説明

ステアリングホイールに模様を転写する転写方法と転写用シート

【課題】立体曲面をなすステアリングホイールの広い面積にもシワができないように綺麗な模様を転写する。
【解決手段】転写方法は、ステアリングホイール1の表面側に転写用シート2を配置し、裏面側の圧力を表面側の圧力よりも低くして、転写用シート2をステアリングホイール1の表面に密着させて転写用シート2のインクを転写する。転写用シート2は、破断時伸度を30%以上として弾性回復率を10%以下とするエラストマー基材シート21の表面に、離型層22を介してインク層24を設けたもので、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール1の全周をカバーできる幅を有する。細長い転写用シート2をステアリングホイール1に沿って配設し、ステアリングホイール1の表面に密着させる状態で加熱して、インクドット24Aをステアリングホイール1に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形法において、転写用シートの模様を、自動車、ヨット、クルーザー等のステアリングホイールの表面に転写する方法と、この方法に使用する転写用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
高級車には、木製のステアリングホイールが使用される。木製のステアリングホイールは、高級な木材を円形に加工して内部に金属製の芯材を埋設している。この構造のステアリングホイールは、天然木に独特の美しい木目柄の模様を表面に装飾する。天然木として、メープルやウォールナットを使用している。これ等の天然木は、美しい木目柄のものとそうでないものとがある。極めて美しい木目柄である一級品の天然木を使用して製作されるステアリングホイールと、三級品の天然木を使用して製作されるステアリングホイールでは、製造工程は同じであっても、ステアリングホイールとしての商品価値は著しく異なる。三級品の天然木を使用して、一級品のステアリングホイールとするために、天然木の表面に、インクで美しい木目柄を表示する方法が提案されている。
【0003】
この方法を実現するための転写方法として、転写用シートを使用してステアリングホイール表面に木目柄を付着する真空成形法と、水圧転写法で模様を付着する方法(特許文献1参照)とが開発されている。
【0004】
従来の真空成形法は、真空成形温度の60〜80℃に加温されて良く伸びて立体曲面に沿う転写用シートの基材シートとして、塩化ビニル系樹脂やポリオレフイン系樹脂、ポリエステル系樹脂シートを使用する。この転写用シートを使用して、例えばステアリングホイールに模様を転写すると、この転写用シートを使用してステアリングホイールに模様を転写するとき、転写用シートを円形ステアリングホイールの全周には密着できず、表面側と裏面の一部までにしか模様を転写できない。さらに、従来の転写用シートは、ステアリングホイールに広い面積で接触させると、ステアリングホイールの裏面でシワがきて、綺麗な模様に転写できない。このため、ステアリングホイールの円柱状の全周360度に切れ目無く木目模様を転写できない。シワができる状態で転写用シートをステアリングホイールに付着させると、シワの部分で木目柄を綺麗に付着できなくなる。
【0005】
水圧転写法は、水面にインクを木目柄に浮かせてこれをステアリングホイール表面に付着させる。この方法は、転写フィルムのようにシワによる模様の品質低下がない。ただ、この方法もステアリングホイールの表面に綺麗に木目柄を付着するのは極めて難しい。また、転写用シートと同じように、ステアリングホイール表面に薄膜の木目柄を付着するので、スクリーンメッシュがあって天然木と同じ模様にはできない。このため、この方法によっても高級なステアリングホイールを製作できない。さらに、この方法は、転写フィルムよりも木目柄を安定して付着するのが難しく、剥がれないように綺麗に木目柄を転写するのが難しい。このため、能率よく高級なステアリングホイールを安価に量産できない欠点がある。
【0006】
さらにまた、水圧転写法の最大の欠点は、転写環境に水を使用するので、水濡れを嫌う素材には使用できない。たとえば、木材の表面に模様を水圧転写すると木材が吸湿して綺麗な模様にできない欠点がある。
【0007】
本出願人は、このような欠点を解消する方法を開発した(特願2005−115091号)。この転写方法は、ステアリングホイールの表面に転写用シートを配置し、転写用シートがステアリングホイールと対向する裏面側の圧力を反対側の圧力より低くして、転写用シートを被転写体の表面に密着させて、転写用シートのインクを被転写体に転写する。転写用シートは、破断時伸度が常温で600%以上、かつ弾性回復率が10%以下とするウレタン系基材シートの表面に離型層を介してインク層を設けたものである。この転写方法は、この転写用シートを被転写体の表面に密着する状態で加熱し、インクドットを溶融、拡大してインクドットの間隔を減少させながら被転写体に模様を転写する。
【特許文献1】特願2005-115091号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この転写方法は、ステアリングホイールの全周に模様を転写するのが難しく、また、模様のつなぎ合わせ面の近傍における模様の歪が大きく、境界部分で伸び模様が不自然な形状となる欠点があった。さらに、以上の転写方法は、ステアリングホイールの長手方向の全周に模様を転写するのが難しく、また転写用シートの無駄が多く転写用シートのコストが高くなる欠点があった。
【0009】
本発明の目的は、簡単にステアリングホイールの横方向の全周に模様を転写できると共に、模様のつなぎ合わせ面の近傍における模様の歪が少なく、境界部分で模様を自然な形状にでき、さらに、ステアリングホイールの長手方向の全周に長く模様を転写することができ、しかも、転写用シートを有効に無駄なく使用して転写用シートのコストを低減でき、さらに転写用シートの伸縮差による模様の濃淡を少なくして模様を綺麗に転写できる転写方法と転写用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の目的を達成するために以下の構成を備える。
本発明の請求項1に記載しているステアリングホイールに模様を転写する転写方法は、ステアリングホイール1の表面に転写用シート2を配置し、転写用シート2がステアリングホイール1と対向する裏面側の圧力をその反対側の表面側の圧力よりも低くして、転写用シート2をステアリングホイール1の表面に密着させて、転写用シート2のインクをステアリングホイール1に転写する。この方法に使用される転写用シート2は、破断時伸度を30%以上として弾性回復率を10%以下とするエラストマー基材シート21の表面に、離型層22を介してインク層24を設けたものである。さらに、転写用シート2には、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール1の横断面における全周をカバーできる幅を有するシートを使用する。細長い転写用シート2をステアリングホイール1に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール1の全周をカバーするようにステアリングホイール1の表面に密着させる。この状態でインクドット24Aを転写する温度に加熱して、インクドット24Aからなるインク層24を転写して、ステアリングホイールに模様を転写する。
