スピン伝導素子
【課題】 Hanle効果を利用可能なスピン伝導素子を提供する。
【解決手段】 電子流源Eにより、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子流が供給されると、半導体層3内を電子が流れると共に、スピンが拡散する。このスピン流は、第2強磁性層2方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2強磁性層2内に吸収される。スピン伝導素子における第1配線8aに電流を供給すると、その周囲に磁場Bが発生するが、半導体層3Cをスピンが走行する領域内において、磁場Bが印加されると、磁場Bの影響を受けて、スピンの方向が変わる。したがって、この磁場Bを制御することで、第2強磁性層2内に吸収されるスピン量を制御することができる。
【解決手段】 電子流源Eにより、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子流が供給されると、半導体層3内を電子が流れると共に、スピンが拡散する。このスピン流は、第2強磁性層2方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2強磁性層2内に吸収される。スピン伝導素子における第1配線8aに電流を供給すると、その周囲に磁場Bが発生するが、半導体層3Cをスピンが走行する領域内において、磁場Bが印加されると、磁場Bの影響を受けて、スピンの方向が変わる。したがって、この磁場Bを制御することで、第2強磁性層2内に吸収されるスピン量を制御することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場を用いたスピン伝導素子に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
最近、スピン伝導素子に興味が集まっている。従来、スピンの流れ(スピン流)は電流に付随するものと考えられていたため、スピン単独の流れは知られていなかった。電流に付随したスピン流は、一般的に磁気抵抗効果を用いる広範囲の応用製品において利用されている。このような製品には、ハードディスクドライブ(HDD)における磁気ヘッド、磁気センサ、或いは磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)などがある。スピン伝導素子とは、従来からある電流に付随したスピン流を利用する素子と、スピン流のみを利用する素子の総称である。
【0003】
薄膜技術を利用したスピン伝導素子も注目されている。その応用例の一つが、Spin-MOSFETである(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。その他のスピン流に関する技術は、例えば特許文献4や非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4143644号
【特許文献2】特開2002−246487号公報
【特許文献3】特開平09−097906号公報
【特許文献4】特許第3818276号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F.J.Jedema et. al.、「Electrical detection of spin precession in a metallic mesoscopicspin valve」、Nature 416, 713、(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スピンの走行距離が長い場合には、外部磁場によりスピンの向きが影響を受け易くなる。このような場合、外部磁場が非常に弱い場合であっても、スピンが回転することとなり、スピンの向きに依存する正確な磁化情報は、伝達中に改変されることになる。スピンが伝達の初期段階において有する磁化情報は、スピンが初期段階に通過する強磁性体の磁化方向に依存する。伝達中に磁化情報が改変されると、これを収集した場合に、正確な情報は減少し、ノイズ情報は増加することになる。一般に、ノイズ情報の増加は、好ましいことではない。
【0007】
その一方で、磁化情報が改変してしまうという悪性を積極的に利用できれば、新しい技術となる可能性があるが、磁化情報の改変という現象、すなわち「Hanle効果」を積極的に利用することは不可能であると思われた。これは情報を書き換えるための「Hanle効果」を誘発させるためにはスピンが伝導する方向及びスピンの磁化方向に垂直な外部磁場が印加される必要がある。外部磁場が垂直方向から大きくずれた場合には外部磁場に対するスピンの回転が不均一になり、正確に情報を書き換えることが困難となる。
【0008】
本発明は、このような性質を積極的に利用した新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明に係るスピン伝導素子は、半導体層と、前記半導体層上に第1トンネル障壁層を介して設けられた第1強磁性層と、前記半導体層上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して設けられた第2強磁性層と、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第1配線と、を備えることを特徴とする。
【0010】
スピン流を利用する場合、第1及び第2強磁性層間を流れるスピン流を、磁場によって制御することで、このスピン伝導素子を、一時的なメモリなどに利用することができる。また、このスピン伝導素子において、磁気抵抗効果を利用する場合、第1及び第2強磁性層間を流れる電流のスピンを磁場によって制御することで、これらの間の磁気抵抗を制御することができ、このスピン伝導素子を、一時的なメモリなどに利用することができる。
【0011】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第1強磁性層側に設けられた第1電極と、前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第2強磁性層側に設けられた第2電極と、前記第1強磁性層と前記第1電極との間に電子を流す電子流源と、前記第2強磁性層と前記第2電極との間の電圧を測定する電圧測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
