説明

シート状成形体およびその製造方法

【課題】時間経過にともなう硬度の劣化が抑制された凹凸面を有するシート状成形体を提供する。
【解決手段】支持体と、前記支持体の一方の主面側に配置され、放射線硬化性樹脂を含み、前記支持体側の面の反対面が凹凸形状を有した樹脂層とを備え、前記樹脂層のイオンクロマトグフラフィー法により測定される含有塩素イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とするシート状成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方の主面に微細な凹凸を有したシート状物成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一方の主面に微細な凹凸を有した成形体は、反射防止フィルム、拡散シート、輝度向上シート等の光学フィルム、導光板、回折格子、パターンドメディア、光記録媒体、光学素子、ホログラム、マイクロ流路、建材、装飾品及び研磨テープ等の分野で幅広く用いられている。反射防止フィルム、拡散シート等に代表されるような光学フィルムの分野では、凹凸形状のさらなる微細化への要請があり、成形精度、低腐食性(金属部材の腐食の原因になり難いこと)、および硬度の安定性等に関する信頼性の要求が厳しくなり、これらの特性の改善が重要になっている。
【0003】
光が入射する側の主面に微細な凹凸を有した反射防止膜(Anti-glare film)では、凹凸表面での光の散乱を利用して、光の映り込みをより抑制している。なお、反射防止膜は、例えば、液晶表示板やCRT等の表示部に貼り付けられて用いられることにより、表示部への外光や周辺物の写り込みを抑制している。反射防止膜は、通常、相対的に屈折率が低い材料からなる低屈折率層と、低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層と、透光性基材とを含み、これらが光の入射側からこの順に積層された構造をしている。高屈折率層は、ハードコート層と呼ばれる場合もある。
【0004】
光が入射する側の主面に微細な凹凸を有した反射防止膜は、光の映り込みをより抑制できる反面、その全体がすりガラスのように白く見えるため、表示部に表示される画像の鮮やかさを低下させる欠点を有する。しかし、凹凸形状のピッチを可視光波長以下のサブミクロンオーダーにすることにより、優れた反射防止機能が得られるという報告があり(非特許文献1等参照)、凹凸形状のさらなる微細化により、反射防止能をさらに向上させる取り組みが行われている。
【0005】
微細な凹凸形状を有する表面を形成する方法は種々あるが、表面に凹凸形状を有する金型を用いる方法が簡便で経済的である。この方法として、下記のようなエンボスロールを用い、連続的に凹凸表面を有したシート状成形体を製造する方法が提案されている。
【0006】
シート状成形体の製造方法の一例では、シート状の透明基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を含む塗料を供給する。次いで、これらを凹凸表面を有するエンボスロールと支持ロールとの間に搬送し、上記基材上の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をエンボスロールに押し当てる。この状態の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させる(例えば、特許文献2)。
【0007】
シート状成形体の製造方法の他の一例では、凹凸表面を有するエンボスロールの上記凹凸表面上に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を含む塗料を塗布する。次いで、シート状の基材をエンボスロールに塗布された活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に重ねた状態で、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化させる(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
上記活性エネルギー線硬化型樹脂には、ウレタンアクリレートオリゴマーとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとからなる比較的高粘度の樹脂が用いられることもある(例えば、特許文献3参照)。また、上記活性エネルギー線硬化型樹脂には、粘度400mPa・sのアクリル樹脂や、粘度100〜5000mPa・sのエポキシ樹脂等の紫外線硬化樹脂が用いられることもある(例えば、特許文献4)。
