説明

スパッタ装置のターゲットモジュール、およびスパッタ装置

【課題】対向ターゲット式スパッタ装置において、磁性体膜の成膜速度を高速化するとともに、長時間の成膜安定性を実現する。
【解決手段】スパッタ装置のターゲットモジュールは、スパッタされる表面を対向して設けられる一対のターゲット部材を交換可能に保持する一対のターゲット保持部と、一方のターゲット部材の表面から他方のターゲット部材の表面に向かう磁束を発生する磁場発生手段と、ターゲット部材の表面上で周辺部分よりも中央部分の磁束密度が低下するように磁束密度を分布させる磁束密度分布調整手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透磁率の強磁性材ターゲットまたは軟磁性材ターゲットにより、磁性体膜あるいは金属酸化物を成膜する対向ターゲット式スパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対向ターゲット式スパッタ装置は、真空槽内で対向配置した2枚のターゲットを有し、両ターゲットに垂直な方向の磁場発生手段を配設し、両ターゲットの対向空間内にプラズマを生成して、両ターゲットに挟まれた空間の側方に配置された基板上に薄膜を形成する装置である(例えば、非特許文献1参照)。この対向ターゲットスパッタ装置は、マグネトロンスパッタ装置では成膜困難であった磁性体膜あるいは金属酸化物膜を形成することができる。
【0003】
以下に、対向ターゲット式スパッタ装置の特徴を説明する。対向ターゲット式スパッタ装置は、真空槽内に、陰極となる2枚のターゲットを有する。2枚のターゲットは、スパッタされるスパッタ面が空間を隔てて対面して設けられる。そして、対向ターゲット式スパッタ装置は、電磁石あるいは永久磁石からなる両ターゲットのスパッタ面に垂直な磁場を発生する手段を有する。そして、対向ターゲット式スパッタ装置は、両ターゲット間の空間の側方に配設した基板上に薄膜を形成する。
【0004】
ところで、従来から、陰極となるターゲットに磁界発生手段を組み込み、磁場によってプラズマをターゲット付近に集中させるマグネトロンスパッタ装置が提案されている。マグネトロンスパッタ装置では、プラズマのターゲット近傍への集中によって、成膜速度を向上できる。しかしながら、マグネトロンスパッタ装置では、磁性材のターゲットを使用する場合には、ターゲットの背面に配設した永久磁石でターゲット表面に電子を効率的に拘束できず、薄膜速度を向上できない。
【0005】
これに対し、対向ターゲット式スパッタ装置では、高エネルギーの電子を拘束するための磁場を形成する磁極を2枚のターゲット間で異なるものとすることができ、磁極が引き合う方向に構成できる。したがって、ターゲット面に対して垂直であり、ターゲットとして磁性材を用いた場合でも、対向する2枚のターゲット間に有効な磁場を発生させることができる。
【0006】
さらに詳しくは、磁性材ターゲットの背面に配設された磁場発生用の永久磁石から放出された磁束は、一旦、透磁率の高い磁性材ターゲットに吸収されて、磁性材ターゲット全体に分散された後に、その磁性材ターゲットの表面全面から磁束を放出され、対向する異局の磁性材ターゲットに向かう磁場を形成する。
【0007】
したがって、対向ターゲット式スパッタ装置は、磁性体膜の生産においても、対向する2枚のターゲット間の空間に有効なプラズマを形成することによって磁性体膜を成膜できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−158380号公報
【特許文献2】特開昭63−270461号公報
【特許文献3】特開2003−155564号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】応用物理第48巻(1979)第6号P558〜559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の技術では、磁性材ターゲットの持つ高い透磁率のために、2つのターゲットの対向する表面全面にほぼ均一に電子を拘束するための磁場が形成される。その結果、成膜に有効なプラズマも、そのターゲットの対向する表面全面にほぼ均一に形成される。その結果、成膜対象箇所でのプラズマ密度を相対的に高くすることができず、成膜速度を高速化できないという問題が生じていた。そこで、成膜速度高速化のため、従来から様々な提案がなされている。しかし、必ずしも効果的な技術は提案されていない。
