説明

スパイラルインダクタおよびこれを用いたトランス

【課題】周辺に拡がる磁束を削減し、機器周辺に干渉する電磁誘導雑音を軽減するとともに小型でインダクタンス値の大きいインダクタを安価に実現する。
【解決手段】シリコン基板の表面に形成されたスパイラルコイルと、
該スパイラルコイルの中央部に前記シリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
前記スパイラルコイルの外周に環状に形成された第2磁性体を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体プロセスを利用して作製されたスパイラルインダクタに関し、スパイラルインダクタの周辺に拡がる磁束を削減し、周辺に干渉する電磁誘導雑音を軽減させたスパイラルインダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5(a〜c)は半導体プロセスを利用して作成されたスパイラルインダクタの基本構成を示すもので、(a)は斜視図、図(b)は(a)図のA−A断面図、図(c)は磁力線の様子を示す断面図である。
【0003】
これらの図において、1はシリコン基板、2は配線を形成する金属導体を絶縁するための絶縁膜、3は金属導体からなるインダクタ本体でシリコン基板平面にスパイラル状にコイルを形成したものである。
【0004】
上述の構成において、スパイラルコイル3の両端に交流電圧や電流を印加すると、図(c)に示すようにシリコン基板1の平面に対して垂直方向に磁界を発生し、インダクタンスとして作用する。
【0005】
図6(a〜c)はUnited States Patent Application Publication US 2009/0140383 A1にて公開されている構成例で、図5のスパイラルコイルの中心部に透磁率の高い磁性体4をコアとして埋め込んだものである。図中の符号は図5と同様なのでここでの説明は省略する。
【0006】
シリコン基板上に形成されるスパイラルインダクタは直径数100um前後のものが多いが、シリコン基板に直径100um前後の貫通穴を形成することは容易ではないため、小径の貫通ビアを複数形成し、ビア内部を磁性体で充填することによりコアを形成している。このような構成によれば、磁性体コア4により磁束を増加させインダクタンス値を増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2009/0140383A1
【特許文献2】特開平4−352305号公報
【特許文献3】特開2005−32976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術においては次のような問題があった。
1)磁路が開磁路構造となっているため磁束が外部に出てしまう。そのため、周辺機器に電磁誘導雑音を引き起こす。
2)また、閉磁路の場合と比較して実効透磁率が小さくなるためインダクタンス値が低下する。
従って本発明の目的は、
1)周辺に拡がる磁束を削減し、周辺機器に干渉する電磁誘導雑音を軽減する。
2)小型でインダクタンス値の大きいインダクタを安価に実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1のスパイラルインダクタにおいては、
シリコン基板の表面に形成されたスパイラルコイルと、
該スパイラルコイルの中央部に前記シリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
前記スパイラルコイルの外周に形成された第2磁性体を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2においては請求項1に記載のスパイラルインダクタにおいて、
前記第1磁性体は前記スパイラルコイルの中央部に複数本形成され、前記第2磁性体は前記スパイラルコイルの外周に複数本形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3においては請求項1または2に記載のスパイラルインダクタにおいて、
前記第1、第2磁性体は小径の貫通ビアTSV(Through Silicon Via)技術を利用して形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項4においては請求項1乃至3に記載のスパイラルインダクタにおいて、
前記スパイラルインダクタ及び第1、第2磁性体を含むシリコン基板の両面に磁性体膜を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項5においては、
シリコン基板の表面に形成された第1スパイラルコイルと、
該第1スパイラルコイルに絶縁状態で重ねて形成された第2スパイラルコイルと
該スパイラルコイルの中央部に前記シリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
前記スパイラルコイルの外周に形成された第2磁性体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したことから明らかなように、本発明の請求項1、2によれば、
シリコン基板の表面に形成されたスパイラルコイルと、
このスパイラルコイルの中央部にシリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
スパイラルコイルの外周に形成された第2磁性体を備え、第1磁性体は前記スパイラルコイルの中央部に複数本形成され、前記第2磁性体は前記スパイラルコイルの外周部に複数本形成されているので、周辺に拡がる磁束が減少し周辺に干渉する電磁誘導雑音が軽減される。
【0015】
また、実効磁路長が減少し、実効透磁率も増加するためインダクタンス値を大きくすることができる。
本発明の請求項3によれば、
小径の貫通ビアを近年低コスト化が進行中のTSV(Through Silicon Via)技術を利用して形成すれば、低コストで形成することが可能となり、安価に高性能のインダクタを作製することができる。
【0016】
請求項4によれば、磁性体により閉磁路を形成するため、磁束の周辺への漏れをなくすことができ、周辺機器に干渉する電磁誘導雑音をなくすことができる。
また、実効磁路長が更に減少し、実効透磁率は更に増加することにより、ほぼ磁性体の透磁率となるためインダクタンス値を更に大きくすることができる。
【0017】
