説明

ステアリング装置

【課題】ホイルアンバランスの早期検知を図り、当該ホイルアンバランスに起因する操舵フィーリングの悪化を回避することのできるステアリング装置を提供すること。
【解決手段】マイコン41は、操舵系の状態を示す信号として入力される操舵トルクτから、各転舵輪に生じたホイルアンバランスに対応する特定の周波数成分を抽出する特定周波数抽出部51と、非制動時、上記特定の周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上である場合にホイルアンバランスが生じているものと判定するホイルアンバランス判定部52とを備える。そして、ホイルアンバランス判定部52においてホイルアンバランスが生じていると判定された場合、ECU23は、車室(図示略)内に設けられた当該ホイルアンバランスが生じていることを警告するためのウォーニングランプ55を点灯させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用のステアリング装置においては、その操舵系に生ずる振動の抑制が最も重要な課題となっている。即ち、操舵系の振動、或いは当該振動により生ずる異音を運転者が感じ取ることで、操舵フィーリングは、大きく損なわれる。このため、多くのステアリング装置、例えば、モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)では、モータの発する振動が操舵系に伝達されないような防振構造とする(例えば、特許文献1)、或いはトルクリップルの発生を抑制することによりモータ振動自体を低減する(例えば、特許文献2)等、種々の対策が施されている。
【特許文献1】特開2006−27537号公報
【特許文献2】特開2006−131179号公報
【特許文献3】特開2004−224129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、操舵系に生ずる振動は、操舵系及び該操舵系にアシスト力を付与するための構成にその発生要因があるもののみならず、操舵系に連結された転舵輪側の構成にその発生要因がある場合もある。具体的には、転舵輪のホイルバランスに狂いが生じた場合、即ちホイルアンバランスが生じた場合、それにより発生する振動が操舵系からステアリングへと伝達される。そして、この振動を運転者が感じ取ることで、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
【0004】
このような転舵輪側の構成に起因する振動についても、例えば、EPSでは、操舵トルクの微分値に基づく所謂トルク慣性補償制御(例えば、特許文献3参照)を強化することで、ある程度、その抑制が可能である。しかしながら、こうしたトルク慣性補償制御の強化(トルク微分制御量の増大)には、アシストトルクの立ち上がりが過大となり、それに伴い通常時の操舵フィーリングが悪化する(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)を招くという弊害がある。このため、こうした制御による振動抑制対策には限界があり、その根本的な解決は、結局、搭乗者が、ステアリングから伝わる振動を操舵フィーリングの悪化として感じ取り、その発生要因がホイルアンバランスにあると気付いてホイルバランス調整を行う以外にないのが実状であった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ホイルアンバランスの早期検知を図り、当該ホイルアンバランスに起因する操舵フィーリングの悪化を回避することのできるステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、操舵系の状態を示す信号を生成する検出手段と、前記操舵系の状態を示す信号から、転舵輪に生じたホイルアンバランスに対応する特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出手段と、非制動時、抽出された前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上である場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定する判定手段と、前記ホイルアンバランスを警告する警告手段と、を備えたことを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、ホイルアンバランスに起因する振動が操舵フィーリングの悪化として顕在化する前に、早期に当該ホイルアンバランスを検知し搭乗者に知らしめることができる。そして、速やかにホイルバランス調整を行うよう促すことにより、当該ホイルアンバランスに起因する操舵フィーリングの悪化を回避することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記判定手段は、前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上であり、且つ直進状態である場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定すること、を要旨とする。
【0009】
即ち、舵角の発生した状態では、ホイルアンバランス以外の要因による振動が発生する。従って、上記構成のように、車両が直進状態にあることを判定条件に加えることで、より高精度のホイルアンバランス検知ができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記判定手段は、前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上であり、且つ所定の車速領域にある場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定すること、を要旨とする。
【0011】