【0009】
微細な凹凸形状は光ディスクにも利用されている。光ディスクは、サブミクロンオーダーの凹凸形状のトラック溝を有している。光ディスクでは、このトラック溝に微小な光スポットからなるピット列を形成することにより情報が記録される。記録密度の向上のために、光スポットのさらなる微小化と共にトラック溝のさらなる微細化が望まれている。なお、上記トラック溝を有する基板は、金型を用いた射出成形法等により作製される。
【非特許文献1】P.B.Clapham and M .C.Hutley著、ネイチャー(ロンドン)244,282-282(1973)
【特許文献1】特許3016638号公報
【特許文献2】特許3490099号公報
【特許文献3】特許2610463号公報
【特許文献4】特開2002−225133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の凹凸面を有するシート状成形体は、時間経過による凹凸面の硬度の低下や、凹凸面の近くに配置される金属(例えば、ニッケルやアルミニウム等)部材を腐食させる問題があった。
【0011】
本発明は、時間経過による硬度の劣化が抑制され、金属部材の近くに配置される場合は金属部材の腐食の原因となり難いシート状成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のシート状成形物は、支持体と、前記支持体の一方の主面側に配置され、放射線硬化性樹脂組成物を含み、前記支持体側の面の反対面が凹凸形状を有した樹脂層とを備え、前記樹脂層のイオンクロマトグフラフィーにより測定される含有塩素イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のシート状物の製造方法は、放射線硬化性樹脂を含んだ放射線硬化性樹脂組成物を含む塗料層と支持体とが重なった状態で、前記塗料層を凹凸表面を有する成形型に当接させて前記成形型の前記凹凸面の凹凸形状を前記塗料層に転写した後、前記塗料層に含まれる前記放射線硬化性樹脂を硬化することにより、前記塗料層を前記樹脂層とする樹脂層形成工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、時間経過による硬度の劣化が抑制され、金属部材の近くに配置される場合は金属部材の腐食の原因となり難い、凹凸面を有するシート状成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、種々検討した結果、後述する実施例に示されるように、凹凸面を有する樹脂層からイオン交換水により抽出され得る塩素イオンの濃度を制御することで、時間経過にともなう硬度の劣化を抑制できた。
【0016】
また、塩素イオン濃度を制御することにより、塩素イオンが原因で生じる金属の腐食等も抑制できた。よって、本発明のシート状成形体が、例えば光記録媒体を構成する凹凸層である場合、この凹凸層に接して配置される、例えばAlからなる反射層の腐食を抑制できる。また、本発明のシート状成形体が、例えば光学シートを構成する凹凸層である場合、この凹凸層に隣接して配置されるニッケル蒸着膜からなる反射層の腐食を抑制できる。
【0017】
以下に、本発明のシート状成形物の一例を図1を用いて説明する。
【0018】
図1(a)に示すように、本実施形態のシート状成形体10は、支持体11と、支持体11上に配置された樹脂層12とを備える。樹脂層12の支持体11側の主面の反対面は凹凸を有している。
【0019】
樹脂層の形成に用いられ、放射線硬化樹脂(モノマー、オリゴマー)と必要に応じて添加される添加剤とを含む放射線硬化樹脂組成物中の塩素濃度は、10ppm以下であることが好ましい。樹脂層からイオン交換水により抽出され得る塩素イオンの濃度を10ppm以下として、凹凸面の表面強度が時間経過により低下してしまうことを抑制するためである。また、樹脂層からイオン交換水により抽出され得る塩素イオンの濃度が10ppmを越えると、樹脂層の近傍に配置される金属部材の腐食が生じやすくなるからである。放射線硬化樹脂組成物中の塩素濃度は、5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましい。塩素濃度の下限について特に制限はないが、可能なかぎり低濃度であると好ましい。
