説明

スパッタリング用ターゲット材、珪素含有膜の成膜方法、およびフォトマスクブランク

【課題】スパッタリング工程中にパーティクルが発生し難い珪素ターゲット材を提供し、成膜される珪素含有膜の低欠陥化(高品質化)を図ること。
【解決手段】珪素含有膜の成膜に、室温での比抵抗が20Ω・cm以上の珪素ターゲット材を用いる。珪素ターゲット材は、多結晶や非晶質のものでもよいが、単結晶のものとすればより安定した放電状態を実現できるという利点がある。また、FZ法により結晶育成された単結晶シリコンは、酸素含有量が低いため、高純度珪素ターゲット材として好ましい材料である。また、安定した放電特性を得る観点からはドナー不純物を含むn型のもののほうが好ましい。珪素含有膜のスパッタリング成膜は、本発明の珪素ターゲット材のみを単独または複数用いて行うことのほか、珪素ターゲット材と遷移金属と珪素を含有するターゲット材を同時に用いたり、珪素ターゲット材と遷移金属ターゲット材を同時に用いることとして行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素含有膜の成膜技術に関する。より詳細には、珪素含有膜成膜用のスパッタリング用ターゲット材、およびこれを用いた高品質珪素含有膜の成膜方法、ならびに当該高品質珪素含有膜を備えているフォトマスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工技術分野においては、大規模集積回路の高集積化などに伴う回路パターンの微細化により、回路を構成する配線パターンの細線化や、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術への要求がますます高まってきている。この要求に答えるため、光リソグラフィに使用される露光光は、I線からKrFエキシマレーザへと短波長化し、さらに、現時点での最先端の工業的加工用としてはArFエキシマレーザ(193nm)が使用されている。
【0003】
通常用いられる光リソグラフィでは、光源で発生させた光をフォトマスクを通すことで光パターンを作り、それをレジスト膜に照射し、被加工基板を加工するために形成したレジスト膜上にパターン露光を行う。この際に使用されるフォトマスクは、上述のように微細なパターンを形成するために用いられ、更に加工パターンの原図となるものであるため、極めて高精度のものである必要がある。このため、フォトマスク製造に用いられるブランク(フォトマスクブランク)を構成する膜には、高い加工精度が得られる膜であることが求められることに加え、極めて低欠陥の膜であることも求められる。
【0004】
フォトマスクブランクの構成要素のひとつである遮光膜の材料として、高い加工精度の膜を得易い珪素系材料が注目され始めている。珪素系材料は、従来より、ハーフトーン位相シフトマスクを作製する際のハーフトーン位相シフト膜の成膜用材料として使用されてきた(特許文献1:特開平7−140635号公報)。窒化または酸化されたモリブデンを含有する珪素系材料で成膜された光学膜は、光透過特性の制御性が高く、しかも、高い加工精度が得易いという利点がある。
【0005】
このような珪素系材料は、従来、遮光膜の成膜用に使用されてきたクロム系材料に比較して、200nm以下の露光光に対する遮光特性が優れ、かつレジストパターンにダメージを与えにくいフッ素系のドライエッチングで加工することができる(特許文献2:特開2007−241065号公報)。
【0006】
また、珪素系材料膜は、より高精度な加工を行うためにエッチングマスクを使用する技術と組み合わせる場合にも有利である。すなわち、クロム系材料膜をエッチングマスクとして珪素系材料の遮光膜を加工する場合には、珪素系材料膜をエッチングマスクとしてクロム系材料の遮光膜を加工する場合に比較して、パターン依存性やサイドエッチングによる加工誤差が小さくなることが見出されている(特許文献3:特開2007−241060号公報)。このため、従来のクロム系材料の遮光膜に代わる次世代の遮光膜として、珪素系材料の遮光膜が有望視されている。
【0007】
珪素系材料膜の成膜には、一般に、珪素系材料のスパッタリング用ターゲットが用いられる。このような珪素系材料のスパッタリング用ターゲットには、珪素単体のものや(特許文献4:特開2004−301993号公報)、遷移金属を含有する珪素系材料膜の成膜に用いられる遷移金属を含有させた珪素系ターゲット等があるが、珪素単体のスパッタリング用ターゲットを用いて成膜を行うと、ターゲット材の導電率が低いためにスパッタリング工程中にパーティクルが発生して、得られる光学膜にパーティクル欠陥を発生させ易いことが知られている。
