スピネル粉末およびその製造方法、溶射膜の製造方法、ならびにガスセンサ素子の製造方法
【課題】溶射性に優れ、かつ、特異な形状を持つスピネル粉末およびその簡便な製造方法を提供し、ガスセンサ素子の保護皮膜形成用の溶射粉末等として、センサの特性バラツキ低減に寄与する製造方法を提供する。
【解決手段】粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することにより得られる。
【解決手段】粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することにより得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル粉末およびその製造方法、溶射膜の製造方法、ならびにガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアとアルミナとからなるスピネル(MgO・Al2O3系スピネル)(以下、単に「スピネル」という。)は、高い耐熱性、高い結晶安定性を持っていることから、その応用例として内燃機関酸素濃度を検出するためのガスセンサ素子の電極保護膜として古くから使用されている。たとえば、特許文献1に記載されているようなガスセンサ素子がよく知られており、酸素センサ素子の電極保護膜としてスピネル粉末を使用したプラズマ溶射膜が使用されている。酸素センサ素子は、内部に基準ガス室が設けてあるコップ型の固体電解質体と、その固体電解質体の外側面に設け、かつ被測定ガスと接触する測定電極と、上記固体電解質体の内側面に設けた基準電極とよりなる。また、測定電極の外側にはスピネル粉末を使用したプラズマ溶射膜が保護膜として設置されている。また、酸素センサ素子において、上記基準ガス室には通電により発熱するヒータが挿入配置されている。上記酸素センサ素子はある一定以上の温度に達しないと酸素濃度を検出することができない。ヒータの加熱により酸素センサ素子は外部雰囲気温度が低い状態であっても酸素ガス濃度を測定することができる。その検出する機構は、排気ガスがプラズマ溶射膜を拡散して電極に到達してその電極上で反応することで出力を発生するものである。
【0003】
しかしながら、従来の酸素センサ素子には以下に示す問題点があった。つまり、プラズマ溶射は5000℃以上のプラズマフレームにスピネル粉末を投入して非常に短い滞留時間の中で溶融させて素子表面に成膜するものであり、安定してスピネルが溶融せずに、溶射膜の気孔率のバラツキが生じていた。それために、センサの応答性にバラツキが生じるという問題がある。気孔率がバラツク要因はプラズマ炎の安定性などの要因もあるが、スピネル粉末の粒子形状の問題もある。スピネル粉末は平坦な面であり、高温のプラズマフレームからの熱を一瞬で受けるために、受熱の効率が悪くて溶融性にバラツキが生じると考えられる。その結果としてガスセンサの特性にバラツキが生じる。
【0004】
上述したスピネル粉末の表面の特徴は、その製造法に起因する。スピネル粉末は以下のように製造される。アルミナ原料粉末とマグネシア原料粉末を一旦電気炉にて加熱して溶かし、一旦反応凝固させてスピネルを生成させた後、所定の粒径に粉砕分級したものである。その粉砕は機械的な衝撃により破砕される。それ故に、破砕応力にて割れた表面となり、平坦になるのである。
【0005】
溶射で安定的に使用するためには、粒度を溶射に合うように調整したスピネル粉末が使用される。粒度の調整は、電融法にて製造したスピネルを粉砕して、その後、分級操作により所定の粒度範囲に入った粉末のみを使用するために、粒度が外れた粉末は廃却されるために溶射用の粉末のコストは高くなってしまうという問題がある。
【0006】
また、今後の排出ガス規制に対応するためには、精密に制御することが求められており、ガスセンサとしては特性のバラツキおよび耐久の特性変動を抑える必要が生じている。従来構造にかかるガスセンサ素子ではこのような要求に応えることが難しかった。なお、非特許文献1には、スピネルの生成機構が記載されており、これについては、後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開2008−286810
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】江副正信,耐火物,43〔1〕29−37(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題を解決するために、溶射性にすぐれ、皮膜の性能を向上させ、かつ安価で製造できるスピネル粉末およびその製造方法、溶射膜の製造方法、ならびにガスセンサ素子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電融アルミナにマグネシア原料を混合した後、焼成することにより、溶射性に優れ、かつ特異な形状を持つスピネル粉末が得られることを見出した。
【0011】
また、電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級したのち、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できる。その分級した電融アルミナを使ってマグネシア原料を混合して焼成することでスピネルを生成するので、全体のコストが下がり、かつ、溶射性に優れたスピネル粉末が提供できるのである。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき、以下の発明を提供する。
(1)粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。
(2)粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μmである前記(1)に記載のスピネル粉末。
(3)平均粒径D50が10〜70μmであり、かつ比表面積が0.2〜2m2/gである前記(1)または(2)に記載のスピネル粉末。
(4)アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスピネル粉末。
(5)スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のスピネル粉末。
(6)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とするスピネル粉末の製造方法。
(7)アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である前記(6)に記載のスピネル粉末の製造方法。
(8)電融アルミナの平均粒径D50が7〜70μmであり、かつマグネシア原料の平均粒径D50が1〜10μmである前記(6)または(7)に記載のスピネル粉末の製造方法。
(9)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することを特徴とする溶射膜の製造方法。
(10)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶射性に優れ、かつ、特異な形状を持つスピネル粉末およびその簡便な製造方法を提供することができ、ガスセンサ素子の保護皮膜形成用の溶射粉末等として、センサの特性バラツキ低減に寄与する製造方法を提供することができ、これらの分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×1000倍)を示す。
【図2】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図3】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図4】本発明の実施例2で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図5】電融スピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図6】焼結スピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図7】本発明の実施例1で電融アルミナと酸化マグネシウムを混合した時の顕微鏡写真(×1000倍)を示す。
【図8】本発明の実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図9】本発明の実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真(×50000倍)を示す。
【図10】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)及びMgとAlの分布を表すマップ図を示す。
【図11】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末のXRDパターンを示す。
【図12】本発明の実施例3、4、5に使用したガスセンサ素子の断面図。
