説明

ステアリング補助システム及びステアリング補助方法

【課題】走行状態に応じた適切なハンドル操作性が得られるステアリング補助システムを提供する。
【解決手段】ステアリング補助システム10は、油圧ポンプ59と、ステアリング補助装置58と、自動二輪車11の走行状態に応じて油圧ポンプ59及びステアリング補助装置58を制御するコントローラ42と、車速センサ44と、操舵角センサ64と、操舵トルクセンサ46とを有する。ステアリング補助装置58は、ステアリングに対して回転トルクを与えるシリンダ170と、電磁比例切換弁172とを有する。電磁比例切換弁172は、シリンダ170内におけるピストン178の両側の受圧室184a及び184bに対して、油圧ポンプ59から供給される圧力流体を切り換えて供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のステアリングダンパに対して操作を行い、運転性能を向上させるステアリング補助システム及びステアリング補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の運転性能を一層向上させるために様々な制御技術の開発がなされている。運転性能の向上のためには、特にハンドル操作性の向上が望まれる。
【0003】
ハンドル操作性を向上させるためには、例えばステアリングダンパ(例えば、特許文献1参照)を用いることが考えられるが、一般的なステアリングダンパは、受動的な動作が主であるため、走行状態に応じた能動的なステア補助力が期待されている。
【0004】
このような背景から、特許文献2には、車速、操舵角等の信号に基づいて弁体を回転させ、複数のオリフィスのうちいずれか1つを選択的に用い、ダンピング効果を可変にする装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、ステアリングシャフトに連動するコントロールバルブを用いて、シリンダを制御する装置が記載されている。
【0006】
【特許文献1】実開平5−26779号公報
【特許文献2】特開昭60−219183号公報
【特許文献3】実開平2−7088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のステアリングダンパ又はそれを制御する装置では、基本的にはステアリング操作を重くすることが主であり、走行状態に応じてステアリング操作を軽くすることはできない。
【0008】
また、基本的には操舵角変化率に応じてステアリング操作を重くして、安定化を図るものであるが、自動二輪車の様々な走行状態に対してさらに適切な制御が期待されるところである。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、走行状態に応じた適切なハンドル操作性が得られる自動二輪車のステアリング補助システム及びステアリング補助方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るステアリング補助システムは、以下の特徴を有する。
【0011】
第1の特徴;流体圧増減手段と、ステアリングに対して回転トルクを与えるシリンダと、前記シリンダ内における前記ピストンの両側受圧室に対して、前記流体圧増減手段から供給される圧力流体を切り換えて供給する切換弁と、自動二輪車の車速を検出する車速検出手段と、前記ステアリングの操舵角変化率を検出する操舵角変化率検出手段と、前記自動二輪車の車幅方向の加速度を検出する加速度検出手段と、自動二輪車の走行状態に応じて前記流体圧増減手段及び前記切換弁を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記車速検出手段から得られる車速が所定値以上で、前記操舵角変化率検出手段から得られる操舵角変化率の絶対値が所定値以下で、且つ、前記加速度検出手段から得られる車幅方向の加速度が所定値以上であるときに、前記流体圧増減手段により前記流体圧を加速度に応じて増加させ、運転者にとって前記ステアリングの操作が重くなるように前記切換弁による流路を設定することを特徴とする。
【0012】
