説明

スパッタリング装置及び液晶装置の製造装置

【課題】ターゲットの酸化を抑制し、無機配向膜の製造能率の向上を図ることができるスパッタリング装置及び液晶装置の製造装置を提供する。
【解決手段】基板Wを収容すると共に、基板Wに沿って酸素ガスを供給するガス供給手段22を備える成膜室2Aと、対向する一対のターゲット5a、5bからプラズマPzによりスパッタ粒子5pを生じさせ、スパッタ粒子5pを成膜室2Aに形成された開口部2A1を介して基板Wに向けて放出するスパッタ粒子放出装置3とを備えて、無機配向膜を形成するスパッタリング装置1であって、開口部2A1が設けられる位置と、ターゲット5a、5bが設けられる位置との間に設けられ、開口部2A1から流出する上記酸素ガスの酸素を付着させるための付着部30を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置及び液晶装置の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶装置にポリイミド膜等の有機配向膜が用いられていたが、液晶プロジェクタのように高出力光源を備えた液晶装置において該有機配向膜を用いた場合、光エネルギーにより有機物がダメージを受けて液晶の配向不良を生じる場合があった。特に、液晶プロジェクタの小型化及び高輝度化を図った場合には、液晶パネルに入射する単位面積あたりの光エネルギーが増加し、該入射光の吸収により有機配向膜そのものが分解し、さらに、光エネルギーを吸収することによる発熱でさらにその分解が加速されてしまう。その結果、有機配向膜に多大なダメージが付加され、液晶装置の表示特性を低下させてしまうという問題があった。
【0003】
そこで、近年、このような有機配向膜に代わって無機配向膜を液晶装置に適用させることが進められている。無機配向膜の形成方法には、蒸着法、スパッタ法等が挙げられるが、蒸着法では大型の基板に低欠陥密度の膜を形成することが困難であり、スパッタ法での無機配向膜の形成が強く求められているという背景がある。
このような背景の下、特許文献1には、一対のターゲットからプラズマによりSi等のスパッタ粒子を生じさせ、該スパッタ粒子を、開口部を介して基板に向かって斜め方向から入射させ、基板上に付着させる。さらに、基板が収容される成膜室において酸素を含むガスを供給して、基板上に付着したスパッタ粒子を酸化させ、SiO等の無機配向膜を形成するスパッタリング装置を備える液晶装置の製造装置及び製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−286401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記スパッタリング装置において、酸素を含むガスが成膜室から開口部を介してターゲットが設けられる側に流出すると、ターゲットが設けられる位置近傍の酸素濃度が上がり、ターゲットの表面が酸化されてしまう場合がある。ターゲット表面が酸化されると、スパッタレートが大幅に低下してスパッタ法を円滑に行うことが困難となり、無機配向膜の製造能率の低下を招く虞があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、ターゲットの酸化を抑制し、無機配向膜の製造能率の向上を図ることができるスパッタリング装置及び液晶装置の製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、基板を収容すると共に、上記基板に沿って酸素を含む酸化用ガスを供給するガス供給部を備える成膜室と、対向する一対のターゲットからプラズマによりスパッタ粒子を生じさせ、上記スパッタ粒子を上記成膜室に形成された開口部を介して上記基板に向けて放出するスパッタ粒子放出部とを備えて、上記基板上に付着した上記スパッタ粒子を上記酸化用ガスにより酸化させ、上記基板上に無機配向膜を形成するスパッタリング装置であって、上記開口部が設けられる位置と、上記ターゲットが設けられる位置との間に設けられ、上記開口部から流出する上記酸化用ガスの酸素を付着させるための付着部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、開口部が設けられる位置と、ターゲットが設けられる位置との間において設けられた付着部に、酸化用ガスの酸素が付着する。したがって、酸化用ガスの酸素がターゲット近傍に至る前に、付着部30に付着されるため、ターゲット近傍の酸素濃度を下げることができる。
【0007】
上記付着部は、上記スパッタ粒子放出部から放出される上記スパッタ粒子の一部を付着させて、付着した上記スパッタ粒子と上記開口部から流出する上記酸化用ガスの酸素との間で酸化を生じさせるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、スパッタ粒子放出部から放出されるスパッタ粒子の一部(例えば、開口部外に漏れたスパッタ粒子)が、開口部が設けられる位置と、ターゲットが設けられる位置との間に設けられた付着部に付着する。このスパッタ粒子は、成膜室に至る前に付着部に付着されるため、酸化用ガスの酸素と未反応、あるいは、完全に酸化されていない状態となる。ここで、開口部を介して酸化用ガスが成膜室から流出しても、付着部に付着したスパッタ粒子と酸化用ガスの酸素との間で酸化が生じて、その酸素がターゲット近傍に至る前に消費される。したがって、ターゲット近傍の酸素濃度を下げることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記付着部は、複数のフィンを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、付着部の表面積を広くすることで酸化用ガスの酸素との反応の面積が広くなり、より多くの酸素を付着部において消費することが可能となる。
【0009】
また、本発明においては、上記フィンの向きは、上記酸化用ガスが流通する流通経路に沿う向きに設定されるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、酸化用ガスの流通を阻害することなく、また、フィンの両面に酸化用ガスが流通することにより酸化用ガスと接する面積を広く採ることが可能となる。
