説明

ステアバイワイヤの操舵反力制御装置

【課題】ステアリングホイールを中立位置から切り始めた際の良好な手応えを確保し、中立周りでの振動を防ぎつつ、手放し時における戻り位置を出来るだけ中立位置にするステアバイワイヤの操舵反力制御装置を提供する。
【解決手段】タイロッド間シャフト2と機械的に連結されていないステアリングホイール3に対し、操舵角センサ5と操舵反力モータ4とが設けられる。ステアリング制御手段12は、操舵角を基に、タイロッド間シャフト2を駆動する転舵機構6の転舵モータ7を制御する。ステアリング制御手段12に、操舵方向と転舵反力の方向とが異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定し、この正逆に応じて操舵反力モータ4の操舵反力を制御する操舵反力制御部14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転舵用のタイロッド間シャフトと機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置に関し、特にそのステアリングホイールに付与する操舵反力を制御する操舵反力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールに付与する操舵反力の生成法に関して、転舵機構に働く転舵反力を転舵反力センサにより検出し、あるいは転舵モータの制御量及び転舵変位量を用いて転舵反力を推定し、転舵反力に応じて操舵反力を生成する方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、操舵フィーリングを向上するために、操舵反力に摩擦や粘性成分を付与している( 特許文献2〜4) 。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開1705−88610号公報
【特許文献2】特開1707−186014号公報
【特許文献3】特許4011424号公報
【特許文献4】特許4186913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のタイロッド間シャフトとステアリングホイールが機械的に連結されているEPS等の操舵装置では、機構部における摩擦力が直接操舵反力として感じられる。一方、ステアバイワイヤにおいては、機構部における摩擦が小さく、ハンドルを中立位置から切り始めた際には、初期の操舵反力は手応え感が小さいという問題点がある。ステアバイワイヤにおいて、摩擦力を制御により生成しようとする場合、操舵方向によって符号が反転する非線形要素であるため、常時安定かつ違和感のない操舵反力を再現することは難しい。
【0005】
特許文献2ではステアリングホイールに機械的に摩擦を付与している。しかし、この方法では、手放し時に於ける戻り位置にオフセットが生じ、車両が片流れする場合がある。特許文献3では操舵角の小さい領域で操舵反力のゲインを大きくしている。しかし、この方法では中立回りで振動が発生しやすくなる。特許文献4では、手放し時に於ける戻り位置のオフセットを防ぐため、操舵角に基づく第1の係数と操舵角速度に基づく第2の係数のどちらか大きい方を暫定目標摩擦反力に乗ずることで、中立位置での手放し時には目標摩擦反力を0としている。しかし、中立位置から切り始め時の操舵反力は手応え感が小さくなる。
【0006】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的はステアリングホイールを中立位置から切り始めた際の良好な手応えを確保し、中立周りでの振動を防ぎつつ、手放し時における戻り位置を出来るだけ中立位置にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のステアバイワイヤの操舵反力制御装置は、転舵用のタイロッド間シャフト2と機械的に連結されていないステアリングホイール3に対し、操舵角を検出する操舵角センサ5と、操舵反力を与える操舵反力モータ4とが設けられ、操舵角センサ5の検出した操舵角を基に、車両に装備された他のセンサ類15からの運転状態検出信号と合わせて転舵角の指令信号を生成し、タイロッド間シャフト2を駆動する転舵機構6の転舵モータ7を制御するステアリング制御手段12を有するステアバイワイヤ式操舵装置において、