このように、切換弁を用いて圧力流体の流路を切り換えることによって、ハンドル操作を重くし、又は軽くすることができる。また、ハンドル操作を重くし、又は、軽くする程度は流体圧増減手段によって調整され、走行状態に応じた適切なハンドル操作性が得られる。また、自動二輪車が車幅方向からの外力を受けて揺れたことを検出可能となり、ステアリング操作を重くして安定性を向上させて対処することができる。
【0013】
第2の特徴;前記自動二輪車の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を有し、前記制御部は、前記傾斜角検出手段から得られる前記傾斜角をパラメータの1つとして、前記流体圧を前記傾斜角に対応して増減するように前記流体圧増減手段を制御することを特徴とする。
【0014】
このように自動二輪車の傾斜角に応じて流体圧を増減することにより、ハンドル操作性が一層向上する。
【0015】
第3の特徴;前記切換弁は電磁比例弁であり、前記制御部は、前記電磁比例弁を比例的に制御することを特徴とする。
【0016】
このように、電磁比例弁を用いることにより、一層精度の高い制御が可能になる。
【0017】
本発明に係るステアリング補助方法は、以下の特徴を有する。
【0018】
第4の特徴;流体圧増減手段と、ステアリングに対して回転トルクを与えるシリンダと、自動二輪車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記シリンダ内における前記ピストンの両側受圧室に対して、前記流体圧増減手段から供給される圧力流体を切り換えて供給する切換弁と、前記自動二輪車の車速を検出する車速検出手段と、前記ステアリングの操舵角変化率を検出する操舵角変化率検出手段と、前記自動二輪車の車幅方向の加速度を検出する加速度検出手段と、自動二輪車の走行状態に応じて前記流体圧増減手段及び前記切換弁を制御する制御部と、を用い、前記制御部は、前記車速検出手段から得られる車速が所定値以上で、前記操舵角変化率検出手段から得られる操舵角変化率の絶対値が所定値以下で、且つ、前記加速度検出手段から得られる車幅方向の加速度が所定値以上であるときに、前記流体圧増減手段により前記流体圧を加速度に応じて増加させ、運転者にとって前記ステアリングの操作が重くなるように前記切換弁による流路を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るステアリング補助システム及びステアリング補助方法によれば、切換弁を用いて圧力流体の流路を切り換えることによって、ハンドル操作を重くし、又は軽くすることができる。また、ハンドル操作を重くし、又は、軽くする程度は流体圧増減手段によって調整され、走行状態に応じた適切なハンドル操作性が得られる。
【0020】
さらに、車速検出手段、操舵角変化率検出手段、車幅方向の加速度検出手段により、自動二輪車が車幅方向からの外力を受けて揺れたことを検出可能となり、ステアリング操作を重くして安定性を向上させて対処することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るステアリング補助システムについて実施の形態を挙げ、添付の図1〜図7を参照しながら説明する。本実施の形態に係るステアリング補助システム10は、自動二輪車11に搭載される。先ず、自動二輪車11について説明する。
【0022】
本実施の形態では、図1に示すように、フルカウリング型の自動二輪車11を例示して説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、他の種別の自動二輪車(例えば、スクータ)にも適用可能である。なお、この自動二輪車11において、車体の左右に1つずつ対称的に設けられる機構乃至構成要素については、左側の参照符号に「L」を付し、右側の参照符号に「R」を付すものとする。また、以下の説明では、「右」は、自動二輪車11の運転者から見て車体の右側をいい、「左」は、運転者から見て車体の左側をいう。
【0023】
図1に示すように、自動二輪車11は、車体を構成するクレードル型の車体フレーム12と、操舵輪である前輪14と、駆動輪である後輪16と、前輪14を操舵するハンドル18と、運転者が着座するシート20とを有する。後輪16は、エンジン19からトランスミッション(図示せず)を介して駆動される。
【0024】