【0011】
本明細書において、転写用シートの破断時伸度は、幅15mm、長さ(チャック間距離)100mmの転写用シートを500mm/minの速度で伸長してこれが破断を開始するときの伸びた長さの基準長に対する比率を意味する。仮に、破断時伸度が30%の転写用シートは、伸びた長さが基準長の0.3倍となるので、全体の長さが1.3倍になるまで伸長されると破断する。
【0012】
また、本明細書において、弾性回復率は、以下の式で測定される値を意味する。
ただし、測定に使用する転写用シートの寸法は、幅15mm、長さ(チャック間距離)100mmとする。
弾性回復率(%)=〔(l−l)/l〕×100
この式において、lは初期の長さ、lは室温下で転写用シートを500mm/minの速度で、破断を開始する限界長さの90%(破断伸度が30%の場合は、全長が基準長の1.3×0.9倍となる長さ)まで伸長し、その後、500mm/minの速度で収縮させて歪みを解放した時の長さである。
この定義から、弾性回復率の数値が小さいほど、弾性回復性に優れている。すなわち、弾性回復率の小さい転写用シートは、引っ張って長く伸長した後、伸長しない状態とすると元の長さに近い値まで収縮できるシートとなる。
【0013】
本発明の転写方法は、転写用シート2を弾性的に伸長させる状態でステアリングホイール1の外周に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール1の全周をカバーするようにステアリングホイール1の表面に密着させ、この状態でインクドット24Aを転写する温度に加熱して、インクドット24Aからなるインク層24を転写して、ステアリングホイール1に模様を転写することができる。
【0014】
さらに、本発明の転写方法は、転写用シート2を、5〜30%伸長させる状態でステアリングホイール1の外周に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール1の全周をカバーするようにステアリングホイール1の表面に密着させ、この状態でインクドット24Aを転写する温度に加熱して、インクドット24Aからなるインク層24を転写して、ステアリングホイール1に模様を転写することができる。
【0015】
さらに、本発明の転写方法は、ステアリングホイール1の表面に密着する転写用シート2を、80〜120℃に加熱して、インクドット24Aを熱溶融して転写面積を拡開し、ドット間隙間24Bを減少することができる。
【0016】
また、本発明の転写方法は、熱可塑性エラストマー、又はゴムなどのエラストマーのシートを基材シート21とする転写用シート2を使用することができる。
【0017】
また、本発明の転写方法は、基材シート21に、オフセット印刷またはグラビア印刷のインク層24を設けている転写用シート2を使用することができる。
【0018】
さらにまた、本発明の転写方法は、転写用シート2として、エラストマー基材シート21の溶融温度よりも低い温度に加熱されて転写されるインクドット24Aからなる模様のインク層24を有するシートを使用することができる。
【0019】
本発明の請求項8に記載している写転用シートは、ステアリングホイール1の表面に圧力差で密着されて、離型層22を介して表面に設けているインク層24のインクドット24Aをステアリングホイール1の表面に転写する。この転写用シートは、破断時伸度が130%以上であって弾性回復率が10%以下であるエラストマー基材シート21の表面に、インクドット24Aからなる模様のインク層24を、離型層22を介して設けている。さらに、この転写用シートは、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール1の全周をカバーできる幅を有するシートとしている。この転写用シートは、ステアリングホイール1に沿って配設され、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール1の全周をカバーするようにステアリングホイール1の表面に密着される。さらに、密着状態で加熱されて、インクドット24Aからなるインク層24がステアリングホイール1に転写されて、ステアリングホイール1に模様を転写する。
【0020】
本発明の転写用シートは、インク層24のインクドット24Aを、エラストマー基材シート21の溶融温度よりも低い温度に加熱されて転写されるインクドット24Aとすることができる。
【0021】
本発明の転写用シートは、好ましくは、幅を8cm以上であって、20cm以下とする細長い帯状とする。8cmよりも狭い幅の転写用シートは、ステアリングホイールの全周に密着させるのが難しくなる。また、20cmよりも幅の広い転写用シートは、ステアリングホイールに密着させない面積が大きくなって、利用効率が低下する。幅を8cm以上20cm以下とする転写用シート2は、ステアリングホイール1の外周に沿って配置され、裏面側と表面側の圧力差でステアリングホイール1の全周に密着される。
【0022】
本発明の転写用シートは、80〜120℃に加熱される状態でインク層24のインクドット24Aを熱溶融させて、転写面積を拡開させて、ドット間隙間24Bを減少することができる。
【0023】
また、本発明の転写用シートは、熱可塑性エラストマー、又はゴムなどのエラストマーのシートを基材シート21とすることができる。
【0024】
さらにまた、本発明の転写用シート2は、基材シート21にオフセット印刷またはグラビア印刷しているインクドット24Aのインク層24を設けることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の転写方法と転写用シートは、立体曲面をなすステアリングホイールの広い面積にもシワができないように綺麗な模様を転写できる特長がある。それは、本発明が、転写用シートを、破断時伸度が30%以上であって弾性回復率が10%以下であるエラストマー基材シートの表面に、加熱すると転写されるインクドットで模様を設けたインク層を設けたものとしており、この転写用シートをステアリングホイールの表面に密着する状態で加熱して、ステアリングホイールに模様を転写しているからである。
【0026】
