説明

ジェットポンプ及び沸騰水型原子炉

【課題】ジェットポンプの共振を精度良く検出できるジェットポンプを提供する。
【解決手段】ジェットポンプ15の振動監視装置25は、圧力導管26に接続された圧力変換器27、圧力変換器27に接続された信号処理装置28を有する。ジェットポンプ15のスリップジョイント部において、スロート18の下端部がディフューザ19の上端部内に挿入されてスロート18とディフューザ19の間に形成される環状間隙に、圧力導管26が連絡される。環状間隙の変動圧力が、圧力導管26に伝えられて電気信号に変化される。この電気信号を入力した信号処理装置28が、環状隙間33の変動圧力をフーリエ変換し、変動圧力のパワースペクトル密度を算出する。共振周波数でのパワースペクトル密度がこの設定値よりも大きくなったとき、信号処理装置28は警報信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットポンプ及び沸騰水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の沸騰水型原子炉は、再循環系配管が接続された原子炉圧力容器(以下、RPVという)とRPV内の炉心を取り囲む炉心シュラウドの間に形成されたダウンカマ内に複数のジェットポンプを設置している。ジェットポンプは、エルボ、ノズル、ベルマウス、スロート及びディフューザを備える。再循環ポンプの駆動によって昇圧された冷却水は、再循環系配管を通り、駆動水としてノズルからベルマウス及びスロート内に噴出される。ノズルは駆動水の速度を増加させる。ダウンカマ内のノズル周囲に存在する冷却水が、噴出された駆動水の作用によって、被駆動水としてスロート内に吸込まれ、駆動水と運動量を交換しながらディフューザ内に流入する。ディフューザから排出された冷却水は、RPV内の下部プレナムを通って炉心に供給される。
【0003】
RPV内に設置されているジェットポンプは、検査及び修理等のためエルボからスロートまでがインレットミキサとして取り外し可能な構造となっている。熱膨張差を吸収するために、スロートとディフューザの接合部は、スロートの下端部がディフューザの上端部内に挿入されたスリップジョイント(滑り継手)と呼ばれる構造となっている。スリップジョイントでは、微小な幅を有する環状隙間がスロートの外面とディフューザの内面との間に形成されている。スリップジョイント部では、ジェットポンプ内部の圧力がその外部のダウンカマの圧力よりも大きいため、ディフューザから環状隙間を通る漏洩流が発生する。経年変化によりジェットポンプの剛性が低下すると、大きな振動が発生しジェットポンプに磨耗及びクラック(ひび割れ)等が発生する可能性がある。さらに、ジェットポンプ内の流れまたは漏洩流の乱れ等の周波数と剛性の低下したジェットポンプの固有振動数が一致すると、共振して比較的大きな振動が発生し、その磨耗及びクラックの進展を早める可能性がある。
【0004】
ジェットポンプの振動を監視する方法として、特開2010−185884号公報に超音波を用いた方法が示されている。RPVの外面に接触させた超音波送受信器からジェットポンプに向かって超音波を送信し、そのジェットポンプで反射した反射波を超音波送受信器で受信する。受信した反射波を処理して、ジェットポンプの振動・劣化を監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−185884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の超音波を用いたジェットポンプの振動及び劣化を監視するシステムには以下の問題が生じる。
【0007】
超音波を用いた、RPV内のジェットポンプの振動計測は原理的には可能であり、RPV外からその振動を計測できるというメリットがある。しかし、超音波をジェットポンプの対象箇所に正確に送信する必要があり、RPVの内部が見えない状態であるため、非常に繊細な超音波送受信器のRPV外面への設置作業が要求される。この設置作業は原子炉の運転が停止されてRPV内の冷却水の温度が低下した低温時に実施される。このため、沸騰水型原子炉を起動し冷却水の温度が上昇したときのRPV及びジェットポンプの熱膨張差を考慮して、超音波送受信器をRPV外面に設置する必要があり、この設置には高度な技術が要求される。さらに、ジェットポンプの検査及び補修等により、スロートを動かした場合には、超音波送受信器の設置位置を再調整する必要があり、調整作業のために長時間を必要とする。
【0008】