図1及び図2に示すように、車体前方部におけるハンドル18には、トップブリッジ52が連結されている。トップブリッジ52の左右両側にはフロントフォーク24L、24Rが連結され、該フロントフォーク24L、24Rは、ボトムブリッジ54を貫通して前輪14を回転自在に軸支する。ボトムブリッジ54の中央部には、複合センサ60が取り付けられている。複合センサ60の下面はブラケット61aを介して車体フレーム12に固定されている。複合センサ60の上面の回転盤66(図3参照)はブラケット61bを介してボトムブリッジ54に固定されている。
【0025】
シート20に着座した運転者がハンドル18を左右に操舵すると、ヘッドパイプ22を中心軸として、ハンドル18、トップブリッジ52、フロントフォーク24L、24R、ボトムブリッジ54及び前輪14を左右に一体的に回動させることができる。これにより複合センサ60の上面の回転盤66はブラケット61bによって回転する。
【0026】
また、フロントフォーク24L、24Rには、前輪14を上方から覆うフロントフェンダ25が取り付けられている。この場合、図2からも明らかなように、ボトムブリッジ54の下部は他の部品が配置されてない空きスペースであり、複合センサ60の取り付けに適している。また、複合センサ60は、フロントフェンダ25により、下方からの水、泥、砂等の進入を防止することができる。
【0027】
さらに、自動二輪車11におけるカウル38の前方側には、ウインカ50L、50Rが配置され、自動二輪車11の後部側にはウインカ37L、37Rがそれぞれ配置されている。シート20の下方には自動二輪車11の電気的な制御を行うコントローラ42が設けられている。エンジン19の近傍には、エンジン回転数及び変速比等から車速を検出する車速センサ(車速検出手段)44が設けられている。
【0028】
ヘッドパイプ22には、ハンドル18の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)46(図4参照)が設けられている。また、ボトムブリッジ54下端には、自動二輪車11の傾斜角(つまり、ロール角)を検出する傾斜角センサ(傾斜角検出手段)48が設けられている。操舵トルクや傾斜角を検出する手段はセンサに限らず、例えば所定のパラメータから演算によってもとめてもよい。
【0029】
ヘッドパイプ22の近傍でハンドル18と連動するポスト56(ボトムブリッジ54等でもよい)と、車体フレーム12との間には、ステアリング補助装置58が設けられている。エンジン19の近傍には油圧ポンプ(流体圧増減手段)59が設けられている。
【0030】
図3に示すように、複合センサ60は、自動二輪車11のハンドル18(図1及び図2参照)の操舵角を検出する操舵角センサ(操舵角検出手段)64と、自動二輪車11のロール角(自動二輪車11の左右(車幅方向)の傾斜角度)に応じた重力加速度を検出する加速度センサ(加速度検出手段)62と、操舵角センサ64及び加速度センサ62を一体収容するケース65と、上部の回転盤66を有する。加速度センサ62は半導体素子で構成されるものであり、廉価である。操舵角センサ64はポテンショメータであり、廉価である。
【0031】
ケース65の下面はブラケット61aに接続されており、回転盤66はブラケット61bに接続されている。ケース65内には隔壁119が設けられており、隔壁119の上面には基板90が設けられ、隔壁119の下の空間84には基準状態で水平な基板86が設けられている。基板90の上面には平面視で円弧状の抵抗体(例えば、コンダクティブプラスチック)が設けられている。回転盤66の下部には基板90の抵抗体に対して摺動する導電性ブラシ92が設けられており、抵抗体と導電性ブラシ92により操舵角センサ64を構成している。基板90と基板86はケーブルで接続されており、操舵角センサ64の信号は基板86を介してコントローラ42に供給される。
【0032】
基板86の底面には、加速度センサ62が配置されている。つまり、基板86及び加速度センサ62は、鉛直軸124に対して垂直で、略水平に配置され、且つ中心軸122に対して所定角度(中心軸122と鉛直方向軸124とのなす角度(キャスター角))だけ傾斜して空間84内に配置されている。また、前記基板86には、ケーブル112a〜112dが半田114a〜114dにより接続されている。複数のケーブル112a〜112dはゴム製のグロメット110を介して外部に引き出され、1本のハーネス113にまとめられてコントローラ42に接続されている。複合センサ60は外部からケース65内への水分、塵埃等の混入を防止するための複数のシールが設けられている。
