説明

スピントルク発振子、その製造方法、磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録装置

【課題】 電流密度の低減と面内高周波磁界の強度の増加を同時に実現できるスピントルク発振子を提供する。
【解決手段】 実施形態に係るスピントルク発振子は、磁性体からなる発振層と、磁性体からなり前記発振層にスピンを注入するスピン注入層と、酸化物または窒化物からなる絶縁部および前記絶縁部を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部を有する電流狭窄層とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はスピントルク発振子、その製造方法、磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、および磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置の記録密度は、磁気ヘッド技術や垂直磁気記録方式の発展により、将来的に1Tbits/inch2が実現されると予想されている。しかし、垂直磁気記録方式を採用しても、熱揺らぎの問題があるため、このような高い記録密度の実現は容易ではないと考えられる。
【0003】
熱揺らぎの問題を解消するために高周波磁界アシスト記録方式が提案されている。高周波磁界アシスト記録方式では、磁気記録媒体に、記録信号周波数より十分に高い磁気記録媒体の共鳴周波数付近の高周波磁界を局所的に印加する。この結果、高周波磁界を印加された磁気記録媒体は共鳴して、磁気記録媒体の保磁力(Hc)が本来の保磁力の半分以下になる。このように記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、従来よりも保磁力(Hc)および磁気異方性エネルギー(Ku)が高い磁気記録媒体への磁気記録が可能になる。
【0004】
高周波磁界を発生するために、スピントルク発振子を用いることが提案されている。スピントルク発振子は、スピン注入層および発振層の2層の磁性層を含む。電極を通じてスピントルク発振子に直流電流を通電すると、スピン注入層によって生じたスピントルクにより、発振層の磁化が強磁性共鳴を生じる。その結果、スピントルク発振子から高周波磁界が発生する。スピントルク発振子のサイズは数十nm程度であるため、発生する高周波磁界はスピントルク発振子の近傍の数十nm程度に局在する。さらに高周波磁界の面内成分により、垂直磁化した磁気記録媒体を効率的に共鳴することができ、磁気記録媒体の保磁力を大幅に低下させることができる。この結果、主磁極による記録磁界と、スピントルク発振子による高周波磁界とが重畳した部分のみで磁気記録が行われるので、保磁力(Hc)および磁気異方性エネルギー(Ku)が高い磁気記録媒体を利用することができる。このため、高密度記録時の熱揺らぎの問題を回避できる。
【0005】
高周波磁界アシスト記録ヘッドを実現するためには、低い電流密度で安定して発振が可能であり、かつ媒体磁化を十分に共鳴させる面内高周波磁界の発生が可能なスピントルク発振子を設計および作製することが重要になる。
【0006】
すなわち、スピントルク発振子に通電する電流密度を高くしすぎると、発熱およびマイグレーションによりスピントルク発振子の特性が劣化するため、通電可能な最大電流密度には限度がある。このため、なるべく低い電流密度で発振可能なスピントルク発振子を設計することが重要になる。
【0007】
一方、媒体磁化を十分に共鳴させるためには、媒体の異方性磁界(Hk)に対して面内高周波磁界の強度をある程度以上にすることが望ましい。面内高周波磁界の強度を高める方法として、発振層の飽和磁化の増加、発振層の厚さの増加、および発振層の磁化の回転角度の増加が挙げられるが、これらのいずれの方法も電流密度を増加させるように作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0023938号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0219771号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】The Magnetic Recording Conference B6 (2007), "Microwave Assisted Magnetic Recording (MAMR)" by Jian-Gang (Jimmy) Zhu and Xiaochun Zhu