振動監視のために歪みゲージ及び加速度計等をジェットポンプに直接取り付ける方法もある。この方法では、それらの計測器の劣化及び故障等による交換作業が必要となった場合、この交換作業はRPV内の作業となるため、交換作業に長時間掛かることになる。
【0009】
また、上記したそれぞれの振動監視システムを設けていない場合には、RPV内に設置されたジェットポンプは、沸騰水型原子炉の定期検査時に、RPVの上蓋を開放したときにのみ、ジェットポンプの検査が可能である。この検査の結果、ジェットポンプに対して早急な補修が必要であると判断された場合には、補修に必要な部品の調達及び補修工事の追加により、定期検査の工程の見直しが必要となる場合があり、工程の遅延が生じる可能性がある。上述した振動監視システムによりジェットポンプの補修箇所が断定できる場合には、事前に補修部品の調達及び定期検査の工程への組込みが可能であり、補修期間を短くすることができる。
【0010】
また、上述した振動監視システムにより過大な振動が検知された場合、沸騰水型原子炉の運転を継続しながらジェットポンプの振動を抑えるために、原子炉出力を低下させる場合があるが、過大な振動が検知されたジェットポンプから吐出される冷却水流量を減少させることが有効である。標準的な沸騰水型原子力プラントは、再循環ポンプ1台に10基のジェットポンプがつながった再循環系を2系統有している。問題となる1本のジェットポンプの流量を減少させると、他の9本のジェットポンプの流量も下がり、流量低下に伴う原子炉出力の減少幅が大きくなる。
【0011】
本発明の目的は、ジェットポンプの共振を精度良く検出することができるジェットポンプ及び沸騰水型原子炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、駆動流体を噴出するノズル装置と、駆動流体の噴出によって吸い込まれるノズル装置の周囲に存在する被駆動流体及び駆動流体が混合するスロートと、混合した流体の圧力を回復させ排出するディフューザと、スロートの下端部がディフューザの上端部内に挿入されたスリップジョイント部とを備えたジェットポンプにおいて、スリップジョイント部のスロートとディフューザの間に形成される隙間の圧力に基づいて、ジェットポンプの共振を検出する振動監視装置を有することにある。
【0013】
スリップジョイント部のスロートとディフューザの間に形成される隙間の圧力に基づいて、ジェットポンプの共振を検出するので、ジェットポンプが共振周波数で振動しているか否かを精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジェットポンプの共振を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の、振動監視装置を設けたジェットポンプの構成図である。
【図2】図1に示す振動監視装置の圧力導管が接続される、ジェットポンプのスリップジョイント部の拡大図である。
【図3】実施例1のジェットポンプが適用される沸騰水型原子炉の縦断面図である。
【図4】図1に示すジェットポンプの拡大図である。
【図5】実験で測定した、ジェットポンプの共振状態でのパワースペクトル密度分布の一例を示す説明図である。
【図6】実験で測定したスリップジョイント部での変動圧力のパワースペクトル密度分布の一例を示す説明図である。
【図7】実験で測定したスロート出口下方の変動圧力のパワースペクトル密度分布の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例2の沸騰水型原子炉の構成図である。
【図9】実験で測定した変動圧力のパワースペクトル密度のピーク値とスロート加速度の関係の一例を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、ジェットポンプの振動を測定する方法について種々の検討を行った。この検討において、発明者らは、沸騰水型原子炉に用いられる実機のジェットポンプを模擬した1/3スケールのジェットポンプの実験装置を用いて、ジェットポンプのスロートの振動と各部の変動圧力を測定した。インレットミキサの固定具を緩め、意図的にジェットポンプの剛性を低下させた実験において、ジェットポンプの共振現象を再現し、そのときのスロートの振動加速度と変動圧力の関係を調べた。ジェットポンプのスロート加速度のパワースペクトル密度分布の一例を図5に示す。このパワースペクトル密度は、振動加速度の時間変化をフーリエ変換して求めた。スロートは周波数約40Hzで共振しており、その整数倍の周波数に高次モードの振動が見られる。