また、本発明は、模様のつなぎ合わせ面の近傍における模様の歪が少なく、模様のつながりが自然にできる。たとえば、模様を木目模様とする場合は、1本の木を曲げて加工したような天然木と識別できないほどの高級感、本物感を出すことが可能になる。また、ステアリングホイールの裏面における模様の伸びが水圧転写に較べて小さく、柄の伸びによるインク薄れができないため、つなぎ目を極めて綺麗に仕上げることができる。さらに、従来の水圧転写では、模様のつなぎ面が必ず転写正面の反対側にできるが、本発明は、模様のつなぎ位置を自由に設定でき、外観上目立ちぬくい位置に設定できるため、デザインの自由度が向上する。
【0027】
また、本発明は、従来の水圧転写法、メンブレン式真空成形法、インモールドコーティング法などに比較して、小さい転写用シートでステアリングホイールに模様を転写できる。従来の水圧転写法に使用される転写用シートは、ステアリングホイールの外形よりより大きなシートを必要とするが、本発明は、細長い転写用シートをステアリングホイールに沿って配設して模様を転写するので、転写用シートを小さくして、シート量を節約できる。
【0028】
また、本発明は、立体曲面を有するステアリングホイールや大きな凹凸のステアリングホイールであっても、局部的に伸延させて表面に密着させると共に、ステアリングホイールの裏面のように収縮させる部分においては、シートを収縮させてシワになるのを防止しながら密着できる。したがって、本発明では、複雑な立体曲面や絞りのあるステアリングホイールであっても、その表裏の面に転写用シートをシワにならないように密着させて、広い面積にわたって切れ目無く綺麗な模様を転写できる。このように、立体曲面のステアリングホイールの広い面積に一度に転写できる本発明の転写方法と転写用シートは、転写にかかるコストを低減して、美しい模様を能率よく安価に多量生産できる特長が実現できる。
【0029】
また、本発明は、転写環境として水を使用しないので、シワの発生を防止して、シワのない綺麗な模様を転写できると共に、水に弱い吸湿性素材の表面にも綺麗に転写できる特長がある。
【0030】
さらにまた、従来の水圧転写法、メンプレン式真空成形法、インモールドコーティング法などでは、エアーだまりやしわができると補修不可能であったが、本発明では、ステアリングホイールから基材シートを剥がしてインク層だけを転写できるので、従来では行えなかった不良部分だけの部分転写による補修が可能になり、仕上がりを綺麗にしながら、補修にかかるコストを低減できる特長がある。
【0031】
さらにまた、本発明では、ステアリングホイールの表面にインクドットによる模様を転写するので、その表面が透明シート等で被覆されることがなく、必要であれば、転写後に筆等でインクを塗布して補修することができ、複雑曲面のしわなども簡単に補修できる特長もある。
【0032】
さらにまた、本発明は転写用シートの利用効率を高くして製造コストを低減できる特徴がある。それは、転写用シートをステアリングホイールに沿う細長い形状としているからである。この転写用シートは、ステアリングホイールの外形よりも大きなシート状とする必要がなく、ステアリングホイールに沿ってU曲するように密着させて全周をカバーできる。このため、無駄が少なく、製造コストを低減できる。
【0033】
また、本発明は、転写用シートをU曲してステアリングホイールの表面に密着できるので、ステアリングホイールの部分による転写用シートの伸縮差を少なくできる。このため、伸縮差で発生する模様の濃淡を少なくできる。
【0034】
さらに本発明は、ステアリングホイールの全周に密着させて、模様が転写されない非転写面積を極減できる特徴がある。それは、転写用シートをU曲してステアリングホイールの表面に密着させるからである。また、転写用シートをU曲してステアリングホイールに密着させるために、転写用シートの裏面側を負圧とする空気の吸入開口の位置を、ステアリングホイールの背面側から中心側に移動させて、最適位置に移動できることも、非転写面積を極減することに効果がある。
【0035】
さらに、本発明の請求項2の転写方法と請求項9の転写用シートは、転写用シートを裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイールの全周をカバーするようにステアリングホイールの表面に密着させ、この状態でインクドットを加熱して、インクドットからなるインク層を転写して、ステアリングホイールに模様を転写するので、綺麗な模様を実現し、高級感、本物感を出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための転写方法と転写用シートを例示するものであって、本発明は転写方法と転写用シートを以下のものに特定しない。
【0037】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0038】
本発明者は、先に図1ないし図3に示す転写装置を開発した。この転写装置は、転写用シート2を裏面側と表面側の圧力差を利用してステアリングホイール1の表面に密着させる。この装置は、図1に示すように、ステアリングホイール1の上方に転写用シート2を配設し、これを図2に示すように圧力差でステアリングホイール1に密着させる。この転写用シート2は、ステアリングホイール1の外形よりも大きくする必要がある。このため、転写用シートが大きくなって高価になる。また、この転写用シートには大きいものを使用するが、中央部をステアリングホイールに密着させずに廃棄するので、有効に利用できる範囲が少なく、転写用シートの利用効率が悪くなる。
【0039】
また、図2に示すように、ステアリングホイール1の上面に転写用シート2を配設して圧力差で密着させる装置は、転写用シート2の伸縮がステアリングホイール1の表面で部分的に異なる。転写用シートは大きく伸長させる部分ではインク層を転写して設けられる模様の薄い色となり、伸縮の少ない部分では模様の色が濃くなって濃淡ができる。また、転写用シートをステアリングホイールの全周に密着させるのに高度な技術を要し、ステアリングホイールにインク層の転写されない部分を目だたない程度に小さくするのが難しい。
【0040】
図4ないし図6の転写装置は、さらに改良した装置であって、これ等の転写装置が、ステアリングホイール1の表面に木目模様等を転写する具体例を以下に示す。ただ、図4ないし図6に示す装置と、図1ないし図3に示す装置において、同じ番号を付している部材は、同じ働きをして転写用シートをステアリングホイールに転写する。
【0041】
図のステアリングホイール1は、細長い円柱をリング状に連結してなる円形リング31と、この円形リング31に連結しているスポーク32と、このスポーク32を介して中心に連結しているボス33を備える。ステアリングホイール1は、円形リング31の全周、すなわち円形リング31の断面の360度に木目等の模様転写するのは極めて難しい。図4ないし図6において、ステアリングホイール1は、下縁部分の転写が難しい。全周に転写用シート2を密着させるのが難しいからである。ステアリングホイール1の全周に模様を転写できる方法は、極めて複雑な立体曲面のステアリングホイールに美しい模様を転写できる。すなわち、本発明の方法と転写用シートは、転写が最も難しい立体曲面のステアリングホイール1に模様を綺麗に転写できる。