【非特許文献2】第34回日本磁気学会学術講演会概要集(2010) 4aA−7 「マイクロ波発振子における電流回路制限が発振特性に与える効果」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、電流密度の低減と面内高周波磁界の強度の増加を同時に実現できるスピントルク発振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態によれば、磁性体からなる発振層と、磁性体からなり前記発振層にスピンを注入するスピン注入層と、酸化物または窒化物からなる絶縁部および前記絶縁部を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部を有する電流狭窄層とを具備したスピントルク発振子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るスピントルク発振子の断面図。
【図2】素子領域に対する電流狭窄層の導電部および絶縁部の配置の例を示す平面図。
【図3】導電部の辺と素子領域の辺との間に絶縁部が配置されている辺の数と、発振に要する電流密度との関係を示すグラフ。
【図4】発振層の幅に対する電流狭窄層の導電部の幅の割合と、発振に要する電流密度との関係を示す図。
【図5】実施形態に係るスピントルク発振子の製造方法の一例を示す断面図。
【図6】カーボンのミリングレートの、イオンミリング角度依存性を示す図。
【図7】イオンミリング後のパタン幅/マスク幅の比の、イオンミリング角度依存性を示す図。
【図8】実施形態の磁気記録装置(HDD)の内部構造を示す斜視図。
【図9】ヘッドスタックアッセンブリを示す斜視図。
【図10】ヘッドスタックアッセンブリを示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。
図1に実施形態に係るスピントルク発振子の断面図を示す。図1に示すスピントルク発振子10は、下地層11、スピン注入層12、中間層13、発振層14、および電流狭窄層15がこの順に積層された構造を有する。電流狭窄層15は、酸化物または窒化物からなる絶縁部16、および前記絶縁部16を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部17を有する。
【0014】
下地層11はスピン注入層12の結晶配向を制御する機能を有するが、必ずしも設ける必要はない。一方、必要に応じて、発振層14と電流狭窄層15との間に発振層14を酸化などによるダメージから保護するための保護層を設けてもよい。
【0015】
スピントルク発振子10は、積層膜の積層方向に駆動電流を通電させる1対の電極を有していてもよい。ただし、これらの電極としてたとえば磁気ヘッドの主磁極またはシールド(もしくはリターン磁極)を用いてもよい。この場合、スピントルク発振子の少なくとも一方の電極を省略できる。また、スピントルク発振子は、主磁極のトレーリング側に設けられていてもよいし、主磁極のリーディング側に設けられていてもよい。以下においては、スピントルク発振子が1対の電極を有するものとして説明する。スピントルク発振子には外部磁界Hexが印加される。スピントルク発振子には、電極間のギャップ磁界により膜面に垂直な外部磁界が印加され、その発振層の磁化が膜面にほぼ垂直な軸を回転軸として歳差運動を行うことにより、外部に高周波磁界を発生する。
【0016】
発振層には、たとえば面内方向に磁気異方性を有するFeCoAl合金を用いることができる。また、発振層には、FeCoAl合金にSi、Ge、Mn、Cr、Bからなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加した材料を用いてもよい。これにより、たとえば発振層およびスピン注入層の飽和磁束密度(Bs)、異方性磁界(Hk)およびスピントルク伝達効率を調整することができる。
【0017】
中間層には、たとえばCu、Au、Agなど、スピン透過率の高い材料を用いることができる。中間層の厚さは1原子層から3nmとすることが望ましい。このような中間層を用いれば、発振層とスピン注入層との交換結合を最適な値に調節できる。
【0018】
スピン注入層には、たとえば膜面に垂直な方向に磁化配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNbなどのCoCr系磁性、TbFeCoなどのRE−TM系アモルファス合金磁性層、Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/PdなどのCo人工格子磁性層、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性層などの垂直配向性に優れた材料、CoFe、CoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSiなどの、比較的、飽和磁束密度の大きく膜面内方向に磁気異方性を有する軟磁性層、CoFeSi、CoMnSi、CoMnAlなどからなる群より選択されるホイスラー合金、膜面内方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜を適宜用いることができる。スピン注入層には、上記の群から選択される複数の材料を積層して用いてもよい。