【0011】
例えば、図1に、特開昭57−158380号公報に記載の対向ターゲット式スパッタ装置を示す。この装置では、電子を拘束するための磁場発生用の手段がターゲット板T1,T2の背面外周部に配設された永久磁石31,32で構成される。ここで、背面外周部とは、ターゲット板T1,T2を背面側からみた平面領域の外周部という意味である。例えば、図1でターゲットT1,T2が円形状の場合、外周部は円周であり、永久磁石31,32はそれぞれ円環状に配置される。また、例えば、ターゲットT1,T2が矩形状の場合、外周部は四角形であり、永久磁石31,32はそれぞれボックス状に配置される。以下、円環状、ボックス状を含めて、永久磁石31,32は環状であるとする。
【0012】
この構成では、非磁性材ターゲットを用いる場合には、非磁性ターゲットの背面に設けられた環状の磁場発生用の永久磁石31から出た磁束は、該ターゲットを透過して対向する異極の環状の磁場発生用の永久磁石32に向かう。これにより、強い環状の磁場が形成可能である。したがって、ターゲットの外周部に強い磁束の壁が形成され、この磁束の壁がプラズマを閉じこめて、高速のスパッタ成膜速度を実現する。
【0013】
しかしながら、ターゲットとして、磁性材あるいは金属酸化物を用いた場合には、磁性材ターゲットの背面に設けられた磁場発生用の永久磁石31から放出された磁場は、一旦透磁率の高い磁性材ターゲットT1に吸収され、磁性材ターゲットT1全体に分散された後に、磁性材ターゲットT1の表面全面から磁束を放出され、対向する異極の磁性材ターゲットT2に向かう磁場を形成する。
【0014】
この場合には、電子を拘束するための磁場は、非磁性材ターゲットの場合とは異なり、磁性材ターゲットT1の持つ高い透磁率のため、ターゲットの外周部に相対的に強い磁束の壁を形成できない。その結果、ターゲットの対向する表面全面に、非磁性材ターゲットを用いる場合に対して、比較的均一な磁場が形成され、電子を十分には拘束できない。したがって、成膜に寄与するプラズマもターゲットの対向する表面全面にほぼ均一に形成されるので、ターゲット近傍のプラズマ密度を相対的に高くできず、成膜速度が向上しないという問題が残されていた。
【0015】
さらに、本技術で形成される磁場は、磁性材ターゲットの材質による透磁率、飽和磁化、磁性材ターゲットの厚み等に影響されるので、成膜状態が安定しないという問題があった。
【0016】
次に、以上の問題を解決するため、特開昭63−270461号公報に記載の技術が提案されている。図2に、この技術の構成を示す。この構成では、電子を拘束するための磁場発生用の永久磁石120(磁界発生手段120)を磁性材ターゲットTの背面外周部ではなく、磁性材ターゲットTの側方外周部のさらに外側で、磁性材ターゲットTを取り囲
むように環状に配置している。この構成によって、永久磁石120から出た磁束は、磁性材ターゲットを透過することなく、対向する異極の環状の永久磁石に向かう、強い環状の磁場を形成する。
【0017】
したがって、磁性材ターゲットTの材質による透磁率の影響、あるいは、磁性材ターゲットTの厚みの影響を受けにくくなる。また、磁性材ターゲットの外周部に強い磁束の壁が形成され、強い磁束の壁がプラズマを閉じこめて、高速のスパッタ成膜速度を実現する。
【0018】
さらに、この技術では、電子を拘束する磁場発生用の永久磁石120のスパッタ面側の端部に、成膜に有効なプラズマ密度を高くするため、電子を反射するための負電位の反射電極110を設けている。
【0019】
しかし、この技術では、磁性材ターゲットの透磁率や、厚みの影響を受けにくくなるが、電子を拘束する磁場発生用の永久磁石122のスパッタ面側の端部に設けた反射電極110は、磁性材ターゲットと同電位となり、スパッタイオンが衝突することになる。したがって、電子を反射する反射電極110は、磁性材ターゲットTと同一の材質としなければならず、反射電極110の材質が磁性材ターゲットTと異なる材質の場合、成膜された磁性体膜に異物が混入する結果となる。
【0020】