【0042】
図4ないし図6に示す転写装置は、転写用シート2の裏面側を真空に減圧する。裏面側の圧力が低下した転写用シート2は、大気圧である表面側の圧力で押圧されて、ステアリングホイール1の表面に密着される。これ等の図は、真空成形法で転写用シート2をステアリングホイール1の表面に転写する。
【0043】
以上の転写装置は、ステアリングホイール1をセットするセット台3と、このセット台3を内部に配置している本体ケース4と、この本体ケース4のセット台3にセットする転写用シート2で気密チャンバを設ける蓋ケース5と、本体ケース4の気密チャンバ内を減圧する真空ポンプ6と、セット台3にセットしている転写用シート2を加熱する加熱ランプ7と、気密チャンバを開閉する開閉機構8とを備える。
【0044】
セット台3は、ステアリングホイール1を脱着できるように水平な姿勢でセットする。図のセット台3は、ステアリングホイール1の中心のボス33をネジ止めして固定している。このボス33は、円形リング31の内側に保護カバー34を設けている。保護カバー34は、外径をステアリングホイール1の内形よりも小さい円盤状として、ステアリングホイール1のボス33とスポーク32の中心部分をカバーしている。この保護カバー34は、ステアリングホイール1の内側に、転写用シート2が無理に吸い込まれて破損するのを防止する。
【0045】
図のセット台3は、上下機構9を介して本体ケース4に連結している。上下機構9は、セット台3を上下に往復運動させる。図のセット台3は中心に上下軸10を固定し、この上下軸10を上下方向に往復運動できるように本体ケース4に連結している。さらに、この上下軸10は、下端にシリンダー等の往復運動機構11を連結している。往復運動機構11は、上下軸10を介してセット台3を上下に往復運動させて、転写用シート2をより広い面積でステアリングホイール1に密着させる。
【0046】
本体ケース4は、上方を開口する箱形で、周囲に周壁4Aを突出して設けている。周壁4Aは上面を転写用シート2の密着面としている。この本体ケース4は、周壁4A上面の密着面に転写用シート2を隙間なく密着させて、周壁4Aと転写用シート2とで囲まれる内側を気密チャンバとしている。さらに、本体ケース4は、気密チャンバの空気を排気して減圧するために、ステアリングホイール1の円形リング31の下縁から内側に遍在する位置に沿って吸入開口12を設けている。吸入開口12は真空ポンプ6に連結される。図の本体ケース4は、ステアリングホイール1の円形リング31の下面と内周面との間に沿う形状のスリット状としている。
【0047】
蓋ケース5は、下方を開口している箱形で、周囲には下方に突出して凸条5Aを設けている。凸条5Aは、その下面を本体ケース4の周壁4Aの上面に密着する。したがって、蓋ケース5の凸条5Aと本体ケース4の周壁4Aは、同じ平面形状として、蓋ケース5で本体ケース4の開口部を気密に密閉する。凸条5Aは、その下面を、周壁4Aの密着面に沿う平滑な平面としている。
【0048】
さらに、図の蓋ケース5は、天板5Bの内面に、転写用シート2を加熱する加熱ランプ7を固定している。加熱ランプ7は、転写用シート2に上面から赤外線を放射して、転写用シート2を短時間で設定温度に加熱する。
【0049】
蓋ケース5は、開閉機構8を連結している。図の開閉機構8は、図4に示すように蓋ケース5を上昇させて、蓋ケース5の凸条5Aと本体ケース4の周壁4Aを離して開口する。この状態で、ステアリングホイール1がセット台3に脱着され、また転写用シート2がセットされる。蓋ケース5を降下させて、転写用シート2をステアリングホイール1に密着して転写する。降下した蓋ケース5は、本体ケース4の開口部を閉塞して、気密チャンバを密着する。
【0050】
以上の転写装置は、図4ないし図6に示すようにして、以下の工程で転写用シート2の模様をステアリングホイール1に転写する。
(1) 図4に示すように、開閉機構8が蓋ケース5を上昇して、凸条5Aを周壁4Aから離して本体ケース4の上方開口部を開口する。
(2) セット台3にステアリングホイール1がセットされる。図のステアリングホイール1は、ボス33をネジ止して、セット台3にセットされる。このとき、セット台3は上昇位置にある。
(3) 図7に示すように、転写用シート2が、ステアリングホイール1の外周に沿ってU曲される状態でセットされる。
【0051】
(4) その後、開閉機構8が蓋ケース5を降下させる。降下する蓋ケース5は、凸条5Aを周壁4Aに密着させて、本体ケース4の内部を密閉された気密チャンバとし、気密チャンバ内にステアリングホイール1を配設する。
(5) 真空ポンプ6が気密チャンバ内の空気を排気する。気密チャンバが減圧されると、図5に示すように、転写用シート2がステアリングホイール1の表面に沿って密着される。
(6) 加熱ランプ7で転写用シート2を加熱すると共に、蓋ケース5の内部に加熱されたホットエアーを供給する。加熱された転写用シート2はより柔軟で伸長しやすくなり、ステアリングホイール1の表面に広い面積で密着される。さらに、図6に示すように、セット台3を上下に往復運動させて、転写用シート2をステアリングホイール1の下面まで密着させる。この状態で、真空ポンプ6はさらに気密チャンバの空気を排気する。気密チャンバが減圧される状態で、セット台3が上下に移動されて、加熱された転写用シート2はステアリングホイール1の全周に密着される。この状態でステアリングホイール1に密着される転写用シート2は、非転写部が極減されて、全周に密着される。
(7) 加熱状態にある転写用シート2は、ステアリングホイール1の全周に密着されて、表面の模様をステアリングホイール1の表面に転写する。転写用シート2は、図8に示すように、加熱されて熱溶融するインクドット模様のインク層24を設けている。この転写用シート2は、加熱状態でステアリングホイール1の表面に押圧して密着させるので、図9に示すように、インクドット24Aが溶融、拡大して、ドット間隙間24Bを減少する状態でステアリングホイール1に模様を転写する。ただし、転写用シートは、加熱されてインクドットを溶融することなくステアリングホイールに転写できるもの、たとえば、熱賦活性のある接着剤からなるインクドットのものも使用できる。
(8) 模様が転写された後、真空ポンプ6の運転を停止して気密チャンバを大気圧とする。この状態になると、転写用シート2はステアリングホイール1に密着しなくなる。この状態で、セット台3が上昇され、また開閉機構8が蓋ケース5を上昇して、蓋ケース5を本体ケース4から離して、本体ケース4の上を開口する。
(9) 模様を転写した転写用シート2を除去して、ステアリングホイール1をセット台3から外して、本体ケース4から取り出す。
【0052】
