説明

スピンドルモータ

【課題】 高速回転下でも激しい温度変化下においても、消費電力の増加がなく高信頼性を有するスピンドルモータを提供する。
【解決手段】 ロータ(12)とステータ(14)と、ロータをステータに対して潤滑流体(20)を用い回転自由に支持するスラスト動圧軸受(SB)及びラジアル動圧軸受(RB)とを備え、スラスト動圧軸受は、逆方向の動圧を発生する第1及び第2スラスト軸受部(SB1,SB2)を備え、潤滑流体は、ロータとステータ間の所定空隙である充填部(M)に充填され、充填部は、外部に開放された一端側(6)から、第2スラスト動圧軸受部,第1スラスト軸受部,ラジアル動圧軸受部の順に連結された第1充填部(M1)と、第1充填部における第2及び第1スラスト動圧軸受部の間と第1スラスト軸受部及びラジアル動圧軸受部の間とを連結する第2充填部(M2)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピンドルモータに係り、特に、流体動圧軸受を備えたスピンドルモータに関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受を備えたスピンドルモータは、高速回転時の特性に優れることから、磁気ディスクや光ディスク等のディスク状記録媒体の駆動用としてその記録再生装置に多く用いられている。
この流体動圧軸受を用いた従来のスピンドルモータの一例が特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載されたモータは、軸とスリーブとにより構成された一対のラジアル軸受部と、スリーブ上端面とハブ内面とにより構成された1つのスラスト軸受部を備えてなるものである。
【0003】
一方、この構成のモータに対し、可搬型機器に要求される耐振性、耐衝撃性に優れる構成として、スリーブ側に、その外側に突出するフランジとシールプレートとを軸方向に離隔して設けると共に、両者の間にハブ側に設けたスラストリングを挟み込む構成とし、このスラストリングの上下の2面とそれぞれに対向するフランジ及びシールプレートの面とにより構成される2つのスラスト軸受部を備えた構成のモータも検討されている。
【0004】
このモータの一例として、1インチのハードディスク装置(HDD)用スピンドルモータ151を、図10を用いて説明する。
ステータ114は、モータベース108とこのモータベース108に取り付けられ一端部側にフランジ部104aが形成されたスリーブ104とコア109とを有する。
コア109にはコイル110が巻回されており、スリーブ104の他端部側にはリング状のシールブレート117が固着されている。
ロータ112は、リング状マグネット111が外周面に固着されたハブ107を有する。このハブ107は、その中心にシャフト101が一体的に形成されており、このシャフト101の外周面に筒状の外筒部113が挿着されている。
また、ハブ107の内周面にはスラストリング103が固着されている。
そして、ロータ112の外筒部113がステータ114のスリーブ104に挿入され、ロータ112はステータ114に対して以下に説明する流体動圧軸受を介して回転自由に支持された構成となっている。
【0005】
スラスト動圧軸受SBは、スラストリング103と、フランジ部104aと、シールプレート117と、これらの間隙に充填された潤滑流体(潤滑剤)とにより構成される。
具体的には、スラストリング103の軸方向の両面に形成された一対の動圧溝
が、ロータ112の回転に伴って動圧を発生させることでスラスト軸受機能が発揮される。
すなわち、スラストリング103の下面とシールプレート117の上面とでロータを上昇させる動圧が発生し、スラストリング103の上面とフランジ104aの下面とでロータを下降させる動圧が発生し、両動圧の釣り合いによりロータ112はステータ114に対して浮上した状態で支持される。
【0006】
ラジアル動圧軸受RBは、外筒部113とスリーブ104とこれらの間隙に充填された潤滑剤とにより構成される。
具体的には、外筒部113及びスリーブ104の互いに対向する面のいずれかに設けられた動圧溝が、ロータ112の回転に伴って動圧を発生させることでラジアル軸受機能が発揮される。
このラジアル動圧軸受RBは、軸方向に離れて一対設けられる。
【0007】