【0010】
また、本発明においては、上記付着部を加熱する加熱部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、加熱部の加熱により付着部の温度を上昇させ、酸化用ガスの酸素の酸化による付着部への付着をより促進させることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記付着部は、上記開口部近傍に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、開口部近傍で、酸化用ガスの酸素を消費することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記開口部から流出する上記酸化用ガスを上記ターゲットに向かう方向と異なる方向に導く排気部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、酸化用ガスを、ターゲット近傍に到達しないように排気することができる。
【0013】
また、本発明においては、上記付着部は、着脱可能に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、例えば、表面が完全に酸化された付着部を取り外し、新たな付着部を取り付けることができ、メンテナンスの容易化を図ることができる。
【0014】
また、本発明においては、上記のスパッタリング装置を備える液晶装置の製造装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、本発明に係るスパッタリング装置を液晶装置の製造装置に適用した場合について説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1は本発明の係るスパッタリング装置1の一実施の形態を示す概略構成図である。
図1に示すように、スパッタリング装置1は、液晶装置の構成部材となる基板W上にスパッタ法により無機配向膜を成膜する装置であり、基板Wを収容する成膜室2Aを備える真空チャンバー2と、前記基板Wの表面に無機材料からなる配向膜をスパッタ法により形成するスパッタ粒子放出装置(スパッタ粒子放出部)3とを備えている。
スパッタ粒子放出装置3は、そのプラズマ生成領域に放電用のアルゴンガスを流通させる第1のガス供給手段21を備えており、成膜室2Aは、内部に収容された基板W上に飛来する配向膜材料と反応して無機配向膜を形成する反応ガスとしての、酸素ガス(酸化用ガス)を供給する第2のガス供給手段22を備えている。
【0017】
スパッタ粒子放出装置3は、2枚のターゲット5a、5bを対向配置してなる対向ターゲット型の装置であり、第1のターゲット5aは略平板状の第1電極9aに装着され、第2のターゲット5bは略平板状の第2電極9bに装着されている。電極9a、9bに支持されたターゲット5a、5bは、基板W上に形成する無機配向膜の構成物質を含む材料、例えばシリコン(Si)からなるものとされる。またターゲット5a、5bは図示Y方向に延びる細長い板状のものが用いられており、互いの対向面がほぼ平行になるように設置されている。
第1電極9aには直流電源又は高周波電源からなる電源4aが接続され、第2電極9bには直流電源又は高周波電源からなる電源4bが接続されており、各電源4a、4bから供給される電力によりターゲット5a、5bが対向する空間(プラズマ生成領域)にプラズマPzを発生させるようになっている。
【0018】
第1電極9aのターゲット5aと反対側にはターゲット5aを冷却するための第1の冷却手段8aが設けられており、第1の冷却手段8aには、第1の冷媒循環手段18aが配管等を介して接続されている。また第2電極9bのターゲット5bと反対側には、ターゲット5bを冷却するための第2の冷却手段8bが設けられており、第2の冷却手段8bには、配管等を介して第2の冷媒循環手段18bが接続されている。
【0019】
第1の冷却手段8aは、ターゲット5aとほぼ同一の平面寸法に形成されており、第1電極9aを介してターゲット5aと平面視で重なる位置に配設されている。また、第2の冷却手段8bについても同様にターゲット5bと平面視で重なる位置に配設されている。冷却手段8a、8bは内部に冷媒を流通させる冷媒流路を備えており、かかる冷媒流路に対して冷媒循環手段18a、18bから供給される冷媒を循環させることでターゲット5a、5bの冷却を行うようになっている。
なお、冷却手段8a、8bは、導電部材により作製してそれぞれ第1電極9a、9bと電気的に接続してもよく、この場合には冷却手段8a、8bに対しそれぞれ電源4a、4bを電気的に接続することができる。また、第1電極9a、9bの内部に冷媒流路を形成することで第1電極9a、9bが冷却手段を兼ねる構成としてもよい。
【0020】
第1の磁界発生手段16aは、矩形枠状の永久磁石、電磁石、これらを組み合わせた磁石等からなり、矩形状のターゲット5aの外周端に沿って配置された矩形枠状であり、第2の磁界発生手段16bも同様である。従って第1の磁界発生手段16aと第2の磁界発生手段16bとは、対向配置されたターゲット5a、5bの外周部で互いに対向して配置されている。そして、これらの磁界発生手段16a、16bがターゲット5a、5bを取り囲むXa方向の磁界をスパッタ粒子放出装置3内に発生させ、かかる磁界によってプラズマPzに含まれる電子をプラズマ生成領域内に拘束する電子拘束手段を構成している。
【0021】
スパッタリング装置1により液晶装置の構成部材である基板W上に無機配向膜を形成するには、第1のガス供給手段21からアルゴンガスを導入しつつ、第1電極9a及び第2電極9bにDC電力(RF電力)を供給することで、ターゲット5a、5bに挟まれる空間にプラズマPzを発生させ、プラズマ雰囲気中のアルゴンイオン等をターゲット5a、5bに衝突させることで、ターゲット5a、5bから配向膜材料(シリコン)をスパッタ粒子5pとしてたたき出し、さらにプラズマPzに含まれるスパッタ粒子5pのうち、プラズマPzから開口部3a側へ飛行するスパッタ粒子5pのみを選択的に真空チャンバー2側へ放出する。そして、基板Wの鉛直下方側の斜め方向から飛来したスパッタ粒子5pと、成膜室2Aを流通する酸素ガスとを基板W上で反応させることで、シリコン酸化物からなる配向膜を基板W上に形成するようになっている。