【0019】
下地層および保護層には、たとえばTi、Cu、Ru、Taなどの電気抵抗が低い非磁性金属材料を用いることができる。
【0020】
電流狭窄層は、Ti、Cu、Ru、Taなどの電気抵抗が低い非磁性金属材料からなる導電部と、SiO2、Al23などの酸化物、SiNなどの窒化物、前記導電部を形成する非磁性金属の酸化物または窒化物からなる絶縁部とを有する。電流狭窄層の導電部および絶縁部の配置を制御することにより、電流路を制御することができる。
【0021】
図2(a)〜(d)に、発振層およびスピン注入層を含む素子領域に対する、電流狭窄層の導電部および絶縁部の配置の例を示す。発振層およびスピン注入層を含む素子領域の平面形状は矩形をなしている。電流狭窄層の導電部の平面形状も矩形をなしている。図2(a)〜(d)に示す配置は、矩形をなす導電部の4辺のうち、矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が互いに異なっている。
【0022】
図2(a)は、導電部の4辺のうち矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が0であり、従来例を示している。図2(b)は、導電部の4辺のうち矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が2であり、比較例を示している。図2(c)は、導電部の4辺のうち矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が3であり、実施例を示している。図2(d)は、導電部の4辺のうち矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が4であり、実施例を示している。
【0023】
図3は導電部の辺と素子領域の辺との間に絶縁部が配置されている辺の数(これらは図2(a)〜(d)に対応する)と、発振に要する電流密度との関係を示すグラフである。図3は、素子領域のサイズを50nm×50nmとし、素子領域に対する電流狭窄層の導電部の配置を変えて、シミュレーションにより発振に要する駆動電流を求めた結果を示している。
【0024】
図3から、導電部の辺と素子領域の辺との間に絶縁部が配置されている辺の数が多いほど、すなわち駆動電流路となる導電部が素子領域の中央部に近く配置されているほど、駆動電流を低減できることがわかる。
【0025】
スピントルク発振子を高周波発振させる場合、通常、発振層の中央部から発振状態が飽和する。このため、駆動電流路を発振層の中央部に配置することにより、駆動電流が低い場合でも発振層の中央部の発振状態を助長することができる。
【0026】
図4は、電流狭窄層の導電部が素子領域(50nm×50nmのサイズ)の中央部にある場合(図2(d)に対応する場合)に、発振層の幅に対する電流狭窄層の導電部の幅の割合と、発振に要する電流密度との関係を示す図である。図4は、電流狭窄層の導電部の幅が発振層の幅の20%以上90%以下であることが好ましいことを示している。導電部の幅が発振層の幅の90%を超えると、発振電流密度を低減する効果が得られない。導電部の幅が発振層の幅の20%未満であると、スピン注入層で発振が起こり、発振層で発振が起こりにくくなるため、発振電流密度を低減する効果が得られない。
【0027】
電流狭窄層は、磁性層であるスピン注入層および発振層以外の非磁性層として配置すればよく、スピントルク発振子の最表面層(キャップ層)、中間層、下地層のいずれかまたはこれらの複数層に配置することができる。ただし、電流狭窄層はスピントルク発振子の最表面層に配置することが好ましい。電流狭窄層を最表面層に有するスピントルク発振子では、磁性層であるスピン注入層および発振層の結晶構造への電流狭窄層の影響を無視することができる。また、発振層と電流狭窄層との間に保護層を設ければ、電流狭窄層の絶縁部に存在する酸素または窒素が発振層へ拡散することを抑制できる。
【0028】
[スピントルク発振子の製造方法]
図5(a)〜(f)は、実施形態に係るスピントルク発振子の製造方法の一例を示す断面図である。
【0029】
