説明

スクライブ装置

【課題】脆性材料基板を繰り返しスクライブしても、良好にスクライブラインを形成することができるスクライブ装置を提供する。
【解決手段】調節部70は、スクライビングホイール50の温度を低下させる。調節部70は、主として、近接板71と、ノズル72と、冷却部78と、を有している。近接板71は、ホルダ35により保持されたスクライビングホイール50の上方に設けられている。スクライビングホイール50によりスクライブラインSLが形成される際、近接板71は、脆性材料基板4と近接する。複数のノズル72は、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4と、近接板71との間の調節空間70aに、窒素ガスを吐出する。冷却部78は、ノズル72に供給される窒素ガスを、共通管75内で冷却する。これにより、調節空間70aの雰囲気が窒素ガスにより冷却され、スクライブ時のスクライビングホイールが十分冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カッターホイールチップによって、ガラス基板の表面にスクライブラインを刻む技術が、知られている。また、スクライブ時に生じた切り粉を、圧縮空気により吹き飛ばす技術も、知られている(いずれも、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−247667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の技術において、ガラス基板にスクライブラインが形成される場合、カッターホイールチップは、ガラス基板に対して所定の圧力で押し当てられる。これにより、スクライブラインの形成時、カッターホイールチップとガラス基板の間には摩擦による発熱が生じる。
【0005】
そのため、この発熱に起因してカッターホイールチップが酸化されることにより、場合によっては、カッターホイールチップが劣化したり、スクライブ性能が低下したりする。その結果、場合によっては、工具寿命が短くなるという問題が生ずる。
【0006】
そこで、本発明では、脆性材料基板を繰り返しスクライブしても、良好にスクライブラインを形成することができるスクライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライブ装置であって、スクライビングホイールと、前記スクライビングホイールを保持するホルダと、基板を保持しつつ移動させる保持ユニットと、前記スクライビングホイールの温度を低下させる調節部と、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記調節部に前記スクライビングホイールを冷却させる制御ユニットとを備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のスクライブ装置において、前記調節部は、前記ホルダにより保持された前記スクライビングホイールの上方に設けられており、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記脆性材料基板と近接する近接板と、前記保持ユニットに保持された前記基板と前記近接板との間の調節空間に、冷却ガスを吐出する第1ノズルとを有し、前記制御ユニットは、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記第1ノズルによって、前記冷却ガスを前記調節空間に吐出させることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1に記載のスクライブ装置において、前記調節部は、前記ホルダに保持された前記スクライビングホイールに向けて、冷却ガスを吐出する第2ノズル、を有し、前記制御ユニットは、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記第2ノズルによって、前記スクライビングホイールに向けて前記冷却ガスを吐出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、脆性材料基板にスクライブラインが形成される際に、スクライビングホイールを冷却することができる。これにより、スクライブ時の発熱の影響によりスクライビングホイールが酸化されることを防止でき、スクライビングホイールの寿命を延ばすことができる。
【0011】
特に、請求項2に記載の発明によれば、スクライブラインが形成される際に、調節空間の雰囲気は、冷却ガスにより冷却される。これにより、スクライブ時において、スクライビングホイールが十分冷却され、スクライビングホイールをさらに長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1および第2の実施の形態におけるスクライブ装置の全体構成の一例を示す正面図である。
