説明

シール部材の製造方法

【課題】密封性を確保しながら摺動抵抗を低減することが可能なシール部材を容易に製造することができるシール部材の製造方法を提供する。
【解決手段】弾性材料60と微粒子61とを混練装置71によって混合させて混合材料62を形成する混合工程と、混合材料62を成形型76、77内に充填してシール成形体40に対応する形状の弾性成形品65を形成する成形工程と、弾性成形品65の表面に存在する微粒子を除去してシール成形体40を形成する微粒子除去工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はシール部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車輪用転がり軸受装置に用いられるシール部材において、内輪部材と外輪部材との間の環状空間を密封するシール部材は、外輪部材の内周面に固定される固定部と、内輪部材の軌道肩部の近傍に摺接するリップとを備えている。
このようなシール部材において、複数のリップを形成したり、あるいは、リップの弾性力を増大させて密封性を高めると、摺動抵抗が大きくなり、燃費に悪影響を及ぼすと共に、リップの摩耗が著しくなる。
そこで、シール部材のリップの摩耗を軽減するために、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
これにおいては、潤滑剤を封入した密封型転がり軸受において、一方の軌道輪に取付けたシール部材(密封板)に他方の軌道輪と当接して摺動するリップ(リップ部)を設け、このリップの他方の軌道輪との摺接面に微細な凹凸を形成している。
また、特許文献1においては、シール部材のリップに微細な凹凸面を形成するために、加硫成形に用いる金型の摺接面とその周囲を成形する金型表面の該当する部位に、放電加工等によって予め多数のディンプル状のへこみとは逆の多数のピンプル状の突起を形成しておき、加硫成形時の圧力によってシール部材のゴム材料をこの形状に倣わせて転写し、微細な凹凸面をシール部材の成形時にリップと一体に成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−19779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているように、シール部材のリップに微細な凹凸面を形成することによって摺動抵抗を低減することが可能である。
しかしながら、リップに微細な凹凸面を形成するために、成形型(金型)の型面に多数のピンプル状の突起を形成しなければならず、成形型の製作費が高くなり、この分だけシール部材の製造コストが高くなる。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、密封性を確保しながら摺動抵抗を低減することが可能なシール部材を容易に製造することができるシール部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るシール部材の製造方法は、弾性材料と微粒子とを混練装置によって混合させて混合材料を形成する混合工程と、
前記混合材料を成形型内に充填してシール部材のシール成形体に対応する形状の弾性成形品を形成する成形工程と、
弾性成形品の表面に存在する微粒子を除去してシール成形体を形成する微粒子除去工程とを備えていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、弾性材料と微粒子との混合材料を成形型内に充填してシール成形体に対応する形状の弾性成形品を形成した後、弾性成形品の表面に存在する微粒子を除去してシール成形体を形成する。これによって、微細な凹凸面を表面に有するシール成形体を有するシール部材を容易に製造することができる。
前記したように製造されたシール成形体を有するシール部材は、密封性を確保しながら摺動抵抗を低減することが可能である。
【0008】
請求項2に係るシール部材の製造方法は、請求項1に記載したシール部材の製造方法であって、
微粒子には水溶性の微粒子が用いられ、
微粒子除去工程において、弾性成形品を洗浄液によって洗浄することによって前記弾性成形品の表面に存在する微粒子を溶解することを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、水溶性の微粒子が用いられることで、弾性成形品の表面に存在する微粒子を洗浄液(熱水、温水等)によって溶解して容易に除去することができるため、生産性の向上やコスト低減に効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施例1に係るシール部材が車輪用転がり軸受装置に装着された状態を示す縦断面図である。
【図2】同じくシール部材を拡大して示す縦断面図である。
【図3】同じくシール部材のリップ を拡大して示す縦断面図である。
【図4】この発明の実施例1に係るシール部材の製造方法を実施する各工程を示す説明図であり、図4の(A)は、混合工程を示す説明図であり、図4の(B)は弾性成形品を形成する成形工程を示す説明図であり、図4の(C)は弾性成形品の表面に存在する微粒子を除去してシール成形体を形成する微粒子除去工程を示す説明図であり、図4の(D)は表面の微粒子が除去されたシール成形体と芯金とを一体に接合する接合工程を示す説明図である。
【図5】この発明のシール部材の製造方法によって製造される他のシール部材を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0012】
先ず、この発明の実施例1に係るシール部材の製造方法によって製造されるシール部材が装着される車輪用転がり軸受装置について説明する。
図1に示すように、車輪用転がり軸受装置は、内輪部材1(ハブホイールとも呼ばれることもある)と、外輪部材10と、これら内輪部材1と外輪部材10との間に複列をなして転動可能に配設されかつ保持器25、26によって保持される複列の転動体20、21とを備えている。
また、内輪部材1は、ハブ軸4と、このハブ軸4の一端寄り外周面から径方向外方に延出されたフランジ3とを一体に備え、フランジ3には車輪を締め付けるための複数のハブボルト2が所定ピッチで配設されている。
【0013】
図1に示すように、内輪部材1の一方(フランジ3に近い方)の内輪軌道面6の内輪肩部と、この内輪肩部の外周面に対向する外輪部材10の一端部内周面との間の環状空間には、この環状空間を密封するシール部材30が組み付けられている。
図2に示すように、シール部材30は、芯金31とシール成形体40とを備える。
