説明

シームレスベルトの製造方法および製造装置

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とし、高品位かつ低コストのシームレスベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】第1の円筒と第2の円筒とを、第1の円筒及び第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、間隙に環状ダイから熔融体を押し出す第1の工程と、間隙に押し出された熔融体を、第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持する第2の工程と、熔融体を挟持した状態で第1及び第2の円筒と、環状ダイとを軸方向に相対移動させて第1の円筒または第2の円筒の内壁に熔融体を塗布して熔融体の筒状の層を形成する第3の工程と、押圧部材を用いて第1の円筒または第2の円筒の内壁に筒状の層を押し付ける第4の工程と、筒状の層を固化させる第5の工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置(レーザービームプリンター、複写機等)の中間転写ベルト等に用いられるシームレスベルの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において中間転写ベルトや転写搬送ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された製造方法では、筒状金型に内接している押出筒金型から熱硬化性樹脂の樹脂溶液を筒状金型内壁の下部から順に上部まで押し出して筒状の樹脂溶液の層を形成する。このとき、樹脂溶液の層の内部に気体を注入して膨張させ、その後、樹脂溶液の層を硬化させることによってシームレスベルトが得られる。この製造方法によれば、筒状金型の内壁に短時間に樹脂溶液を塗布し、且つ塗布スジ、うねり、樹脂溶液残りの発生を抑えることが可能である旨が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−237695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像装置は高画質かつ低価格化が進んでおり、シームレスベルトの品質および価格に対する要求が益々高まっている。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の製造方法を、硬化反応プロセスが不要で、熱硬化性樹脂よりも安価な熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトの製造に適用することについて検討した。その結果、次のような課題を見出すに至った。すなわち、特許文献1に記載の製造方法では、樹脂溶液を筒状金型の底面に流下させて樹脂溶液の層を形成している。このとき、筒状金型の温度が熱可塑性樹脂の融点よりも低いと、熱可塑性樹脂を含む樹脂熔融体は、筒状金型の内壁に触れた時点で固化し始める。そのため、樹脂熔融体と筒状金型の底面との密着性が不十分となることがあった。そのため、筒状金型の底面に設けられた注入口より気体が注入されたとき、筒状金型の底面と樹脂熔融体の層との隙間から気体が入り込むことがある。この場合、樹脂熔融体の層の筒状金型の内壁への密着が妨げられ、筒状金型の内壁の表面粗さを樹脂熔融体の層の外面に確実に転写できなくなることがあった。そこで、本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレスベルトを低コストで製造することのできるシームレスベルトの製造方法および製造装置を提供することを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシームレスベルトの製造方法の一態様は、
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該第1の円筒及び該第2の円筒との同軸を維持しつつ該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に近づく方向に拡径させられるように構成されている押圧部材と、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該第1の円筒と該第2の円筒とを、該第1の円筒及び該第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に該環状ダイから該熔融体を押し出す第1の工程と、
(2)該間隙に押し出された該熔融体を、該第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持する第2の工程と、
(3)該熔融体を挟持した状態で該第1及び該第2の円筒と、該環状ダイとを軸方向に相対移動させて該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の筒状の層を形成する第3の工程と、
(4)該押圧部材を拡径させ、該第1の円筒または第2の円筒の内壁に該筒状の層を押し付ける第4の工程と、
(5)該筒状の層を固化させる第5の工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るシームレスベルトの製造装置の一態様は、