図5(a)に示すように、たとえば主磁極20の上に、下地層11、スピン注入層12、中間層13、発振層14、電流狭窄層に変換される金属層21、ハードマスク層22を成膜する。ハードマスク層22上にレジストを塗布した後、所定の形状のレジストパタン23を形成する。レジストパタン23はステッパーを用いて形成することができるが、電子線による描画やナノインプリントにより形成することもできる。
【0030】
図5(b)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)を用いてレジストパタン23をハードマスク層22に転写する。
【0031】
レジストパタン23をそのままイオンミリングのマスクとして用いることもできる。しかし、パタンサイズが小さくなり、レジストパタン23のアスペクト比が大きくなると、パタン倒壊を起こすおそれがある。これを避けるためには、レジストパタン23の高さを低くする必要がある。しかし、レジストパタン23の高さを低くすると、イオンミリングによるスピントルク発振子の加工が困難になる。このため、スピントルク発振子の素子サイズが小さくなるほど、イオンミリング耐性の高いハードマスク層22へのパタン転写を実施することが好ましい。
【0032】
ハードマスク層22としてはカーボン(C)、Si、Ta、Ti、Al23などが挙げられるが、イオンミリング耐性があるものであれば特に限定されない。たとえばハードマスク層22としてカーボンを用いた場合、酸素RIEによりエッチングする。また、カーボンからなるハードマスク層22とレジストとの間にSiなどからなる第2のハードマスク層を設けてもよい。Siなどからなる第2のハードマスク層はハロゲンガスを用いてエッチングでき、酸素RIEによるエッチング耐性が高いので、レジストやカーボンに対するエッチング選択比を高くすることができる。
【0033】
図5(c)に示すように、イオンミリングによりハードマスク層22のパタンから露出した領域の金属層21、発振層14、中間層13、スピン注入層12、下地層11を除去し、さらに主磁極20の膜厚の一部を除去する。この際、ハードマスク層22の高さとイオンミリング角度を制御することにより、再付着とテーパー角度を制御することができる。イオンミリング角度とは、ハードマスク層22の膜面とイオンの照射方向がなす角度である。後述のように、イオンミリング角度を制御することにより、ハードマスク層22のパタンの形状を端部にテーパー面を有する蒲鉾状または台形状にすることができる。
【0034】
図6に、カーボンのミリングレートの、イオンミリング角度依存性を示す。図6に示されるように、イオンミリング角度が約50度のときにカーボンのミリングレートが最大になる。
【0035】
イオンミリング角度を0度に設定して、すなわち膜面に垂直な方向にイオンを照射してミリングを行うと、ハードマスク層22のパタンの角部が除去されて、ハードマスク層22の端部に上部膜面に対して約50度の角度をなすテーパー面が形成される。イオンミリング角度を当初の0度にしたままミリングを継続すると、ハードマスク層22の端部のテーパー面は約50度のイオンミリング角度でミリングされる。このときテーパー面ではカーボンのミリングレートが速いため、ハードマスク層22のパタンの形状を端部にテーパー面を有する蒲鉾状または台形状にすることができる。
【0036】
図7に、イオンミリング後のパタン幅/マスク幅の比の、イオンミリング角度依存性を示す。イオンミリング角度を50度より小さくすると、再付着のためにパタン幅/マスク幅の比が増加する。イオンミリング角度を50度より大きく、たとえば約80度にすると、サイドエッチングのためにパタン幅/マスク幅の比が減少する。
【0037】
したがって、まずイオンミリング角度を約50度に設定し、ハードマスク層22のパタンから露出した領域の金属層21、発振層14、中間層13、スピン注入層12、下地層11、主磁極20の一部を速いミリングレートで除去して、マスク形状を転写する。次に、イオンミリング角度を0度に設定して、ハードマスク層22のパタンの形状を端部にテーパー面を有する形状にする。次いで、イオンミリング角度を約80度に設定して、再付着を防止することにより、所望の形状のハードマスク層22のパタンを形成することができる。
【0038】
図5(d)に示すように、主磁極20上の下地層11、スピン注入層12、中間層13、および発振層14の側面に、埋め込み絶縁層24を成膜する。埋め込み絶縁層24の材料としては、一般的にSiO2、Al23などが挙げられるが、特に限定されない。さらに、ハードマスク層22のパタンが露出するように、RIEまたはイオンミリングにより埋め込み絶縁層24をエッチバックする。絶縁層の埋め込みを行うことにより、スピントルク発振子の最表面に形成された金属層21以外の層の側壁が酸化(または窒化)されるのを抑制することができる。