芯金31は、外輪部材10の一端部内周面に圧入されて固定される筒状部32と、この筒状部32の一端から径方向内方へ曲げ加工された環状部33と、この環状部33の内径端から斜め内方へ曲げられたテーパ部34と、このテーパ部34の先端から径方向内方へ曲げられた内径端部35とを備えている。
シール成形体40は、芯金31の一側面の環状部33と、テーパ部34と、内径端部35との外側面に接着されて一体状をなしている。
そして、シール成形体40は、内輪部材1のフランジ3の基端部近傍に摺接するリップ41と、内輪肩部の外周面に摺接するリップ42、43とを備えている。
また、シール成形体40は、次に説明する製造方法によって製造され、その各リップ41、42、43を含む表面には、微細な凹凸面45が形成されている。
【0014】
次に、この発明の実施例1に係るシール部材の製造方法を製造する方法を図4の(A)〜(D)にしたがって説明する。
この実施例1に係るシール部材の製造方法は、混合工程と、成形工程と、微粒子除去工程と、接合工程とを備える。
先ず、混合工程において、図4の(A)に示すように、混練装置、例えば、ローラ式混練装置71の一対のローラ間の上流側に、ゴム材、軟質樹脂材等の溶融状態の弾性材料60を投入すると共に、その弾性材料60に、微粒子投入装置75から微粒子61を投入する。
そして、ローラ式混練装置71によって弾性材料60と微粒子61とを混合して混合材料62を形成する。
また、この実施例1において、微粒子61には水溶性の微粒子(例えば、塩、砂糖等)が用いられる。
なお、混練装置において、ローラ式混練装置71に代えてスクリュウ式混練装置を用いてもよい。
【0015】
次に、成形工程において、図4の(B)に示すように、型閉じ、型開き動作する複数の成形型76、77に形成されたキャビティ内に混合材料62を充填してシール部材30のシール成形体40に対応する形状の弾性成形品65を形成する。
その後、複数の成形型76、77を型開きして弾性成形品65を取り出す。なお、弾性成形品65にアンダーカット部が存在する場合には、弾性成形品65のアンダーカット部を弾性変形させながら取り出す。
【0016】
次に、微粒子除去工程において、弾性成形品65の表面に存在する微粒子61を除去してシール成形体40を形成する。
この実施例1において、微粒子61は水溶性の微粒子であるから、図4の(C)に示すように、弾性成形品65を洗浄液(熱水、温水、常温水等の洗浄液)が溜められた洗浄槽80内に投入して洗浄する。
これによって、弾性成形品65の表面に存在する微粒子61を溶解して除去し、表面に微細な凹凸面45を有するシール成形体40を形成する。
【0017】
最後に、接合工程において、図4の(D)に示すように、芯金31の一側面の環状部33と、テーパ部34と、内径端部35との外側面にシール成形体40を接着剤、加硫接着等によって一体状に接着してシール部材30を形成する。
【0018】
この実施例1に係るシール部材の製造方法は上述したように構成される。
したがって、弾性材料60と微粒子61との混合材料62を成形型76、77内に充填してシール成形体40に対応する形状の弾性成形品65を形成した後、弾性成形品65の表面に存在する微粒子61を除去する。これによって、表面に微細な凹凸面45を有するシール成形体40を容易に製造することができる。
そして、芯金31にシール成形体40を一体に接合(接着)することによってシール部材30を構成する。
前記したように製造されたシール部材30は、そのシール成形体40の各リップ41、42、43によって密封性を確保しながら、各リップ41、42、43の摺接面に形成されている微細な凹凸面45によって摺動抵抗を低減することが可能となる。
【0019】
また、この実施例1において、微粒子61は水溶性の微粒子が用いられることで、弾性成形品65の表面に存在する微粒子61を洗浄液(熱水、温水、常温水等の洗浄液)によって溶解して容易に除去することができる。この結果、シール成形体40の生産性の向上やコスト低減を図ることができる。
【0020】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、図5に示すように、シール部材130が芯金131とシール成形体140とを備え、そのシール成形体140に、スリンガ150の環状部152に摺接するリップ141と、スリンガ150の筒状部151の外周面に摺接するリップ142、143とを備えて構成される場合においてもこの発明を実施することができる。
また、シール部材130とスリンガ150とを備えた密封装置は、例えば、図1に示すように、車輪用転がり軸受装置の内輪部材1のハブ軸4の端部に配設された内輪体5の軌道肩部と、外輪部材10の端部内周面との間に配設される。
また、前記実施例1においては、シール部材30(130)が芯金31(131)とシール成形体40(140)とを備えて構成される場合を例示したが、シール成形体単体でシール部材を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0021】
30 シール部材
31 芯金
40 シール成形体(シール部材)
41、42、43 リップ
60 弾性材料
61 微粒子
71 ローラ式混練装置(混練装置)
80 洗浄槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料と微粒子とを混練装置によって混合させて混合材料を形成する混合工程と、
前記混合材料を成形型内に充填してシール部材のシール成形体に対応する形状の弾性成形品を形成する成形工程と、
弾性成形品の表面に存在する微粒子を除去してシール成形体を形成する微粒子除去工程とを備えていることを特徴とするシール部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載したシール部材の製造方法であって、
微粒子には水溶性の微粒子が用いられ、
微粒子除去工程において、弾性成形品を洗浄液によって洗浄することによって前記弾性成形品の表面に存在する微粒子を溶解することを特徴とするシール部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219889(P2012−219889A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85182(P2011−85182)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】