電子流源により、第1強磁性層と第1電極との間に電子流が供給されると、半導体層内を電子が流れるが、第1強磁性層下の第1トンネル障壁層と半導体層の界面からは、スピン流が拡散する。このスピン流は、第2強磁性層方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2トンネル障壁層を介して、第2強磁性層がスピンを感じ、第2強磁性層と第2電極との間には電圧が発生する。この電圧は、電圧測定手段によって検出される。スピン伝導素子における第1配線に電流を供給すると、その周囲に磁場が発生するが、半導体層のスピンが走行する領域内において、磁場が印加されると、磁場の影響を受けて、スピンの方向が変わる。したがって、この磁場を制御することで、第2強磁性層が感じるスピンの電位を制御することができる。したがって、このスピン伝達素子は、スピン伝導を利用した演算回路において、磁場が印加されたときのみ情報を書き換えることができる揮発メモリ、あるいはスピン流のゲート効果の素子として利用することができる。なお、第1及び第2トンネル障壁層は共通層であってもよい。
【0013】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは等しく、前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直であることを特徴とする。
【0014】
この場合、第1強磁性層側から流出するスピンの方向が、配線を流れる電流によって生成された磁場により、走行中に変化し、第2強磁性層に到達した時点では、スピンの向きを大きく変化させることで、第2強磁性層が感じるスピンの電位を変化させることができる。すなわち、走行中のスピンの方向が磁場によって大きく影響を受けるため、磁場による出力制御がより効果的になる。
【0015】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記第1配線を囲む第1磁気ヨークを更に備えることを特徴とする。この場合、第1配線の周囲に発生した磁場の磁気線が第1磁気ヨーク内を通ることとなり、第1磁気ヨーク内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層内に磁場を形成することができる。また、このときヨークの構造により伝導するスピンに対して垂直な磁場が印加されるため効率的なスピンの回転を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記第1配線と共に前記半導体層を挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第2配線を、更に備えることを特徴とする。
【0017】
この場合、第1配線の周囲に加えて、第2配線の周囲においても、磁場を発生させることができるため、これらの磁場の重畳により、大きな磁場を半導体層内に発生させることができる。したがって、磁場によるスピン方向制御が更に有効になる。
【0018】
前記第2配線を囲む第2磁気ヨークを更に備えることを特徴とする。この場合、第2配線の周囲に発生した磁場の磁気線が第2磁気ヨーク内を通ることとなり、第2磁気ヨーク内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層内に磁場を形成することができる。なお、第1及び第2磁気ヨークは、一体的に形成されていてもよい。
【0019】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、絶縁膜又はショットキ障壁から構成されていることを特徴とする。トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキ障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキ障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0020】
また、前記絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0021】
前記第2強磁性層の保持力は、前記第1強磁性層の保持力よりも大きいことを特徴とする。この場合、第2強磁性層の磁化方向は、第1強磁性層の磁化方向と比較して、動きにくい。したがって、このスピン伝導素子は、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子に用いることができる。
【0022】
また、本発明に係るスピン伝導素子においては、前記第2強磁性層に交換結合した反強磁性層を更に備えること、及び/又は、前記第2強磁性層が形状異方性を備えることにより、前記第2強磁性層の磁化方向が固定されていることを特徴とする。これらの手法によれば、第2強磁性層の磁化方向を有効に固定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるスピン伝導素子によれば、有効に「Hanle効果」を利用することができるため、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することが可能である。
【0024】
上記の発明はスピン伝導のみを利用した演算素子に限定されるものではない。スピン伝導と電流の効果である磁気抵抗効果を利用した場合には、前述の前記第1電極及び前記第2電極を削除した構造で、同様のことが実現できる。
【0025】
磁気抵抗効果を用いる場合、前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは反平行であり、前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直であることを特徴とする。この場合、垂直な磁場に対する応答が大きくなり、小さい磁場で大きな変調が可能になるという利点がある。また、スピン流を用いる場合、第1強磁性層の磁化方向と第2強磁性層の磁化方向とを平行にする場合、製造時において、磁場をかけて同時に熱処理を行えばよいので、製造が容易となる。
【0026】
また、上述のスピン伝導素子は、前記半導体層が中間絶縁層を介して形成される半導体基板と、前記半導体基板にゲート電圧を印加する電圧印加手段と、を備えることを特徴とする。この場合、ゲート電圧によって、第1及び第2強磁性層間を流れるスピン量又は電子量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】スピン伝導素子の斜視図である。