上述した構成において、潤滑剤の充填経路は、2つのスラスト動圧軸受部SBとラジアル動圧軸受部RBとを直列的に連結するように設けられている。
また、スラスト動圧軸受部SBで発生する動圧は、回転中に潤滑剤が動圧軸受部から外部へ流出しないようにポンプインの方向とされている。
これを潤滑剤の充填経路に沿って言うならば、スラスト動圧軸受部SBで発生する動圧は、潤滑剤を内側のラジアル動圧軸受部RBに向かわせるように発生するということである。
【特許文献1】特開2004−11897
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したスラスト動圧軸受部を2つ備えたモータにおいては、それぞれの動圧溝の溝形状が、製造時の加工寸法のばらつきや、素材のばらつき等により僅かな相違を有して形成される。その相違がある程度以上になると、発生する動圧に無視できない差が生じ、特に回転が高速になる程顕著になる。
具体的には、ロータがこの動圧のアンバランスにより過度に上昇あるいは下降し、ロータとステータとが接触してしまう場合が生じる。
【0009】
さらに、潤滑経路の外側のスラスト動圧軸受部、すなわち、スラストリング103の下面とシールプレート117の上面とを含んで構成されたスラスト動圧軸受部をポンプインとして形成すると同時に、内側のスラスト軸受部、すなわち、スラストリング103の上面とフランジ104aの下面との間に形成されたスラスト動圧軸受部についても、製造時の加工寸法のばらつきや素材のばらつき等による動圧溝の溝形状の違いがあってもポンプアウトとならないようなポンプインとして形成する。
ところが、特に、回転が高速の場合、2つのスラスト動圧軸受によるポンプインの圧力が強くなり、また、内側のスラスト動圧軸受部においては遠心力も加わり、動圧軸受内部の潤滑剤の圧力が必要以上に上昇する。
すると、ロータ112とステータ114とを離そうとする力が強くなり過ぎ、この力が、内側のスラスト動圧軸受部により生じるロータ112を下降させようとする力に勝り、ロータ112とステータ114とが接触してしまう場合が生じる。
【0010】
一方、潤滑剤には低温であるほど粘度が高いという温度特性がある。そのため、低温であるほどポンプイン圧力が高くなり、場合によってはロータを過剰に上昇させてロータとステータが接触してしまう。
逆に、潤滑剤は高温であるほど粘度が低下するのでポンプイン圧力が低くなり、場合によってはロータを過剰に下降させてロータとステータが接触してしまう。
すなわち、温度変化が激しいほどロータとステータとが接触してしまう可能性が高い。
ロータとステータが接触すると、回転に対して負荷が加わり消費電力が増加する。また、軸振れが大きくなり寿命も短くなるという信頼性に係わる問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、流体動圧軸受を備え、回転が高速であっても、消費電力の増加がなく、高信頼性を有するスピンドルモータを提供する。
また、流体動圧軸受を備え、激しい温度変化によっても、消費電力の増加がなく、高信頼性を有するスピンドルモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本願発明は手段として次の〔1〕〜〔3〕の構成を有する。
〔1〕ロータ部(12)と、ステータ部(14)と、前記ロータ部(12)を前記ステータ部(14)に対して、潤滑流体(20)を用いて回転自由に支持するスラスト動圧軸受(SB)及びラジアル動圧軸受(RB)と、を備えたスピンドルモータにおいて、
前記スラスト動圧軸受(SB)は、互いに反対方向の動圧を発生する第1及び第2のスラスト軸受部(SB1,SB2)を備える一方、前記潤滑流体(20)は、前記ロータ部(12)と前記ステータ部(14)との間に設けられた所定の空隙である充填部(M)に充填され、前記充填部(M)は、外部に開放された一端側(6)から、前記第2のスラスト動圧軸受部(SB2),前記第1のスラスト軸受部(SB1),前記ラジアル動圧軸受部(RB)の順に連結された第1充填部(M1)と、前記第1充填部(M1)における、前記第2及び第1のスラスト動圧軸受部(SB2,SB1)の間と前記第1のスラスト軸受部(SB1)及び前記ラジアル動圧軸受部(RB)の間とを連結する第2充填部(M2)とを有してなることを特徴とするスピンドルモータ(51)である。