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該第1の円筒及び該第2の円筒との同軸を維持しつつ該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に近づく方向に拡径させられるように構成されている押圧部材と、を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面粗さおよび外形形状を安定して実現し、且つ、安価に熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物のシームレスベルトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本実施形態の製造装置が第1の工程を行う直前の状態を示す断面図である。
【図3】本実施形態の製造装置が第1〜第2の工程を行っている状態を示す断面図である。
【図4】本実施形態の製造装置が第3〜第5の工程を行っている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の製造装置100は、図1に示すように、筒状金型4(第1の円筒)と、把持部材7(第2の円筒)と、環状ダイ2と、押圧機構8と、を有している。筒状金型4は、上端部が開口し、下端はステージ6に支持されている。ステージ6は、鉛直方向に延びるガイド5に支持されている。ステージ6はガイド5に沿って移動し、それによって、筒状金型4は昇降可能である。筒状金型4の上方には、把持部材7がガイド5に支持された状態で配置されており、筒状金型4の上端開口と対向している。把持部材7は、ガイド5に沿って昇降可能にされている。
【0010】
筒状金型4の内部には、環状ダイ2が断熱ベース9に支持された状態で配置されている。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状スリットを有する。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットの投入口2cが設けられている。また、投入口2cから投入されたペレットは、環状ダイ2内の環状の流路2a内にて熔融され、吐出口2bから放射方向に吐出される。環状ダイ2の流路2aには、環状ダイ2の流路2aに嵌合する環状の押圧面3aを備えたピストン3が嵌合されている。ピストン3は、環状ダイ2に内蔵され、環状ダイ2の流路2a内の熔融体を吐出口2bから放射方向に押し出されるように加圧する。なお、環状ダイ2の内部に設けられた流路2aは、押圧面3aから吐出口2bまでをつなぐが、流路内に分岐点および合流点を設けておらず、押圧面3aから吐出口2bまで熔融樹脂の流線は軸対称となる。これにより、流路2aにおいて周方向の圧力および流速分布を均一にすることができる。これにより、吐出口2bから熔融体が筒状金型4の内壁の全周に均一に吐出されるので、筒状の層1を形成する際に流れの不連続により発生する線、いわゆるウェルドラインの発生を避けることが可能となる。したがって、強度と厚みが均一なシームレスベルトの製造が可能になる。なお、熔融体の吐出方向は、水平方向であることが望ましいが、仰角方向または俯角方向であってもよい。
【0011】
環状ダイ2の上方には、押圧機構8が配置されている(図1参照)。押圧機構8は、筒状金型4及び把持部材7と同軸に配置されている。また、押圧機構8は、支持部材8cと、可動部材8bと、押圧部材8aとを有する。支持部材8cは、ピストン3よりも上方に配置され、かつ不図示のアクチュエータに連結された駆動ロッド8dに連結され、筒状金型4及び把持部材7の軸方向に相対的な昇降が可能に構成されている。支持部材8cの外縁には、可動部材8bの上端部が取り付けられている。可動部材8bの下端部は、支持部材8cが環状ダイ2へ接近すると環状ダイ2のテーパ面2dに当接してテーパ面2dを摺動する。すなわち、支持部材8cの環状ダイ2への接近により可動部材8bの下端部は、筒状金型4及び把持部材7との同軸を維持しつつ、上端部を支点として筒状金型4または把持部材7は内壁に近づく方向に拡径する。環状ダイ2から見て可動部材8bの下端部外面には、筒状金型4の内径よりも外径が小さい環状の弾性体である押圧部材8aが設けられている。支持部材8cが環状ダイ2へ近接させ、可動部材8bを環状ダイ2のテーパ面2dに当接させることで可動部材8bは拡径し、それに伴って押圧部材8aが筒状金型4または把持部材7の内壁に近づく方向に拡径させられる。
【0012】
次に、本願発明に係るシームレスベルトの製造方法について説明する。本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、上記した、第1の円筒と、第2の円筒と、環状ダイと、押圧機構とを具備している製造装置を用いる。第2の円筒は、第1の円筒と同一の内径を有し、第1の円筒と同軸を維持しつつ第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能である。環状ダイは、第1及び第2の円筒と同軸に配置され、第1及び第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して第1及び第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能である。押圧機構は、第1の円筒及び第2の円筒と同軸に配置され、第1の円筒及び第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能である。さらに、押圧機構は、第1の円筒及び第2の円筒との同軸を維持しつつ、第1の円筒または第2の円筒の内壁に近づく方向に拡径可能な押圧部材有している。そして、本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、下記の第1ないし第5の工程を有するものである。
【0013】
