説明

スイッチトキャパシタ回路、およびアナログデジタル変換器

【課題】コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減したい。
【解決手段】容量アレイ回路100は、複数の入力信号を受け、それらを合成して一つの出力信号を生成して出力する。コンパレータCPは、容量アレイ回路100の出力信号を受ける。電流源ISは、所定の固定電圧源と当該スイッチトキャパシタ回路300の出力端子との間に設けられ、コンパレータCPの出力信号が変化するまで、電流を当該出力端子に供給する。容量アレイ回路100は、複数の入力容量Csは、複数の入力信号をそれぞれ並列に受ける。追加調整容量Cexは、コンパレータCPの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える。複数の入力容量Csおよび追加調整容量Cexのそれぞれの出力端子が一つに結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量アレイ回路を備えるスイッチトキャパシタ回路、およびアナログデジタル変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンパレータの出力により定電流源から出力端子に電流を流す時間を制御して、その出力電圧を決定するタイプの増幅回路(以下、適宜、コンパレータ型増幅回路という)が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7319425号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンパレータ型増幅回路は、一般的な仮想接地するタイプの増幅回路と比較し、消費電力を低減することができるという利点がある。しかしながら、コンパレータの遅延がオフセット成分として、そのコンパレータ型増幅回路の出力電圧に直接的に影響するという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のスイッチトキャパシタ回路は、複数の入力信号を受け、それらを合成して一つの出力信号を生成して出力する容量アレイ回路と、容量アレイ回路の出力信号を受けるコンパレータと、所定の固定電圧源と当該スイッチトキャパシタ回路の出力端子との間に設けられ、コンパレータの出力信号が変化するまで、電流を当該出力端子に供給する電流源と、を備える。容量アレイ回路は、複数の入力信号をそれぞれ並列に受ける複数の入力容量と、コンパレータの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える調整容量と、を含む。複数の入力容量および調整容量のそれぞれの出力端子が一つに結合されている。
【0007】
本発明の別の態様は、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、入力アナログ信号を、上位ビットから下位ビットに向けて複数回の変換処理により、デジタル信号に変換するアナログデジタル変換器であって、第1アナログ信号を所定ビット数のデジタル信号に変換するサブAD変換回路と、サブAD変換回路により変換されたデジタル信号を第2アナログ信号に変換するDA変換回路と、第1アナログ信号または所定の増幅率で増幅された後の第1アナログ信号から、第2アナログ信号を減算する減算回路と、減算回路により減算された、第1アナログ信号と第2アナログ信号との差分信号を増幅し、つぎの変換処理の対象とすべきアナログ残差信号を生成する増幅回路と、を備える。DA変換回路、減算回路、および増幅回路が、上述したスイッチトキャパシタ回路により構成される。当該スイッチトキャパシタ回路は、第1アナログ信号として、上記入力信号を受け、サブAD変換回路により変換されたデジタル信号として、上記リファレンス電圧を受けてもよい。
【発明の効果】
【0008】
コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る容量アレイ回路を搭載したスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図2】差動増幅回路の内部構成の一例を示す図である。
【図3】図2に示した差動増幅回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路のオートゼロ状態の様子を示す図である。
【図5】実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路の増幅状態の様子を示す図である。
【図6】実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図7】実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路に含まれる容量の、半導体集積装置内の配置例を示す図である。
【図8】実施の形態1の変形例に係る容量アレイ回路を搭載したスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図9】コンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示す図である。図9(a)は、正側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示し、図9(b)は、負側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示す。
【図10】実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図11】遅延量検出回路の内部構成の一例を示す図である。
【図12】D信号、E信号およびF信号の一例を示す図である。
【図13】実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図14】実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図15】実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図16】実施の形態3に係るスイッチトキャパシタ回路に含まれる、差動増幅回路の内部構成の一例を示す図である。
【図17】実施の形態3に係る差動増幅回路の出力電圧の一例を示す図である。図17(a)は、差動増幅回路を構成する正側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示し、図17(b)は、負側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示す。
【図18】実施の形態3の変形例に係るスイッチトキャパシタ回路に含まれる、差動増幅回路の内部構成の一例を示す図である。
【図19】適用例1に係るパイプライン型アナログデジタル変換器の構成を示す図である。
【図20】図19に示したパイプライン型アナログデジタル変換器の動作例を示すタイミングチャートである。
【図21】適用例2に係るサイクリック型アナログデジタル変換器の構成を示す図である。
【図22】実施の形態2の変形例2に係るスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図23】実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路の構成図である。
【図24】実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態では、差動構成のスイッチトキャパシタ回路300を説明する。また、本発明の実施の形態に係るスイッチトキャパシタ回路300は、差動構成に限るものではなく、シングル構成でもよい。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態1に係る容量アレイ回路100を搭載したスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。スイッチトキャパシタ回路300は、容量アレイ回路100および差動増幅回路200を備える。
【0012】
容量アレイ回路100は、複数の差動入力信号を受け、それらを合成して一つの差動出力信号を生成する。より具体的には、容量アレイ回路100は、複数の差動入力チャネルから入力される複数の差動入力信号を容量結合により合成して、一つの差動出力信号を生成し、それを一つの差動出力チャネルから出力する。
【0013】
容量アレイ回路100は、差動構成であり、正側の容量アレイ部および負側の容量アレイ部を備える。正側の容量アレイ部は、複数の差動入力信号の、正側の複数の入力信号を受け、それらを合成して差動出力信号の正側の出力信号を生成する。負側の容量アレイ部は、複数の差動入力信号の、負側の複数の入力信号を受け、それらを合成して差動出力信号の負側の出力信号を生成する。
【0014】
正側の容量アレイ部は、複数の正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxpおよび正側の追加調整容量Cexpを含む。複数の正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxpおよび正側の追加調整容量Cexpのそれぞれの出力端子が一つに結合されている。
【0015】
負側の容量アレイ部は、複数の負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、負側の調整容量Cxmおよび負側の追加調整容量Cexmを含む。複数の負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、負側の調整容量Cxmおよび負側の追加調整容量Cexmのそれぞれの出力端子が一つに結合されている。
【0016】
正側の入力容量Cs1pの入力側端子には、正側の入力アナログ信号スイッチSW1Vp、高電位側基準電圧スイッチSW1Tp、および低電位側基準電圧スイッチSW1Bpが並列に接続される。正側の入力アナログ信号スイッチSW1Vpは、正側の入力アナログ信号Vinpを入力容量Cs1pに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。高電位側基準電圧スイッチSW1Tpは、高電位側基準電圧VRTを入力容量Cs1pに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。低電位側基準電圧スイッチSW1Bpは、低電位側基準電圧VRBを入力容量Cs1pに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。
【0017】
正側の容量アレイ部を構成するすべての入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)が、上述した構成と同様の構成である。また、負側の容量アレイ部を構成するすべての入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)についても、負側の入力アナログ信号スイッチSW1Vmに、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される点を除き、上述した構成と同様の構成である。
【0018】
正側の調整容量Cxpの入力側端子には、正側の入力アナログ信号スイッチSWaVpおよび正側の調整電圧スイッチSWaxpが並列に接続される。正側の入力アナログ信号スイッチSWaVpは、正側の入力アナログ信号Vinpを正側の調整容量Cxpに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。正側の調整電圧スイッチSWaxpは、正側の調整電圧Vxpを正側の調整容量Cxpに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。
【0019】
負側の調整容量Cxmについても、負側の入力アナログ信号スイッチSWaVmに、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される点、および負側の調整電圧スイッチSWaxmに負側の調整電圧Vxmが印加される点を除き、上述した構成と同様の構成である。
【0020】
正側の追加調整容量Cexpの入力側端子には、正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1および正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2が並列に接続される。正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1は、正側の第1追加調整電圧Vexp1を正側の追加調整容量Cexpに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2は、正側の第2追加調整電圧Vexp2を正側の追加調整容量Cexpに入力するか否かを切り換えるためのスイッチである。
【0021】
負側の追加調整容量Cexmについても、負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1に負側の第1追加調整電圧Vexpm1が入力される点、および負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2に負側の第2追加調整電圧Vexpm2が入力される点を除き、上述した構成と同様の構成である。
【0022】
ここで、上述した、正側の調整電圧Vxpおよび負側の調整電圧Vxmは、当該容量アレイ回路100より前段または後段に設けられた差動増幅回路の差動出力信号の差動値を一定に保ったまま、そのコモンモード電圧のずれを補償するための電圧であってもよい。また、上述した、正側の第1追加調整電圧Vexp1、正側の第2追加調整電圧Vexp2、負側の第1追加調整電圧Vexpm1および負側の第2追加調整電圧Vexpm2は、後述する、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電圧であってもよい。このオフセット成分の補償に関する詳細な説明は後述する。