【0033】
図4に示すように、コントローラ42は、車速センサ44、操舵トルクセンサ46、傾斜角センサ48、操舵角センサ64及び加速度センサ62が接続されており、検出された車速V、操舵トルクT、傾斜角φ、操舵角θ及び加速度Gを示す信号が供給される。操舵トルクT、傾斜角φ及び操舵角θは、ハンドル18が基準状態(つまり、直進走行状態)であるときにそれぞれ0である。
【0034】
コントローラ42は、車速V、操舵トルクT、傾斜角φ、操舵角θ及び加速度Gに基づいて判断処理を行う判断部150と、外部のステアリング補助装置58及び油圧ポンプ59のモータ59aを制御するデバイス制御部154とを有する。コントローラ42は、主たる制御部としてのCPU(Central Processing Unit)と、記憶部としてのRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)及びドライバ等を有しており、CPUがプログラムを読み込み、記憶部等と協働しながらソフトウェア処理を実行することにより実現される。
【0035】
図5に示すように、ステアリング補助装置58は、シリンダ170と、電磁比例切換弁172とを有する。シリンダ170は、一方のシリンダチューブ173の端部がポスト56に対して回転自在に接続され、他方のロッド174の端部が車体フレーム12の一部に対して回転自在に接続されている。シリンダ170は、ステアリングに対して回転トルクを与えるように構成されている。ここでいう回転トルクとは、ステアリング操作を重くし、又は、軽くする方向のトルクを示し、さらに能動的な作用のみならず受動的に発生するトルクを含む。
【0036】
ロッド174にはピストン178が設けられており、シリンダチューブ173内を進退する。ピストン178には、ピストン178の両側の受圧室184a及び184bの間の連通手段(オリフィス等)は設けられていない。ロッド174は、シリンダチューブ173の端部のシール体180によって支持されており、該シール体180から外に出ている部分は蛇腹状のブーツ182で覆われている。シリンダ170の上部は、マニホールド形状になっており、電磁比例切換弁172が一体的に設けられている。
【0037】
電磁比例切換弁172は、シリンダ170内におけるピストン178の両側の受圧室184a及び184bに対して、油圧ポンプ59から供給される圧力流体を切り換えて供給する。電磁比例切換弁172は、ボディ186と、該ボディ186内を進退動作するスプール188と、該スプール188を駆動するソレノイド190とを有し、ボディ186の入力ポート186pに供給される圧力流体の流路を選択的に切り換え、Aポート186a又はBポート186bのいずれか一方に連通させる。Aポート186a及びBポート186bのうち入力ポート186pに連通しない他方はリターンポート186rに連通し、タンク192に連通する。Aポート186a及びBポート186bは、シリンダ170の受圧室184a及び184bに連通している。
【0038】
ソレノイド190は、コントローラ42の作用下にスプール188を比例的に制御し、入力ポート186pから圧力流体を受圧室184a及び184bのいずれか一方に比例的に供給し、他方をタンク192に連通させることができる。ソレノイド190は、スプール188の駆動方向に合わせて、該スプール188の両端に設けられていてもよい。電磁比例切換弁172は、必ずしも比例弁でない切換弁でもよいが、比例式の電磁弁を用いることにより、様々な状況に対応できるため一層精度の高い制御が可能になる。
【0039】
油圧ポンプ59はモータ59aによって回転し、タンク192内の液体(一般的には油)を吸い出して加圧し、電磁比例切換弁172に供給する。モータ59aはコントローラ42の作用下に速度及び(又は)トルク可変に制御され、油圧ポンプ59の回転数及び(又は)トルクが変化し、電磁比例切換弁172に対する加圧流体の圧力を調整することができる。電磁比例切換弁172に対する加圧流体の圧力を調整手段(流体圧増減手段)は、これに限らず、例えば、斜板式ポンプの斜板の傾斜角を調整してもよいし、圧力調整電磁比例弁を用いてもよい。油圧ポンプ59と電磁比例切換弁172との間には、圧力補償手段(例えばリリーフ弁)が設けられていてもよい。