【0022】
真空チャンバー2には、遮蔽板2Cを挟んで成膜室2Aと、導入室2Bとが形成されている。また、真空チャンバー2には、その内部圧力を制御し、所望の真空度を得るための排気制御装置(排気部)20が、成膜室2Aに設けられた配管20a及び導入室2Bに設けられた配管20bを介して接続されている。
また、真空チャンバー2は、導入室2B図示下側の壁面から外側に突出するようにして、スパッタ粒子放出装置3との接続部を成す筒状の装置接続部25が形成されている。該装置接続部25は、その中心軸と、成膜室2A内部に収容される基板Wの成膜面法線方向(図示Z軸方向)とが、所定の角度(θ1)を成すように斜め方向に延びて形成されており、その先端部に接続されるスパッタ粒子放出装置3を、基板Wに対して所定の角度で斜めに向けて配置することができるようになっている。すなわち、スパッタ粒子放出装置3から放出されるスパッタ粒子5pが、装置接続部25及び成膜室2Aに形成された開口部2A1を介して、所定の角度の斜め方向から基板Wに対して入射される構成となっている。
【0023】
第2のガス供給手段22は、成膜室2Aにおいて排気制御装置20が設けられる側と反対側に接続されており、第2のガス供給手段22から供給される酸素ガスは、矢印22fで示すように、成膜室2Aの+X側から基板W上を経由して排気制御装置20側へ図示−X方向に流通するようになっている。
【0024】
また、本実施形態の液晶装置の製造装置では不図示であるが、成膜室2Aの真空度を保持した状態での基板Wの搬入および搬出を可能とするロードロックチャンバーが、成膜室2AのX軸方向外側に備えられている。ロードロックチャンバーにも、これを独立して真空雰囲気に調整する排気制御装置が接続され、ロードロックチャンバーと成膜室2Aとは、チャンバー間を気密に閉塞するゲートバルブを介して接続されている。かかる構成により、成膜室2Aを大気に解放することなく基板Wの出し入れを行えるようになっている。
【0025】
成膜室2Aの前記上方壁面の鉛直下方側には、基板ホルダ6が設けられており、基板Wをその被処理面(成膜面)が水平(XY面に平行)になるようにして保持できるようになっている。基板ホルダ6には、基板ホルダ6をロードロックチャンバー(図示せず)側からその反対側へ水平に搬送する移動手段6aが接続されている。移動手段6aによる基板Wの搬送方向は、図1においてX軸方向に平行であり、ターゲット5a、5bの長さ方向(Y軸方向)と直交する方向となっている。
【0026】
また、基板ホルダ6には、保持した基板Wを加熱するためのヒータ7が設けられており、さらに、保持した基板Wを冷却するための第3の冷却手段8cが設けられている。ヒータ7は、電源等を具備した制御部7aに接続されており、制御部7aを介した昇温動作により所望の温度に基板ホルダ6を加熱し、これによって基板Wを所望の温度に加熱できるように構成されている。一方、第3の冷却手段8cは、第3の冷媒循環手段18cと配管等を介して接続されており、第3の冷媒循環手段18cから供給される冷媒を循環させることにより所望の温度に基板ホルダ6を冷却し、これによって基板Wを所望の温度に冷却するように構成されている。
【0027】
導入室2Bには、開口部2A1が設けられる位置と、ターゲット5a、5bが設けられる位置との間に、付着部30が複数設けられている。より詳しくは、付着部30は、開口部2A1近傍の周囲であって、遮蔽板2Cの導入室2B側の面に配設され、さらに、装置接続部25近傍の周囲であって、遮蔽板2Cに対向する導入室2Bの側面に配設される。
付着部30は、スパッタ粒子5pが付着する所定の表面積を確保するため、表面積を大きく採ることができる構造物であることが望ましく、本実施形態では、複数のフィンで構成されるフィン構造を有している。本実施形態のフィンは、平板形状を有しており、図中Y方向において複数並設されている。また、フィンの向きは、ガス供給手段22から排気制御装置20に向かう酸素ガスの流通経路に沿う向きに設定されている。また、フィンは、ステンレス板もしくはアルミニウム板の表面に、例えばプラズマ溶射により酸化アルミニウム皮膜を形成したものを用いるのが望ましい。すなわち、アルミニウム皮膜は、多孔質、且つ、粗い表面を有しており、スパッタ粒子5pを捕獲し易くする作用がある。
【0028】
付着部30には、Y方向において複数のフィンに跨って設けられるヒータ(加熱部)31が接続される。ヒータ31は、電気により発熱する構成であっても、あるいは、ガス、空気、油等の熱媒体を流通させることで発熱する構成等であっても良いが、本実施形態では、電気により発熱する構成を採用する。このようなヒータ31は、ヒータ7の温度制御をする電源等を具備した制御部7aに兼用して接続されて付着部30を所望の温度に加熱できるように構成されても良いし、また新たに電源等を具備した制御部を設け、該制御部に接続される構成であっても良い。また、このようなヒータ31が接続されるフィンは、ヒータ31の熱をフィン全体に伝導させる熱伝導特性の高い部材から形成される構成であることが望ましい。
【0029】
続いて、上記構成のスパッタリング装置1の動作について説明する。
先ず、基板Wとして、液晶装置用基板としてスイッチング素子や電極等、所定の構成部材が形成された基板を用意する。次いで、基板Wを成膜室2Aに併設されたロードロックチャンバー内に収容し、ロードロックチャンバー内を減圧して真空状態とする。また、これとは別に、排気制御装置20を作動させて成膜室2A及び導入室2B内を所望の真空度に調整しておく。
【0030】