【0008】
このような珪素単体のスパッタリング用ターゲットからのパーティクル発生を抑制するために幾つかの提案が行われており、例えば特開2002−72443号公報(特許文献5)では単結晶シリコンのスパッタリング用ターゲットの使用が提案されており、特開2003−322955号公報(特許文献6)では珪素単体中にドナー不純物やアクセプタ不純物を添加して比抵抗を低くしたスパッタリング用ターゲットの使用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−140635号公報
【特許文献2】特開2007−241065号公報
【特許文献3】特開2007−241060号公報
【特許文献4】特開2004−301993号公報
【特許文献5】特開2002−72443号公報
【特許文献6】特開2003−322955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、フォトマスクのパターンサイズが45nm以下といった極めて微細なパターンであるような場合、かかるフォトマスクの製造に用いられるフォトマスクブランクには、これまで以上の低欠陥性(高品質性)が求められる。このため、フォトマスクブランクの製造工程において、スパッタリング中にパーティクルが発生し易い珪素系材料のターゲットを用いて珪素系材料膜を成膜する場合には、これまで以上に、パーティクル起因の欠陥を抑制する技術が求められることとなる。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、スパッタリング工程中にパーティクルが発生し難い珪素ターゲット材を提供し、これを用いて成膜された珪素含有膜の低欠陥化(高品質化)を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係るスパッタリング用ターゲット材は、珪素含有膜の成膜に用いられる珪素ターゲット材であって、前記珪素ターゲット材の室温での比抵抗が20Ω・cm以上である。
【0013】
好ましくは、前記珪素ターゲット材の導電型はn型である。また、好ましくは、前記珪素ターゲット材は単結晶である。例えば、前記珪素ターゲット材はFZ法により結晶育成された単結晶シリコンである。
【0014】
また、本発明に係る珪素含有膜の成膜方法は、室温での比抵抗が20Ω・cm以上である珪素ターゲット材を用い、スパッタリング法により珪素含有膜を成膜することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記珪素ターゲット材の導電型はn型である。また、好ましくは、前記珪素ターゲット材は単結晶である。前記珪素含有膜の成膜は、酸素および窒素の少なくとも一方を含有する反応性ガスを含む雰囲気中で実行するようにしてもよい。好ましくは、前記スパッタリング法はDCスパッタリング法である。
【0016】
本発明に係るフォトマスクブランクは、上述の方法により成膜された珪素含有膜を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、室温での比抵抗が20Ω・cm以上である珪素ターゲット材を用いて珪素含有膜をスパッタリング成膜することとしたので、成膜工程を通じて放電特性が改善され、その結果、珪素含有膜中のパーティクル欠陥数が減少する。
【0018】
これにより、低欠陥で高品質な珪素含有膜が提供され、フォトマスクブランクの遮光膜や位相シフト膜などとしての利用も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
珪素ターゲット材を用いてスパッタリングを行う際に生じるパーティクルの発生原因は、一般に、ターゲット上でのアーク放電であると考えられている。この点につき、特開2003−322955号公報(特許文献6)にも、ターゲットの導電性が小さいとターゲット表面に電圧がかかりにくくなり放電が不安定となり、ターゲット上でアーク放電も発生し易くなるためにパーティクルが発生し易くなると記載されており、特許文献6に開示されている発明では、かかるパーティクルの発生を低減させるべく、比抵抗が0.1Ω・cm以下のシリコンターゲットを用いることとしている。
【0020】