以上の用途に使用される転写用シート2の拡大断面図を図8に示す。この図の転写用シート2は、図において上から順番に、基材シート21/離型層22/インク受容層23/インク層24(インクドット24A)/接着剤層25を積層して設けている。
【0053】
転写用シート2は、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール1の全周をカバーできる幅を有する。この転写用シート2は、たとえば幅を8cm以上であって20cm以下とする細長い帯状としている。転写用シート2の幅は、ステアリングホイール1の全周をカバーできる幅とする。転写用シートは、幅が狭すぎるとステアリングホイールの全周をカバーできなくなる。反対に広すぎると、ステアリングホイールの表面カバーに使用されない割合が多くなり、すなわち無駄な部分が多くなって製造コストが高くなる。
【0054】
転写用シート2は、ステアリングホイール1の転写部分の全長よりも多少長く裁断されている。たとえば、図7に示すステアリングホイール1は、上下の2カ所に分離して木目模様などを転写する転写部30を設けてる。このステアリングホイール1は、2枚の転写用シート2を転写部30にセットして、転写用シート2の模様を転写部30に転写する。このステアリングホイール1は、転写部30の全長よりも多少長く裁断された転写用シート2をその外側にU曲してセットする。セットされた転写用シート2は、両端部をクリップ等の仮止具35でステアリングホイール1に仮止めする。仮止具35は、転写部30の両端で転写用シート2をステアリングホイール1に仮止めする。
【0055】
基材シート21の素材は、熱可塑性エラストマー、又はゴムなどのエラストマー等のシートであって、転写時の加熱で溶融せず、破断時伸度が常温で130%以上で、かつ弾性回復率が10%以下とするものである。基材シート21には、好ましくは日本マタイ株式会社製の「エスマーURS」を使用する。この基材シート21は、転写時の加熱で溶融せず、常温で真空成形される際、局部的な伸延に対して、耐屈曲性や引き裂き性に優れた特性がある。
【0056】
基材シート21の破断時伸度を30%以上とするのは、破断時伸度がこれより小さいと、大きな凹凸のステアリングホイール1のように、裏まで全周に転写できないからである。また、基材シート21は、単に破断時伸度が大きいのみのものは使用できない。それは、凹凸のあるステアリングホイール1は、伸長する部分では充分に延びてステアリングホイール1に密着するが、たとえばステアリングホイール1の裏面のように収縮させる部分では収縮しないで、シワになって、綺麗な模様を転写できないからである。したがって、転写用シート2は、破断時伸度のみでなく、弾性回復率を10%以下とすることも大切である。基材シート21は、破断時伸度と弾性回復率を前述の範囲とするものであれば、必ずしも前述の素材とする必要はなく、転写時の加熱で溶融せず、破断時伸度が常温で30%以上で、かつ弾性回復率が10%以下とする他のプラスチックシートも使用できる。
【0057】
離型層22は、転写用シート2をステアリングホイール1に密着させる状態で加熱されて、インク層24をステアリングホイール1の表面に転写する層であって、加熱されてインク層24を離型する層である。この層には、シリコン系樹脂あるいはワックス系樹脂が使用される。
【0058】
インク層24は、6色以上のインクドット24Aでカラーの模様を表現している。ただし、インク層は、5色以下のインクドット24Aのカラー模様とすることもできる。インクドット24Aでカラー模様を表現するインク層24は、コンピュータ処理した文様データで6色以上のアルミ板製特殊刷り版を作り、定寸カット専用シート上に厚乗せ可能エポキシ系インクで6色以上のフルカラーオフセット印刷して解像度の高い微細な仕上が得られる枚葉印刷して設けられる。ただ、インク層24は、オフセット印刷に代わって、グラビア印刷、スクリーン印刷して、あるいはインクジェットプリンターで設けることもできる。このインク層24は、各々のカラーのインクドット24Aを独立して特定の配列で基材シート21に塗布して、カラー模様とする。したがって、インクドット24Aの間に、ドットの付着されないドット間隙間24Bができる。スクリーン印刷されたインク層24は、カラードットをスクリーンメッシュに配列するので、スクリーンメッシュの間にドット間隙間24Bができる。ドット間隙間24Bのあるインク層24は、転写用シート2を伸長しても模様に亀裂や割れが発生しない。ドット間隙間24Bが延びて広くなるからである。また、仮に微細なインクドット24Aに亀裂や割れが発生しても、これが模様の品質を低下することがない。インク層24のインクドット24Aが微細なために、インクドット24Aの集合として模様を表現するからである。
【0059】
ただ、インクドット24Aからなるインク層24がステアリングホイール1の表面に転写されると、光の方向や反射の状態によっては、スクリーンメッシュが見えるのを解消できない。スクリーンメッシュが見えると、たとえば天然木の木目模様が、印刷による人工的な処理模様であることがわかって、品質が著しく低下する。
【0060】
この欠点を解消するために、インク層24は、エラストマー基材シート21の溶融温度よりも低い温度、たとえば80〜120℃に加熱されると、インク表層が熱溶融するインクドット24Aで模様を設けている。このインク層24は、転写時に加熱されて、インクドット24Aが溶融する。溶融するインクドット24Aは、転写時の押圧力で押しつぶされて面積が大きくなる。拡大したインクドット24Aは、インクのないドット間隙間24Bを埋める。この状態で転写されたカラー模様は、スクリーンメッシュ等のドット間隙間24Bが目だたなくなる。この事によって、高級感を出すことが可能になる。
【0061】
インク層24は、真空成形法で転写用シート2をステアリングホイール1の表面に密着して転写される。インク層24の転写は、破断時伸度の大きい基材シート21を、転写前に加熱軟化させることなく、図5に示すように真空ポンプ6で減圧して、立体曲面のステアリングホイール1の表面に被覆させる。この状態で、転写用シート2は、円形リング31全周を被覆せず、約240度程度まで被覆する。その後、ホットエアーを供給すると共に、加熱ランプ7で赤外線を照射する。この状態で、ステアリングホイール1と転写用シート2は急速に加熱され、基材シート21の伸延度が上昇される。伸びやすくなった基材シート21は、ホットエアーと真空ポンプ6の減圧力の差圧により、ステアリングホイール1のより広い面積に密着する。さらにこの状態で、伸びた転写用シート2は弾性回復力により、元に戻ろうとしてステアリングホイール1の下部に沿う部分で収縮する。したがって、転写用シート2は、ステアリングホイール1の下部の裏面まで、しわがよることなく密着される。ホットエアーと加熱ランプ7で加熱されて、インク層24の表面に、あるいはステアリングホイール1の表面に設けている接着剤層25が接着力を発現し、インク層24をステアリングホイール1に接着する。その後、冷却してステアリングホイール1から基材シート21を剥がせばインク層24だけが転写される。このように転写用シート2の基材シート21に常温での伸度が高く、かつ弾性回復性が高い基材シート21を使用することで、立体曲面の表から裏面まで全面にわたってしわや亀裂を起こさずに転写用シート2のインク層24のインクドット24Aによる絵柄を転写できる。