【0017】
ジェットポンプのスリップジョイント部のディフューザの外面に圧力導管を接続し、ディフューザを貫通して設けた圧力取り出し孔によって、スリップジョイント部におけるディフューザの内面とスロートの外面との間に形成された環状間隙と圧力導管を連絡した。圧力導管で伝えられたその環状間隙内の変動圧力をフーリエ変換することにより、変動圧力のパワースペクトル密度分布が求められる。この変動圧力のパワースペクトル密度分布の一例を図6に示す。細線は、インレットミキサに共振が発生していない状態でのパワースペクトル密度分布であり、太線はインレットミキサに共振が発生している状態でのパワースペクトル密度分布である。共振が発生した場合にのみ、スロート加速度と同じ周波数(約40Hz)にパワースペクトル密度の急激な増加が見られることが分かった。スロート出口下端より下方で測定した変動圧力のパワースペクトル密度分布の一例を図7に示す。細線はインレットミキサに共振が発生していない状態でのパワースペクトル密度分布、太線はインレットミキサに共振が発生している状態でのパワースペクトル密度分布である。インレットミキサに共振が発生しても、図7においては、図6と比較して目立った変化がないことが分かる。以上より、スリップジョイント部の環状隙間の変動圧力のパワースペクトル密度だけが、インレットミキサに共振が発生した場合に、共振周波数と同じ周波数で大きくなることがわかった。インレットミキサに共振が発生していない場合は、特定の周波数で突出してパワースペクトル密度が大きくならないため、スリップジョイント部の変動圧力を監視すればインレットミキサでの共振発生の有無が判断できる。スリップジョイント部の環状隙間の変動圧力により共振周波数が検出できるのは、以下の理由によるものと考えられる。共振してスロートが比較的大きな振幅で振動すると、スリップジョイント部における環状隙間が狭いため、環状隙間に対するスロートの振幅が相対的に大きく、環状隙間の水を共振周波数で圧縮、膨張させるため、それがインレットミキサの共振周波数での変動圧力となって検知される。その他の場所では、スロートの振幅に対して流路幅が断然大きく、スロートの共振の影響はほとんどない。
【0018】
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な一実施例である実施例1のジェットポンプを、図1及び図2を用いて説明する。
【0020】
まず、本発明の好適な実施例であるジェットポンプの振動監視装置を、以下に説明する。本実施例のジェットポンプの振動監視装置を説明する前に、このジェットポンプが適用される沸騰水型原子炉の概略の構造を、図3及び図4を用いて以下に説明する。
【0021】
沸騰水型原子炉(BWR)1は、原子炉圧力容器(原子炉容器)3を有し、原子炉圧力容器3内に炉心シュラウド2を設置している。原子炉圧力容器3は、以下、RPVと称する。複数の燃料集合体(図示せず)が装荷された炉心5が、炉心シュラウド2内に配置される。気水分離器6及び蒸気乾燥器7がRPV3内で炉心5の上方に配置される。複数のジェットポンプ15が、RPV3と炉心シュラウド2の間に形成される環状のダウンカマ4内に配置される。RPV3に設けられる再循環系は、再循環系配管11及び再循環系配管11に設置された再循環ポンプ12を有する。再循環系配管11の一端はRPV3のノズルに接続されてダウンカマ4に連絡される。再循環系配管11の他端は、ダウンカマ4内に配置されたライザ管13の下端に連絡される。具体的には、再循環系配管11の他端は、RPV3の外側に配置されたリングヘッダ(図示せず)に接続される。RPV3内に設置されたジェットポンプ15の基数の1/2の本数の分岐管(図示せず)がリングヘッダに接続され、それぞれの分岐管がダウンカマ内4内に配置されたそれぞれのライザ管13に別々に接続される。ライザ管13の本数も、ジェットポンプ15の基数の1/2である。
【0022】
各ライザ管13の上端は分岐管に接続され、この分岐管は隣り合う一対のジェットポンプ15のそれぞれのエルボ14と接続される。エルボ14で流路が180°曲げられ、このエルボ14がノズル16に接続されている。ノズル16は、複数の支持板20によってベルマウス16に取り付けられる。このため、エルボ14、ノズル16、ベルマウス17及びスロート18が一体構造となっており、この部分をインレットミキサ32と呼ぶ。
【0023】