本発明者らは、スパッタリング工程中に発生するパーティクルに起因した光学膜中の欠陥の更なる低減化の検討を重ねるうちに、比抵抗0.1Ω・cm以下という低抵抗値(高導電性)の珪素ターゲットを用いる特許文献6開示の発明とは寧ろ逆に、高抵抗値(低導電性)の珪素ターゲットを使用することでパーティクル起因の欠陥が少ない珪素含有膜が得られることを見出して、本発明をなすに至った。
【0021】
本発明では、珪素含有膜の成膜に用いられる珪素ターゲット材として、比較的高抵抗値(低導電性)な、室温での比抵抗が20Ω・cm以上のスパッタリング用ターゲット材を用いる。つまり、本発明では、ターゲット材表面の高抵抗化により生じるアーク放電の発生を抑制することでパーティクルの発生を低減させるという特許文献6に開示されているような従来の着想とは逆の比抵抗値の選択がなされるが、室温での比抵抗が20Ω・cm以上のスパッタリング用ターゲット材を用いて成膜を行うことにより、後述するように、パーティクル欠陥の少ない珪素含有膜が得られる。
【0022】
このような珪素ターゲット材は、放電安定性の観点からは、微量のリンやヒ素等のドナー元素が添加されたn型の導電型のものであることが好ましい。このような珪素ターゲット材として単結晶シリコンを用いた場合には、粒界を含まないため、パーティクル発生の抑制効果が高い。特にFZ法で結晶育成された単結晶シリコンは酸素含有量が極めて低く、本発明の珪素ターゲット材として好適である。
【0023】
以下において、本発明の珪素含有膜を、フォトマスクブランクを構成する光学膜として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
珪素含有膜は、例えば、フォトマスクブランクの位相シフト膜や遮光膜として利用される。ここで、遮光膜とは、フォトマスクとしての使用の際に、当該遮光膜が設けられた領域を透過する光が実質的に露光に寄与しないようにするための光学膜であり、そのために、透明基板上に成膜された光吸収膜の露光光に対する光学濃度の総計は、2.0以上、より典型的には2.5以上とされる。
【0025】
このような珪素含有膜には、例えば、珪素単体膜や、珪素に加え酸素や窒素を主要な構成元素として含有する膜がある。このような珪素含有膜は、通常、珪素原子を含むターゲット材を、必要に応じて酸素や窒素を添加させた反応性ガスを含む雰囲気中で反応性スパッタリングを行うことにより成膜される。なお、スパッタリングの手法としては、パーティクルの発生が少なく且つ品質の高い膜が得られやすいとされているDCスパッタリング法が好ましい。
【0026】
珪素含有膜の成膜に用いられるターゲット材には、珪素含有膜の組成に応じて、珪素単体のターゲット材(珪素ターゲット材)や遷移金属を含有させた珪素系材料のターゲット材などがある。
【0027】
遷移金属を含まない珪素含有膜を成膜したい場合の他、遷移金属の珪素に対する含有比を膜の深さ方向に変化させたい場合や、遷移金属の珪素に対する含有比を非常に低くしたい場合などには、遷移金属を実質的に含まない珪素ターゲット材が用いられる。
【0028】
ところで、現在最先端の半導体加工用リソグラフィ法では、露光光としてArFエキシマレーザが使用されている。この露光波長領域で位相シフト膜として必要となる透過率を確保するため、これらの膜の成膜には、従来使用されてきた遷移金属含有珪素材料よりも遷移金属含有比率の低い材料が求められることとなる。また、従来、遮光膜の材料としてはクロム系材料が用いられてきたが、遮光性能や加工性能の観点からは珪素系材料のほうが優れていることが明らかになってきており、珪素の含有比率が高くなればなるほど化学耐性が高くなることも知られている。
【0029】
このような背景の下で、珪素含有膜をスパッタリング成膜する際に珪素単体のターゲット材(珪素ターゲット材)を用いる必要性が高まっている。
【0030】
しかし、珪素単体のターゲット材(珪素ターゲット材)を用いてDCスパッタリング法による反応性スパッタリング成膜を行う場合には、そのターゲット材の導電性が低いと放電が不安定になり、異常放電も起き易くなる。そして、このような放電状態で成膜された珪素含有膜は、パーティクル起因の欠陥(パーティクル欠陥)を多く含むことが知られていた。このような理由から、特許文献6に開示されている発明では、ドナーやアクセプタといった不純物を添加させて導電性を高めた(低抵抗率の)珪素ターゲット材を用いることにより、成膜安定性及びパーティクルの発生を低減させて生産性を向上させている。
【0031】