【0020】
ここで、樹脂層の形成に用いられる放射線硬化樹脂組成物中の塩素濃度は、遊離の塩素イオン濃度と、遊離していない塩素濃度との総和である。遊離していない塩素は、熱分解反応等により塩素イオン源となり得るからである。
【0021】
樹脂層12は、例えば、未硬化状態の放射線硬化樹脂組成物を含む塗料層と支持体11とが重なった状態で、塗料層を凹凸表面を有する成形型に当接させて成形型の凹凸面の凹凸形状を塗料層に転写した後、塗料層に含まれる放射線硬化樹脂を硬化させることにより形成される。塗料層は、放射線硬化樹脂組成物と必要に応じて希釈溶媒とを含む塗料を塗布した後、乾燥により塗膜から希釈溶媒を除去させることによって得られる。
【0022】
上記放射線硬化樹脂組成物は、放射線硬化性樹脂以外に、必要に応じて、光開始剤、増感剤、促進剤、重合禁止剤、レべリング剤、離型剤、色材、またはフィラー等を含んでいてもよい。これらの添加剤も、樹脂層からイオン交換水により抽出され得る塩素イオンの濃度が10ppm以下となるように、可能なかぎり塩素を含んでいないことが好ましい。
【0023】
放射線硬化樹脂組成物に含まれる放射線硬化性樹脂は、かならずしも脱塩素処理等がされている必要はないが、塩素は脱塩素処理等により可能なかぎり除去されると好ましい。
【0024】
放射線硬化性樹脂は、その合成の際の原料の反応不足または精製不良等により、不純物として塩素系化合物を含む場合がある。例えば、エポキシ系モノマー(オリゴマー)は、その原料に塩素系化合物であるエピクロルヒドリンが用いられる場合があり、このエピクロルヒドリンが不純物としてエポキシ系モノマー(オリゴマー)中に混入している場合がある。
【0025】
脱塩素処理方法としては、例えば、水洗処理、またはイオン交換膜を利用した処理等が挙げられるが、特には、水洗処理が好ましい。水洗処理では、例えば、放射線硬化性樹脂(モノマー、オリゴマー)をトルエン等の有機溶剤に溶解して溶液を得た後、当該溶液を数回水洗し、次いで、有機溶剤を除去することにより脱塩できる。
【0026】
放射線硬化性樹脂は、実質的に塩素を含まない放射線硬化性樹脂であることが好ましいが、具体的には、非塩素系の単官能ビニルモノマーまたは単官能(メタ)アクリルモノマー(以下、これらを総称して「単官能モノマー」と呼ぶ場合がある。)と、多官能(メタ)アクリルモノマー(またはそのオリゴマー)とを含んでいると好ましい。
【0027】
非塩素系の単官能ビニルモノマーとしては、ビニルピロリドン、ビニルホルムアミド等が挙げられる。単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、アクリロイルモルフォロリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド、イソボロニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは単官能モノマーであるため粘度が低く、放射線硬化性樹脂組成物の粘度調整の際、粘度低下に寄与する。また、これらのモノマーは、複素環、アミド基、水酸基、メトキシ基等の官能基を有しているので、これらのモノマーを含む塗料層が硬化して得られる樹脂層の支持体への密着性は良い。なかでも、放射線硬化性樹脂組成物の粘度、硬化性、樹脂層の硬度および支持体への密着性等を考慮すると、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォロリン、テトラヒドロフルフリルアクリレートおよびイソボロニルアクリレートがより好ましく、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォロリンが特に好ましい。
【0028】
多官能(メタ)アクリルモノマー(そのオリゴマー)としては、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピルトリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトーツテトラ(メタ)アクリレート、またはジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。市販品としては、例えば、共栄社化学製のAH−600、UA306H、新中村化学製U−4HA、U−6HA、U−6LPA等の(メタ)アクリルオリゴマーが挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリルモノマー(そのオリゴマー)が、樹脂層を形成するための放射線硬化性樹脂組成物に含まれていると硬化が良好に行なわれる。また、これらの多官能(メタ)アクリルモノマー(そのオリゴマー)は、樹脂層の硬度の向上に寄与する。これらの中でも、硬化性、樹脂層の硬度および支持体への樹脂層の密着性等を考慮すると、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびアクリルオリゴマーが特に好ましい。
