説明

シール部品の製造方法及び金型

【課題】成形用ゴム材料4の充填時におけるキャビティ3内の成形圧力を適正に保持し、成形不良の発生を有効に防止する。
【解決手段】基材11を金型2の分割型22,23間にセットして型締めし、前記基材11の表面とこれに対向する分割型22の内面との間に画成される無端形状のキャビティ3に成形用ゴム材料4を射出し、その射出量を、成形用ゴム材料4がキャビティ3に充満した後、このキャビティ3内における成形用ゴム材料4の合流位置3aに開口したエアベント孔36からその下流側に設けた余剰材料溜まり38へ流れ込むと共にこの余剰材料溜まり38に充満しない量とし、エアベント孔36から余剰材料溜まり38へ流れ込む成形用ゴム材料4に流動抵抗による圧力降下を生じさせ、この圧力降下によって、キャビティ3の内圧をガスケット12の成形に必要な圧力の下限値以上でかつキャビティ3からの漏れ発生圧力の下限値未満に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池スタックの各燃料電池セルに形成される流路をシールするための燃料電池用シール等のように、フィルム、シート又は板状の基枠にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケットを一体に成形したシール部品を製造する方法及びそれに使用される金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に一対の電極層を設けたMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極複合体)を含む発電体を、セパレータで挟持して燃料電池セルとし、更にこの燃料電池セルを多数積層したスタック構造を有する。そして、空気(酸素)が各セパレータの一方の面に形成された空気流路から一方の触媒電極層(空気極)に供給され、燃料ガス(水素)が各セパレータの他方の面に形成された燃料ガス流路から他方の触媒電極層(燃料極)に供給され、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって、電力を発生するものである。
【0003】
このため各燃料電池セルには、燃料ガスや空気、上述の電気化学反応により生成された水や、余剰空気等の漏れを防止するためのシール部品が設けられる。そしてこの種のシール部品としては、セパレータあるいは合成樹脂フィルムなどのようなフィルム状、シート状又は板状の基材に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケットを一体化したものが知られている。
【0004】
この種のシール部品の製造には、従来、例えば図7に示されるように、分割型101〜103からなる金型100が用いられ、基材200を分割型102,103の間に位置決め固定し、型締めによってこの基材200と分割型102の内面との間に画成される環状のキャビティ110内に、分割型101,102に形成されたスプル100a、ランナ100b及びゲート100cを通じて液状の成形用ゴム材料を充填し、架橋硬化させることにより、ゴム状弾性材料からなるガスケットを成形と同時に基材200に一体化している。
【0005】
ここで、ガスケットは無端形状に連続したものであり、これを成形するキャビティ110も同形状であるから、このキャビティ110に充填される液状の成形用ゴム材料は、ゲート100cからその両側へ分岐して流れ、ゲート100cと反対側の位置110aで合流することになる。そしてこの合流位置110aには残存エアや、成形用ゴム材料からの揮発ガスの混入による成形不良が発生しやすいため、分割型102には、このような残存エアや揮発ガスを逃がし、合流した成形用ゴム材料を良好に混合させるためのエアベント孔100dが形成されている。このエアベント孔100dは、一端がキャビティ110における前記合流位置110aに開口し、他端が分割型101,102の衝合面に開口している(下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−168448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来技術では、図8に示されるように、キャビティ110における合流位置110aで合流しながらエアベント孔100dへ流れ込んだ成形用ゴム材料300の一部301が、このエアベント孔100d内に充満しない場合は、キャビティ110内の成形圧力を適正に保つことができず、このため圧力不足によるガスケット材質の物性低下や、成形収縮によるガスケット寸法のばらつきや、キャビティ110における合流位置110a以外の部分にエアが残留するなどの成形不良を生じるおそれがある。