第1の工程は、第1の円筒と第2の円筒とを、第1の円筒及び第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に環状ダイから熔融体を押し出す工程である。
【0014】
第2の工程は、間隙に押し出された熔融体を、第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持する工程である。
【0015】
第3の工程は、熔融体を挟持した状態で第1及び第2の円筒と、環状ダイとを軸方向に相対移動させて第1の円筒または第2の円筒の内壁に熔融体を塗布して熔融体の筒状の層を形成する工程である。
【0016】
第4の工程は、押圧機構を用いて第1の円筒または第2の円筒の内壁に筒状の層を押し付ける工程である。
【0017】
第5の工程は、筒状の層を固化させる工程である。
【0018】
図2、図3、および図4は、後述する第1ないし第5の工程の各工程における製造装置100の状態を示す断面図である。
【0019】
第1の工程では、筒状金型4の上端開口と把持部材7との間に設けられた間隙20(図2参照)に、環状ダイ2から熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体が吐出される。筒状金型4および把持部材7は、図2に示すように、環状ダイ2の吐出口2bと間隙20とが同等の高さになる位置に配置されている。また、ピストン3は、熱可塑性樹脂組成物のペレットを投入する空間を確保できる高さまで押し上げられている。第1の工程では、まず、環状ダイ2の投入口2cより常温のペレット(樹脂材料)を投入する。投入されたペレットは、環状ダイ2の流路2aで熔融され、熔融体となる。次に、ピストン3を押し下げることにより、熔融体が吐出口2bより間隙20に向かって連続して放射状に吐出される。なお、環状ダイ2で樹脂組成物を熔融する構成以外に樹脂組成物の熔融体を環状ダイ2に投入する構成であってもよい。
【0020】
次に、第2の工程では、把持部材7を下降させて間隙20に吐出された熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持する(図3参照)。第2の工程では、熔融体30を筒状金型4と把持部材7で挟持する際には、筒状金型4を上昇させてもよい。または、筒状金型4を上昇させ、把持部材7を下降させてもよい。すなわち、筒状金型4及び把持部材7から選ばれる少なくとも一方を互いに近づく方向に移動させて熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持する。
【0021】
次に、第3の工程では、筒状金型4と把持部材7とで熔融体の一端を挟持した状態を維持する。その状態からさらに、ピストン3を所望の速度で押し下げて環状ダイ2から熔融体を半径方向に放射状に連続して吐出させつつ、環状ダイ2に対して、筒状金型4及び把持部材7を上昇させる。これによって、熔融体を筒状金型4の内壁に塗布していく。これにより、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成する(図4参照)。第3の工程では、筒状金型4の温度は、不図示の温度センサ及びその検出結果に基づいて制御可能な不図示のヒータおよび冷却器によって樹脂組成物のガラス転移点以上、樹脂組成物の融点以下の温度範囲に調整することが好ましい。これは、筒状金型4の温度がガラス転移点以上、融点以下であることで、筒状の層1は筒状金型4の内壁に接して徐々に冷却されるため結晶化度が高くなり強度を高めることができるためである。
【0022】
また、第3の工程では、ピストン3を押し下げる速度は吐出口2bからの熔融体の流出速度に対応しており、この流出速度と筒状金型4の上昇速度を制御することによって、筒状の層1の厚みを制御することができる。さらに、第3の工程では、筒状の層1を形成する際、筒状金型4および把持部材7に対して、環状ダイ2を下降させてもよい。または、筒状金型4および把持部材7を上昇させるとともに、環状ダイ2を下降させてもよい。すなわち、第3の工程では、環状ダイ2を筒状金型4及び把持部材7に対して軸方向に相対移動させることによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成すればよい。
【0023】
次に、第4工程において筒状の層1を筒状金型4の内壁に押し付け、第5の工程において筒状の層1を固化させる(図4参照)。具体的には、上記の第3の工程に引き続いて、または第3の工程と並行して、支持部材8cを不図示のアクチュエータを作動させて駆動ロッド8dを移動させることにより環状ダイ2に接近させる。すると、可動部材8bが環状ダイ2のテーパ面2dを摺動し、可動部材8bの下端が筒状金型4の内壁に近づく方向に拡径し、それに伴って押圧部材8aも筒状金型4の内壁に近づく方向に拡径させられる。その結果として、筒状の層1が筒状金型4の内壁に押圧させられる。このとき、筒状の層1の先端部(熔融体30)が筒状金型4と把持部材7とに挟持されているので、筒状の層1は筒状金型4の内壁から剥がれにくくなっている。この状態で、筒状の層1が押圧部材8aによって順次押圧されていくので、筒状金型4の形状および表面粗さが確実に筒状の層1に転写される。さらに、筒状金型4の内壁に形成されることとなり、熔融樹脂の筒状の層の固化物の外径精度を筒状金型4の内径と同じレベルに安定させることが可能となる。
【0024】
次に、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を内壁から取り出す。具体的には、熔融体の筒状の層1が十分に固化した後、把持部材7を筒状金型4に対して上昇させ、把持部材7と筒状金型4とを離間させる。その後、不図示の取り出し手段を用いて筒状体を筒状金型4から取り出す。その後、筒状体からシームレスベルトを切り出す。