一方、反射電極110を磁性材ターゲットTと同一の材質とすることは、金属の強磁性材ターゲットの場合には可能であるが、軟磁性材ターゲットの場合には、困難になるという問題がある。これは反射電極110で磁場が吸収されてしまいターゲット表面にプラズマを生成できないためである。本 図3に、より最近の先行技術である特開平2003−155564号公報に記載された技術を示す。この技術は、図2の技術を基本して、磁場発生用の永久磁石130aのスパッタ面と反対側の端部に設けたヨーク中央部に、永久磁石の磁場調整手段(永久磁石180a)を組み込んだもので、マグネトロンモードの磁場を調整することを提案している。しかしながら、高透磁率の強磁性材ターゲットあるいは、軟磁性ターゲットの場合には、この技術では、ヨーク中央部に設けられた永久磁石180aでマグネットロンモードの磁場を発生することはできないので、有効でない。理由は、磁石から出た磁力線がターゲットで吸収されてしまいスパッタリング可能なプラズマ十分に形成されないためである。
【0021】
本発明の目的は、高透磁率の強磁性ターゲットまたは軟磁性材ターゲットを用いて磁性体膜あるいは金属酸化物膜をスパッタ成膜する対向ターゲット式スパッタ装置において、磁性体膜の成膜速度を高速化するとともに、長時間の成膜安定性を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、本発明の一側面は、スパッタ装置のターゲットモジュールにより例示できる。本ターゲットモジュールは、スパッタされる表面を対向して設けられる一対のターゲット部材を交換可能に保持する一対のターゲット保持部と、一方のターゲット部材の表面から他方のターゲット部材の表面に向かう磁束を発生する磁場発生手段と、ターゲット部材の表面上で周辺部分よりも中央部分の磁束密度が低下するように磁束密度を分布させる磁束密度分布調整手段と、を有する。
【0023】
このターゲットモジュールでは、ターゲット保持部に保持されるターゲット部材の表面上で、周辺部分よりも中央部分の磁束密度が低下するように磁束密度を分布させることができる。したがって、ターゲット部材に衝突する電離気体を発生する電離気体発生手段を含む、スパッタ装置にこのターゲットモジュールを組み込んだ場合、ターゲット部材の表
面上の磁束密度が低下する箇所に電離気体をより多く維持することができ、スパッタ効率、スパッタ速度を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、対向ターゲット式スパッタ装置において、磁性体膜の成膜速度を高速化するとともに、長時間の成膜安定性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のスパッタ装置の例1である。
【図2】従来のスパッタ装置の例2である。
【図3】従来のスパッタ装置の例3である。
【図4】本発明の一実施の形態にかかるスパッタ装置の主要部を示す図である。
【図5】磁石とポールピースを示す平面図である。
【図6】ターゲットモジュールでの磁力線の分布を示す図である。
【図7】スパッタされた強磁性材料の膜が形成されるプラスチックフィルム保持部を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)に係るスパッタ装置について説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0027】
<発明の骨子>
本スパッタ装置は、スパッタ面が空間を隔てて対面するように設置された一対のターゲットと、前記一対のスパッタ面に垂直な方向の磁場を発生する磁場発生手段とを有し、一対のターゲットに挟まれた空間の側方に配置された基板上に膜を形成するように構成した対向ターゲット式スパッタ装置である。
【0028】
ここで、対向する2枚の高透磁率の強磁性材ターゲットあるいは軟磁性材ターゲットの背面外周部に、それぞれの磁極が互いに向き合って引き合うように設けられた永久磁石とヨークとからなる磁場発生手段を設けている。この構成により、略均一な表面磁場強度に磁化された高透磁率の強磁性材ターゲットあるいは軟磁性材ターゲットで、該ターゲット材の表面磁場の磁束密度分布が、周辺部と比較して中央部にて弱くなるように変形されている。
【0029】
このような構成により、高透磁率の強磁性材ターゲットあるいは軟磁性材ターゲットのスパッタ成膜速度の高速化を図っている。
【0030】
さらに、ターゲット材のスパッタ面外周部に配設するアースシールドを常磁性金属とし、アースシールドに常磁性金属からなる冷却機構を組み込むことにより、長時間の成膜安定性を実現する。
【0031】
