説明

ステアバイワイヤ式操舵装置

【課題】 車輪を転舵する転舵モータが失陥しても、トー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができるステアバイワイヤ式操舵装置を提供する。
【解決手段】 転舵用の操舵軸10と機械的に連結されないステアリングホイールと、操舵角センサと、操舵反力モータと、転舵モータおよび操舵反力モータを制御するステアリング制御部とを備える。転舵モータ6から操舵軸10に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構18のほか、トー角調整用モータ7から操舵軸10に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構28を設ける。転舵モータ6が失陥したとき、転舵モータ6の転舵動力伝達機構18からの切り離し、トー角調整動力伝達機構28の固定、トー角調整用モータ7による転舵を行なわせる切換手段17を、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構28の途中部分に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアバイワイヤ式操舵装置において、操舵輪を転舵する転舵モータが失陥しても、補助モータによって操舵輪を転舵するように構成したものが提案されている(特許文献1)。
また、前輪系統または後輪系統における左右輪を独立に転舵するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、異常時に前記左右輪のそれぞれをトーインあるいはトーアウト状態に制御して制動力を得る方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−349845号公報
【特許文献2】特開2005−263182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術は、転舵モータの失陥時に補助モータを作動させるフェールセーフ機能を持たせたものであるが、転舵モータが正常である場合、補助モータは一切機能しておらず不経済である。
また、特許文献2に開示の技術は、各輪を独立に転舵する方法であるが、異常が生じた車輪は制御不能になるため、正常に転舵して危険回避する動作が取れないという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、車輪を転舵する転舵モータが失陥しても、トー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができるステアバイワイヤ式操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵モータ、およびこの転舵モータから前記操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータから前記操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設けると共に、前記転舵モータが失陥したとき、転舵モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、前記トー角調整動力伝達機構を固定して、前記トー角調整用モータで転舵を行なわせる切換手段を前記転舵動力伝達機構および前記トー角調整動力伝達機構の途中部分に設けたことを特徴とする。
この構成によると、転舵モータ、およびこの転舵モータから操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータから操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設けると共に、転舵モータが失陥したとき、転舵モータを転舵動力伝達機構から切り離し、トー角調整動力伝達機構を固定して、トー角調整用モータで転舵を行なわせる切換手段を、前記転舵動力伝達機構および前記トー角調整動力伝達機構の途中部分に設けているので、車輪を転舵する転舵モータが失陥しても、トー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができる。また、転舵モータが正常である場合にも、トー角調整用モータは車輪のトー角を調整する駆動源として働くので、転舵モータが失陥したときだけ動作させる補助モータを設ける従来例の場合に比べて経済的な構成とすることができる。
【0007】
この発明において、前記操舵軸はその一部にボールねじ部を有し、前記転舵動力伝達機構は前記ボールねじ部に螺合するボールナットを有し、このボールナットの回転駆動で転舵軸を軸方向に移動させて転舵を行うものとしても良い。
【0008】
この発明において、前記操舵軸はその一部にスプライン歯を有し、前記トー角調整動力伝達機構は前記スプライン歯に噛み合うスプラインナットを有し、このスプラインナットの回転駆動で転舵軸をその軸方向移動を許容しつつ回転させて、操舵軸からのタイロッドの突出長を変えることでトー角を調整するものとしても良い。
【0009】
