説明

スクロール圧縮機

【課題】密閉容器内に設けられた電動機等の構成機器の冷却効果を向上させ、潤滑油の粘度低下を防止する。
【解決手段】電動機32等の機器が収容された下部密閉空間s2に吸入管29から低圧低温の冷媒ガスrを吸入する。該冷媒ガスrで電動機32等の機器を冷却した後、該冷媒ガスrをガス通路72から上部密閉空間s1に導入し、吸入口26から圧縮空間に吸入する。圧縮空間cで冷媒ガスrを圧縮し、加圧された冷媒ガスrは吐出管28から冷媒循環路82に吐出される。旋回スクロール24の背面24cは主フレーム18の平坦面で密閉支持される。旋回スクロール24の鏡板に給油孔68が穿設され、背面24cと平坦面との間に潤滑油を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮又は減圧して熱の授受を行なうヒートポンプサイクル装置に組み込まれるスクロール圧縮機に関し、詳しくは、スクロール圧縮機本体と共に密閉容器内に収容された電動機を含む構成機器の冷却効果を高め、かつ潤滑油の劣化を防止できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、これまで多くの冷凍装置や空調機器に使用されてきている。高効率、低振動が特徴であり、往復動圧縮機と比べて部品点数が少なく、インバータによる可変速に適する回転数―トルク特性をもつなどの長所を有する。
【0003】
特許文献1には、圧縮機、凝縮器、膨脹弁及び蒸発器を備えて冷凍サイクルを構成する冷凍装置において、圧縮機としてスクロール圧縮機を備え、圧縮機の吐出ガス温度及びその上昇率等の運転状態に応じて、圧縮途中の中間圧室に冷媒液を噴射し(所謂「液インジェクション」と称される。)、冷媒液の蒸発潜熱により圧縮ガスから熱を奪い、圧縮機の吐出ガス温度を制御する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、旋回スクロールと固定スクロールとで形成される圧縮空間と、旋回スクロールの背面側密閉空間とを連絡孔で連通させるスクロール圧縮機が開示されている。該連絡孔は、圧縮空間が最大圧力Pmaxと最小圧力Pminとの相乗平均圧力P(=(Pmax×Pmin1/2)となる位置に設けられ、旋回スクロールの背面側密閉空間を該相乗平均圧力Pとすることによって、スクロール圧縮機の軸方向の密封を保持するようにしている。以下、このスクロール圧縮機の構成を図5により説明する。
【0005】
図5において、このスクロール圧縮機100は、固定スクロール102がボルト108によりハウジング106と結合され、固定スクロール102とハウジング106間に、旋回スクロール104が収容されている。固定スクロール102は、鏡板102aと、インボリュート曲線又は近似インボリュート曲線で形成されたラップ102bとからなる。旋回スクロール104は、鏡板104aと、ラップ102bと同一曲線をなすラップ104bとからなる。
【0006】
旋回スクロール104の鏡板104aとハウジング106の対向面との間に、旋回スクロール104の自転を防止するオルダムリング110が取り付けられている。固定スクロール102には、被圧縮流体を吸入する吸入ポート112と、圧縮された流体を吐出する吐出ポート114とが設けられている。図示省略の電動機の出力軸と連結されたクランク軸116は、ハウジング106に装着された軸受118に回転可能に支持されている。クランク軸116の先端面の偏心した位置に凹設された凹部に、軸受120を介して旋回スクロール104の鏡板104aに突設された軸が嵌合している。
【0007】
固定スクロール102と旋回スクロール104とで形成された密閉空間cは、旋回スクロール104の鏡板104aに穿設された、絞り機能を有する連絡孔122を通して、ハウジング106の内部に形成された空間sと連通している。連絡孔122は、密閉空間cの最大ガス圧力Pmax(絶対圧力)と最小ガス圧力Pmin(絶対圧力)との相乗平均圧力P(絶対圧力)(=(Pmax×Pmin1/2)に相当する位置に設けられている。これによって、空間sを相乗平均圧力Pに維持し、この圧力Pで旋回スクロール104を固定スクロール102に押し付けることで、軸方向密封を可能にしている。