本発明は、特開昭57−158380号公報記載の発明とは異なり、対向する2枚のターゲットの高透磁率の強磁性材ターゲットあるいは軟磁性材ターゲット材の背面外周部に、それぞれの磁極が互いに向き合って引き合うように配置された永久磁石とヨークからなる磁場発生手段を設け、上述のようにターゲット材の表面磁場の磁束密度分布を周辺部に比べて中央部が弱くなるように変形されている。
【0032】
さらに、本発明では、永久磁石のターゲット面側の反対端を接合する強磁性材からなるヨークの中央部に設けた強磁性材からなるポールピースにより、ポールピース近傍の磁束
を一部吸収することにより中央部の磁束密度が外周部よりも低くなるように変形している。このようにして、磁性材ターゲットの外周部に中央部よりも相対的に強い磁束の壁を形成して、高密度のプラズマを閉じこめることにより、磁性膜の高速なスパッタ成膜を実現した。
【0033】
<実施例>
本実施形態に係るスパッタ装置は、真空チャンバ内にスパッタされる強磁性ターゲットを保持し、強磁性ターゲット、軟磁性ターゲット、あるいは金属酸化物ターゲット表面に高密度プラズマ中のイオン、あるいは、電子で中性化された原子を衝突させ、強磁性ターゲット中の原子を叩き出す。
【0034】
以下、ターゲットは、強磁性ターゲットとして説明するが、本スパッタ装置のターゲットが強磁性ターゲットに限定されるわけではない。一方、真空チャンバ中には、叩き出された強磁性材料の原子を堆積させる基板あるいはフィルムを保持しておき、基板表面に強磁性体材料の膜を形成する。
【0035】
図4に、本実施形態に係るスパッタ装置の主要部の構成を示す。このスパッタ装置は、真空チャンバ内で、スパッタされる一対の強磁性ターゲット1N,1Sを含むターゲットモジュール20N,20S(ターゲット保持部に相当)と、スパッタされた強磁性材料の膜が形成されるプラスチック基板10(あるいは、プラスチックフィルム)を搭載する試料台10Aと、を有している。ターゲットモジュール20N,20Sは、真空チャンバ内で互いに、強磁性ターゲット1N,1Sを対向させて真空チャンバの内壁に不図示のボルトによって装着される。基板10(堆積部材に相当)を搭載する試料台10A(堆積部材の保持手段に相当)は、対向する強磁性ターゲット1N,1Sに挟まれた空間の側方に設けられている。ターゲットに電圧が加えられ、電圧が上がって行くと対抗ターゲット間の放電によりプラズマが生成され、スパッタリングが開始される。スパッタリングされたターゲットの材料はプラスチック基板10に到達し、薄膜化する。その際、スパッタリングガス(例えば、不活性ガス)はプラスチック基板10の磁場空間Hを挟む反対側側面から流され、放電によりプラズマとなり、ターゲットに衝突する。
【0036】
プラスチック基板10は、対向するターゲットに挟まれた空間の側面に置かれる。プラスチック基板10の表面の法線は、概ね、対向するターゲットを結ぶ直線、例えば、対向するターゲットそれぞれの表面の法線と直交する方向を向く。プラスチック基板10の表面に、スパッタリング磁性粒子が堆積し薄膜化する。
【0037】
本実施形態では、ターゲットモジュール20Nには、対向するターゲットモジュール20Sに磁力線を発生する向きに磁石5N(磁場発生手段に相当)が設けられている。一方、ターゲットモジュール20Sには、対向するターゲットモジュール20Nからの磁力線が終端する向きに磁石5S(磁場発生手段に相当)が設けられている。したがって、ターゲットモジュール20Nと20Sとが対向する対向空間には、ターゲットモジュール20Nから20Sへ向かう磁場が形成される。このように、ターゲットモジュール20Nと20Sとは、内部に設けられた磁極の向きが、互いに逆なっている点を除き、同一の形状である。そこで、その詳細は、主に、ターゲットモジュール20Nあるいは20Sの一方によって説明することとする。
【0038】
ターゲットモジュール20Nは、一側面(以下、上面という)が開口した箱上のターゲット支持金具8と、ターゲット支持金具8の外壁面を被覆するアースシールド7(シールド部材に相当)と、ターゲット支持金具8の側壁にてアースシールド7の外面側を取り囲んで構成されるアースシールド冷却機構9(冷却機構に相当)と、ターゲット支持金具8の箱状の内部空間にて、開口面と反対側の底面に設置される板状磁性材料のヨーク6(た