【0039】
図5(e)に示すように、酸素ガスを用いたRIEでハードマスク層を除去することにより、金属層21を、絶縁部16および絶縁部16を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部17を有する電流狭窄層15に変換する。すなわち、ハードマスク層22のパタンは端部のテーパー部の厚さが薄いため先に除去され、下層にある金属層21の端部のみが酸化されるので、絶縁部16を形成することができる。なお、ハードマスク層22のパタンを除去する前にイオン注入法を用いて酸素イオンまたは窒素イオンを金属層21の端部に注入して絶縁部16を作製した後に、ハードマスク層22のパタンを除去してもよい。
【0040】
イオンミリング法では加速電圧を数百ボルト程度に設定してエッチングするが、イオン注入法では加速電圧を数キロ〜数十キロボルトに設定してエッチングすることなくイオンを注入することができる。ここで、ハードマスク層22のパタンが蒲鉾状であるため、ハードマスク層22のパタンの膜厚の薄い端部を通して、より深くまで酸素イオンまたは窒素イオンを注入することができる。
【0041】
また、いずれの方法を用いても、導電部の表面に薄い絶縁膜(酸化膜または窒化膜)が形成される場合があるため、ハードマスク層除去後にイオンミリングまたはバイアススパッタエッチングなどを行って、電流狭窄層15を3乃至10nm程度除去してもよい。このような処理により、電流狭窄層15の導電部17に形成された絶縁膜を除去することができる。このとき、たとえばイオンミリング量を調整することにより、絶縁部の範囲を調整することもできる。
【0042】
図5(f)に示すように、電流狭窄層15および埋め込み絶縁層24の上にNiFeなどからなるシールド25を成膜する。このようにして、最表面に電流狭窄層15を有するスピントルク発振子10を製造できる。
【実施例】
【0043】
実施例1
図5(a)〜(f)に示した方法でスピントルク発振子を製造した。
【0044】
主磁極20の上に、下地層11として厚さ15nmのRu、スピン注入層12として厚さ20nmのCoCrPt、中間層13として厚さ3nmのCu、発振層14として厚さ13nmのFeCoAl、電流狭窄層に変換される金属層21として厚さ20nmのTi、ハードマスク層22として厚さ5nmのSiおよび厚さ70nmのカーボン(C)を成膜した。ハードマスク層22上にレジストを塗布した後、所定の形状のレジストパタン23を形成した。素子サイズが50nm×50nmとなるようにイオンミリングを行った。酸素ガスを用いたRIEにより、Tiからなる金属層21を電流狭窄層15に変換した。バイアススパッタにより電流狭窄層15を3nmエッチングした。その後、電流狭窄層15上にシールド25を成膜してスピントルク発振子を製造した。
【0045】
EDXにより、絶縁部16の幅を測定したところ、電流狭窄層15の表面から約3nmの深さまで絶縁部16が存在し(エッチングで除去したところを含めると6nmの深さまで酸素が侵入していた)、発振層14の幅の50%であることを確認した。
【0046】
このスピントルク発振子を駆動したところ、発振層14で25GHzの発振が認められ、高周波電力強度は2.0×10-182/Hzであり、発振電流密度は8.1×107A/cm2であった。
【0047】
実施例2
実施例1と同様にして、主磁極20の上に、下地層11、スピン注入層12、中間層13、発振層14、金属層21、ハードマスク層22を成膜し、レジストパタン23を形成した。素子サイズが50nm×50nmとなるようにイオンミリングを行った。ハードマスク層22のパタンを通して酸素イオン注入することにより、Tiからなる金属層21を電流狭窄層15に変換した。バイアススパッタにより電流狭窄層15を6nmエッチングした。その後、電流狭窄層15上にシールド25を成膜してスピントルク発振子を製造した。実施例1から電流狭窄層15を約6nmエッチングしたことにより、ハードマスク層を除去する際に形成された酸化膜は全て除去されるため、残りの絶縁部16は酸素イオン注入により形成されたものといえる。
【0048】
EDXにより、絶縁部16の幅を測定したところ、電流狭窄層15の表面から約7nmの深さまで絶縁部16が存在し、発振層14の幅の50%であることを確認した。
【0049】
このスピントルク発振子を駆動したところ、発振層14で25GHzの発振が認められ、高周波電力強度は2.0×10-182/Hzであり、発振電流密度は7.8×107A/cm2であった。
【0050】
実施例3