【図2】スピン伝導素子の平面図である。
【図3】スピン伝導素子のIII−III矢印断面図である。
【図4】スピン伝導素子のIV−IV矢印断面図である。
【図5】スピン伝導素子(変形例)の断面図である。
【図6】スピン伝導素子(変形例)の断面図である。
【図7】スピン伝導素子の平面図である。
【図8】スピン伝導素子のVIII−VIII矢印断面図である。
【図9】スピン伝導素子のIX−IX矢印断面図である。
【図10】スピン伝導素子の平面図である。
【図11】スピン伝導素子のXI−XI矢印断面図である。
【図12】スピン伝導素子のXII−XII矢印断面図である。
【図13】スピン伝導素子の平面図である。
【図14】スピン伝導素子のXIV−XIV矢印断面図である。
【図15】スピン伝導素子のXV−XV矢印断面図である。
【図16】スピン伝導素子の平面図である。
【図17】スピン伝導素子のXVII−XVII矢印断面図である。
【図18】スピン伝導素子のXVIII−XVIII矢印断面図である。
【図19】スピン伝導素子の平面図である。
【図20】スピン伝導素子のXX−XX矢印断面図である。
【図21】スピン伝導素子のXXI−XXI矢印断面図である。
【図22】スピン伝導素子におけるスピンの方向の回転について説明するための図である。
【図23】強磁性層の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施の形態に係るスピン伝導素子について説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0029】
図1は、第1実施形態に係るスピン伝導素子の斜視図であり、図2は、第1実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図3は、スピン伝導素子のIII−III矢印断面図、図4は、スピン伝導素子のIV−IV矢印断面図である。なお、基板厚み方向をZ軸とし、これに垂直な2軸をX軸及びY軸とする三次元直交座標系が設定される。
【0030】
このスピン伝導素子はSOI(Silicon On Insulator)基板3を備えている。SOI基板3は、半導体基板3Aと、中間絶縁層3Bと、半導体層3Cとを順次積層してなる基板である。半導体基板3A及び半導体層3CはSiからなり、中間絶縁層3BはAl2O3又はSiO2からなる。
【0031】
半導体層3Cは、周囲をエッチングすることによって直方体に加工されている。半導体層3Cの近傍には磁場発生用の第1配線8aが配置されている。第1配線8aは、半導体層3Cに併設され、これらの長手方向(X軸方向)が一致しており、これらは互いに平行に延びている。半導体層3Cの周囲は、絶縁膜7a,7b,7cによって囲まれている。絶縁膜7a,7b,7cは、本例ではSiO2からなるが、これはSiNx、MgO、Al2O3又はMgAl2O4からなることとしてもよい。なお、同図では、半導体層3Cの長手方向の両端部には絶縁膜が設けられていないが、これらの両端部の表面を絶縁膜で被覆することとしてもよい。
【0032】
半導体層3Cの側面は絶縁膜7a,7bで被覆されると共に、上面は絶縁膜7cで被覆されている。第1配線8aは、半導体層3Cの側面に絶縁層7cを介して設けられている。
【0033】
また、スピン伝導素子は、図3に示すように、X軸に沿って順次配置された第1強磁性層1と、第1電極4と、第2強磁性層2と、第2電極5とを備えている。第1強磁性層1は、半導体層3C上に第1トンネル障壁層71を介して設けられている。第1電極4は、半導体層3C上に設けられ、第1強磁性層1の近傍に配置されている。第2強磁性層2は、半導体層3C上に、第1強磁性層71から離間し、第2トンネル障壁層72を介して設けられている。第2電極5は、半導体層3C上に設けられており、第2強磁性層2の近傍に配置されている。
【0034】
第1配線8aは、電流源Iから、第1配線8aに電流iが供給されることにより、半導体層3Cにおける、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に領域内に、磁場Bを発生させるものである。電流源Iは、第1配線8aの両端部に電気的に接続されている。磁場Bは、X軸を囲む方向に発生しているため、半導体層3Cの内部においては、この厚み方向に平行に磁束が通っていることになる。
【0035】
スピン流を利用したスピン伝導素子は、図1に示すように、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子eを流す電子流源Eと、第2強磁性層2と第2電極5との間の電圧を測定する電圧測定回路(手段)Vとを備えている。
【0036】
電子流源Eにより、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子流が供給されると、半導体層3C内を電子が流れる。本例では、第1強磁性層1から第1電極4に電子が流れ(電流の向きは逆)、第1強磁性層1の直下の半導体領域内においてスピンが発生する。すなわち、第1強磁性層1の下の第1トンネル障壁層71と半導体層3Cの界面からは、スピン流が拡散する。このスピン流は、第2強磁性層2方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2トンネル障壁層72を介して、第2強磁性層2はスピン流が作る電位に応じて、第2強磁性層2と第2電極5との間には電圧が発生する。この電圧は、電圧測定回路Vによって検出される。
【0037】
図22は、スピン伝導素子におけるスピンの方向の回転について説明するための図である。
【0038】
スピン伝導素子における第1配線8aに電流を供給すると、その周囲に磁場Bが発生するが、半導体層3Cのスピンが走行する領域内において、磁場Bが印加されると、磁場の影響を受けて、図22の矢印によって示されるスピンの方向が変わる。したがって、この磁場を制御することで、第2強磁性層が感じるスピン電位を制御することができる。したがって、このスピン伝達素子は、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することができる。なお、図3に示した第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は共通層であってもよい。
【0039】