請求項5によれば、本発明のスパイラルインダクタと同様、磁性体により閉磁路を形成するため、磁束の周辺への漏れをなくすことができ、周辺機器に干渉する電磁誘導雑音をなくすことができる。
また、実効磁路長が更に減少し、実効透磁率は更に増加することにより、ほぼ磁性体の透磁率となるためインダクタンス値を更に大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のスパイラルインダクタの実施形態の一例を示す斜視図(a)、(a)図のA−A断面図(b)、磁力線の様子を示す断面図(c)である。
【図2】本発明の他の実施例を示す斜視図(a)、(a)図のA−A断面図(b)、磁力線の様子を示す断面図(c)である。
【図3】本発明をトランスに応用した実施例を示す断面図である。
【図4】スパイラルコイルの他の実施例を示す平面図(a〜c)及び斜視図(d,e)である。
【図5】従来のスパイラルインダクタの一例を示す斜視図(a)、(a)図のA−A断面図(b)、磁力線の様子を示す断面図(c)である。
【図6】スパイラルインダクタの他の例を示す斜視図(a)、(a)図のA−A断面図(b)、磁力線の様子を示す断面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1(a〜c)は本発明のスパイラルインダクタの斜視図(a)、(a)図のA−A断面図(b)、磁力線の様子を示す断面図(c)である。
これらの図において図5と同一要素には同一符号を付している。図5と異なる点はスパイラルコイルの外周に第2磁生体(コア)5を複数個(図では16個)形成した点にある。なお、本発明では従来例で示した磁性体4を第1磁性体と呼ぶ。
【0020】
これら複数の第1,第2磁生体4,5は小径(例えば直径数10〜100μm程度)の貫通ビアであって近年低コスト化が進行中のTSV(Through Silicon Via)技術を利用して形成し、そのビア内部に透磁率の高い磁性体を充填したものである。
【0021】
上述の構成によれば、第2磁性体5を形成することによりスパイラルコイル3の外周直近の磁束密度が上がるため、スパイラルコイルの中心部の磁性体4から出た磁束のうちスパイラルコイル外周直近を通って磁性体4に戻る磁束の割合が増加し、周辺に拡がる磁束が減少する。
【0022】
図2は図1の構造の表面と裏面に第1、第2磁性体4,5を覆って透磁率の高いの磁性体膜6a、6bを形成または貼付けたものである。
図2の構成によれば、第1磁性体4から出た磁束の殆どが磁性体膜6aを通って第2磁性体5に入り、更に磁性体膜6bを通って第1磁性体4に戻る。
【0023】
図2の構成によれば、第1,第2磁性体4,5及び磁性膜6a.6bにより閉磁路を形成するため、磁束の周辺への漏れをなくすことができ、周辺の機器に干渉する電磁誘導雑音をなくすことができる。
また、実効磁路長が更に減少し、実効透磁率も更に増加し、ほぼ磁性体の透磁率となるためインダクタンス値を更に大きくすることができる。
【0024】
図(a,b)はそれぞれ図1、図2に示す第1スパイラルコイル(インダクタ)3と並行して(絶縁して重ねた状態で)第2スパイラルコイル13を形成し、トランスを構成したものである。なお、本発明では従来例で示したスパイラルコイルを第1スパイラルコイルと呼ぶ。
インダクタの場合と同様に、周辺に干渉する電磁誘導雑音を軽減できるとともに、トランス巻線の自己インダクタンス、相互インダクタンスを向上でき、トランスの小型化が可能となる。
【0025】
図4はスパイラルコイルの形状の他の実施例を示すもので、(a)は矩形状に形成したもの、(b),(c)は8角状に形成したもので導体が交差する部分は絶縁部材で電気的な導通が遮断されている。(d),(e)は一巻きのコイルを絶縁した状態で複数段重ねて形成し、隣り合うコイルを繋げたものである。
【0026】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えばコイルの形状は円、矩形、8角の3種類を示したがこれに限るものではない。また、実施例では第2磁性体の数を環状に16個としたがこの形状および数値に限るものではない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0027】
1 シリコン基板
2 絶縁膜
3 第1スパイラルコイル(インダクタ)
4 第1磁性体
5 第2磁性体(コア)
6 磁性体膜
13 第2スパイラルコイル(インダクタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面に形成されたスパイラルコイルと、
該スパイラルコイルの中央部に前記シリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
前記スパイラルコイルの外周に形成された第2磁性体を有することを特徴とするスパイラルインダクタ。
【請求項2】
前記第1磁性体は前記スパイラルコイルの中央部に複数本形成され、前記第2磁性体は前記スパイラルコイルの外周に複数本形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスパイラルインダクタ。
【請求項3】
請求項3においては請求項1または2に記載のスパイラルインダクタにおいて、
前記第1、第2磁性体は小径の貫通ビアTSV(Through Silicon Via)技術を利用して形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のスパイラルインダクタ。
【請求項4】
前記スパイラルインダクタ及び第1、第2磁性体を含むシリコン基板の両面に磁性体膜を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスパイラルインダクタ。
【請求項5】
シリコン基板の表面に形成された第1スパイラルコイルと、
該第1スパイラルコイルに絶縁状態で重ねて形成された第2スパイラルコイルと
該スパイラルコイルの中央部に前記シリコン基板を貫通して形成された第1磁性体と、
前記スパイラルコイルの外周に形成された第2磁性体を有することを特徴とするトランス。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−124250(P2011−124250A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278191(P2009−278191)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】