説明

スタイラス、形状測定機及びパートプログラム

【課題】本発明の目的は、ワークに関して複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化を実現することにある。
【解決手段】接触式検出器16の本体18に設けられ、軸方向を中心に回転角度を変更自在に保持される一の支持軸部22と、該支持軸部22の側部より突出し、該支持軸部22より突出する方向が異なる複数の測定用軸部24,26と、該各測定用軸部24,26の先端に設けられ、該各測定用軸部24,26毎に先端形状ないし先端寸法が異なる複数の接触部28,30と、を備え、該支持軸部22の軸方向を中心に該支持軸部22の回転角度が調整されることにより、該複数の接触部28,30の中から測定目的に応じた一の接触部28(30)が選択され、該選択された接触部28(30)のみが該ワーク21に接触され、該ワーク21の形状データの取得に用いられることを特徴とするスタイラス20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスタイラス、形状測定機及びパートプログラム、特にワークに関して複数項目を測定する際の高効率化と高精度化の両立に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばワークの真円度、粗さ等の複数項目の形状測定が行われている。従来は、複数項目をそれぞれ別々の形状測定機で測定していた。例えば従来は、同一の円筒ワークであっても、真円度を測定する際には真円度測定機を用い、粗さを測定する際には粗さ測定機を用いていた。
【0003】
しかしながら、各測定目的毎に専用の形状測定機を用意していたのでは、大変であった。この問題は、測定目的が多くなるにつれ、より深刻となった。
このため、複数項目の形状測定を行う分野では、測定効率化は改善の余地が残されていた。従来は、複数項目を、一の形状測定機で行うことも考えられる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平6−48186号公報(第5−6頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術にあっては、面方向の異なる複数の被測定面の形状測定に対応することができるものの、例えば真円度や粗さ等の複数項目の解析を高精度に行うのに十分な精度の測定結果が得られるものでなかった。
また、従来は、各測定目的毎に満足のゆく測定結果を得るため、各測定目的毎にスタイラスを付け替えることも考えられる。しかしながら、各測定目的毎にスタイラスを付け替えていたのでは、逆に測定効率が大幅に低下するので、本発明の解決手段として採用するに至らなかった。
【0006】
このように複数項目の形状測定を行う分野では、測定効率と測定精度との双方を極めて高いレベルで得ることのできる技術の開発が急務であったが、従来は、これを解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その目的は、ワークに関して複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが前記課題について鋭意検討を重ねた結果、一の支持軸部に対し測定目的に応じて先端形状ないし先端寸法が異なる複数の接触部を設けた一のスタイラスを構成し、該スタイラスを回転させることにより、複数の接触部の中から測定目的に適した一の接触部を選択して、ワークの形状測定に用いることにより、ワークに関して複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化を確実に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)スタイラス
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかるスタイラスは、ワークの被測定面にスタイラス先端を接触させた状態で、該スタイラス先端と該被測定面との接触位置を移動しながら、該被測定面の形状データを得る検出器に用いられ、複数の異なる測定目的のために用いられる一のスタイラスであって、
支持軸部と、複数の測定用軸部と、複数の接触部と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記支持軸部は、前記検出器の本体に保持され、軸方向を中心に回転角度を変更自在なものとする。
前記複数の測定用軸部は、前記支持軸部の側部より突出し、該支持軸部より突出する方向が異なるものとする。
前記複数の接触部は、前記各測定用軸部の先端に設けられ、該各測定用軸部毎に先端形状ないし先端寸法が異なるものとする。
そして、本発明にかかるスタイラスは、前記支持軸部の軸方向を中心に該支持軸部の回転角度が変更されることにより、該複数の接触部の中から測定目的に応じた一の接触部が選択され、該複数の接触部のうち該選択された接触部のみが該被測定面に接触され、該被測定面の形状データの取得に用いられる。
【0009】