【0023】
正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTおよび低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力されるモードでは、容量アレイ回路100は、デジタル値をアナログ値に変換するデジタルアナログ変換器として機能する。
【0024】
このモードでは、上述した複数の差動入力信号は、一つのデジタル値を表現する複数の二値信号(ここでは、高電位側基準電圧VRTおよび低電位側基準電圧VRB)である。上述した差動出力信号は、それらの二値信号が容量結合により合成された、一つのアナログ値を表現するアナログ信号である。当該複数の二値信号は、温度計コードで記述されたものである。
【0025】
温度計コードとは、値が大きくなるにつれて「1」の数を単調に増加させて表現するものである。たとえば、10進数の「2」は、温度計コードで「11」となり、バイナリコードで「10」となる。10進数の「3」は、温度計コードで「111」となり、バイナリコードで「11」となる。10進数の「4」は、温度計コードで「1111」となり、バイナリコードで「100」となる。
【0026】
このように、温度計コードでは、扱う10進数の数値範囲の最大値と同じ値のビット数が必要となる。たとえば、3ビットのバイナリデータ(10進数で0〜7)を表現するには、温度計コードで7ビット必要となり、4ビットのバイナリデータ(10進数で0〜15)を表現するには15ビット必要となる。
【0027】
一般的に、容量アレイ回路は2の乗数単位で設計、製造されることが多く、4個、8個、16個、32個の容量を備える容量アレイ回路が多い。この場合、バイナリコードで3ビットの温度計コードを扱うには、7個の容量が必要である。また、バイナリコードで4ビットの温度計コードを扱うには、15個の容量が必要である。したがって、8個、16個の容量を備える容量アレイ回路を用いる場合、1個の容量が余ることになる。本実施の形態では、その残りの容量を調整容量Cxとして使用する。なお、当該容量の個数はシングル構成の場合の数であり、差動構成の場合、その倍の個数となる。
【0028】
なお、追加調整容量Cexは、この2の乗数個の容量を備える容量アレイに対して追加された容量である。この容量を追加することにより、後述するように、Cexp(Vexp1−Vexp2)−Cexm(Vexm1−Vexm2)のオフセット成分を差動増幅回路200の差動出力電圧に加えることができる。
【0029】
差動増幅回路200は、正側の増幅回路と負側の増幅回路を組み合わせた擬似的差動増幅回路で構成される。正側の増幅回路および負側の増幅回路は、それぞれコンパレータ型増幅回路で構成される。
【0030】
正側の増幅回路は、正側のコンパレータCPp、正側の帰還容量Cfpおよび正側の電流源ISpを含む。正側のコンパレータCPpは、容量アレイ回路100の正側の出力信号を受ける。正側の帰還容量Cfpは、当該差動増幅回路200の正側の入力端子と正側の出力端子とを結ぶ経路上に設けられる。正側の電流源ISpは、所定の第1固定電圧源(ここでは、電源電圧)と当該差動増幅回路200の正側の出力端子との間に設けられ、正側のコンパレータCPpの出力信号が変化するまで、電流を当該出力端子に供給する。
【0031】
負側の増幅回路は、負側のコンパレータCPm、負側の帰還容量Cfmおよび負側の電流源ISmを含む。負側のコンパレータCPmは、容量アレイ回路100の負側の出力信号を受ける。負側の帰還容量Cfmは、当該差動増幅回路200の負側の入力端子と負側の出力端子とを結ぶ経路上に設けられる。負側の電流源ISmは、所定の第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)と当該差動増幅回路200の負側の出力端子との間に設けられ、負側のコンパレータCPmの出力信号が変化するまで、電流を当該出力端子に供給する。
【0032】
図2は、差動増幅回路200の内部構成の一例を示す図である。なお、図面を簡略化するために、複数の正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxpおよび正側の追加調整容量Cexpの総称として、一つの正側の入力容量Cspを描いている。また、複数の正側の入力アナログ信号スイッチ(SW1Vp、SW2Vp、・・・、SWaVp)および正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1の総称として、一つの正側の入力アナログ信号スイッチSWVpを描いている。また、複数の正側の高電位側基準電圧スイッチ(SW1Tp、SW2Tp、・・・)、複数の正側の低電位側基準電圧スイッチ(SW1Bp、SW2Bp、・・・)、正側の調整電圧スイッチSWaxpおよび正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2の総称として、一つの正側のリファレンス電圧スイッチSWrefpを描いている。なお、図2の正側の入力アナログ信号Vinは、サンプリング時に正側の入力容量Cspに入力される電圧を総称するものとし、正側の第1追加調整電圧Vexp1も含む概念とする。なお、これらの前提は、負側も同様である。
【0033】
当該正側のリファレンス電圧スイッチSWrefpに入力される正側のリファレンス電圧Vrefpは、上述した、デジタル値を表現する複数の二値信号が一つのアナログ値を表現するアナログ信号に変換された後の、正側の出力信号に相当する。負側も同様である。
【0034】
図1の正側のコンパレータCPpは、チョッパ型のコンパレータであり、正側の第1インバータINV1p、正側の第2インバータINV2p、正側の第3インバータINV3p、正側の第4インバータINV4p、および正側のオートゼロスイッチMsazpを含む。正側の第1インバータINV1p、正側の第2インバータINV2p、正側の第3インバータINV3pおよび正側の第4インバータINV4pは、縦列接続される。
【0035】
正側の第1インバータINV1pは、PチャンネルトランジスタとNチャンネルトランジスタを含む、プッシュプル構成の一般的なインバータである。より具体的には、当該Pチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第1固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのゲート端子が当該第1インバータINV1pの入力端子に接続され、そのドレイン端子が当該Nチャンネルトランジスタのドレイン端子と接続される。当該Nチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)に接続され、そのゲート端子が当該第1インバータINV1pの入力端子に接続され、そのドレイン端子が当該Pチャンネルトランジスタのドレイン端子と接続される。
【0036】
正側の第2インバータINV2p、正側の第3インバータINV3pおよび正側の第4インバータINV4pの構成も、正側の第1インバータINV1pの構成と同様である。
【0037】
正側のオートゼロスイッチMsazpは、正側の第1インバータINV1pの入力端子と出力端子とを結ぶ経路上に設けられる。ここでは、正側のオートゼロスイッチMsazpは、Pチャンネルトランジスタで構成される。そのゲート端子には、後述するA信号が入力される。当該Pチャンネルトランジスタをオンすることにより、正側の第1インバータINV1pの入力端子と出力端子とを短絡させることができる。
【0038】
これにより、正側の入力容量Cspにおいて正側の入力アナログ信号Vinpをサンプリングする際、その入力容量Cspの、サンプリング側の端子と反対側の端子に、正側の第1インバータINV1pの出力端子電圧を印加することが可能となる。増幅開始前の、当該出力端子電圧は、電源電圧とグラウンド電圧との間の中間電圧になるが、当該インバータ内のPチャンネルトランジスタとNチャンネルトランジスタの素子バラツキなどにより、その出力端子電圧にオフセット成分が含まれることがある。
【0039】
正側の入力容量Cspが、そのオフセット成分の影響を加味して正側の入力アナログ信号Vinpをサンプリングすれば、それに後続する、正側の第1インバータINV1pの処理において、自動的にそのオフセット成分がキャンセルされることになる。図1の負側のコンパレータCPmも、扱う電圧が負側の電圧である点を除き、上述した正側のコンパレータCPpと同様の構成であるため、その説明を省略する。なお、本明細書では、正側の第1インバータINV1pの入力端子と、正側の第1インバータINV1pの出力端子とが電気的に接続された状態をオートゼロ状態という。負側の第1インバータINV1mについても同様である。
【0040】
図1の正側の電流源ISpは、正側の定電流源Mispおよび正側の充電スイッチMscpを含む。正側の定電流源Mispおよび正側の充電スイッチMscpは、第1固定電圧源(ここでは電源電圧)と、差動増幅回路200の正側の出力端子との間に直列に接続される。
【0041】
正側の定電流源Mispおよび正側の充電スイッチMscpは、それぞれPチャンネルトランジスタで構成される。正側の定電流源Mispを構成するPチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第1固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのドレイン端子が正側の充電スイッチMscpに接続され、そのゲート端子に所定の第1バイアス電圧Vb1が印加される。
【0042】
正側の充電スイッチMscpを構成するPチャンネルトランジスタは、そのソース端子が正側の定電流源Mispに接続され、そのドレイン端子が差動増幅回路200の正側の出力端子に接続され、そのゲート端子が正側のコンパレータCPpの出力端子に接続される。
【0043】
図1の負側の電流源ISmは、負側の定電流源Mismおよび負側の充電スイッチMscmを含む。負側の定電流源Mismおよび負側の充電スイッチMscmは、第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)と、差動増幅回路200の負側の出力端子との間に直列に接続される。
【0044】
負側の定電流源Mismおよび負側の充電スイッチMscmは、それぞれNチャンネルトランジスタで構成される。負側の定電流源Mismを構成するNチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第2固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのドレイン端子が負側の充電スイッチMscmに接続され、そのゲート端子に所定の第2バイアス電圧Vb2が印加される。
【0045】
負側の充電スイッチMscmを構成するNチャンネルトランジスタは、そのソース端子が負側の定電流源Mismに接続され、そのドレイン端子が差動増幅回路200の負側の出力端子に接続され、そのゲート端子が負側のコンパレータCPmの出力端子に接続される。
【0046】
さらに、差動増幅回路200の正側の出力端子と、中間基準電圧VRB2との間に、正側の中間基準電位スイッチSWmpが接続される。正側の中間基準電位スイッチSWmpは、NチャンネルトランジスタとPチャンネルトランジスタを組み合わせた相補スイッチで構成される。当該Nチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述するB信号が入力され、当該Pチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述する反転B信号が入力される。なお、中間基準電圧VRB2は、上述した高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBとの中間電圧に設定している。
【0047】
同様に、差動増幅回路200の負側の出力端子と、中間基準電圧VRB2との間に、負側の中間基準電位スイッチSWmmが接続される。負側の中間基準電位スイッチSWmmも、NチャンネルトランジスタとPチャンネルトランジスタを組み合わせた相補スイッチで構成される。当該Nチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述するB信号が入力され、当該Pチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述する反転B信号が入力される。
【0048】
さらに、差動増幅回路200の正側の出力端子と、第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)との間に、正側のリセットスイッチMsrpが接続される。正側のリセットスイッチMsrpは、Nチャンネルトランジスタで構成される。当該Nチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述するC信号が入力される。
【0049】
同様に、差動増幅回路200の負側の出力端子と、第1固定電圧源(ここでは電源電圧)との間に、負側のリセットスイッチMsrmが接続される。負側のリセットスイッチMsrmは、Pチャンネルトランジスタで構成される。当該Pチャンネルトランジスタのゲート端子には、後述する反転C信号が入力される。
【0050】
図3は、図2に示した差動増幅回路200の動作を示すタイミングチャートである。図3に示すように、A信号およびB信号は、デューティ比が1/2のクロック信号である。A信号とB信号とでは位相が逆である。C信号はデューティ比が非常に小さいクロック信号である。
【0051】
A信号がローレベル、B信号がハイレベル、およびC信号がローレベルの第1期間では、正側の入力アナログ信号スイッチSWVpおよび負側の入力アナログ信号スイッチSWVmがオン、ならびに正側のリファレンス電圧スイッチSWrefpおよび負側のリファレンス電圧スイッチSWrefmがオフに制御される。すなわち、当該第1期間では正側の入力容量Cspに正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量Csmに負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。