続いて、基板Wを成膜室2A内に搬送し、基板ホルダ6にセットする。そして、配向膜形成の前処理として、基板ホルダ6のヒータ7によって基板Wを例えば250℃〜300℃程度で加熱し、基板Wの表面に付着した吸着水やガスなどの脱水・脱ガス処理を行う。次いで、ヒータ7による加熱を停止した後、スパッタリングによる基板温度の上昇を抑制するため、冷媒循環手段18cを作動させて冷却手段8cに冷媒を循環させることで基板Wを所定温度、例えば室温に保持する。
【0031】
次に、アルゴンガスを第1のガス供給手段21からスパッタ粒子放出装置3内に所定流量で導入し、酸素ガスを第2のガス供給手段22から所定流量で成膜室2A内に導入するとともに、排気制御装置20を作動させ、所定の操作圧力、例えば10−1Pa程度に調整する。酸素ガスプラズマでは酸素ラジカル、酸素の負イオンが発生するため、本実施形態のスパッタリング装置1では、プラズマ生成領域であるターゲット5a、5bの前面にはアルゴンガスのみを導入し、酸素ガスは別系統のガス供給路から基板W上へ流入させている。また、成膜中にも必要に応じてヒータ7、冷却手段8cを作動させることにより、基板Wを室温に保持することが好ましい。
【0032】
その後、このような成膜条件のもとで、移動手段6aにより基板Wを図中のX方向に所定の速度で移動させつつ、スパッタ粒子放出装置3によるスパッタリングを行う。すると、ターゲット5a、5bからは、配向膜材料となるスパッタ粒子5pが放出され、開口部3aを介して成膜室2A内に至り、開口部3aにより進行方向を規制されたスパッタ粒子5pのみが基板W上に入射するようになる。またこのとき、スパッタ粒子放出装置3の電子拘束手段(磁界発生手段16a、16b)によりプラズマPzに含まれる電子やイオン状物質が捕捉又は反射されるため、これらの電子やイオン状物質が基板Wに到達するのを防止することができる。
一方、開口部3aを通過しないスパッタ粒子5pは、開口部3a近傍の付着部30、あるいは、装置接続部25近傍の付着部30に付着することとなる。
【0033】
基板Wに入射したスパッタ粒子5pは、基板W上で酸素ガスと反応してシリコン酸化物(SiO)の被膜を形成する。このように基板Wに対して斜めに傾けて配置されたスパッタ粒子放出装置3から放出されたスパッタ粒子5pは、基板Wの成膜面に対して所定の角度、すなわち前記θで入射するようになる。その結果、基板W上で酸素ガスとスパッタ粒子5pとの反応を伴って堆積した無機配向膜は、前記の入射角θに対応した角度で傾斜する柱状構造を有した無機配向膜となる。
【0034】
酸素ガスは、上記のように酸化により無機配向膜を形成する一方、その一部が、ガス供給手段21のアルゴンガスの流れに対向して、無機配向膜が成膜される成膜室2Aから開口部2A1を介して、導入室2B側に微量に流出する(矢印22gで示す)ことがある。
ここで、付着部30に付着したスパッタ粒子5pは、成膜室2Aに至る前に付着部30に付着されるため、酸素ガスと未反応、あるいは、完全に酸化されていない状態となっている。また、ヒータ31の発熱によりフィンが加熱され、フィンの表面が、付着したスパッタ粒子5pの酸化を促進させる雰囲気に調整されている。
【0035】
また、導入室2Bに配管20bを介して接続された排気制御装置20の作用により、流出した酸素ガスは、アルゴンガスと共に−X方向に吸引される。付着部30のフィンは、このような酸素ガスの流通経路に沿う向きに設定されるため、酸素ガスの流通を阻害することなく、また、フィンの両面に酸素ガスが流通することになり、酸素ガスと接する面積を広く採ることが可能となる。
【0036】
したがって、開口部2A1を介して酸素ガスが成膜室2Aから流出しても、付着部30に付着したスパッタ粒子5pと酸素ガスとの間で酸化が生じて、その酸素ガスが含む酸素がターゲット5a、5b近傍に至る前に消費される。また、排気制御装置20の作用より、酸素ガスをターゲット5a、5b近傍に到達しないように排気することができる。このことから、ターゲット5a、5b近傍の酸素濃度が下がり、ターゲット5a、5bの表面の酸化を抑制することができる。
なお、酸素ガスにより酸化されたスパッタ粒子5pは、フィン表面にシリコン酸化物(SiO)の被膜を形成することとなる。したがって、付着部30を着脱可能な構成にし、スパッタリング装置1のメンテナンス時において、付着部30を回収して新たな付着部30を設置する構成にすることが望ましい。
【0037】
したがって、上述した本実施形態によれば、基板Wを収容すると共に、基板Wに沿って酸素ガスを供給するガス供給手段22を備える成膜室2Aと、対向する一対のターゲット5a、5bからプラズマPzによりスパッタ粒子5pを生じさせ、スパッタ粒子5pを成膜室2Aに形成された開口部2A1を介して基板Wに向けて放出するスパッタ粒子放出装置3とを備えて、基板W上に付着したスパッタ粒子5pを酸素ガスにより酸化させ、基板W上に無機配向膜を形成するスパッタリング装置1であって、開口部2A1が設けられる位置と、ターゲット5a、5bが設けられる位置との間に設けられ、開口部2A1から流出する上記酸素ガスの酸素を付着させるための付着部30を有するという構成を採用することによって、スパッタ粒子放出装置3から放出されるスパッタ粒子5pの一部が、開口部2A1が設けられる位置と、ターゲット5a、5bが設けられる位置との間に設けられた付着部30に、酸化用ガスの酸素が付着する。したがって、酸素ガスの酸素がターゲット5a、5b近傍に至る前に付着部30に付着されるため、ターゲット5a、5b近傍の酸素濃度を下げることができる。
したがって、本実施形態では、ターゲット5a、5bの酸化を抑制し、無機配向膜の製造能率の向上を図ることができるスパッタリング装置1を提供できる効果がある。
【0038】
また、本実施形態においては、付着部30は、スパッタ粒子放出装置3から放出されるスパッタ粒子5pの一部を付着させて、付着したスパッタ粒子5pと開口部2A1から流出する上記酸素ガスの酸素との間で酸化を生じさせるという構成を採用することによって、スパッタ粒子放出装置3から放出されるスパッタ粒子5pの一部(特に、開口部2A1外に漏れたスパッタ粒子5p)が、開口部2A1が設けられる位置と、ターゲット5a、5bが設けられる位置との間に設けられた付着部30に付着する。このスパッタ粒子5pは、成膜室2Aに至る前に付着部30に付着されるため、酸素ガスの酸素と未反応、あるいは、完全に酸化されていない状態となる。ここで、開口部2A1を介して酸素ガスが成膜室2Aから流出しても、付着部30に付着したスパッタ粒子5pと酸素ガスとの間で酸化が生じて、その酸素がターゲット5a、5b近傍に至る前に消費され、ターゲット5a、5b近傍の酸素濃度を下げることができる。