ここにいう支持軸部の軸方向とは、支持軸部の中心軸が検出器本体の中心軸と一致する構成の場合は、支持軸部の中心軸をいい、支持軸部の中心軸が検出器本体の中心軸よりずれたところに位置した構成の場合は、支持軸部の中心軸と平行な軸方向をいう。
【0010】
なお、本発明にかかるスタイラスにおいて、前記接触部は、前記測定目的として真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部、及び前記測定目的として粗さを測定するのに適した針状の粗さ用接触部を含むことが好適である。
そして、本発明にかかるスタイラスにおいて、前記ワークの真円度を測定する際は、前記複数の接触部の中から前記真円度用接触部が選択され、該真円度用接触部のみが該被測定面に接触され、該ワークの真円度の測定に用いられるように、該支持軸部の回転角度が調整される。
また、本発明にかかるスタイラスにおいて、前記ワークの粗さを測定する際は、前記複数の接触部の中から前記粗さ用接触部が選択され、該粗さ用接触部のみが該被測定面に接触され、該ワークの粗さの測定に用いられるように、該支持軸部の回転角度が調整されることが好適である。
【0011】
(2)形状測定機
また、前記目的を達成するために本発明にかかる形状測定機は、前記スタイラス及び前記検出器と、検出器回転手段と、回転制御手段と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記検出器回転手段は、前記支持軸部の軸方向を中心に該支持軸部の回転角度が変更自在となるように、前記検出器を回転自在に保持する。
また、前記回転制御手段は、前記複数の接触部の中から、測定目的に応じた所望の接触部が選択され、該所望の接触部のみが該被測定面に接触され、該被測定面の形状データの取得に用いられるように、前記検出器回転手段による前記検出器の回転を制御する。
【0012】
なお、本発明にかかる形状測定機においては、補正値記憶手段と、補正手段と、解析手段と、を備えることが好適である。
ここで、前記検出器からの形状データは、前記ワークの被測定面上を移動する前記接触部の中心の軌跡情報であり、該接触部中心の軌跡情報から該被測定面上の輪郭情報を得るため、該接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値を、該各接触部毎に予め得ている。
また、前記補正値記憶手段は、前記各接触部毎に前記補正値を記憶している。
前記補正手段は、前記検出器からの形状データを、該形状データを得た際に用いた前記接触部に対応する前記補正値で補正し、補正済みデータを得る。
前記解析手段は、前記補正手段により得られた補正済みデータに基づき、前記接触部を選択した際の測定目的に応じたデータ解析を行う。
【0013】
本発明の形状測定機としては、例えば特開2007−155696号公報に記載のものが特に好ましい。
【0014】
(3)パートプログラム
また、前記目的を達成するために本発明にかかるパートプログラムは、前記本発明にかかる形状測定機により、複数の測定工程を、コンピュータに、実行させるためのパートプログラムであって、
前記測定工程は、接触部選択工程と、セット工程と、データ取得工程と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記接触部選択工程は、前記複数の接触部の中から測定目的に応じた一の接触部が選択されるように、前記検出器の回転角度を調整する。
また、前記セット工程は、前記接触部選択工程により選択された接触部のみを前記ワークの被測定面に接触させる。
前記データ取得工程は、前記セット工程の後段に設けられ、前記接触部選択工程により選択された接触部のみを前記ワークの被測定面に接触させた状態で、該接触部と該被測定面との接触位置を移動しながら、該被測定面の形状データを得る。
そして、本発明にかかるパートプログラムにおいては、前記測定目的の異なる複数の、前記測定工程を実行させる。
【0015】
なお、本発明にかかるパートプログラムにおいて、前記複数の測定工程は、真円度測定工程と、粗さ測定工程と、を含むことが好適である。
ここで、前記真円度測定工程では、前記スタイラスの複数接触部のうち、前記ワークの真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部が選択される。
また、前記粗さ測定工程では、前記スタイラスの複数接触部のうち、前記ワークの粗さを測定するのに適した針状の真円度用接触部が選択される。
【0016】
また、本発明にかかるパートプログラムにおいて、前記コンピュータに、さらに、補正工程、解析工程を実行させることが好適である。
ここで、前記検出器からの形状データは、前記被測定面上を移動する接触部の中心の軌跡情報であり、該接触部中心の軌跡情報から該被測定面上の輪郭情報を得るため、該接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値を、前記各接触部毎に予め得ている。