【0008】
また、図9に示されるように、キャビティ110における合流位置110aで合流しながらエアベント孔100dへ流れ込んだ成形用ゴム材料300の一部301が、このエアベント孔100d内に充満した場合は、その瞬間に、余剰な成形用ゴム材料の行き場がなくなることによってキャビティ110内の成形圧力が急激に上昇することになる。したがってこの場合は、キャビティ110内の成形用ゴム材料300の一部が基材200と分割型102との衝合面間へ漏れ出して薄バリ302を生じたり、基材200の材質によっては過大な成形圧力によってこの基材200が損傷を受けたりするおそれがある。
【0009】
このため、エアベント孔100dへ成形用ゴム材料300の一部301を充満させると共にキャビティ110内の成形圧力を適正な値に保つように、成形用ゴム材料300の射出量の計量や、射出圧力を高精度に制御する必要がある。特に、ゲート数が多い製品においては、全てのゲート間の合流位置のエアベント孔に成形用ゴム材料が同時に充填されるようにする必要があるが、そのような制御はきわめて困難であるため、結果的に薄バリ302の発生を防止できず、薄バリ302の除去作業が必要になり、コスト低減の障害となっていた。
【0010】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、成形用ゴム材料の充填時におけるキャビティ内の成形圧力を適正に保持し、成形不良や成形用ゴム材料の漏れ出しによる薄バリの発生を有効に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るシール部品の製造方法は、基材にゴム状弾性材料からなる無端形状のガスケットを一体に成形したシール部品の製造において、前記基材を金型の分割型間にセットして型締めし、前記基材の表面とこれに対向する分割型の内面との間に画成される無端形状のキャビティに成形用ゴム材料を射出し、その射出量を、前記成形用ゴム材料が前記キャビティに充満した後、このキャビティ内における成形用ゴム材料の合流位置に開口したエアベント孔からその下流側に設けた余剰材料溜まりへ流れ込むと共にこの余剰材料溜まりに充満しない量とし、前記エアベント孔から余剰材料溜まりへ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせ、この圧力降下によって、前記キャビティの内圧を前記ガスケットの成形に必要な圧力の下限値以上でかつ前記キャビティからの漏れ発生圧力の下限値未満に保持することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2の発明に係るシール部品の製造用金型は、金型の分割型間にセットした基材の表面とこれに対向する分割型の内面との間に画成される無端形状のガスケット成形用キャビティと、このキャビティ内における成形用ゴム材料の合流位置に開口したエアベント孔と、その下流側にオリフィスを介して延在された余剰材料溜まりとを有し、このオリフィス及び余剰材料溜まりが前記キャビティと反対側の分割型の衝合面に沿って形成され、前記オリフィスは、前記エアベント孔から前記余剰材料溜まりへ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るシール部品の製造方法によれば、キャビティに充填される成形用ゴム材料がこのキャビティにおける合流位置で合流しながらエアベント孔へ流れ込み、このエアベント孔を充満した後、更にその下流側の余剰材料溜まりへ流れ込む過程で流動抵抗による圧力降下を生じ、その分、キャビティ内の成形圧力が上昇するため、成形圧力不足による成形不良が防止され、前記成形圧力は前記キャビティからの成形用ゴム材料の漏れ発生圧力よりも小さく抑えられるため、成形用ゴム材料の漏れによる薄バリの発生も防止される。またこのため、成形後、余剰材料溜まりにゴム材料が存在することを確認することによって、成形圧力が適正に保持されたこと、ひいては成形されたガスケットの物性が適正であることを容易に判断することができる。
【0014】
また、請求項2の発明に係るシール部品の製造用金型によれば、請求項1の発明に係るシール部品の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】基材の片面に、ゴム状弾性材料からなるガスケットを本発明に係るシール部品の製造方法によって一体成形したシール部品を示す断面図である。
【図2】本発明に係るシール部品の製造方法の第一の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す平面図である。
【図3】本発明に係るシール部品の製造方法の第一の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す断面図である。