操舵方向と転舵反力の方向とが異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定し、この正逆に応じて前記操舵反力モータの操舵反力を制御する操舵反力制御部14を設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、操舵反力制御部14は、操舵方向と転舵反力の方向から転舵機構6にかかる入力の正逆を判定する。操舵方向と転舵反力の方向が異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定する。この正逆に応じて前記操舵反力モータ4の操舵反力を制御する。例えば、転舵機構6の正入力と逆入力における伝達効率が異なる場合、転舵反力推定に用いる係数を正入力時と逆入力時で変更することにより,転舵反力を精度良く推定することができる。これにより、ステアリングホイール3を中立位置から切り始めた際の良好な手応えを確保し、中立周りでの振動を防ぎつつ、手放し時における戻り位置を出来るだけ中立位置にすることができる。
【0009】
この発明において、前記転舵機構6に作用する転舵反力を検出する転舵反力検出手段18,18Aと、操舵方向を検出する操舵方向検出手段19とを設け、前記操舵反力制御部14は、具体的には、定められた規則に従って前記操舵反力モータ4の操舵反力の目標値を演算する操舵反力目標値演算部17と、前記操舵方向検出手段18,18Aで検出される操舵方向が前記転舵反力検出手段18,18Aで検出される転舵反力の方向と異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定する入力正逆判定部21と、前記入力正逆判定部21の判定結果となる正逆に応じて前記操舵目標値演算部17による演算内容を変更する正逆対応処理部22とを有するものとできる。
【0010】
前記操舵方向検出手段19は、前記操舵角センサ5であっても良い。すなわち、前記入力正逆判定部21で判断に用いる操舵方向を、操舵角センサ5から得ても良い。
【0011】
前記転舵反力検出手段18は、転舵モータ7のトルク及び転舵変位量から、定められた推定式に従って転舵反力を推定するものであっても良い。その場合に、前記正逆対応処理部22は、前記入力正逆判定部21で判定された正入力または逆入力によって、前記推定式における転舵反力を推定する係数を変更する機能を有するものとしても良い。
転舵機構6の正入力と逆入力における伝達効率が異なる場合、転舵反力推定に用いる係数を正入力時と逆入力時で変更することにより、転舵反力を精度良く推定することができる。
【0012】
この構成の場合に、前記転舵反力検出手段18で検出された転舵反力の検出信号を通過させるフィルタとして、カットオフ周波数の変更可能なローパスフィルタ26を設け、このローパスフィルタ26を通して得られた転舵反力を、前記操舵反力目標値演算部17が、目標操舵反力の基本値、すなわち暫定操舵反力目標値としても良い。
【0013】
この構成の場合に、前記ローパスフィルタ26のカットオフ周波数は、転舵反力が大きい時には高く、小さい時には低く設定されているのが良い。
推定された転舵反力を、カットオフ周波数を変更できるローパスフィルタ26に通し、暫定操舵反力目標値を生成する。推定転舵反力が小さい場合にはカットオフ周波数を低くし、推定転舵反力が大きい場合にはカットオフ周波数を高くする。これにより、手放し時における振動を抑制できると共にクイックな操舵反力が得られる。
【0014】
また、前記ローパスフィルタ26のカットオフ周波数を、切替え操作手段28からの入力で変更するカットオフ周波数変更手段27を設けても良い。これにより、ドライバーの好みに合わせて操舵フィーリングを変更することができる。
【0015】
この発明において、前記操舵反力制御部14は、前記入力正逆判定部21の判定結果が正入力の場合には操舵反力目標値に摩擦成分を付与し、逆入力の場合には付与しないものとしても良い。
前記操舵反力制御部14は、例えば、暫定操舵反力目標値に摩擦項、粘性項、および慣性項を加え、操舵反力目標値を生成する。この場合に、正入力の場合にのみ摩擦成分を付与する。これにより、ハンドルを中立位置から切り始めた際に、速やかに摩擦成分が付与され、操舵初期の操舵反力の手応え感を実現できる。逆入力の場合には摩擦成分を付与しないため、手放し時に於ける戻り位置のオフセットは生じない。
【0016】
この構成の場合に、前記操舵反力制御部14は、転舵反力が大きいほど前記摩擦成分を小さく設定したものであるのが良い。
また、前記操舵反力制御部14は、操舵反力目標値に加える粘性項の係数が、前記入力正逆判定部の判定結果が逆入力の場合に、正入力の場合より大きい値に設定されるのが良い。
さらに、前記操舵反力制御部14は、転舵反力が大きいほど前記粘性項の係数が小さく設定されるのが良い。