【図13】本発明の実施例3、4、5に使用したガスセンサの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明のスピネル粉末及びその製造方法について詳細に説明する。なお、本発明において、「%」とは、特に断りがない場合、「重量%=質量%」を示す。
1.スピネル粉末
本発明のスピネル粉末は、粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とし、粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μm、特に0.3〜3μm、であることが好ましいが、本発明において、上記の大きさの範囲に入らないスピネル粒子がある程度存在しても特に問題はない。
【0016】
本発明のスピネル粉末の代表的な形状を図1(実施例1で得られたスピネル粉末、×1000倍)、図2(実施例1で得られたスピネル粉末、×3000倍)、図3(実施例1で得られたスピネル粉末、×3000倍)および図4(実施例2で得られたスピネル粉末、×3000倍)に示す。
【0017】
図1より、粒状のスピネル粒子は、原料として用いた電融アルミナの表面を覆うように形成されており、図5に示す電融法で製造したスピネル粉末は粒子内部は緻密であるが粒子の表面が平坦である。スピネル粉末には焼結により製造する方法も取られる場合がある。図6に示す焼結法で製造したスピネルには若干表面が凹凸があるように見られるが、この方法で製造したスピネルは粒子内部に気孔及び空孔等が存在し(本発明のスピネル粉末には、これらがなく、粒子内部が緻密である)、溶射時に粒子内部の気孔などを巻き込んでしまって気孔率が大きくなって所望する値が得られないことがある。したがって、本発明においては、焼結スピネルはポーラスな膜が必要な場合にのみ使用することができる。
【0018】
また、図2〜図4からわかるように「粒状」と言っても様々な形状のものが存在し、本発明においては、これらを総称して「粒状」というが、多少の変形等があっても何ら問題はない。
【0019】
さらに、図2〜図4より、大きさが0.1〜4μmの粒状のスピネル粒子が表面に存在し、スピネル粉末は、これらのスピネル粒子で覆われていることがわかる。
【0020】
本発明において、スピネル粉末中のアルミナ含有量は69〜82%で、マグネシア含有量は18〜31%とすることが好ましく、この範囲内であれば、溶射性に優れ、好適な溶射皮膜を形成することができる。
【0021】
すなわち、MgAl2O4で表されるスピネルの理論組成は、アルミナ71.7%、マグネシア28.3%であるが、上記(1)の範囲では、スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[Mg Al2O4(311)]}が0.03以下である。
【0022】
なお、上記アルミナ含有量及びマグネシア含有量は、1600℃×4時間焼成した場合のスピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下となる範囲を実験的に求めた値であるため、分析誤差等も含めて±0.5%程度の誤差があると考えられる。
【0023】
なお、スピネル粉末のX線回折の強度比は、焼成温度(2時間以上焼成すれば平衡状態となる)により変化するため、アルミナ含有量及びマグネシア含有量もそれと共に変化することに注意が必要である。すなわち、1400×4時間焼成した場合では、アルミナ含有量が69.5〜74.0%でマグネシア含有量が26.0〜30.5%、1250×4時間焼成した場合では、アルミナ含有量が71.0〜73.5%でマグネシア含有量が26.5〜29.0%とその範囲が狭くなる。
【0024】
ところで、本発明のスピネル粉末が前記のような特異な形状を持つのは、その製造方法に起因すると考えられ、実施例1で得られた顕微鏡写真をもとに推定すると以下のとおりと考えられる。
【0025】
先ず、図7は、平均粒径20.6μmの電融アルミナと平均粒径7μmの酸化マグネシウムを混合しただけのものの顕微鏡写真(×1000倍)である。これより、比較的大きい電融アルミナが存在し、その周辺に細かい粒状の酸化マグネシウムが単に分散しているだけであることがわかる。
【0026】
すなわち、電融アルミナと酸化マグネシウムを混合してもこれらの粒子間には何らの変化は無く、ただ単に、混合されただけであることがわかる。
【0027】
従って、粒状の酸化マグネシウムは、混合物の内部では、酸化マグネシウム同士の点接触或いは面接触の他に複数の電融アルミナと点接触或いは面接触しており、電融アルミナの表面には上下、左右等に多数の酸化マグネシウムが点接触或いは面接触しているものと考えられる。
【0028】
次に、これを1250℃×4時間焼成すると図1、図2および図3、そして、1400℃×4時間焼成すると図4のようになる。 すなわち、点接触或いは面接触した電融アルミナと酸化マグネシウムは、焼成が進んでいくと、電融アルミナと酸化マグネシウムとの接点から、Mg2+とAl3+が相互に拡散しながらスピネル化が進んでいくものと考えられる。
【0029】
非特許文献1には、山口らによると、MgOとAl2O3の反応におけるスピネルの生成においては、酸素イオンの拡散はほとんどなく、Mg2+とAl3+の両イオンが固定した酸素格子を通って相互拡散すること、又、単結晶Al2O3と単結晶MgOを接触させ、空気中1500℃で加熱処理して生成させたスピネルは、Al2O3側では、生成に際して酸素イオンの積み重ねが六方最密充填から立方最密充填構造へ変化して、Al2O3結晶と三次元的に一定の方位関係を持ったトポタキシャル機構で生成し、又、MgO側では、MgOとスピネルは共に立方最密充填構造の酸素イオン配列を持つにもかかわらず、エピタキシャル機構で生成するとし、MgO側とAl2O3側に生成するスピネル比は1:19/4になる旨の記載があり、スピネルとMgOの境界で起こる反応を
4MgO−3Mg2++2Al3+=MgAl2O4
スピネルとAl2O3の境界で起こる反応を
57/9Al2O3+3Mg2+−2Al3+=19/4(Mg36/57Al128/57O4)
としている。
【0030】
ところで、図8および図9に実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真を示す。図8は3000倍のものであるが、これを見る限りでは、通常の中身の詰まった粒子のように見えるが、図9の50000倍で見ると、0.03〜0.2μmの非常に小さい「粒状」の一次粒子が凝集した二次又は三次の凝集粒子からなっており、気孔の存在も確認できることから、実施例1で用いたマグネシアは、内部に気孔が存在する多孔質体であると考えられる。すなわち、平均粒径D50が7μmであっても、実質的にはもっと小さいものと考えられる。
【0031】
実施例1で用いたマグネシアの表面が非常に小さい粒状であることを考えれば、上記の非特許文献1で記載されているように、アルミナ側では形状及び結晶構造を本質的に保持しながら反応するというトポタキシャル効果が発生し、マグネシア表面の粒状の形状が保持されつつ、マグネシアがその周囲からエピタキシャル的に拡散により供給されると、図2に示すような粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定される。
【0032】
また、平均粒径D50の大きいマグネシアと点接触したアルミナでは、Mg2+とAl3+が相互に拡散しながらスピネル化が進むと共に多孔質体であるマグネシアの凝縮も進むために、生成するスピネル粒子が図3に示すように、あたかも点接触したような状態の粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定され、スピネル粒子の大きさは、最終的に0.1〜4μmとなるのではないかと考えられる。
【0033】
一方、温度を1400℃と高くして焼成した場合には、スピネル粒子同士の融合も進み、また、スピネル粒子内での結晶化も進むため、図4に示すような粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定される。
【0034】
図10に実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)及びMgとAlの分布状況を示す。これより、MgとAlの分布はほぼ均一であり、個々の粒子もスピネルであることがわかる。
【0035】
本発明のスピネル粉末は、平均粒径D50が10〜70μm、好ましくは15〜60μm、特に好ましくは20〜50μmで、比表面積が0.2〜2m2/g、好ましくは0.3〜1.5m2/g、特に好ましくは0.4〜1m2/gである。
【0036】
平均粒径D50が10μm未満では、溶射材としての流れ性を確保できず、70μmを超えるとプラズマ炎による溶融が不安定となるため、好ましくない。
【0037】
また、比表面積がこの範囲内であれば、電融スピネルと比較して、溶射性を改善しつつ、溶射皮膜の特性を維持することができるので好適である。