即ち、操舵系に生ずる振動の振幅は、転舵輪を支承するサスペンションの振動特性に依存し、当該サスペンションに共振が発生する特定の車速領域において増幅される。従って、この特定の車速領域、とりわけホイルアンバランスに起因する振動が増大する領域に対応するように所定の車速領域を設定し、その車速領域内にあるか否かを判定条件に加えることで、より高精度のホイルアンバランス検知ができるようになる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与可能な操舵力補助装置と、前記操舵系の状態を示す信号に基づくモータ制御より前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記モータ制御は、前記操舵系の状態を示す信号である操舵トルクの微分値に基づく補償制御を含み、前記制御手段は、前記ホイルアンバランスが生じていると判定された場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償制御を強化すること、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、ホイルバランス調整がなされ、ホイルアンバランスが解消されるまでの間は、その補償制御(トルク慣性補償制御)によりホイルアンバランスに起因する振動を抑制して、良好な操舵フィーリングを維持することができる。そして、ホイルアンバランスが生じている場合に限定してトルク慣性補償を強化することで、そのアシストトルクの過大な立ち上がりに起因する通常時の操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)といった当該補償制御の弊害の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホイルアンバランスの早期検知を図り、当該ホイルアンバランスに起因する操舵フィーリングの悪化を回避することが可能なステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。具体的には、本実施形態のステアリングシャフト3は、自在継手7a,7bを介して、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなり、上記ラックアンドピニオン機構4は、ピニオンシャフト10の一端に形成されたピニオン歯10aとラック軸5側のラック歯5aとを噛合させることにより構成される。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更されるように構成されている。
【0016】
本実施形態のEPS1は、モータ21を駆動源としてステアリングシャフト3を回転駆動することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22と、該EPSアクチュエータ22の作動を制御するECU23とを備えている。
【0017】
詳述すると、本実施形態のEPSアクチュエータ22は、コラムシャフト8にアシスト力を付与する所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されており、駆動源であるモータ21は、減速機構24を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。本実施形態では、減速機構24は、コラムシャフト8に対して相対回転不能に設けられたリダクションギヤ25と、モータ軸21aに対して相対回転不能に設けられたモータギヤ26とを噛合することにより構成されている。尚、本実施形態では、減速機構24には、所謂ウォーム&ホイールが採用されている。そして、操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ22は、駆動源であるモータ21の回転を減速機構24により減速してコラムシャフト8に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与するように構成されている。
【0018】
一方、制御手段としてのECU23は、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に対して駆動電力を供給する。そして、その駆動電力の供給を通じてモータ21の回転、即ちEPSアクチュエータ22の作動を制御するように構成されている。
【0019】
さらに詳述すると、ECU23には、コラムシャフト8に設けられたトルクセンサ31が接続されている。本実施形態では、コラムシャフト8は、ステアリング2側の第1シャフト8aとインターミディエイトシャフト9(ピニオンシャフト10)側の第2シャフト8bとを、トーションバー33を介して連結することにより形成されている。そして、トルクセンサ31は、トーションバー33、及び同トーションバー33の両端(第1シャフト8aの端部及び第2シャフト8bの端部)に設けられた一対の角度センサ34a,34b(レゾルバ)により構成されている。
【0020】
即ち、本実施形態のトルクセンサ31は、ツインレゾルバ型のトルクセンサとして構成されており、ECU23は、第1の角度センサ34aにより第1シャフト8aの回転角(操舵角θs)を検出するとともに、第2の角度センサ34bにより第2シャフト8bの回転角(ピニオン角θp)を検出する。そして、これら両角度センサ34a,34bにより検出された両回転角の差分、即ちトーションバー33の捻れ角に基づいて、操舵トルクτを検出する。
【0021】
また、本実施形態では、ECU23には、車速センサ35により検出された車速V、及びブレーキ操作の有無を示すブレーキ信号Sbkが入力される。そして、ECU23は、これらの各センサにより検出される車両状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を決定し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ22に発生させるべく、モータ21に対する駆動電力の供給を実行する。