実施例1と同様にして、主磁極20の上に、下地層11、スピン注入層12、中間層13、発振層14、金属層21、ハードマスク層22を成膜し、レジストパタン23を形成した。素子サイズが50nm×50nmとなるようにイオンミリングを行った。ハードマスク層22のパタンを通して酸素イオン注入することにより、Tiからなる金属層21を電流狭窄層15に変換した。バイアススパッタにより電流狭窄層15を6nmエッチングした。その後、電流狭窄層15上にシールド25を成膜してスピントルク発振子を製造した。実施例1から電流狭窄層15を約6nmエッチングしたことにより、ハードマスク層を除去する際に形成された酸化膜は全て除去されるため、残りの絶縁部16は窒素イオン注入により形成されたものといえる。
【0051】
EDXにより絶縁部16の幅を測定したところ、電流狭窄層15の表面から約7nmの深さまで絶縁部16が存在し、発振層14の幅の50%であることを確認した。
【0052】
このスピントルク発振子を駆動したところ、発振層14で25GHzの発振が認められ、高周波電力強度は2.0×10-182/Hzであり、発振電流密度は8.3×107A/cm2であった。
【0053】
比較例1
シールドを成膜する前のバイアススパッタにより電流狭窄層15を6nmエッチングした以外は、実施例1と同様にしてスピントルク発振子を製造した。実施例1からも電流狭窄層15を6nmエッチングすることにより、ハードマスク層を除去する際に形成された酸化膜は全て除去される。
【0054】
EDXにより、Tiからなる金属層から変換された電流狭窄層はなく、Ti導電部のみであることを確認した。
【0055】
このスピントルク発振子を駆動したところ、発振層14で25GHzの発振が認められ、高周波電力強度は2.0×10-182/Hzであり、実施例から減少していないことが確認できた。また、発振電流密度は1.7×108A/cm2であった。このように、電流狭窄層を有する実施例1〜3のスピントルク発振子は、比較例1のスピントルク発振子に比べて発振電流密度が低減していることが確認できた。
【0056】
上記の実施例1〜3および比較例1について、発振電流密度および高周波電力強度を表1に示す。
【表1】

【0057】
次に、上記スピントルク発振子を用いた磁気ヘッドアセンブリおよび磁気記録装置(HDD)について説明する。
【0058】
図8は実施形態の磁気記録装置(HDD)の内部構造を示す斜視図である。図8に示すように、HDDは筐体110を備えている。筐体110は、上面の開口した矩形箱状のベース112と、複数のねじ111によりベースにねじ止めされてベースの上端開口を閉塞したトップカバー114とを有している。ベース112は、矩形状の底壁112aと、底壁の周縁に沿って立設された側壁112bとを有している。
【0059】
筐体110内には、記録媒体としての1枚の磁気ディスク116、および磁気ディスクを支持および回転させる駆動部としてのスピンドルモータ118が設けられている。スピンドルモータ118は、底壁112a上に配設されている。なお、筐体110は、複数枚、例えば、2枚の磁気ディスクを収容可能な大きさに形成され、スピンドルモータ118は、2枚の磁気ディスクを支持および駆動可能に形成されている。
【0060】
筐体110内には、磁気ディスク116に対して情報の記録、再生を行なう複数の磁気ヘッド117、これらの磁気ヘッドを磁気ディスク116に対して移動自在に支持したヘッドスタックアッセンブリ(以下HSAと称する)122、HSAを回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)124、磁気ヘッドが磁気ディスクの最外周に移動した際、磁気ヘッドを磁気ディスクから離間した退避位置に保持するランプロード機構125、HDDに衝撃などが作用した際、HSAを退避位置に保持するラッチ機構126、およびプリアンプなどを有する基板ユニット121が収納されている。ベース112の底壁112a外面には、図示しないプリント回路基板がねじ止めされている。プリント回路基板は、基板ユニット121を介してスピンドルモータ118、VCM124、および磁気ヘッドの動作を制御する。ベース112の側壁には、可動部の稼動によって筐体内に発生した塵埃を捕獲する循環フィルタ123が設けられ、磁気ディスク116の外側に位置している。
【0061】
磁気ディスク116は、例えば、直径65mm(2.5インチ)に形成され、上面および下面に磁気記録層を有している。磁気ディスク116は、スピンドルモータ118の図示しないハブに互いに同軸的に嵌合されているとともにクランプばね127によりクランプされ、ハブに固定されている。これにより、磁気ディスク116は、ベース112の底壁112aと平行に位置した状態に支持されている。そして、磁気ディスク116は、スピンドルモータ118により所定の速度、例えば、5400rpmあるいは7200rpmの速度で回転される。