2.スピネル粉末の製造方法
本発明のスピネル粉末の製造方法は、電融アルミナとマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とする。
【0038】
電融アルミナとマグネシア原料は、生成するスピネル粉末中のアルミナ含有量が69〜82%で、マグネシア含有量が18〜31%となるように混合することが好ましい。この範囲内であれば、溶射性に優れ、好適な溶射皮膜を形成することができるスピネル粉末を製造することができる。
【0039】
電融アルミナとしては、電融されたものであれば得に限定されるものではなく、純度としては99%以上、特には99.5%以上のものが好ましい。電融アルミナの平均粒径D50は、7〜70μm、好ましくは10〜60μmである。この範囲内であれば、製造したスピネル粉末の溶射材としての流れ性を確保しつつ、溶射を行うことができる。
【0040】
マグネシア原料としては、焼成することによりマグネシアになるものであれば、特に限定されるものではないが、マグネシア、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が例示され、マグネシアが工業的に量産化されており、安価であるため好ましく、海水法で製造された反応性の高い軽焼マグネシアが特に好ましい。純度としては、水分と灼熱減量を除き、97.5%以上であることが好ましい。
【0041】
マグネシア原料の平均粒径D50は、1〜10μm、好ましくは2〜8μmである。
この範囲内であれば、電融アルミナと好適に反応し、スピネル粉末を製造することができる。
【0042】
電融アルミナとマグネシア原料を混合する方法は特に限定されず、均一に混合されるものであればどのような装置を用いても良く、V型ミキサー、ロッキングミキサー、リボンミキサー等が例示されるが、V型ミキサーが、構造が簡単で、デッドゾーンが少なく、均一に混合できるため、特に好ましい。
【0043】
本発明においては、電融アルミナにマグネシア原料をコーティングするための分散剤、バインダー等のコーティング助剤を必要としないが、本願発明の目的の範囲内において、必要に応じ用いても良い。
【0044】
次に、電融アルミナとマグネシア原料を混合後、焼成することにより、スピネル粉末とする。
【0045】
焼成温度は、1000〜1600℃、特には、1200〜1400℃が好ましい。1000℃未満では、必要量のマグネシア原料が電融アルミナと反応しきれず、1600℃を超えると焼結が進み、解砕が困難になり、又、溶射材としての流れ性が損なわれるので、好ましくない。
【0046】
焼成時間は、温度にもよるが、通常、1〜6時間である。例えば、1200℃では3時間以上、特には3〜6時間が好ましい。3時間未満では焼成ムラが生じて好ましくない。なお、1400℃では2〜5時間、1600℃では1〜3時間が好ましい。
【0047】
なお、焼成雰囲気については、特に限定は無く、通常、大気圧下で行われる。焼成終了後は、そのままでも良いが、少量のアルミナアエロジル等の表面処理剤を用いて解砕した後、分級処理することが好ましい。
【0048】
また、原料として使用する電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級したのち、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できるため、後工程でマグネシア原料を混合した後に、反応にてスピネル化したとしても、全体のコストを大幅に下げることができて溶射粉を安価に製造できる。また、溶射に適した粒度に予め分級することにより後ほど反応にてスピネルを製造しても粒度は保持できる。従って、品質、コスト共に満足したスピネル粉末が得られる。
3.溶射膜の製造法、並びにガスセンサ素子の製造方法
上述したように、電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することで得られた溶射膜は、従来の電融粉で得られる溶射膜よりも非常に気孔率をバラツキなく安定に製造できる利点がある。その理由は、プラズマ溶射は5000℃以上のプラズマフレームにスピネル粉末を投入して非常に短い滞留時間の中で溶融させて素子表面に成膜するものであり、本発明の方法で製造したスピネル粒子は、好適には粒子内部が緻密で粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴としており、プラズマフレームの熱を安定に受熱できる特徴がある。その結果としてガスセンサの特性にバラツキを大幅に抑えることができる。
【0049】
電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級した後、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できるため、後工程でマグネシア原料を混合した後に、反応にてスピネル化したとしても、全体のコストを大幅に下げることができて溶射粉を安価に製造できるからである。また、溶射に適した粒度に予め分級することにより後ほど反応にてスピネルを製造しても粒度は保持できる。従って、品質、コスト共に満足した溶射膜が得られる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これらの実施例の態様に限定されるものではない。
【0051】
実施例中における各物性は以下の方法により測定した。
(1)平均粒径D50
レーザー回折散乱装置(堀場製作所製LA−950)で測定した。なお、本発明において、平均粒径D50とは測定した粒子径分布の累積頻度が50体積%となる粒子径をいう。
(2)比表面積
比表面積計(島津製作所製「FlowsorbII2300」)を用い、BET法により測定した。
(実施例1)
純度99.5%以上で、平均粒径20.6μmの電融アルミナ(宇治電化学工業株式会社製、WA#800)3.67kgと純度97.5%以上(水分及び灼熱減量除き)で平均粒径7.0μmの酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製、スターマグU)1.38kgを10LのV型混合機に入れ、30分間、混合を行った。これを1250℃×4時間、大気圧下で焼成を行い、スピネル粉末を得た。
【0052】
このスピネル粉末とアルミナアエロジル20gをV型混合機に入れ、30分間、混合・解砕を行い、90μmのスクリーンで篩い、最終製品としてのスピネル粉末を得た。
得られたスピネル粉末のかさ比重は1.27g/cm3、平均粒径D50は26.8μmでD90は39.8μm、D10は18.4μmであった。
又、比表面積は0.7m2/gであった。なお、電融スピネル粉末の比表面積は0.1m2/g程度であるので、約7倍の比表面積のものが得られていることが判る。
図11にXRDパターンを示す。これより、若干のコランダムが認められるもののペリクレースは認められず、ほぼ完全なスピネルが生成していることがわかる。なお、X線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}は、0.013であった。
(実施例2)
焼成を1400℃で行った以外は、実施例1と同様にしてスピネル粉末を得た。得られたスピネル粉末のかさ比重は1.30g/cm3、平均粒径D50は26.5μmでD90は37.8μm、D10は18.1μmであった。
又、比表面積は0.3m2/gであった。
(実施例3)
【0053】
実施例1で示された粉末を使用してガスセンサの素子に溶射した実施例を示す。本発明のガスセンサ素子及びこれを内蔵したガスセンサに係る実施例について、図16〜図17とともに説明する。
【0054】
本例のガスセンサの素子2は、図12に示すように、有底筒状の酸素イオン伝導性の固体電解質体21と、この固体電解質体21の内側面212に配される基準電極22と、固体電解質体21の外側面213に配される測定電極23と、固体電解質体21の外側面213を測定電極23ごと覆うとともに被測定ガスを透過させる保護層24とを有するガスセンサ2を内蔵している。
【0055】
そして、ガスセンサ素子2の先端側には、図12に示すように、このガスセンサ素子の軸方向に平行な断面である軸断面Sにおける輪郭線が直線である脚部202と、上記輪郭線が曲線である底部201とが形成されている。
【0056】
以下、詳細に説明する。 本例のガスセンサは、図13に示すように、上記ガスセンサ素子2のほか、固体電解質体21の内側に挿通され通電により発熱するヒータ11と、ガスセンサ素子2を内側に挿通保持するハウジング12と、ハウジング12の基端側に配設されガスセンサ素子2の基端側を覆う大気側カバー13と、ハウジング12の先端側に配設されガスセンサ素子2の先端側を覆う素子カバー14とを有する。
【0057】
さらにまた、ガスセンサ1は、ガスセンサ素子2の基端側を覆うように配設される大気側絶縁碍子17と、大気側カバー13の基端側に配されるブッシュ15と、このブッシュ15の内側に挿通されるリード線16と、このリード線16に接続されヒータ11及びガスセンサ素子2に電気的に接続された接点金具18とを有する。