【0040】
次に、コントローラ42における処理について図6及び図7を参照しながら説明する。図6におけるステップS1〜S5は判断部150で行われ、図7におけるステップS6〜S11はデバイス制御部154で行われる。図6における処理は、所定の微小時間毎に繰り返し実行される。
【0041】
図6のステップS1において、車速センサ44、操舵角センサ64及び加速度センサ62からその時点の車速V、操舵トルクT、傾斜角φ、操舵角θ及び車幅方向の加速度Gを得る。
【0042】
ステップS2において、車速Vと所定閾値Vtとを比較し、V<VtであればステップS3へ移り、V≧VtであればステップS4へ移る。所定閾値Vtは、例えば、走行していることを検出するだけであれば5km/h程度に設定し、高速走行を検出するのであれば100km/h程度に設定するとよい。
【0043】
ステップS3において、操舵トルクTと所定閾値Ttとを比較し、T>TtであればステップS6へ移り、T≦TtであればステップS14へ移る。
【0044】
ステップS4において、所定の微小時間における操舵角θの変化率Δθ(つまり、操舵角θの角速度)と所定閾値Δθtとを比較し、|Δθ|<ΔθtであればステップS8へ移り、|Δθ|≧ΔθtであればステップS5へ移る。このステップS4では、操舵角θと変化率Δθが同符号であることを条件として加えてもよい。変化率Δθはいわゆる微分処理(操舵角変化率検出手段)で求められ、例えば、操舵角θを時系列順にメモリに格納しておき、現在の操舵角θと所定の微小時間前の操舵角θとの差により求められる。
【0045】
ステップS5において、車幅方向の加速度Gと所定閾値Gtとを比較し、|G|>GtであればステップS10へ移り、|G|≦GtであればステップS14へ移る。
【0046】
以上のステップS1〜S5における判断処理の後、その時点の状況に応じたステップS6〜S11のデバイス制御処理を行う。
【0047】
図7のステップS6(ステップS3の判断が成立するとき)においては、取り回し制御の処理を行う。つまり、ステップS6は、低速走行であって、且つ操舵トルクTがある程度重い状況であり、ステアリング操作感を軽くするためにパワーステアリングと同様の操作を行う。このため、油圧ポンプ59が発生するべきポンプトルクTpを、Tp←T−Tc1として求める。この減算値のTc1は、例えばステップS3における閾値Ttと等しくするとよい。また、油圧ポンプ59がポンプトルクTpを発生するようにモータ59aに対する制御電流Iとして、I←Tp×K1を求める。
【0048】
ステップS7において、操舵角θ及びその絶対値に基づき、電磁比例切換弁172の切り換え方向及び切り換え量を求める。つまり、運転者にとってステアリング操作が軽くなるように電磁比例切換弁172による流路の切り換え及び切り換え量を設定し、低速走行時のハンドル操作が軽くなり、パワーステアリングと同様の効果が得られる。換言すれば、低速時で相対的に低い周波数で大きな外乱トルクが加わった場合には、操舵方向に操舵トルクを発生させてステアリングの補助ができる。ステップS7の後、ステップS12へ移る。
【0049】
ステップS8(ステップS4の判断が成立するとき)においては、収束性向上制御の処理を行う。つまり、ステップS8は、ある程度以上に高速で走行中であって、ステアリングの速度が小さいときであって、クルーズ走行中と判断でき、ステアリング操作を一層安定させる。このため、モータ59aに対する制御電流Iとして、I←|Δθ|×K2を求める。
【0050】
ステップS9において、操舵角θ及びその絶対値に基づき、電磁比例切換弁172の切り換え方向及び切り換え量を求める。つまり、運転者にとってステアリング操作が重くなるように電磁比例切換弁172による流路の切り換え及び切り換え量を設定し、高速走行時のステアリング操作を重くして安定性を向上させる。換言すれば、収束性向上制御により、相対的に高い周波数で小さな外乱は、ステアリングダンパのダンパ力で振れを軽減することができる。ステップS9の後、ステップS12へ移る。