〔2〕略カップ状のハブ(7)と、このハブ(7)の内周部(7c)に固定された環状のスラストリング(3)と、前記ハブ(7)と一体のシャフト(1)と、を有するロータ部(12)と、外向きの径方向に突出するフランジ(4a)を有する略円筒状のスリーブ(4)と、前記スラストリング(3)を前記フランジ部(4a)との間で挟むように前記スリーブ(4)の外周部(4f)に固定されたシールプレート(17)と、を有するステータ部(14)と、潤滑流体(20)を用いたラジアル動圧軸受(RB)及びスラスト動圧軸受(SB)と、を備え、前記シャフト(1)が前記スリーブ(4)に挿入され、前記ロータ部(12)が前記ステータ部(14)に対して、前記流体動圧軸受(RB,SB)を介して回転自由に支持されてなるスピンドルモータにおいて、
前記ラジアル動圧軸受(RB)は、前記シャフト(1)と前記スリーブ(4)とを含んでなり、前記スラスト動圧軸受(SB)は、前記スラストリング(3)及び前記フランジ部(4a)の互いに対向する面(3a,4a1)を含んでなる第1のスラスト動圧軸受部(SB1)と、前記スラストリング(3)及び前記シールプレート(17)の互いに対向する面(3b,17a)を含んでなる第2のスラスト動圧軸受部(SB2)とよりなり、前記潤滑流体(20)が充填される充填部(M)であって、外部に開放された一端側(6)から、前記第2のスラスト動圧軸受部(SB2),前記第1のスラスト動圧軸受部(SB1),前記ラジアル動圧軸受部(RB)の順に連結して形成された充填部(M1)を備えると共に、前記スリーブ(4)は、前記充填部(M1)における、前記第1及び第2のスラスト動圧軸受部(SB1,SB2)の間と前記第2のスラスト動圧軸受部(SB2)及び前記ラジアル動圧軸受部(RB)の間を連結する連結孔(21,M2)を備えたことを特徴とするスピンドルモータ(51)である。
〔3〕前記第2のスラスト動圧軸受部(SB2)は、前記ロータ部(12)の回転に伴い前記潤滑流体(20)を前記ラジアル動圧軸受部(RB)に向けて移動させる力を発生するよう構成されてなることを特徴とする〔1〕または〔2〕記載のスピンドルモータ(51)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転が高速であっても、消費電力が増加することがなく、高い信頼性が維持される。
また、激しい温度変化によっても、消費電力が増加することがなく、高い信頼性が維持されるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図9を用いて説明する。
図1は、本発明のスピンドルモータの実施例を示す断面図である。
図2は、図1のA部を拡大した部分断面図である。
図3は、本発明のスピンドルモータの実施例を説明する模式図である。
図4は、本発明のスピンドルモータの実施例における要部を示す図である。
図5は、本発明のスピンドルモータの実施例と比較例との特性を説明するグラフである。
図6は、本発明のスピンドルモータの実施例と比較例との別の特性を説明するグラフである。
図7は、本発明のスピンドルモータの実施例に対する変形例を説明する図である。
図8は、本発明のスピンドルモータの実施例に対する他の変形例を説明する図である。
図9は、本発明のスピンドルモータの実施例を説明する図である。
【0015】
実施例のスピンドルモータは、流体動圧軸受を備えて1インチのハードディスク装置(HDD)に搭載されるディスク駆動用であり、HDDの清浄空間内に配置され、ハブ7に取り付けられた少なくとも1つのハードディスクをハブと共に回転数3600回/分を定常回転数として回転させるスピンドルモータである。
以下、図1乃至図9を用いて詳述する。
【0016】
このモータ51は、ステータ14とロータ12とからなる。
ステータ14は、モータベース8と、このモータベース8に固定されコイル10が巻回された環状のコア9と、環状のコア9と同心となるようにモータベース8に固着されたスリーブ4と、を有して構成される。
モータベース8は、アルミダイカストの切削加工により、あるいは、アルミ板や鉄板のプレス加工により形成される。
このモータベース8は中心孔8aを有し、スリーブ4は、この中心孔8aにその組立て精度を高めるために接着剤により固着されている。
【0017】
このステータ14の各部材の詳細は次の通りである。
スリーブ4は、貫通孔4bを有しC3602等の銅系合金,アルミニウム又は樹脂により形成される。その貫通孔4bのモータベース8の側の開口部はカウンタープレート5により封止されている。