【0052】
当該第1期間において、A信号がローレベルであるため、正側のオートゼロスイッチMsazpおよび負側のオートゼロスイッチMsazmがオンに制御される。すなわち、スイッチトキャパシタ回路300がオートゼロ状態に制御される。また、B信号がハイレベルおよびC信号がローレベルであるため、正側の中間基準電位スイッチSWmpおよび負側の中間基準電位スイッチSWmmがオン、ならびに正側のリセットスイッチMsrpおよび負側のリセットスイッチMsrmがオフに制御される。したがって、差動増幅回路200の正側の出力端子電圧および負側の出力端子電圧は、両方とも中間基準電圧VRB2となる。
【0053】
つぎに、A信号がハイレベル、B信号がローレベル、およびC信号がハイレベルの第2期間に遷移する。当該第2期間では、正側の入力アナログ信号スイッチSWVpおよび負側の入力アナログ信号スイッチSWVmがオフ、ならびに正側のリファレンス電圧スイッチSWrefpおよび負側のリファレンス電圧スイッチSWrefmがオンに制御される。すなわち、当該第2期間では正側の入力容量Cspに正側のリファレンス電圧Vrefpが入力され、負側の入力容量Csmに負側のリファレンス電圧Vrefmが入力される。なお、これらのスイッチが切り換わる直前の値が、入力アナログ信号Vinのサンプリング値となる。
【0054】
当該第2期間において、A信号がハイレベルであるため、正側のオートゼロスイッチMsazpおよび負側のオートゼロスイッチMsazmがオフに制御され、スイッチトキャパシタ回路300のオートゼロ状態が解除される。また、B信号がローレベルおよびC信号がハイレベルであるため、正側の中間基準電位スイッチSWmpおよび負側の中間基準電位スイッチSWmmがオフ、ならびに正側のリセットスイッチMsrpおよび負側のリセットスイッチMsrmがオンに制御される。したがって、差動増幅回路200の正側の出力端子電圧はグラウンド電圧となり、その負側の出力端子電圧は電源電圧となる。
【0055】
つぎに、A信号がハイレベル、B信号がローレベル、およびC信号がローレベルの第3期間に遷移する。当該第3期間において、正側の入力アナログ信号スイッチSWVpおよび負側の入力アナログ信号スイッチSWVmがオフ、ならびに正側のリファレンス電圧スイッチSWrefpおよび負側のリファレンス電圧スイッチSWrefmがオンに制御された状態を維持する。
【0056】
当該第3期間において、B信号がローレベルおよびC信号がローレベルであるため、正側の中間基準電位スイッチSWmpおよび負側の中間基準電位スイッチSWmmがオフ、ならびに正側のリセットスイッチMsrpおよび負側のリセットスイッチMsrmもオフに制御される。したがって、差動増幅回路200の正側の出力端子電圧は、正側の定電流源Mispにより充電される電荷に対応する電圧となり、その負側の出力端子電圧は、負側の定電流源Mismにより充電される電荷に対応する電圧となる。
【0057】
上記第3期間から上記第1期間に遷移する直前の、差動増幅回路200の正側の出力端子電圧および負側の出力端子電圧が差動出力値となる。
【0058】
なお、入力容量Cs(以下、正側の入力容量Cspと負側の入力容量Csmを総称して、単に入力容量Csと表記する)にサンプリングされた入力アナログ信号Vin(以下、正側の入力アナログ信号Vinpと負側の入力アナログ信号Vinmを総称して、単に入力アナログ信号Vinと表記する)の値、および差動増幅回路200の増幅期間に入力容量Csに入力されるリファレンス電圧Vref(以下、正側のリファレンス電圧Vrefpと負側のリファレンス電圧Vrefmを総称して、単にリファレンス電圧Vrefと表記する)の値により、差動増幅回路200の正側の出力端子電圧および負側の出力端子電圧の波形は異なってくる(図3参照)。
【0059】
つぎに、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の全体動作を説明する。
図4は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300のオートゼロ状態の様子を示す図である。この状態では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および正側の調整容量Cxpのすべてに、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)および負側の調整容量Cxmのすべてに、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpに正側の第1追加調整電圧Vexp1が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第1追加調整電圧Vexm1が入力される。
【0060】
図5は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の増幅状態の様子を示す図である。この状態では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力され、正側の調整容量Cxpに正側の調整電圧Vxpが入力される。また、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力され、負側の調整容量Cxmに負側の調整電圧Vxmが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpに正側の第2追加調整電圧Vexp2が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第2追加調整電圧Vexm2が入力される。
【0061】
以下、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)が15個、正側の調整容量Cxpが1個、正側の追加調整容量Cexpが1個、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)が15個、負側の調整容量Cxmが1個、および負側の追加調整容量Cexmが1個の場合を例に、より具体的に説明する。なお、これらの容量の容量値はすべて等しいことを前提とする。
【0062】
図4に示したオートゼロ状態において、正側の帰還容量Cfpおよび負側の帰還容量Cfpも含む、すべての容量に蓄積されている電荷Qは下記式1、式2により定義される。式1は正側の電荷Qpを示し、式2は負側の電荷Qmを示す。
【0063】
なお、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxp、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、および負側の調整容量Cxmは、すべて容量値が同じであるため、数式を簡略する趣旨から、それらすべての容量の容量値をCsと表記する。また、正側の帰還容量Cfpおよび負側の帰還容量Cfpも、容量値が同じであるため、数式を簡略する趣旨から、それら容量の容量値をCfと表記する。
【0064】
Qp=Cs*16*(Vinp−Vazp)+Cf*(VRB2−Vazp)+Cexp*(Vexp1−Vazp) ・・・(式1)
Qm=Cs*16*(Vinm−Vazm)+Cf*(VRB2−Vazm)+Cexm*(Vexm1−Vazm) ・・・(式2)
Vazpは、オートゼロ状態における、正側の第1インバータINV1pの入力端子電圧および出力端子電圧を示す。換言すれば、正側の第1インバータINV1pのオフセット成分が加味された、正側の第1インバータINV1pの出力反転電圧といえる。
Vazmは、オートゼロ状態における、負側の第1インバータINV1mの入力端子電圧および出力端子電圧を示す。換言すれば、負側の第1インバータINV1mのオフセット成分が加味された、負側の第1インバータINV1mの出力反転電圧といえる。
【0065】
つぎに、図5に示した増幅状態において、正側のコンパレータCPpの入力端子電圧が正側のオートゼロ電圧Vazpに到達した時点の、正側のすべての容量に蓄積されている電荷Qpは下記式3により定義され、負側のコンパレータCPmの入力端子電圧が負側のオートゼロ電圧Vazmに到達した時点の、負側のすべての容量に蓄積されている電荷Qmは下記式4により定義される。
Qp=Cs*{n*VRT+(15−n)*VRB+Vxp−16*Vazp}+Cf*(Voutp−Vazp)+Cexp*(Vexp2−Vazp) ・・・(式3)
Qm=Cs*{n*VRB+(15−n)*VRT+Vxm−16*Vazm}+Cf*(Voutm−Vazm)+Cexm*(Vexm2−Vazm) ・・・(式4)
nは、正側の入力容量Cspにおいて、高電位側基準電圧VRTが入力される入力容量Cspの数を示す。
【0066】
上述したように、差動増幅回路200の増幅開始直後に、差動増幅回路200の正側の出力端子がグラウンド電圧に、その負側の出力端子が電源電圧にリセットされる。これにより、差動増幅回路200の正側の入力端子電圧は、正側のオートゼロ電圧Vazpからグラウンド電圧方向に下降し、その負側の入力端子電圧は、負側のオートゼロ電圧Vazmから電源電圧方向に上昇する。
【0067】
その後、差動増幅回路200の正側の入力端子電圧が正側のオートゼロ電圧Vazpに向けて上昇し、その負側の入力端子電圧が負側のオートゼロ電圧Vazmに向けて下降する。その正側の入力端子電圧が正側のオートゼロ電圧Vazpに到達すると、正側の第1インバータINV1pが反転する。その後、正側のオートゼロスイッチMsazpがオフすると、差動増幅回路200の正側の出力端子への充電が停止する。一方、差動増幅回路200の負側の入力端子電圧が負側のオートゼロ電圧Vazmに到達すると、負側の第1インバータINV1mが反転する。その後、負側のオートゼロスイッチMsazmがオフすると、差動増幅回路200の負側の出力端子への充電が停止する。上記式3、式4は、この状態における、すべての容量に蓄積されている電荷を示している。
【0068】
オートゼロ状態とコンパレータCPの入力端子電圧がオートゼロ電圧に到達した状態とにおいて電荷保存則が成り立つので、上記式1〜式4により、差動増幅回路200の出力電圧(Voup−Voutm)は、下記式5により定義される。
Voup−Voutm=Cs/Cf*{16*(Vinp−Vinm)+VRT*(15−2n)+VRB*(2n−15)+(Vxp−Vxm)}+Cexp/Cf*(Vexp1−Vexp2)−Cexm/Cf*(Vexm1−Vexm2) ・・・(式5)
【0069】
以上の処理により、スイッチトキャパシタ回路300は、入力アナログ信号Vinと、リファレンス電圧Vrefとの差分を増幅することができる。すなわち、増幅期間に、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)に、所定の固定電圧(たとえば、グラウンド電圧)ではなく、リファレンス電圧Vrefを印加することにより、そのリファレンス電圧Vrefを入力アナログ信号Vinから減算することができる。
【0070】
その際、正側の第1追加調整電圧Vexp1、正側の第2追加調整電圧Vexp2、負側の第1追加調整電圧Vexm1および負側の第2追加調整電圧Vexm2の4種類の電圧を使用して、差動増幅回路200の差動出力電圧に、そのオフセット成分を補償するための電圧を加えることができる。これら4種類の電圧の少なくとも一つの電圧値を調整することにより、そのオフセット成分を補償するための電圧を生成することができる。また、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmの少なくとも一方の容量値を調整することによっても、そのオフセット成分を補償するための電圧を生成することができる。
【0071】
また、正側の調整電圧Vxpおよび負側の調整電圧Vxmを使用して、差動増幅回路200の差動出力電圧に、そのコモンモード電圧のずれを補償するための電圧を加えることができる。なお、正側の調整電圧Vxp、負側の調整電圧Vxm、正側の第1追加調整電圧Vexp1、正側の第2追加調整電圧Vexp2、負側の第1追加調整電圧Vexm1および負側の第2追加調整電圧Vexm2の6種類の電圧の任意の組み合わせにより、上記オフセット成分を補償するための電圧および/または上記コモンモード電圧のずれを補償するための電圧を生成することができる。したがって、それら6種類の電圧を使用して、上記オフセット成分と上記コモンモードのずれを同時に補償することもできる。
【0072】
図6は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の動作を示すタイミングチャートである。正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmのオートゼロ期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および正側の調整容量Cxpに、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)および負側の調整容量Cxmに、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpに正側の第1追加調整電圧Vexp1が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第1追加調整電圧Vexm1が入力される。
【0073】
当該オートゼロ期間終了時点の、正側の入力アナログ信号Vinpおよび負側の入力アナログ信号Vinmがサンプリング値となる。正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの増幅期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTまたは低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力される。また、正側の調整容量Cxpに正側の調整電圧Vxpが入力され、負側の調整容量Cxmに負側の調整電圧Vxmが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpに正側の第2追加調整電圧Vexp2が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第2追加調整電圧Vexm2が入力される。