この発明において、前記スプライン歯とスプラインナットとが滑り接触しているものであっても、転がり接触しているものであっても良い。
【0010】
この発明において、前記トー角調整動力伝達機構は、前記操舵軸の両端に形成され前記タイロッドが螺合するトー角調整用ねじ部を有し、操舵軸の回転で操舵軸からのタイロッドの突出長を変えるものとしても良い。
【0011】
この発明において、前記操舵軸の両端のトー角調整用ねじ部は互いに逆ねじとし、操舵軸の一方向への回転で左右のタイロッドが突出し、操舵軸の他方向への回転で左右のタイロッドが後退するものとしても良い。
【0012】
この発明において、前記トー角調整用ねじ部が台形ねじであっても良い。
【0013】
この発明において、前記トー角調整用ねじ部に廻り止めが設けられていても良い。
【0014】
この発明において、前記切換手段は、前記転舵動力伝達機構の中間ギヤがスプライン嵌合する第1の中間軸と、前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤがスプライン嵌合し前記第1の中間軸に隣接して第1の中間軸と同軸上に配置される第2の中間軸と、ハウジングのスプラインハブに嵌合し前記第2の中間軸に隣接して第2の中間軸と同軸上に配置される第3の中間軸と、転舵モータが失陥したとき、前記第1,第2および第3の中間軸を軸方向に移動させる直動アクチュエータとを備え、この直動アクチュエータの作動により、前記第1の中間軸を前記転舵動力伝達機構の中間ギヤから切り離し、代わりに前記第2の中間軸を転舵動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させることで、前記トー角調整用モータでの転舵を可能とすると共に、前記第3の中間軸をトー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させることで、トー角調整動力伝達機構を固定するものとしても良い。
【0015】
この発明において、前記直動アクチュエータがリニアソレノイドであっても、油圧シリンダであっても、エアシリンダであっても良い。
【0016】
この発明において、前記各中間軸のスプライン歯先端の形状を鋭角形状としても良いし、歯先凸部の無いテーパ状としても良い。この構成の場合、前記切換手段による切換を円滑に行うことができる。
【0017】
この発明において、前記各中間軸の互いに対向する軸端間にスラスト軸受を配置して、各中間軸を相対回転可能としても良い。
【0018】
この発明において、前記切換手段は、前記転舵モータが失陥したときに、各中間軸を移動させながら、前記第2の中間軸をスプライン歯1ピッチ分以上回転させて、前記第3の中間軸と前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤの歯の位相を揃える補正動作を行うことで、前記第3の中間軸をトー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させるものとしても良い。
【0019】
この発明において、前記切換手段は、前記転舵モータが失陥したときに、前記第1の中間軸を前記転舵動力伝達機構の中間ギヤから切り離し、代わりに前記第2の中間軸を転舵動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作に対して、前記第3の中間軸を前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作を遅らせるものとしても良い。この構成の場合、切換手段による切換動作を円滑に行うことができる。
【0020】
この発明において、前記第3の中間軸の前記第2の中間軸に対向する端部に、スプライン歯先よりも軸端に突出するスプライン歯底半径以下の半径の円筒部を設けることで、前記第3の中間軸を前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作を遅らせるものとしても良い。
【0021】
この発明において、前記トー角調整用モータの最大発生トルクを前記転舵モータの最大発生トルクよりも小さくしても良い。
トー角調整用モータによるトー角調整および転舵モータ失陥のときの転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に転舵モータに必要なトルクよりもはるかに小さいものである。したがって、トー角調整用モータは、転舵モータよりも小型のもので良い。
【発明の効果】
【0022】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵モータ、およびこの転舵モータから前記操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータから前記操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設けると共に、前記転舵モータが失陥したとき、転舵モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、前記トー角調整動力伝達機構を固定して、前記トー角調整用モータで転舵を行なわせる切換手段を前記転舵動力伝達機構および前記トー角調整動力伝達機構の途中部分に設けたため、車輪を転舵する転舵モータが失陥しても、トー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同ステアバイワイヤ式操舵装置における操舵軸駆動部の正常動作時の断面図である。