【0025】
上述した製造工程により得られたシームレスベルトの表面形状には、筒状金型4の内壁の表面が正確に転写されるため、表面形状が均一でムラが少ないシームレスベルトを低コストで製造できる。
【0026】
上述した方法において、筒状金型4を積極的に樹脂組成物のガラス転移温度以上、融点以下に温度制御せず、一般的な室温(25℃)程度の状態で行なうことも可能である。この場合、熔融体は、筒状金型4に付着して直ぐに固化し始める。筒状金型4が常温であったことで熔融体が急速に冷却され、結晶化が進行することなく固化するため、柔軟性が高く、屈曲疲労強度の高いシームレスベルトを得られる。
【0027】
本発明では、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物は特に限定されない。しかし、シームレスベルトの用途が電子写真装置の場合、樹脂組成物としては、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度、中密度、低密度、直鎖状低密度)、プロピレンエチレンブロックまたはランダム共重合体、ゴムまたはラテックス成分が望ましい。また、樹脂組成物としては、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体または、その水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミドが望ましい。また、樹脂組成物としては、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンが望ましい。また、樹脂組成物としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルが望ましい。また、樹脂組成物としては、エチレンテトラフロロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が望ましい。また、樹脂組成物としては、アクリル、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体が望ましい。なお、樹脂組成物として上述した各種だけでなくこれらの混合物であってもよい。また、耐久性を考慮すると、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックに分類されるものが望ましい。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが特に望ましい。
【0028】
また、シームレスベルトの用途が電子写真装置の場合、その用途に応じて様々な添加材を分散させて機能を付与する必要がある。例えば、転写搬送ベルトや中間転写ベルトなどに使用する場合には、特に抵抗率制御を目的として無機充填剤(無機添加材)を分散させる場合がある。無機充填材としては、カーボンブラック、黒鉛、金属、金属酸化物の微粉末が考えられる。この金属には、銅、スズ、アルミニウム、インジウム等が含まれる。また、金属酸化物の微粉末には、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム等が含まれる。無機充填材としては、カーボンブラックが特に望ましい。このカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックが含まれる。また、滑り性の付与を目的とした二硫化モリブデン等の潤滑性粒子や硬度向上等を目的とした二酸化ケイ素、酸化チタン等も用いることができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
図1に示した構成を有するシームレスベルトの製造装置を用い、第1の工程ないし第5の工程に沿って電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0030】
前準備としてポリエーテルエーテルケトン(商品名:VICTREX PEEK;ビクトレックス(Victrex)社製)にアセチレンブラック(電気化学工業社製)を混合し、2軸成形機にて均一に混練して、樹脂ペレットを製造した。この樹脂ペレットの体積抵抗率は1×1010〜5×1010Ωcmである。この樹脂組成物のガラス転移点は約150℃、融点は約340℃であった。
【0031】
筒状金型4は、内径が290mm、軸方向の長さが420mmである。また、内壁の表面には、シームレスベルトの表面が、所定の表面粗さ[十点平均粗さ(Rzjis、JIS K0601−2001)=0.4μm]を有するように、当該表面粗さに対応した表面粗さを有するように表面処理した。また、不図示の温調手段により200℃に制御してある。把持手段7は、内径が290mm、軸方向の長さが250mmである。環状ダイ2のサイズは、最外径282mm、流路2aの幅10mm、吐出口2bの幅(スリット幅)1mmである。環状ダイ2の上方に貫通した穴(不図示)と投入口2cとが、ピストン3が上昇端に達した際に開通するようにしてある。また、環状ダイ2は不図示の温調手段により380℃に制御してある。
【0032】
まず、図2に示すように、ピストン3を上昇端まで上昇させ流路2aに空間を確保し、環状ダイ2の投入口2cより流路2aに常温のペレットを適量投入してペレットを熔融させ、熔融体30とした。つぎに、筒状金型4および把持部材7を、両端部の間に10mmの間隙20があるように配置すると共に、当該間隙の位置と、環状ダイ2の吐出口の位置とが概略一致するように高さを調整した。