【図4】本発明に係るシール部品の製造方法の第一の形態で用いられる金型による成形過程を示す断面図である。
【図5】本発明に係るシール部品の製造方法の第二の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す断面図である。
【図6】本発明に係るシール部品の製造方法の第三の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す断面図である。
【図7】従来技術によるシール部品の製造方法を示す金型及び基材の断面図である。
【図8】従来技術における成形圧力不足状態を示す金型及び基材の断面図である。
【図9】従来技術における成形圧力過剰状態を示す金型及び基材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るシール部品の製造方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、基材の片面に、ゴム状弾性材料からなるガスケットを本発明に係るシール部品の製造方法によって一体成形したシール部品を示す断面図である。
【0017】
図1に示されるシール部品1は、燃料電池における各セルの密封手段として用いられるものであって、基材11の片面にゴム状弾性材料からなるガスケット12を一体成形したものである。
【0018】
詳しくは、基材11は、例えば合成樹脂フィルム、カーボンプレート、セラミックス、金属の多孔質材料あるいは金属薄板などからなるものであるが、特に限定されない。ガスケット12は、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるものであって、基材11の外周近傍に沿って環状(無端形状)に連続しており、基材11の片面に接着されたベース部12aと、その上面から山形に隆起したシールリップ12bとを有する。
【0019】
すなわちこのシール部品1は、ガスケット12のシールリップ12bが、不図示の相手材(セパレータなど)の表面に適当なつぶし代で密接されることによって、燃料極へ供給される水素ガスの流路中へ、空気極へ供給される酸素が混入したり、逆に空気流路中に水素ガスが混入するのを防止し、発電効率の低下を防止する機能を有するものである。
【0020】
上述の構成を備えるシール部品1は、図2及び図3に示される本発明方法によって製造されたものである。図2は、本発明に係るシール部品の製造方法の第一の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す平面図、図3は、同じく断面図、図4は成形過程を示す断面図である。
【0021】
すなわち図3において、参照符号2は、基材11の片面にガスケットを一体成形するための金型で、分割型21〜23からなる。図3における最も下側の分割型23の内面(上面)と、その上に組み合わされる分割型22の内面(下面)との間には、基材11がセットされるようになっており、図示の型締め状態において、基材11とその上の分割型22の内面との間にガスケット成形用のキャビティ3が画成されるようになっている。
【0022】
キャビティ3は、図1に示されるガスケット12とネガ−ポジ対応する断面形状を有するものであって、図2に示されるように、セットされた基材11の外周近傍に沿って環状(無端形状)に連続しており、基材11側の扁平なベース成形部31とその幅方向中間から略V字状に深くなるシールリップ成形部32とからなる。
【0023】
図3における最も上側の分割型21には不図示の射出機のノズルが接離されるスプル33が開設されており、分割型21,22の衝合面間には、前記スプル33の下流端から延びるランナ34が形成されている。
【0024】
分割型22には、ランナ34の下流端から延びてキャビティ3に開口した1つ又は複数のゲート35と、このゲート35からキャビティ3に充填された液状の成形用ゴム材料の流れF(図2参照)の合流位置3aで残存エアや揮発ガスを排出するための1つ又は複数のエアベント孔36が設けられている。また、これらゲート35及びエアベント孔36は、その一端がキャビティ3におけるシールリップ成形部32より外周側のベース成形部31に位置して開口している。
【0025】
分割型21,22の衝合面に達するエアベント孔36の他端からは、オリフィス37を介して余剰材料溜まり38が設けられている。このオリフィス37及び余剰材料溜まり38は、分割型21,22の衝合面に沿って延在されている。
【0026】