【0029】
放射線硬化性樹脂の選択にあたっては、生産性の観点から、300mJ/cm2以下の紫外線光量で硬化するものが好ましく、150mJ/cm2以下で硬化するものがより好ましく、50mJ/cm2以下で硬化するものがよりいっそう好ましい。
【0030】
放射線硬化性樹脂組成物を含む塗料の25℃における粘度は、3〜100mPa・sであることが好ましい。塗料の粘度がこの範囲内にあれば、例えば、厚さが5μm以下の塗料層を形成する場合であっても、塗料の塗布が良好に行え、かつ、レべリング不良等に起因する塗布スジ、未塗布部(ボイド)等の発生を抑制できる。同様の理由から、塗料の25℃における粘度は、5〜50mPa・sであるとより好ましい。また、塗料の25℃における粘度が、100mPa・s以下であると、転写速度が速くても塗料中の気泡の抜けがよく、塗料層へのエンボスロールの凹凸面の転写性も良いので、成形不良を引き起こし難い。
【0031】
塗料の粘度を制御する方法の一例としては、単官能モノマーと多官能モノマー(オリゴマー)との混合割合を制御する方法が挙げられる。さらに、塗布適性をより良好にするために、塗料は、必要に応じて放射線硬化性樹脂組成物を希釈する希釈溶剤を含んでいてもよい。しかし、この場合、乾燥等により塗膜から上記希釈溶剤が除去されて得られた塗料層に含まれる放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、3〜100mPa・sであると好ましい。
【0032】
単官能モノマーと多官能アクリルモノマー(オリゴマー)との混合割合は、放射線硬化性樹脂組成物の25℃における粘度が3〜100mPa・sとなるように、例えば、重量比で10:90〜80:20であると好ましい。この場合、エンボスロールの凹凸面の、塗料層への転写性が良好であり、樹脂層の機械的強度も十分に確保されるので好ましい。また、放射線硬化性樹脂組成物の25℃における粘度が、3〜100mPa・sであると、硬化が良好に行なわれ、樹脂層の強度も十分に確保できる。
【0033】
放射線硬化性樹脂の引火点は70℃以上であることが好ましい。引火点が70℃よりも低いと、引火の危険性が高くなるからである。
【0034】
以上、放射線硬化性樹脂または放射線硬化性樹脂組成物の好ましい例について説明したが、樹脂層からイオン交換水により抽出され得る塩素イオンの濃度が10ppm以下であるかぎりにおいて、上記の単官能モノマーと多官能アクリルモノマー(オリゴマー)との混合物に代えて、公知の放射線硬化性樹脂を用いてもよい。
【0035】
光開始剤の必要性の程度は塗料層に照射される放射線の種類によって異なる。特に、紫外線、または可視光が硬化反応のエネルギー源として使用される場合、放射線硬化性樹脂組成物は光開始剤を含んでいると好ましい。
【0036】
光開始剤には、特に制限はなく一般的なものを用いることができる。光開始剤としては光ラジカル重合剤が好ましく、光ラジカル重合剤としては、例えば、ベンジル、ジアセチル等のα−ジケトン類、ベンゾイン等のアシロイン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、アセトフェノン、2−(4−トルエンスルホニルオキシ)−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α’−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類、アントラキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類、フェナシルクロライド、トリハロメチルフェニルスルホン、トリス(トリハロメチル)−s−トリアジン等のハロゲン化合物、アシルホスフィンオキシド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