【0058】
素子カバー14は、図13に示すように、その底面部及び側面部にガス導入孔143を有している。 具体的には、素子カバー6は、二重カバーとなっており、外側カバー141と内側カバー142とがハウジング12の先端部においてかしめられている。 そして、外側カバー141に設けられたガス導入孔143から外側カバー141と内側カバー142との間に導入された被測定ガスが、さらに内側カバー142に設けられたガス導入孔143から素子カバー14の内部へと導入される。 この内側カバー142には、保護層24の底部201よりもさらに先端側にガス導入孔143が形成されている。
【0059】
次に、上記ガスセンサ1に内蔵される酸素濃度センサ素子2について詳細に説明する。
【0060】
ガスセンサ素子2としては、自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置して、排気ガスフィードバックシステムに使用する空燃比センサに内蔵する全域空燃比センサ素子、排気ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサ素子である。ガスセンサ素子2は、上述したように、固体電解質体21、基準電極22、測定電極23、及び保護層24のほか、この保護層24の外表面を覆うトラップ層25とを有する。 なお、トラップ層25は、γアルミナ、θアルミナなどの他、ジルコニアやチタニアなどを主成分とする金属酸化物を用いて形成することができる。 なお、トラップ層25は、ガスセンサ素子2を浸漬することによって形成することができる。
【0061】
本例は、表1に示すごとく従来技術の溶射粉(電融品)と本発明にかかる溶射粉(開発品)とを用いて保護膜を形成したガスセンサ素子である試料1〜10について評価したものである。
【0062】
本例におけるスピネル粉末について説明する。気孔率を所望の値に入れるために、種々の平均粒度を狙った溶射粉を準備した。粒度バラツキも重要であるので、それぞれ中心粒径に対して±50%内の粒度の粒子が80%以上の溶射粉を準備した。
【0063】
本例におけるプラズマ溶射により保護膜を施工する試験条件について説明する。プラズマ溶射ガン(F4MB:スルザーメテコ社製)を用いて1次作動ガス(Ar)流量16SLM、2次作動ガス(N2)流量12SLMが流れるところに電流425A、電圧60Vを印加して発生させたプラズマジェットに溶射粉を20g/minで供給して熔融させて長手方向を軸として500rpmで回転するガスセンサ素子に吹付ける。このとき溶射ガンの噴出口からガスセンサ素子の距離を110mmとして膜厚300μmを狙って各水準で30本のガスセンサ素子に保護膜を形成した。
【0064】
次に、本例の評価項目、方法と判定基準について説明する。膜厚はガスセンサ素子の先端から5mmの位置をレーザー変位計(キーエンス社製)で測定し膜厚ばらつきが300±30μmに全て入れば○とした。また、気孔率は水銀圧入法(オートポア:島津製作所製)を用いて評価し狙い値に対して平均値が±10%以内であれば○とした。また、歩留りは100×(保護膜の重量)/(溶射粉の供給量)で算出し5%以上を○とした。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成する中で、粒度範囲が10μm〜70μmであれば、従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、ガスセンサにとって重要な特性である気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りにおいて良好な結果が得られることがわかる。
【0067】
以下の実施例4、5においては、ガスセンサとしての効果を検証した。自動車に搭載されるガスセンサは排気中の酸素濃度を検出してフィードバックし燃料と空気の混合割合を制御する排気ガス浄化システムの一部として使用される。自動車メーカー毎に異なる排ガス浄化システムに対応するにはそのシステムに対応する応答性のガスセンサが必要になる。したがって、応答性が比較的遅いガスセンサ(実施例4)、比較的速いガスセンサ(実施例5)でセンサの特性のバラツキを評価した。
(実施例4)
実施例3と同様の溶射条件でD50が26.5μmの従来の電融粉と実施例1のD50が26.8μmの開発粉を用いて300μmの保護膜を形成しセンサの特性とその変動率を比較した。このとき、センサ特性は、センサ素子検出部を400℃に加熱した状態でリッチ雰囲気、リーン雰囲気の実車模擬ガスをそれぞれ交互に供給して、センサ出力を調べたときの周期を応答時間として測定し応答時間が2.0秒以下であって、各水準で30本の値が5%以内のものを○とした。なお、上記実車模擬ガスとしては、リッチガスとしてCO、CH4、C3H8がλ=0.99となるよう供給し、リーンガスとしてO2、NOがλ=1.01となるよう供給した。また、特性変化率は実機にて耐久時件950℃、1500時間の耐久試験を実施し、初期と耐久後の変化率が5%以内であれば○とした。尚、気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りについては実施例3と同様に評価した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、粒度範囲がおよそ26μmの溶射原料を使用して300μmの保護膜を形成するガスセンサにおいて電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使うと従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、応答性のバラツキが大幅に低減して、かつ安価に製造できることがわかった。
(実施例5)
実施例4と同様の溶射条件でD50が40.5μmの従来の電融粉と実施例1のD50が40.1μmの開発粉を用いて100μmの保護膜を形成し実施例5と同様の比較を実施した。
【0070】
このとき、センサ特性は、センサ素子検出部を400℃に加熱した状態で、リッチ雰囲気、リーン雰囲気の実車模擬ガスをそれぞれ交互に供給して、センサ出力を調べたときの周期を応答時間として測定し応答時間が1.2秒以下であって、各水準で30本の値が5%以内のものを○とした。なお、上記実車模擬ガスとしては、リッチガスとしてCO、CH4、C3H8がλ=0.99となるよう供給し、リーンガスとしてO2、NOがλ=1.01となるよう供給した。尚、気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りについては実施例3と同様に評価した。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、粒度範囲がおよそ40μmの溶射原料を使用して100μmの保護膜を形成するガスセンサにおいて電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使うと従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、応答性のバラツキが大幅に低減して、かつガスセンサ素子を安価に製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、溶射性に優れ、かつ、特異な形状を持つスピネル粉末およびその簡便な製造方法を提供することができ、ガスセンサ素子の保護皮膜形成用の溶射粉末等として、センサの特性バラツキ低減に寄与する製造方法を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル粉末およびその製造方法、溶射膜の製造方法、ならびにガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアとアルミナとからなるスピネル(MgO・Al2O3系スピネル)(以下、単に「スピネル」という。)は、高い耐熱性、高い結晶安定性を持っていることから、その応用例として内燃機関酸素濃度を検出するためのガスセンサ素子の電極保護膜として古くから使用されている。たとえば、特許文献1に記載されているようなガスセンサ素子がよく知られており、酸素センサ素子の電極保護膜としてスピネル粉末を使用したプラズマ溶射膜が使用されている。酸素センサ素子は、内部に基準ガス室が設けてあるコップ型の固体電解質体と、その固体電解質体の外側面に設け、かつ被測定ガスと接触する測定電極と、上記固体電解質体の内側面に設けた基準電極とよりなる。また、測定電極の外側にはスピネル粉末を使用したプラズマ溶射膜が保護膜として設置されている。また、酸素センサ素子において、上記基準ガス室には通電により発熱するヒータが挿入配置されている。上記酸素センサ素子はある一定以上の温度に達しないと酸素濃度を検出することができない。ヒータの加熱により酸素センサ素子は外部雰囲気温度が低い状態であっても酸素ガス濃度を測定することができる。その検出する機構は、排気ガスがプラズマ溶射膜を拡散して電極に到達してその電極上で反応することで出力を発生するものである。