オリフィス37は、余剰材料溜まり38へ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせるものであって、オリフィス37の長さ及び流路断面積は、前記圧力降下によって相対的に上昇するキャビティ3の内圧が、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上でかつキャビティ3から基材11と分割型22との衝合面間へ成形用ゴム材料4の漏れが発生する圧力の下限値未満となるように設定されている。
【0027】
以上のような構造を有する金型2によって、図1に示されるシール部品1を製造するには、図3に示されるように金型2内に基材11をセットして型締めし、あらかじめキャビティ3内を、図示されていない真空ポンプ等によって真空引きしてから、スプル33に衝合した不図示の射出機のノズルから、スプル33、ランナ34及びゲート35を介してキャビティ3へ、図4に示されるように、液状の成形用ゴム材料4を射出する。
【0028】
このとき、射出機において計量される成形用ゴム材料4の射出量は、スプル33、ランナ34、ゲート35、キャビティ3、エアベント孔36及びオリフィス37の容積の和よりも多く、これに余剰材料溜まり38の容積を加えた量よりも少なく設定されている。言い換えれば、スプル33、ランナ34及びゲート35を通じて射出された成形用ゴム材料がキャビティ3に充満した後、このキャビティ3内における成形用ゴム材料4の合流位置3aに開口したエアベント孔36に充満し、更にオリフィス37を介して余剰材料溜まり38へ流れ込むと共にこの余剰材料溜まり38には充満しない量に設定されている。
【0029】
なお、成形用ゴム材料4としては、基材11に対して接着性のあるものが好適に用いられるが、接着性のないものを用いる場合は、予め基材11に接着剤が塗布される。
【0030】
射出機から、スプル33、ランナ34及びゲート35を通じて射出された成形用ゴム材料4は、図2に矢印Fで示されるようにゲート35から両側へ分岐して流れてキャビティ3内に充満し、合流位置3aで合流しながらエアベント孔36へ流れ込む。このとき、キャビティ3における成形用ゴム材料の合流位置3aに開口したエアベント孔36内は減圧されているので、前記合流位置3aにおける残存エアや成形用ゴム材料からの揮発ガスがこのエアベント孔36から排出されると共に、成形用ゴム材料の合流・融合が良好に行われ、しかも、この合流位置3aに前記残存エアや揮発ガスによる気泡が混入しても、これらは成形用ゴム材料の一部と共にエアベント孔36へ流出するので、成形不良の発生が有効に防止される。
【0031】
そしてこのエアベント孔36に成形用ゴム材料4が充満した後、更にその下流側の余剰材料溜まり38へ流れ込む過程で、オリフィス37において流動抵抗による圧力降下を生じるため、その分だけキャビティ3内の成形圧力が上昇し、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上に保たれる。したがって、成形圧力不足によるガスケット12の材質の物性低下や、成形収縮によるガスケット12の寸法のばらつきや、キャビティ3における合流位置3a以外の部分にエアが残留することによる成形不良が防止される。
【0032】
しかも、エアベント孔36に成形用ゴム材料4が充満した瞬間に、余剰な成形用ゴム材料4の行き場がなくなることによってキャビティ3内の成形圧力が急激に上昇することはなく、余剰材料溜まり38への流出によってキャビティ3内の成形圧力は基材11と分割型22との衝合面間へ成形用ゴム材料4の漏れが発生する圧力の下限値未満に抑えられるため、キャビティ3内の成形用ゴム材料4の一部が基材11と分割型22との衝合面間へ漏れ出して薄バリを生じたり、過大な成形圧力によって基材11が損傷を受けたりするのを、有効に防止することができる。
【0033】
先に説明したように、成形用ゴム材料4の射出量は、スプル33、ランナ34、ゲート35、キャビティ3、エアベント孔36及びオリフィス37の容積の和よりも多く、これに余剰材料溜まり38の容積を加えた量よりも少なく計量されているため、成形用ゴム材料4の一部41がオリフィス37から余剰材料溜まり38に充満しない程度に流れ込んだ時点で、射出が完了する。
【0034】
そして、金型2内に充填された成形用ゴム材料4が経時的に架橋硬化することによって、基材11の片面に、ゴム状弾性材料からなるガスケット12が一体に成形される。
【0035】
また、成形後に型開きをして製品を取り出す際には、余剰材料溜まり38にゴム材料が存在することを確認することによって、成形圧力が適正に保持されたこと、ひいては成形されたガスケット12の物性低下や、成形収縮によるガスケット12の寸法のばらつきや、エアの残留による成形不良がないことを、容易に判断することができる。
【0036】
