.2となるように調整することを特徴とするシンチレータ用単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法がチョコラルスキー法(引上げ法)であることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ用単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により得られたシンチレータ用単結晶であって、発光量がBGOの3倍以上であることを特徴とするシンチレータ用単結晶。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法により得られたシンチレータ用単結晶であって、波長310nmにおける発光の減衰時間が、30ns以下であることを特徴とするシンチレータ用単結晶。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231334(P2008−231334A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75993(P2007−75993)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】