塗料層への紫外線の照射は、支持体越しに行われることもあるため、支持体を透過する光の波長に応じて適切な開始剤を選ぶことが好ましい。具体的には、支持体の吸収波長と重複しない波長領域で光を吸収する光開始剤を選択すると好ましい。例えば、支持体の材料が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートである場合、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン等の光開始剤を選択することが好ましい。市販品としては、イルガキュア369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、イルガキュア819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)(いずれも、チバガイキー社製)が挙げられる。特に、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンと、2,4−ジエチルチオキサントンまたは2−クロロチオキサントンとを併用すると効果的である。
【0038】
樹脂層の凹凸面の好ましい形状は、シート状成形体の用途によって異なるが、本実施形態は、凹凸の平均一周期長(D)が0.01μm〜50μmであり、凸部の平均高さ(H)が0.01μm〜50μmであり、凹凸の平均一周期長(D)と平均高さ(H)との比(D/H)が、0.01〜100である樹脂層を備えたシート状成形体の製造に有用である。このような凹凸形状を有するものとしては、例えば、拡散シート、輝度向上シート等の光学シート、パターンドメディア、光記録媒体等が挙げられる。特には、凹凸の平均一周期長(D)が0.01μm〜30μmであり、平均高さ(H)が0.01μm〜30μmであり、比(D/H)が0.01〜100である樹脂層を備えたシート状成形体の製造に有用である。
【0039】
樹脂層12の平均厚み(P)と凹凸の平均高さ(H)の比(P/H)は、特に限定されるものではないが、経済的には1〜1000であることが好ましく、1〜200であることがより好ましい。(P/H)が1000を超えると、樹脂層の中で微細な凹凸形状を構成しない支持体側の部分の厚みが厚くなり、不必要な樹脂を用いることとなる。ここで、樹脂層12の平均厚み(P)は、下記のようにして測定した値である。
【0040】
シート状成形体を10枚重ねその積層体Xの平均厚みを測定する。一方で、支持体のみを10枚重ねその積層体Yの平均厚みを測定する。これらの測定値を用いて下記式によりシート状成形体の平均厚み(P)を算出した。だたし、積層体Xおよび積層体Yの平均厚みは、マイクロメータ(最少目盛り: 0.1μm)を用いて、積層体X、積層体Yの厚みをそれぞれ10点測定し、その値を平均して求めた。
【0041】
シート状成形体の平均厚み(P)=(積層体Xの平均厚み−積層体Yの平均厚み)/10
【0042】
塗布厚さは、樹脂層の厚さが、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、最も好ましくは10μm以下となるように制御されると好ましい。
【0043】
支持体11には、例えば、従来公知の、可撓性の透光性フィルム等が用いられる。より具体的には、支持体11の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、三酢酸セルロース、シクロオレフィンポリマー等が挙げられる。中でも、支持体11は、機械的強度、寸法安定性、耐熱性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートを含んでいると好ましい。
【0044】
支持体11の厚さは、特に制限はなく用途に応じて異なるが、通常1〜200μmであると好ましい。
【0045】
樹脂層12の隣接する層への接着性を高めるために、例えば、支持体11の樹脂層12と接する表面には、コロナ、プラズマ処理等の表面処理が行なわれていてもよいし、支持体11は、ポリウレタン、ポリエステル等からなる易接着層を備えていてもよい。
【0046】
塗料層の形成方法としては、ロールコート法、カーテンコート法、スイライドオート法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、フローコート法、スプレーコート法等が挙げられる。なかでも、塗料層の形成方法は、塗料を薄くかつ高速塗布可能とする、ロールコート法、カーテンコート法、スイライドオート法、ダイコート法が好ましい。
【0047】