しかも図4に示されるように、エアベント孔36、オリフィス37及び余剰材料溜まり38に流れ込んだ成形用ゴム材料による非製品部14は、スプル33、ランナ34及びゲート35内の成形用ゴム材料による非製品部13と同様、ガスケット12のベース部12aの上面に形成される。このため、エアベント孔36〜余剰材料溜まり38で形成された非製品部14の除去を、スプル33〜ゲート35で形成された非製品部13の除去と同時に、かつ同様に行うことができ、作業が容易である。しかも、キャビティ3内の成形用ゴム材料4の一部が基材11と分割型22との衝合面間へ漏れ出すことによる薄バリの発生がないので、このような薄バリの除去作業が不要であり、非製品部13,14の除去痕はシールリップ12bには形成されないので、密封性に悪影響を及ぼすこともない。
【0037】
次に図5は、本発明に係るシール部品の製造方法の第二の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す断面図である。この形態は、延長形状(リップライン)の互いに異なるガスケットを基材11の両面に一体成形するためのものである。
【0038】
詳しくは、図5における参照符号2は、基材11の両面にガスケットを一体成形するための金型であって、分割型21〜23からなる。図5における最も下側の分割型23の内面(上面)と、その上に組み合わされる分割型22の内面(下面)との間には、基材11がセットされるようになっており、図示の型締め状態において、基材11とその両側の分割型22,23の内面との間に、ガスケット成形用の第一及び第二のキャビティ3A,3Bが画成されるようになっている。
【0039】
第一及び第二のキャビティ3A,3Bは、それぞれ成形すべきガスケットとネガ−ポジ対応する断面形状を有するものであって、セットされた基材11の外周近傍に沿って環状(無端形状)に連続しており、それぞれ、基材11側の扁平なベース成形部31A,31Bとその幅方向中間から略V字状に深くなるシールリップ成形部32A,32Bとからなる。そして第一のキャビティ3Aと第二のキャビティ3Bは、基材11に開設された第一の連通孔11aを介してベース成形部31A,31B間で互いに連続しており、周方向一部、詳しくは前記第一の連通孔11aの開設位置と周方向反対側が互いに異なる位置を延び、基材11の両側で互いに異なる延長形状をなしている。
【0040】
図5における最も上側の分割型21には不図示の射出機のノズルが接離されるスプル33が開設されており、分割型21,22の衝合面間には、前記スプル33の下流端から延びるランナ34が形成されている。
【0041】
分割型22には、ランナ34の下流端から延びて基材11の上側の第一のキャビティ3Aに開口した1つ又は複数のゲート35と、このゲート35から第一のキャビティ3Aに充填された液状の成形用ゴム材料の合流位置3Aaで残存エアや揮発ガスを排出するための1つ又は複数の第一のエアベント孔36Aと、前記ゲート35から基材11に開設された第一の連通孔11aを介して第二のキャビティ3Bに充填された液状の成形用ゴム材料の合流位置3Baで残存エアや揮発ガスを排出するための1つ又は複数の第二のエアベント孔36Bが設けられている。
【0042】
このうちゲート35は、第一のキャビティ3Aにおけるベース成形部31Aに、前記第一の連通孔11aの開口位置と対応して開口しており、第一の連通孔11aの開口径は、ゲート35の開口径に比較して大径に形成されている。
【0043】
また、第一のエアベント孔36Aは、その一端が第一のキャビティ3Aにおけるシールリップ成形部32Aより外周側のベース成形部31Aに位置して開口している。
【0044】
基材11には、上述した第一の連通孔11aのほか、第二の連通孔11bが開設されている。この第二の連通孔11bは、第一のキャビティ3Aから第一の連通孔11aを通じて第二のキャビティ3B内に充填される成形用ゴム材料の流れの合流位置3Baに開口している。
【0045】
そして第二のエアベント孔36Bは、その一端が、第一のキャビティ3Aから基材11における第一の連通孔11aを通じて第二のキャビティ3B内に注入される成形用ゴム材料の合流位置3Ba、すなわち基材11における第二の連通孔11bと対応する位置に開口している。
【0046】
分割型21,22の衝合面に達する第一及び第二のエアベント孔36A,36Bの他端からは、それぞれ第一及び第二のオリフィス37A,37Bを介して第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bが設けられている。この第一及び第二のオリフィス37A,37B及び第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bは、分割型21,22の衝合面に沿って延在されている。
【0047】