本発明者らは、珪素ターゲット材を用いたDCスパッタリング成膜によりパーティクル欠陥の少ない珪素含有膜を得るための検討を進める過程で、下記の事実を確認した。先ず、従来の報告例にあるように、1Ω・cm以下の比抵抗の珪素ターゲット材を用いることとすれば安定した放電が得易く異常放電も起し難く、比抵抗が15Ω・cm前後の珪素ターゲット材では安定した放電を得ることが極めて困難である。ところが、比抵抗を15Ω・cmよりも更に高めることとすると、放電特性は改善されるようになり、比抵抗が20Ω・cm以上の領域では得られた珪素含有膜中のパーティクル欠陥数が減少する。このパーティクル欠陥数の減少は、珪素ターゲット材の比抵抗を50Ω・cm以上とすると顕著となる。
【0032】
高比抵抗の珪素ターゲット材を用いることによるパーティクル欠陥数の低減効果の理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のような推定をしている。
【0033】
スパッタリング成膜工程では、高いエネルギを有する粒子等(プラズマ)がターゲットに照射されることとなるが、このような高エネルギ粒子等が珪素のような半導体結晶に衝突をするとキャリア(電子やホール)が発生する。従って、珪素ターゲットを用いてスパッタリング成膜を行う際には、ターゲット内にキャリアが発生することになる。
【0034】
発生したキャリアは印加されている電圧によってターゲット内を移動(拡散)するが、拡散中のキャリアが珪素の結晶格子に衝突すると、さらにキャリアを発生させる。そして、このようなキャリア発生が繰り返されることより、キャリア数は次第に増大してゆく。
【0035】
一旦発生したキャリアが珪素結晶中を拡散する距離は、ターゲット材に含まれている不純物濃度が低いほど長くなるから、珪素ターゲット材の比抵抗が高いほどキャリアの増大は顕著になる。その結果、比抵抗が高い珪素ターゲット材は、プラズマ中において、相対的に導電性が高くなり、異常放電は生じ難くなる。
【0036】
一方、比抵抗の低い珪素ターゲット材は、珪素結晶中でアクセプタとなる硼素(B)やドナーとなる燐(P)などの不純物を相対的に多く含むものであるため、これらの不純物に起因して発生するキャリアにより導電性が高まり、その分だけ放電安定性が改善されることになる。
【0037】
しかし、このような低比抵抗の珪素ターゲット材の表面は、雰囲気中の反応性ガスと反応を起こし易いため、ターゲット表面には、酸化膜などの高抵抗の膜が比較的厚い膜厚で形成され易い。
【0038】
これに対して、本願発明に係る珪素ターゲット材のように、比較的高い比抵抗のものでは、ターゲット表面が雰囲気中の反応性ガスと反応を起こし難く、仮にターゲット表面に酸化膜などの高抵抗率の膜が形成されたとしても、その厚みは比較的薄いものでしかない。そのため、スパッタリング成膜が終了するまでの間、安定した放電状態が維持され易い。尤も、上記メカニズムは現時点での本発明者らの推定に過ぎず、本件発明を解釈する上での何らかの制限となるものではない。
【0039】
本発明に係る珪素ターゲット材は、多結晶や非晶質のものでもよいが、単結晶のものとすれば、結晶粒界がないためより安定した放電状態を実現できるという利点がある。また、FZ法により結晶育成された単結晶シリコンは、酸素含有量が低いため、高純度珪素ターゲット材として好ましい材料である。
【0040】
本発明に係る珪素ターゲット材は比較的高比抵抗のものであるため、珪素中に含有されるドーパントの濃度も低いものとなる。従って、比抵抗が20Ω・cm以上という条件を満足する限り、ドーパントの種類(導電型)や濃度(導電率)によって本件発明の効果が損なわれるということはないが、安定した放電特性を得る観点からはドナー不純物を含むn型のもののほうが好ましい。
【0041】
珪素含有膜のスパッタリング成膜は、本発明の珪素ターゲット材のみを単独または複数用いて行うことのほか、珪素ターゲット材と遷移金属と珪素を含有するターゲット材を同時に用いたり、珪素ターゲット材と遷移金属ターゲット材を同時に用いることとして行ってもよい。
【0042】
珪素ターゲット材と遷移金属と珪素を含有するターゲット材を同時使用する場合、後者のターゲット材の組成は目的の膜組成に応じて適宜選択することができる。この場合、遷移金属は一種類である必要はない。複数種の遷移金属を含有させる場合のそれぞれの遷移金属と珪素の含有比率は、遷移金属毎に異なっていてもよい。このようなターゲット材は、一般に、焼結法によって製造される。
【0043】
遮光膜や位相シフト膜の成膜用ターゲット材に含有される遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル及びタングステン等を例示することができる。得られた膜のドライエッチング加工性の点からは、モリブデンが好ましい。