塗布速度に関しては、10m/min以上、好ましくは20m/min、より好ましくは50m/min以上であると好ましい。塗布速度の上限は特に限定されないが、硬化速度との兼ね合いという理由から、通常200m/min以下が適当である。
【0048】
放射線硬化樹脂の硬化に用いられる放射線は、放射線硬化樹脂の硬化を可能とする放射線であれば特に限定されないが、例えば、電子線、紫外線、可視光等が挙げられる。なかでも、エネルギー値が高い紫外線、電子線が好ましい。
【0049】
紫外線の光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、またはLED等が用いられる。LEDはエネルギー効率が高く、支持体等に与える熱ダメージが小さいので好ましい。紫外線の照射は、放射線硬化樹脂の硬化性を高めるために、必要に応じて、窒素でパージされて酸素濃度が300ppm以下に調整された雰囲気下で行うと好ましい。
【0050】
樹脂層12の、JIS K 5600−5−4に基づいて測定される鉛筆硬度は、F以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。F以上であれば、転写速度が、例えば50〜200m/min程度と速くても、樹脂層12の表面に容易に傷がつかないからである。
【0051】
樹脂層の隣接する層に対する接着性は、JIS5600−5−6に基づいて、クロスカット法にて評価した場合に、分類0もしくは1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0052】
次ぎに、図2〜図4を用いて、本実施態様のシート状成形体の製造方法の一例を説明する。
【0053】
図2に示した例では、帯状の支持体2が送り出しロール1により順次送り出され、次いで、支持体2上に放射線硬化性樹脂組成物を含む塗料がコータ3から供給され、支持体2の一方の主面に上記塗料が塗布される。塗料に希釈溶媒が含まれている場合は、塗料が塗布された支持体2を乾燥機(図示せず)内に搬送して、塗料から希釈溶媒を除去する。
【0054】
このようにして、未硬化状態の放射線硬化性樹脂組成物を含む塗料層と支持体とが重なった状態で、塗料層にエンボスロール4の凹凸面が押し当てられて、エンボスロール4の凹凸面の凹凸形状が転写される。この状態で、支持体2越しに塗料層へ紫外線等の放射線が放射線照射装置5により照射され、塗料層に含まれる放射線硬化性樹脂が硬化されて、塗料層が樹脂層となる。
【0055】
塗料層へのエンボスロール4の押し当ては、エンボスロール4を挟むように配置された1対の支持ロール6によって行なわれる。放射線照射装置5の近傍には遮蔽版7が配置されているので、放射線が照射されるべきでない箇所に照射されることが抑制されている。
【0056】
なお、支持ロール6を用いずに支持体2の張力を利用して、塗料層へエンボスロール4に押し当ててもよいが、支持ロール6を用いる方が、形状が安定するので好ましい。放射線の照射によって発生する熱が支持体2に対してダメージを及ぼす場合には、必要に応じてエンボスロール4および/または支持ロール6に冷却機能を持たせてもよい。
【0057】
図3に示した例では、エンボスロール4の凹凸面上に塗料がコータ3から供給され、当該凹凸面上に塗料層が形成される。この塗料層と、送り出しロール1により順次送り出された帯状の支持体2とが重なった状態で、支持ロール6によってエンボスロール4の凹凸面を塗料層に押し当て、塗料層にエンボスロール4の凹凸形状を転写する。この状態で、支持体2越しに塗料層へ放射線照射装置5により紫外線等の放射線を照射し、塗料層に含まれる放射線硬化性樹脂を硬化して、塗料層を樹脂層とする。
【0058】
図4に示した例では、エンボスロールが放射線を透過する材料から形成されており、その内部に放射線照射装置5が配置されている。本例では、エンボスロール4を介して塗料層等に放射線が照射されるので、支持体2が放射線を透過しない材料からなる場合でも、塗料層を硬化できる。
【0059】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
<実施例1〜6、比較例1〜3>
表1に示す組成の塗料A〜Hを作製した。塗料A〜Hの組成に関する数値は重量部を意味する。塗料A、G、H以外の塗料には、水洗を行って脱塩素処理を施したモノマー(オリゴマー)を用いた。脱塩素処理は、モノマー(オリゴマー)をトルエンに溶解した後、当該溶液を数回水洗し、その後、トルエンを除去することにより行った。