【図2】本発明の第1および第2の実施の形態におけるスクライブ装置の全体構成の一例を示す側面図である。
【図3】第1の実施の形態における調節部の構成の一例を示す正面図である。
【図4】スクライビングホイールの構成の一例を示す下面図である。
【図5】キャスター効果を説明するための下面図である。
【図6】第2の実施の形態における調節部の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
<1.第1の実施の形態>
<1.1.スクライブ装置の構成>
図1および図2は、それぞれスクライブ装置1の全体構成の一例を示す正面図および側面図である。図3は、調節部70の構成の一例を示す正面図である。図4は、スクライビングホイール50の構成の一例を示す下面図である。図5は、キャスター効果を説明するための下面図である。
【0015】
スクライブ装置1は、例えばガラス基板またはセラミックス基板等のように、脆性材料で形成された基板(以下、単に、「脆性材料基板」とも呼ぶ)4の表面に、スクライブライン(切りすじ:縦割れ)を入れる装置である。
【0016】
図1および図2に示すように、スクライブ装置1は、主として、保持ユニット10と、スクライブユニット20と、撮像部ユニット60と、調節部70と、制御ユニット90と、を備えている。なお、図1および以降の各図には、それらの方向関係を明確にすべく必要に応じて適宜、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が付されている。
【0017】
ここで、本実施の形態において、
(1)スクライブ装置1により脆性材料基板4の表面にスクライブラインSLを形成することで垂直クラックK(図3など参照)を発生させ(スクライブ工程)、
(2)次に、応力付与により垂直クラックKをさらに伸展させて、脆性材料基板4を切断する(ブレーク工程)、
手法を、「割断」と呼ぶ。
【0018】
一方、スクライブ工程のみによって(すなわち、ブレーク工程を実行することなく)、垂直クラックKを脆性材料基板4のスクライブラインSLが形成された側の主面から逆側の主面まで伸展させ、脆性材料基板4を切断する手法を、「分断」と呼ぶ。
【0019】
また、本実施の形態のスクライブ方法により割断または分断可能な脆性材料基板4の材質の例としては、ガラス、セラミック、シリコン、またはサファイア等が挙げられる。特に近年、通信機器関連の高周波モジュールに用いる基板として、HTCC(High Temperature Co-fired Ceramics)から、比較的加工のしやすいLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)への移行が加速している。そのため、本実施の形態のスクライブ方法は、益々有効に用いられることになる。
【0020】
保持ユニット10は、脆性材料基板4を保持しつつ移動させることによって、脆性材料基板4をスクライブユニット20に対して移動させる。図1に示すように、保持ユニット10は、基部10a上に設けられており、主として、テーブル11と、ボールねじ機構12と、モータ13と、を有している。
【0021】
ここで、基部10aは、例えば略直方体状の石定盤により形成されており、その上面(保持ユニット10と対向する面)は、平坦加工されている。これにより、基部10aの熱膨張を低減でき、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4を良好に移動させることができる。
【0022】
テーブル11は、載置された脆性材料基板4を吸着保持する。また、テーブル11は、保持された脆性材料基板4を、矢印AR1方向(X軸プラスまたはマイナス方向:以下、単に、「進退方向」とも呼ぶ)に進退させるとともに、矢印R1方向(Z軸周りの方向)に回転させる。図1および図2に示すように、テーブル11は、主として、吸着部11aと、回転台11bと、移動台11cと、を有している。
【0023】
吸着部11aは、回転台11bの上側に設けられている。図1および図2に示すように、吸着部11aの上面には、脆性材料基板4が載置可能とされている。また、吸着部11aの上面には、複数の吸着溝(図示省略)が格子状に配置されている。したがって、脆性材料基板4が載置された状態で、各吸着溝内の雰囲気が排気(吸引)されることによって、脆性材料基板4は、吸着部11aに対して吸着される。
【0024】
回転台11bは、吸着部11aの下側に設けられており、Z軸と略平行な回転軸11dを中心に吸着部11aを回転させる。また、移動台11cは、回転台11bの下側に設けられており、進退方向に沿って、吸着部11aおよび回転台11bを移動させる。
【0025】
したがって、テーブル11に吸着保持された脆性材料基板4は、矢印AR1方向に進退させられるとともに、吸着部11aの進退動作にともなって移動する回転軸11dを中心に回転させられる。