【0008】
特許文献3には、密閉容器の内部に、スクロール圧縮機の本体部分(圧縮機構)、及び該本体部分を構成する旋回スクロールを駆動する電動機を含む構成機器を収容したスクロール圧縮機が開示されている。以下、このスクロール圧縮機の本体部分(圧縮機構)の構成を図6により説明する。図6において、このスクロール圧縮機の本体部分200は、図示省略の密閉容器内に収容されている。
【0009】
鏡板202aとラップ202bとからなる旋回スクロール202が設けられ、旋回スクロール202が図示省略の固定スクロールと対面して圧縮空間cを形成する。旋回スクロール202の背面202cには円筒形のボス部202dが一体に設けられ、電動機の出力軸204の上端204aがボス部202dに遊嵌されている。該上端204aは、出力軸204の軸芯に対して偏心しており、出力軸204が回転することによって、旋回スクロール202が公転運動を行なう。
【0010】
このスクロール圧縮機は、密閉容器の外部から吸入管によって圧縮空間cに吸入した冷媒ガスを圧縮空間cで圧縮し、加圧された冷媒ガスを密閉容器内で循環し、電動機を含む構成機器を冷媒ガスで冷却した後、吐出管から密閉容器の外部へ吐出している。
出力軸204には軸方向に給油孔210が穿設されており、高圧の冷媒ガスにより密閉容器の底部に貯留した潤滑油が給油孔210を通して出力軸204の上端204aに達し、ボス部外側空間s1に流れる。
【0011】
旋回スクロール202の背面側には、コンプライアントフレーム206と、ガイドフレーム208とが配設されている。旋回スクロール202の鏡板202aには、圧縮空間cと旋回スクロール202の背面202c側とを連通させる抽気孔212が穿設されている。圧縮空間cから旋回スクロール202に加わるスラスト荷重は、コンプライアントフレーム206のスラスト軸受面206aで支持されている。
【0012】
コンプライアントフレーム206とガイドフレーム208との間には、フレーム空間s2が形成されている。また、コンプライアントフレーム206には、旋回スクロール202の背面202cに開口する抽気孔212の開口212aと、フレーム空間s2とを連通させる連通孔214が穿設されている。
また、コンプライアントフレーム206には、空間s3が設けられ、該空間s3に圧力調整弁216が配設されている。空間s3を介して、ボス部外側空間s1とその外側空間とを連通させる流路218及び220が設けられている。
【0013】
こうして、ボス部外側空間s1に流入した潤滑油を圧力調整弁216で所定圧力に保持すると共に、フレーム空間s2に圧縮空間cの冷媒ガスを導入して、加圧雰囲気を形成さえるようにしている。これら空間s1、s2に生じる反力で、旋回スクロール202に圧縮空間cから加わるスラスト荷重を減殺し、旋回スクロール202の挙動安定性を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−200847号公報
【特許文献2】特開昭55−37520号公報
【特許文献3】特開2000−161254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示された冷媒液のインジェクション方式は、吐出ガスの温度制御に有効な手段であり、圧縮機の安定運転を可能にするが、一方で、圧縮空間に冷媒液を導入するため、圧縮空間の圧力が高くなるという問題がある。圧縮空間の圧力が高くなると、圧縮に要する動力が大きくなる。さらに、高圧受液器と圧縮機間に流量制御弁付きの冷媒回路を設ける必要があると共に、圧縮機から吐出される冷媒ガスの温度を計測する温度センサ等を設ける必要があり、コストアップとなる。
【0016】
特許文献2に開示されたスクロール圧縮機は、旋回スクロール104の背面側に略全面に亘って大きな容積の空間sが形成されているので、空間sに冷媒ガスが多量に流れ込み、圧縮効率が低下する。また、空間sが旋回スクロール104の背面に形成する面積が大きいため、該空間sのガス圧力によって旋回スクロール104を固定スクロール102に押し付ける力が過大となり、摩耗、焼付きが生じやすくなる。また、旋回スクロールと固定スクロール間の摺動面の摩擦力が大きくなり、圧縮機を駆動する動力を余分に消費する。