【0033】
次いで図3に示すように、ピストン3を押し下げることにより、熔融体30を吐出口2bより間隙20に向かって連続して放射状に吐出した(第1の工程)。その後、把持部材7を下降させて、間隙20に吐出された熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持した(第2の工程)。
【0034】
次いで図4に示すように、熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持した状態で、ピストン3を0.2mm/秒で下降させつつ、筒状金型4および把持部材7を15mm/秒で上昇させた(第3の工程)。それと同時に、支持部材8cを下降させて可動部材8bの下段を筒状金型4の内壁に近づく方向に拡径させることによって、押圧部材8aを筒状金型4の内壁に近づく方向に拡径させた(第4の工程)。これにより、筒状金型4の内壁に熔融体30の先端から連続する層が形成され、且つ、該層は筒状金型4の内壁に押し付けられた。このとき、筒状金型4は樹脂組成物の融点以下である200℃に温調されていたため、該層は筒状金型4の内壁に形成された際に徐々に熱を奪われ、固化して筒状の層1となった(第5の工程)。
【0035】
400mmほど該層を形成した後、ピストン3の下降を停止し、該層を形成した筒状金型4および把持部材7をさらに上昇させて吐出口2bから連続していた該層を切断した。次いで、支持部材8cを上昇させ、把持部材7を筒状金型から離間させ、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を取り出した。最後に、取り出した該層の両端を切断し、シームレスベルトを得た。
【0036】
上述した手順にて得られたシームレスベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪みが見られず、肉厚100μmの安定した形状をしていた。また、流路に分岐および合流点がないことでウェルドラインの発生がなく、ベルト内の全面において均一な強度を示した。体積抵抗率としても面内の斑がなく成形できた。更に、筒状金型4をガラス転移点以上、融点以下に温度制御していたことで、結晶化度20%以上のシームレスベルトが得られ、引張り強度が高く、表面硬度の高いシームレスベルトが得られた。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、筒状金型4の温度を120℃に制御し、その他の手順は実施例1に準じて電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0038】
このようにして得られたシームレスベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪が見られず、肉厚100μmの安定した形状が得られた。また、流路に分岐および合流点がないことでウェルドラインの発生がなく、ベルト内の全面において均一な強度を示した。体積抵抗率としても面内の斑がなく成形できた。更に、筒状金型4をガラス転移点以下に温度制御していたことで結晶化度10%以下のシームレスベルトが得られ、弾性が高く、屈曲耐久性に優れたシームレスベルトが得られた。
【符号の説明】
【0039】
1 筒状の層
2 環状ダイ
4 筒状金型
7 把持部材
8 押圧機構
20 間隙
30 熔融体
8d 駆動ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該第1の円筒及び該第2の円筒との同軸を維持しつつ該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に近づく方向に拡径させられるように構成されている押圧部材と、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該第1の円筒と該第2の円筒とを、該第1の円筒及び該第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に該環状ダイから該熔融体を押し出す第1の工程と、
(2)該間隙に押し出された該熔融体を、該第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持する第2の工程と、
(3)該熔融体を挟持した状態で該第1及び該第2の円筒と、該環状ダイとを軸方向に相対移動させて該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の筒状の層を形成する第3の工程と、
(4)該押圧部材を拡径させ、該第1の円筒または第2の円筒の内壁に該筒状の層を押し付ける第4の工程と、
(5)該筒状の層を固化させる第5の工程と、
を有することを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該第1の円筒及び該第2の円筒との同軸を維持しつつ該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に近づく方向に拡径させられるように構成されている押圧部材と、を具備していることを特徴とするシームレスベルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−59466(P2011−59466A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210143(P2009−210143)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】