【0039】
また、本実施形態においては、付着部30は、複数のフィンを有するという構成を採用することによって、付着部30の表面積を広くすることができるため、スパッタ粒子5pの付着を容易にし、また、スパッタ粒子5pの付着する面積が広くなるため酸素ガスの酸素との反応の面積が広くなり、より多くの酸素を付着部30において消費することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態においては、フィンの向きは、酸素ガスが流通する流通経路に沿う向きに設定されるという構成を採用することによって、酸素ガスの流通を阻害することなく、また、フィンの両面に酸素ガスが流通することにより酸素ガスと接する面積を広く採ることが可能となる。
【0041】
また、本実施形態においては、付着部30を加熱するヒータ31を有するという構成を採用することによって、ヒータ31の加熱により付着部30の温度を上昇させ、付着したスパッタ粒子5pと酸素ガスの酸素との間の酸化をより促進させることができる。
【0042】
また、本実施形態においては、付着部30は、開口部2A1近傍に設けられているという構成を採用することによって、開口部2A1近傍で、酸素ガスの酸素を消費することができる。また、開口部2A1近傍は、開口部2A1を通過しなかったスパッタ粒子5pがより付着し易い位置であるため付着部30による効果がより高まる。
【0043】
また、本実施形態においては、開口部2A1から流出する酸素ガスをターゲット5a、5bに向かう方向と異なる方向に導く排気制御装置20を備えるという構成を採用することによって、酸素ガスをターゲット5a、5b近傍に到達しない手前側で排気することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、付着部30は、着脱可能に設けられているという構成を採用することによって、例えば、酸化されたスパッタ粒子5pが付着する付着部30を取り外し、新たな付着部30を取り付けることができ、メンテナンスの容易化を図ることができる。
【0045】
また、本実施形態においては、ターゲット5a、5bの酸化を抑制し、無機配向膜の製造能率の向上を図ることができるスパッタリング装置1を備える液晶装置の製造装置が得られる。
【0046】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0047】
例えば、本実施形態では、付着部30に付着したスパッタ粒子5pを酸化させることで、付着部30に開口部2A1から流出する酸素ガスの酸素を付着させると説明したが、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、例えば、付着部30が、鉄、銅、アルミニウム等の酸化される金属性材料等から形成されて、付着部30自体が酸化することで、開口部2A1から流出する酸素ガスの酸素を付着させる構成であっても良く、また、例えば、付着部30に、Si被膜等の酸化される膜が形成されたものを用いる構成であっても良いが、本実施形態のようにスパッタ粒子5pを付着させて酸化させる構成であれば、スパッタ法に伴うスパッタ粒子5pが飛散するパーティクル問題も同時に解消することができる。
【0048】
また、例えば、本実施形態では、付着部30のそれぞれにヒータ31を設ける構成を採用したが、プラズマPzが発生する装置接続部25近傍ではヒータ31を設けずとも、プラズマPzの発熱により温度が上昇しスパッタ粒子5pの酸化を促進する雰囲気となるため、必ずしも付着部30のそれぞれにヒータ31を設ける必要は無い。しかし、プラズマPzが発生する領域から離れた開口部2A1近傍に設けられた付着部30においては、プラズマPzの発熱による温度の上昇が装置接続部25近傍に設けられた付着部30と比べて小さいため、ヒータ31を設ける構成であることが望ましい。
【0049】
また、例えば、開口部2A1から排気制御装置20に向かう酸素ガスの流路経路上の位置にある付着部30においては、他の位置にある付着部30より酸素ガスの消費がされやすいため、当該位置に設けられる付着部30は、他の付着部30よりフィンの大きさやフィンの数を増やす構成であることが望ましい。また、それと共に、ヒータ31でより高温に温度調整する構成であることが望ましい。また、付着部30が設けられる位置も、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、付着部30が装置接続部25の通路の位置に設けられる構成であっても良い。
【0050】
また、例えば、本実施形態では、基板Wの鉛直方向下方側の面に配向膜が形成されるようになっているが、本発明でいう基板上とは、基板面の前記配向膜が形成される側を意味する表現であり、鉛直上方や下方を意味するものではない。
【0051】
また、例えば、本実施形態では、スパッタ粒子5pとしてのシリコンを、酸素ガスと反応させることでシリコン酸化物を基板W上に成膜する場合について説明しているが、ターゲット5a、5bとして例えばアルミニウムなどを用い、ターゲット5a、5bに対してRF電力を入力してスパッタ動作を行うことで、アルミニウム酸化物からなる無機配向膜を基板W上に形成する構成であっても良い。
【0052】
(液晶装置)
以下、スパッタリング装置1を用いて製造することができる液晶装置の一例について図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態の液晶装置を構成するTFTアレイ基板80の平面構成図である。
図3は、本実施形態の液晶装置の等価回路図である。図4は、TFTアレイ基板80の画像表示領域を拡大して示す平面構成図である。図5は、図4のA−A’線に沿う液晶装置の断面構成図である。