また、前記補正工程は、前記検出器からの形状データを、該形状データを得た際に用いた接触部に対応する前記補正値で補正し、補正済みデータを得ている。
前記解析工程は、前記補正工程よりの補正済みデータに基づき、前記接触部を選択した際の測定目的に応じたデータ解析を行う。
【発明の効果】
【0017】
(1)スタイラス
本発明にかかるスタイラスによれば、一の支持軸部に対し測定目的に応じて先端形状ないし先端寸法が異なる複数の接触部が設けられており、該支持軸部を回転させることにより、複数の接触部の中から測定目的に適した先端形状ないし先端寸法の接触部を選択してワークの形状測定に用いることとした
この結果、本発明にかかるスタイラスによれば、一のスタイラスで、各項目の測定を良好に行うことができるので、複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化の両立を確実に実現することができる。
また、本発明にかかるスタイラスにおいては、真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部、及び粗さを測定するのに適した針状の粗さ用接触部を含むことにより、一のスタイラスで真円度及び粗さをそれぞれ測定する際の高効率化及び高精度化の両立を確実に実現することができる。
【0018】
(2)形状測定機
本発明にかかる形状測定機によれば、本発明にかかるスタイラスの回転角度位置を検出器回転手段により変更自在とすることとしたので、複数の接触部の中から測定目的に応じた先端形状ないし先端寸法の接触部を選択して、ワークの形状測定に用いることができる。
この結果、本発明にかかる形状測定機によれば、一台で、複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化の両立を確実に図ることができる。
【0019】
(3)パートプログラム
本発明にかかるパートプログラムによれば、コンピュータに、前記複数の測定工程を実行させることとした。この結果、本発明にかかるパートプログラムによれば、一の形状測定機により、複数項目を測定する際の高効率化及び高精度化の両立を実現することができる。
本発明にかかるパートプログラムにおいては、コンピュータに、さらに前記補正工程、前記解析工程を実行させることにより、複数項目の測定を行わせる際の高効率化及び高精度化の更なる向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる形状測定機の概略構成が示されている。
本実施形態では、ワークの心・水平出しに必要な予備測定から、真円度、粗さまでの複数項目の測定を、パートプログラムにより、完全自動化した例について説明する。
図1に示すCNC真円度測定機(形状測定機)10は、測定機本体12と、コンピュータ14とを備える。測定機本体12は、コンピュータ14と接続されている。
測定機本体12は、粗さセンサー(接触式検出器)16を備える。
ここで、粗さセンサー16は、検出器本体18と、CNC真円度測定機用粗さ測定二又スタイラス(スタイラス)20とを含む。
【0021】
本実施形態においては、ワークの真円度及び粗さをそれぞれ一のスタイラスで測定するため、真円度用と粗さ用の二又スタイラスとしている。
このために本実施形態においては、スタイラス20が、一の支持軸部22と、真円度用軸部24と、粗さ用軸部26と、真円度用接触部28と、粗さ用接触部30とを含む。
ここで、一の支持軸部22は、検出器本体18に保持され、検出器本体18と共に、該検出器18の中心軸を中心に、回転角度を変更自在なものとする。
真円度用軸部24及び粗さ用軸部26は、一の支持軸部22の側部より突出しており、支持軸部の軸方向に直交する平面において、該支持軸部22より突出する方向が異なるものとする。
真円度用接触部28は、真円度用軸部24の先端に設けられ、ワーク21の真円度を測定するのに適したボール状のものとする。粗さ用接触部30は、粗さ用軸部26の先端に設けられ、ワーク21の粗さを測定するのに適した針状のものとする。
【0022】
本発明の真円度用接触部は、真円度を測定するのに適した先端形状ないし先端寸法のものとしており、本実施形態においては、真円度用接触部28を以下のボール状としている。
形状:ボール状
半径:φ1.6mm
【0023】
また、本発明の粗さ用接触部30は、粗さを測定するのに適した先端形状ないし先端寸法のものとしており、本実施形態においては、粗さ用接触部30を以下の針状としている。
形状:円錐(針状)
先端曲率半径(R):2μm
【0024】
本実施形態においては、支持軸部22の回転角度が調整されることにより、接触部28,30の中から、測定目的に応じた一の接触部が選択される。
すなわち、ワーク21の真円度を測定する際は、接触部28,30の中から真円度用接触部28が選択され、ワーク21の真円度測定に用いられるように、支持軸部22の回転角度位置が制御される。
また、ワーク21の粗さを測定する際は、接触部28,30の中から粗さ用接触部30が選択され、ワーク21の粗さ測定に用いられるように、支持軸部22の回転角度位置が制御される。
【0025】