ライザ管13に取り付けられて水平方向に伸びている固定具34及びウェッジ35が、スロート18を鉛直方向に固定している。分岐管に取り付けられたビーム36が鉛直方向においてエルボ14を固定している。
【0024】
本実施例の各ジェットポンプ15は、図1及び図4に示すように、ディフューザ19、インレットミキサ32及び振動監視装置25を備えている。インレットミキサ32において、ノズル16の上端にエルボ14の一端が接続され、ノズル16がベルマウス17の上方に配置され、ベルマウス16がスロート18の上端に接続されている。ノズル16とベルマウス17の間には、被駆動水である、ダウンカマ4内でノズル16の周囲に存在する冷却水が流れる環状の冷却水通路が形成されている。スロート18の下端部がディフューザ19の上端部内に挿入されてスリップジョイント部Lを形成している(図2参照)。
【0025】
RPV3内の上部に存在する被駆動水である冷却水(被駆動流体、冷却材)は、給水配管9からRPV3に供給された給水と混合されてダウンカマ4内を下降する。冷却水は、再循環ポンプ12の駆動によって再循環系配管11内に吸引され、再循環ポンプ12によって昇圧される。この昇圧された冷却水を、便宜的に、駆動水(駆動流体)という。この駆動水は、再循環系配管11、ライザ管13、分岐管及びエルボ14内を流れてノズル16に達し、ノズル16からベルマウス17及びスロート18内に噴出される。ダウンカマ4内でノズル16の周囲に存在する被駆動水である冷却水は、ノズル16からの駆動水の噴出によって、ノズル16とベルマウス17の間に形成される冷却水通路を通り、ベルマウス17を経てスロート18内に吸い込まれる。この冷却水は、駆動水と共にスロート18内を下降し、ディフューザ19の下端から吐出される。ディフューザ19から吐出された冷却水は、下部プレナム22を経て炉心5に供給される。
【0026】
冷却水は、炉心5を通過する際に加熱されて水及び蒸気を含む気液二相流となる。気水分離器6は気液二相流を蒸気と水に分離する。分離された蒸気は、更に蒸気乾燥器7で湿分を除去されて主蒸気配管8に導かれる。この蒸気は、主蒸気配管8により蒸気タービン(図示せず)に導かれ、蒸気タービンを回転させる。蒸気タービンに連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。蒸気タービンから排出された蒸気は、復水器(図示せず)で凝縮されて水となる。この凝縮水は、給水として給水配管9によりRPV3内に供給される。気水分離器6及び蒸気乾燥器7で分離された水は、落下して冷却水としてダウンカマ4内に達する。
【0027】
エルボ14、ノズル16、ベルマウス17、スロート18及びディフューザ19を主要な構成要素とするジェットポンプ15は、ノズル16の周囲の冷却水を吸込むことにより、少ない駆動水の流量でより多くの冷却水を炉心5に送り込むことができる。
【0028】
ジェットポンプ15は、検査及び補修のためインレットミキサ32をディフューザ19から取り外すことができるように、スロート18とディフューザ19をスリップジョイントで連結している。スリップジョイント部Lでは、スロート18及びディフューザ19は、互いに干渉されないで軸方向に移動できるので、それぞれの熱膨張差を吸収することができる。このため、スリップジョイント部Lにおいて、スロート18及びディフューザ19の熱膨張差に起因した応力が発生しない。
【0029】
スリップジョイント部Lでは、スロート18の外面とディフューザ19の内面の間に、スロート18を取り囲む環状隙間33が形成される。スリップジョイント部L付近におけるディフューザ19内の圧力がダウンカマ4の圧力よりも高いので、スロート18からディフューザ19に流入した冷却水の一部が、環状隙間33を通ってダウンカマ4に流出する漏洩流24になる。この漏洩流24の流量は、スロート18からディフューザ19に流入した冷却水の全流量に対してごく僅かであり、ジェットポンプ15の性能にほとんど影響しない。
【0030】
ジェットポンプ15の振動監視装置25を、図1及び図2を用いて説明する。振動監視装置25は、圧力導管26、圧力変換器27及び信号処理装置28を有する。スリップジョイント部Lにおいて、環状隙間33に開口する圧力取り出し孔21がディフューザ19の側壁を貫通して形成される。圧力導管26は、圧力取り出し孔21に連通するように、ディフューザ19の外面に取り付けられる。圧力導管26は、RPV3の側壁を貫通してRPV3の外部に取り出され、RPV3の外部で圧力変換器27に接続される。信号処理装置28はケーブルにより圧力変換器27及び表示装置29にそれぞれ接続される。信号処理装置28及び表示装置29もRPV3の外部に置かれている。本実施例は、振動監視装置25を有するジェットポンプ15が複数設けられている。