本実施形態の液晶装置は、図5に示すように、対向配置されたTFTアレイ基板(第1基板)80と、対向基板(第2基板)90との間に液晶層50を挟持した構成を備えたTFTアクティブマトリクス方式の透過型液晶装置である。
【0053】
図2に示すように、TFTアレイ基板80の中央には画像表示領域101が形成されている。画像表示領域101の周縁部にシール材89が配設されており、かかるシール材89により前記TFTアレイ基板80と対向基板90とを貼り合わせ、前記両基板80,90とシール材89とに囲まれる領域内に液晶層(不図示)が封止される。シール材89の外側には、後述する走査線に走査信号を供給する走査線駆動回路110と、後述するデータ線に画像信号を供給するデータ線駆動回路120とが実装されている。TFTアレイ基板80の端部には外部回路に接続する複数の接続端子79が設けられており、かかる接続端子79には前記駆動回路110,120から延びる配線が接続されている。シール材89の四隅には前記TFTアレイ基板80と対向基板90とを電気的に接続する基板間導通部70が設けられており、基板間導通部70も配線を介して接続端子79と電気的に接続されている。
【0054】
図3は、液晶装置の等価回路図である。液晶装置の画像表示領域には、複数のデータ線46aと、データ線46aと交差する方向に延びる複数の走査線43aとが形成されており、隣接する2本のデータ線46aと隣接する2本の走査線43aとに囲まれた矩形状の領域に対応して画素電極49が配置されており、画像表示領域全体では画素電極49が平面視マトリクス状に配列されている。各画素電極49には、画素電極49への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT30が接続されている。TFT30のソースにはデータ線46aが接続されている。各データ線46aには、前述したデータ線駆動回路から画像信号S1、S2、…、Snが供給されるようになっている。
【0055】
また、TFT30のゲートには走査線43aが接続されている。走査線43aには、前述した走査線駆動回路から所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。一方、TFT30のドレインには画素電極49が接続されている。そして、走査線43aから供給された走査信号G1、G2、…、GmによりTFT30を一定期間だけオンすることで、データ線46aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、画素電極49を介して各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれるようになっている。
【0056】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極49と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極49と容量線43bとの間に蓄積容量17が液晶容量と並列に接続されている。
【0057】
図4は、TFTアレイ基板80の平面構成図である。本実施形態の液晶装置では、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide;ITO)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極49(破線49aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。各画素電極49の縦横の境界に沿って、データ線46a、走査線43a及び容量線43bが設けられている。本実施形態では、各画素電極49の形成領域に対応する矩形状の領域が画素の平面領域に対応しており、マトリクス状に配列された画素毎に表示動作が行われるようになっている。
【0058】
TFT30は、ポリシリコン膜等からなる半導体層41aを備えている。半導体層41aのソース領域(後述)には、コンタクトホール45を介して、データ線46aが接続されている。また、半導体層41aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール48b(48a)を介して、画素電極49が接続されている。一方、半導体層41aにおける走査線43aとの対向部分には、チャネル領域41a’が形成されている。
【0059】
図5は、液晶装置の断面構造を示す図であり、図4のA−A’線に沿う断面構成図である。図5に示すように、本実施形態の液晶装置60は、TFTアレイ基板80と、これに対向配置された対向基板90と、これらの間に挟持された液晶層50とを備えて構成されている。TFTアレイ基板80は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体80A、及びその内側(液晶層側)に形成されたTFT30や画素電極49、さらにこれを覆う配向下地膜85及び無機配向膜86などを備えている。一方の対向基板90は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体90A、およびその内側(液晶層側)に形成された共通電極61、さらにこれを覆う配向下地膜95、無機配向膜92などを備えている。
【0060】
基板本体80Aの内面側には、後述する第1遮光膜51aおよび第1層間絶縁膜52が形成されている。第1層間絶縁膜52上に島状の半導体層41aが形成されている。半導体層41aにおける走査線43aとの対向部分にはチャネル領域41a’が形成されており、チャネル領域41a’の両側にソース領域およびドレイン領域が形成されている。TFT30はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しており、ソース領域およびドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。チャネル領域41a’側から順に形成された低濃度ソース領域41bと高濃度ソース領域41dとが前記ソース領域を構成し、チャネル領域41a’側から順に形成された低濃度ドレイン領域41cと高濃度ドレイン領域41eとが前記ドレイン領域を構成している。