【0017】
反面、該中間圧の冷媒ガスの圧力が低すぎると、旋回スクロールの挙動が不安定になり、騒音が大きくなると共に、摩耗や損傷が多くなるという問題がある。このように、空間sの容積が大きいので、その圧力調整が容易でない。
【0018】
特許文献3に開示されたスクロール圧縮機では、旋回スクロールの背面側に、潤滑油及び冷媒ガスを導入させるための流路を形成させる必要がある。そのため、圧縮空間から受ける荷重を受けるコンプライアントフレーム及びガイドフレームが複雑な形状とならざるを得ない。また、これらは重量も大きい。従って、スクロール圧縮機の重量が大きくなると共に、高コストとなる。
【0019】
また、圧縮空間から吐出した高圧高温の冷媒ガスで電動機等の機器を冷却するので、冷却効率が悪い。さらに、高圧の冷媒ガスが密閉容器の下部に溜まった潤滑油と接触するので、潤滑油に溶解する冷媒の量が多くなる。これによって、潤滑油が希釈されて粘度が低下し、スクロール圧縮機に組み込まれた滑り軸受等の負荷能力が低下するという問題がある。特に、アンモニア冷媒は、圧縮による温度上昇が大きいので、冷媒液のインジェクションなしでは、電動機の巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化が起こる。
【0020】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、密閉容器内に設けられた電動機等の構成機器の冷却効果を向上させると共に、密閉容器の底部に貯留された潤滑油への冷媒の溶け込みを減少させて、潤滑油の粘度低下を防止し、軸受負荷能力を維持させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
かかる目的を達成するため、本発明のスクロール圧縮機は、
冷媒を圧縮又は減圧して熱の授受を行なうヒートポンプサイクル装置に組み込まれたスクロール圧縮機において、
スクロール圧縮機本体及び電動機を含む構成機器が密閉容器内に収容され、該密閉容器に設けられた低圧冷媒ガスの吸入口と、該吸入口から密閉容器内に吸入された低圧冷媒ガスが密閉容器内を循環するように形成された低圧冷媒ガスの流通路と、固定スクロールの外周側壁に穿設され冷媒ガスを旋回スクロール及び固定スクロールで形成される圧縮空間に吸入する吸入孔と、該圧縮空間で加圧された高圧冷媒ガスを圧縮空間から密閉容器外に吐出する吐出管と、を備えているものである。
【0022】
本発明のスクロール圧縮機では、密閉容器に設けられた吸入口から低圧冷媒ガスを吸入し、この低圧冷媒ガスで電動機等の機器を冷却した後、圧縮空間に吸入させる。そして、圧縮空間で圧縮して高圧にした冷媒ガスを吐出管から密閉容器の外部に送り出すようにしている。このように、吸入口から吸入した低圧低温の冷媒ガスで電動機等の機器を冷却するようにしているため、冷却効果を向上できると共に、密閉容器の底部に貯留された潤滑油への冷媒の溶け込みを減少させて、潤滑油の粘度低下を防止し、軸受負荷能力を維持させることができる。
【0023】
また、低温の冷媒ガスを密閉容器に導入しているので、電動機の巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化を防止できる。従って、密閉容器内の(圧縮空間ではなく)密閉空間に冷媒液を注入し、該冷媒液を蒸発させて熱吸収を行なう冷却手段(以下、この冷却手段を「液インジェクション」という。)を用いる必要がない。
また、密閉容器内が高圧雰囲気とならないため、密閉容器の耐圧強度を低減できると共に、密閉容器の隔壁を簡素化できるため、密閉容器の外部にオイルヒータやオイルクーラを増設するのが容易になる。
【0024】