第一及び第二のオリフィス37A,37Bは、それぞれ第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bへ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせるものであって、第一のオリフィス37Aの長さ及び流路断面積は、前記圧力降下によって相対的に上昇する第一のキャビティ3Aの内圧が、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上でかつ第一のキャビティ3Aから基材11と分割型22との衝合面間へ成形用ゴム材料4の漏れが発生する圧力の下限値未満となるように設定され、第二のオリフィス37Bの長さ及び流路断面積は、前記圧力降下によって相対的に上昇する第二のキャビティ3Bの内圧が、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上でかつ第二のキャビティ3Bから基材11と分割型23との衝合面間へ成形用ゴム材料4の漏れが発生する圧力の下限値未満となるように設定されている。
【0048】
以上のような構造を有する金型2によって、シール部品を製造する場合も第一の形態と同様に、金型2内に基材11をセットして型締めし、図示されていない真空ポンプ等によって真空引きしてから、スプル33に衝合した不図示の射出機のノズルから、スプル33、ランナ34及びゲート35を介して液状の成形用ゴム材料を射出する。
【0049】
このとき、射出機において計量される成形用ゴム材料の射出量は、スプル33、ランナ34、ゲート35、第一及び第二のキャビティ3A,3B、第一及び第二の連通孔11a,11b、第一及び第二のエアベント孔36A,36B及び第一及び第二のオリフィス37A,37Bの容積の和よりも多く、これに第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bの容積を加えた量よりも少なく設定されている。言い換えれば、スプル33、ランナ34及びゲート35を通じて射出された成形用ゴム材料が第一及び第二のキャビティ3A,3Bに充満した後、それぞれの成形用ゴム材料の合流位置3Aa,3Baに開口した第一及び第二のエアベント孔36A,36Bに充満し、更に第一及び第二のオリフィス37A,37Bを介して第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bへ流れ込むと共にこの第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bには充満しない量に設定されている。
【0050】
射出機から、スプル33、ランナ34及びゲート35を通じて射出された成形用ゴム材料は、ゲート35から両側(図示の断面と直交する方向)へ分岐して流れて第一のキャビティ3A内に充満し、またこの成形用ゴム材料は、第一のキャビティ3Aから、ゲート35の直下に位置する基材11の第一の連通孔11aを通じて第二のキャビティ3Bにもほぼ同時に充填される。
【0051】
このとき、第一のキャビティ3Aにおける成形用ゴム材料の合流位置3Aaに開口した第一のエアベント孔36A内は減圧されているので、前記合流位置3Aaにおける残存エアや成形用ゴム材料からの揮発ガスがこの第一のエアベント孔36Aから排出されると共に、第一のキャビティ3A内の成形用ゴム材料が合流しながらこの第一のエアベント孔36A内へ流れ込む。また、第二のキャビティ3Bにおける成形用ゴム材料の合流位置3Baに開口した第二のエアベント孔36B内も減圧されているので、前記合流位置3Baにおける残存エアや成形用ゴム材料からの揮発ガスは第二の連通孔11bを介して第二のエアベント孔36Bから排出されると共に、第二のキャビティ3B内の成形用ゴム材料が合流しながら第二の連通孔11bを介して第二のエアベント孔36B内へ流れ込む。したがって、成形用ゴム材料の合流・融合が良好に行われ、しかも、前記合流位置3Aa,3Baに残存エアや揮発ガスによる気泡が混入しても、これらは成形用ゴム材料の一部と共に第一及び第二のエアベント孔36A,36Bへ流出する。
【0052】
そして第一及び第二のエアベント孔36A,36Bに成形用ゴム材料が充満した後、更にその下流側の第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bへ流れ込む過程で、第一及び第二のオリフィス37A,37Bにおいて流動抵抗による圧力降下を生じるため、その分だけ第一及び第二のキャビティ3A,3B内の成形圧力が上昇し、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上に保たれる。したがって、成形圧力不足によるガスケットの材質の物性低下や、成形収縮によるガスケットの寸法のばらつきや、第一及び第二のキャビティ3A,3Bにおける合流位置3Aa,3Ba以外の部分にエアが残留することによる成形不良が防止される。