【図3】同操舵軸駆動部における転舵モータ失陥時の断面図である。
【図4】同操舵駆動部における正常動作時の部分拡大断面図である。
【図5】同操舵駆動部における正常動作時の他の部分拡大断面図である。
【図6】同操舵駆動部における転舵モータ失陥時の部分拡大断面図である。
【図7】同操舵駆動部における転舵モータ失陥時の他の部分拡大断面図である。
【図8】通常のスプライン軸のスプライン歯の歯先形状を示す説明図である。
【図9】(A)は前記操舵駆動部の中間軸の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図10】(A)は同操舵軸駆動部の中間軸の他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図11】(A)は同操舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【図12】(A)は同操舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このステアバイワイヤ式操舵装置は、図1に概略図で示すように、運転者が操舵するステアリングホイール1と、操舵角センサ2と、操舵トルクセンサ3と、操舵反力モータ4と、左右の車輪13にナックルアーム12およびタイロッド11を介して連結された転舵用の軸方向移動自在な操舵軸10と、この操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14と、転舵角センサ8と、ステアリング制御部5aを含むECU(電気制御ユニット)5とを備える。ECU5およびそのステアリング制御部5aは、マイクロコンピュータおよびその制御プログラムを含む電子回路等により構成される。
【0025】
ステアリングホイール1は、転舵用の操舵軸10と機械的に連結されていない。ステアリングホイール1に対して、操舵角センサ2および操舵トルクセンサ3が設けられ、操舵反力モータ4が接続されている。操舵角センサ2は、ステアリングホイール1の操舵角を検出するセンサである。操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に作用する操舵トルクを検出するセンサである。操舵反力モータ4は、ステアリングホイール1に反力トルクを付与するモータである。
【0026】
図2は、操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14の正常時の詳細を断面図で示す。この操舵軸駆動部14には、操舵軸10を軸方向に移動させて車輪13の転舵を行う転舵機構15と、車輪13のトー角調整を行うトー角調整機構16と、切換手段17とが設けられている。
【0027】
前記転舵機構15は、転舵モータ6と、この転舵モータ6から操舵軸10に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構18とを備える。転舵モータ6は、その出力軸6aが操舵軸10と平行となる姿勢で、操舵軸駆動部14のハウジング19に支持されている。操舵軸10の一部(図2の右側部分)にはボールねじ部10aが形成されている。転舵動力伝達機構18は、転舵モータ6の出力軸6aに固定された出力ギヤ20と、操舵軸10と平行に配置された第1の中間軸37の一部にスプライン嵌合され前記出力ギヤ20に噛み合う第1の中間ギヤ21Aと、前記第1の中間軸37の他部にスプライン嵌合して取付けられる第2の中間ギヤ21Bと、前記操舵軸10のボールねじ部10aに螺合するボールナット23と、このボールナット23に固定され前記第2の中間ギヤ21Bに噛み合う入力ギヤ22とでなる。これにより、転舵モータ6の回転出力は、出力ギヤ20、第1の中間ギヤ21A、第1の中間軸37、第2の中間ギヤ21B、入力ギヤ22を経てボールナット23に伝達され、ボールナット23の回転が操舵軸10の軸方向への移動に変換されて転舵が行なわれる。
【0028】
第1の中間ギヤ21Aは転がり軸受24を介して前記ハウジング19に支持されている。第1の中間ギヤ21Aはキー25を介して第1の中間軸37に嵌合されている。また、第2の中間ギヤ21Bも第1の中間軸37にスプライン嵌合されていることから、第1の中間軸37の軸方向への移動が許容される。第2の中間ギヤ21Bは別の転がり軸受26を介して前記ハウジング19に支持されている。入力ギヤ22も、転がり軸受27を介して前記ハウジング19に支持されている。
【0029】