だし、板状体の中央部にポールピース6Nを有し、磁束密度分布調整手する。)と、ヨーク6に設置された箱状(あるいは、環状)の磁石5Nと、ターゲット支持金具8の開口面を塞ぐ蓋部を構成する水冷却用プレート4と、水冷却用プレート4に密着して設けられ、強磁性ターゲット1Nを支持するパッキングプレート2と、パッキングプレート2に密着保持される強磁性ターゲット1Nを有している。なお、ターゲットモジュール20Sも同様の構成である。
【0039】
ターゲット支持金具8は、非磁性材料であり、例えば、ステンレス鋼(以下、SUS)である。ターゲット支持金具8の開口面と反対側の底面は、不図示のボルトによって真空チャンバの内壁に立設される。このとき、アースシールド7も底面部が、ターゲット支持金具8の底外面と真空チャンバ内壁との間に挟み込まれ、固定される。アースシールド7は、アルミニウム、銅等の常磁性の導電性材料であり、真空チャンバと同一の電位となり、ターゲット支持金具8、水冷却用プレート4、およびパッキングプレート2を含むターゲットモジュール20Nをアース電位に静電シールドする。ターゲット支持金具8は溶接で真空チャンバに取り付ければよい。
【0040】
アースシールド冷却機構9は、アースシールド7に溶接で取り付けられている。アースシールド冷却機構9の材料は常磁性性材料であり、例えば、SUSである。アースシールド冷却機構9は、例えば、水冷によりアースシールド7を冷却する。ターゲットモジュール20Nの側面はSUSでアースシールドされているので、アースシールド7表面近傍にはプラズマが生成されず、アースシールド冷却機構9がスパッタされる可能性は低い。
【0041】
水冷却プレート4は、熱伝導性があり腐食性に強い金属、例えば、SUS等で構成される。
【0042】
水冷却プレート4の対向空間側には、冷媒である水が流れる冷却水路11が形成され、パッキングプレート2によって対向空間側の面が閉じられ、管路を形成している。冷却水路11の水冷却プレート4上の一端は、不図示の注水口に接続されている。また、冷却水路11の水冷却プレート4上の他端は、不図示の排水口に接続されている。冷却水路11内の水は、循環路を通り、真空チェンバ外の熱交換手段を介して放熱し、注水口から導入され、排出口から排出される。
【0043】
水冷却プレート4の冷却水路11が形成された面には、冷却水路11、注水口、および排水口を取り囲むOリング収容溝が形成されている。Oリング収容溝には、Oリングが装着され、冷却水路11、注水口、および排水口と、真空チャンバ内とを遮断し、真空チャンバの真空を維持している。
【0044】
パッキングプレート2の材料は銅である。パッキングプレート2に対して、板状の強磁性ターゲット1Nは、In(インジウム)金属、あるいは鉛フリー半田にて加熱接合されている。
【0045】
強磁性ターゲット1Nはパッキングプレート2にInあるいは半田にて接合されている。強磁性ターゲット1Nとパッキングプレート2とを含むモジュールは、モジュール本体(例えば、パッキングプレート2の周辺をネジにて、ターゲットモジュール20N(例えば、水冷却用プレート4)に止めればよい。したがって、強磁性ターゲット1Nの脱着は強磁性ターゲット1Nとパッキングプレート2とが接合されたままで行えばよい。強磁性ターゲット1Nは、装置購入時にメーカが装置とともに提供してもよい。また、スパッタ装置のユーザが別途購入して付けてもよい。
【0046】
ヨーク6は、その中央部から対向空間方向に突き出した角柱状のポールピース6Nを有
している。板状のヨーク6の周辺部付近に、磁石5Nがセットされる。
【0047】
図5は、磁石5Nおよびポールピース6Nを対向空間側から見た平面図である。図5は、括弧内の符号によって磁石5Sおよびポールピース6Sも同一の形状であることを示している。また、図6は、磁石5Sおよびポールピース6S部分の詳細図であり、磁力線の経路、および強磁性ターゲット1S表面付近の磁場の強度を示した図である。ヨーク6の役割を明示するため、磁場の強度は、ヨーク6があった場合と、ない場合とが示されている。
【0048】
図4から図6に示すように、磁石5N(および5S)は、ヨーク6の周辺に吸着して設けられている。したがって、磁石5Nから磁石5Sに向かう磁場の強度は、磁石5N(および5S)の近傍、すなわち、強磁性ターゲット1N(および1S)の周辺部にて最も強くなる。ここで、周辺部とは、強磁性ターゲット1N(および1S)の対向空間側表面(または、その裏面)を形成する板状体の縁周辺部をいう。