【0044】
本発明に係る珪素含有膜は、上述した室温での比抵抗が20Ω・cm以上である珪素ターゲット材を用いてスパッタリング法により成膜される。このような珪素含有膜は、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸化窒化物、遷移金属珪素酸化物、遷移金属珪素窒化物、遷移金属珪素酸化窒化物等を例示することができる。そのような膜は、炭素やヘリウム或いは水素等の軽元素を含んでいてもよい。
【0045】
珪素含有膜中に含まれる遷移金属の珪素に対する比率は、その成膜に用いられるターゲット材とターゲット材に印加される電力により調整可能である。また、珪素含有膜中の酸素や窒素或いは炭素等の軽元素含有量は、後述するスパッタリングガスの調整により制御することができる。
【0046】
本発明に係る珪素含有膜の組成は目的とする膜の機能により適宜調整されるが、遮光膜中の高い遮光機能を有する膜の組成は、珪素が10原子%以上95原子%以下、特に30原子%以上95原子%以下、酸素が0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上30原子%以下、窒素が0原子%以上40原子%以下、特に0原子%以上20原子%以下、炭素が0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上5原子%以下、遷移金属が0原子%以上35原子%以下、特に1原子%以上20原子%以下であることが好ましい。
【0047】
遮光膜中の反射防止機能を有する膜の組成は、珪素が10原子%以上80原子%以下、特に30原子%以上50原子%以下、酸素が0原子%以上60原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下、窒素が0原子%以上57原子%以下、特に20原子%以上50原子%以下、炭素が0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上5原子%以下、遷移金属が0原子%以上35原子%以下、特に1原子%以上20原子%以下であることが好ましい。
【0048】
光吸収を位相シフト膜として機能させる膜の組成は、珪素が10原子%以上95原子%以下、特に20原子%以上95原子%以下、酸素が0原子%以上60原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下、窒素が0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下、炭素が0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上5原子%以下、遷移金属が0原子%以上35原子%以下、特に1原子%以上20原子%以下であることが好ましい。
【0049】
本発明は、スパッタリング方法に関して特別な制約は受けないが、DCスパッタリングが好ましい。なお、DCスパッタリングは、DCスパッタリングでもパルスDCスパッタリングでも良い。
【0050】
本発明に係る珪素含有膜は、室温での比抵抗が20Ω・cm以上の珪素ターゲット材を用い、例えば、酸素および窒素の少なくとも一方を含有する反応性ガスを含む雰囲気中で反応性スパッタリング成膜される。酸素を含有するガスとしては、酸素ガス、酸化窒素ガス(窒素の酸化数は特に限られない)、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス等を例示することができる。また、窒素を含有するガスとしては、窒素ガス、酸化窒素ガス(窒素の酸化数は特に限られない)、アンモニアガス等を例示することができる。なお、これらのガスと同時に、アルゴンやキセノンあるいはヘリウムといった不活性ガスを同時に用いても良い。
【0051】
このようなスパッタリングガスは、目的とする膜の組成や、放電安定性を得るために適宜調整される。ガス圧の範囲は、例えば、0.01Pa−10Paとすればよい。
【0052】
本発明に係るフォトマスクブランクは、上述した本発明の珪素含有膜を、遮光膜や位相シフト膜等の光学膜として備えている。本発明の珪素含有膜は、遮光膜を高精度にエッチング加工するためのハードマスク膜や透明基板と遮光膜の間に設けられるエッチングストッパ膜といった補助膜としても有用である。
【0053】