【0053】
しかも、第一及び第二のエアベント孔36A,36Bに成形用ゴム材料が充満した瞬間に、余剰な成形用ゴム材料の行き場がなくなることによって第一及び第二のキャビティ3A,3B内の成形圧力が急激に上昇することはなく、第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bへの流出によって第一及び第二のキャビティ3A,3B内の成形圧力は漏れ発生圧力の下限値未満に抑えられるため、第一のキャビティ3A内から成形用ゴム材料の一部が基材11と分割型22との衝合面間へ漏れ出すことによる薄バリや、第二のキャビティ3B内から成形用ゴム材料の一部が基材11と分割型23との衝合面間へ漏れ出すことによる薄バリを生じたり、過大な成形圧力によって基材11が損傷を受けたりするのを、有効に防止することができる。
【0054】
先に説明したように、成形用ゴム材料4の射出量は、スプル33、ランナ34、ゲート35、第一及び第二のキャビティ3A,3B、第一及び第二の連通孔11a,11b、第一及び第二のエアベント孔36A,36B及び第一及び第二のオリフィス37A,37Bの容積の和よりも多く、これに第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bの容積を加えた量よりも少なく計量されているため、成形用ゴム材料の一部が第一及び第二のオリフィス37A,37Bから第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bに充満しない程度に流れ込んだ時点で、射出が完了する。
【0055】
そして、金型2内に充填された成形用ゴム材料が経時的に架橋硬化することによって、基材11の両面に、ゴム状弾性材料からなるガスケットが一体に成形される。
【0056】
また、成形後に型開きをして製品を取り出す際には、第一及び第二の余剰材料溜まり38A,38Bにゴム材料が存在することを確認することによって、成形圧力が適正に保持されたこと、ひいては成形されたガスケットの物性低下や、成形収縮によるガスケットの寸法のばらつきや、エアの残留による成形不良がないことを、容易に判断することができる。
【0057】
しかも、第一のエアベント孔36A、第一のオリフィス37A及び第一の余剰材料溜まり38Aに成形用ゴム材料の一部が流れ込むことによる非製品部(不図示)は、スプル33、ランナ34及びゲート35内の成形用ゴム材料による非製品部(不図示)と同様、ガスケットのベース部の上面から延びるものとなる。また、第二のエアベント孔36B、第二のオリフィス37B及び第二の余剰材料溜まり38Bに成形用ゴム材料の一部が流れ込むことによる非製品部(不図示)は、基材11における第二の連通孔11b内から延びるものとなる。このため、これら非製品部の除去を容易に行うことができ、しかも、この非製品部の除去痕はシールリップには形成されないので、密封性に悪影響を及ぼすこともなく、第一及び第二のキャビティ3A,3B内の成形用ゴム材料の一部が基材11と分割型22又は分割型23との衝合面間へ漏れ出すことによる薄バリの発生がないので、このような薄バリの除去作業も不要である。
【0058】
次に図6は、本発明に係るシール部品の製造方法の第三の形態で用いられる金型のゲート、キャビティ及びエアベント孔と基材との関係を示す断面図である。この形態も、ガスケットを基材11の両面に一体成形するためのものである。
【0059】
すなわち図6に示される金型2において、上述した第二の形態と異なるところは、型締め状態において、基材11の上下両側に分割型21及び第二の分割型22によって画成されるガスケット成形用の第一のキャビティ3A及び第二のキャビティ3Bが、互いに同一の延長形状をなして延びている点にある。
【0060】
このため、基材11に開設された第一の連通孔11aは、第一の分割型21に開設されたゲート35と対応する位置で第一のキャビティ3Aのベース成形部31Aと第二のキャビティ3Bのベース成形部31Bの間に開口し、第二の連通孔11bは、ゲート35及び第一の連通孔11aを通じて第一のキャビティ3A及び第二のキャビティ3B内に充填される成形用ゴム材料の合流位置3Aa,3Baの間に開口している。このため、第一のキャビティ3A及び第二のキャビティ3Bは、第一の連通孔11a及び第二の連通孔11bを介して互いに連通される。
【0061】
また、分割型22にはエアベント孔36が開設されている。このエアベント孔36は、一端がゲート35から第一のキャビティ3A内に充填される成形用ゴム材料の合流位置3Aa、すなわち基材11における第二の連通孔11bと対応する位置でベース成形部31Aに開口し、他端が分割型21,22の衝合面に開口している。