【0003】
しかしながら、従来の酸素センサ素子には以下に示す問題点があった。つまり、プラズマ溶射は5000℃以上のプラズマフレームにスピネル粉末を投入して非常に短い滞留時間の中で溶融させて素子表面に成膜するものであり、安定してスピネルが溶融せずに、溶射膜の気孔率のバラツキが生じていた。それために、センサの応答性にバラツキが生じるという問題がある。気孔率がバラツク要因はプラズマ炎の安定性などの要因もあるが、スピネル粉末の粒子形状の問題もある。スピネル粉末は平坦な面であり、高温のプラズマフレームからの熱を一瞬で受けるために、受熱の効率が悪くて溶融性にバラツキが生じると考えられる。その結果としてガスセンサの特性にバラツキが生じる。
【0004】
上述したスピネル粉末の表面の特徴は、その製造法に起因する。スピネル粉末は以下のように製造される。アルミナ原料粉末とマグネシア原料粉末を一旦電気炉にて加熱して溶かし、一旦反応凝固させてスピネルを生成させた後、所定の粒径に粉砕分級したものである。その粉砕は機械的な衝撃により破砕される。それ故に、破砕応力にて割れた表面となり、平坦になるのである。
【0005】
溶射で安定的に使用するためには、粒度を溶射に合うように調整したスピネル粉末が使用される。粒度の調整は、電融法にて製造したスピネルを粉砕して、その後、分級操作により所定の粒度範囲に入った粉末のみを使用するために、粒度が外れた粉末は廃却されるために溶射用の粉末のコストは高くなってしまうという問題がある。
【0006】
また、今後の排出ガス規制に対応するためには、精密に制御することが求められており、ガスセンサとしては特性のバラツキおよび耐久の特性変動を抑える必要が生じている。従来構造にかかるガスセンサ素子ではこのような要求に応えることが難しかった。なお、非特許文献1には、スピネルの生成機構が記載されており、これについては、後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開2008−286810
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】江副正信,耐火物,43〔1〕29−37(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題を解決するために、溶射性にすぐれ、皮膜の性能を向上させ、かつ安価で製造できるスピネル粉末およびその製造方法、溶射膜の製造方法、ならびにガスセンサ素子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電融アルミナにマグネシア原料を混合した後、焼成することにより、溶射性に優れ、かつ特異な形状を持つスピネル粉末が得られることを見出した。
【0011】
また、電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級したのち、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できる。その分級した電融アルミナを使ってマグネシア原料を混合して焼成することでスピネルを生成するので、全体のコストが下がり、かつ、溶射性に優れたスピネル粉末が提供できるのである。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき、以下の発明を提供する。
(1)粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。
(2)粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μmである前記(1)に記載のスピネル粉末。
(3)平均粒径D50が10〜70μmであり、かつ比表面積が0.2〜2m2/gである前記(1)または(2)に記載のスピネル粉末。
(4)アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスピネル粉末。
(5)スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のスピネル粉末。
(6)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とするスピネル粉末の製造方法。
(7)アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である前記(6)に記載のスピネル粉末の製造方法。
(8)電融アルミナの平均粒径D50が7〜70μmであり、かつマグネシア原料の平均粒径D50が1〜10μmである前記(6)または(7)に記載のスピネル粉末の製造方法。
(9)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することを特徴とする溶射膜の製造方法。
(10)電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶射性に優れ、かつ、特異な形状を持つスピネル粉末およびその簡便な製造方法を提供することができ、ガスセンサ素子の保護皮膜形成用の溶射粉末等として、センサの特性バラツキ低減に寄与する製造方法を提供することができ、これらの分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×1000倍)を示す。
【図2】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図3】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図4】本発明の実施例2で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図5】電融スピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図6】焼結スピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図7】本発明の実施例1で電融アルミナと酸化マグネシウムを混合した時の顕微鏡写真(×1000倍)を示す。
【図8】本発明の実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真(×3000倍)を示す。
【図9】本発明の実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真(×50000倍)を示す。
【図10】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)及びMgとAlの分布を表すマップ図を示す。
【図11】本発明の実施例1で得られたスピネル粉末のXRDパターンを示す。
【図12】本発明の実施例3、4、5に使用したガスセンサ素子の断面図。
【図13】本発明の実施例3、4、5に使用したガスセンサの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明のスピネル粉末及びその製造方法について詳細に説明する。なお、本発明において、「%」とは、特に断りがない場合、「重量%=質量%」を示す。
1.スピネル粉末
本発明のスピネル粉末は、粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とし、粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μm、特に0.3〜3μm、であることが好ましいが、本発明において、上記の大きさの範囲に入らないスピネル粒子がある程度存在しても特に問題はない。
【0016】
本発明のスピネル粉末の代表的な形状を図1(実施例1で得られたスピネル粉末、×1000倍)、図2(実施例1で得られたスピネル粉末、×3000倍)、図3(実施例1で得られたスピネル粉末、×3000倍)および図4(実施例2で得られたスピネル粉末、×3000倍)に示す。
【0017】
図1より、粒状のスピネル粒子は、原料として用いた電融アルミナの表面を覆うように形成されており、図5に示す電融法で製造したスピネル粉末は粒子内部は緻密であるが粒子の表面が平坦である。スピネル粉末には焼結により製造する方法も取られる場合がある。図6に示す焼結法で製造したスピネルには若干表面が凹凸があるように見られるが、この方法で製造したスピネルは粒子内部に気孔及び空孔等が存在し(本発明のスピネル粉末には、これらがなく、粒子内部が緻密である)、溶射時に粒子内部の気孔などを巻き込んでしまって気孔率が大きくなって所望する値が得られないことがある。したがって、本発明においては、焼結スピネルはポーラスな膜が必要な場合にのみ使用することができる。
【0018】
また、図2〜図4からわかるように「粒状」と言っても様々な形状のものが存在し、本発明においては、これらを総称して「粒状」というが、多少の変形等があっても何ら問題はない。
【0019】