【0022】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU23は、モータ制御信号を出力するマイコン41と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えて構成されている。
【0023】
本実施形態では、ECU23には、モータ21に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ43、及びモータ回転角θmを検出するための回転角センサ44(図1参照)が接続されている。そして、マイコン41は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ43及び回転角センサ44の出力信号に基づき検出されたモータ21の実電流値I及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路42に出力するモータ制御信号を生成する。
【0024】
詳述すると、マイコン41は、操舵系に付与するアシスト力の目標値、すなわち目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部45と、電流指令値演算部45により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部46とを備えている。
【0025】
本実施形態の電流指令値演算部45は、目標アシスト力の基礎的制御成分である基本アシスト制御量Ias*を演算する基本アシスト制御部47と、その補償成分として、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づくトルク慣性補償量Iti*を演算するトルク慣性補償制御部48とを備えている。
【0026】
本実施形態では、基本アシスト制御部47には、操舵トルクτ及び車速Vが入力されるようになっている。そして、該基本アシスト制御部47は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな基本アシスト制御量Ias*を演算する。
【0027】
一方、本実施形態のトルク慣性補償制御部48には、操舵トルク微分値dτに加え、車速Vが入力される。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各状態量に基づいてトルク慣性補償制御を実行する。尚、「トルク慣性補償制御」は、モータやアクチュエータ等、EPSの慣性による影響を補償する制御、即ちステアリング操作における「切り始め」時の「引っ掛かり感(追従遅れ)」、及び「切り終わり」時の「流れ感(オーバーシュート)」を抑制するための制御である。そして、このトルク慣性補償制御には、操舵系に生じた振動を抑制する効果がある。
【0028】
具体的には、図3に示すように、本実施形態のトルク慣性補償制御部48は、操舵トルク微分値dτと基礎補償量εtiとが関連付けられたマップ48a、及び車速Vと補間係数Aとが関連付けられたマップ48bを備えている。マップ48aにおいて、基礎補償量εtiは、入力される操舵トルク微分値dτの絶対値が大きいほど、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*(の絶対値)をより増加させる値となるように設定されている。また、マップ48bにおいて、補間係数Aは、低車速領域では車速Vが大きくなるほど大きな値となるように、高車速領域では、車速が大きくなるほど小さな値となるように設定されている。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各マップ48a,48bを参照することにより求められた基礎補償量εti及び補間係数Aを乗ずることによりトルク慣性補償量Iti*を演算する。
【0029】
図2に示すように、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*、及びトルク慣性補償制御部48において演算されたトルク慣性補償量Iti*は、加算器49に入力される。そして、電流指令値演算部45は、この加算器49において基本アシスト制御量Ias*にトルク慣性補償量Iti*を重畳することにより、目標アシスト力としての電流指令値Iq*を演算する。
【0030】
電流指令値演算部45が出力する電流指令値Iq*は、電流センサ43により検出された実電流値I、及び回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmとともに、モータ制御信号出力部46に入力される。そして、モータ制御信号出力部46は、この目標アシスト力に対応する電流指令値Iq*に実電流値Iを追従させるべくフィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
【0031】
具体的には、本実施形態では、モータ21には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部46は、実電流値Iとして検出されたモータ21の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0032】
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部46に入力され、モータ制御信号出力部46は、回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmに基づいて相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部46は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成する。
【0033】