【0062】
また、ステアリングホイール1に転写されるインクドット24Aは、転写されてドット間隙間24Bを減少し、スクリーンメッシュ等が目だたなくなる。このため、ステアリングホイール1の表面に転写されたカラーの木目模様は、インクドット24Aのドット間隙間24Bが見えなくなって、本物の木目模様と見間違う高品質な仕上がりとなる。さらに、ステアリングホイール1の表面にインクドット24Aによる模様を転写しており、その表面を透明シート等で被覆しないので、必要であれば、転写後に筆等でインクを塗布して補修することもできる。このため、複雑曲面のしわなども補修可能となり、更に水圧転写では不可能な凹部や複雑な入り込みも転写できる特徴がある。
【0063】
接着剤層25は、インク層24の表面に設けているが、ステアリングホイール1の表面に塗布して設けることもできる。接着剤層25は、加熱されて接着力を発現してインク層24をステアリングホイール1の表面に付着する。したがって、この接着剤層25には、例えば熱賦括型のアクリル系接着剤やエポキシ系接着剤、ホットメルト系接着剤が使用される。
【0064】
以上の転写用シート2は、エンボス加工面のような凸凹面でもきれいに密着、転写できる。また、転写用シート2は、真空ポンプ6を運転して、下面を減圧する圧力差のみで、ステアリングホイール1のほぼ全面に密着できるが、ホットエアーや加熱ランプ7で加熱して、基材シート21の伸延度をさらに上昇して、ステアリングホイール1の全面に密着できる。加熱時間を保持することによって、接着剤層25の接着力を発現できる。その後、冷却し、ステアリングホイール1から転写基材シート21を剥がせばインク層24だけを転写できる。
【実施例1】
【0065】
以下の工程で、ステアリングホイール1に木目模様を転写する。
基材シート21(エスマーURS:日本マタイ株式会社製、厚さ50μm、破断時伸度680%、弾性回復率10%)の表面に、離型層22及びインク受容層23をロールコ一タでコーティングする。この基材シート21を定寸にカットし、コンピュータ処理した木目文様データで6色のアルミ板製刷り版を作り、上に厚乗せ可能インクで6色のフルカラーオフセット印刷を行ってインク層24を設ける。インク層24を設けた転写用シート2を10cm幅に裁断する。
【0066】
ステアリングホイール1として、ウレタン発砲成型品のステアリングホイール1を使用する。あらかじめ、ポリウレタン系エマルジョン接着剤(三木理研製、E−05−039)をスプレーコーティングして設ける。
【0067】
図4に示すように、ステアリングホイール1をセット台3の定位置にセットした後、吸入開口12がステアリングホイール1の背面となるように、吸引用カバー治具をセットする。その後、転写用シート2を、そのインク層24をステアリングホイール1に向けて、ステアリングホイール1の外周に沿ってセットする。転写用シート2は、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって、転写するステアリングホイール1の転写部分をカバーする幅を有する。転写用シート2は、幅を10cmとする細長い帯状で、長さをステアリングホイール1の転写部分の全長より長く裁断している。この転写用シート2は、約10%伸びるようにテンションをかけながら、ステアリングホイール1の外側にU曲して巻き付けられる。巻き付けられた転写用シート2は、両端部をクリップ等の仮止具35でステアリングホイール1にセットされる。クリップは転写部分の外側で転写用シート2をステアリングホイール1に仮止めする。
【0068】
その後、図5に示すように、蓋ケース5を降下させた後、真空ポンプ6で気密チャンバの空気を排気する。空気は、吸引用カバー治具を介して排気される。吸引用カバー治具は、ステアリングホイール1の形状に合わせたスリットの吸入開口12を有し、この吸入開口12から空気を排気する。テンションをかけて、弾性的に伸長している転写用シート2は、弾性回復力で復元しようとする力と、減圧力の両方で、ステアリングホイール1の裏面まで密着する。この状態において、気密チャンバは、真空度を約60トールとして排気される。この状態で、転写用シート2は、図5に示すように、ステアリングホイール1の円形リング31の約240度に沿う程度まで密着する。
【0069】
その後、蓋ケース5の内部に、110℃に加熱して5気圧に加圧したホットエアーの圧縮空気が供給される。さらに加熱ランプ7が赤外線を放射して、釜内温度を80℃とし、この状態を3分間保持する。この状態で接着剤は硬化される。ホットエアーの圧縮空気は、加熱して伸びやすくなった転写用シート2の上面をステアリングホイール1の表面に押圧する。この状態で、転写用シート2は、ステアリングホイール1の円形リング31の裏面まで、全周の360度にしわや空気溜まりを発生させずに密着する。
【0070】
その後、冷却して、基材シート21をステアリングホイール1から剥す。転写用シート2に設けたインク層24の木目文様は、柄伸びや色が薄くなることもなく、ステアリングホイール1の裏面まで1本の木を曲げたように、同心円状に柾目模様が綺麗に揃っており、つなぎ目もわからず、本物と見間違う高品質な仕上がりとなる。また、インク層24のインクドット24Aは溶融して拡開され、ドット間隙間24Bが減少してなくなり、印刷ドットが識別できない、本物の木目と見間違う高品質な仕上がりとなる。
【実施例2】
【0071】
以下の工程で、ステアリングホイール1に木目模様を転写する。
基材シート21(エスマーURS:日本マタイ株式会社製、厚さ50μm、破断時伸度680%、弾性回復率10%)の表面に、離型層22及びインク受容層23をロールコ一タでコーティングする。この基材シート21を定寸にカットし、コンピュータ処理したカエデ縮れ杢(カーリー杢)文様データで、6色のアルミ板製刷り版を作り、5版のグラビア印刷を行って木目模様のインク層24を設ける。
【0072】
ステアリングホイール1として、ウレタン発泡成型品(全周タイプ)のステアリングホイール1を使用する。あらかじめ、ウレタン発泡成形部分の表面に接着剤層25を設ける。接着剤層25は、ポリウレタン系エマルジョン接着剤(三木理研製、E−05−039)をスプレーコーティングして設ける。
【0073】
図4に示すように、ステアリングホイール1をセット台3の定位置にセットした後、吸引用カバー治具を取り付ける。吸引用カバー治具は、吸入開口12をステアリングホイール1の背面とするようにセットする。
【0074】