また、本実施形態においては、接触部28,30の中から、測定目的に用いる接触部を切り替えるため、検出器ホルダ40と、検出器回転手段42と、回転制御手段44とを備える。
ここで、検出器ホルダ40は、粗さセンサー16の中心軸を中心に、スタイラス20の回転角度が変更自在となるように、粗さセンサー16を回転自在に保持する。
また、検出器回転手段42は、粗さセンサー16の中心軸を中心に、スタイラス20の回転角度が変更自在となるように、粗さセンサー16を回転する。本実施形態においては、測定効率をアップするため、本発明の検出器回転手段として、CNC真円度測定機10に既存の検出器回転手段を用いている。検出器回転手段42は、検出器ホルダ40を縦姿勢の状態で、粗さセンサー16の回転角度を変更自在とする。
回転制御手段44は、ワーク21の真円度を測定する際、真円度用軸部24の回転角度位置がワーク21の真円度測定を行うための所定の回転角度位置となるように、検出器回転手段42の回転動作を制御する。また、回転制御手段44は、ワーク21の粗さを測定する際、粗さ用軸部26の回転角度位置がワーク21の粗さ測定を行うための所定の回転角度位置となるように、検出器回転手段42の回転動作を制御する。
【0026】
なお、本実施形態において、コラム50は本体ベース52に立設され、スライダ54を垂直方向に移動自在に保持する。スライダ54には、アーム56が水平方向に移動自在に保持されており、アーム56には検出器ホルダ40が設けられている。
【0027】
また、本実施形態においては、本発明の相対運動手段として、回転テーブル60を備えている。回転テーブル60は、インデックステーブルであり、所定のピッチで回転角度情報をコンピュータ14に出力する。回転テーブル60からの回転角度情報は、粗さセンサー16からの、ワーク21の被測定面の凹凸情報(形状データ)と共に、コンピュータ14に記録されており、真円度、粗さ等の解析に用いられる。
また、本実施形態において、回転テーブル60は、コンピュータ14から調整量が指示されると、調整量に基づき回転テーブル60を自動調整し、測定前のワーク21の心・水平出し作業を自動に行うものとする。
【0028】
コンピュータ14は、ワーク21の心・水平出しから、真円度測定、粗さ測定を完全自動化するため、予め作成しておいたパートプログラムの手順に従って、複数項目の測定を行う。パートプログラム72は、CNC真円度測定機10の各軸の移動及び測定の操作をコンピュータ14による数値制御で行うためのものとする。
このために本実施形態において、コンピュータ14は、パートプログラム記憶手段70を備える。プログラム記憶手段70は、パートプログラム72を記憶している。
パートプログラム72は、コンピュータ14に、本発明の心・水平出し工程、本発明の真円度測定工程、本発明の粗さ測定工程を実行させるためのものとする。
また、コンピュータ14は、本発明の解析工程を行うための解析手段74を備える。
解析手段74は、粗さセンサー16からの形状データに基づき、接触部を選択した際の測定目的に応じたデータ解析を行う。すなわち、真円度用接触部28を選択した際は、粗さセンサー16からの形状データに基づき、ワーク21の真円度を解析する。粗さ用接触部30を選択した際は、粗さセンサー16からの形状データに基づき、ワーク21の表面粗さを解析する。
【0029】
本実施形態にかかるCNC真円度測定機10は概略以上のように構成され、以下にその作用について説明する。
従来、同一ワークに関して真円度、粗さ等の複数項目を測定する際は、それぞれ専用のスタイラスを人手で付け替えたり、別々の形状測定機で測定していたので、形状測定機の完全自動化が困難であったのに対し、本実施形態においては、完全自動化を実現している。すなわち、本実施形態においては、一の支持軸部22に対し複数の接触部、つまり真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部28、粗さを測定するのに適した針状の粗さ用接触部30を設け、一のスタイラス20を構成している。そして、一のスタイラス20の回転角度を調整することにより、ワーク21の真円度を測定する際はボール状の真円度用接触部28を選択し、ワーク21の粗さを測定する際は針状の粗さ用接触部30を選択している。
【0030】
図2には本発明の一実施形態にかかるスタイラスの模式図が示されている。
なお、同図(A)はスタイラスを斜めから見た図、同図(B)は真円度用接触部の選択時にスタイラスを上方から見た図であり、同図(C)は粗さ用接触部の選択時にスタイラスを上方から見た図である。
すなわち、図2(B)に示されるようにワーク21の真円度を測定する際は、接触部28,30の中から真円度用接触部28が選択され、ワーク21の真円度の測定に用いられるように、支持軸部22の回転角度位置が制御される。例えば真円度用接触部28を選択するため、水平方向(図中、紙面方向)において、ワーク21の中心76と支持軸部22の中心とを結ぶ線78上に真円度用接触部28が位置するように(真円度用軸部24の軸方向が一致するように)、支持軸部22の中心軸を回転の中心とした、支持軸部22の回転角度位置が制御される。