【0031】
経年変化によりジェットポンプ15を鉛直方向に固定しているビーム36及びウェッジ35の磨耗により、水平方向に固定している固定具34に緩みが発生しジェットポンプの剛性が低下すると、ジェットポンプの振動が増加する。特に、ジェットポンプ15内の冷却水の流れ23及び漏洩流24の乱れ等の周波数と剛性の低下したジェットポンプ15の固有振動数が一致すると、共振して比較的大きな振動が発生し、磨耗及びクラックの進展を早める可能性がある。このため、沸騰水型原子炉1の運転中に共振が発生したことを検知できるようにし、ジェットポンプ15のスロート18内を流れる冷却水の流量を低下させる等、ジェットポンプ15に損傷が生じないような対策をできるようにすることが望ましい。
【0032】
本実施例のジェットポンプ15は、振動監視装置25を備えている。この振動監視装置25の機能を以下に説明する。環状隙間33を流れる漏洩流24の変動圧力が、圧力取り出し孔21及び圧力導管26を通して圧力変換器27に伝えられる。圧力変換器27はその変動圧力を電気信号に変換する。この電気信号はケーブルにより信号処理装置28に入力される。信号処理装置28は、電気信号として入力した、環状隙間33の変動圧力をフーリエ変換し、変動圧力のパワースペクトル密度を算出する。この算出されたパワースペクトル密度が、沸騰水型原子炉1の運転中において、常時、表示装置29に表示される。
【0033】
環状隙間33の変動圧力を計測している間に、共振周波数(例えば、図6の40Hz)でのパワースペクトル密度がこれの設定値よりも大きくなったとき、信号処理装置28は、表示装置29に警報信号を送信し、警報信号の表示及び警報音の発生を行う。信号処理装置28は、共振周波数でのパワースペクトル密度がこれの設定値よりも大きくなったと判定したとき、ジェットポンプ15で共振が発生していることを検出することになる。このような信号処理装置28を有する振動監視装置25は、環状隙間33の変動圧力に基づいて、ジェットポンプ15、すなわち、スロート18での共振の発生を検出する。
【0034】
ジェットポンプ15で共振が発生していることを示す警報信号が出されたとき、自動またはオペレータの判断により、ジェットポンプ15の保護処置を行う。沸騰水型原子炉1の運転を停止してもよいが、ジェットポンプ15から吐出される冷却水の流量を低下させることにより共振が回避されるので、ジェットポンプから吐出される冷却水の流量を低下させて沸騰水型原子炉1の運転を継続することも可能である。具体的には、再循環ポンプ12の回転数を減少させて、共振周波数でのパワースペクトル密度の突出が消えるまでジェットポンプ15のスロート18内を流れる冷却水の流量を低下させればよい。
【0035】
本実施例は、振動監視装置25により環状隙間33の変動圧力を計測してこの変動圧力に基づいて求めた変動圧力のパワースペクトル密度を監視するので、ジェットポンプ15、特に、スロート18が共振周波数で振動しているか否かを精度良く検出することができる。このため、ジェットポンプ15のスロート18内を流れる冷却水の流量を低下させる等の対策をより早く行うことができ、ジェットポンプの健全性を確保することができる。また、ジェットポンプ15の補修の準備を事前に行うことができ、沸騰水型原子炉1の定期検査期間におけるジェットポンプ15の補修期間を短縮することができる。これは、沸騰水型原子炉1の稼働率低下を抑制することができる。
【0036】
また、ジェットポンプ15に共振が発生した場合には、前述したように、より早く、ジェットポンプ15のスロート18内を流れる冷却水の流量を低下させることができ、沸騰水型原子炉1の運転を継続することができる。
【実施例2】
【0037】
本発明の他の実施例である実施例2の沸騰水型原子炉を、図8を用いて説明する。本実施例の沸騰水型原子炉も、実施例1で用いられる、振動監視装置25を有するジェットポンプ15を備えている。本実施例の沸騰水型原子炉は、さらに、各ライザ管13に接続されるそれぞれの分岐管39に設けられた流量調節弁41及び制御装置30を備えている。
【0038】