本発明装置において、密閉容器の内面に固着され、旋回スクロールの鏡板の背面が摺接する平坦面を有し、該平坦面を介して旋回スクロールを旋回可能に支持する主支持フレームと、旋回スクロールの鏡板に穿設されると共に、旋回スクロールの鏡板と主支持フレームとの摺接面に開口し、前記電動機の出力軸に穿設された潤滑油導通孔から供給される潤滑油を該摺接面に供給する給油孔と、を備えるようにするとよい。
【0025】
このように、圧縮空間から旋回スクロールが受けるスラスト荷重を前記主支持フレームで受けるようにしたので、広い支持面でスクロール圧縮機を支持でき、単位面積当りの荷重を低減できると共に、任意の領域に支持面を形成できる。
さらに、旋回スクロールの鏡板と主支持フレームとの摺接面に、前記給油孔から潤滑油を供給するようにしたので、該摺接面の磨耗や焼付きをなくし、旋回スクロールの駆動装置の動力低減を可能とする。また、該摺接面で気密が保持されるため、該摺接面のシール装置が不要になり、低コストとなる。
【0026】
本発明装置において、密閉容器の外部で吐出管に介設されたオイルセパレータと、該オイルセパレータと吸入口とを接続する油戻し管と、該油戻し管に設けられた絞り機構と、を備え、オイルセパレータの潤滑油を該絞り機構を経て密閉容器に戻すように構成するとよい。
本発明では、密閉容器内は低圧雰囲気となっているため、高圧のオイルセパレータとの差圧により潤滑油の戻りが容易になる。そのため、返油のための特別な装置が不要になる。
【0027】
本発明装置において、圧縮空間で形成される冷媒の最大圧力と最小圧力との間の中間圧力を形成する圧縮空間と旋回スクロールの鏡板を介して対面する位置に設けられた中間圧室と、該圧縮空間と中間圧室とを連通させる中間圧取出し孔とを、備え、中間圧力を有する冷媒を該中間圧取出し孔を介して中間圧室に導入するように構成するとよい。
【0028】
該中間圧室を設けたことにより、圧縮空間から旋回スクロールに加わるスラスト荷重を減殺できる。また、中間圧室には吸入圧と吐出圧との間の中間の圧力を有する冷媒ガスが導入されるので、高圧とならず、旋回スクロールの背面側が浮き上がることがない。また、中間圧室は、特許文献2の空間sのように容積を大きくする必要がないので、押し付け力が過大になることはない。
【0029】
これによって、スクロール圧縮機の挙動を安定させ、スクロール圧縮機とその支持機構との間に摩耗や焼付きをなくし、かつスクロール圧縮機を駆動するモータの動力を低減できる。なお、前記中間圧取出し孔に、圧力差で作動する制御弁等を設けるようにすれば、常に最適な中間圧を設定できるようになる。
【0030】
本発明装置において、冷媒が、圧縮による温度上昇が特に大きいアンモニアであり、ヒートポンプサイクル装置が冷凍サイクルを構成した冷凍装置である場合でも、密閉容器内への液インジェクションを行なう必要がなく、かつモータ巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化が起こらない。
【発明の効果】
【0031】
本発明装置によれば、冷媒を圧縮又は減圧して熱の授受を行なうヒートポンプサイクル装置に組み込まれたスクロール圧縮機において、スクロール圧縮機本体及び電動機を含む構成機器が密閉容器内に収容され、該密閉容器に設けられた低圧冷媒ガスの吸入口と、該吸入口から密閉容器内に吸入された冷媒ガスが密閉空間内を循環するように形成された低圧冷媒ガスの流通路と、固定スクロールの外周側壁に穿設され冷媒ガスを旋回スクロール及び固定スクロールで形成される圧縮空間に吸入する吸入孔と、該圧縮空間で加圧された高圧冷媒ガスを圧縮空間から密閉容器外に吐出する吐出管と、を備えているので、電動機等の構成機器の冷却効果を向上できると共に、潤滑油への冷媒の溶け込みを減少させて、潤滑油の粘度低下を防止し、軸受負荷能力を維持させることができる。
【0032】
また、電動機の巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化を防止できると共に、密閉容器に液インジェクションを行なう必要がない。さらに、密閉容器内を高圧雰囲気とする必要がないため、密閉容器の耐圧強度を低減できると共に、密閉容器の隔壁を簡素化できるため、密閉容器の外部にオイルヒータやオイルクーラを増設するのが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明装置の一実施形態に係るスクロール圧縮機の正面視断面図である。