【0026】
ボールねじ機構12は、テーブル11の下側に配置されており、テーブル11を矢印AR1方向に進退させる。図1および図2に示すように、ボールねじ機構12は、主として、送りネジ12aと、ナット12bと、を有している。
【0027】
送りネジ12aは、テーブル11の進退方向に沿って延びる棒体である。送りネジ12aの外周面には、螺旋状の溝(図示省略)が設けられている。また、送りネジ12aの一端は支持部14aにより、送りネジ12aの他端は支持部14bにより、それぞれ回転可能に支持されている。さらに、送りネジ12aは、モータ13と連動連結されており、モータ13が回転すると、その回転方向に送りネジ12aが回転する。
【0028】
ナット12bは、送りネジ12aの回転にしたがい、不図示のボールの転がり運動によって、矢印AR1方向に進退する。図1および図2に示すように、ナット12bは、移動台11cの下部に固定されている。
【0029】
したがって、モータ13が駆動させられ、モータ13の回転力が送りネジ12aに伝達されると、ナット12bは、矢印AR1方向に進退する。その結果、ナット12bが固定されているテーブル11は、ナット12bと同様に矢印AR1方向に進退する。
【0030】
一対のガイドレール15、16は、進行方向におけるテーブル11の移動を規制する。図2に示すように、一対のガイドレール15、16は、基部10a上において、矢印AR2方向に所定距離だけ隔てて固定されている。
【0031】
複数(本実施の形態では2つ)の摺動部17(17a、17b)は、ガイドレール15に沿って矢印AR1方向に摺動自在とされている。図1および図2に示すように、各摺動部17(17a、17b)は、移動台11cの下部において、矢印AR1方向に所定距離だけ隔てて固定されている。
【0032】
複数(本実施の形態では2つ:ただし、図示の都合上、摺動部18aのみ記載)の摺動部18は、ガイドレール16に沿って矢印AR1方向に摺動自在とされている。図1および図2に示すように、各摺動部18は、摺動部17(17a、17b)と同様に、移動台11cの下部において、矢印AR1方向に所定距離だけ隔てて固定されている。
【0033】
このように、モータ13の回転力がボールねじ機構12に付与されると、テーブル11は、一対のガイドレール15、16に沿って移動する。これにより、進退方向におけるテーブル11の直進性を確保することができる。
【0034】
スクライブユニット20は、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4に対し、スクライビングホイール50(図3参照)を圧接転動させることによって、脆性材料基板4の表面にスクライブラインSLを形成する。図1および図2に示すように、スクライブユニット20は、主として、スクライビングホイール50を保持するヘッド部30と、駆動部40と、を有している。
【0035】
ヘッド部30は、不図示の昇降・加圧機構によって、保持されたスクライビングホイール50から脆性材料基板4の表面に対し、押圧力(以下、単に、「スクライブ荷重」とも呼ぶ)を付与する。図3に示すように、ヘッド部30は、ホルダ35を有している。
【0036】
ホルダ35は、スクライビングホイール50を回転自在に保持する要素である。図3に示すように、ホルダ35は、主として、ピン36と、支持枠体37と、旋回部38と、を有している。
【0037】
ピン36は、スクライビングホイール50を貫通する貫通孔50aに挿入された状態でスクライビングホイール50に固定された棒体である。ここで、貫通孔50aは、図3および図4に示すように、X軸と略平行な回転軸50bに沿って延びている。
【0038】
支持枠体37は、図3に示すように、貫通孔50aの両開口(両端)を覆うように配置された構造物である。貫通孔50aの両端から突出するピン36は、支持枠体37に対して、回転可能に設置されている。したがって、ピン36に固定されたスクライビングホイール50は、支持枠体37に対して回転自在とされている。
【0039】
旋回部38は、図3に示すように、支持枠体37の上部に設けられており、Z軸と略平行な回転軸38aを中心に支持枠体37を回転させる。図4に示すように、下面から見た旋回部38の回転軸38aの位置と、脆性材料基板4における保持ユニット10の設置位置50cとは、XY平面内においてズレている。
【0040】
そのため、スクライビングホイール50の進行方向が、図5に示すように、矢印AR3(2点鎖線)方向から矢印AR4(実線)方向に変化すると、キャスター効果によりスクライビングホイール50には、回転軸38a周りのトルクが働く。これにより、スクライビングホイール50は矢印R2方向に回動し、スクライビングホイール50の位置は2点鎖線位置から実線位置に変化する。