【0049】
さらに、図6に示すように、ターゲットモジュール20Sでは、磁石5S、強磁性材料1S、ポールピース6S、およびヨーク6が閉磁路を形成している。したがって、磁石5SのS極で終端する磁力線の一部は、対向する磁石5Nから発せられたものであるが、一部は、強磁性材料1S、ポールピース6S、およびヨーク6の閉磁路で構成されたものである。この場合、ポールピース6Sは、対向空間側に磁力線を発している。
【0050】
したがって、ターゲットモジュール20Sでは、強磁性ターゲット1Sの中央部付近で、ターゲットモジュール20Nからの磁力線を弱める方向にポールピース6Sが作用する。その結果、ヨーク6がある場合には、強磁性体をターゲットとする場合でも、強磁性ターゲット1Sの中央部付近の磁場が弱くなる。これは、軟磁性体をターゲットとする場合も同様である。その結果、図6に示すように、強磁性ターゲット1S表面での磁場強度の分布は、中央部で弱く、周辺部で強い分布となる。ターゲットモジュール20Nにても、磁力線の向きが図6の場合と逆になる違いがあるが、磁場強度の分布は、ターゲットモジュール20Sの場合と同様となる。
【0051】
このような磁場が構成された対向空間に、プラズマ生成用のスパッタガス(例えば、Ar)を導入し、放電させることで、プラズマを生成すると、プラズマ、すなわち、電離されたイオンと電子は、磁場強度の弱いポールピース6Nと6Sとが対向する中央部の柱状空間に集中する。
【0052】
したがって、強磁性ターゲット1N,1Sは、主として、板状体の表面中央部がスパッタされやすくなる。
【0053】
さらに、本スパッタ装置では、ヨーク6中央部に設けた強磁性材からなるポールピース6N,6Sは、強磁性材ターゲット1N,1Sあるいは軟磁性材ターゲットの種類により、その幅(厚み)と、ターゲット材とポールピース先端との距離を変更する。本スパッタ装置が対象とする強磁性材ターゲット1N,1Sあるいは軟磁性材ターゲットは、その種類あるいは厚みにより透磁率あるいは飽和磁化が異なるので、磁場発生用の永久磁石に応じた最適値になるように調整するためである。このような構成により、各種の高透磁率の磁性材ターゲットの材料物性に応じた最大の、あるいは、効率的なスパッタ成膜速度を得ることができる。
【0054】
本スパッタ装置は、ポールピースとして永久磁石ではなく、強磁性金属を使用する。ポールピースとして永久磁石を用いると、外周部磁石とヨークとポールピースの永久磁石と高透磁率の磁性材ターゲットが閉じた磁気回路を構成し、その結果対向する2枚のターゲ
ット間の空間に発生する磁場が弱くなる。
【0055】
本スパッタ装置が強磁性材ターゲット1N、1Sあるいは軟磁性材ターゲットによって、長時間にわたってスパッタ成膜を安定して行うための手段として、ターゲット材のスパッタ面外周部に配置するアノード電位(アース電位)のアースシールド7を常磁性金属で構成する。さらに、アースシールド7に常磁性金属からなるアースシールド冷却機構9を設けた。これによって、強磁性材ターゲットあるいは軟磁性材ターゲットによる長時間にわたってスパッタ成膜を安定して行うことができる。
【0056】
アースシールド7およびアースシールド冷却機構9は、ターゲットの外周部形成された磁束の壁に磁気的な作用を及ぼさない常磁性金属で構成れており、スパッタにより放出される多量の電子を磁気的な作用を及ぼすことなく、長時間にわたって速やかに吸収する。これにより、長時間にわたって安定したスパッタ成膜が実現される。
【0057】
スパッタリングを長時間連続で実施しているとターゲット表面に電子が蓄積し、異常放電を起こしてスパークが飛び高温が発生してターゲット表面を燃焼し、あるいは、基板を溶かす場合がある。従って、この異常放電を避けるために発生した電子を逃がし、あるいはアースをとることになる。なお、磁石が発熱すると発生磁場強度が急激に低下するので、冷却機構9は磁石の温度上昇を抑制している。
<変形例>
【0058】
上記実施例の構造の他、強磁性ターゲット1N(1S)をバッキングプレート2に接合したモジュールの背面に直に磁石とヨークの先端を接触させてもよい。一方、水冷却用プレート4は、磁石とヨークの背後に設けてもよい。このような構成により、磁場がターゲット表面から対向空間に向かって生じ易くなる。
【0059】