【0074】
図7は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300に含まれる容量の、半導体集積装置内の配置例を示す図である。ここでは、バイナリコードで3ビットをデジタルアナログ変換する容量アレイ回路100の例を示している。上述したように、バイナリコードで3ビットをデジタルアナログ変換するには、シングル構成で、7個の入力容量Csが必要である。一般的に、容量の配置設計は2の乗数単位で行われる。したがって、8個の容量が配置される。その8個の容量をそれぞれ一定の間隔を空けて一列に並べて配置し、そのうちの7個を入力容量Csとして使用し、残りの1個を調整容量Cxとして使用する。ここでは、その8個の容量のうちの、最も外側の容量を調整容量Cxとして使用している。
【0075】
また、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300では、シングル構成で増幅率が4倍の場合、2個の帰還容量Cfが必要である。その2個の帰還容量Cfを、一列に並べて配置されている7個の入力容量Csおよび1個の調整容量Cxと、平行な列上の任意の位置に配置する。ここでは、2個の帰還容量Cfは、上記8個の容量のうちの最も内側の2個の容量の側に、それらの容量と所定の間隔を空けて配置する。なお、入力容量Csおよび調整容量Cxの合計サイズと帰還容量Cfの合計サイズとの比が、上記スイッチトキャパシタ回路300の増幅率を決定している。
【0076】
半導体集積回路内に配置される複数の容量は、その特性バラツキを抑えるために、できるだけサイズおよび環境条件を一致させる必要がある。精度への影響が大きい、7個の入力容量Csおよび1個の調整容量Cxのそれぞれの周囲に、できるだけ同じサイズの容量が配置されることが好ましい。そこで、7個の入力容量Csおよび1個の調整容量Cxの左右および下に同じサイズの容量を配置する。7個の入力容量Csおよび1個の調整容量Cxの下に、2個の帰還容量Cfまたは6個のダミー容量Cdを配置する。さらに、それらの容量の外側に、2個のダミー容量Cdを配置する。これらすべての容量は同じサイズとする。
【0077】
以上により、すべての入力容量Cs、調整容量Cxおよび帰還容量Cfのそれぞれが、周囲の容量から受ける影響を統一することができる。これにより、容量アレイ回路100によるデジタルアナログ変換の精度を向上させることができる。
【0078】
ここで、複数のダミー容量Cdの少なくとも一つを、上記追加調整容量Cexに使用することができる。当該追加調整容量Cexは、デジタルアナログ変換に使用されないため、比較的精度が要求されない。そこで、複数の入力容量Cdのうち、いずれの位置に配置されたものを、当該追加調整容量Cexに使用してもよい。
【0079】
以上説明したように実施の形態1によれば、容量アレイ回路100内に調整容量Cxおよび追加調整容量Cexを設けたことにより、スイッチトキャパシタ回路300のオフセット電圧およびコモンモード電圧のずれの両方を、一つの容量アレイ回路で補償することができる。また、それら以外の要請にもとづいて、スイッチトキャパシタ回路300の出力電圧に何らかの調整成分を加えることも可能である。また、上記ダミー容量Cdを用いて上記追加調整容量Cexを構成することにより、上記追加調整容量Cexを追加することによる容量アレイ回路100の面積増大を抑制することができる。
【0080】
図8は、実施の形態1の変形例に係る容量アレイ回路100を搭載したスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。変形例に係る容量アレイ回路100は、図1に示した容量アレイ回路100と比較し、追加調整容量Cexがさらに追加された回路である。
【0081】
変形例に係る、正側の容量アレイ部は、複数の正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxp、正側の第1追加調整容量Cex1pおよび正側の第2追加調整容量Cex2pを含む。複数の正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxp、正側の第1追加調整容量Cex1pおよび正側の第2追加調整容量Cex2pのそれぞれの出力端子が一つに結合されている。
【0082】
負側の容量アレイ部は、複数の負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、負側の調整容量Cxm、負側の第1追加調整容量Cex1mおよび負側の第2追加調整容量Cex2mを含む。複数の負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、負側の調整容量Cxm、負側の第1追加調整容量Cex1mおよび負側の第2追加調整容量Cex2mのそれぞれの出力端子が一つに結合されている。
【0083】
なお、正側の第2追加調整容量Cex2pおよび負側の第2追加調整容量Cex2mのそれぞれの入力側の構成は、正側の第1追加調整容量Cex1pおよび負側の第1追加調整容量Cex1mと同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0084】
ここでは、図1に示した正側、負側それぞれの容量アレイ部に、追加調整容量Cexを一つ追加する例を示しているが、複数追加してもよい。また、第1追加調整容量Cex1の容量値と、第2追加調整容量Cex2の容量値が異なっていてもよい。たとえば、後者は前者の2倍であってもよい。
【0085】
第1追加調整容量Cex1および第2追加調整容量Cex2の、両方を無効化する第1モード、第1追加調整容量Cex1のみを有効化する第2モード、第2追加調整容量Cex2のみを有効化する第3モード、およびそれらの両方を有効化する第4モードの、4種類のモードが設定可能である。
【0086】
以上説明したように本変形例によれば、追加調整容量Cexの数を増やすことにより、よりきめ細かな処理が可能である。また、オフセット電圧やコモンモード電圧のずれを補償する際、複数の追加調整容量Cexのうち使用する数を選択することにより、デジタル的に補償値を設定する処理も可能となる。
【0087】
なお、上述した実施の形態1では、差動増幅回路200にコンパレータ型増幅回路を採用した例を説明したが、それに限るものではなく、一般的な仮想接地するタイプの増幅回路を採用してもよい。
【0088】
つぎに、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、コンパレータ型増幅回路の遅延に起因するオフセット成分を補償する手法に焦点を当てる。
【0089】
図9は、コンパレータ型増幅回路の出力電圧の一例を示す図である。図9(a)は、正側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧Voutpの一例を示し、図9(b)は、負側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧Voutmの一例を示す。
【0090】
図9(a)および図9(b)における理想値は、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmにおいて遅延が発生せず、それらが理想的な特性を持つ場合における、正側の出力電圧Voutpおよび負側の出力電圧Voutmの値を示す。
【0091】
図9(a)において、正側のコンパレータCPpが遅延すると、図2における正側の充電スイッチMscpがオンしている期間が長くなり、正側の出力端子に電荷を充電しすぎることになる。正側のコンパレータCPpにおいて遅延時間Tdpが発生すると、正側の充電スイッチMscpをオフする時間が、その遅延時間Tdpの分、延びてしまう。それにより、正側の出力電圧Voutpにオフセット電圧Vofspが加わってしまう。
【0092】
一方、図9(b)において、負側のコンパレータCPmが遅延すると、図2における負側の充電スイッチMscmがオンしている期間が長くなり、負側の出力端子に電荷を充電しすぎることになる。負側のコンパレータCPmにおいて遅延時間Tdmが発生すると、負側の充電スイッチMscmをオフする時間が、その遅延時間Tdmの分、延びてしまう。それにより、負側の出力電圧Voutmにオフセット電圧Vofsmが加わってしまう。
【0093】
このように、コンパレータCPの遅延時間に比例して、出力電圧Voutに含まれるオフセット電圧Vofsが増大する。コンパレータCPの遅延時間は、主に、プロセス、電源電圧、温度により変化する。より具体的には、プロセスが遅いほど、電源電圧が低いほど、または温度が高いほど、コンパレータCPの遅延時間が大きくなる。反対に、プロセスが早いほど、電源電圧が高いほど、または温度が低いほど、コンパレータCPの遅延時間が小さくなる。
【0094】
図10は、実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300と基本構成は同じである。以下、相違する構成について説明する。
【0095】
正側の追加調整容量Cexpは、正側のコンパレータCPpの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える。負側の追加調整容量Cexmは、負側のコンパレータCPmの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える。
【0096】
実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成要素に加えて、正側の定電流源CISp、正側の定電流源スイッチMsip、負側の定電流源CISm、負側の定電流源スイッチMsim、および遅延量検出回路250を備える。
【0097】
正側の定電流源CISpは、正側の追加調整容量Cexpの入力端子に、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2を介して接続され、当該入力端子から定電流を引き抜く。負側の定電流源CISmは、負側の追加調整容量Cexmの入力端子に、負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2を介して接続され、当該入力端子に定電流を吐き出す。
【0098】
正側の定電流源スイッチMsipは、第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)と正側の定電流源CISpとの間に設けられる。負側の定電流源スイッチMsimは、第1固定電圧源(ここでは、電源電圧)と負側の定電流源CISmとの間に設けられる。
【0099】
正側の定電流源スイッチMsipは、Nチャンネルトランジスタで構成される。当該Nチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)に接続され、そのドレイン端子が正側の定電流源CISpに接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述するF信号)を受ける。
【0100】
負側の定電流源スイッチMsimは、Pチャンネルトランジスタで構成される。当該Pチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第1固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのドレイン端子が負側の定電流源CISmに接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述する反転F信号)を受ける。
【0101】
遅延量検出回路250は、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延時間を推測するためのダミー遅延回路51(図11参照)を含む。遅延量検出回路250は、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの近傍に配置される。
【0102】
ダミー遅延回路51は、当該インバータ部に含まれるインバータと同じインバータを備えていてもよいし、当該インバータ部と遅延特性が同一関係または比例関係にある別の遅延回路を備えていてもよい。上述したように、コンパレータCPの遅延特性は、主に、プロセス、電源電圧および温度により変化する。ダミー遅延回路51を当該コンパレータCPの近傍に設置することにより、当該コンパレータCPの遅延特性を動的に推測することができる。
【0103】
遅延量検出回路250は、ダミー遅延回路51により推測されたコンパレータCPの遅延時間にもとづいて、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオンする時間を決定する。このオンオフ制御の詳細は後述する。なお、遅延量検出回路250は正側と負側に独立に二つ設けられてもよい。
【0104】
図11は、遅延量検出回路250の内部構成の一例を示す図である。遅延量検出回路250は、ダミー遅延回路51、インバータ52、NANDゲート53およびインバータ54を含む。ダミー遅延回路51およびNANDゲート53は、D信号を並列に受ける。ダミー遅延回路51は、入力されたD信号を遅延させて、インバータ52に出力する。インバータ52は、ダミー遅延回路51から入力された信号を反転させたE信号をNANDゲート53に出力する。
【0105】
NANDゲート53は、上記D信号および上記E信号の否定論理積信号をインバータ54に出力する。インバータ54は、NANDゲート53から入力された信号を反転させてたF信号を出力する。
【0106】