【0041】
このように、スクライビングホイール50の進行方向が変化して、スクライビングホイール50の姿勢が進行方向に対して角度θ1だけズレた場合であっても、スクライビングホイール50に矢印R2方向のトルクが働く。その結果、スクライビングホイール50の姿勢と、スクライビングホイール50の進行方向が略平行となるように、スクライビングホイール50が旋回する。
【0042】
駆動部40は、スクライビングホイール50が設けられたヘッド部30を、図2の矢印AR2方向(Y軸プラスまたはマイナス方向:以下、単に、「往復方向」とも呼ぶ)に往復させる。図2に示すように、駆動部40は、主として、複数(本実施の形態では2本)の支柱41(41a、41b)と、複数(本実施の形態では2本)のガイドレール42と、モータ43と、を有している。
【0043】
支柱41(41a、41b)は、基部10aから上下方向(Z軸方向)に延びる。図2に示すように、ガイドレール42は、支柱41a、41bの間に挟まれた状態で、これら支柱41a、41bに対して固定される。
【0044】
ガイドレール42は、往復方向におけるヘッド部30の移動を規制する。図2に示すように、ガイドレール42は、上下方向に所定距離だけ隔てて固定されている。
【0045】
モータ43は、不図示の送り機構(例えば、ボールねじ機構)と連動連結されている。これにより、モータ43が回転すると、ヘッド部30は、複数のガイドレール42に沿って矢印AR2方向に往復する。
【0046】
スクライビングホイール50は、ダイヤモンド含有物を成形したものである。ここで、このダイヤモンド含有物の一例としては、焼結ダイヤモンド、多結晶体ダイヤモンド、天然単結晶ダイヤモンド、および合成単結晶ダイヤモンドが挙げられる。
【0047】
撮像部ユニット60は、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4を撮像する。図2に示すように、撮像部ユニット60は、複数(本実施の形態では2台)のカメラ65(65a、65b)を有している。
【0048】
カメラ65(65a、65b)は、図1および図2に示すように、保持ユニット10の上方に配置されている。カメラ65(65a、65b)は、脆性材料基板4上に形成された特徴的な部分(例えば、アライメントマーク(図示省略))の画像を撮像する。そして、カメラ65(65a、65b)により撮像された画像に基づいて、脆性材料基板4の位置および姿勢が求められる。
【0049】
ここで、脆性材料基板4の「位置」とは、絶対座標系における脆性材料基板4上の任意の位置を言うものとする。また、脆性材料基板4の「姿勢」とは、ヘッド部30の往復方向に対する脆性材料基板4の基準線(例えば、脆性材料基板4が角形の場合、4辺のうちの1辺)の傾きを言うものとする。
【0050】
角形の脆性材料基板4が割断または分断される場合、脆性材料基板4の4つのコーナーのうち、隣接する2つのコーナーにはアライメントマークが形成される。各アライメントマークは、対応するカメラ65a、65bで撮像され、これら撮像された画像に基づいて、絶対座標系における各アライメントマークの位置が求められる。そして、これらアライメントマークの位置に基づいて、脆性材料基板4の位置および姿勢が演算される。
【0051】
調節部70は、ホルダ35に保持されたスクライビングホイール50の温度を低下させ、および/または、後述する調節空間70aの雰囲気を調節する(より具体的には、調節空間70aの雰囲気を低酸素状態にする)。なお、調節部70の詳細な構成については、後述する。
【0052】
制御ユニット90は、スクライブ装置1の各要素の動作制御、およびデータ演算を実現する。図1および図2に示すように、制御ユニット90は、主として、ROM91と、RAM92と、CPU93と、を有している。
【0053】
ROM(Read Only Memory)91は、いわゆる不揮発性の記憶部であり、例えば、プログラム91aが格納されている。なお、ROM91としては、読み書き自在の不揮発性メモリであるフラッシュメモリが使用されてもよい。RAM(Random Access Memory)92は、例えば揮発性の記憶部により構成されており、CPU93の演算で使用されるデータが格納できる。
【0054】
CPU(Central Processing Unit)93は、ROM91のプログラム91aに従った制御(保持ユニット10の進退・回転動作、後述するバルブ77の開閉動作、および後述する冷却部78の冷却動作等の制御など)を実行する。
【0055】
<1.2.調節部の構成>
ここでは、図3を参照しつつ、調節部70の構成を説明する。図3に示すように、調節部70は、主として、近接板71と、複数(本実施の形態では2本)のノズル(第1ノズル)72(72a、72b)と、窒素ガス供給源73と、を有している。
【0056】