【0051】
ステップS10(ステップS5の判断が成立するとき)においては、横加速度対応制御の処理を行う。つまり、ステップS10は、ある程度以上に高速で走行中であって、ステアリングの速度及び横方向の加速度が大きいときであるから、横風等による外乱挙動が発生し、自動二輪車11が揺れた場合と判断でき、ステアリング操作を安定させることが望ましい。このため、油圧ポンプ59が発生するべきポンプトルクTpを、Tp←T−Tc2として求める。この減算値のTc2は、例えばステップS5における閾値Gtと等しくするとよい。また、油圧ポンプ59がポンプトルクTpを発生するようにモータ59aに対する制御電流Iとして、I←Tp×K3を求める。
【0052】
ステップS11において、操舵角θ及びその絶対値に基づき、電磁比例切換弁172の切り換え方向及び切り換え量を求める。つまり、運転者にとってステアリング操作が重くなるように電磁比例切換弁172による流路の切り換え及び切り換え量を設定し、自動二輪車11が車幅方向からの外力を受けて揺れたことに対して、ステアリング操作を重くして安定性を向上させて対処することができる。換言すれば、操舵振れが微小であっても車体振れが大きい場合の外乱収束性を高めることができる。ステップS11の後、ステップS12へ移る。
【0053】
ステップS12において、ステップS6、S8及びS10で求めた制御電流Iを傾斜角φによりさらに補正し、最終の出力電流Ic←I×φ×K4を求める。このように自動二輪車11の傾斜角φに応じて流体圧力を増減することにより、ハンドル操作性が一層向上する。傾斜角度φが0のときは、出力電流Icも0となるが、シリンダ170によるある程度のダンパ効果が得られる。
【0054】
ステップS13において、ステップS12で求めた出力電流Icをモータ59aに対して出力するとともに、電磁比例切換弁172のソレノイド190に対してステップS7、S9及びS11で求めた状態となるように電流を出力する。
【0055】
一方、ステップS14(ステップS5の判断が非成立のとき)において、シリンダ170によるダンパ効果及び通路抵抗によるダンパ効果を用い、コントローラ42からは油圧ポンプ59及び電磁比例切換弁172の制御をしない。
【0056】
ステップS13及びステップS14の後、図6に示す今回の処理を終了する。
【0057】
上述したように、本実施の形態に係るステアリング補助システム10及びステアリング補助方法によれば、電磁比例切換弁172を用いて圧力流体の流路を切り換えることによって、自動二輪車11のハンドル操作を重くし、又は軽くすることができる。また、ハンドル操作を重くし、又は、軽くする程度は流体圧増減手段としての油圧ポンプ59によって調整され、走行状態に応じた適切なハンドル操作性が得られる。シリンダ170のピストン178には、オリフィス等がないので、構造が簡便であり比較的廉価である。
【0058】
本実施の形態では、相対的に高い周波数で小さな外乱は、ステアリングダンパのダンパ力で振れを軽減し、相対的に低い周波数で大きな外乱トルクが加わった場合には、外乱に対抗するように、操舵トルクを発生させたり、操舵方向に操舵トルクを発生させ、様々な種類の外乱に対して操舵振れを迅速に収束させることができる。
【0059】
また、それぞれの制御を車幅方向の加速度Gや傾斜角φにより切り換えて行うことにより、操舵振れが緩やかでも車体振れが大きい場合の外乱収束性や、傾斜角φに見合った制御を行い、様々な状態での外乱収束性を向上させることができる。
【0060】
本発明に係るステアリング補助システム及びステアリング補助方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態に係るステアリング補助システムが搭載された自動二輪車の側面図である。
【図2】自動二輪車のヘッドパイプ下方部分に設けられた複合センサの斜視図である。
【図3】複合センサの断面平面図である。
【図4】本実施の形態に係るステアリング補助システムのブロック構成図である。
【図5】ステアリング補助装置の断面側面図である。
【図6】本実施の形態に係るステアリング補助方法の処理手順を示すフローチャートである(その1)。
【図7】本実施の形態に係るステアリング補助方法の処理手順を示すフローチャートである(その2)。