本実施例の沸騰水型原子炉は、RPV3の外側にリングヘッダ38を配置し、このリングヘッダ38に、RPV3内に設置されたジェットポンプ15の総基数の1/4の本数である5本の分岐管39a〜39eが接続される。再循環系ポンプ12を設けた再循環系配管11がリングヘッダ38に接続される。5本のライザ管13a〜13eがRPV3内のダウンカマ4に配置されている。分岐管39aがライザ管13aに、分岐管39bがライザ管13bに、分岐管39cがライザ管13cに、分岐管39dがライザ管13dに、及び分岐管39eがライザ管13eに、それぞれ接続される。ライザ管13aが、図4に示すように、2基のジェットポンプ15a及び15bのそれぞれのノズル16に連絡される。ライザ管13bが、同様に、2基のジェットポンプ15c及び15dのそれぞれのノズル16に連絡される。ライザ管13cが、同様に、2基のジェットポンプ15e及び15fのそれぞれのノズル16に連絡される。ライザ管13dが、同様に、2基のジェットポンプ15g及び15hのそれぞれのノズル16に連絡される。ライザ管13eが、同様に、2基のジェットポンプ15i及び15jのそれぞれのノズル16に連絡される。このような再循環系配管11、リングヘッダ38、分岐管39a〜39e、ライザ管13a〜13e及びジェットポンプ15a〜15jの接続関係は、実施例1で述べた沸騰水型原子炉も有している。上記した再循環系配管11、再循環ポンプ12、リングヘッダ38、分岐管39a〜39e及びライザ管13a〜13eは、一系統の再循環系の構成であり、沸騰水型原子炉は、このような再循環系を二系統備えている。ライザ管13a〜13eはRPV3の内部に配置され、分岐管39a〜39eがRPV3の外部に配置されている。
【0039】
本実施例の沸騰水型原子炉では、流量調節弁41aが分岐管39aに、流量調節弁41bが分岐管39bに、流量調節弁41cが分岐管39cに、流量調節弁41dが分岐管39dに、及び流量調節弁41eが分岐管39eに、それぞれ設けられている。流量調節弁41a〜41eのそれぞれの開度は、制御装置30によって制御される。ジェットポンプ15a〜15jのそれぞれに設けられた各振動監視装置25の信号処理装置28は、制御装置30にケーブルにより接続されている。
【0040】
例えば、ジェットポンプ15aに共振が発生したことが、ジェットポンプ15aに対応して設けられた振動監視装置25で検出されたとき、ジェットポンプ15aのスロート18内を流れる冷却水の流量を減少させるために、再循環ポンプ12の回転数を減少させた場合には、ジェットポンプ15a以外の他の9基のジェットポンプ15b〜15jのそれぞれのスロート18内を流れる冷却水の流量も減少してしまう。これでは、炉心流量の低下幅が大きくなり、原子炉出力の減少幅も大きくなる。
【0041】
本実施例は、このような事態を避けることができる。本実施例においても、実施例1と同様に、環状隙間33を流れる漏洩流24の変動圧力が入力される振動監視装置25の信号処理装置28で変動圧力のパワースペクトル密度が算出される。或る一基のジェットポンプ15、例えば、ジェットポンプ15aに対応して設けられた振動監視装置25において、信号処理装置28は、算出した変動圧力のパワースペクトル密度がこの設定値よりも大きくなったときに警報信号を表示装置29及び制御装置30に出力する。
【0042】
制御装置30は、ジェットポンプ15aに対応して設けられた振動監視装置25の信号処理装置28からの警報信号を入力したとき、ジェットポンプ15aに駆動水を供給する分岐管39aに設けられた流量調節弁41aの開度を減少させる。この開度制御により、共振が発生したジェットポンプ15aのノズル16に供給される駆動水の流量が減少し、これに伴って、ダウンカマ4内でジェットポンプ15aのノズル16の周囲に存在する冷却水の、ジェットポンプ15aのベルマウス17及びスロート18に吸い込まれる流量、すなわち、被駆動水の流量も減少する。この結果、ジェットポンプ15aのスロート18内を流れる冷却水の流量が十分に減少すれば、ジェットポンプ15aにおける共振が生じなくなる。流量調節弁41aの開度を減少させることにより、共振を発生していないジェットポンプ15bのノズル16に供給される駆動水の流量も減少し、ジェットポンプ15bから吐出される冷却水の流量が減少する。しかしながら、他の8基のジェットポンプ15c〜15jに対応して設けられたそれぞれの振動監視装置25からは警報信号が出力されないので、制御装置30は、他の8基のジェットポンプ15b〜15jに駆動水を供給する分岐管39b〜39eに設けられた流量調節弁41b〜41eのそれぞれの開度を低減させない。このため、ジェットポンプ15c〜15jのそれぞれから吐出される冷却水の流量は変わらない。