上記実施形態では、スパッタされた強磁性材料の膜は、対向空間側面のプラスチック基板10に堆積され、強磁性体薄膜を形成した。そのようなプラスチック基板10に代えて、プラスチックフィルムの巻き出し機構、巻き取り機構を含む、プラスチックフィルム保持部を設けてもよい。そして、堆積した強磁性体薄膜とともに、プラスチックフィルムを巻き取るようにしてもよい。
【0060】
図7に、スパッタされた強磁性材料の膜が形成されるプラスチックフィルム保持部40(堆積部材の保持手段に相当)を例示する。図7のように、プラスチックフィルム保持部40は、プラスチックフィルム47(堆積部材に相当)の表面をターゲットモジュール20N,20Sの対向空間に向けて、ターゲットモジュール20N,20Sの側方に設けられる。プラスチックフィルム保持部40は、例えば、巻き出しロール41、巻き取りロール42、および、テンション調整ロール43,44,45,46を含む。例えば、巻き取りロール42は、スパタッリング速度に応じた時間ごとにプラスチックフィルム47を巻き取るようにすればよい。巻き取りロール42、あるいは、巻き出しロール41を駆動する駆動部となるモータなどを設けてもよい。テンション調整ロール43,44,45,46の数は、4個に限定されることはなく、2個でもよいし、6個以上でもよい。
【0061】
以上のような構成により、成膜された強磁性体を簡易に巻き取り、強磁性体薄膜を効率的に生産できる。また、成膜速度に応じた所定のタイミングで巻き取りロールを駆動することにより、人手の介在を抑えて、効率的に強磁性体薄膜を製造できる。
【符号の説明】
【0062】
1N,1S 強磁性ターゲット
2 パッキングプレート
3 Oリング
4 水冷却用プレート
5N,5S 磁石
6 ヨーク
6N,6S ポールピース
7 アースシールド
8 ターゲット支持金具
9 アースシールド冷却機構
10 プラスチック基盤(フィルム)
11 冷却水路
20N,20S ターゲットモジュール
31 基板支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタされる表面を対向して設けられる一対のターゲット部材を交換可能に保持する一対のターゲット保持部と、
前記一方のターゲット部材の表面から他方のターゲット部材の表面に向かう磁束を発生する磁場発生手段と、
前記ターゲット部材の表面上で周辺部分よりも中央部分の磁束密度が低下するように磁束密度を分布させる磁束密度分布調整手段と、を有するスパッタ装置のターゲットモジュール。
【請求項2】
スパッタされる表面を対向して設けられる一対のターゲット部材を交換可能に保持する一対のターゲット保持部と、
前記一方のターゲット部材の表面から他方のターゲット部材の表面に向かう磁束を発生する磁場発生手段と、
前記ターゲット部材の表面上で周辺部分よりも中央部分の磁束密度が低下するように磁束密度を分布させる磁束密度分布調整手段と、
前記ターゲット部材に衝突する電離気体を発生する電離気体発生手段と、
前記保持手段に保持されたターゲット部材に衝突した電離気体によってスパッタされたターゲット部材から放出される材料を堆積させる堆積部材の保持手段と、を備えるスパッタ装置。
【請求項3】
前記堆積部材保持手段は、基板を保持する、基板保持部またはロールで巻き出し、巻き取り可能なフィルムのフィルム保持部である請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記ターゲット部材および前記保持部材を含む構成部分のうち、少なくとも前記対向する表面に対する側方部を保護するためのシールド部と、
前記シールド部を冷却する冷却機構と、をさらに備える請求項2または3に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記シールド部材および冷却機構が常磁性金属で構成される請求項2から4のいずれか1項に記載のスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−57247(P2012−57247A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204755(P2010−204755)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(510246297)アイシーイノバジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】