【0061】
半導体層41aの表面にゲート絶縁膜42が形成されており、ゲート絶縁膜42上に走査線43aが形成されている。走査線43aのうちチャネル領域41a’との対向部分はTFT30のゲート電極を構成している。ゲート絶縁膜42及び走査線43aを覆って第2層間絶縁膜44が形成されている。第2層間絶縁膜44上にデータ線46a、及びドレイン電極46bが形成されており、データ線46aの一部は第2層間絶縁膜44に貫設されたコンタクトホール45内に埋設されて高濃度ソース領域41dと電気的に接続されている。一方、ドレイン電極46bは、第2層間絶縁膜44に貫設されたコンタクトホール48aを介して半導体層41aの高濃度ドレイン領域41eと電気的に接続されている。
【0062】
第2層間絶縁膜44、データ線46a、及びドレイン電極46bを覆って第3層間絶縁膜47が形成されている。第3層間絶縁膜47の表面に画素電極49が形成されており、画素電極49は第3層間絶縁膜47を貫通してドレイン電極46bに達する画素コンタクトホール48bを介してドレイン電極46bと電気的に接続されている。かかる構造により、画素電極49とTFT30とが電気的に接続されている。さらに、画素電極49を覆って、配向下地膜85が形成され、配向下地膜85上に無機配向膜86が形成されている。
無機配向膜86は、先に記載のようにシリコン酸化物によって好適に構成されるが、シリコン酸化物に限らず、アルミニウム酸化物、亜鉛酸化物、マグネシウム酸化物、インジウム錫酸化物、あるいはシリコン窒化物、チタン窒化物などにより形成してもよい。後述する無機配向膜92についても同様である。
【0063】
半導体層41aを延設して第1蓄積容量電極41fが形成されている。また、ゲート絶縁膜42を延設して誘電体膜が形成されており、かかる領域のゲート絶縁膜42を介して前記第1蓄積容量電極41fと対向する位置に第2蓄積容量電極を成す容量線43bが配置されている。これにより、前記第1蓄積容量電極41fと容量線43bとが平面的に重なる位置に前述の蓄積容量57が形成されている。
また、TFT30の形成領域に対応する基板本体80Aの表面に、第1遮光膜51aが形成されている。第1遮光膜51aは、TFTアレイ基板80の外側からの光が、半導体層41aのチャネル領域41a’、低濃度ソース領域41bおよび低濃度ドレイン領域41cに入射して光リークを生じるのを防止するものである。
【0064】
一方、対向基板90における基板本体90A上には、第2遮光膜63が形成されている。第2遮光膜63は、対向基板90側からの光が半導体層41aのチャネル領域41a’や低濃度ソース領域41b、低濃度ドレイン領域41c等に入射するのを防止するものであり、平面視において半導体層41aと重なる領域に設けられている。前記第2遮光膜63を覆う対向基板90のほぼ全面にITO等の透明導電材料からなる共通電極61が形成されている。そして、共通電極61を覆って配向下地膜95が形成され、かかる配向下地膜95上に無機配向膜92が形成されている。
【0065】
TFTアレイ基板80と対向基板90との間には、ネマチック液晶等からなる液晶層50が挟持されている。ネマチック液晶分子は、正の誘電率異方性を有するものであり、非選択電圧印加時には基板に沿って水平配向し、選択電圧印加時には電界方向に沿って垂直配向する。またネマチック液晶分子は、正の屈折率異方性を有するものであり、その複屈折と液晶層厚との積(リタデーション)Δndは、例えば約0.40μm(60℃)となっている。TFTアレイ基板80側の無機配向膜86による配向規制方向と、対向基板90側の無機配向膜92による配向規制方向とは、約90°ねじれた状態に設定されている。基板本体80A、90Aのそれぞれの外側(液晶層50と反対側)には、偏光板58、68が互いの透過軸を直交させた状態(クロスニコル)で配置されている。従って、本実施形態の液晶装置60は、TNモードで動作し、捻れ配向した液晶の旋光性を利用した白表示と、電圧印加により垂直配向させた液晶の透過性を利用した黒表示との間で階調表示を行うものとなっている。
なお、本液晶装置60をプロジェクタのライトバルブとして用いる場合には、偏光板58、68については、サファイヤガラスや水晶等の高熱伝導率材料からなる支持基板上に装着して、液晶装置60から離間して配置することが望ましい。
【0066】
以上説明した液晶装置60にあっては、特に無機配向膜86、92として、前述したようにスパッタリング装置1により形成できる配向性の良好な無機配向膜を備えているので、これらの無機配向膜86、92によって液晶分子のプレチルト角等の配向状態をより良好に制御することができ、高輝度、高コントラストの表示が可能であり、また耐熱性、耐光性に優れた信頼性の高い液晶装置となる。
【0067】
(プロジェクタ)
次に、本発明の電子機器としてプロジェクタの一実施形態について、図6を用いて説明する。図6は、プロジェクタの要部を示す概略構成図である。このプロジェクタは、前述した実施形態に係る液晶装置を光変調手段として備えたものである。
【0068】
図6において、810は光源、813、814はダイクロイックミラー、815、816、817は反射ミラー、818は入射レンズ、819はリレーレンズ、820は出射レンズ、822、823、824は本発明の液晶装置からなる光変調手段、825はクロスダイクロイックプリズム、826は投射レンズである。光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とからなる。
【0069】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用光変調手段822に入射される。また、ダイクロイックミラー813で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用光変調手段823に入射される。さらに、ダイクロイックミラー813で反射された青色光は、ダイクロイックミラー814を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ818、リレーレンズ819および出射レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられている。この導光手段821を介して、青色光が青色光用光変調手段824に入射される。