【0043】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、さらに、制御装置30が、或る振動監視装置25からジェットポンプ15での共振の発生を示す上記した警報信号を入力したときに、そのジェットポンプ15に駆動水を供給する分岐管39に設けられた流量調節弁41の開度を減少させるので、共振が発生したジェットポンプ15を含めてこの分岐管39に連絡される2基のジェットポンプ15に供給する駆動水の流量だけが減少され、残りのジェットポンプ15に供給される駆動水の流量を減少させない。このため、共振が発生したジェットポンプ15に供給する駆動水の流量が低減されるので、このジェットポンプ15において発生していた共振が生じなくなる。流量調節弁41の開度を減少させた分岐管39に連絡される2基のジェットポンプ15以外の残りの複数のジェットポンプ15に供給される駆動水の流量が減少しないので、共振が発生しているジェットポンプ15を共振が発生しない状態に変えることができて、炉心流量の低下幅を小さくすることができ、原子炉出力の低下幅も小さくなる。
【0044】
本実施例では、流量調節弁41の開度の低減を制御装置30を用いて自動的に行ったが、オペレータが、表示装置29に共振発生の警報信号が表示されたとき、該当する流量調節弁41の開度を減少させてもよい。
【実施例3】
【0045】
本発明の他の実施例である実施例3のジェットポンプを、以下に説明する。
【0046】
発明者らは、前述した1/3スケールのジェットポンプの実験装置を用いて実験を行い、図9に示す共振周波数でのパワースペクトル密度のピーク値の上昇に応じてスロート振動加速度も増加する関係を見出した。これらの関係を1/1スケールのジェットポンプ15のモックアップ実験等で予め求める。
【0047】
本実施例のジェットポンプは、実施例1におけるジェットポンプ15と同じ構成を有する。本実施例のジェットポンプ15の振動監視装置25は、図9に示す、パワースペクトル密度のピーク値とスロートの振動加速度の関係を示す情報を振動監視装置25のメモリに記憶している。この振動監視装置25は、実施例1のジェットポンプ15の振動監視装置25と同様に、環状隙間33の変動圧力を用いて、変動圧力のパワースペクトル密度を算出する。信号処理装置28が、共振周波数でのパワースペクトル密度のピーク値に対応したスロートの振動加速度を、メモリに記憶しているパワースペクトル密度のピーク値とスロートの振動加速度の関係を示す情報を用いて求める。構造強度解析により求めたジェットポンプ15が耐えうる振動加速度に安全係数を乗じた振動加速度の閾値が設定されている。信号処理装置28は、求めたスロートの振動加速度がその閾値を超えたとき、ジェットポンプ15に過大な共振が発生していると判定し、表示装置29に警報信号を出力する。この警報信号は表示装置29に表示される。このとき、オペレータは、実施例1と同様に、ジェットポンプ15に発生した共振を回避するための保護措置を行う。
【0048】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、スロートの振動加速度が閾値を超えたときに、共振が発生しているジェットポンプ15のスロート内を流れる冷却水の流量を低下させる等の保護措置を行うことができ、共振初期の振動レベルが比較的小さいときにジェットポンプ15のその流量を低下させる必要がなくなり、原子炉稼働率を向上させることができる。
【0049】
図9に示されたパワースペクトル密度のピーク値とスロートの振動加速度の関係を示す情報の替りに、パワースペクトル密度のピーク値とスロートの振幅の関係を示す情報を振動監視装置25のメモリに記憶させてもよい。この時には、信号処理装置28は、共振周波数でのパワースペクトル密度のピーク値に対応したスロートの振幅を、メモリに記憶しているパワースペクトル密度のピーク値とスロートの振幅の関係を示す情報を用いて求め、求められたスロートの振幅がこの振幅に対する閾値を超えたときに警報信号を出力する。スロートの振幅はスロートの振動加速度を二重積分することによって求めることができる。
【0050】
本実施例における振動監視装置25の信号処理装置28での、共振周波数でのパワースペクトル密度のピーク値に対応したスロートの振動加速度(または振幅)を求める手法を、実施例2における信号処理装置28に適用してもよい。このため、制御装置30による該当する流量調節弁41の開度の減少が、求められたスロートの振動加速度(または振幅)が閾値を超えたときに行われる。
【符号の説明】
【0051】