図12は、D信号、E信号およびF信号の一例を示す図である。D信号は、デューティ比が1/2のクロック信号である。このクロック信号の半周期の長さは、コンパレータCPの増幅期間の長さに対応する。E信号は、ダミー遅延回路51により遅延されたD信号を反転させた信号である。F信号は、ダミー遅延回路51による遅延量に対応した期間を有意な信号(ここでは、ハイレベル信号)として抽出した信号である。
【0107】
図13は、実施の形態2に係るスイッチトキャパシタ回路300の動作を示すタイミングチャートである。図13のタイミングチャートは、図6のタイミングチャートと異なり、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmのオートゼロ期間に、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmのそれぞれに、正側の第1追加調整電圧Vexp1および負側の第1追加調整電圧Vexm1が入力されない。
【0108】
その代わり、正側の定電流源CISpにより充電された、正側の追加調整容量Cexpの入力端子電圧、および負側の定電流源CISmにより充電された、負側の追加調整容量Cexmの入力端子電圧がそれぞれ入力される。なお、正側の調整容量Cxpおよび負側の調整容量Cxmについては、実施の形態2では注目しないため無視して考える。
【0109】
正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmのオートゼロ期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)に、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)に、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。また、当該オートゼロ期間の途中まで、より具体的にはF信号が有意(ここでは、ハイレベル)になるまで、正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1および負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1はオンに、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2および負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2はオフに制御される。したがって、当該オートゼロ期間の途中まで、正側の追加調整容量Cexpに正側の第1追加調整電圧Vexp1が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第1追加調整電圧Vexm1が入力される。
【0110】
ここで、正側の第1追加調整電圧Vexp1は、正側の定電流源CISpが飽和領域で動作しやすいよう、高電圧(たとえば、電源電圧)に設定することが好ましい。また、負側の第1追加調整電圧Vexm1は、負側の定電流源CISmが飽和領域で動作しやすいよう、低電圧(たとえば、グラウンド電圧)に設定することが好ましい。
【0111】
当該オートゼロ期間の途中でF信号が有意になると、正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1および負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1はオフに、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2および負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2はオンに制御される。このように、正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1、負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2および負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2は、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)を制御する第1クロック信号CLK(Cs)と異なる第2クロック信号CLK(Cep)で制御される。第2クロック信号CLK(Cep)は、第1クロック信号CLK(Cs)の立ち上がりエッジからF信号の立ち上がりエッジまで有意(ここではハイレベル)となり、それ以外の期間、非有意(ここではローレベル)となる信号である。
【0112】
F信号が有意(ここではハイレベル)に遷移してから、非有意(ここでは、ローレベル)に遷移するまでの期間、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオンする。F信号が非有意(ここでは、ローレベル)に遷移すると、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオフする。
【0113】
これにより、正側の追加調整容量Cexpの入力端子、および負側の追加調整容量Cexmの入力端子を、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延に起因して発生するオフセット成分に対応する電圧に設定することができる。F信号が非有意(ここでは、ローレベル)に遷移してから上記オートゼロ期間の終了時点まで、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmには、何も入力されない。図13において、斜線で囲われている期間が、正側の追加調整容量Cexpの入力端子および負側の追加調整容量Cexmの入力端子に、正側の定電流源CISpおよび負側の定電流源CISmにより電荷が充電されている期間を示している。
【0114】
当該オートゼロ期間終了時点の、正側の入力アナログ信号Vinpおよび負側の入力アナログ信号Vinmがサンプリング値となる。正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの増幅期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTまたは低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmには、正側の第1追加調整電圧Vexp1および負側の第1追加調整電圧Vexm1がそれぞれ入力される。
【0115】
以上の処理を整理して記載すると、コンパレータCPのオートゼロ期間に、入力容量Csの入力端子に入力アナログ信号Vinが入力され、かつ追加調整容量Cexの入力端子に第1追加調整電圧Vex1と定電流源CISから供給される電流にもとづく電圧とが順に入力される。コンパレータCPの増幅期間に、入力容量Csの入力端子にリファレンス電圧Vrefが入力され、かつ追加調整容量Cexの入力端子に第1追加調整電圧Vex1が入力される。コンパレータCPのオートゼロ期間の一部の期間(F信号が有意な期間)に、定電流源スイッチMsiがコンパレータCPの遅延に対応する時間、オンすることにより、定電流源CISから追加調整容量Cexの入力端子に電流が供給される。
【0116】
なお、第1追加調整電圧Vex1、定電流源CISを構成するトランジスタのサイズ、および追加調整容量Cexの容量値のうち、少なくとも一つを調整することにより、追加調整容量Cexに生成されるオフセット成分を、コンパレータCPの遅延に起因して発生するオフセット成分と一致させることができる。
【0117】
以下、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)が15個、正側の調整容量Cxpが1個、正側の追加調整容量Cexpが1個、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)が15個、負側の調整容量Cxmが1個、および負側の追加調整容量Cexmが1個の場合を例に、より具体的に説明する。以下の説明では、これらの容量の容量値はすべて等しいことを前提とする。実際には、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmの容量値は、他の容量の容量値と異なっていてもよい。
【0118】
オートゼロ状態の終了時点(サンプリング時)において、正側の帰還容量Cfpおよび負側の帰還容量Cfpも含む、すべての容量に蓄積されている電荷Qは下記式6、式7により定義される。式6は正側の電荷Qpを示し、式7は負側の電荷Qmを示す。
【0119】
なお、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)、正側の調整容量Cxp、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)、および負側の調整容量Cxmは、すべて容量値が同じであるため、数式を簡略する趣旨から、それらすべての容量の容量値をCsと表記する。また、正側の帰還容量Cfpおよび負側の帰還容量Cfpも、容量値が同じであるため、数式を簡略する趣旨から、それら容量の容量値をCfと表記する。
【0120】
Qp=Cs*16*(Vinp−Vazp)+Cf*(VRB2−Vazp)+Cexp*(Vexp1−Ip*Tp−Vazp) ・・・(式6)
Qm=Cs*16*(Vinm−Vazm)+Cf*(VRB2−Vazm)+Cexm*(Vexm1+Im*Tm−Vazm) ・・・(式7)
Ipは、正側の定電流源CISpに流れる電流を示し、Tpは、正側の定電流源スイッチMsipがオンしている時間を示す。
Imは、負側の定電流源CISmに流れる電流を示し、Tmは、負側の定電流源スイッチMsimがオンしている時間を示す。
【0121】
つぎに、増幅状態において、正側のコンパレータCPpの入力端子電圧が正側のオートゼロ電圧Vazpに到達した時点の、正側のすべての容量に蓄積されている電荷Qpは下記式8により定義され、負側のコンパレータCPmの入力端子電圧が負側のオートゼロ電圧Vazmに到達した時点の、負側のすべての容量に蓄積されている電荷Qmは下記式9により定義される。
Qp=Cs*{n*VRT+(15−n)*VRB+Vxp−16*Vazp}+Cf*(Voutp−Vazp)+Cexp*(Vexp1−Vazp) ・・・(式8)
Qm=Cs*{n*VRB+(15−n)*VRT+Vxm−16*Vazm}+Cf*(Voutm−Vazm)+Cexm*(Vexm1−Vazm) ・・・(式9)
nは、正側の入力容量Cspにおいて、高電位側基準電圧VRTが入力される入力容量Cspの数を示す。
【0122】
オートゼロ状態とコンパレータCPの入力端子電圧がオートゼロ電圧Vazに到達した状態とにおいて電荷保存則が成り立つので、上記式6〜式9により、差動増幅回路200の出力電圧(Voup−Voutm)は、下記式10により定義される。
Voup−Voutm=4*{(Vinp−Vinm)−(2n−15)/8*(VRT−VRB)+(Vxp−Vxm)/16}−Cexp*Ip*Tp+Cexm*Im*Tm ・・・(式10)
【0123】
以上説明したように実施の形態2によれば、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。また、ダミー遅延回路を用いることにより、プロセス、電源電圧および温度など、環境条件によって動的に変化するオフセット成分を、適応的に補償することができる。
【0124】
図14は、実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300と基本構成は同じである。以下、相違する構成について説明する。なお、図14では、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmは描いていないが、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmを設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0125】
実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成要素に加えて、正側の定電流源CISp、正側の定電流源スイッチMsip、正側のボルテージフォロワVFp、正側の保持容量Cx2p、正側の第2調整電圧スイッチSWax2p、負側の定電流源CISm、負側の定電流源スイッチMsim、負側のボルテージフォロワVFm、負側の保持容量Cx2m、負側の第2調整電圧スイッチSWax2m、および遅延量検出回路250を備える。
【0126】
正側の定電流源CISpの一端は、正側の定電流源スイッチMsipを介して第1固定電圧源(ここでは、電源電圧)に接続され、正側の定電流源CISpの他端は、正側のボルテージフォロワVFpの入力端子および正側の保持容量Cx2pの一端に接続される。正側のボルテージフォロワVFpの出力端子は、正側の調整電圧スイッチSWaxpを介して正側の調整容量Cxpに接続される。正側の保持容量Cx2pの他端は、第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)に接続される。正側の第2調整電圧スイッチSWax2pの一端は、正側の調整電圧Vexpを受け、正側の第2調整電圧スイッチSWax2pの他端は、正側のボルテージフォロワVFpの入力端子および正側の保持容量Cx2pの一端に接続される。
【0127】
負側の定電流源CISmの一端は、負側の定電流源スイッチMsimを介して第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)に接続され、負側の定電流源CISmの他端は、負側のボルテージフォロワVFmの入力端子および負側の保持容量Cx2mの一端に接続される。負側のボルテージフォロワVFmの出力端子は、負側の調整電圧スイッチSWaxmを介して正側の調整容量Cxmに接続される。負側の保持容量Cx2mの他端は、第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)に接続される。負側の第2調整電圧スイッチSWax2mの一端は、負側の調整電圧Vexmを受け、負側の第2調整電圧スイッチSWax2mの他端は、負側のボルテージフォロワVFmの入力端子および負側の保持容量Cx2mの一端に接続される。