【0062】
図9は実施形態のヘッドスタックアッセンブリ(HSA)22を示す斜視図、図10はHSAを示す分解斜視図である。図9、図10に示すように、HSA122は、回転自在な軸受部128と、軸受部から延出した2本のヘッドジンバルアッセンブリ(以下、HGAと称する)130と、HGA間に積層配置されたスペーサリング144と、ダミースペーサ150とを備えている。
【0063】
軸受部128は、ベース112の長手方向に沿って磁気ディスク116の回転中心から離間して位置しているとともに、磁気ディスクの外周縁近傍に配置されている。軸受部128は、ベース112の底壁112aに立設される枢軸132と、枢軸に軸受134を介して回転自在にかつ枢軸と同軸的に支持された円筒形状のスリーブ136とを有している。スリーブ136の上端には環状のフランジ137が形成され、下端部外周にはねじ部138が形成されている。軸受部128のスリーブ136は、最大本数として、例えば4本のHGAと、隣り合う2つのHGA間に位置するスペーサとを積層状態で取付け可能な大きさ、ここでは取付け可能な軸方向長さを有して形成されている。
【0064】
実施形態において、磁気ディスク116は1枚に設定されていることから、取付け可能な最大本数である4本よりも少ない2本のHGA130が軸受部128に設けられている。各HGAは、軸受部128から延出したアーム140、アームから延出したサスペンション142、およびサスペンションの延出端にジンバル部を介して支持された磁気ヘッド117を有している。
【0065】
アーム140は、例えば、ステンレス、アルミニウム、ステンレスを積層して薄い平板状に形成され、その一端、つまり、基端には円形の透孔141が形成されている。サスペンション142は、細長い板ばねにより構成され、その基端がスポット溶接あるいは接着によりアーム140の先端に固定され、アームから延出している。なお、サスペンション142およびアーム140は、同一材料で一体に形成してもよい。
【0066】
磁気ヘッド117は、図示しないほぼ矩形状のスライダとこのスライダに形成された記録ヘッドおよび実施形態に係る再生用のCPP−GMRヘッドとを有し、サスペンション142の先端部に形成されたジンバル部に固定されている。また、磁気ヘッド117は、図示しない4つの電極を有している。アーム140およびサスペンション142上には図示しない中継フレキシブルプリント回路基板(以下、中継FPCと称する)が設置され、磁気ヘッド117は、この中継FPCを介して後述するメインFPC121bに電気的に接続される。
【0067】
スペーサリング144は、アルミニウムなどにより所定の厚さおよび所定の外径に形成されている。このスペーサリング144には、合成樹脂からなる支持フレーム146が一体的に成形され、スペーサリングから外方に延出している。支持フレーム146には、VCM124のボイスコイル147が固定されている。
【0068】
ダミースペーサ150は、環状のスペーサ本体152と、スペーサ本体から延出したバランス調整部154とを有し、例えば、ステンレスなどの金属に一体的に形成されている。スペーサ本体152の外径は、スペーサリング144の外径と等しく形成されている。すなわち、スペーサ本体152のアームと接触する部分の外径は、スペーサリング144がアームに接触する部分の外径と同一に形成されている。また、スペーサ本体152の厚さは、HGAの最大本数よりも少ない本数分、ここでは、2本のHGAにおけるアームの厚さ、つまり、2本のアーム分の厚さと、これらアーム間に配設されるスペーサリングの厚さとを合計した厚さに形成されている。
【0069】
ダミースペーサ150、2本のHGA130、スペーサリング144は、スペーサ本体152の内孔、アーム140の透孔141、スペーサリングの内孔に軸受部128のスリーブ136が挿通された状態でスリーブの外周に嵌合され、スリーブの軸方向に沿ってフランジ137上に積層配置されている。ダミースペーサ150のスペーサ本体152は、フランジ137と一方のアーム140との間、およびスペーサリング144は、2本のアーム140間にそれぞれ挟まれた状態でスリーブ136の外周に嵌合されている。更に、スリーブ136の下端部外周には、環状のワッシャ156が嵌合されている。
【0070】
スリーブ136の外周に嵌合されたダミースペーサ150、2本のアーム140、スペーサリング144、ワッシャ156は、スリーブ136のねじ部138に螺合されたナット158とフランジ137との間に挟持され、スリーブの外周上に固定保持されている。
【0071】