そして、本実施形態のECU23は、上記のように生成されたモータ制御信号をマイコン41が駆動回路42に出力し、該駆動回路42がその当該モータ制御信号に基づく三相の駆動電力をモータ21に供給することにより、EPSアクチュエータ22の作動を制御する構成となっている。
【0034】
(ホイルアンバランス検知)
次に、本実施形態のEPSが有するホイルアンバランス検知機能について説明する。
図2に示すように、本実施形態では、ECU23を構成するマイコン41には、入力される信号から特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出部51が設けられている。本実施形態では、この特定周波数抽出部51には、操舵系の状態を示す信号として、操舵トルクτが入力されるようになっており、該特定周波数抽出部51は、この入力される操舵トルクτから、操舵系に生じた振動に対応する特定の周波数成分を抽出する。具体的には、特定周波数抽出部51は、入力される操舵トルクτから、各転舵輪12に生じたホイルバランスの狂い、即ちホイルアンバランスに起因する振動に対応する周波数成分を抽出する。そして、その実効値をパワースペクトルSpとして出力するように構成されている。
【0035】
詳述すると、図4のフローチャートに示すように、特定周波数抽出部51は、入力される操舵トルクτ(ステップ101)について、先ず、バンドパスフィルタ処理を実行し、上記ホイルアンバランスに対応する特定の周波数成分として14〜16Hzの周波数成分を抽出する(ステップ102)。次に、特定周波数抽出部51は、RMS(Root Means square:平均自乗平方根)演算により、上記ステップ102において抽出された周波数成分の実効値を求める(ステップ103)。そして、ローパスフィルタ処理を実行し(ステップ104)、当該ローパスフィルタ処理した後の値をパワースペクトルSpとして出力する(ステップ105)。
【0036】
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン41には、ホイルアンバランス判定部52が設けられており、特定周波数抽出部51の出力する上記パワースペクトルSpは、ブレーキセンサ53(図1参照)の出力するブレーキ信号Sbkとともに、このホイルアンバランス判定部52に入力される。そして、ホイルアンバランス判定部52は、非制動時、上記特定の周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上である場合には、転舵輪12がホイルアンバランスが生じていると判定する。
【0037】
更に、本実施形態では、車室(図示略)内には、車両の搭乗者に対してホイルアンバランスが生じていることを警告するためのウォーニングランプ55が設けられている。ECU23には、このウォーニングランプ55を点灯させるための駆動回路56が設けられており、マイコン41は、上記のようにホイルアンバランスが検知された場合には、当該ホイルアンバランス判定部52の出力するホイルアンバランスを検知した旨を示す信号、即ち検知信号Strを駆動回路56へと出力する。そして、駆動回路56は、その検知信号Strの入力に基づいてウォーニングランプ55を点灯(ON)すべく駆動電力を供給する構成となっている。
【0038】
次に、ホイルアンバランス判定部におけるホイルアンバランス検知の処理手順について説明する。
図5のフローチャートに示すように、ホイルアンバランス判定部52は、先ず入力されるブレーキ信号Sbkが「オフ」であるか否かを判定する(ステップ201)。そして、ブレーキ信号Sbkが「オフ」である場合(ステップ201:YES)には、入力される上記パワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上であるか否かを判定する(ステップ202)。
【0039】
ここで、本実施形態では、ホイルアンバランス判定部52には、操舵角θsが入力されるようになっており、ステップ202において、パワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上であると判定した場合(Sp≧Sth、ステップ202:YES)、ホイルアンバランス判定部52は、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θth以下であるか否かを判定する(ステップ203)。尚、この場合における閾値θthには、ステアリング中立近傍の舵角が設定されている。即ち、本実施形態のホイルアンバランス判定部52は、同ステップ203において、車両が直進状態にあるか否かを判定する。そして、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θth以下である場合(|θs|≧θth、ステップ203:YES)に、ホイルアンバランスが生じているものと判定し(ステップ204)、その出力する検知信号Strに基づいてウォーニングランプ55が点灯される。
【0040】
尚、上記ステップ201〜ステップ203の何れかの判定条件を満たさない場合(ステップ201:NO、ステップ202:NO、又はステップ203:NO)には、ホイルアンバランス判定部52は、ステップ204の処理を実行しない。
【0041】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)マイコン41は、操舵系の状態を示す信号として入力される操舵トルクτから、各転舵輪12に生じたホイルアンバランスに対応する特定の周波数成分を抽出する特定周波数抽出部51と、非制動時、上記特定の周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上である場合にホイルアンバランスが生じているものと判定するホイルアンバランス判定部52とを備える。そして、ホイルアンバランス判定部52においてホイルアンバランスが生じていると判定された場合、ECU23は、車室(図示略)内に設けられた当該ホイルアンバランスが生じていることを警告するためのウォーニングランプ55を点灯させる。