コア9は、このモータ51が3相駆動であることから9極の突極18を備えている(図9参照)。各突極18にはコイル10が巻回される。
このコア9は、珪素鋼板を積層して形成され、その表面を電着塗装や粉体塗装等により絶縁コーティングされている。
また、巻回されたコイル10の巻線端末10aは、モータベース8の貫通孔8bを通してモータベース8の底面に取り付けられたフレキシブルプリント基板(FPC)15に半田付けされている。
FPC15には、コイル10の巻線端末10aを半田付けする接続部と、HDDの図示しない駆動回路及びランド部とが設けられており、接続部とランド部とは配線パターンで電気的に接続されている。
【0018】
一方、ロータ12は、略カップ状であってその回転中心に一体的に立設するシャフト部1を備えたハブ7と、このハブ7の外周面7aに固着されたリング状のマグネット11とを有して構成される。シャフト部1の外周面には、筒状の外筒部13が固着されている。
このハブ7は、ステンレス材を切削仕上げして形成され、その上面側にハードディスク19が載置される載置部7bを有している。
ハブ7は、通常、マルテンサイト系,フェライト系あるいはオースナイト系のステンレスを用いて形成され、その表面には、耐磨耗性の向上を目的として無電解ニッケルメッキ等のコーティングが施される。
マグネット11は、その外周側(ハッチング部分)が12極に着磁されており、表面には電着塗装が施されている。
【0019】
上述した構成において、ハブ7とコア9とマグネット11とによりこのモータ51の磁気回路が形成される。マグネット11の着磁された部分の上面11aとハブ7とが接触すると磁気回路が短絡するので、両者間には隙間16を設けてある。
また、ロータ12は、その外筒部13がスリーブ4の貫通孔4bに挿入され、後述するラジアル及びスラスト動圧軸受部を介してステータ14に対して回転自由に支持される。
この状態でHDD側のモータ駆動回路によりコイル10の各相に順次通電されると、このロータ12は回転する。
【0020】
次に、ロータ12を支持するラジアル及びスラスト動圧軸受部RB,SBについてそれぞれ説明する。
ラジアル動圧軸受部RBは、外筒部13の外周面13aとスリーブ4の内周面4cとその間隙に充填された流体の潤滑剤(潤滑流体)20とにより構成され、軸方向に離隔して2ヶ所に設けられている。
すなわち、図1において上側となる第1のラジアル動圧軸受部RB1と、下側の第2のラジアル動圧軸受部RB2である。(両者を総称してRBとも称する)
このラジアル動圧軸受部RBにおける外筒部13の外周面13aには、ヘリングボーンやレイリーステップ等の動圧溝24が形成されている。この動圧溝24は、スリーブ側に形成されていてもよいものである。
また、外筒部13とスリーブ4との間隙には、上述したように潤滑剤20が充填されているので、この動圧溝24によりロータ12の回転時に動圧が発生し、このロータ12はラジアル方向に支持される。
潤滑剤20が充填された間隙である潤滑剤の充填部は、第1及び第2のラジアル動圧部RB1,RB2間で繋がっている。この充填部の詳細は後述する。
【0021】
次に、スラスト動圧軸受部SBについて詳述する。
ハブ7の内周面7cには、環状のスラストリング3が固着されている。
スリーブ4のハブ7側の端部には、外側方向に突出するフランジ部4aが形成されており、反対側の端部の外周面4fには、フランジ部4aとの間にスラストリング3を挟むように環状のシールプレート17が固着されている。
スラストリング3とこれを挟むフランジ部4a及びシールプレート17との互いに対向する面の間隙には、潤滑剤20が充填される。
また、スラストリング3の上下面には、それぞれスラスト動圧溝が形成されている。このスラスト動圧溝は、ヘリングボーンやレイリーステップ等の溝であり、エッチングやスタンピング等の加工方法で形成することができる。
【0022】
そして、スラストリング3の上面3aとフランジ部4aの下面4a1と両者の間隙に充填された潤滑剤20とにより第1のスラスト動圧軸受部SB1が構成される。この第1のスラスト動圧軸受部SB1は、潤滑剤20を内部に送り込む方向のポンプイン圧力を発生させる。
また、スラストリング3の下面3bとシールプレート17の上面17aと両者の間隙に充填された潤滑剤20とにより第2のスラスト動圧軸受部SB2が構成される。この第2のスラスト動圧軸受部SB2も、潤滑剤20を内部に送り込む方向のポンプイン圧力を発生させる。
