説明

スナップリングの取付構造および摩擦係合装置ならびに動力伝達装置

【課題】設置に必要なスペースの増大を抑制しながらスナップリングの外れを防止することが可能なスナップリングの取付構造、該構造を備えた摩擦係合装置および動力伝達装置を提供する。
【解決手段】スナップリングの取付構造は、スナップリング60と、スナップリング60によって拘束される摩擦係合板とを備える。スナップリング60はプレートに当接する当接面を有する。当該当接面に、スナップリング60の接線方向および径方向に交差する斜め方向であって、スナップリング60に対する摩擦係合板の回転に伴なって摩擦係合板に設けられた凸部が当接することによりスナップリング60の外れを防止する径方向の力(F1'',F2'')を生じさせる方向に延びる段差部63が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スナップリングの取付構造および摩擦係合装置ならびに動力伝達装置に関し、特に、溝部に嵌合されるスナップリングの取付構造、該構造を備えた摩擦係合装置および動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溝部に嵌合されるスナップリングの取付構造としては、たとえば、特開2003−254311号公報(特許文献1)および特開2003−301861号公報(特許文献2)に記載されたものなどが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、スナップリングの断面形状をテーパ形状とすることで、相手物からの大きなスラスト荷重が作用した場合にも、スナップリングの外れを防止することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、バッキングプレートに段差を設けることによりスナップリングの内径側を支持し、スナップリングの外れを防止することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−254311号公報
【特許文献2】特開2003−301861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スナップリングによって被拘束部材を拘束する構造においては、該スナップリングに対して被拘束部材が回転した場合に、スナップリングの外れを防止する必要がある。特許文献1では、スナップリングの断面形状をテーパ状にしているが、このようにすることで、スナップリングの取付時に、軸方向に余分なスペースが必要になる。
【0006】
また、特許文献2のように、スナップリングの内径側をバッキングプレートで支持しようとすると、スナップリングの内径側に余分なスペースが必要になる。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、設置に必要なスペースの増大を抑制しながらスナップリングの外れを防止することが可能なスナップリングの取付構造、該構造を備えた摩擦係合装置および動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスナップリングの取付構造は、溝部に嵌合するスナップリングと、溝部に嵌合したスナップリングによって拘束される被拘束部材とを備え、スナップリングは被拘束部材に当接する第1の当接面を有し、被拘束部材はスナップリングに当接する第2の当接面を有し、第1と第2の当接面の一方に、該第1と第2の当接面の一方から他方に向けて突出する突起部が設けられ、第1と第2の当接面の他方に、スナップリングの接線方向および径方向に交差する斜め方向であって、スナップリングに対する被拘束部材の回転に伴なって突起部が当接することによりスナップリングの外れを防止する径方向の力を生じさせる方向に延びる段差部が形成されている。
【0009】
上記構成によれば、被拘束部材に加えられた回転力を利用して、スナップリングに径方向の力を作用させて溝部からの外れを防止することができる。したがって、設置に必要なスペースの増大を抑制しながら溝部に嵌合されたスナップリングの外れを防止することができる。
【0010】
1つの局面では、上記スナップリングの取付構造において、スナップリングは、ケーシングの内面に形成された溝部に嵌合され、段差部は、スナップリングに対する被拘束部材の回転に伴なってスナップリングを径方向外方へ押圧する力を生じさせる方向に延びる。
【0011】
上記構成によれば、設置に必要なスペースの増大を抑制しながらケーシングの内面に形成された溝部に嵌合されたスナップリングの外れを防止することができる。
【0012】
他の局面では、上記スナップリングの取付構造において、スナップリングは、シャフトの外面に形成された溝部に嵌合され、段差部は、スナップリングに対する被拘束部材の回転に伴なってスナップリングを径方向内方へ押圧する力を生じさせる方向に延びる。
【0013】
上記構成によれば、設置に必要なスペースの増大を抑制しながらシャフトの外面に形成された溝部に嵌合されたスナップリングの外れを防止することができる。
【0014】
上記スナップリングの取付構造において、好ましくは、第1と第2の当接面の双方に互いに略平行な段差部が形成されている。
【0015】