【0042】
上記構成によれば、ホイルアンバランスに起因する振動が操舵フィーリングの悪化として顕在化する前に、早期に当該ホイルアンバランスの発生を検知し搭乗者に知らしめることができる。そして、速やかにホイルバランス調整を行うよう促すことにより、当該ホイルアンバランスに起因する操舵フィーリングの悪化を回避することができる。
【0043】
(2)ホイルアンバランス判定部52は、パワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上であると判定した場合(Sp≧Sth、ステップ202:YES)には、続いて、操舵角θsの絶対値がステアリング中立近傍の所定の閾値θth以下であるか否かを判定する(ステップ203)。即ち、車両が直進状態にあるか否かを判定する。そして、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θth以下である場合(|θs|≧θth、ステップ203:YES)に、ホイルアンバランスが生じているものと判定する(ステップ204)。
【0044】
即ち、舵角の発生した状態では、ホイルアンバランス以外の要因による振動が発生する。従って、上記構成のように、車両が直進状態にあることを判定条件に加えることで、より高精度のホイルアンバランス検知ができるようになる。
【0045】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、ラック軸5にアシスト力を付与する所謂ラック型、或いはピニオンシャフト10にアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPSに適用してもよい。
【0046】
・本実施形態では、特定周波数抽出手段としての特定周波数抽出部51及び判定手段としてのホイルアンバランス判定部52は、ECU23(のマイコン41)に設けられることとした。しかし、これに限らず、特定周波数抽出手段及び判定手段は、ECU23とは別体に設けられる構成としてもよい。
【0047】
・本実施形態では、警告手段として、車室(図示略)内にウォーニングランプ55を設けたが、警告手段には、このような搭乗者の視覚を通じて告知するもの以外にも、警告音や音声等を用いたもの、即ち搭乗者の聴覚を通じて告知するものを用いてもよい。
【0048】
・本実施形態では、操舵系の状態を示す信号として、トルクセンサ31により検出される操舵トルクτを用いたが、これに限らず、当該操舵系を構成するピニオンシャフト10の回転角を示すピニオン角θpや、ステアリング2側の回転角である操舵角θs(ハンドル角)を用いてもよい。尚、周波数解析におけるピニオン角θp、操舵角θs、操舵トルクτの位置づけは、瞬間値ではなく、連続信号としての位置付けであることはいうまでもない。
【0049】
・本実施形態では、本発明をEPSに具体化した。しかし、これに限らず、本発明は、トルクセンサや操舵角センサ等、操舵系の状態を示す信号(操舵トルクや操舵角等)を生成可能な検出手段を有するものであれば、油圧式のパワーステアリング装置、操舵系にアシスト力を付与するための操舵力補助装置を有しない非アシスト型のステアリング装置に具体化してもよい。
【0050】
・本実施形態では、特定の周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpが所定の閾値Sth以上、且つ車両が直進状態にある場合(図5参照、ステップ203:YES)に、ホイルアンバランスが生じているものと判定することとした(図5参照)。しかし、これに限らず、直進条件(ステップ203)については、これを廃止してもよい。
【0051】
・本実施形態では、制動判定(図5参照、ステップ201)は、ブレーキ信号Sbkに基づき行うこととしたが、車両減速方向の加速度(減速度)に基づき行うこととしてもよい。
【0052】
・また、本実施形態では、直進状態判定(図5参照、ステップ203)は、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θth以下であるか否かにより行われることとした。しかし、これに限らず、当該直進状態判定には、操舵角θsに代えて、操舵トルクτ、操舵速度、又はヨーレイト等、その他の状態量を用いてもよい。
【0053】
・更に、図6のフローチャートに示すように、ホイルアンバランス判定時の車速Vが、所定の車速領域(V1≦V≦V2)内にあるか否かの条件判定(ステップ304)を付加し、車速Vが当該特定の車速領域内である場合(ステップ304)に、ホイルアンバランスが生じているものと判定する(ステップ305)構成としてもよい。尚、図6のフローチャートにおけるステップ301〜ステップ303の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ201〜ステップ203の処理と同一であるため、その説明は省略する。
【0054】
即ち、操舵系に生ずる振動の振幅は、転舵輪を支承するサスペンションの振動特性に依存し、当該サスペンションに共振が発生する特定の車速領域において増幅される。従って、この特定の車速領域、とりわけホイルアンバランスに起因する振動が増大する領域に上記所定の車速領域(V1≦V≦V2)を設定し、その車速領域内にあるか否かを判定する構成とすることで、より高精度なホイルアンバランス検知ができるようになる。
【0055】
・本実施形態では、本発明を、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づく補償制御(トルク慣性補償制御)を行うEPS1に具体化したが、本発明は、このような操舵トルクτの微分値に基づく補償制御を行わないものについて適用してもよい。
【0056】
・また、本実施形態のEPS1のように、そのモータ制御において、操舵トルクτの微分値に基づく補償制御(トルク慣性補償制御)を実行するものにおいては、ホイルアンバランスが発生したものと判定した場合には、当該補償制御を強化することとしてもよい。