前記トー角調整機構16は、トー角調整用モータ7と、このトー角調整用モータ7から操舵軸10に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構28とを備える。トー角調整用モータ7は、その出力軸7aが操舵軸10と平行となる姿勢で、操舵軸駆動部14のハウジング19に支持されている。操舵軸10の一部(図2の左側部分)にはスプライン歯10bが形成されている。トー角調整動力伝達機構28は、トー角調整用モータ7の出力軸7aに固定された出力ギヤ29と、操舵軸10と平行で前記第1の中間軸37に隣接して第1の中間軸37と同軸上に配置された第2の中間軸38の一部に嵌合され、前記出力ギヤ29に噛み合う第1の中間ギヤ31Aと、前記第2の中間軸38の他部にスプライン嵌合して取付けられる第2の中間ギヤ31Bと、前記操舵軸10のスプライン歯10bに嵌合するスプラインナット33と、このスプラインナットに固定され前記第2の中間ギヤ31Bに噛み合う入力ギヤ32とでなる。これにより、トー角調整用モータ7の回転出力は、出力ギヤ29、第1の中間ギヤ31A、第2の中間軸38、第2の中間ギヤ31B、入力ギヤ32を経てスプラインナット33に伝達され、スプラインナット33の回転で操舵軸10が回転されて後述するトー角調整用ねじ部10cの作用で車輪13のトー角調整が行なわれる。操舵軸10のスプライン歯10bとスプラインナット33は、滑り接触しているものであっても転がり接触しているものであっても良い。第1の中間軸37と第2の中間軸38とは、互いに対向する軸端間にスラスト軸39(図4)を配置して押し当てられる。これにより、両中間軸37,38が相対回転可能となるようにされている。
【0030】
第1の中間ギヤ31Aは転がり軸受34を介して前記ハウジング19に支持されている。第1の中間ギヤ31Aはキー30を介して第2の中間軸38に嵌合され、第2の中間ギヤ31Bも第2の中間軸38にスプライン嵌合されていることから、第2の中間軸38の軸方向への移動が許容される。第2の中間ギヤ31Bは別の転がり軸受35を介して前記ハウジング19に支持されている。入力ギヤ32も、転がり軸受36を介して前記ハウジング19に支持されている。
【0031】
トー角調整機構16は、前記トー角調整用モータ7およびトー角調整動力伝達機構28とは別に、操舵軸10の両端に形成され左右のタイロッド11がそれぞれ螺合するトー角調整用ねじ部10cを備える。これらのトー角調整用ねじ部10cは互いに逆ねじとした雌ねじ部からなり、操舵軸10の一方向への回転で左右のタイロッド11が互いに突出し、操舵軸10の他方向への回転で左右のタイロッド11が互いに後退するようにされている。トー角調整用ねじ部10cは、例えば台形ねじとされる。また、トー角調整用ねじ部10cには廻り止めが設けられていても良い。
【0032】
切換手段17は、転舵モータ6が失陥したとき、転舵モータ6を前記転舵動力伝達機構18から切り離すと共に、トー角調整動力伝達機構28を固定して、トー角調整用モータ7を駆動源として転舵を行なわせる手段である。この切換手段17は、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構28の途中部分に設けられる。切換手段17は、前記第1および第2の中間軸37,38を軸方向に移動させる直動アクチュエータ42と、トー角調整動力伝達機構28を固定する固定機構43とを備える。直動アクチュエータ42は、例えばリニアソレノイド、あるいは油圧シリンダ、あるいはエアシリンダからなり、その作用ロッド42aが第1の中間軸37の第2の中間軸38に押し当てられる端部とは反対側の端部に押し当てられる。第1の中間軸37と直動アクチュエータ4 2の作用ロッド42aの互いに対向する軸端間には図示しないスラスト軸受が配置され、これにより作用ロッド42aに対して第1の中間軸37が回転自在となるようにされている。
【0033】
切換手段17の前記固定機構43は、ハウジング19に設けられたスプラインハブ44にスプライン嵌合し、第2の中間軸37に隣接して第1および第2の中間軸37,38と同軸上に配置される第3の中間軸45と、この第3の中間軸45を第2の中間軸38を押す進出側に弾性付勢するコイルばね46とでなる。第3の中間軸45と第2の中間軸37の互いに対向する軸端間にはスラスト軸受41(図5)が配置され、これにより第3の中間軸45に対して第2の中間軸38が回転自在となるようにされている。
【0034】
転動モータ6が正常である場合を示す図2の状態は、直動アクチュエータ42が作動しない状態である。このとき、図4に拡大して示すように、転舵動力伝達機構18の第2の中間ギヤ21Bの内歯21Baが第1の中間軸37のスプライン歯37aにスプライン嵌合している。また、図5に拡大して示すように、トー角調整動力伝達機構28の第2の中間ギヤ31Bの内歯31Baが第2の中間軸38のスプライン歯38bにスプライン嵌合している。
【0035】
図3は、直動アクチュエータ42が作動した状態、つまり転舵モータ6が失陥したときの状態を示す。このとき、直動アクチュエータ42の作動ロッド42aが後退して、第1および第2の中間軸37,38は固定機構43を構成する第3の中間軸45に押されて、同図の右側に向けて軸方向に移動する。この移動により、転舵動力伝達機構18では、図6に拡大して示すように、それまで第1の中間軸37のスプライン歯37aに嵌合していた第2の中間ギヤ21Bが嵌合解除され、これに代わって第2の中間軸38のスプライン歯38aに第2の中間ギヤ21Bの内歯21Baが嵌合する。すなわち、転舵機構15の駆動源として、転舵モータ6に代わってトー角調整用モータ7が転舵動力伝達機構18に接続される。一方、トー角調整動力伝達機構28では、図7に拡大して示すように、それまで第2の中間軸38のスプライン歯38bに嵌合していた第2の中間ギヤ31Bが嵌合解除され、これに代わって第3の中間軸45のスプライン歯45aに第2の中間ギヤ31Bの内歯31Baが嵌合する。すなわち、トー角調整用モータ7がトー角調整動力伝達機構28から切り離されると共に、トー角調整動力伝達機構28が固定機構43で固定される。