近接板71は、矩形状(正方形または長方形状)の板体である。近接板71は、ホルダ35により保持されたスクライビングホイール50の上方に設けられている。図3に示すように、ホルダ35の旋回部38は、近接板71の貫通孔71aに挿入されている。
【0057】
そして、スクライビングホイール50によりスクライブラインSLが形成される場合、近接板71は、スクライビングホイール50とともに下降する。その結果、近接板71は、図3に示すように、脆性材料基板4と近接する。
【0058】
ノズル72(72a、72b)は、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4と近接板71との間の空間であって、ホルダ35に保持されたスクライビングホイール50が位置する調節空間70aに、窒素ガスを吐出する。図3に示すように、ノズル72(72a、72b)は、例えばX軸方向における近接板71の端部に取り付けられている。
【0059】
また、図3に示すように、ノズル72aは、分岐管74aおよび共通管75を介して、窒素ガス供給源73と連通接続されている。一方、ノズル72bは、分岐管74bおよび共通管75を介して、窒素ガス供給源73と連通接続されている。したがって、共通管75に設けられたバルブ77が開放されると、調節空間70aには、窒素ガスが吐出される。
【0060】
冷却部78は、共通管75の一部を覆うように設けられた冷却要素である。冷却部78は、ノズル72(72a、72b)に供給される窒素ガスを共通管75内で冷却する。したがって、バルブ77が開放された状態で、冷却部78が駆動されると、調節空間70aには、冷却された窒素ガスが吐出される。
【0061】
<1.3.スクライブ方法>
ここでは、本実施の形態のスクライブ装置1によって、脆性材料基板4上にスクライブラインSLを形成する手法を説明する。
【0062】
本手法において、ヘッド部30のスクライビングホイール50は、不図示の昇降・加圧機構により脆性材料基板4に対して圧接される。また、保持ユニット10のモータ13、および/または、駆動部40のモータ43が、駆動させられ、ヘッド部30が、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4に対して水平面内で相対的に移動させられる。
【0063】
これにより、脆性材料基板4上には、スクライビングホイール50により所望のスクライブラインSLが形成され、該スクライブラインSLの直下に垂直クラックKが発生する。
【0064】
ただし、本実施の形態に係るスクライブ装置1においては、このようにしてスクライビングホイール50によりスクライブラインSLを形成する際、制御ユニット90の作用によりバルブ77を開放させることによって、ノズル72から調節空間70aに対し窒素ガスを吐出させる。
【0065】
これにより、調節空間70aに存在する酸素は窒素ガスと置換され、調節空間70aは、窒素ガスで満たされる。すなわち、本実施の形態に係るスクライブ装置1において、脆性材料基板4のスクライブラインSLの形成は、低酸素状態のもとで行われる。
【0066】
このときさらに、冷却部78が駆動させられると、調節空間70aには冷却された窒素ガスが吐出される。この場合、調節空間70aの雰囲気は、低酸素状態とされつつ冷却される。よって、スクライブラインSLの形成は、低酸素状態下で、かつスクライビングホイール50が十分に冷却された状態で、行われる。
【0067】
なお、スクライブ荷重は、好ましくは、3(N)〜30(N)(さらに好ましくは、5(N)〜20(N))の範囲である。また、脆性材料基板4に対するスクライビングホイール50の移動速度は、通常、50(mm/sec)〜1200(mm/sec)、好ましくは、50(mm/sec)〜300(mm/sec)の範囲である。なお、スクライブ荷重および移動速度の具体的な値は、脆性材料基板4の材質、および/または、厚さ等から適宜設定される。
【0068】
また、割断の場合には、ブレーク装置(図示省略)によって、脆性材料基板4の主面のうち、(1)スクライブラインSLが形成された主面(以下、単に、「形成面」とも呼ぶ)と、(2)形成面と逆側の主面とに対し、応力が付与される。そのため、スクライブ工程において脆性材料基板4に発生した垂直クラックKは、形成面と逆側の面まで成長し、脆性材料基板4が切断される(ブレーク工程)。
【0069】
これに対して、分断の場合には、スクライブ工程によって、深い垂直クラックKが形成される。それゆえ、ブレーク装置(図示省略)は必要とされず、スクライブ工程のみで脆性材料基板4が切断される。
【0070】
<1.4.第1の実施の形態におけるスクライビングホイールの利点>