逆入力の場合には粘性項の係数を正入力の場合より大きく設定することで、中立周りでの振動を抑えることができるとともに、正入力時の操舵反力が大きくなり過ぎる違和感を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、転舵用のタイロッド間シャフトと機械的に連結されていないステアリングホイールに対し、操舵角を検出する操舵角センサと、操舵反力を与える操舵反力モータとが設けられ、前記操舵角センサの検出した操舵角を基に、車両に装備された他のセンサ類からの運転状態検出信号と合わせて転舵角の指令信号を生成し、タイロッド間シャフトを駆動する転舵機構の転舵モータを制御するステアリング制御手段を有するステアバイワイヤ式操舵装置において、操舵方向と転舵反力の方向とが異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定し、この正逆に応じて前記操舵反力モータの操舵反力を制御する操舵反力制御部を設けたため、ハンドルを中立位置から切り始めた際の良好な手応えを確保し、中立周りでの振動を防ぎつつ、手放し時における戻り位置を出来るだけ中立位置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に係る操舵反力制御装置を備えたステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成とその制御系の概念構成とを示す説明図である。
【図2】同ステアバイワイヤの操舵反力制御装置における操舵反力制御部の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同操舵反力制御部の処理の流れ図である。
【図4】同操舵反力制御部の制御例における正入力時の転舵反力と摩擦成分の関係を示すグラフである。
【図5】同操舵反力制御部の制御例における転舵反力と粘性成分の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1は、この実施形態に係る操舵反力制御装置を備えたステアバイワイヤ式操舵装置のシステム構成図である。操舵機構1は、転舵用のタイロッド間シャフト2と機械的に連結されていないステアリングホイール3に対して、操舵反力を生成する操舵反力モータ4と、操舵角度を検出する操舵角センサ5を備える。転舵機構6は、タイロッド間シャフト2を車幅方向に進退駆動する転舵モータ7とタイロッド間シャフト位置2の転舵変位量となる進退位置を検出する位置センサ8を備える。この他に転舵モータ7のトルクを検出する電流計等のトルク検出手段9と、転舵モータ7の回転角度を検出する回転角度検出手段10とが設けられている。
【0020】
ステアリング制御手段12は、自動車の全体を制御するECU(電気制御ユニット)11に設けられており、転舵制御部13と操舵反力制御部14とを有している。ECU11は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。転舵制御部13は、操舵角センサ5の検出した操舵角を基に、車両に装備された他のセンサ類15からの運転状態検出信号と合わせて転舵角の指令信号を生成し、転舵機構6の転舵モータ7を制御する手段である。前記他のセンサ類15は、例えば、車速センサや、各車輪16に作用する荷重を検出センサ等である。他のセンサ類15は、一つであっても複数であっても良いが、ここでは、1つで代表して図示している。
【0021】
操舵反力制御部14の具体例を図2に示す。操舵反力制御部14は、基本的には、操舵反力目標値演算部17により操舵反力目標値Paを、定められた規則によって演算し、操舵反力モータ4のモータ制御回路(図示せず)に出力する手段である。この基本構成において、操舵目標値演算部17による演算を行うにつき、操舵方向と転舵反力の方向とが異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定し、この正逆に応じて操舵反力モータ4の操舵反力を制御するように構成している。
【0022】
具体的には、前記転舵機構6(図1)に作用する転舵反力を検出する転舵反力検出手段18と、操舵方向を検出する操舵方向検出手段19とを設ける。操舵方向検出手段19は、前記操舵角センサ5、または転舵機構6の位置センサ8である。
【0023】
操舵反力制御部14は、操舵反力目標値演算部17と、入力正逆判定部21と、正逆対応処理部22とを有する。操舵反力目標値演算部17は、定められた規則に従って操舵モータ4の操舵反力の目標値Paを演算する手段である。入力正逆判定部21は、操舵方向検出手段19で検出される操舵方向が、転舵反力検出手段18で検出される転舵反力の方向と異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定する手段である。正逆対応処理部22は、入力正逆判定部21の判定結果となる正逆に応じて、操舵反力目標値演算部17による演算内容を変更する手段である。
【0024】
転舵反力検出手段18は、転舵モータのトルク及び転舵変位量から、定められた推定式、例えば次式(1)に従って転舵反力Fh を推定するものである。この式(1)は、転舵反力Fh を、転舵モータ7の発生トルクTm 、転舵速度(転舵モータ回転角度θの微分値)、および転舵加速度(転舵モータ回転角度θの2回微分値)から算出する式である。