【図2】前記スクロール圧縮機の圧縮機構の拡大断面図である。
【図3】前記圧縮機構の一部拡大断面図である。
【図4】前記スクロール圧縮機が組み込まれた冷凍装置の系統図である。
【図5】従来のスクロール圧縮機の正面視断面図である。
【図6】従来の別な構成を有するスクロール圧縮機の正面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0035】
本発明装置の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1及び図2において、本実施形態のスクロール圧縮機10は、円筒形の胴筒12と、上キャップ14と、下キャップ16とが溶接によって接合されて密閉された圧縮機容器を形成している。胴筒12の上端内面に、水平方向に主フレーム18が固着され、主フレーム18によって圧縮機容器内を上部空間と下部空間とに仕切っている。主フレーム18は、例えば、焼きばめ、圧入、溶接等によって胴筒12に固着される。
【0036】
主フレーム18の平坦な上面に、外側形状がハット形状の固定スクロール20が固設されている。固定スクロール20は、鏡板20aと渦巻き形状のラップ20bとからなる。主フレーム18の上面に、底面が平坦面22aを形成している凹部22が刻設され、該凹部22に旋回スクロール24の鏡板24aが配置されている。旋回スクロール24は、鏡板24aと渦巻き形状のラップ24bとからなる。
【0037】
固定スクロール20と旋回スクロール24のラップ同士が噛み合い、圧縮空間cを形成している。固定スクロール20の外側の側壁に吸入口26が設けられ、上面中央に加圧された冷媒ガスを吐出する吐出管28が一体形成されている。吐出管28は、上キャップ14を貫通し、圧縮機容器の外部に導出されている。胴筒12には、主フレーム18によって仕切られた下部密閉空間s2に連通する冷媒ガスの吸入管29が接続されている。
【0038】
胴筒12の下部内面に環状のサブフレーム30がボルト等で胴筒12に固定され、該サブフレーム30に、旋回スクロール24を駆動する電動機32が取り付けられている。電動機32は、モータステータ36と、モータコイル38と、モータロータ40と、中央に上下方向に配置された出力軸42とから構成されている。モータステータ36はモータフレーム34に焼きばめされ、モータフレーム34はサブフレーム30にボルト等で結合されている。モータフレーム34は胴筒12に接触している必要はない。
【0039】
出力軸42は、主フレーム18に設けられた主軸受44と、サブフレーム30に設けられた下軸受46とで、密閉容器の半径方向及び長手方向に回転自在に支持されている。出力軸42の上部には上バランサ48が、下部には下バランサ50が、夫々出力軸42を挟んで反対方向に取り付けられている。旋回スクロール24は、出力軸42の中心から偏心して回転するので、そのアンバランスを打ち消すため、上バランサ48及び下バランサ50が設けられている。これらバランサは、出力軸42と焼きばめ、圧入、ボルト締め等の方法で結合されている。
【0040】
出力軸42に作用するラジアル荷重の大部分は主軸受44で支持されている。下軸受46で、出力軸42の軸方向の位置決めを行うと共に、残りのラジアル荷重を支持している。出力軸42の下端は下軸受46によって軸方向に固定されている。出力軸42に熱膨脹による歪が生じないようにするため、出力軸42の上部を支持する主軸受44は円筒コロ軸受が用いられ、出力軸42を軸方向に拘束しないようにしている。
【0041】
サブフレーム30の下面には、オイルポンプ52がボルト等で結合され、該オイルポンプ52の下部にオイル吸入管54が上下方向に取り付けられている。圧縮機容器の底部には潤滑油oが貯留され、オイル吸入管50の下端開口が該潤滑油oの液面下に没入している。出力軸42の中心には、軸方向にオイル供給孔56が穿設され、電動機32が作動して、オイルポンプ52が作動する。オイルポンプ52によって、オイル吸入管54が潤滑油oを吸込み、潤滑油oはオイル供給孔56を通して出力軸42の上端まで供給される。