以上のように、本実施の形態のスクライブ装置1は、スクライビングホイール50によって脆性材料基板4にスクライブラインSLを形成する際に、スクライビングホイール50が存在する調節空間70aに対してノズル72から窒素ガスを吐出させることにより、低酸素状態下でスクライブラインSLを形成することができる。これにより、スクライビングホイール50付近の酸素の影響によりスクライビングホイール50が酸化されることを防止でき、スクライビングホイール50の寿命を延ばすことができる。
【0071】
また、本実施の形態のスクライブ装置1は、ノズル72からの窒素ガスの吐出に際して冷却部78を駆動させることによって、冷却された窒素ガスを調節空間70aに吐出することができる。冷却された窒素ガスが吐出されると、調節空間70aの雰囲気が冷却されるので、結果として、スクライブに用いられるスクライビングホイール50が十分冷却される。これにより、スクライブ時の発熱と、スクライビングホイール50付近の酸素との影響により、スクライビングホイール50が酸化されることを防止でき、スクライビングホイール50の寿命をさらに延ばすことができる。
【0072】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態のスクライブ装置100は、調節部170(図6参照)のハードウェア構成が相違する点を除いて、第1の実施の形態のスクライブ装置1と同様である。そこで、以下では、この相違点を中心に説明する。
【0073】
なお、スクライブ装置100において、スクライブ装置1と同様な構成要素には、同一符号が付されており、この構成要素は、第1の実施の形態で説明済みである。そのため、本実施の形態では、説明を省略する。
【0074】
<2.1.調節部の構成>
図6は、調節部170の構成の一例を示す正面図である。調節部170は、スクライビングホイール50の温調部であり、ホルダ35に保持されたスクライビングホイール50の温度を低下させる。図6に示すように、調節部170は、主として、取付板171と、複数(本実施の形態では2本)のノズル(第2ノズル)172(72a、72b)と、窒素ガス供給源73と、を有している。
【0075】
取付板171は、ホルダ35により保持されたスクライビングホイール50の上方に設けられた板体である。図6に示すように、ホルダ35の旋回部38、取付板171の貫通孔171aに挿入されている。
【0076】
ノズル172(172a、172b)は、ホルダ35に保持されたスクライビングホイール50に対し直接に、冷却された窒素ガスを吐出する。図6に示すように、ノズル172(172a、172b)は、例えばX軸方向における取付板171の端部に取り付けられている。
【0077】
また、図6に示すように、ノズル172aは、分岐管174aおよび共通管75を介して、窒素ガス供給源73と連通接続されている。一方、ノズル172bは、分岐管174bおよび共通管75を介して、窒素ガス供給源73と連通接続されている。ただし、本実施の形態に係るスクライブ装置100の場合、バルブ77の開放は必ず、冷却部78が駆動された状態で行われる。これにより、スクライビングホイール50に対し冷却された窒素ガスが吹き付けられる。
【0078】
<2.2.スクライブ方法>
本実施の形態のスクライブ装置100により脆性材料基板4上にスクライブラインSLを形成する場合も、第1の実施の形態と同様に、スクライビングホイール50が、不図示の昇降・加圧機構により脆性材料基板4に対して圧接された状態で、ヘッド部30が、保持ユニット10に保持された脆性材料基板4に対して水平面内で相対的に移動させられる。
【0079】
ただし、本実施の形態に係るスクライブ装置100においては、スクライビングホイール50によりスクライブラインSLを形成する際、制御ユニット90の作用により冷却部78を駆動させた状態でバルブ77を開放させることによって、ノズル72からスクライビングホイール50に対し冷却された窒素ガスを吐出させる。すなわち、本実施の形態の場合、スクライビングホイール50による脆性材料基板4へのスクライブラインSLの形成は、スクライビングホイール50を冷却しつつ行われる。
【0080】
<2.3.第2の実施の形態におけるスクライビングホイールの利点>
以上のように、本実施の形態のスクライブ装置100は、スクライブラインSLの形成を、スクライビングホイール50を冷却しつつ行うことができる。これにより、スクライブ時の発熱の影響によりスクライビングホイール50が酸化されることを防止でき、スクライビングホイール50の寿命を延ばすことができる。
【0081】
<3.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0082】
(1)第1の実施の形態においては、複数のノズル72の本数が2本であるものとして、第2の実施の形態においては、複数のノズル172の本数が2本であるものとして、それぞれ説明しているが、ノズル72、172の本数は、これらに限定されるものでない。例えば、3本以上であっても良い。
【0083】