さらに、図2〜図4より、大きさが0.1〜4μmの粒状のスピネル粒子が表面に存在し、スピネル粉末は、これらのスピネル粒子で覆われていることがわかる。
【0020】
本発明において、スピネル粉末中のアルミナ含有量は69〜82%で、マグネシア含有量は18〜31%とすることが好ましく、この範囲内であれば、溶射性に優れ、好適な溶射皮膜を形成することができる。
【0021】
すなわち、MgAl2O4で表されるスピネルの理論組成は、アルミナ71.7%、マグネシア28.3%であるが、上記(1)の範囲では、スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[Mg Al2O4(311)]}が0.03以下である。
【0022】
なお、上記アルミナ含有量及びマグネシア含有量は、1600℃×4時間焼成した場合のスピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下となる範囲を実験的に求めた値であるため、分析誤差等も含めて±0.5%程度の誤差があると考えられる。
【0023】
なお、スピネル粉末のX線回折の強度比は、焼成温度(2時間以上焼成すれば平衡状態となる)により変化するため、アルミナ含有量及びマグネシア含有量もそれと共に変化することに注意が必要である。すなわち、1400×4時間焼成した場合では、アルミナ含有量が69.5〜74.0%でマグネシア含有量が26.0〜30.5%、1250×4時間焼成した場合では、アルミナ含有量が71.0〜73.5%でマグネシア含有量が26.5〜29.0%とその範囲が狭くなる。
【0024】
ところで、本発明のスピネル粉末が前記のような特異な形状を持つのは、その製造方法に起因すると考えられ、実施例1で得られた顕微鏡写真をもとに推定すると以下のとおりと考えられる。
【0025】
先ず、図7は、平均粒径20.6μmの電融アルミナと平均粒径7μmの酸化マグネシウムを混合しただけのものの顕微鏡写真(×1000倍)である。これより、比較的大きい電融アルミナが存在し、その周辺に細かい粒状の酸化マグネシウムが単に分散しているだけであることがわかる。
【0026】
すなわち、電融アルミナと酸化マグネシウムを混合してもこれらの粒子間には何らの変化は無く、ただ単に、混合されただけであることがわかる。
【0027】
従って、粒状の酸化マグネシウムは、混合物の内部では、酸化マグネシウム同士の点接触或いは面接触の他に複数の電融アルミナと点接触或いは面接触しており、電融アルミナの表面には上下、左右等に多数の酸化マグネシウムが点接触或いは面接触しているものと考えられる。
【0028】
次に、これを1250℃×4時間焼成すると図1、図2および図3、そして、1400℃×4時間焼成すると図4のようになる。 すなわち、点接触或いは面接触した電融アルミナと酸化マグネシウムは、焼成が進んでいくと、電融アルミナと酸化マグネシウムとの接点から、Mg2+とAl3+が相互に拡散しながらスピネル化が進んでいくものと考えられる。
【0029】
非特許文献1には、山口らによると、MgOとAl2O3の反応におけるスピネルの生成においては、酸素イオンの拡散はほとんどなく、Mg2+とAl3+の両イオンが固定した酸素格子を通って相互拡散すること、又、単結晶Al2O3と単結晶MgOを接触させ、空気中1500℃で加熱処理して生成させたスピネルは、Al2O3側では、生成に際して酸素イオンの積み重ねが六方最密充填から立方最密充填構造へ変化して、Al2O3結晶と三次元的に一定の方位関係を持ったトポタキシャル機構で生成し、又、MgO側では、MgOとスピネルは共に立方最密充填構造の酸素イオン配列を持つにもかかわらず、エピタキシャル機構で生成するとし、MgO側とAl2O3側に生成するスピネル比は1:19/4になる旨の記載があり、スピネルとMgOの境界で起こる反応を
4MgO−3Mg2++2Al3+=MgAl2O4
スピネルとAl2O3の境界で起こる反応を
57/9Al2O3+3Mg2+−2Al3+=19/4(Mg36/57Al128/57O4)
としている。
【0030】
ところで、図8および図9に実施例1で用いたマグネシアの顕微鏡写真を示す。図8は3000倍のものであるが、これを見る限りでは、通常の中身の詰まった粒子のように見えるが、図9の50000倍で見ると、0.03〜0.2μmの非常に小さい「粒状」の一次粒子が凝集した二次又は三次の凝集粒子からなっており、気孔の存在も確認できることから、実施例1で用いたマグネシアは、内部に気孔が存在する多孔質体であると考えられる。すなわち、平均粒径D50が7μmであっても、実質的にはもっと小さいものと考えられる。
【0031】
実施例1で用いたマグネシアの表面が非常に小さい粒状であることを考えれば、上記の非特許文献1で記載されているように、アルミナ側では形状及び結晶構造を本質的に保持しながら反応するというトポタキシャル効果が発生し、マグネシア表面の粒状の形状が保持されつつ、マグネシアがその周囲からエピタキシャル的に拡散により供給されると、図2に示すような粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定される。
【0032】
また、平均粒径D50の大きいマグネシアと点接触したアルミナでは、Mg2+とAl3+が相互に拡散しながらスピネル化が進むと共に多孔質体であるマグネシアの凝縮も進むために、生成するスピネル粒子が図3に示すように、あたかも点接触したような状態の粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定され、スピネル粒子の大きさは、最終的に0.1〜4μmとなるのではないかと考えられる。
【0033】
一方、温度を1400℃と高くして焼成した場合には、スピネル粒子同士の融合も進み、また、スピネル粒子内での結晶化も進むため、図4に示すような粒状のスピネル粒子で覆われたスピネル粉末が得られるのではないかと推定される。
【0034】
図10に実施例1で得られたスピネル粉末の顕微鏡写真(×3000倍)及びMgとAlの分布状況を示す。これより、MgとAlの分布はほぼ均一であり、個々の粒子もスピネルであることがわかる。
【0035】
本発明のスピネル粉末は、平均粒径D50が10〜70μm、好ましくは15〜60μm、特に好ましくは20〜50μmで、比表面積が0.2〜2m2/g、好ましくは0.3〜1.5m2/g、特に好ましくは0.4〜1m2/gである。
【0036】
平均粒径D50が10μm未満では、溶射材としての流れ性を確保できず、70μmを超えるとプラズマ炎による溶融が不安定となるため、好ましくない。
【0037】
また、比表面積がこの範囲内であれば、電融スピネルと比較して、溶射性を改善しつつ、溶射皮膜の特性を維持することができるので好適である。
2.スピネル粉末の製造方法
本発明のスピネル粉末の製造方法は、電融アルミナとマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とする。
【0038】
電融アルミナとマグネシア原料は、生成するスピネル粉末中のアルミナ含有量が69〜82%で、マグネシア含有量が18〜31%となるように混合することが好ましい。この範囲内であれば、溶射性に優れ、好適な溶射皮膜を形成することができるスピネル粉末を製造することができる。
【0039】
電融アルミナとしては、電融されたものであれば得に限定されるものではなく、純度としては99%以上、特には99.5%以上のものが好ましい。電融アルミナの平均粒径D50は、7〜70μm、好ましくは10〜60μmである。この範囲内であれば、製造したスピネル粉末の溶射材としての流れ性を確保しつつ、溶射を行うことができる。
【0040】
マグネシア原料としては、焼成することによりマグネシアになるものであれば、特に限定されるものではないが、マグネシア、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が例示され、マグネシアが工業的に量産化されており、安価であるため好ましく、海水法で製造された反応性の高い軽焼マグネシアが特に好ましい。純度としては、水分と灼熱減量を除き、97.5%以上であることが好ましい。
【0041】
マグネシア原料の平均粒径D50は、1〜10μm、好ましくは2〜8μmである。
この範囲内であれば、電融アルミナと好適に反応し、スピネル粉末を製造することができる。
【0042】
電融アルミナとマグネシア原料を混合する方法は特に限定されず、均一に混合されるものであればどのような装置を用いても良く、V型ミキサー、ロッキングミキサー、リボンミキサー等が例示されるが、V型ミキサーが、構造が簡単で、デッドゾーンが少なく、均一に混合できるため、特に好ましい。
【0043】
本発明においては、電融アルミナにマグネシア原料をコーティングするための分散剤、バインダー等のコーティング助剤を必要としないが、本願発明の目的の範囲内において、必要に応じ用いても良い。
【0044】
次に、電融アルミナとマグネシア原料を混合後、焼成することにより、スピネル粉末とする。
【0045】