また、図2(C)に示されるようにワーク21の粗さを測定する際は、接触部28,30の中から粗さ用接触部30が選択され、ワーク21の粗さの測定に用いられるように、支持軸部22の回転角度位置が制御される。例えば粗さ用接触部30を選択するため、前記水平方向において、ワーク21の中心76と支持軸部22の中心とを結ぶ線78上に、粗さ用接触部30が位置するように(粗さ用軸部26の軸方向が一致するように)、支持軸部22の中心軸を回転の中心とした、支持軸部22の回転角度位置が制御される。
【0031】
この結果、本実施形態においては、真円度、粗さをそれぞれ測定する際に、従来方式のようにスタイラスの付け替えを行うことなく、また従来方式のように別々の形状測定機を用いることなく、一のスタイラス20の回転角度位置を変更するだけで、一台のCNC真円度測定機10で、真円度、粗さ等の複数項目の測定をそれぞれ高効率及び高精度に行うことができる。
【0032】
例えば、本実施形態においては、同一のワーク21に対し、真円度及び粗さの複合測定を、心・水平出し作業から含めた、パートプログラム72により、全自動かつ短時間に行うことができる。
また、本実施形態においては、測定目的に適した接触部を選択してワークの測定に用いているので、同一の接触部を用いて複数の項目を測定していたのでは困難であった、従来方式との測定結果の整合性を確実に図ることができる。
これにより、本実施形態においては、真円度及び粗さを、従来方式、つまりスタイラスを付け替えたり、別々の形状測定機で測定するものに比較し、操作性、利便性が向上するので、さらに測定時間の短縮を図ることができる。
【0033】
以下、前記作用について、より具体的に説明する。
本実施形態においては、パートプログラムに従って、測定目的の異なる下記の複数の測定工程を実行させる。
(1)心・水平出し
図3には心・水平出し工程の処理手順が示されている。
心・水平出し工程では、同図(A)に示されるような接触部選択工程と、同図(B)に示されるような第一のセット工程及びデータ取得工程と、同図(C)に示されるような第二のセット工程及びデータ取得工程と、同図(D)に示されるような調整工程とを備える。
すなわち、心・水平出し工程では、まず予備測定を行い、ワークの心・水平のズレ量を検出する必要がある。予備測定では、同図(A)に示されるような回転角度位置の調整が行われることにより、ワーク21の心・水平のズレ量を検出するのに適した接触部、例えばボール状の真円度用接触部28が自動選択される。
次に同図(B)に示されるように真円度用接触部28が、ワーク21の被測定部位にセットされる。検出器がワーク21の被測定部位(高さA)にオートセットされる。次に自動的に回転テーブル60が回転し、データを取り込む。
ここで、コンピュータは、ワーク21の高さAで予備測定し、高さAでのワーク21の中心座標を求める。
次にコンピュータは、同図(C)に示されるように、ワーク21の高さBで予備測定し、高さBでのワーク21の中心座標を求める。
コンピュータは、高さAでのワーク21の中心座標と、高さBでのワーク21の中心座標とから、ワーク21の心・水平出し量(心ずれ補正量、傾き補正量)を求める。
このようにしてコンピュータは、ワーク21の心・水平のズレ量(心ずれ補正量、傾き補正量)を得ており、心ずれ補正量、傾き補正量に基づき、回転テーブル60の調整量を回転テーブルに指示し、回転テーブルに自動調整を指示する。
この結果、回転テーブル60は、ワークの心・水平出し量(心ずれ補正量、傾き補正量)に基づき、回転テーブル60の調整を自動に行い、ワーク21の心・水平出し作業を自動に行う(同図(D)参照)。
前述のようにして回転テーブル60により、ワーク21の心・水平出しが自動に行われた後、該心・水平出し済みのワーク21の真円度、粗さ等の複合測定が、以下のように自動に行われる。
【0034】
(2)真円度測定
図4には、真円度測定工程の処理手順が示されている。
すなわち、真円度測定工程は、同図(A)に示されるような接触部選択工程と、同図(B)に示されるようなセット工程と、同図(C)に示されるようなデータ取得工程とを備える。
ここで、接触部選択工程では、同図(A)に示されるように、ワーク21の真円度の解析に適した真円度用接触部28が、複数の接触部28,30の中から選択されるように、スタイラス16の回転角度位置を自動に調整する。
また、セット工程では、同図(B)に示されるように、真円度用接触部28のみをワーク21の被測定面に自動に接触させる。
データ取得工程では、同図(C)に示されるように、ワーク21の被測定面に真円度用接触部28を接触させた状態で、回転テーブル60を回転し、真円度用接触部28とワーク21の被測定面との接触位置を移動しながら、ワーク21の被測定面の形状データを得ている。