また、スクライブラインSLの形成に際して、調節空間70aに十分な量の窒素ガスが供給できる場合には、あるいは、スクライビングホイール50を十分に冷却できる場合には、ノズル72、172の本数は、それぞれ1本であっても良い。
【0084】
(2)また、第1および第2の実施の形態において、ノズル72、172は、窒素ガスを吐出するものとして説明したが、吐出されるガスの種類は、これに限定されない。窒素ガスと同様に反応性の低い希ガス(例えば、ヘリウムおよびアルゴン等)が、ノズル72、172から吐出されても良い。本願では、窒素ガスおよび希ガスを総称して「不活性ガス」とも呼ぶ。
【0085】
ただし、第1および第2の実施の形態では、安価な窒素ガスが用いられている。これにより、加工コストを増加させることなく、スクライビングホイール50の長寿命化を実現することができる。
【0086】
(3)また、第1および第2の実施の形態において、ノズル72、172からは、冷却された窒素ガスが吐出できるものとして説明したが、これに限定されるものでない。スクライブ時における酸化を十分に防止できる場合には、窒素ガス以外の他の気体(例えば、空気)を冷却したものが、ノズル72、172から吐出されても良い。本願では、窒素ガス、および窒素ガス以外の他の気体を冷却したものを総称して「冷却ガス」とも呼ぶ。
【0087】
この場合も、スクライビングホイール50を冷却することができ、スクライブ時の発熱の影響によりスクライビングホイール50が酸化されることを防止できる。これにより、スクライビングホイールの寿命をさらに延ばすことができる。
【0088】
(4)第1および第2の実施の形態において、ノズル72、172はX軸方向における近接板71、171の端部(スクライビングホイール50の側面方向)に取り付けられているが、例えば、Y軸方向の端部(スクライビングホイール50の稜線側の前方や後方)に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1、100 スクライブ装置
4 脆性材料基板
10 保持ユニット
20 スクライブユニット
30 ヘッド部
35 ホルダ
50 スクライビングホイール
60 撮像部ユニット
70、170 調節部
70a 調節空間
71 近接板
72(72a、72b) ノズル
73 窒素ガス供給源
77 バルブ
78 冷却部
90 制御ユニット
171 取付板
172(172a、172b) ノズル
SL スクライブライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライブ装置であって、
(a) スクライビングホイールと、
(b) 前記スクライビングホイールを保持するホルダと、
(c) 基板を保持しつつ移動させる保持ユニットと、
(d) 前記スクライビングホイールの温度を低下させる調節部と、
(e) 前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記調節部に前記スクライビングホイールを冷却させる制御ユニットと、
を備えることを特徴とするスクライブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスクライブ装置において、
前記調節部は、
(d-1) 前記ホルダにより保持された前記スクライビングホイールの上方に設けられており、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記脆性材料基板と近接する近接板と、
(d-2) 前記保持ユニットに保持された前記基板と前記近接板との間の調節空間に、冷却ガスを吐出する第1ノズルと、
を有し、
前記制御ユニットは、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記第1ノズルによって、前記冷却ガスを前記調節空間に吐出させることを特徴とするスクライブ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスクライブ装置において、
前記調節部は、
(d-1) 前記ホルダに保持された前記スクライビングホイールに向けて、冷却ガスを吐出する第2ノズル、
を有し、
前記制御ユニットは、前記スクライビングホイールによりスクライブラインが形成される際に、前記第2ノズルによって、前記スクライビングホイールに向けて前記冷却ガスを吐出させることを特徴とするスクライブ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−10650(P2013−10650A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143252(P2011−143252)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】