【0036】
ECU5のステアリング制御部5aは、操舵反力モータ4、転舵モータ6、トー角調整用モータ7および切換手段17の直動アクチュエータ42を制御する。すなわち、ステアリング制御部5aは、操舵角センサ2の検出する操舵角の信号、図示しない車速センサの検出する車輪回転速度の信号、および運転状態を検出する各種センサの信号に基づいて目標操舵反力を設定し、実際の操舵反力トルクが目標操舵反力に一致するように操舵トルクセンサ3の検出する操舵トルクの信号をフィードバックして、操舵反力モータ4を制御する。また、ステアリング制御部5aは、転舵モータ6が失陥したとき、切換手段17を構成する直動アクチュエータ42を作動させて、転舵動力伝達機構18からの転舵モータ6の切り離し、トー角調整動力伝達機構28の固定、およびトー角調整用モータ7による転舵を行なわせる。
【0037】
次に、このステアバイワイヤ式操舵装置の操舵軸駆動部14での動作を説明する。転舵モータ6が正常の場合には、図2のように、転舵モータ6の出力軸6aの回転が転舵動力伝達機構18を介してボールナット23に伝達されると共に、トー角調整用モータ7の出力軸7aの回転がトー角調整動力伝達機構28を介してスプラインナット33に伝達される。操舵軸10のボールねじ部10aに螺合するボールナット23の回転は、操舵軸10を軸方向に移動させ、これにより車輪13の操舵が行なわれる。トー角調整動力伝達機構28のスプラインナット33は、操舵軸10のスプライン歯10bにスプライン嵌合しているので、操舵軸10の軸方向移動が許容される。操舵軸10のスプライン歯10bに嵌合するスプラインナット33の回転は操舵軸10を回転させ、この回転により操舵軸10の両端のトー角調整用ねじ部10cに螺合しているタイロッド11が進退して、トー角調整が行なわれる。
【0038】
転舵モータ6が失陥した場合、ECU5のステアリング制御部5aからの指令により、切換手段17を構成する直動アクチュエータ42が作動して、その作動ロッド42aが後退する。これにより固定機構43の第3の中間軸45がコイルばね46の付勢で押し出されて、第2および第3の中間軸37,38が図3のように軸方向右側に移動する。このとき、転舵動力伝達機構18の第2の中間ギヤ21Bから第1の中間軸37が嵌合解除される代わりに、第2の中間軸38が前記中間ギヤ21Bに嵌合し、転舵機構15の駆動源は転舵モータ6からトー角調整用モータ7に切り替えられる。
【0039】
一方、トー角調整動力伝達機構28では、その第2の中間ギヤ31Bから第2の中間軸38が嵌合解除される代わりに、固定機構43の第3の中間軸45が前記中間ギヤ31Bに嵌合し、トー角調整動力伝達機構28は固定状態に保たれる。すなわち、車輪13のトー角は一定に保たれる。
【0040】
上記切換動作を円滑に行うために、第1の中間軸37のスプライン歯37a、第2の中間軸38のスプライン歯38a,38b、および第3の中間軸45のスプライン歯45aは、図8に示す通常のスプライン軸50におけるスプライン歯50aのように歯先の形状を平坦な形状とせず、例えば図9や図10に示すように、その歯先の形状を鋭角状とするのが望ましい。あるいは、他の例として、図11や図12に示すように、スプライン歯37a,38a,38b,45aの歯先の形状を歯先凸部の無いテーパ状とするのが望まし。
【0041】
また、上記切換動作では、第1および第2の中間軸37,38を軸方向に移動させながら、第2の中間軸38をそのスプライン歯38bの1ピッチ分以上回転させて、第3の中間軸45のスプライン歯45aとトー角調整動力伝達機構28における第2の中間ギヤ31Bの内歯31Baの位相を揃える補正動作が行なわれる。このような補正動作を行うことで、トー角調整動力伝達機構28の固定のための前記中間ギヤ31Bへの第3の中間軸45の嵌合を誤動作無く円滑に行うことができる。
【0042】
また、上記切換動作では、第1の中間軸37を転舵動力伝達機構18の第2の中間ギヤ21Bから切り離し、代わりに第2の中間軸38を前記中間ギヤ21Bにスプライン嵌合させる動作に対して、第3の中間軸45をトー角調整動力伝達機構28の第2の中間ギヤ31Bにスプライン嵌合させる動作を遅らせるように行なわれる。これにより、転舵のための駆動源を転操モータ6からトー角調整用モータ7に切り替える動作が完了してから、トー角調整動力伝達機構28を固定する動作が行なわれるので、これらの動作を誤動作なく正確に行うことができる。
【0043】
このような動作のタイムラグを設定するために、第3の中間軸45の第2の中間軸38に対向する端部に、例えば、図10や図12に示すように、スプライン歯45aの歯先よりも軸端に突出するスプライン歯45a底半径以下の半径の円筒部45bを設けても良い。このような円筒部45bを設けることにより、第3の中間軸45の前記中間ギヤ31Bへの嵌合を確実に遅らせることができる。
【0044】