【0061】
図2を用いて説明したシート状成形体の製造方法の一例にて、実施例1〜6、比較例1〜3のシート状成形体を製造した。
【0062】
まず、厚さ10μmのPETフィルムの一方の主面に、ロールコート法により塗料を塗布して塗料層を形成した。ライン速度は5m/minとし、塗料は、塗料層の厚さが約1〜3μmとなるように塗布した。その後、塗料層に、エンボスロールを押し当て、エンボスロールの凹凸面の凹凸形状を転写し、次いで、紫外線照射機により紫外線を塗料層に照射して、塗料層に含まれる放射線硬化樹脂を硬化した。紫外線の照射量は、300mJ/cm2とした。
【0063】
なお、塗料の塗布には、廉井精機製のφ20mm、斜線型、セル角度45°、250ライン/inchのマイクログラビアロールを用いた。また、エンボスロールには、平均一周期長(D)が0.8μm、平均凹凸高さ(H)が0.05μmであり、図1(a)に示した形態の凹凸に対応する凸凹表面を有した金属ロールを用いた。
【0064】
放射線硬化性樹脂組成物の粘度、放射線硬化性樹脂組成物に含まれる塩素濃度、得られたシート状成形体による金属の腐食性、および、シート状成形体の凹凸面の鉛筆硬度は下記のようにして測定し、その結果を表1に示した。
【0065】
<放射線硬化性樹脂組成物の粘度>
放射線硬化性樹脂組成物の粘度の25℃における粘度は、東機産業製のE型粘度計(回転数10rpm)で測定した。
【0066】
<塩素イオン濃度>
樹脂層中の塩素イオン濃度は、保存前後の樹脂層1gをイオン交換水99gと一緒に10分間煮沸し、塩素イオンを抽出し、イオンクロマトグラフィー(日本ダイオネクス(株)イオンクロマトグラフ DX−500)により塩素イオン量として測定した。保存は、温度60℃湿度80%の雰囲気下で、1000時間行った。
【0067】
<ニッケル片の腐食性>
シート状成形体とニッケル片とを密閉容器に入れ、60℃80%条件下で1000時間保存し、保存後のニッケル片の腐食の有無を光学顕微鏡で観察し、下記基準で評価した。
○:腐食のないものを
△:極わずかに腐食があるもの
×:腐食のあるもの
【0068】
<アルミニウム蒸着膜の腐食性>
シート状成形体に、アルミニウムをその厚さが100nmとなるように蒸着し、60℃80%条件下で1000時間保存し、保存後のアルミニウム蒸着膜の腐食の有無を光学顕微鏡で20視野観察し(測定倍率:450倍、測定視野:0.5mm×0.5mm)、下記基準で評価した。
○:腐食のないもの(20視野で腐食を観察せず)
△:極わずかに腐食があるもの(20視野中、1〜2視野で腐食を観察)
×:腐食のあるもの(20視野中、3〜20視野で腐食を観察)
【0069】
<鉛筆硬度>
シート状成形体の保存前後の鉛筆硬度を、JIS K 5600−5−4に基づいて測定した。保存は、温度60℃湿度80%の雰囲気下で、1000時間行った。
【0070】
<凹凸の平均一周期長(D)および平均高さ(H)の測定>
樹脂層の凹凸面の平均一周期長(D)および平均高さ(H)は、シート状成形体の表面および断面の電子線顕微鏡(日立製SEM EDX−4500H)撮影像から求めた。撮影倍率は2000倍、撮影視野は45μm×45μmとした。凹凸形状が規則的なパターンである場合には、図1(a)および(b)で示すように、dを一周期長、hを凹凸の高さとして、各々20点を測定し、その平均を平均一周期長(D)、平均高さ(H)として求める。凹凸形状が不規則である場合には、図1(c)で示すように、凹凸形状の各頂部にA1、A2、A3、…An、各底部にB1、B2、B3、…Bnと名前を付け、各ポイントの(x,y)座標を求めた。A1の座標を(xa1,ya1)、B1の座標を(xb1,yb1)とすると、A1とB1との間隔D1はD1=xb1−xa1で求められる。この場合の、凹凸形状の平均一周期長Dは、D=(d1+d2+d3+…+dn)/n求められる。同様に、A1とB1との高さの差H1はH1=yb1−ya1で求められ、凹凸形状の平均高さHは、H=(h1+h2+h3+…+hn)/nで求められる。
【0071】
<欠陥および成形性>
シート状成形体の塗布欠陥の有無を目視で20視野観察し(測定視野:10cm×10cm)、さらに、電子顕微鏡により微細な成形上の欠陥(レべリング不良等に起因する塗布スジ、未塗布部(ボイド)等)の有無を20視野観察し(測定倍率:2000倍、測定視野:45μm×45μm)、下記基準で評価した。
○:欠陥のないもの(各20視野で欠陥を観察せず)
△:極わずかに欠陥があるもの(各20視野中、1〜2視野で欠陥を観察)