このように真円度測定の際は、ワーク21の真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部28が選択され、ワーク21の被測定部位にオートセットされる。次に、真円度用接触部28をワーク21の被測定部位に接触させた状態で、自動的に回転テーブル60が回転し、データを取り込む。取り込まれたデータに基づいて、ワーク21の真円度が、解析手段により自動に解析されることとなる。
【0035】
(3)粗さ測定
図5には、粗さ測定工程の処理手順が示されている。
すなわち、粗さ測定工程は、同図(A)に示されるような接触部選択工程と、同図(B)に示されるようなセット工程と、同図(C)に示されるようなデータ取得工程とを備える。
ここで、接触部選択工程では、同図(A)に示されるように、ワーク21の粗さの解析に適した粗さ用接触部30が、複数の接触部28,30の中から選択されるように、スタイラス16の回転角度位置を調整する。
また、セット工程では、同図(B)に示されるように、粗さ用接触部30のみをワーク21の被測定面に接触させる。
データ取得工程では、同図(C)に示されるように、ワーク21の被測定面に粗さ用接触部30を接触させた状態で、回転テーブル60を回転し、粗さ用接触部30とワーク21の被測定面との接触位置を移動しながら、ワーク21の被測定面の形状データを得ている。
このように粗さ測定工程では、ワーク21の粗さを測定するのに適した針状の粗さ用接触部30が自動に選択され、ワーク21の被測定部位にオートセットされる。次に、粗さ用接触部30をワーク21の被測定部位に接触させた状態で、自動的に回転テーブル60が回転し、データを取り込む。取り込まれたデータに基づいて、ワーク21の粗さが、解析手段により解析されることとなる。
【0036】
このように本実施形態にかかるCNC真円度測定機10によれば、以下の点で優れている。
(1)心・水平出し作業を行う際は、予備測定に適したボール状の接触部を用いることにより、従来方式の測定手法と同等のスピードで、作業を完了することができる。
(2)真円度を測定する際は、真円度測定に適したボール状の接触部を用いることにより、従来方式と整合性のある測定結果を得ることができる。
(3)粗さ測定の際は、粗さ測定に適した針状の接触部を用いることにより、従来方式と整合性のある測定結果を得ることができる。
(4)上記の(1)〜(3)の機能を併せ活用することにより、同一ワークに対し、粗さ及び真円度などの複合測定を、心・水平出し作業から含めて、パートプログラムにより、全自動かつ短時間で行うことができる。この結果、本実施形態においては、従来方式では極めて困難であった、測定の高効率化及び高精度化の双方を実現することができる。
【0037】
ところで、本実施形態での完全自動化は、本発明のスタイラスを採用することにより、はじめて得られるものであり、従来方式のスタイラスでは、複数項目を測定する際の高効率化と高精度化の両立が困難なので、本実施形態のような完全自動化も極めて困難であった。
すなわち、真円度測定機による粗さ測定について、従来より、粗さセンサーの使用による対応は可能であったが、一の粗さ用スタイラスにより、表面粗さ、真円度等の多数項目を測定するには、以下の点で不都合があった。
【0038】
(1)真円度測定や心・水平出し作業に必要な予備測定の際に、真円度測定機で通常に使用するボール状の接触部の代わりに、先端の鋭利な粗さ用接触部を使用すると、被測定面にカッターマークがあるワークの場合、接触部がカッターマークの凹凸に追従してしまい、測定結果の整合性が保てない。
(2)心・水平出し作業に必要な予備測定や、真円度測定の際、ワークの被測定面上において、通常の粗さ測定時とは比較にならないほど長い距離において、接触部を追従させなければならず、また、この追従はスピードを上げると、接触部先端の磨耗や欠けなどの劣化を招くため、常に注意監視が必要となる。
(3)上記の(1)〜(2)の問題を防ぐため、粗さ用スタイラス、及び心・水平出し作業に必要な予備測定や真円度測定用のスタイラスを個別に用意し、測定目的に応じて使い分けることが考えられるが、スタイラスの付け替えには手作業が必要となり、またスタイラス交換後の補正作業なども必要となるので、測定効率が上がらない。また、従来方式では、自動交換のシステムも実現していなかった。
【0039】
これに対し、本実施形態においては、スタイラスを真円度用と粗さ用の二又とし、かつCNC真円度測定機のハードウェア及びソフトウェアに既に搭載されている検出器回転手段を用いることにより、スタイラスの回転角度を変更自在に構成している。
この結果、本実施形態においては、一のスタイラスであっても、測定目的に適した接触部を使い分けることにより、従来方式、例えば一の粗さ用スタイラスにより、複数項目を測定した際の、前記デメリットを解消することができる。
【0040】
測定効率の更なる向上
(1)補正の完全自動化
ところで、本実施形態において、粗さセンサー16からの形状データは、ワーク21の被測定面上を移動する接触部の中心の軌跡情報であり、接触部中心の軌跡情報からワーク21の被測定面上の輪郭情報を得るため、該接触部中心の軌跡情報を、接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値で補正する必要がある。