焼成温度は、1000〜1600℃、特には、1200〜1400℃が好ましい。1000℃未満では、必要量のマグネシア原料が電融アルミナと反応しきれず、1600℃を超えると焼結が進み、解砕が困難になり、又、溶射材としての流れ性が損なわれるので、好ましくない。
【0046】
焼成時間は、温度にもよるが、通常、1〜6時間である。例えば、1200℃では3時間以上、特には3〜6時間が好ましい。3時間未満では焼成ムラが生じて好ましくない。なお、1400℃では2〜5時間、1600℃では1〜3時間が好ましい。
【0047】
なお、焼成雰囲気については、特に限定は無く、通常、大気圧下で行われる。焼成終了後は、そのままでも良いが、少量のアルミナアエロジル等の表面処理剤を用いて解砕した後、分級処理することが好ましい。
【0048】
また、原料として使用する電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級したのち、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できるため、後工程でマグネシア原料を混合した後に、反応にてスピネル化したとしても、全体のコストを大幅に下げることができて溶射粉を安価に製造できる。また、溶射に適した粒度に予め分級することにより後ほど反応にてスピネルを製造しても粒度は保持できる。従って、品質、コスト共に満足したスピネル粉末が得られる。
3.溶射膜の製造法、並びにガスセンサ素子の製造方法
上述したように、電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することで得られた溶射膜は、従来の電融粉で得られる溶射膜よりも非常に気孔率をバラツキなく安定に製造できる利点がある。その理由は、プラズマ溶射は5000℃以上のプラズマフレームにスピネル粉末を投入して非常に短い滞留時間の中で溶融させて素子表面に成膜するものであり、本発明の方法で製造したスピネル粒子は、好適には粒子内部が緻密で粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴としており、プラズマフレームの熱を安定に受熱できる特徴がある。その結果としてガスセンサの特性にバラツキを大幅に抑えることができる。
【0049】
電融アルミナは研磨材や耐火物など用途が非常に広く、そのために溶射用に分級した後、使えなくなった粉末を別用途で利用できるため、電融アルミナは非常に安く利用できるため、後工程でマグネシア原料を混合した後に、反応にてスピネル化したとしても、全体のコストを大幅に下げることができて溶射粉を安価に製造できるからである。また、溶射に適した粒度に予め分級することにより後ほど反応にてスピネルを製造しても粒度は保持できる。従って、品質、コスト共に満足した溶射膜が得られる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これらの実施例の態様に限定されるものではない。
【0051】
実施例中における各物性は以下の方法により測定した。
(1)平均粒径D50
レーザー回折散乱装置(堀場製作所製LA−950)で測定した。なお、本発明において、平均粒径D50とは測定した粒子径分布の累積頻度が50体積%となる粒子径をいう。
(2)比表面積
比表面積計(島津製作所製「FlowsorbII2300」)を用い、BET法により測定した。
(実施例1)
純度99.5%以上で、平均粒径20.6μmの電融アルミナ(宇治電化学工業株式会社製、WA#800)3.67kgと純度97.5%以上(水分及び灼熱減量除き)で平均粒径7.0μmの酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製、スターマグU)1.38kgを10LのV型混合機に入れ、30分間、混合を行った。これを1250℃×4時間、大気圧下で焼成を行い、スピネル粉末を得た。
【0052】
このスピネル粉末とアルミナアエロジル20gをV型混合機に入れ、30分間、混合・解砕を行い、90μmのスクリーンで篩い、最終製品としてのスピネル粉末を得た。
得られたスピネル粉末のかさ比重は1.27g/cm3、平均粒径D50は26.8μmでD90は39.8μm、D10は18.4μmであった。
又、比表面積は0.7m2/gであった。なお、電融スピネル粉末の比表面積は0.1m2/g程度であるので、約7倍の比表面積のものが得られていることが判る。
図11にXRDパターンを示す。これより、若干のコランダムが認められるもののペリクレースは認められず、ほぼ完全なスピネルが生成していることがわかる。なお、X線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}は、0.013であった。
(実施例2)
焼成を1400℃で行った以外は、実施例1と同様にしてスピネル粉末を得た。得られたスピネル粉末のかさ比重は1.30g/cm3、平均粒径D50は26.5μmでD90は37.8μm、D10は18.1μmであった。
又、比表面積は0.3m2/gであった。
(実施例3)
【0053】
実施例1で示された粉末を使用してガスセンサの素子に溶射した実施例を示す。本発明のガスセンサ素子及びこれを内蔵したガスセンサに係る実施例について、図16〜図17とともに説明する。
【0054】
本例のガスセンサの素子2は、図12に示すように、有底筒状の酸素イオン伝導性の固体電解質体21と、この固体電解質体21の内側面212に配される基準電極22と、固体電解質体21の外側面213に配される測定電極23と、固体電解質体21の外側面213を測定電極23ごと覆うとともに被測定ガスを透過させる保護層24とを有するガスセンサ2を内蔵している。
【0055】
そして、ガスセンサ素子2の先端側には、図12に示すように、このガスセンサ素子の軸方向に平行な断面である軸断面Sにおける輪郭線が直線である脚部202と、上記輪郭線が曲線である底部201とが形成されている。
【0056】
以下、詳細に説明する。 本例のガスセンサは、図13に示すように、上記ガスセンサ素子2のほか、固体電解質体21の内側に挿通され通電により発熱するヒータ11と、ガスセンサ素子2を内側に挿通保持するハウジング12と、ハウジング12の基端側に配設されガスセンサ素子2の基端側を覆う大気側カバー13と、ハウジング12の先端側に配設されガスセンサ素子2の先端側を覆う素子カバー14とを有する。
【0057】
さらにまた、ガスセンサ1は、ガスセンサ素子2の基端側を覆うように配設される大気側絶縁碍子17と、大気側カバー13の基端側に配されるブッシュ15と、このブッシュ15の内側に挿通されるリード線16と、このリード線16に接続されヒータ11及びガスセンサ素子2に電気的に接続された接点金具18とを有する。
【0058】
素子カバー14は、図13に示すように、その底面部及び側面部にガス導入孔143を有している。 具体的には、素子カバー6は、二重カバーとなっており、外側カバー141と内側カバー142とがハウジング12の先端部においてかしめられている。 そして、外側カバー141に設けられたガス導入孔143から外側カバー141と内側カバー142との間に導入された被測定ガスが、さらに内側カバー142に設けられたガス導入孔143から素子カバー14の内部へと導入される。 この内側カバー142には、保護層24の底部201よりもさらに先端側にガス導入孔143が形成されている。
【0059】
次に、上記ガスセンサ1に内蔵される酸素濃度センサ素子2について詳細に説明する。
【0060】
ガスセンサ素子2としては、自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置して、排気ガスフィードバックシステムに使用する空燃比センサに内蔵する全域空燃比センサ素子、排気ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサ素子である。ガスセンサ素子2は、上述したように、固体電解質体21、基準電極22、測定電極23、及び保護層24のほか、この保護層24の外表面を覆うトラップ層25とを有する。 なお、トラップ層25は、γアルミナ、θアルミナなどの他、ジルコニアやチタニアなどを主成分とする金属酸化物を用いて形成することができる。 なお、トラップ層25は、ガスセンサ素子2を浸漬することによって形成することができる。
【0061】
本例は、表1に示すごとく従来技術の溶射粉(電融品)と本発明にかかる溶射粉(開発品)とを用いて保護膜を形成したガスセンサ素子である試料1〜10について評価したものである。
【0062】
本例におけるスピネル粉末について説明する。気孔率を所望の値に入れるために、種々の平均粒度を狙った溶射粉を準備した。粒度バラツキも重要であるので、それぞれ中心粒径に対して±50%内の粒度の粒子が80%以上の溶射粉を準備した。
【0063】