【数1】

【0025】
なお、F:転舵機構摩擦成分
A,I,c:係数、
である。
【0026】
転舵モータ7の発生トルクTm は、転舵モータ7の前記トルク検出手段9から得られ、転舵モータ7の回転角度θは、前記回転角度検出手段10から得られる。トルク検出手段9で検出したトルクTm は、ローパスフィルタ23を通し、高周波成分を除去して転舵反力検出手段18に入力されるようにしている。転舵モータトルクTm に高周波成分が含まれていない場合は、ローパスフィルタ23は不要である。
【0027】
上記正逆対応処理部22は、入力正逆判定部21で判定された正入力または逆入力によって、前記推定式(1)における転舵反力Fを推定する係数A、I、c,Fを、定められた規則(図示せず)により変更する機能を有する。この係数の変更は、係数A、I、c,Fのいずれか一つを変更するものであっても良く、また任意の2つ、または全てを変更するものであっても良い。
【0028】
前記操舵反力目標値演算部17は、暫定操舵反力目標値演算部24と、別項加算部25とを有し、暫定操舵反力目標値演算部24で計算した暫定操舵反力目標値Paaに、別項加算部25によって後述の別項を加算して操舵反力目標値Paとする。
暫定操舵反力目標値演算部24は、カットオフ周波数の変更可能なローパスフィルタ26を有していて、転舵反力検出手段18で検出された転舵反力(転舵反力推定値)Fh をローパスフィルタ26に通して得られた転舵反力を、目標操舵反力Paの基本値、すなわち暫定操舵反力目標値Paaとする。
なお、転舵反力検出手段18による式(1)の演算は1kHz(1msec周期)で演算しており、その結果(デジタル信号波形)が、カットオフ周波数可変のローパスフィルタ26(カットオフ周波数は30Hz〜0.5Hz程度)に入力される。前記ローパスフィルタ23もソフトウェアによるデジタルフィルタである。これらの演算には例えばSHマイコンを用いる。
【0029】
前記のカットオフ周波数可変のローパスフィルタ26のカットオフ周波数は、一定でも良いが、転舵反力F が大きい時には高く、小さい時には低く設定されているのが良い。例えば、ローパスフィルタ26に、入力される転舵反力F を監視して、転舵反力F が大きい時には高く、小さい時には低くカットオフ周波数を変更するカットオフ周波数変更手段27が設けられている。この変更は、連続的であっても、段階的であっても良い。
【0030】
カットオフ周波数変更手段27は、前記ローパスフィルタ26のカットオフ周波数を、切替え操作手段28からの入力で変更可能なものとしても良い。切替え操作手段28は、例えば、車両のコンソールやECUの外装面等に設けられる。カットオフ周波数変更手段27は、カットオフ周波数を、切替え操作手段28からの入力で変更可能で、かつその変更したカットオフ周波数を、さらに、入力される転舵反力F によって上記のように変更するものとしてもよい。
【0031】
別項加算部25は、暫定操舵反力目標値演算部24の計算した暫定操舵反力目標値Paaに、摩擦項、粘性項、および慣性項を加え、操舵反力目標値Paを生成する。別項加算部25によるこれら摩擦項、粘性項、および慣性項の加算は、入力正逆判定部21の正逆の判定結果に応じて、正逆対応処理部22に変更される。変更内容については、後に全体の動作の説明と共に説明する。
【0032】
上記構成の動作を説明する。図3は操舵反力目標値Paを演算するフローチャートである。まず、ステップS1の信号読み込み過程として、操舵方向を図2の操舵方向検出手段19により検出し、入力正逆判定部21に読み込む。操舵方向検出手段19は、前述のように、操舵機構1の操舵角センサ5または転舵機構6の位置センサ8であり、いずれで操舵方向を検出するようにしても良い。
また、転舵モータ7の発生トルクTm をトルク検出手段9で検出し、かつ転舵速度および転舵加速度を回転検出手段10で検出して転舵反力検出手段18に読み込む。転舵モータトルクTm に高周波の成分が含まれている場合は、ローパスフィルタ23を通すことで、高周波成分が除去される(S2)。転舵速度は転舵モータ回転角度θの微分値であり、転舵加速度は転舵モータ回転角度θの2回微分値であり、回転検出手段10からは転舵モータ回転角度θを読み込んで、転舵反力検出手段18より、転舵モータ回転角度θから転舵速度および転舵加速度を計算する。
【0033】
転舵反力検出手段18は、このように求められた発生トルクTm 、転舵速度(転舵モータ回転角度θの微分値)、および転舵加速度(転舵モータ回転角度θの2回微分値)から、前述の次式(1)に従って、転舵反力Fを算出する(S3)。この算出値が、転舵反力の推定値である。
【0034】
転舵機構6の正入力と逆入力における伝達効率が異なる場合には、式(1)の係数A,I,c,Fの値を、転舵機構6の正入力または逆入力によって変更することで転舵反力Fh を精度良く推定することができる。