その後、転写用シート2を、そのインク層24をステアリングホイール1に向けて、ステアリングホイール1の外周に沿ってセットする。転写用シート2は、ステアリングホイール1に沿う細長い形状であって転写するステアリングホイール1の全周をカバーする幅を有する。転写用シート2は、幅を8cmとする細長い帯状としている。転写用シート2の長さは、ステアリングホイール1の全周より長く裁断されている。この転写用シート2は、弾性的に約10%伸びるように、テンションをかけながら、ステアリングホイール1の外側にU曲して巻き付られる。巻き付けた転写用シート2は両端部をクリップ等の仮止具35でステアリングホイール1にセットする。
【0075】
その後、図5に示すように、蓋ケース5を降下させた後、真空ポンプ6で気密チャンバの空気を排気する。空気は、吸引用カバー治具を介して排気される。吸引用カバー治具は、ステアリングホイール1の形状に合わせたスリットの吸入開口12を有し、この吸入開口12から空気を排気する。テンションをかけて、弾性的に伸長している転写用シート2は、弾性回復力で復元しようとする力と、減圧力の両方で、ステアリングホイール1の裏面まで密着する。この状態において、気密チャンバは、真空度を約60トールとして排気される。この状態で、転写用シート2は、図5に示すように、ステアリングホイール1の円形リング31の約240度に沿う程度まで密着する。
【0076】
さらに続いて、蓋ケース5の内部に、110℃に加熱して5気圧に加圧したホットエアーの圧縮空気を供給し、加熱ランプ7で赤外線を放射して、釜内温度を80℃とし、この状態を3分間保持する。この状態で接着剤は硬化される。ホットエアーの圧縮空気は、加熱して伸びやすくなった転写用シート2の上面をステアリングホイール1の表面に押圧する。この状態で、転写用シート2は、ステアリングホイール1の円形リング31の裏面まで、全周の360度にしわや空気溜まりを発生させずに密着する。
【0077】
その後、冷却して、基材シート21をステアリングホイール1から剥す。転写用シート2に設けたインク層24の木目文様は、ステアリングホイール1の全周にわたって、柄伸びや色が薄くなることもなく、裏面まで縮れ杢模様が放射状にきれいにそろっており、つなぎ目もわからず、本物と見間違う仕上がりが得られる。
【比較例】
【0078】
カエデ縮れ杢(カーリー杢)柄の転写用シートをステアリングホイールに水圧転写する。この方法で製造されたステアリングホイールは、正面部分の木目模様を少ない歪で転写できる。ただ、裏面のつなぎ目においては、カエデ縮れ杢(カーリー杢)柄がつながらない不連続な木目模様となり、一目で天然木ではない印刷による木目と区別される。
【0079】
この方法で製造されるステアリングホイールのカエデ縮れ杢(カーリー杢)柄が歪む状態を図10に示す。この図に示すように、水圧転写でステアリングホイール1に転写されたカエデ縮れ杢(カーリー杢)柄は、ステアリングホイール1の背面において、木目模様がつなぎ目で不自然な状態となり、とくにステアリングホイール1の内周側の両端部分で木目模様の伸びが大きく、色が薄くなる欠点がある。
【0080】
図11は、本発明の方法で製造されるステアリングホイール1のカエデ縮れ杢(カーリー杢)柄を示す。この図に示すように、本発明の方法でカエデ縮れ杢(カーリー杢)柄の木目模様をステアリングホイール1に転写すると、正面と背面の両方においてカエデ縮れ杢(カーリー杢)柄の歪が極めて少なく、部分的に大きく伸びて色が薄くなることもない。
【0081】
さらに、本発明の実施例1で製作されるステアリングホイール1の木目(柾目)文様は、図12で示す状態となる。このステアリングホイール1は、正面と背面の両方の木目が、天然木を曲げて製造されるステアリングホイールの木目と同じ模様となる。これに対して、水圧転写して製作されるステアリングホイール1の木目(柾目)文様は、図13に示す状態となる。このステアリングホイール1の木目(柾目)文様は、正面の木目模様においても、ステアリングホイール1の円周に沿う木目とはならず、天然木を円弧状に曲げて製作される天然木のステアリングホイールとは異なる木目模様となる。また、ステアリングホイール1の背面にできるつなぎ目の木目模様は不連続な状態となって、天然木で製造されるステアリングホイールの木目とは全くことなる模様となる。とくに、背面の内側にできる木目の歪は、ステアリングホイール1に木目模様を転写する全長が長くなるにしたがって、さらに甚だしくなる。
【0082】
図14と図15は、ステアリングホイールに転写される模様の位置ずれを測定した図である。ただし、この図は、転写用シートに1cm角のラインを印刷して設け、このラインがステアリングホイールに転写された状態でどの位置に転写されるかを実測したものである。図14は実施例1と同じ方法で転写したステアリングホイール、図15は水圧転写によるステアリングホイールを示している。図14から明かなように、本発明の方法で製造されるステアリングホイールは、縦線と横線の歪が少なく、転写用シートの模様が理想に近い状態で転写されることを示す。これに対して図15に示すように、水圧転写されたステアリングホイールは、縦線と横線の歪が大きく、転写用シートの模様が大きく変形して転写されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明者等が先に開発した転写装置の概略断面図である。
【図2】図1に示す転写装置でステアリングホイールに模様を転写する工程を示す概略断面図である。
【図3】図1に示す転写装置がステアリングホイールに模様を転写する工程を示す概略断面図である。
【図4】本発明の一実施例にかかる転写方法に使用する転写装置の概略断面図である。
【図5】図4に示す転写装置がステアリングホイールに模様を転写する工程を示す概略断面図である。
【図6】図4に示す転写装置がステアリングホイールに模様を転写する工程を示す概略断面図である。
【図7】ステアリングホイールに転写用シートをセットする状態を示す平面図である。
【図8】転写用シートの拡大断面図である。
【図9】図8に示す転写用シートでステアリングホイールに模様を転写した状態を示す拡大断面図である。
【図10】従来の転写方法で木目模様が転写されたステアリングホイールの一例を示す正面図及び背面図である。
【図11】本発明の実施例の転写方法で木目模様が転写されたステアリングホイールの一例を示す正面図及び背面図である。
【図12】本発明の実施例の転写方法で木目模様が転写されたステアリングホイールの他の一例を示す正面図及び背面図である。
【図13】従来の転写方法で木目模様が転写されたステアリングホイールの一例を示す正面図及び背面図である。
【図14】本発明の実施例の転写方法でステアリングホイールに転写される模様の位置ずれを測定した図である。
【図15】従来の転写方法でステアリングホイールに転写される模様の位置ずれを測定した図である。
【符号の説明】
【0084】
1…ステアリングホイール
2…転写用シート
3…セット台
4…本体ケース 4A…周壁
5…蓋ケース 5A…凸条
5B…天板