これにより、スナップリングに対する被拘束部材の回転に伴なって生じるスナップリングの外れを防止する径方向の力を増大させることができる。したがって、溝部に嵌合されたスナップリングの外れをより確実に防止することができる。
【0016】
本発明に係る摩擦係合装置は、上述したスナップリングの取付構造を備えた摩擦係合装置であって、被拘束部材は、摩擦係合装置を構成する摩擦係合板を含む。
【0017】
本発明に係る動力伝達装置は、上述したスナップリングの取付構造を備える。
上記構成によれば、スナップリングの溝部からの外れが防止された摩擦係合装置および動力伝達装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、設置に必要なスペースの増大を抑制しながらスナップリングの外れを防止することが可能なスナップリングの取付構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0020】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0021】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係るスナップリングの取付構造が適用される「動力伝達装置」としての自動変速機の構成を説明する図である。図1を参照して、本実施の形態に係る自動変速機1は、車両に搭載される自動変速機であって、クランクシャフトに連結された入力軸110と出力軸120とを含むトルクコンバータ100と、遊星歯車機構である第1セット200,第2セット300と、出力ギヤ400と、ギヤケース500と、ギヤケース500に固定されたB1ブレーキ610、B2ブレーキ620およびB3ブレーキ630と、C1クラッチ710およびC2クラッチ720と、ワンウェイクラッチ730とを有する。
【0022】
第1セット200は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。第1セット200は、サンギヤS(UD)210と、ピニオンギヤ220と、リングギヤR(UD)230と、キャリアC(UD)240とを含む。
【0023】
サンギヤS(UD)210は、トルクコンバータ100の出力軸110に連結されている。ピニオンギヤ220は、キャリアC(UD)240に回転自在に支持されている。ピニオンギヤ220は、サンギヤS(UD)210およびリングギヤR(UD)230と係合している。
【0024】
リングギヤR(UD)230は、B3ブレーキ630によりギヤケース500に固定される。キャリアC(UD)240は、B1ブレーキ610によりギヤケース500に固定される。
【0025】
第2セット300は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。第2セット300は、サンギ
ヤS(D)310と、ショートピニオンギヤ320と、キャリアC(1)321と、ロングピニオンギヤ330と、キャリアC(2)331と、サンギヤS(S)340と、リングギヤR(1)(R(2))350とを含む。
【0026】
サンギヤS(D)310は、キャリアC(UD)240に連結されている。ショートピニオンギヤ320は、キャリアC(1)321に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤ320は、サンギヤS(D)310およびロングピニオンギヤ330と係合している。キャリアC(1)321は、出力ギヤ400に連結されている。
【0027】
ロングピニオンギヤ330は、キャリアC(2)331に回転自在に支持されている。ロングピニオンギヤ330は、ショートピニオンギヤ320、サンギヤS(S)340およびリングギヤR(1)(R(2))350と係合している。キャリアC(2)331は、出力ギヤ400に連結されている。
【0028】
サンギヤS(S)340は、C1クラッチ710によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。リングギヤR(1)(R(2))350は、B2ブレーキ620により、ギヤケース500に固定され、C2クラッチ720によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。また、リングギヤR(1)(R(2))350は、ワンウェイクラッチ730に連結されており、1速ギヤ段の駆動時に回転不能となる。
【0029】
図2に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。「○」は係合を表している。「×」は解放を表している。「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。「△」は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
【0030】
図3は、図1に示される自動変速機に含まれる「摩擦係合装置」としてのB1ブレーキ610を示した断面図である。図3を参照して、B1ブレーキ610は、摩擦係合板30を構成するプレート10およびディスク20と、ケーシング40(外方部材)と、ハブ50(内方部材)と、スナップリング60と、ピストン70とを含んで構成される。プレート10は、ケーシング40に固定されている。他方、ディスク20は、ハブ50に固定されている。
【0031】