×:欠陥があるもの(各20視野中、3〜20視野で欠陥を観察)
【0072】
【表1】

【0073】
イオンクロマトグラフィーにより測定される塩素イオン濃度が10ppm以下の実施例1〜6のシート状成形体は、鉛筆硬度について時間経過に伴う低下は観察されなかった。また、ニッケルおよびアルミニウムの腐食は、比較例と比べて顕著に抑制されていた。特に、塩素イオン濃度が3ppm以下の実施例3および4では、ニッケルやアルミニウムの腐食は全く観察されなかった。また、実施例1〜6のシート状成形体の凹凸は、電子顕微鏡で観察したところ精度よく形成されていた。
【0074】
これに対し、塩素イオン濃度が10ppmを越える比較例1〜3のシート状成形体では、鉛筆硬度について時間経過に伴う低下が観察された。また、ニッケルおよびアルミニウムの腐食の程度は、実施例1〜6と比べて酷かった。また、比較例1のシート状成形体については、塗布時のスジが原因と思われる塗布欠陥や気泡の混入が原因と思われる欠陥が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、時間経過にともなう硬度の劣化が抑制された凹凸面を有するシート状成形体を提供できるので、本発明のシート状成形体およびその製造方法は、反射防止フィルム、拡散シート、輝度向上シート等の光学フィルム、導光板、回折格子、パターンドメディア、光記録媒体、光学素子、ホログラム、マイクロ流路、建材、装飾品及び研磨テープ等の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(a)〜(c)は、本発明のシート状成形体の一例を示した概念図
【図2】本発明のシート状成形体の製造方法の一例を説明する概念図
【図3】本発明のシート状成形体の製造方法の他の例を説明する概念図
【図4】本発明のシート状成形体の製造方法のさらに別の例を説明する概念図
【符号の説明】
【0077】
1 送り出しロール
2、11 支持体
3 コータ
4 エンボスロール
5 放射線照射装置
6 支持ロール
7 遮蔽版
10 シート状成形体
11 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体の一方の主面側に配置され、放射線硬化性樹脂組成物を含み、前記支持体側の面の反対面が凹凸形状を有した樹脂層とを備え、
前記樹脂層のイオンクロマトグラフィーにより測定される含有塩素イオン濃度が10ppm以下であることを特徴とするシート状成形体。
【請求項2】
前記樹脂層が有する、凹凸の平均一周期長(D)は0.01μm〜50μmであり、
前記凸部の平均高さ(H)は0.01μm〜50μmであり、
前記平均一周期長(D)と前記平均高さ(H)との比(D/H)は、0.01〜100である請求項1に記載のシート状成形体。
【請求項3】
前記含有塩素イオン濃度が3ppm以下であることを請求項1に記載のシート状成形体。
【請求項4】
請求項1に記載のシート状成形体の製造方法であって、
放射線硬化性樹脂を含んだ放射線硬化性樹脂組成物を含む塗料層と支持体とが重なった状態で、前記塗料層を凹凸表面を有する成形型に当接させて前記成形型の前記凹凸面の凹凸形状を前記塗料層に転写した後、前記塗料層に含まれる前記放射線硬化性樹脂を硬化することにより、前記塗料層を前記樹脂層とする樹脂層形成工程を含むことを特徴とするシート状成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形型は、エンボスロールである請求項4に記載のシート状成形体の製造方法。
【請求項6】
25℃における前記放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、3〜100mPa・s以下である請求項4に記載のシート状成形体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂層形成工程の前に、
前記放射線硬化性樹脂に対して脱塩処理をする脱塩処理工程をさらに含む請求項4に記載のシート状成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−162015(P2008−162015A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350464(P2006−350464)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】