このように、このステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵モータ6、およびこの転舵モータ6から操舵軸10に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構18とは別に、トー角調整用モータ7と、このトー角調整用モータ7から操舵軸10に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構28を設けると共に、転舵モータ6が失陥したとき、転舵モータ6を転舵動力伝達機構18から切り離し、トー角調整動力伝達機構28を固定して、トー角調整用モータ7で転舵を行なわせる切換手段17を、前記転舵動力伝達機構18および前記トー角調整動力伝達機構28の途中部分に設けているので、車輪13を転舵する転舵モータ6が失陥しても、トー角調整用モータ7を転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができる。また、転舵モータ6が正常である場合にも、トー角調整用モータ7は車輪13のトー角を調整する駆動源として働くので、転舵モータ6が失陥したときだけ動作させる補助モータを設ける従来例の場合に比べて経済的な構成とすることができる。
【0045】
なお、トー角調整用モータ7によるトー角調整および転舵モータ6の失陥のときの転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に転舵モータ6に必要なトルクよりもはるかに小さなものである。したがって、トー角調整用モータ7は、転舵モータ6よりも小型のもので良い。
【符号の説明】
【0046】
1…ステアリングホイール
2…操舵角センサ
4…操舵反力モータ
5a…ステアリング制御部
6…転舵モータ
7…トー角調整用モータ
10…操舵軸
10a…ボールねじ部
10b…スプライン歯
10c…トー角調整用ねじ部
11…タイロッド
17…切換手段
18…転舵動力伝達機構
19…ハウジング
21B…転舵動力伝達機構の中間ギヤ
23…ボールナット
28…トー角調整動力伝達機構
31B…トー角調整動力伝達機構の中間ギヤ
33…スプラインナット
37…第1の中間軸
38…第2の中間軸
37a,38a,38b…スプライン歯
39,41…スラスト軸受
42…直動アクチュエータ
44…スプラインハブ
45…第3の中間軸
45a…スプライン歯
45b…第3の中間軸の円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記転舵モータ、およびこの転舵モータから前記操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータから前記操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設けると共に、前記転舵モータが失陥したとき、転舵モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、前記トー角調整動力伝達機構を固定して、前記トー角調整用モータで転舵を行なわせる切換手段を前記転舵動力伝達機構および前記トー角調整動力伝達機構の途中部分に設けたことを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記操舵軸はその一部にボールねじ部を有し、前記転舵動力伝達機構は前記ボールねじ部に螺合するボールナットを有し、このボールナットの回転駆動で転舵軸を軸方向に移動させて転舵を行うものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記操舵軸はその一部にスプライン歯を有し、前記トー角調整動力伝達機構は前記スプライン歯に噛み合うスプラインナットを有し、このスプラインナットの回転駆動で転舵軸をその軸方向移動を許容しつつ回転させて、操舵軸からのタイロッドの突出長を変えることでトー角を調整するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項4】
請求項3において、前記スプライン歯とスプラインナットとが滑り接触しているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項5】
請求項3において、前記スプライン歯とスプラインナットとが転がり接触しているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項6】
請求項3において、前記トー角調整動力伝達機構は、前記操舵軸の両端に形成され前記タイロッドが螺合するトー角調整用ねじ部を有し、操舵軸の回転で操舵軸からのタイロッドの突出長を変えるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項7】