【0128】
正側の定電流源スイッチMsipは、Pチャンネルトランジスタで構成され、そのゲート端子で遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述する反転F信号)を受ける。負側の定電流源スイッチMsimは、Nチャンネルトランジスタで構成され、そのゲート端子で遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述するF信号)を受ける。
【0129】
図15は、実施の形態2の変形例1に係るスイッチトキャパシタ回路300の動作を示すタイミングチャートである。正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmのオートゼロ期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および正側の調整容量Cxpに、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)および負側の調整容量Cxmに、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。
【0130】
また、当該オートゼロ期間の途中(たとえば、オートゼロ期間の半分)まで、正側の第2調整電圧スイッチSWax2pおよび負側の第2調整電圧スイッチSWax2mはオンに、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimはオフに制御される。したがって、当該オートゼロ期間の途中まで、正側の保持容量Cx2pに正側の調整電圧Vexpが入力され、負側の保持容量Cx2mに負側の調整電圧Vexmが入力される。
【0131】
当該オートゼロ期間の途中で、正側の第2調整電圧スイッチSWax2pおよび負側の第2調整電圧スイッチSWax2mはオフに、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimはオンに制御される。正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimは、F信号が有意(ここではハイレベル)な期間、オンする。F信号が非有意(ここでは、ローレベル)に遷移すると、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimはオフする。正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオンの期間、正側の保持容量Cx2pおよび負側の保持容量Cx2mに、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延に起因して発生するオフセット成分に対応する電流が、それぞれ入力される。
【0132】
当該オートゼロ期間終了時点の、正側の入力アナログ信号Vinpおよび負側の入力アナログ信号Vinmがサンプリング値となる。正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの増幅期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTまたは低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力される。また、正側の調整容量Cxpおよび負側の調整容量Cxmに、正側のボルテージフォロワVFpの出力電圧および負側のボルテージフォロワVFmの出力電圧がそれぞれ入力される。
【0133】
なお、F信号が非有意(ここでは、ローレベル)に遷移してから、当該増幅期間が終了するまでの期間、正側の保持容量Cx2pおよび負側の保持容量Cx2mには何も入力されない。すなわち、正側の第2調整電圧スイッチSWax2p、負側の第2調整電圧スイッチSWax2m、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimは、すべてオフに制御される。
【0134】
変形例2では、オートゼロ状態の終了時点(サンプリング時)において、正側の帰還容量Cfpおよび負側の帰還容量Cfpも含む、すべての容量に蓄積されている電荷Qは下記式11、式12により定義される。式11は正側の電荷Qpを示し、式12は負側の電荷Qmを示す。
【0135】
Qp=Cs*16*(Vinp−Vazp)+Cf*(VRB2−Vazp)+Cx2p*(Vexp−Ip*Tp−Vazp) ・・・(式11)
Qm=Cs*16*(Vinm−Vazm)+Cf*(VRB2−Vazm)+Cx2m*(Vexm−Im*Tm−Vazm) ・・・(式12)
Ipは、正側の定電流源CISpに流れる電流を示し、Tpは、正側の定電流源スイッチMsipがオンしている時間を示す。
Imは、負側の定電流源CISmに流れる電流を示し、Tmは、負側の定電流源スイッチMsimがオンしている時間を示す。
【0136】
以上説明したように実施の形態2の変形例1によっても、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。また、ダミー遅延回路を用いることにより、プロセス、電源電圧および温度など、環境条件によって動的に変化するオフセット成分を、適応的に補償することができる。
【0137】
また、正側の調整電圧Vexp、負側の調整電圧Vexm、正側の定電流源CISpに流れる電流、負側の定電流源CISmに流れる電流、正側の定電流源スイッチMsipのオン時間および負側の定電流源スイッチMsimのオン時間を調整することにより、当該スイッチトキャパシタ回路300の出力電圧の差動オフセットを調整することができる。
【0138】
なお、変形例2に係る正側のボルテージフォロワVFpおよび負側のボルテージフォロワVFmを、図10に示したスイッチトキャパシタ回路300の正側の定電流源CISpと、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2との間、および負側の定電流源CISmと、負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2との間にそれぞれ挿入してもよい。後述する図23に示すスイッチトキャパシタ回路300についても同様である。
【0139】
図16は、実施の形態3に係るスイッチトキャパシタ回路300に含まれる、差動増幅回路200の内部構成の一例を示す図である。図16に示す差動増幅回路200の内部構成回路は、図2に示した差動増幅回路200の内部構成回路に、正側の追加定電流源Misp2、正側の放電スイッチMsdp、負側の追加定電流源Mism2および負側の放電スイッチMsdmが追加された構成である。なお、図面を簡略化する趣旨から、正側の中間基準電位スイッチSWmp、負側の中間基準電位スイッチSWmm、正側のリセットスイッチMsrpおよび負側のリセットスイッチMsrmは省略して描いている。
【0140】
正側の追加定電流源Misp2および正側の放電スイッチMsdpは、それぞれNチャンネルトランジスタで構成される。正側の追加定電流源Misp2を構成するNチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)に接続され、そのドレイン端子が正側の放電スイッチMsdpに接続され、そのゲート端子に上記第2バイアス電圧Vb2が印加される。
【0141】
正側の放電スイッチMsdpを構成するNチャンネルトランジスタは、そのソース端子が正側の追加定電流源Misp2に接続され、そのドレイン端子が差動増幅回路200の正側の出力端子に接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力端子に接続され、上述したF信号を受ける。
【0142】
負側の追加定電流源Mism2および負側の放電スイッチMsdmは、それぞれPチャンネルトランジスタで構成される。負側の追加定電流源Mism2を構成するPチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第1固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのドレイン端子が負側の放電スイッチMsdmに接続され、そのゲート端子に上記第1バイアス電圧Vb1が印加される。
【0143】
負側の放電スイッチMsdmを構成するPチャンネルトランジスタは、そのソース端子が負側の追加定電流源Mism2に接続され、そのドレイン端子が差動増幅回路200の負側の出力端子に接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力端子に接続され、上述した反転F信号を受ける。
【0144】
正側の放電スイッチMsdpは、正側の充電スイッチMscpがオンからオフに遷移した後、上記F信号がハイレベルの期間、オンする。正側の放電スイッチMsdpがオンすることにより、差動増幅回路200の正側の出力端子に充電されすぎた電荷を放電することができる。負側の放電スイッチMsdmは、負側の充電スイッチMscmがオンからオフに遷移した後、上記反転F信号がローレベルな期間、オンする。負側の放電スイッチMsdmがオンすることにより、差動増幅回路200の負側の出力端子に充電されすぎた電荷を放電することができる。
【0145】
図17は、実施の形態3に係る差動増幅回路200の出力電圧の一例を示す図である。図17(a)は、差動増幅回路200を構成する正側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧Voutpの一例を示し、図17(b)は、負側のコンパレータ型増幅回路の出力電圧Voutmの一例を示す。
【0146】
図17(a)において、正側の充電期間T1pは正側の充電スイッチMscpがオンしている期間を示し、正側の放電期間T2pは正側の放電スイッチMsdpがオンしている期間を示す。正側の過充電期間T3pは正側のコンパレータCPpの遅延に起因する、理想値到達後の過充電期間を示す。この過充電期間により正側の出力電圧Voutpに正側のオフセット電圧Vofspが加わる。これに対して、正側の放電スイッチMsdpをオンすることにより、正側の追加定電流源Misp2を用いて正側の出力端子から電荷を放電することにより、当該正側のオフセット電圧Vofspを補償する。
【0147】
なお、正側の放電期間T2pと正側の過充電期間T3pが同じであり、かつ正側の定電流源Mispと正側の追加定電流源Misp2の電流値が同じであれば、当該正側のオフセット電圧Vofspを完全に補償することができる。また、正側のコンパレータCPpの遅延時間と、正側の充電スイッチMscpがオンする時間とを異なる設計にすることも可能である。たとえば、正側の定電流源Mispの電流駆動能力を、正側の追加定電流源Misp2の電流駆動能力の半分に設定すれば、正側の充電スイッチMscpがオンする時間は、正側のコンパレータCPpの遅延時間の半分でよい。
【0148】
図17(b)において、負側の充電期間T1mは負側の充電スイッチMscmがオンしている期間を示し、負側の放電期間T2mは負側の放電スイッチMsdmがオンしている期間を示す。負側の過充電期間T3mは負側のコンパレータCPmの遅延に起因して発生する、理想値到達後の過充電期間を示す。この過充電期間により負側の出力電圧Voutmに負側のオフセット電圧Vofsmが加わる。これに対して、負側の放電スイッチMsdmをオンすることにより、負側の追加定電流源Misp2を用いて負側の出力端子から電荷を放電することにより、当該負側のオフセット電圧Vofsmを補償する。
【0149】
以上説明したように実施の形態3によれば、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。また、ダミー遅延回路を用いることにより、プロセス、電源電圧および温度など、環境条件によって動的に変化するオフセット成分を、適応的に補償することができる。
【0150】
図18は、実施の形態3の変形例に係るスイッチトキャパシタ回路300に含まれる、差動増幅回路200の内部構成の一例を示す図である。図18に示す差動増幅回路200の内部構成回路は、図16に示した差動増幅回路200の内部構成回路における、正側の定電流源Mispと負側の追加定電流源Mism2が共有され、負側の定電流源Mismと正側の追加定電流源Misp2が共有された構成である。
【0151】
すなわち、正側の定電流源Mispを構成するPチャンネルトランジスタのドレイン端子は、正側の充電スイッチMscpを構成するPチャンネルトランジスタのソース端子および負側の放電スイッチMsdmを構成するPチャンネルトランジスタのソース端子の両方に接続される。
【0152】
また、負側の定電流源Mismを構成するNチャンネルトランジスタのドレイン端子は、負側の充電スイッチMscmを構成するNチャンネルトランジスタのソース端子および正側の放電スイッチMsdpを構成するNチャンネルトランジスタのソース端子の両方に接続される。
【0153】
以上説明したように実施の形態3の変形例によっても、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。また、ダミー遅延回路を用いることにより、プロセス、電源電圧および温度など、環境条件によって動的に変化するオフセット成分を、適応的に補償することができる。さらに、実施の形態3の基本例に示した差動増幅回路200の内部構成回路と比較し、定電流源の数を削減することができ、回路規模を削減することができる。
【0154】
つぎに、実施の形態1から実施の形態3のいずれかに係るスイッチトキャパシタ回路300を、アナログデジタル変換器に適用する例を説明する。とくに、入力アナログ信号を、上位ビットから下位ビットに向けて複数回の変換処理により、デジタル信号に変換するアナログデジタル変換器に適用する例を説明する。そのようなアナログデジタル変換器の例として、パイプライン型アナログデジタル変換器500aとサイクリック型アナログデジタル変換器の例を挙げる。