【0062】
なお、その他の部分は、基本的に先に説明した図5に示される第二の形態と同様に構成することができ、射出機による成形用ゴム材料の射出量も、第二の形態と同様に設定される。
【0063】
したがってこの形態でも、第二の形態と同様に成形が行われる。すなわち成形用ゴム材料の射出に際して、第一のキャビティ3A内では成形用ゴム材料がゲート35から両側(図示の断面と直交する方向)へ分岐して流れて第一のキャビティ3A内に充満し、またこの成形用ゴム材料は、第一のキャビティ3Aから、ゲート35の直下に位置する基材11の第一の連通孔11aを通じて第二のキャビティ3Bにもほぼ同時に充填される。
【0064】
そして第一のキャビティ3Aにおける成形用ゴム材料の合流位置3Aaに開口したエアベント孔36内は減圧されているので、前記合流位置3Aaにおける残存エアや成形用ゴム材料からの揮発ガスがこのエアベント孔36から排出され、第二のキャビティ3Bにおける成形用ゴム材料の合流位置3Baにおける残存エアや成形用ゴム材料からの揮発ガスも第二の連通孔11bを介してエアベント孔36から排出され、更に第一のキャビティ3A及び第二のキャビティ3B内の成形用ゴム材料が第二の連通孔11bを介して合流しながらこのエアベント孔36内へ流れ込む。したがって、成形用ゴム材料の合流・融合が良好に行われ、しかも、この合流位置3Aa,3Baに前記残存エアや揮発ガスによる気泡が混入しても、これらは成形用ゴム材料の一部と共にエアベント孔36へ流出する。
【0065】
そしてエアベント孔36に成形用ゴム材料が充満した後、更にその下流側の余剰材料溜まり38へ流れ込む過程で、オリフィス37において流動抵抗による圧力降下を生じるため、その分だけ第一及び第二のキャビティ3A,3B内の成形圧力が上昇し、ガスケットの成形に必要な成形圧力の下限値以上に保たれる。したがって第三の形態も、第二の形態と同様の効果を実現することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 シール部品
11 基材
11a 第一の連通孔
11b 第二の連通孔
12 ガスケット
2 金型
21〜23 分割型
3 キャビティ
3A 第一のキャビティ
3B 第二のキャビティ
3a,3Aa,3Ba 合流位置
35 ゲート
36 エアベント孔
36A 第一のエアベント孔
36B 第二のエアベント孔
37 オリフィス
37A 第一のオリフィス
37B 第二のオリフィス
38 余剰材料溜まり
38A 第一の余剰材料溜まり
38B 第二の余剰材料溜まり
4 成形用ゴム材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にゴム状弾性材料からなる無端形状のガスケットを一体に成形したシール部品の製造において、前記基材を金型の分割型間にセットして型締めし、前記基材の表面とこれに対向する分割型の内面との間に画成される無端形状のキャビティに成形用ゴム材料を射出し、その射出量を、前記成形用ゴム材料が前記キャビティに充満した後、このキャビティ内における成形用ゴム材料の合流位置に開口したエアベント孔からその下流側に設けた余剰材料溜まりへ流れ込むと共にこの余剰材料溜まりに充満しない量とし、前記エアベント孔から余剰材料溜まりへ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせ、この圧力降下によって、前記キャビティの内圧を前記ガスケットの成形に必要な圧力の下限値以上でかつ前記キャビティからの漏れ発生圧力の下限値未満に保持することを特徴とするシール部品の製造方法。
【請求項2】
金型の分割型間にセットした基材の表面とこれに対向する分割型の内面との間に画成される無端形状のガスケット成形用キャビティと、このキャビティ内における成形用ゴム材料の合流位置に開口したエアベント孔と、その下流側にオリフィスを介して延在された余剰材料溜まりとを有し、このオリフィス及び余剰材料溜まりが前記キャビティと反対側の分割型の衝合面に沿って形成され、前記オリフィスは、前記エアベント孔から前記余剰材料溜まりへ流れ込む成形用ゴム材料に流動抵抗による圧力降下を生じさせるものであることを特徴とするシール部品の製造用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234646(P2010−234646A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85074(P2009−85074)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】