請求項6において、前記操舵軸の両端のトー角調整用ねじ部は互いに逆ねじとし、操舵軸の一方向への回転で左右のタイロッドが突出し、操舵軸の他方向への回転で左右のタイロッドが後退するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項において、前記トー角調整用ねじ部が台形ねじであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項9】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項において、前記トー角調整用ねじ部に廻り止めが設けられているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記切換手段は、前記転舵動力伝達機構の中間ギヤがスプライン嵌合する第1の中間軸と、前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤがスプライン嵌合し前記第1の中間軸に隣接して第1の中間軸と同軸上に配置される第2の中間軸と、ハウジングのスプラインハブに嵌合し前記第2の中間軸に隣接して第2の中間軸と同軸上に配置される第3の中間軸と、転舵モータが失陥したとき、前記第1,第2および第3の中間軸を軸方向に移動させる直動アクチュエータとを備え、この直動アクチュエータの作動により、前記第1の中間軸を前記転舵動力伝達機構の中間ギヤから切り離し、代わりに前記第2の中間軸を転舵動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させることで、前記トー角調整用モータでの転舵を可能とすると共に、前記第3の中間軸をトー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させることで、トー角調整動力伝達機構を固定するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項11】
請求項10において、前記直動アクチュエータがリニアソレノイドであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項12】
請求項10において、前記直動アクチュエータが油圧シリンダであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項13】
請求項11において、前記直動アクチュエータがエアシリンダであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項14】
請求項10ないし請求項13のいずれか1項において、前記各中間軸のスプライン歯先端の形状を鋭角形状としたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項15】
請求項10ないし請求項13のいずれか1項において、前記各中間軸のスプライン歯先端の形状を歯先凸部の無いテーパ状としたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項16】
請求項10ないし請求項15のいずれか1項において、前記各中間軸の互いに対向する軸端間にスラスト軸受を配置して、各中間軸を相対回転可能としたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項17】
請求項10ないし請求項16のいずれか1項において、前記切換手段は、前記転舵モータが失陥したときに、各中間軸を移動させながら、前記第2の中間軸をスプライン歯1ピッチ分以上回転させて、前記第3の中間軸と前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤの歯の位相を揃える補正動作を行うことで、前記第3の中間軸をトー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項18】
請求項10ないし請求項17のいずれか1項において、前記切換手段は、前記転舵モータが失陥したときに、前記第1の中間軸を前記転舵動力伝達機構の中間ギヤから切り離し、代わりに前記第2の中間軸を転舵動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作に対して、前記第3の中間軸を前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作を遅らせるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項19】
請求項18において、前記第3の中間軸の前記第2の中間軸に対向する端部に、スプライン歯先よりも軸端に突出するスプライン歯底半径以下の半径の円筒部を設けることで、前記第3の中間軸を前記トー角調整動力伝達機構の中間ギヤにスプライン嵌合させる動作を遅らせるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項において、前記トー角調整用モータの最大発生トルクを前記転舵モータの最大発生トルクよりも小さくしたステアバイワイヤ式操舵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−163016(P2010−163016A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6254(P2009−6254)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】