【0035】
入力正逆判定部21は、操舵方向検出手段19で検出される操舵方向と転舵反力検出手段18で検出される転舵反力とによって、入力の正逆を判定する(S4)。入力正逆判定部21において、転舵機構6にかかる入力は、操舵方向と推定転舵反力の方向が異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定する。操舵角速度が0の場合には逆入力とする。
【0036】
操舵反力目標値演算部17の暫定操舵反力目標値演算部24は、転舵反力検出手段18で上記のように推定された転舵反力Fを,カットオフ周波数を変更できるローパスフィルタ26に通し、暫定操舵反力目標値Paaを生成する(S5)。
このとき、カットオフ周波数変更手段27は、入力される推定転舵反力Fが小さい場合にはカットオフ周波数を低くし、推定転舵反力が大きい場合にはカットオフ周波数を高くする。これにより、ステアリングホイール3の手放し時における振動を抑制できると共にクイックな操舵反力を得られる。推定転舵反力Fが大きいか小さいかの基準、およびカットオフ周波数をどの値にするかは、シミュレーション等により任意に設計して定めれば良い。
また、カットオフ周波数変更手段27は、切替え操作手段28の操作によってカットオフ周波数を切り替え可能としてあり、この切り替えにより、ドライバーの好みに合わせて操舵フィーリングを変更できる。
【0037】
別項加算部25は、上記のように計算された暫定操舵反力目標値Paaに、摩擦項、粘性項、および慣性項を加算し、操舵反力目標値Paを生成する(S6)。
【数2】

θSW:操舵角度(ステアリングホイール角度)
a:摩擦項
b:粘性項の係数
d:慣性項の係数
摩擦項、粘性項、および慣性項a,b,dは、適宜設定して定められる。
【0038】
このとき、正逆対応処理部22は、別項加算部25の上記加算過程において、正入力の場合にのみ摩擦項(すなわち摩擦成分)を付与させる。これにより、ステアリングホイール3を中立位置から切り始めた際に、速やかに摩擦成分が付与され、操舵初期の操舵反力の手応え感を実現できる。逆入力の場合には摩擦成分を付与しないため、手放し時に於ける戻り位置のオフセットは生じない。
【0039】
別項加算部25において加算する摩擦成分、すなわち摩擦項の値aは、例えば図4に示すように、推定転舵反力Fが大きいほど小さくし、ある閾値以上は0とする。このように設定すると、転舵反力Fが小さい場合のみ摩擦成分を付与することが出来る。なお、同図のように変更せずに、摩擦項の値を一定としても良い。
【0040】
また、正逆対応処理部22は、別項加算部25の上記加算過程において、逆入力の場合には粘性項の係数bを、正入力の場合より大きく設定する。粘性成分により手放し時の中立周りでの振動を抑えることができるとともに、正入力時の操舵反力が大きくなり過ぎる違和感を防ぐことができる。
粘性項の係数bは、例えば図5に示すように、荷重つまり転舵反力Fが大きいほど小さくしてもよい。このように設定すると、転舵反力Fが小さい場合に大きな粘性成分を付与することが出来る。図5の例では、転舵反力Fが0から一定の値までは、転舵反力Fが大きくなるに従って粘性成分(粘性項の係数b)が小さくなるようにし、上記一定の値以上では一定となるように定めている。
【0041】
この操舵反力制御装置によると、このように、ステアリングホイール3を中立位置から切り始めた際の良好な手応えを確保し、中立周りでの振動を防ぎつつ、手放し時における戻り位置を出来るだけ中立位置にするなどの利点が得られる。
【0042】
なお、上記実施形態では、転舵反力Fを、転舵モータトルクなどから計算する転舵反力検出手段18により検出するようにしたが、上記転舵反力検出手段18を設ける代わりに、転舵機構6に備えたロードセルや荷重センサ等の転舵反力センサからなる転舵反力検出手段18Aにより、転舵反力Fを検出するようにしても良い。その場合、このロードセルや荷重センサ等の転舵反力センサの検出した転舵反力Fh を、入力正逆判定部21による判定や、操舵反力目標値演算部17の暫定操舵目標値演算部24による暫定操舵反力目標値Paaや、操舵反力目標値Paの計算に用いる。
【符号の説明】
【0043】
1…操舵機構
2…タイロッド間シャフト
3…ステアリングホイール
4…操舵反力モータ
5…操舵角センサ
6…転舵機構
7…転舵モータ
8…位置センサ
9…トルク検出手段
10…回転角度検出手段
12…ステアリング制御手段
13…転舵制御部
14…操舵反力制御部
15…他のセンサ類
17…操舵反力目標値演算部
18…転舵反力検出手段
18A…転舵反力検出手段
19…操舵方向検出手段
21…入力正逆判定部
22…正逆対応処理部
24…暫定操舵反力目標値演算部
25…別項加算部