【0155】
図19は、適用例1に係るパイプライン型アナログデジタル変換器500aの構成を示す図である。このパイプライン型アナログデジタル変換器500aは4つのステージを備え、第1ステージ10は4ビット変換し、第2ステージ20、第3ステージ30および第4ステージ40は、冗長1ビットを除き、2ビットずつ変換する。したがって、当該パイプライン型アナログデジタル変換器500aは合計10ビット変換する。なお、これらのステージ数やビット数は一例であり、これに限るものではない。
【0156】
第1ステージ10は、第1サブAD変換回路12、第1DA変換回路14、第1減算回路16および第1増幅回路18を備える。第1サブAD変換回路12および第1増幅回路18は、実質的に同じタイミングで入力アナログ信号Vinをサンプリングする。
【0157】
第1サブAD変換回路12は、フラッシュ型で構成される。上述したようにその分解能は4ビットである。第1サブAD変換回路12は、サンプリングした信号のうち、上位4ビットに相当する成分をデジタル値に変換し、第1DA変換回路14および図示しないデジタル信号処理部に出力する。第1DA変換回路14は、サブAD変換回路12により変換されたデジタル値をアナログ値に変換する。このアナログ信号は、第1サブAD変換回路12による変換対象とされたアナログ信号から除去すべき信号となる。
【0158】
第1減算回路16は、第1増幅回路18によりサンプリングされた入力アナログ信号Vinから、第1DA変換回路14により変換されたアナログ信号を減算する。第1増幅回路18は、前者から後者が除かれた残差信号を所定の増幅率で増幅し、第2ステージ20に出力する。ここでは、4倍に増幅する。その増幅された残差信号は、第2ステージ20の変換対象となる。
【0159】
第2ステージ20は、第2サブAD変換回路22、第2DA変換回路24、第2減算回路26および第2増幅回路28を備える。第2サブAD変換回路22および第2増幅回路28は、実質的に同じタイミングで、第1ステージ10からの残差信号をサンプリングする。
【0160】
第2サブAD変換回路22は、フラッシュ型で構成される。上述したようにその分解能は冗長1ビットを含めると3ビットである。第2サブAD変換回路22は、サンプリングした信号のうち、上位から5ビット目および6ビット目に相当する成分をデジタル値に変換し、冗長1ビットを加えて、第2DA変換回路24および図示しない上記デジタル信号処理部に出力する。第2DA変換回路24は、第2サブAD変換回路22の出力デジタル値をアナログ値に変換する。
【0161】
第2減算回路26は、第2増幅回路28によりサンプリングされた第1ステージ10からの残差信号から、第2DA変換回路24により変換されたアナログ信号を減算する。第2増幅回路28は、前者から後者が除かれた残差信号を所定の増幅率で増幅し、第2ステージ20に出力する。ここでは、4倍に増幅する。
【0162】
第3ステージ30は、第3サブAD変換回路32、第3DA変換回路34、第3減算回路36および第3増幅回路38を備える。第3ステージ30は、上位から7ビット目および8ビット目に相当する成分をデジタル値に変換する。第3ステージ30は第2ステージ20と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0163】
第4ステージ40は、第4サブAD変換回路42を備える。第4サブAD変換回路42は、第3ステージ30から入力された残差信号をデジタル値に変換する。すなわち、上位から9ビット目および10ビット目に相当する成分をデジタル値に変換する。
【0164】
図示しない上記デジタル信号処理部は、全ステージ、すなわち第1ステージ10、第2ステージ20、第3ステージ30および第4ステージ40の出力デジタル値を受け、冗長ビットを分離して、10ビットのデジタル値に組み立てる。また、各ステージから出力された温度計コードのデジタル値をバイナリコードのデジタル値に変換する。
【0165】
ここで、第1DA変換回路14、第1減算回路16および第1増幅回路18を組み合わせた回路ブロックは、実施の形態1から実施の形態3のいずれかに係るスイッチトキャパシタ回路300により構成可能である。すなわち、第1DA変換回路14および第1減算回路16の機能を容量アレイ回路100が担い、第1増幅回路18の機能を差動増幅回路200が担うことが可能である。なお、第2DA変換回路24、第2減算回路26および第2増幅回路28を組み合わせた回路ブロック、ならびに第3DA変換回路34、第3減算回路36および第3増幅回路38を組み合わせた回路ブロックについても、実施の形態1から実施の形態3のいずれかに係るスイッチトキャパシタ回路300により構成可能である。
【0166】
図20は、図19に示したパイプライン型アナログデジタル変換器500aの動作例を示すタイミングチャートである。第1サブAD変換回路12、第1増幅回路18、第2サブAD変換回路22、第2増幅回路28、第3サブAD変換回路32、第3増幅回路38、および第4サブAD変換回路42は、それぞれ、オートゼロ期間の終了時点をサンプリングポイント(図20では黒丸で描写)とする。
【0167】
図20のタイミングチャートでは、第1サブAD変換回路12および第1増幅回路18は、クロック信号CLKの2周期に1回、入力アナログ信号Vinをサンプリングする。クロック信号CLKの奇数周期のローレベル期間、第1サブAD変換回路12および第1増幅回路18は、オートゼロ状態であり、そのローレベルからハイレベルへの立ち上がりエッジタイミングで、入力アナログ信号Vinをサンプリングする。
【0168】
続く、クロック信号CLKの奇数周期のハイレベル期間、第1サブAD変換回路12は、サンプリングした入力アナログ信号Vinを所定ビット数(ここでは、4ビット)のデジタル値に変換する。第1増幅回路18は、サンプリングした入力アナログ信号Vinをそのまま保持する。
【0169】
続く、クロック信号CLKの偶数周期のローレベル期間、第1DA変換回路14は、第1サブAD変換回路12により変換されたデジタル値をアナログ信号に変換し、第1増幅回路18は、サンプリングした入力アナログ信号Vinから、第1DA変換回路14により変換されたデジタル値を減算増幅する。上述した、入力容量Csにリファレンス電圧Vrefが入力され、差動増幅回路200が増幅している状態に対応する。
【0170】
また、このクロック信号CLKの偶数周期のローレベル期間、第2サブAD変換回路22および第2増幅回路28は、オートゼロ状態であり、そのローレベルからハイレベルへの立ち上がりエッジタイミングで、第1増幅回路18の出力アナログ信号をサンプリングする。
【0171】
続く、クロック信号CLKの偶数周期のハイレベル期間、第2サブAD変換回路22は、サンプリングした第1増幅回路18からのアナログ信号を所定ビット数(ここでは、2ビット)のデジタル値に変換する。第2増幅回路28は、サンプリングした第1増幅回路18からのアナログ信号をそのまま保持する。
【0172】
続く、クロック信号CLKの偶数周期のローレベル期間、第2DA変換回路24は、第2サブAD変換回路22により変換されたデジタル値をアナログ信号に変換し、第2増幅回路28は、サンプリングした第1増幅回路18からのアナログ信号から、第2DA変換回路24により変換されたデジタル値を減算増幅する。
【0173】
また、このクロック信号CLKの偶数周期のローレベル期間、第3サブAD変換回路32および第3増幅回路38は、オートゼロ状態であり、そのローレベルからハイレベルへの立ち上がりエッジタイミングで、第2増幅回路28の出力アナログ信号をサンプリングする。
【0174】
続く、クロック信号CLKの偶数周期のハイレベル期間、第3サブAD変換回路32は、サンプリングした第2増幅回路28からのアナログ信号を所定ビット数(ここでは、2ビット)のデジタル値に変換する。第3増幅回路38は、サンプリングした第2増幅回路28からのアナログ信号をそのまま保持する。
【0175】
続く、クロック信号CLKの奇数周期のローレベル期間、第3DA変換回路34は、第3サブAD変換回路32により変換されたデジタル値をアナログ信号に変換し、第3増幅回路38は、サンプリングした第2増幅回路28からのアナログ信号から、第3DA変換回路34により変換されたデジタル値を減算増幅する。
【0176】
また、このクロック信号CLKの奇数周期のローレベル期間、第4サブAD変換回路42は、オートゼロ状態であり、そのローレベルからハイレベルへの立ち上がりエッジタイミングで、第3増幅回路38の出力アナログ信号をサンプリングする。
【0177】
続く、クロック信号CLKの奇数周期のハイレベル期間、第4サブAD変換回路42は、サンプリングした第3増幅回路38からのアナログ信号を所定ビット数(ここでは、2ビット)のデジタル値に変換する。
【0178】
以上の処理が、クロック信号CLKの2周期分ずれて、同時並行して実行される。図20のタイミングチャートでは、2系統の処理が同時並行して実行されている。
【0179】
以上説明したように適用例1によれば、パイプライン型アナログデジタル変換器500a内においてコンパレータ型増幅回路を使用した場合に、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができ、高精度なアナログデジタル変換が可能となる。
【0180】
図21は、適用例2に係るサイクリック型アナログデジタル変換器500bの構成を示す図である。このサイクリック型アナログデジタル変換器500bは2つのステージを備え、第1ステージ10は4ビット変換し、第2ステージ20は、冗長1ビットを除き2ビット変換する。第2ステージ20は、第1ステージ10からの残差信号を3回に分けて変換し、合計6ビット変換する。したがって、当該サイクリック型アナログデジタル変換器500bは、第1ステージ10で4ビットおよび第2ステージ20で6ビット変換し、合計10ビット変換する。なお、これらのステージ数やビット数は一例であり、これに限るものではない。
【0181】
第1ステージ10の構成は、適用例1と同様であるため、説明を省略する。第2ステージ20は、第2−1増幅回路21、第2サブAD変換回路22、第2DA変換回路24、第2減算回路26、および第2−2増幅回路28を備える。第2−1増幅回路21および第2サブAD変換回路22は、第1ステージ10からの残差信号または第2ステージ20の出力から帰還される残差信号を、実質的に同じタイミングでサンプリングする。
【0182】
第2−1増幅回路21は、サンプリングした残差信号を所定の増幅率で増幅する。図21では2倍に増幅する。第2サブAD変換回路22は、フラッシュ型で構成される。上述したようにその分解能は冗長1ビットを含めると3ビットである。第2サブAD変換回路22は、サンプリングした信号のうち、上位から5ビット目および6ビット目(1回目)、上位から7ビット目および8ビット目(2回目)、または上位から9ビット目および10ビット目(3回目)に相当する成分をデジタル値に変換し、冗長1ビットを加えて、第2DA変換回路24および図示しないデジタル信号処理部に出力する。第2DA変換回路24は、第2サブAD変換回路22の出力デジタル値をアナログ値に変換する。
【0183】
第2減算回路26は、第2−1増幅回路21により増幅された、第1ステージ10からの残差信号または第2ステージ20の出力から帰還された残差信号から、第2DA変換回路24により変換されたアナログ信号を減算する。第2−1増幅回路28は、前者から後者が除かれた残差信号を所定の増幅率で増幅し、第2ステージ20に出力する。ここでは、2倍に増幅し、第2ステージ20の入力に帰還する。
【0184】
なお、本適用例では、第2−1増幅回路21が、サンプリングした信号を2倍に増幅しているため、第2サブAD変換回路22および第2DA変換回路24の経路中で、第2DA変換回路24から出力される信号も2倍に増幅する必要がある。なお、第2−1増幅回路21の増幅率を1倍、および第2−2増幅回路28の増幅率を4倍に設定すれば、第2DA変換回路24から出力される信号をそのまま使用することができる。
【0185】
第1ステージ10と第2ステージ20との間に、第1スイッチSW10および第2スイッチSW20が設けられる。第1スイッチSW10および第2スイッチSW20は、相補的にオンオフする。
【0186】
第1スイッチSW10がオン、第2スイッチSW20がオフ状態で、第2−1増幅回路21および第2サブAD変換回路22に、第1ステージ10からの残差信号が入力される。一方、第1スイッチSW10がオフ状態、第2スイッチSW20がオン状態で、第2−1増幅回路21および第2サブAD変換回路22に、第2ステージ20の出力から帰還される残差信号が入力される。
【0187】
ここで、第1DA変換回路14、第1減算回路16および第1増幅回路18を組み合わせた回路ブロック、および第2DA変換回路24、第2減算回路26および第2−2増幅回路28を組み合わせた回路ブロックは、それぞれ、実施の形態1から実施の形態3のいずれかに係るスイッチトキャパシタ回路300により構成可能である。
【0188】
以上説明したように適用例2によれば、適用例1に係るパイプライン型アナログデジタル変換器500aと同様に、サイクリック型アナログデジタル変換器500b内においてコンパレータ型増幅回路を使用した場合に、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができ、高精度なアナログデジタル変換が可能となる。
【0189】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0190】
図22は、実施の形態2の変形例2に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。この変形例に係るスイッチトキャパシタ回路300は、図10に示したスイッチトキャパシタ回路300に、正側の安定化容量Cexp2、正側の安定化スイッチSWexp3、負側の安定化容量Cexm2、および負側の安定化スイッチSWexp3が追加された構成である。
【0191】