本例におけるプラズマ溶射により保護膜を施工する試験条件について説明する。プラズマ溶射ガン(F4MB:スルザーメテコ社製)を用いて1次作動ガス(Ar)流量16SLM、2次作動ガス(N2)流量12SLMが流れるところに電流425A、電圧60Vを印加して発生させたプラズマジェットに溶射粉を20g/minで供給して熔融させて長手方向を軸として500rpmで回転するガスセンサ素子に吹付ける。このとき溶射ガンの噴出口からガスセンサ素子の距離を110mmとして膜厚300μmを狙って各水準で30本のガスセンサ素子に保護膜を形成した。
【0064】
次に、本例の評価項目、方法と判定基準について説明する。膜厚はガスセンサ素子の先端から5mmの位置をレーザー変位計(キーエンス社製)で測定し膜厚ばらつきが300±30μmに全て入れば○とした。また、気孔率は水銀圧入法(オートポア:島津製作所製)を用いて評価し狙い値に対して平均値が±10%以内であれば○とした。また、歩留りは100×(保護膜の重量)/(溶射粉の供給量)で算出し5%以上を○とした。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成する中で、粒度範囲が10μm〜70μmであれば、従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、ガスセンサにとって重要な特性である気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りにおいて良好な結果が得られることがわかる。
【0067】
以下の実施例4、5においては、ガスセンサとしての効果を検証した。自動車に搭載されるガスセンサは排気中の酸素濃度を検出してフィードバックし燃料と空気の混合割合を制御する排気ガス浄化システムの一部として使用される。自動車メーカー毎に異なる排ガス浄化システムに対応するにはそのシステムに対応する応答性のガスセンサが必要になる。したがって、応答性が比較的遅いガスセンサ(実施例4)、比較的速いガスセンサ(実施例5)でセンサの特性のバラツキを評価した。
(実施例4)
実施例3と同様の溶射条件でD50が26.5μmの従来の電融粉と実施例1のD50が26.8μmの開発粉を用いて300μmの保護膜を形成しセンサの特性とその変動率を比較した。このとき、センサ特性は、センサ素子検出部を400℃に加熱した状態でリッチ雰囲気、リーン雰囲気の実車模擬ガスをそれぞれ交互に供給して、センサ出力を調べたときの周期を応答時間として測定し応答時間が2.0秒以下であって、各水準で30本の値が5%以内のものを○とした。なお、上記実車模擬ガスとしては、リッチガスとしてCO、CH4、C3H8がλ=0.99となるよう供給し、リーンガスとしてO2、NOがλ=1.01となるよう供給した。また、特性変化率は実機にて耐久時件950℃、1500時間の耐久試験を実施し、初期と耐久後の変化率が5%以内であれば○とした。尚、気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りについては実施例3と同様に評価した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、粒度範囲がおよそ26μmの溶射原料を使用して300μmの保護膜を形成するガスセンサにおいて電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使うと従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、応答性のバラツキが大幅に低減して、かつ安価に製造できることがわかった。
(実施例5)
実施例4と同様の溶射条件でD50が40.5μmの従来の電融粉と実施例1のD50が40.1μmの開発粉を用いて100μmの保護膜を形成し実施例5と同様の比較を実施した。
【0070】
このとき、センサ特性は、センサ素子検出部を400℃に加熱した状態で、リッチ雰囲気、リーン雰囲気の実車模擬ガスをそれぞれ交互に供給して、センサ出力を調べたときの周期を応答時間として測定し応答時間が1.2秒以下であって、各水準で30本の値が5%以内のものを○とした。なお、上記実車模擬ガスとしては、リッチガスとしてCO、CH4、C3H8がλ=0.99となるよう供給し、リーンガスとしてO2、NOがλ=1.01となるよう供給した。尚、気孔率、膜厚バラツキ、材料歩留りについては実施例3と同様に評価した。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、粒度範囲がおよそ40μmの溶射原料を使用して100μmの保護膜を形成するガスセンサにおいて電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使うと従来の電融粉を使用した保護膜に比べて、応答性のバラツキが大幅に低減して、かつガスセンサ素子を安価に製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、溶射性に優れ、かつ、特異な形状を持つスピネル粉末およびその簡便な製造方法を提供することができ、ガスセンサ素子の保護皮膜形成用の溶射粉末等として、センサの特性バラツキ低減に寄与する製造方法を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。
【請求項2】
粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μmである請求項1に記載のスピネル粉末。
【請求項3】
平均粒径D50が10〜70μmであり、かつ比表面積が0.2〜2m2/gである請求項1または2に記載のスピネル粉末。
【請求項4】
アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のスピネル粉末。
【請求項5】
スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のスピネル粉末。
【請求項6】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とするスピネル粉末の製造方法。
【請求項7】
アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である請求項6記載のスピネル粉末の製造方法。
【請求項8】
電融アルミナの平均粒径D50が7〜70μmであり、かつマグネシア原料の平均粒径D50が1〜10μmである請求項6または7に記載のスピネル粉末の製造方法。
【請求項9】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することを特徴とする溶射膜の製造方法。
【請求項10】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項1】
粒状のスピネル粒子で覆われていることを特徴とするスピネル粉末。
【請求項2】
粒状のスピネル粒子の大きさが0.1〜4μmである請求項1に記載のスピネル粉末。
【請求項3】
平均粒径D50が10〜70μmであり、かつ比表面積が0.2〜2m2/gである請求項1または2に記載のスピネル粉末。
【請求項4】
アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のスピネル粉末。
【請求項5】
スピネル粉末のX線回折の強度比 I[αAl2O3(113)]/{I[αAl2O3(113)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下で、I[MgO(200)]/{I[MgO(200)]+I[MgAl2O4(311)]}が0.03以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のスピネル粉末。
【請求項6】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することを特徴とするスピネル粉末の製造方法。
【請求項7】
アルミナ含有量が69〜82%であり、かつマグネシア含有量が18〜31%である請求項6記載のスピネル粉末の製造方法。
【請求項8】
電融アルミナの平均粒径D50が7〜70μmであり、かつマグネシア原料の平均粒径D50が1〜10μmである請求項6または7に記載のスピネル粉末の製造方法。
【請求項9】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って溶射することを特徴とする溶射膜の製造方法。
【請求項10】
電融アルミナにマグネシア原料を混合後、焼成することで生成したスピネル粉末を使って、ガスセンサ素子の電極保護膜を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−232871(P2012−232871A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102162(P2011−102162)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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