6…真空ポンプ
7…加熱ランプ
8…開閉機構
9…上下機構
10…上下軸
11…往復運動機構
12…吸入開口
21…基材シート
22…離型層
23…インク受容層
24…インク層 24A…インクドット
24B…ドット間隙間
25…接着剤層
30…転写部
31…円形リング
32…スポーク
33…ボス
34…保護カバー
35…仮止具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイール(1)の表面に転写用シート(2)を配置し、転写用シート(2)がステアリングホイール(1)と対向する裏面側の圧力をその反対側の表面側の圧力よりも低くして、転写用シート(2)をステアリングホイール(1)の表面に密着させて、転写用シート(2)のインクをステアリングホイール(1)に転写する方法であって、
転写用シート(2)として、破断時伸度を30%以上として弾性回復率を10%以下とするエラストマー基材シート(21)の表面に、離型層(22)を介してインク層(24)を設けており、かつ、ステアリングホイール(1)に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール(1)の横断面における全周をカバーできる幅を有するシートを使用し、
細長い転写用シート(2)をステアリングホイール(1)に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール(1)の全周をカバーするようにステアリングホイール(1)の表面に密着させ、この状態で加熱して、インクドット(24A)からなるインク層(24)を転写して、ステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項2】
転写用シート(2)を弾性的に伸長させる状態でステアリングホイール(1)の外周に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール(1)の全周をカバーするようにステアリングホイール(1)の表面に密着させ、この状態でインクドット(24A)を加熱して、インクドット(24A)からなるインク層(24)を転写して、ステアリングホイール(1)に模様を転写する請求項1に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項3】
転写用シート(2)を、5〜30%伸長させる状態でステアリングホイール(1)の外周に沿って配設し、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール(1)の全周をカバーするようにステアリングホイール(1)の表面に密着させ、この状態でインクドット(24A)を加熱して、インクドット(24A)からなるインク層(24)を転写して、ステアリングホイール(1)に模様を転写する請求項2に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項4】
ステアリングホイール(1)の表面に密着する転写用シート(2)を80〜120℃に加熱して、インクドット(24A)を転写する請求項1に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項5】
基材シート(21)が熱可塑性エラストマー、又はゴムなどのエラストマーのシートである転写用シート(2)を使用する請求項1に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項6】
基材シート(21)にオフセット印刷またはグラビア印刷してなるインク層(24)を設けている転写用シート(2)を使用する請求項1に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項7】
転写用シート(2)として、エラストマー基材シート(21)の溶融温度よりも低い温度に加熱されて転写されるインクドット(24A)からなる模様のインク層(24)を有するシートを使用する請求項1に記載されるステアリングホイールに模様を転写する転写方法。
【請求項8】
ステアリングホイール(1)の表面に圧力差で密着されて、離型層(22)を介して表面に設けているインク層(24)のインクドット(24A)をステアリングホイール(1)の表面に転写する転写用シートにおいて、
破断時伸度が30%以上であって弾性回復率が10%以下であるエラストマー基材シート(21)の表面に、インクドット(24A)からなる模様のインク層(24)を離型層(22)を介して設けており、かつ、ステアリングホイール(1)に沿う細長い形状であって、ステアリングホイール(1)の全周をカバーできる幅を有するシートとしており、
ステアリングホイール(1)に沿って配設され、裏面側と表面側の圧力差で、ステアリングホイール(1)の全周をカバーするようにステアリングホイール(1)の表面に密着され、密着状態で加熱されて、インクドット(24A)からなるインク層(24)がステアリングホイール(1)に転写されて、ステアリングホイール(1)に模様を転写する転写用シート。
【請求項9】
インク層(24)が、エラストマー基材シート(21)の溶融温度よりも低い温度に加熱されて転写されるインクドット(24A)からなる請求項8に記載される転写用シート。
【請求項10】
幅を8cm以上であって、20cm以下とする細長い帯状とし、ステアリングホイール(1)の外周に沿って配置されて、裏面側と表面側の圧力差でステアリングホイール(1)の全周に密着されるようにしてなる請求項8に記載される転写用シート。
【請求項11】
インク層(24)が、転写用シート(2)を80〜120℃に加熱する状態でインクドット(24A)が熱溶融して転写面積を拡開して、ドット間隙間(24B)を減少する請求項8に記載される転写用シート。
【請求項12】
基材シート(21)が熱可塑性エラストマー、又はゴムなどのエラストマーのシートである請求項8に記載される転写用シート。
【請求項13】
基材シート(21)にオフセット印刷またはグラビア印刷しているインクドット(24A)のインク層(24)を設けている請求項8に記載される転写用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−168121(P2007−168121A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365054(P2005−365054)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度 経済産業省 地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究 産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(505468934)株式会社リアライズ (5)
【Fターム(参考)】