【0042】
出力軸42の上端42aは軸中心に対して偏心しており、この上端42aの外周面に、旋回軸受ブッシュ58を介して、旋回スクロール24の背面24cに一体形成された円筒形状のボス部60が遊嵌されている。背面24cには環状の中間圧室62が設けられ、該中間圧室62には、旋回スクロール24の自転を防止するオルダムリング64が設けられている。
【0043】
出力軸42が回転すると、旋回スクロール24は、オルダムリング64によって自転が抑えられ、公転運動のみを行う。これによって、冷媒ガスrが吸入口26から吸入され、圧縮空間cで圧縮され、高圧となって吐出管28から吐出される。中間圧室62は、冷媒ガスrが吸入圧と吐出圧との間の中間圧となった圧縮空間cと対面した位置に配置されている。旋回スクロール24の鏡板20aには、該圧縮空間cと中間圧室62とを連通する連通孔66が設けられている。
【0044】
また、旋回スクロール24の鏡板20aには、給油孔68が穿設されている。該給油孔68は、出力軸42の上端42a及び主フレーム18の上面22aに対面する位置に複数の開口を有している。旋回スクロール24には、圧縮空間c内に存在する加圧された冷媒ガスrの圧力がスラスト荷重として付加されている。このスラスト荷重は、旋回スクロール24の背面24cを介して主フレーム18の平坦面22aに付加される。該背面24cは平坦面22aに摺接しながら密閉面を形成している。
【0045】
この密閉面に給油孔68を介して潤滑油oを供給することで、旋回スクロール24の動きを円滑にしながら密閉状態を保持している。旋回スクロール24の外周端面に開口した給油孔68の開口部はプラグ70で閉塞されている。サブフレーム30、モータフレーム34及び主フレーム18の一側には、互いに連通したガス通路72が設けられている。このガス通路72によって、主フレーム18によって仕切られた上部密閉空間s1と下部密閉空間s2とが連通している。
【0046】
図3において、旋回スクロール24の背面24cと平坦面22aとは、精密な平坦面に仕上げられており、これらの摺接面でスラスト荷重を受けている。中間圧室62は、吸入圧と吐出圧との中間の圧力を有する圧縮空間cから冷媒ガスが流れ込み、中間圧雰囲気を形成している。この中間圧雰囲気が旋回スクロール24を背面24cから上向きに押し上げ、圧縮空間cから旋回スクロール24に負荷されるスラスト荷重を減殺している。
【0047】
固定スクロール20と旋回スクロール24とは直接接触せず、熱膨脹、冷媒ガス圧による弾性変形、加工上の誤差等によって軸方向隙間aを生じる。この部分から冷媒ガスが漏れないように、ラップ20b及び24b間にチップシール74が設けられ、該チップシール74によって、ラップ20b及び24b間は気密に保持されている。
【0048】
図4は、スクロール圧縮機10が組み込まれた冷凍装置80を示す。図4において、アンモニア等の冷媒ガスが循環する冷媒循環路82に、冷凍サイクルを構成する機器類が組み込まれている。スクロール圧縮機10から吐出された高温高圧の冷媒ガスrは、オイルセパレータ84で潤滑油oを除去し、凝縮器88、受液器90、膨脹弁92、及び蒸発器94の順に回り、スクロール圧縮機10の吸入管29から密閉容器の下部密閉空間s2に吸入される。
【0049】
オイルセパレータ84とスクロール圧縮機10の吸入管29との間は、絞り弁86が設けられた油戻し管85が接続されている。密閉容器内の下部密閉空間s2は低圧であるので、オイルセパレータ84で分離された高圧の潤滑油は、下部密閉空間s2とオイルセパレータ84との圧力差によって、油戻し管85及び吸入管29を通り、下部密閉空間s2に戻される。油戻し管85は絞り弁86を境にして、オイルセパレータ84側が高圧となり、下部密閉空間s2側が低圧となる。
【0050】