2本のアーム140は、スリーブ136の円周方向に対して互いに所定位置に位置決めされ、スリーブから同一の方向へ延出している。これにより、2本のHGAは、スリーブ136と一体的に回動可能となっているとともに、磁気ディスク116の表面と平行に、かつ、互いに所定の間隔を置いて向かい合っている。また、スペーサリング144と一体の支持フレーム146は、軸受部128からアーム140と反対の方向へ延出している。支持フレーム146からはピン状の2本の端子160が突出し、これらの端子は、支持フレーム146内に埋め込まれた図示しない配線を介してボイスコイル147に電気的に接続されている。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
10…スピントルク発振子、11…下地層、12…スピン注入層、13…中間層、14…発振層、15…電流狭窄層、16…絶縁部、17…導電部、20…主磁極、21…金属層、22…ハードマスク層、23…レジストパタン、24…埋め込み絶縁層、25…シールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる発振層と、
磁性体からなり前記発振層にスピンを注入するスピン注入層と、
酸化物または窒化物からなる絶縁部および前記絶縁部を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部を有する電流狭窄層と、を具備し、
前記電流狭窄層の導電部が、前記発振層および前記スピン注入層を含む素子領域の平面において、中央部近傍に位置することを特徴とするスピントルク発振子。
【請求項2】
前記電流狭窄層の導電部の平面形状が矩形をなし、前記発振層および前記スピン注入層を含む素子領域の平面形状が矩形をなし、前記矩形をなす導電部の4辺のうち前記矩形をなす素子領域の対応する4辺との間に前記絶縁部が配置されている辺の数が3以上である請求項1に記載のスピントルク発振子。
【請求項3】
前記電流狭窄層の導電部の幅は前記発振層の幅の20%以上90%以下である請求項1に記載のスピントルク発振子。
【請求項4】
前記電流狭窄層は最表面に位置する請求項1に記載のスピントルク発振子。
【請求項5】
磁性体からなる発振層および磁性体からなるスピン注入層を含む積層体上に、電流狭窄層に変換される金属層を形成し、
前記金属層上に、端部にテーパー面を有するマスク層を形成し、
前記端部にテーパー面を有するマスク層が形成されている状態で、前記マスク層の下にある金属層の端部を酸化または窒化して、酸化物または窒化物からなる絶縁部および前記絶縁部を積層方向に貫通する非磁性金属からなる導電部を有する電流狭窄層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のスピントルク発振子の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のスピントルク発振子と、主磁極とを具備したことを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録ヘッドを搭載するヘッドスライダーと、
前記ヘッドスライダーを一端に保持するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと
を具備したことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項8】
磁気記録媒体と、
請求項7に記載の磁気ヘッドアセンブリと、
前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体に信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と
を具備したことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項9】
前記スピントルク発振子は、前記主磁極のトレーリング側に設けられていることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録装置。
【請求項10】
前記スピントルク発振子は、前記主磁極のリーディング側に設けられていることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−119629(P2012−119629A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270706(P2010−270706)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】