B1ブレーキ610を作動させる際は、ピストン70により摩擦係合板30を軸方向(矢印DR0方向)に押圧し、プレート10とディスク20とを摩擦係合させる。ピストン70に作用する油圧が減じられると、ピストン70はスプリング(図示せず)により元の位置に戻される。これにより、プレート10およびディスク20は元の位置に戻される。
【0032】
スナップリング60は、プレート10に隣接する位置に設けられ、プレート10の軸方向の移動を規制する。スナップリング60は、ケーシング40の内周面40Bに設けられた溝部40Aに嵌合されている。スナップリング60は、プレート10に当接する当接面60Aを有し、プレート10は、スナップリング60に当接する当接面10Aを有する。
【0033】
図4は、スナップリング60の当接面60Aを示す図であり、図5は、プレート10の当接面10Aを示す図である。
【0034】
図4に示すように、スナップリング60は、その当接面60A上に周方向に交互に並ぶように設けられた凸部61(厚肉部分)と凹部62(薄肉部分)とを有する。凸部61と凹部62との間には、段差部63が形成されている。段差部63は、スナップリング60の接線方向および径方向に交差する「斜め方向」に延在するように設けられている。
【0035】
図5に示すように、プレート10は、その当接面10A上に周方向に交互に並ぶように設けられた凸部11(厚肉部分)と凹部12(薄肉部分)とを有する。凸部11と凹部12との間には、段差部13が形成されている。段差部13は、プレート10の接線方向および径方向に交差する「斜め方向」に延在するように設けられている。
【0036】
上述した段差部63,13は、互いに略平行に延びるように形成されている。また、図5に示される凸部11および凹部12は、それぞれ、図4に示される凹部62および凸部61に対応する位置に形成されている。すなわち、スナップリング60の当接面60Aに形成された凸部61は、プレート10の当接面10Aに形成された凹部12内に受け入れられ、プレート10の当接面10Aに形成された凸部11は、スナップリング60の当接面60Aに形成された凹部62内に受け入れられる。
【0037】
再び図3を参照して、プレート10は、非回転体であるハウジング40に固定され、ディスク20は、回転体であるハブ50に固定されている。プレート10とディスク20とが摩擦係合する際、ディスク20の回転力がプレート10に伝達される。ここで、プレート10は、ハウジング40の内周面40Bに形成された溝部に嵌合されているが、該溝部とプレート10との間には若干の隙間が存在するため、ディスク20から伝達された回転力により、プレート10が回転しようとする。この結果、プレート10と当接するスナップリング60に回転方向(周方向)の力が伝達され、スナップリング60が溝部40Aから外れてしまうことが懸念される。
【0038】
本実施の形態では、図4,図5に示すように、スナップリング10およびスナップリング60の当接面10A,60A上に凹凸部(凸部11,61および凹部12,62)を設けることにより、スナップリング60に伝達された回転力を利用して、スナップリング60の溝部40Bからの外れを防止する径方向の力を生じさせるようにしている。
【0039】
具体的には、プレート10がスナップリング60に対して矢印DR1方向(図4参照)に回転した場合、プレート10の段差部13がスナップリング60の段差部63に当接することにより、段差部63の延在方向に直交する方向の力(たとえば図4中のF1)がスナップリング60に作用する。この力F1は、接線方向の分力F1'と、径方向外方に向かう分力F1''とに分割することができる。したがって、スナップリング60は、溝部40Aの底面に押し付けられ、溝部40Aから外れにくくなる。
【0040】
また、プレート10がスナップリング60に対して矢印DR2方向(図4参照)に回転した場合、プレート10の段差部13がスナップリング60の段差部63に当接することにより、段差部63の延在方向に直交する方向の力(たとえば図4中のF2)がスナップリング60に作用する。この力F2は、接線方向の分力F2'と、径方向外方に向かう分力F2''とに分割することができる。したがって、スナップリング60は、溝部40Aの底面に押し付けられ、溝部40Aから外れにくくなる。
【0041】
このように、図4,図5に示されるようなスナップリング60およびプレート10を設けた場合、プレート10に矢印DR1,DR2方向のいずれの回転力が作用した場合にも、その回転力を利用して、スナップリング60に径方向外方に向かう力を作用させて、溝部40Aからスナップリング60が外れることを防止することができる。
【0042】
図6は、プレート10のハウジング40への嵌合工程を説明する図である。なお、図6(A)は、プレート10およびスナップリング60をハウジング40に固定した状態を示し、図6(B)は、プレート10およびスナップリング60をハウジング40に固定しようとしている状態を示している。また、図6(A),(B)では、複数枚のプレート10を簡略化して図示している。
【0043】
スナップリングの外れを防止する方策として、たとえば、スナップリングの断面形状をテーパ状に形成したり、抜け止め部材を別途設けたりすることが考えられる。しかしながら、たとえば、スナップリングの断面形状をテーパ状に形成した場合、スナップリングの取付時に、軸方向に余分なスペースが必要になる。また、たとえば、抜け止め部材を設けた場合は、部品が増加することにより余分なスペースが必要になる。