正側の安定化容量Cexp2の一端は、正側の安定化スイッチSWexp3を介して、正側の追加調整容量Cexpと正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1と正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2とのノードに接続される。正側の安定化容量Cexp2の他端は、第1固定電圧源(ここでは、電源電圧)に接続される。
【0192】
負側の安定化容量Cexm2の一端は、負側の安定化スイッチSWexm3を介して、負側の追加調整容量Cexmと負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1と負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2とのノードに接続される。負側の安定化容量Cexm2の他端は、第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)に接続される。
【0193】
当該スイッチトキャパシタ回路300では、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの増幅期間に、正側の安定化スイッチSWexp3および負側の安定化スイッチSWexm3がオンされる。これにより、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmの入力を安定化させることができる。
【0194】
なお、正側の安定化スイッチSWexp3および負側の安定化スイッチSWexm3を設けずに、正側の安定化容量Cexp2および負側の安定化容量Cexm2を上記ノードに直に接続してもよい。また、正側の定電流源CISpと正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2との間に、正側のボルテージフォロワを設けてもよい。同様に、負側の定電流源CISmと負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2との間に、負側のボルテージフォロワを設けてもよい。これによれば、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmの入力をさらに安定化させることができる。
【0195】
図23は、実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成図である。実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300と基本構成は同じである。以下、相違する構成について説明する。
【0196】
正側の追加調整容量Cexpは、正側のコンパレータCPpの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える。負側の追加調整容量Cexmは、負側のコンパレータCPmの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える。
【0197】
実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路300は、実施の形態1に係るスイッチトキャパシタ回路300の構成要素に加えて、正側の定電流源CISp、正側の定電流源スイッチMsip、負側の定電流源CISm、負側の定電流源スイッチMsim、および遅延量検出回路250を備える。
【0198】
正側の定電流源CISpは、正側の追加調整容量Cexpの入力端子に、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2を介して接続され、当該入力端子に定電流を供給する。負側の定電流源CISmは、負側の追加調整容量Cexmの入力端子に、負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2を介して接続され、当該入力端子から定電流を引き抜く。
【0199】
正側の定電流源スイッチMsipは、第1固定電圧源(ここでは、電源電圧)と正側の定電流源CISpとの間に設けられる。負側の定電流源スイッチMsimは、第2固定電圧源(ここでは、グラウンド電圧)と負側の定電流源CISmとの間に設けられる。
【0200】
正側の定電流源スイッチMsipは、Pチャンネルトランジスタで構成される。当該Pチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第1固定電圧源(ここでは電源電圧)に接続され、そのドレイン端子が正側の定電流源CISpに接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述する反転F信号)を受ける。
【0201】
負側の定電流源スイッチMsimは、Nチャンネルトランジスタで構成される。当該Nチャンネルトランジスタは、そのソース端子が第2固定電圧源(ここではグラウンド電圧)に接続され、そのドレイン端子が負側の定電流源CISmに接続され、そのゲート端子が遅延量検出回路250の出力信号(ここでは、後述するF信号)を受ける。
【0202】
遅延量検出回路250は、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延時間を推測するためのダミー遅延回路51(図11参照)を含む。遅延量検出回路250は、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの近傍に配置される。
【0203】
図24は、実施の形態2の変形例3に係るスイッチトキャパシタ回路300の動作を示すタイミングチャートである。図24のタイミングチャートは、図3および図6のタイミングチャートと異なり、オートゼロ期間と増幅期間との間にインターバル期間を設けている。なお、正側の調整容量Cxpおよび負側の調整容量Cxmについては、実施の形態2の変形例3では注目しないため無視して考える。
【0204】
正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmのオートゼロ期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)に、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)に、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpに正側の第1追加調整電圧Vexp1が入力され、負側の追加調整容量Cexmに負側の第1追加調整電圧Vexm1が入力される。ここで、正側の第1追加調整電圧Vexp1は、正側の定電流源CISpが飽和領域で動作しやすいよう、低電圧(たとえば、グラウンド電圧)に設定することが好ましい。また、負側の第1追加調整電圧Vexm1は、負側の定電流源CISmが飽和領域で動作しやすいよう、高電圧(たとえば、電源電圧)に設定することが好ましい。
【0205】
当該オートゼロ期間終了時点の、正側の入力アナログ信号Vinpおよび負側の入力アナログ信号Vinmがサンプリング値となる。当該オートゼロ期間に後続するインターバル期間では、そのサンプリング値が、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)に保持される。
【0206】
当該オートゼロ期間終了時点で、正側の第1追加調整電圧スイッチSWexp1および負側の第1追加調整電圧スイッチSWexm1はオフに、正側の第2追加調整電圧スイッチSWexp2および負側の第2追加調整電圧スイッチSWexm2はオンに制御される。
【0207】
当該オートゼロ期間に後続するインターバル期間において、F信号が有意(ここでは、ハイレベル)の期間、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオンする。F信号が非有意(ここでは、ローレベル)に遷移すると、正側の定電流源スイッチMsipおよび負側の定電流源スイッチMsimがオフする。
【0208】
これにより、正側の追加調整容量Cexpの入力端子、および負側の追加調整容量Cexmの入力端子を、正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの遅延に起因して発生するオフセット成分に対応する電圧に設定することができる。図24において、太線枠で囲われている期間が、正側の追加調整容量Cexpの入力端子、および負側の追加調整容量Cexmの入力端子に、正側の定電流源CISpおよび負側の定電流源CISmにより電荷が充電されている期間を示している。
【0209】
正側のコンパレータCPpおよび負側のコンパレータCPmの増幅期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)および負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)のそれぞれに、高電位側基準電圧VRTまたは低電位側基準電圧VRBのいずれかが入力される。また、正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmには、上記インターバル期間に設定された、それぞれの入力端子電圧が入力される。
【0210】
当該増幅期間に後続するインターバル期間では、正側の入力容量(Cs1p、Cs2p、・・・)に、正側の入力アナログ信号Vinpが入力され、負側の入力容量(Cs1m、Cs2m、・・・)に、負側の入力アナログ信号Vinmが入力される。正側の追加調整容量Cexpおよび負側の追加調整容量Cexmには何も入力されない。
【0211】
以上説明したよう実施の形態2の変形例3によっても、コンパレータの遅延に起因して発生するオフセット成分の影響を低減することができる。
【0212】
また、実施の形態2において、定電流源CISおよび定電流源スイッチMsiを設けずに、遅延量検出回路250が、コンパレータCPの遅延に起因するオフセット電圧を補償するための、第2調整電圧Vexp2を演算し、コンパレータCPの増幅期間に、その第2調整電圧Vexp2を追加調整容量Cexに入力してもよい。
【符号の説明】
【0213】
Csp 正側の入力容量、 Cxp 正側の調整容量、 Cexp 正側の追加調整容量、 Csm 負側の入力容量、 Cxm 負側の調整容量、 Cexm 負側の追加調整容量、 Cfp 正側の帰還容量、 Cfm 負側の帰還容量、 CPp 正側のコンパレータ、 CPm 負側のコンパレータ、 ISp 正側の電流源、 ISm 負側の電流源、 CISp 正側の定電流源、 CISm 負側の定電流源、 Msip 正側の定電流源スイッチ、 Msim 負側の定電流源スイッチ、 51 ダミー遅延回路、 100 容量アレイ回路、 200 差動増幅回路、 250 遅延量検出回路、 300 スイッチトキャパシタ回路、 500a パイプライン型アナログデジタル変換器、 500b サイクリック型アナログデジタル変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力信号を受け、それらを合成して一つの出力信号を生成して出力する容量アレイ回路と、
前記容量アレイ回路の出力信号を受けるコンパレータと、
所定の固定電圧源と当該スイッチトキャパシタ回路の出力端子との間に設けられ、前記コンパレータの出力信号が変化するまで、電流を当該出力端子に供給する電流源と、を備え、
前記容量アレイ回路は、
前記複数の入力信号をそれぞれ並列に受ける複数の入力容量と、
前記コンパレータの遅延に起因するオフセット成分を補償するための電荷を蓄える調整容量と、を含み、
前記複数の入力容量および前記調整容量のそれぞれの出力端子が一つに結合されていることを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項2】
前記調整容量の入力端子に接続された定電流源と、
所定の固定電圧源と前記定電流源との間に設けられたスイッチと、をさらに備え、
前記コンパレータのオートゼロ期間に、前記複数の入力容量の入力端子に前記入力信号が入力され、かつ前記調整容量の入力端子に、調整電圧と前記定電流源から供給される電流にもとづく電圧とが順に入力され、
前記コンパレータの増幅期間に、前記入力容量の入力端子に所定のリファレンス電圧が入力され、かつ前記調整容量の入力端子に前記調整電圧が入力され、
前記コンパレータのオートゼロ期間の一部の期間に、前記スイッチが前記コンパレータの遅延に対応する時間、オンすることにより、前記定電流源から前記調整容量の入力端子に電流が供給されることを特徴とする請求項1に記載のスイッチトキャパシタ回路。
【請求項3】
前記コンパレータの遅延時間を推測するためのダミー遅延回路を含む遅延量検出回路をさらに備え、
前記遅延量検出回路は、前記ダミー遅延回路により推測された遅延時間にもとづいて、前記スイッチがオンする時間を決定することを特徴とする請求項2に記載のスイッチトキャパシタ回路。
【請求項4】
入力アナログ信号を、上位ビットから下位ビットに向けて複数回の変換処理により、デジタル信号に変換するアナログデジタル変換器であって、
第1アナログ信号を所定ビット数のデジタル信号に変換するサブAD変換回路と、
前記サブAD変換回路により変換されたデジタル信号を第2アナログ信号に変換するDA変換回路と、
前記第1アナログ信号または所定の増幅率で増幅された後の前記第1アナログ信号から、前記第2アナログ信号を減算する減算回路と、
前記減算回路により減算された、前記第1アナログ信号と前記第2アナログ信号との差分信号を増幅し、つぎの変換処理の対象とすべきアナログ残差信号を生成する増幅回路と、を備え、
前記DA変換回路、前記減算回路、および前記増幅回路が、請求項1から3のいずれかに記載のスイッチトキャパシタ回路により構成されることを特徴とするアナログデジタル変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−15057(P2011−15057A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155919(P2009−155919)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】