1…沸騰水型原子炉、2…炉心シュラウド、3…原子炉圧力容器、5…炉心、6…気水分離器、11…再循環系配管、12…再循環ポンプ、13,13a〜13e…ライザ管、14…エルボ、15,15a〜15j…ジェットポンプ、16…ノズル、17…ベルマウス、18…スロート、19…ディフューザ、21…圧力取出し孔、25…振動監視装置、26…圧力導管、27…圧力変換器、28…信号処理装置、32…インレットミキサ、33…環状隙間、39a〜39e…分岐管、41a〜41e…流量調節弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動流体を噴出するノズル装置と、前記駆動流体の噴出によって吸い込まれる前記ノズル装置の周囲に存在する被駆動流体及び前記駆動流体が混合するスロートと、混合した流体の圧力を回復させ排出するディフューザと、前記スロートの下端部が前記ディフューザの上端部内に挿入されたスリップジョイント部とを備えたジェットポンプにおいて、
前記スリップジョイント部の前記スロートと前記ディフューザの間に形成される隙間の圧力に基づいて、前記ジェットポンプの共振を検出する振動監視装置を有することを特徴とするジェットポンプ。
【請求項2】
前記振動監視装置は、前記隙間の圧力を電気信号に変換する圧力変換装置、及び前記圧力変換装置から出力された前記電気信号に基づいて、圧力のパワースペクトル密度を求め、前記共振が発生しているとの前記判定を、共振周波数での前記パワースペクトル密度が設定値を超えているときに行う信号処理装置を有する請求項1に記載のジェットポンプ。
【請求項3】
前記信号処理装置は、前記共振周波数での前記パワースペクトル密度のピーク値に対応した前記スロートの振動加速度及び前記スロートの振幅のいずれかが閾値を超えたとき、警報信号を出力する請求項2に記載のジェットポンプ。
【請求項4】
原子炉容器と、前記原子炉容器内に設置され、前記原子炉容器内に配置される炉心に冷却材を供給する複数のジェットポンプとを備え、
前記ジェットポンプが、請求項1ないし3のいずれか1項に記載されたジェットポンプであることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項5】
原子炉容器と、前記原子炉容器内に設置され、前記原子炉容器内に配置される炉心に冷却材を供給する複数のジェットポンプとを備え、
前記ジェットポンプが請求項1に記載されたジェットポンプであり、
前記原子炉容器に接続されて前記原子炉圧力容器内の冷却材を昇圧するポンプが設けられた再循環系配管と、前記再循環系配管が接続されたヘッダと、前記ヘッダに接続された複数の分岐管と、前記原子炉容器内に配置されてそれぞれの前記分岐管に別々に接続され、昇圧された前記冷却材を該当する前記ジェットポンプの前記ノズル装置にそれぞれ導く複数のライザ管と、それぞれの前記分岐管に設けられた流量調節弁と、前記振動監視装置が前記共振を検出したとき、この共振が生じている前記ジェットポンプに連絡される前記分岐管に設けられた前記流量調節弁の開度を制御する制御装置とを備えていることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項6】
前記振動監視装置は、前記隙間の圧力を電気信号に変換する圧力変換装置、及び前記圧力変換装置から出力された前記電気信号に基づいて、圧力のパワースペクトル密度を求め、前記共振が発生しているとの前記判定を、共振周波数での前記パワースペクトル密度が設定値を超えているときに行い信号処理装置を有し、前記制御装置は、前記流量調節弁の開度制御を前記パワースペクトル密度が設定値を超えているときに行う請求項5に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項7】
前記信号処理装置は、前記共振周波数での前記パワースペクトル密度のピーク値に対応した前記スロートの振動加速度及び前記スロートの振幅のいずれかが閾値を超えたとき、警報信号を出力し、前記制御装置は、前記流量調節弁の開度制御を前記警報信号が出力されたときに行う請求項6に記載の沸騰水型原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−172620(P2012−172620A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36506(P2011−36506)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】