【0057】
例えば、図7に示すように、電流指令値演算部65に、ホイルアンバランスを検知した旨を示す検知信号Strの入力に基づいてトルク慣性補償量Iti*を増大させるための補正係数αを出力する補正係数演算部70を設ける。そして、電流指令値演算部65は、この補正係数αにより補正した後のトルク慣性補償量Iti**に基づいて(Iti**=Iti*×α)、電流指令値Iq*を演算する構成とすればよい。
【0058】
この場合において、補正係数αは、特定の周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpが大となるほど、より大きくトルク慣性補償量Iti*を増大させる値にするとよい。具体的には、補正係数演算部70に、特定周波数抽出部51の出力するパワースペクトルSpを入力するとともに、同補正係数演算部70には、パワースペクトルSpと補正係数αとが関係付けられたマップ70aを設ける(図8参照)。同マップ70aにおいて、補正係数αは、パワースペクトルSpが大となるほど大きな値となるように設定される。そして、補正係数演算部70は、入力されるパワースペクトルSpを、このマップ70aに参照することにより補正係数αを演算することとすればよい。
【0059】
上記構成によれば、ホイルバランス調整がなされ、ホイルアンバランスが解消されるまでの間は、そのトルク慣性補償によりホイルアンバランスに起因する振動を抑制して、良好な操舵フィーリングを維持することができる。そして、ホイルアンバランスが生じている場合に限定してトルク慣性補償を強化することで、上述のような当該トルク慣性補償の弊害の発生をも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの制御ブロック図。
【図3】トルク慣性補償制御部の制御ブロック図。
【図4】特定周波数抽出部の処理手順を示すフローチャート。
【図5】ホイルアンバランス検知の処理手順を示すフローチャート。
【図6】別例のホイルアンバランス検知の処理手順を示すフローチャート。
【図7】別例のEPSの制御ブロック図。
【図8】パワースペクトルと補正係数とが関係付けられたマップ。
【符号の説明】
【0061】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、8…コラムシャフト、9…インターミディエイトシャフト、10…ピニオンシャフト、12…転舵輪、21…モータ、22…EPSアクチュエータ、23…ECU、31…トルクセンサ、35…車速センサ、41…マイコン、42…駆動回路、45,65…電流指令値演算部、46…モータ制御信号出力部、47…基本アシスト制御部、48…トルク慣性補償制御部、51…特定周波数抽出部、52…ホイルアンバランス判定部、53…ブレーキセンサ、55…ウォーニングランプ、Iq*…電流指令値、Ias*…基本アシスト制御量、Iti*,Iti**…トルク慣性補償量、θp…ピニオン角、θs…操舵角、θth…閾値、τ…操舵トルク、dτ…操舵トルク微分値、V…車速、Sp…パワースペクトル、Sth…閾値、Sbk…ブレーキ信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系の状態を示す信号を生成する検出手段と、
前記操舵系の状態を示す信号から、転舵輪に生じたホイルアンバランスに対応する特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出手段と、
非制動時、抽出された前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上である場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定する判定手段と、
前記ホイルアンバランスを警告する警告手段と、を備えたステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記判定手段は、前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上であり、且つ直進状態である場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定すること、
を特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のステアリング装置において、
前記判定手段は、前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上であり、且つ所定の車速領域にある場合に、前記ホイルアンバランスが生じていると判定すること、
を特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のステアリング装置において、
モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与可能な操舵力補助装置と、前記操舵系の状態を示す信号に基づくモータ制御より前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、
前記モータ制御は、前記操舵系の状態を示す信号である操舵トルクの微分値に基づく補償制御を含み、
前記制御手段は、前記ホイルアンバランスが生じていると判定された場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償制御を強化すること、を特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−254522(P2008−254522A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97449(P2007−97449)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】