【0023】
この第1及び第2のスラスト動圧軸受部SB1,SB2において潤滑剤20が充填される充填部は、両軸受部間で繋がっている。
さらに、この充填部は、第1のスラスト動圧軸受部SB1と第1のラジアル動圧軸受部RB1とで繋がっている。
このように充填された潤滑剤20は、以下に説明するテーパシール部6によりその外部への漏出が防止される。
【0024】
テーパシール部6は、シールプレート17の外周面17bと、ハブ7の内周面7cの内のこの外周面17bに対向する対向面7c1とにより構成される。
具体的には、外周面17bと対向面7c1は、スラストリング3から離れるに従ってそれぞれ回転軸Cに接近すると共に両面の間隔が広がるような傾斜面とされている。そして、潤滑剤20の液面20aがこのテーパシール部6の途中に位置するように製造時に充填される潤滑剤20の量が設定されている。
このテーパシール部6において、潤滑剤20の表面張力によりその外部への漏出が防止され、また、ロータ12の回転時に生じる遠心力により潤滑剤20には充填部の内部に向かうように力が付与され、さらに効果的に漏出が防止される。
【0025】
ここで、実施例のモータ51において潤滑剤20が充填された部分である充填部Mについて図3を用いて説明する。
この充填部Mは、第1の充填部M1と第2の充填部M2とによりなる。潤滑剤20は、ロータ12の回転に伴って発生する圧力に応じてこの潤滑部M内を流動する。
図3は、上述した構成における潤滑剤20の充填部Mを充填経路として模式的に示した図である(この充填部M内で潤滑剤20は流動可能であるので、以下、便宜的に充填経路Mとも称する)。
すなわち、潤滑剤20は、その液面20aが位置するテーパシール部6から、第2のスラスト動圧軸受部SB2,第1のスラスト動圧軸受部SB1を経由し、フランジ部4の側面4a2,スリーブ4の上面4dを通り、第1のラジアル動圧軸受部RB1から第2のラジアル動圧軸受部RB2を経てシャフト部1とカウンタープレート5との間隙へ至る充填経路(第1の充填部)M1に充填される。
これはいわゆるフルフィルタイプと称される潤滑経路構造に属する。
【0026】
実施例のスピンドルモータ51は、さらに、充填経路M1における、第1及び第2のスラスト動圧軸受部SB1,SB2の間と、第1のスラスト動圧軸受部SB1と第1のラジアル動圧軸受部RB1との間を連結するバイパス経路(第2の充填部)M2を備えている。
このバイパス経路M2の具体的形成例として、図2に示すような、スリーブ4の上面4dとスリーブ4の外周面におけるフランジ部4aの根本とを繋ぐ連結孔21がある。
【0027】
この連結孔21を有するスリーブ4の一例を図4に示す。
このスリーブ4には、直径φが0.3mmの丸孔である連結孔21が1ヶ所穿設されている。また、上面4dの内周側には、凹方向に傾斜する傾斜面4eが設けられている。
この傾斜面4eは、対向するハブ7において、そのシャフト部1の根本部分に強度向上のための肉付けを可能とする目的で設けられている。もちろん、図1,図2に示すようにこの傾斜面4eを備えていないスリーブ4であってもよい。
【0028】
この連結孔21、すなわちバイパス経路M2を設けることにより、特に、高速回転時でのポンプイン圧力や遠心力の影響で、第1の充填部M1における第1のスラスト動圧軸受SB1よりも内部側の圧力が、一段と上昇する場合においても、その圧力がバイパス経路M2を通り第1のスラスト動圧軸受SB1よりも外部側に充填経路M1に開放されるので、その圧力が過剰に上昇する事がない。
従って、特に、高速回転時のロータ12の浮上量(上昇量)が安定してロータ12とステータ14との接触が防止できる。
また、第1のスラスト動圧軸受SB1で発生するポンプイン圧力の第2のスラスト動圧軸受SB2に及ぼす影響が緩和されるので、激しい温度変化があってもロータの浮上量が安定してロータ12とステータ14との接触が防止できる。
【0029】
このようなバイパス経路M2を有する実施例のスピンドルモータと、これを有していない比較例のスピンドルモータとについての、ロータの浮上量と温度及び回転数との関係をそれぞれ図5と図6に示して比較説明する。