【0044】
本実施の形態に係るスナップリングの取付構造によれば、図6(A),(B)に示すように、プレート10およびスナップリング60の取付工程(図6(B))において、プレート10およびスナップリング60の取付後(図6(A))の状態に対して軸方向に余分なスペースが必要となることがない。また、部品を新たに設ける必要がないため、この点からも、余分なスペースが必要になることを防止できる。
【0045】
なお、上記の例では、ケーシングの内周面に形成された溝部にスナップリングを嵌合させ、スナップリングに対するプレートの回転に伴なってスナップリングを径方向外方へ押圧する力を生じさせる方向に段差部を延在させることにより、ケーシングの内周面に形成された溝部に嵌合されたスナップリングの外れを防止しているが、シャフトの外周面に形成された溝部にスナップリングを嵌合させ、スナップリングに対する被拘束物の回転に伴なってスナップリングを径方向内方へ押圧する力を生じさせる方向に段差部を延在させることにより、シャフトの外周面に形成された溝部に嵌合されたスナップリングの外れを防止するようにしてもよい。図7,図8は、そのような変形例に係るスナップリング60の取付構造を示す図である。
【0046】
図7,図8の例では、スナップリング60は、シャフト80の外周面に形成された溝部80Aに嵌合されている。スナップリング60は被拘束物90と当接している。
【0047】
図7に示すように、スナップリング60は、被拘束物90との当接面上に周方向に交互に並ぶように設けられた凸部61(厚肉部分)と凹部62(薄肉部分)とを有する。凸部61と凹部62との間には、段差部63が形成されている。段差部63は、図4の例とは逆の「斜め方向」に延在するように設けられている。
【0048】
図8に示すように、被拘束物90は、スナップリング60との当接面上に周方向に交互に並ぶように設けられた凸部91(厚肉部分)と凹部92(薄肉部分)とを有する。凸部91と凹部92との間には、段差部93が形成されている。段差部93は、被拘束物90の周方向および径方向に交差する「斜め方向」に延在するように設けられている。
【0049】
上述した段差部63,93は、互いに略平行に延びるように形成されている。また、図8に示される凸部91および凹部92は、それぞれ、図7に示される凹部62および凸部61に対応する位置に形成されている。すなわち、スナップリング60に形成された凸部61は、被拘束物90に形成された凹部92内に受け入れられ、被拘束物90に形成された凸部91は、スナップリング60に形成された凹部62内に受け入れられる。
【0050】
被拘束物90がスナップリング60に対して矢印DR1方向(図7参照)に回転した場合、被拘束物90の段差部93がスナップリング60の段差部63に当接することにより、段差部63の延在方向に直交する方向の力(たとえば図7中のF1)がスナップリング60に作用する。この力F1は、接線方向の分力F1'と、径方向内方に向かう分力F1''とに分割することができる。したがって、スナップリング60は、溝部80Aの底面に押し付けられ、溝部80Aから外れにくくなる。
【0051】
また、被拘束物90がスナップリング60に対して矢印DR2方向(図7参照)に回転した場合、被拘束物90の段差部93がスナップリング60の段差部63に当接することにより、段差部63の延在方向に直交する方向の力(たとえば図7中のF2)がスナップリング60に作用する。この力F2は、接線方向の分力F2'と、径方向外方に向かう分力F2''とに分割することができる。したがって、スナップリング60は、溝部80Aの底面に押し付けられ、溝部80Aから外れにくくなる。
【0052】
このように、図7,図8に示されるようなスナップリング60および被拘束物90を設けた場合、被拘束物90に矢印DR1,DR2方向のいずれの回転力が作用した場合にも、その回転力を利用して、スナップリング60に径方向内方に向かう力を作用させて、溝部80Aからスナップリング60が外れることを防止することができる。
【0053】
このように、本実施の形態に係るスナップリングの取付構造によれば、摩擦係合板に加えられた回転力を利用して、スナップリングに径方向の力を作用させて溝部からの外れを防止することができる。
【0054】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係るスナップリングの取付構造(たとえば図3〜図5に示される例)は、溝部40Aに嵌合するスナップリング60と、溝部40Aに嵌合したスナップリング60によって拘束される「被拘束部材」としてのプレート10とを備える。スナップリング60はプレート10に当接する「第1の当接面」としての当接面60Aを有し、プレート10はスナップリング60に当接する「第2の当接面」としての当接面10Aを有する。当接面10Aに、当接面10Aから当接面60Aに向けて突出する「突起部」としての凸部11が設けられ、当接面60Aに、スナップリング60の接線方向および径方向に交差する斜め方向であって、スナップリング60に対するプレート10の回転に伴なって凸部11が当接することによりスナップリング60の外れを防止する径方向の力(F1'',F2'')を生じさせる方向に延びる段差部63が形成されている。換言すると、当接面60Aに、当接面60Aから当接面10Aに向けて突出する「突起部」としての凸部61が設けられ、当接面10Aに、スナップリング60の周方向および径方向に交差する斜め方向であって、スナップリング60に対するプレート10の回転に伴なって凸部61に当接することによりスナップリング60の外れを防止する径方向の力(F1'',F2'')を生じさせる方向に延びる段差部13が形成されている。