【符号の説明】
【0062】
10…ステアリング補助システム 11…自動二輪車
12…車体フレーム 18…ハンドル
19…エンジン 20…シート
42…コントローラ 44…車速センサ
46…操舵トルクセンサ 48…傾斜角センサ
58…ステアリング補助装置 59…油圧ポンプ
59a…モータ 60…複合センサ
62…加速度センサ 64…操舵角センサ
150…判断部 154…デバイス制御部
170…シリンダ 172…電磁比例切換弁
173…シリンダチューブ 174…ロッド
178…ピストン 184a、184b…受圧室
186a、186b…ポート 186p…入力ポート
186r…リターンポート 188…スプール
190…ソレノイド 192…タンク
V…車速 G…加速度
θ…操舵角 Δθ…変化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧増減手段と、
ステアリングに対して回転トルクを与えるシリンダと、
前記シリンダ内におけるピストンの両側受圧室に対して、前記流体圧増減手段から供給される圧力流体を切り換えて供給する切換弁と、
自動二輪車の車速を検出する車速検出手段と、
前記ステアリングの操舵角変化率を検出する操舵角変化率検出手段と、
前記自動二輪車の車幅方向の加速度を検出する加速度検出手段と、
自動二輪車の走行状態に応じて前記流体圧増減手段及び前記切換弁を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記車速検出手段から得られる車速が所定値以上で、前記操舵角変化率検出手段から得られる操舵角変化率の絶対値が所定値以下で、且つ、前記加速度検出手段から得られる車幅方向の加速度が所定値以上であるときに、前記流体圧増減手段により前記流体圧を加速度に応じて増加させ、運転者にとって前記ステアリングの操作が重くなるように前記切換弁による流路を設定することを特徴とするステアリング補助システム。
【請求項2】
請求項1記載のステアリング補助システムにおいて、
前記自動二輪車の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を有し、
前記制御部は、前記傾斜角検出手段から得られる前記傾斜角をパラメータの1つとして、前記流体圧を前記傾斜角に対応して増減するように前記流体圧増減手段を制御することを特徴とするステアリング補助システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のステアリング補助システムにおいて、
前記切換弁は電磁比例弁であり、
前記制御部は、前記電磁比例弁を比例的に制御することを特徴とするステアリング補助システム。
【請求項4】
流体圧増減手段と、
ステアリングに対して回転トルクを与えるシリンダと、
自動二輪車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記シリンダ内における前記ピストンの両側受圧室に対して、前記流体圧増減手段から供給される圧力流体を切り換えて供給する切換弁と、
前記自動二輪車の車速を検出する車速検出手段と、
前記ステアリングの操舵角変化率を検出する操舵角変化率検出手段と、
前記自動二輪車の車幅方向の加速度を検出する加速度検出手段と、
自動二輪車の走行状態に応じて前記流体圧増減手段及び前記切換弁を制御する制御部と、
を用い、
前記制御部は、前記車速検出手段から得られる車速が所定値以上で、前記操舵角変化率検出手段から得られる操舵角変化率の絶対値が所定値以下で、且つ、前記加速度検出手段から得られる車幅方向の加速度が所定値以上であるときに、前記流体圧増減手段により前記流体圧を加速度に応じて増加させ、運転者にとって前記ステアリングの操作が重くなるように前記切換弁による流路を設定することを特徴とするステアリング補助方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−83578(P2009−83578A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253435(P2007−253435)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】