ここで、図5は、ロータの回転数が3600回/分の場合を代表として示しており、また、図6は、温度が0℃の場合を代表として示しているが、他の回転数あるいは温度においても以下に説明する結果は同様である。
【0030】
図5に示す浮上率の対温度特性において、比較例のスピンドルモータでは、0℃以下で浮上率が約80%以上になり回転負荷が極めて大きくなっている。
浮上率がこのような高率の場合、スラストリングの上面とスリーブのフランジ部の下面とが接触する可能性が高く、さらに−20℃で浮上率が100%、すなわち、接触が発生している。
また、80℃以上では、浮上率が20%以下の低率になっている。従って、この温度範囲では回転負荷が大きく、スラストリングの下面とシールプレートの上面とが接触する可能性が高い。
これに対して、実施例のスピンドルモータでは−20℃から80℃までの浮上率の変化幅は比較例と比べて著しく小さく、浮上率は35%〜60%の範囲に収まっている。このように、実施例のスピンドルモータは、温度変化に対して極めて安定した特性を有していることがわかる。
【0031】
一方、浮上率の対回転数特性である図6において、比較例のスピンドルモータでは、約5500回転/分以上の回転数域において、浮上率が100%となり、接触が発生していることがわかる。
これに対して、実施例のスピンドルモータでは、少なくとも2000〜10000回転/分の範囲の回転数域において、浮上率が30〜50%の良好な範囲に収まり極めて安定していることがわかる。
特に、6000回転以上の高速回転域において浮上率はほぼ一定であり、データの傾向から10000回転以上の超高速回転域でも安定した浮上率が得られることが期待できる。
このように、実施例のスピンドルモータは、温度変化や回転数によらず、ロータの浮上率が極めて良好な数値範囲にあり、また、それを極めて安定的に維持することができる。
【0032】
上述した実施例におけるバイパス経路M2は、以下のような変形例であってもよく、また、この実施例や変形例に限定されるものではない。
図7に第1変形例を示す。
この例は、バイパス経路M2を丸孔ではなく、フランジ部4aに形成したU字状の切り欠き部22としたものである。この場合、切り欠き部22の回転軸C側の奥の部分22aが、第1及び第2のスラスト軸受部SB1,SB2の間に位置してバイパス経路M2に相当する。
この例は、切り欠き部22の開口側の部分が第1のスラスト軸受部SB1に対応し発生する動圧を僅かに低下させるので、バイパス経路M2としては実施例のように丸孔とする方が好ましい。
【0033】
図8に第2変形例を示す。
この例は、フランジ部4aをスリーブ4とは別体の環状フランジ23として形成した例である。この環状フランジ23の内周部に軸方向に延在する溝23aを設けておき、スリーブ4に嵌着して実施例のバイパス経路M2に相当する貫通孔を形成する例である。
これらの変形例においても、実施例と同様の効果を得ることができる。
【0034】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
例えば、シャフト部1をハブ7と別体として、ハブ7に設けた貫通孔に圧入等で固定したものでもよい。
また、外筒部13を省略し、スリーブ4の貫通孔4aにシャフト部1を直接挿着したスピンドルモータであってもよい。この場合、シャフト部1の外周面が外筒部13の外周面の替わりにラジアル動圧軸受部RBを構成する面として機能する。
尚、実施例のように外筒部13を備えた場合も、シャフト部の構成にこの外筒部13が含まれるものとみなすことができるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のスピンドルモータの実施例を示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大した部分断面図である。
【図3】本発明のスピンドルモータの実施例を説明する模式図である。
【図4】本発明のスピンドルモータの実施例における要部を示す図である。
【図5】本発明のスピンドルモータの実施例と比較例との特性を説明するグラフである。
【図6】本発明のスピンドルモータの実施例と比較例との別の特性を説明するグラフである。
【図7】本発明のスピンドルモータの実施例に対する変形例を説明する図である。
【図8】本発明のスピンドルモータの実施例に対する他の変形例を説明する図である。
【図9】本発明のスピンドルモータの実施例を説明する図である。