かかる構成において、電動機32の出力軸42が回転すると、旋回スクロール24が公転運動を行い、吸入口26から冷媒ガスrを吸入する。圧縮空間cに吸入された冷媒ガスrは、圧縮空間cで圧縮され、高圧となって、吐出管28から冷媒循環路82に吐出される。同時に、スクロール圧縮機10の作動によって、吸入管29から低圧の冷媒ガスrが下部密閉空間s2に吸入される。
【0051】
下部密閉空間s2に吸入された低圧の冷媒ガスrは、電動機32及びその他の構成機器類を冷却し、ガス通路72を通って上部密閉空間s1に達する。上部密閉空間s1に達した冷媒ガスrは、吸入口26から圧縮空間cに吸入される。冷媒ガスrに混入している潤滑油は、この間に分離され、下部のオイル溜りに回収される。
中間圧室62には、吸入圧と吐出圧との中間圧となった圧縮空間cから冷媒ガスrが流入し、中間圧雰囲気を形成する。これによって、圧縮空間cから旋回スクロール24に負荷されるスラスト荷重を減殺している。
【0052】
また、出力軸42の回転によってオイルポンプ52が作動し、オイル溜りに溜まった潤滑油oを出力軸42の上端まで汲み上げる。汲み上げられた潤滑油oは、給油孔68を通り、旋回スクロール24の背面24cと平坦面22a間の摺接面に供給される。該摺接面は旋回スクロール24に作用するスラスト荷重で気密に保持されるが、該摺接面に供給される潤滑油oにより、摩擦力が低減され、摩耗や焼付きを防ぐことができる。
【0053】
本実施形態によれば、このように、吸入管29から吸入した低圧低温の冷媒ガスrで電動機32等の機器を冷却するようにしているため、冷却効果を向上できる。また、下部密閉空間s2を低圧雰囲気としているので、オイル溜りに貯留された潤滑油oへの冷媒ガスrの溶け込みを減少できる。そのため、潤滑油の粘度低下を防止し、軸受負荷能力を維持させることができる。
【0054】
また、低温の冷媒ガスを密閉容器に導入しているので、電動機32の巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化を防止できる。従って、冷媒液を下部密閉空間s2に噴射する液インジェクションを行なう必要がない。
また、密閉容器内を高圧雰囲気とする必要がないため、密閉容器の耐圧強度を低減できると共に、密閉容器の隔壁を簡素化できるため、密閉容器の外部にオイルヒータやオイルクーラを増設するのが容易になる。
【0055】
また、旋回スクロール24が受ける圧縮空間cからのスラスト荷重を主フレーム18で受けるようにしたので、中間圧室62の形成領域を除き、中間圧室62の外側及び内側に形成される広い支持面でスラスト荷重を受けることができる。そのため、単位面積当りの荷重を低減でき、旋回スクロール24を主フレーム18で安定して支持できる。また、中間圧室62の位置を変えることで、任意の領域に支持面を形成できる。
【0056】
また、旋回スクロール24と主フレーム18の摺接面に、給油孔68から潤滑油を供給するようにしたので、該摺接面の摩耗や焼付きをなくし、電動機32の動力低減を可能とする。また、該摺接面で気密が保持されるため、該摺接面のシール装置が不要になり、低コストとなる。
【0057】
また、密閉容器内は低圧雰囲気となっているため、オイルセパレータ84との差圧により潤滑油の戻りが容易になる。そのため、返油のための特別な装置が不要になる。
また、中間圧室62を設け、旋回スクロール24の背面24c側に中間圧を形成したので、圧縮空間cから旋回スクロール24に加わるスラスト荷重を減殺できると共に、旋回スクロール26の主フレーム18からの浮き上がりを防止できる。
【0058】
これによって、スクロール圧縮機10の挙動を安定させ、スクロール圧縮機10とその支持機構との間に摩耗や焼付きをなくし、かつスクロール圧縮機10を駆動する電動機32の動力を低減できる。なお、連通孔66に圧力差で作動する制御弁等を設けるようにすれば、常に最適な中間圧を設定できるようになる。
【0059】
さらに、冷媒が、圧縮による温度上昇が特に大きいアンモニアであっても、密閉容器内への液インジェクションを行なう必要がなく、かつモータ巻き線の焼損や潤滑油の熱劣化が起こらない。