27…カットオフ周波数可変のローパスフィルタ
28…切替え操作手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵用のタイロッド間シャフトと機械的に連結されていないステアリングホイールに対し、操舵角を検出する操舵角センサと、操舵反力を与える操舵反力モータとが設けられ、前記操舵角センサの検出した操舵角を基に、車両に装備された他のセンサ類からの運転状態検出信号と合わせて転舵角の指令信号を生成し、タイロッド間シャフトを駆動する転舵機構の転舵モータを制御するステアリング制御手段を有するステアバイワイヤ式操舵装置において、
操舵方向と転舵反力の方向とが異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定し、この正逆に応じて前記操舵反力モータの操舵反力を制御する操舵反力制御部を設けたことを特徴とするステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記転舵機構に作用する転舵反力を検出する転舵反力検出手段と、操舵方向を検出する操舵方向検出手段とを設け、前記操舵反力制御部は、定められた規則に従って前記操舵モータの操舵反力の目標値を演算する操舵目標値演算部と、前記操舵方向検出手段で検出される操舵方向が前記転舵反力検出手段で検出される転舵反力の方向と異なる場合には正入力、同方向の場合には逆入力と判定する入力正逆判定部と、前記入力正逆判定部の判定結果となる正逆に応じて前記操舵目標値演算部による演算内容を変更する正逆対応処理部とを有するステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項3】
請求項2において、前記操舵方向検出手段が前記操舵角センサであるステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記転舵反力検出手段が、転舵モータのトルク及び転舵変位量から、定められた推定式に従って転舵反力を推定するものであり、前記正逆対応処理部は、前記入力正逆判定部で判定された正入力または逆入力によって、前記推定式における転舵反力を推定する係数を変更する機能を有するステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項5】
請求項4において、前記転舵反力検出手段で検出された転舵反力の検出信号を通過させるフィルタとして、カットオフ周波数の変更可能なローパスフィルタを設け、このローパスフィルタ通して得られた転舵反力を、前記操舵目標値演算部は目標操舵反力の基本値とするステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項6】
請求項5において、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、転舵反力が大きい時には高く、小さい時には低く設定されたステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を、切替え操作手段からの入力で変更することにより、ドライバーの好みに合わせて操舵フィーリングを変更できるようにするカットオフ周波数変更手段を設けたステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項8】
請求項2ないし請求項7のいずれか1項において、前記操舵反力制御部は、前記入力正逆判定部の判定結果が正入力の場合には操舵反力目標値に摩擦成分を付与し、逆入力の場合には付与しないものとしたステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項9】
請求項8において、前記操舵反力制御部は、転舵反力が大きいほど前記摩擦成分を小さく設定したものであるステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項10】
請求項2ないし請求項9のいずれか1項において、前記操舵反力制御部は、操舵反力目標値に加える粘性項の係数が、前記入力正逆判定部の判定結果が逆入力の場合に、正入力の場合より大きい値に設定されたステアバイワイヤの操舵反力制御装置。
【請求項11】
請求項10において、前記操舵反力制御部は、転舵反力が大きいほど前記粘性項の係数が小さく設定されたステアバイワイヤの操舵反力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131246(P2012−131246A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282595(P2010−282595)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】