本発明に係る珪素ターゲット材では、従来の珪素ターゲット材とは逆に、その抵抗値が比較的高い値に選択される。このような珪素ターゲット材を用いてスパッタリング成膜を行うとパーティクルの発生が抑制され、その結果、低欠陥の珪素含有膜が得られる。このような高品質な珪素含有膜は、フォトマスクブランクを構成する光学膜の他、種々の用途があり得ることは明らかである。
【0054】
[実施例1]:152mm角の合成石英製フォトマスク用基板を4枚準備し、それぞれの基板上に、DCスパッタリング法により、膜厚76nmのMoSiON膜(Mo:Si:O:N=1:4:1:4)を成膜した。用いたターゲットは、導電型がn型で室温での比抵抗が60Ω・cmの単結晶シリコンの珪素ターゲット材とMoSi焼結ターゲット材(Mo:Si=1:2)の2つである。なお、スパッタリングガスとして、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスを用いた。
【0055】
このようにして得られたMoSiON膜をレーザーテック製のMagics2351(登録商標)を用いて欠陥測定したところ、0.2μm以上の欠陥数は成膜基板1枚当たりの平均で8個であった。
【0056】
[実施例2]:珪素ターゲット材として、導電型がn型で室温での比抵抗が200Ω・cmの単結晶シリコンを用い、それ以外の成膜条件を実施例1と同じとして、4枚のフォトマスク用基板にMoSiON膜の成膜を行った。成膜後に実施例1と同様に欠陥を測定したところ、0.2μm以上の欠陥数は成膜基板1枚当たりの平均で6個であった。
【0057】
[比較例1]:珪素ターゲット材として、導電型がp型で室温での比抵抗が0.001Ω・cmの多結晶シリコンを用い、それ以外の成膜条件を実施例1と同じとして、4枚のフォトマスク用基板にMoSiON膜の成膜を行った。成膜後に実施例1と同様に欠陥を測定したところ、0.2μm以上の欠陥数は成膜基板1枚当たりの平均で21個であった。
【0058】
[比較例2]:珪素ターゲット材を、導電型がp型で室温での比抵抗が15Ω・cmの単結晶シリコンに変更した以外は、実施例1と同じ成膜条件でMoSiON膜の成膜を試みたところ、珪素ターゲット材からは安定した放電が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、室温での比抵抗が20Ω・cm以上である珪素ターゲット材を用いて珪素含有膜をスパッタリング成膜することとしたので、成膜工程を通じて放電特性が改善され、その結果、珪素含有膜中のパーティクル欠陥数が減少する。これにより、低欠陥で高品質な珪素含有膜が提供され、フォトマスクブランクの遮光膜や位相シフト膜などとしての利用も可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素含有膜の成膜に用いられる珪素ターゲット材であって、前記珪素ターゲット材の室温での比抵抗が20Ω・cm以上であるスパッタリング用ターゲット材。
【請求項2】
前記珪素ターゲット材の導電型はn型である請求項1に記載のスパッタリング用ターゲット材。
【請求項3】
前記珪素ターゲット材は単結晶である請求項1又は2に記載のスパッタリング用ターゲット材。
【請求項4】
前記珪素ターゲット材はFZ法により結晶育成された単結晶シリコンである請求項3に記載のスパッタリング用ターゲット材。
【請求項5】
室温での比抵抗が20Ω・cm以上である珪素ターゲット材を用い、スパッタリング法により珪素含有膜を成膜することを特徴とする珪素含有膜の成膜方法。
【請求項6】
前記珪素ターゲット材の導電型はn型である請求項5に記載の珪素含有膜の成膜方法。
【請求項7】
前記珪素ターゲット材は単結晶である請求項5又は6に記載の珪素含有膜の成膜方法。
【請求項8】
前記珪素含有膜の成膜を、酸素および窒素の少なくとも一方を含有する反応性ガスを含む雰囲気中で実行する請求項5乃至7の何れか1項に記載の珪素含有膜の成膜方法。
【請求項9】
前記スパッタリング法はDCスパッタリング法である請求項5乃至8の何れか1項に記載の珪素含有膜の成膜方法。
【請求項10】
請求項5乃至9の何れか1項に記載の方法により成膜された珪素含有膜を備えているフォトマスクブランク。

【公開番号】特開2012−87391(P2012−87391A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237114(P2010−237114)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】