ここで、本実施形態においては、前述のような補正も、測定効率の更なるアップのため、パートプログラム72により完全自動化している。
このために本実施形態においては、図6に示されるようにコンピュータ14が、さらに補正値記憶手段80と、本発明の補正工程を行うための補正手段82とを備える。
ここで、補正値記憶手段80は、接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値を、各接触部28,30毎に記憶している。本実施形態においては、真円度用接触部28のための補正値として、真円度用接触部28の半径を記憶しており、粗さ用接触部30のための補正値として、粗さ用接触部30の先端と中心間の距離を記憶している。
補正手段82は、測定機本体12からの形状データ(検出器からの形状データ)を、該形状データを得た際の接触部に対応する補正値で補正し、補正済みデータを得ている。すなわち、本実施形態においては、真円度用接触部28を用いて得た形状データを、前記真円度用接触部28のための補正値で補正し、真円度解析用の補正済みデータを得る。また、本実施形態においては、粗さ接触部30を用いて得た形状データを、粗さ用接触部30のための補正値で補正し、粗さ解析用の補正済みデータを得る。
本実施形態においては、パートプログラム72が、コンピュータ14に本発明の補正工程を実行させるように、補正手段82の動作を制御する。
【0041】
(2)解析の完全自動化
また、本実施形態においては、前述のような補正済みデータに基づく真円度、粗さ等の項目の解析も、測定効率の更なるアップのため、パートプログラム72により、完全自動化している。
このために本実施形態においては、さらに、本発明の解析工程を行うための解析手段74を備える。
解析手段74は、補正手段82により得られた補正済みデータに基づき、真円度、粗さを解析する。すなわち、本実施形態においては、補正手段82により得られた、真円度解析用の補正済みデータに基づき、真円度を解析する。また、本実施形態においては、補正手段82により得られた、粗さ解析用の補正済みデータに基づき、粗さを解析する。
本実施形態においては、パートプログラム72が、コンピュータ14に、本発明の解析工程を実行させるように、解析手段74の動作を制御する。
【0042】
変形例
本発明は前記構成に限定されるものでなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
(1)スタイラス
前記構成では、スタイラスを二又とした例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、測定目的に応じて、スタイラスを三又以上にすることや、各々の先端形状ないし先端寸法を工夫することにより、より多数の測定目的を一のスタイラスで実現することも好ましい。
【0043】
(2)測定目的
前記構成では、真円度、表面粗さを測定した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、他の測定目的を選択することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態にかかる形状測定機の概略構成の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるスタイラスの概略構成の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる形状測定機による測定前の段取り作業の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる形状測定機による真円度測定工程の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる形状測定機による粗さ測定工程の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる形状測定機の補正手段及び解析手段の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 CNC真円度測定機(形状測定機)
12 測定機本体
14 コンピュータ
16 粗さセンサー(検出器)
18 検出器本体
20 CNC真円度測定機用粗さ測定二又スタイラス(スタイラス)
22 支持軸部
24 真円度用軸部(測定用軸部)
26 粗さ用接触部(測定用軸部)
28 真円度用接触部(接触部)
30 粗さ用接触部(接触部)
70 パートプログラム記憶手段
72 パートプログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの被測定面にスタイラス先端を接触させた状態で、該スタイラス先端と該被測定面との接触位置を移動しながら、該被測定面の形状データを得る検出器に用いられ、複数の異なる測定目的のために用いられる一のスタイラスであって、
前記検出器の本体に保持され、軸方向を中心に回転角度を変更自在な支持軸部と、