なお、冷媒ガスrとしてCOを用い、ヒートポンプサイクルを形成して給湯を可能にしたヒートポンプサイクル装置に本発明装置を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、密閉容器内に設けられたスクロール圧縮機の冷却効果を高めて、潤滑油の劣化や構成機器の熱損傷を防止できる。
【符号の説明】
【0061】
10 スクロール圧縮機
12 胴筒
14 上キャップ
16 下キャップ
18 主フレーム
20 固定スクロール
22 凹部
22a 平坦面
24 旋回スクロール
26 吸入口
28 吐出管
30 サブフレーム
32 電動機
34 モータフレーム
36 モータステータ
38 モータコイル
40 モータロータ
42 出力軸
42a 上端
44 主軸受
46 下軸受
48 上バランサ
50 下バランサ
52 オイルポンプ
54 オイル吸入管
56 オイル供給孔
58 旋回軸受ブッシュ
60 ボス部
62 中間圧室
64 オルダムリング
66 連通孔
68 給油孔
70 プラグ
72 ガス通路
74 チップシール
80 冷凍装置
82 冷媒循環路
84 オイルセパレータ
85 油戻し管
86 絞り弁
88 凝縮器
90 受液器
92 膨脹弁
94 蒸発器
a 軸方向隙間
c 圧縮空間
o 潤滑油
r 冷媒ガス
s1 上部密閉空間
s2 下部密閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮又は減圧して熱の授受を行なうヒートポンプサイクル装置に組み込まれたスクロール圧縮機において、
スクロール圧縮機本体及び電動機を含む構成機器が密閉容器内に収容され、該密閉容器に設けられた低圧冷媒ガスの吸入口と、該吸入口から密閉容器内に吸入された低圧冷媒ガスが密閉容器内を循環するように形成された低圧冷媒ガスの流通路と、固定スクロールの外周側壁に穿設され冷媒ガスを旋回スクロール及び固定スクロールで形成される圧縮空間に吸入する吸入孔と、該圧縮空間で加圧された高圧冷媒ガスを圧縮空間から密閉容器外に吐出する吐出管と、を備えていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記密閉容器の内面に固着され、旋回スクロールの鏡板の背面が摺接する平坦面を有し、該平坦面を介して旋回スクロールを旋回可能に支持する主支持フレームと、
旋回スクロールの鏡板に穿設されると共に、旋回スクロールの鏡板と主支持フレームとの摺接面に開口し、前記電動機の出力軸に穿設された潤滑油導通孔から供給される潤滑油を該摺接面に供給する給油孔と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記密閉容器の外部で前記吐出管に介設されたオイルセパレータと、該オイルセパレータと前記吸入口とを接続する油戻し管と、該油戻し管に設けられた絞り機構と、を備え、
オイルセパレータの潤滑油を該絞り機構を経て前記密閉容器に戻すように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮空間で形成される冷媒の最大圧力と最小圧力との間の中間圧力を形成する圧縮空間と旋回スクロールの鏡板を介して対面する位置に設けられた中間圧室と、該圧縮空間と中間圧室とを連通させる中間圧取出し孔とを、備え、
中間圧力を有する冷媒を該中間圧取出し孔を介して中間圧室に導入するように構成したことを特徴とする請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記冷媒がアンモニアであり、前記ヒートポンプサイクル装置が冷凍サイクルを構成した冷凍装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−231653(P2011−231653A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101497(P2010−101497)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】