【図10】従来のスピンドルモータを説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シャフト部
3 スラストリング
3a 上面
3b 下面
4 スリーブ
4a フランジ部
4a1 下面
4a2 側面
4b 貫通孔
4c 内周面
4d 上面
4e 傾斜部
4f 外周面
5 カウンタープレート
6 テーパシール部
7 ハブ
7a 外周面
7b 載置部
7c 内周面
7c1 対向面
8 モータベース
8a 中心孔
8b 貫通孔
9 コア
10 コイル
10a 巻線端末
11 マグネット
12 ロータ
13 外筒部
13a 外周面
14 ステータ
15 フレキシブルプリント基板(FPC)
17 シールプレート
17a 上面
17b 外周面
18 突極
19 ハードディスク
20 潤滑剤(潤滑流体)
20a 液面
21 連結部
22 切り欠き部(バイパス経路)
23 環状フランジ
23a 貫通孔
24 動圧溝
51 スピンドルモータ
M 充填部(経路)
M1 第1の充填部(経路)
M2 第2の充填部(経路)(バイパス経路)
RB ラジアル動圧軸受部
SB スラスト動圧軸受部
SB1,SB2 第1,第2のスラスト動圧軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ部と、ステータ部と、前記ロータ部を前記ステータ部に対して、潤滑流体を用いて回転自由に支持するスラスト動圧軸受及びラジアル動圧軸受と、を備えたスピンドルモータにおいて、
前記スラスト動圧軸受は、互いに反対方向の動圧を発生する第1及び第2のスラスト軸受部を備える一方、前記潤滑流体は、前記ロータ部と前記ステータ部との間に設けられた所定の空隙である充填部に充填され、
前記充填部は、
外部に開放された一端側から、前記第2のスラスト動圧軸受部,前記第1のスラスト軸受部,前記ラジアル動圧軸受部の順に連結された第1充填部と、
前記第1充填部における、前記第2及び第1のスラスト動圧軸受部の間と前記第1のスラスト軸受部及び前記ラジアル動圧軸受部の間とを連結する第2充填部とを有してなることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項2】
略カップ状のハブと、このハブの内周部に固定された環状のスラストリングと、前記ハブと一体のシャフトと、を有するロータ部と、
外向きの径方向に突出するフランジを有する略円筒状のスリーブと、前記スラストリングを前記フランジ部との間で挟むように前記スリーブの外周部に固定されたシールプレートと、を有するステータ部と、
潤滑流体を用いたラジアル動圧軸受及びスラスト動圧軸受と、を備え、
前記シャフトが前記スリーブに挿入され、前記ロータ部が前記ステータ部に対して、前記流体動圧軸受を介して回転自由に支持されてなるスピンドルモータにおいて、
前記ラジアル動圧軸受は、前記シャフトと前記スリーブとを含んでなり、
前記スラスト動圧軸受は、前記スラストリング及び前記フランジ部の互いに対向する面を含んでなる第1のスラスト動圧軸受部と、前記スラストリング及び前記シールプレートの互いに対向する面を含んでなる第2のスラスト動圧軸受部とよりなり、
前記潤滑流体が充填される充填部であって、外部に開放された一端側から、前記第2のスラスト動圧軸受部,前記第1のスラスト動圧軸受部,前記ラジアル動圧軸受部の順に連結して形成された充填部を備えると共に、
前記スリーブは、前記充填部における、前記第1及び第2のスラスト動圧軸受部の間と前記第2のスラスト動圧軸受部及び前記ラジアル動圧軸受部の間を連結する連結孔を備えたことを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項3】
前記第2のスラスト動圧軸受部は、前記ロータ部の回転に伴い前記潤滑流体を前記ラジアル動圧軸受部に向けて移動させる力を発生するよう構成されてなることを特徴とする請求項1または2記載のスピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−329381(P2006−329381A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156866(P2005−156866)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】