前記支持軸部の側部より突出し、該支持軸部より突出する方向が異なる複数の測定用軸部と、
前記各測定用軸部の先端に設けられ、該各測定用軸部毎に先端形状ないし先端寸法が異なる複数の接触部と、
を備え、前記支持軸部の軸方向を中心に該支持軸部の回転角度が調整されることにより、該複数の接触部の中から測定目的に応じた一の接触部が選択され、該選択された接触部のみが該被測定面に接触され、該被測定面の形状データの取得に用いられることを特徴とするスタイラス。
【請求項2】
請求項1記載のスタイラスにおいて、
前記接触部は、前記測定目的として真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部、及び前記測定目的として粗さを測定するのに適した針状の粗さ用接触部を含み、
前記ワークの真円度を測定する際は、前記複数の接触部の中から前記真円度用接触部が選択され、該真円度用接触部のみが該被測定面に接触され、該ワークの真円度の測定に用いられるように、該支持軸部の回転角度が調整され、
前記ワークの粗さを測定する際は、前記複数の接触部の中から前記粗さ用接触部が選択され、該粗さ用接触部のみが該被測定面に接触され、該ワークの粗さの測定に用いられるように、該支持軸部の回転角度が調整されることを特徴とするスタイラス。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスタイラス及び検出器と、
前記支持軸部の回転角度が変更自在となるように、前記検出器を回転自在に保持する検出器回転手段と、
測定目的に応じた所望の接触部が該複数の接触部の中から選択され、該所望の接触部のみが該被測定面に接触され、該被測定面の形状データの取得に用いられるように、前記検出器回転手段による前記検出器の回転を制御する回転制御手段と、
を備えたことを特徴とする形状測定機。
【請求項4】
請求項3記載の形状測定機において、
前記検出器からの形状データが、前記ワークの被測定面上を移動する前記接触部の中心の軌跡情報である際、該接触部中心の軌跡情報から該被測定面上の輪郭情報を得るため、該接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値を、前記各接触部毎に予め得ており、
前記各接触部毎に前記補正値を記憶している補正値記憶手段と、
前記検出器からの形状データを、該形状データを得た際に用いた前記接触部に対応する前記補正値で補正し、補正済みデータを得る補正手段と、
前記補正手段により得られた補正済みデータに基づき、前記接触部を選択した際の測定目的に応じたデータ解析を行う解析手段と、
を備えたことを特徴とする形状測定機。
【請求項5】
請求項3又は4記載の形状測定機により、複数の測定工程を、コンピュータに、実行させるためのパートプログラムであって、
前記測定工程は、前記複数の接触部の中から、測定目的に応じた一の接触部が選択されるように、前記検出器の回転角度を調整する接触部選択工程と、
前記接触部選択工程により選択された接触部のみを、前記ワークの被測定面に接触させるセット工程と、
前記セット工程の後段に設けられ、前記接触部選択工程により選択された接触部のみを前記ワークの被測定面に接触させた状態で、該接触部と該被測定面との接触位置を移動しながら、該被測定面の形状データを取得するデータ取得工程と、
を備えており、前記測定目的の異なる複数の、前記測定工程を実行させることを特徴とするパートプログラム。
【請求項6】
請求項5記載のパートプログラムにおいて、
前記複数の測定工程は、真円度測定工程と、粗さ測定工程と、を含み、
前記真円度測定工程では、前記スタイラスの複数接触部のうち、前記ワークの真円度を測定するのに適したボール状の真円度用接触部が選択され、
前記粗さ測定工程では、前記スタイラスの複数接触部のうち、前記ワークの粗さを測定するのに適した針状の真円度用接触部が選択されることを特徴とするパートプログラム。
【請求項7】
請求項5又は6記載のパートプログラムにおいて、
前記コンピュータに、さらに、補正工程、解析工程を実行させており、
前記検出器からの形状データが、前記被測定面上を移動する接触部の中心の軌跡情報である際は、該接触部中心の軌跡情報から該被測定面上の輪郭情報を得るため、該接触部の先端と中心間の寸法に基づく補正値を、前記各接触部毎に予め得ており、
前記補正工程は、前記検出器からの形状データを、該形状データを得た際に用いた接触部に対応する前記補正値で補正し、補正済みデータを得ており、
前記解析工程は、前記補正工程よりの補正済みデータに基づき、前記接触部を選択した際の測定目的に応じたデータ解析を行うことを特徴とするパートプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−115527(P2009−115527A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286957(P2007−286957)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】