【0070】
各光変調手段822、823、824により変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投影され、画像が拡大されて表示される。
【0071】
前述したプロジェクタは、前記の液晶装置を光変調手段として備えている。この液晶装置は、前述したように信頼性が高く、高画質の表示が得られるものとなっているので、このプロジェクタ(電子機器)自体も信頼性が高く、高画質のプロジェクタとなる。
【0072】
なお、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、前記実施形態ではスイッチング素子としてTFTを備えた液晶装置を例にして説明したが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode)等の二端子型素子を備えた液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、前記実施形態では透過型液晶装置を例にして説明したが、反射型液晶装置に本発明を適用することも可能である。
また、前記実施形態ではTN(Twisted Nematic)モードで機能する液晶装置を例にして説明したが、VA(Vertical Alignment)モードで機能する液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、実施形態では3板式の投射型表示装置(プロジェクタ)を例にして説明したが、単板式の投射型表示装置や直視型表示装置に本発明を適用することも可能である。
【0073】
また、本発明の液晶装置を、プロジェクタ以外の電子機器に適用することも可能である。その具体例として、携帯電話を挙げることができる。この携帯電話は、前述した各実施形態またはその変形例に係る液晶装置を表示部に備えたものである。また、その他の電子機器としては、例えばICカード、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、さらに表示機能付きファックス装置、デジタルカメラのファインダ、携帯型TV、DSP装置、PDA、電子手帳、電光掲示盤、宣伝公告用ディスプレイ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態に係るスパッタリング装置の概略構成図。
【図2】実施形態に係るTFTアレイ基板の全体構成図。
【図3】同、等価回路図。
【図4】同、画素の詳細構成を示す図。
【図5】図4のA−A’線に沿う断面構成図。
【図6】電子機器の一例であるプロジェクタの概略構成図。
【符号の説明】
【0075】
W…基板、1…スパッタリング装置、2A…成膜室、2A1…開口部、3…スパッタ粒子放出装置(スパッタ粒子放出部)、5a,5b…ターゲット、5p…スパッタ粒子、20…排気制御装置(排気部)、22…ガス供給手段(ガス供給部)、30…付着部、31…ヒータ(加熱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容すると共に、前記基板に沿って酸素を含む酸化用ガスを供給するガス供給部を備える成膜室と、対向する一対のターゲットからプラズマによりスパッタ粒子を生じさせ、前記スパッタ粒子を前記成膜室に形成された開口部を介して前記基板に向けて放出するスパッタ粒子放出部とを備えて、前記基板上に付着した前記スパッタ粒子を前記酸化用ガスにより酸化させ、前記基板上に無機配向膜を形成するスパッタリング装置であって、
前記開口部が設けられる位置と、前記ターゲットが設けられる位置との間に設けられ、前記開口部から流出する前記酸化用ガスの酸素を付着させるための付着部を有することを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記付着部は、前記スパッタ粒子放出部から放出される前記スパッタ粒子の一部を付着させて、付着した前記スパッタ粒子と前記開口部から流出する前記酸化用ガスの酸素との間で酸化を生じさせることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記付着部は、複数のフィンを有することを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記フィンの向きは、前記酸化用ガスが流通する流通経路に沿う向きに設定されることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記付着部を加熱する加熱部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記付着部は、前記開口部近傍に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記開口部から流出する前記酸化用ガスを前記ターゲットに向かう方向と異なる方向に導く排気部を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記付着部は、着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のスパッタリング装置を備えることを特徴とする液晶装置の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−7123(P2010−7123A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166973(P2008−166973)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】