【0055】
なお、上述の例では、当接面10A,60Aの双方に、「斜め方向」に延びる段差部13,63が形成された例について説明したが、当接面10A,60Aの一方にのみ、「斜め方向」に延びる段差部が形成されている場合でも、他方に形成された凸部が該段差部に当接することで、スナップリング60の外れを防止する径方向の力を生じさせることができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係るスナップリングの取付構造を含む自動変速機を示すスケルトン図である。
【図2】図1に示される自動変速機における各ギヤ段と各ブレーキおよび各クラッチとの対応を表した作動表である。
【図3】図1に示される自動変速機に含まれるブレーキ装置を示した断面図である。
【図4】図3に示されるブレーキ装置に含まれるスナップリングを示した図である。
【図5】図4に示されるスナップリングに当接する摩擦係合板を示した図である。
【図6】図3〜図5に示されるブレーキ装置における摩擦係合板の嵌合工程を示した図である。
【図7】本発明の1つの実施の形態の変形例に係るスナップリングの取付構造を示す図(その1)である。
【図8】本発明の1つの実施の形態の変形例に係るスナップリングの取付構造を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0058】
1 自動変速機、10 プレート、10A,60A 当接面、11,61 凸部、12,62 凹部、13,63 段差部、20 ディスク、30 摩擦係合板、40 ケーシング、40A 溝部、40B 内周面、50 ハブ、60 スナップリング、70 ピストン、80 シャフト、80A 溝部、90 被拘束物、91 凸部、92 凹部、93 段差部、100 トルクコンバータ、110 入力軸、120 出力軸、200 第1セット、210 サンギヤ、220 ピニオンギヤ、230 リングギヤ、240 キャリア、300 第2セット、310 サンギヤ、320 ショートピニオンギヤ、321 キャリヤ、330 ロングピニオンギヤ、331 キャリヤ、340 サンギヤ、350 リングギヤ、400 出力ギヤ、500 ギヤケース、610 B1ブレーキ、620 B2ブレーキ、630 B3ブレーキ、710 C1クラッチ、720 C2クラッチ、730 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部に嵌合するスナップリングと、
前記溝部に嵌合した前記スナップリングによって拘束される被拘束部材とを備え、
前記スナップリングは前記被拘束部材に当接する第1の当接面を有し、
前記被拘束部材は前記スナップリングに当接する第2の当接面を有し、
前記第1と第2の当接面の一方に、該第1と第2の当接面の一方から他方に向けて突出する突起部が設けられ、
前記第1と第2の当接面の他方に、前記スナップリングの接線方向および径方向に交差する斜め方向であって、前記スナップリングに対する前記被拘束部材の回転に伴なって前記突起部が当接することにより前記スナップリングの外れを防止する径方向の力を生じさせる方向に延びる段差部が形成されている、スナップリングの取付構造。
【請求項2】
前記スナップリングは、ケーシングの内面に形成された前記溝部に嵌合され、
前記段差部は、前記スナップリングに対する前記被拘束部材の回転に伴なって前記スナップリングを径方向外方へ押圧する力を生じさせる方向に延びる、請求項1に記載のスナップリングの取付構造。
【請求項3】
前記スナップリングは、シャフトの外面に形成された前記溝部に嵌合され、
前記段差部は、前記スナップリングに対する前記被拘束部材の回転に伴なって前記スナップリングを径方向内方へ押圧する力を生じさせる方向に延びる、請求項1に記載のスナップリングの取付構造。
【請求項4】
前記第1と第2の当接面の双方に互いに略平行な前記段差部が形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載のスナップリングの取付構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のスナップリングの取付構造を備えた摩擦係合装置であって、
前記被拘束部材は、前記摩擦係合装置を構成する摩擦係合板を含む、摩擦係合装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のスナップリングの取付構造を備えた、動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−8117(P2009−8117A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167629(P2007−167629)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】