また、図2に示すように、第1強磁性層1の磁化方向D1と第2強磁性層2の磁化方向D2とは等しく、共にY軸の正方向を向いており、半導体層3Cの位置における磁場Bの方向は、第1又は第2強磁性層1,2の磁化方向D1,D2に対して垂直である。
【0040】
この場合、第1強磁性層1側から流出するスピンの方向が、配線8aを流れる電流によって生成された磁場Bにより、半導体層3Cの走行中に変化し、第2強磁性層2に到達した時点では、スピンの向きを大きく変化させ、第2強磁性層が感じるスピン電位を変化させることができる(図22参照)。すなわち、走行中のスピンの方向が磁場Bによって大きく影響を受けるため、磁場Bによる出力制御がより効果的になる。
【0041】
第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は、絶縁膜から構成されている。これらのトンネル障壁層はショットキ障壁(半導体層に金属層を接触させる)から構成することも可能であるし、また、トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキ障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキ障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0042】
また、第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72を構成する絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなる。これらの材料の場合、スピンのトンネルが効果的に行え、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0043】
なお、第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は、上記被覆用の絶縁膜7cと共通にすることもできる。
【0044】
また、図5に示すように絶縁膜7a,7b,7cのうち、絶縁膜7bを省略することも可能であるし、図6に示すように絶縁膜7b,7cを省略することも可能である。
【0045】
図7は、第2実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図8は、スピン伝導素子のVIII−VIII矢印断面図、図9は、スピン伝導素子のIX−IX矢印断面図である。
【0046】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1配線8aを囲む第1磁気ヨーク9aを更に備えている。磁気ヨーク9aを構成する材料としては、例えばNi、Fe、Coのうち少なくとも一つの元素を含む金属からなる強磁性体が好適であり、例えばNiFeを用いることができる。第2実施形態のスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと比較して、第1磁気ヨーク9aを備え、磁気ヨーク9aと配線8cとの間には絶縁層7xが介在している。かかる点を除いて、第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のものと同一である。絶縁層7xは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0047】
第2実施形態のスピン伝導素子においては、第1配線8aの周囲に発生した磁場Bの磁気線が第1磁気ヨーク9a内を通ることとなり、第1磁気ヨーク9a内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層3C内に磁場Bを形成することができる。
【0048】
磁気ヨーク9aの形状は、Z軸方向からみた場合(図7)長方形であり、Y軸方向からみた場合(図8)も長方形であり、X軸方向からみた場合(図9)は四角環の一部が欠けた形状となる。磁気ヨーク9aは、X軸を中心として第1配線8aを取り囲むように配置されているが、第1強磁性層1と第2強磁性層2の間に位置する半導体層3Cの領域を覆っている。換言すれば、本実施形態においては、磁気ヨーク9による磁気回路内に半導体層3Cが配置されている。
【0049】
図10は、第3実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図11は、スピン伝導素子のXI−XI矢印断面図、図12は、スピン伝導素子のXII−XII矢印断面図である。
【0050】
第3実施形態のスピン伝導素子は、第2配線8bを備えている。第2配線8bは、第1配線8aと共に半導体層3Cを挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、半導体層3Cにおける、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に領域内に、磁場Bを発生させる。第3実施形態のスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと比較して、第2配線8bを備えている点以外は、同一である。
【0051】
この場合、第1配線8aの周囲に加えて、第2配線8bの周囲においても、磁場を発生させることができ、これらの磁場Bの重畳により、少ない電流で大きな磁場を半導体層内に発生させることができる。したがって、磁場Bによるスピン方向制御が更に有効になる。なお、第1配線8aと第2配線8bを流れる電流の方向は逆方向であり、磁場の回転の向きも逆となる。また、第1配線8aには電流源から電流が供給されるが、第2配線8bにも図示しない電流源から電流が供給される。
【0052】
図13は、第4実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図14は、スピン伝導素子のXIV−XIV矢印断面図、図15は、スピン伝導素子のXV−XV矢印断面図である。
【0053】
第4実施形態のスピン伝導素子は、第3実施形態のスピン伝導素子と比較すると、第2磁気ヨーク9を更に備え、磁気ヨーク9と配線8a,8bとの間には絶縁層7x,7yがそれぞれ介在している。第4実施形態のスピン伝導素子の構成は、これらの点を除いて、第3実施形態のものと同一である。絶縁層7x,7yは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0054】
本例の磁気ヨーク9は、第1磁気ヨーク9aと第2磁気ヨーク9bを一体化した形状を有している。これらの磁気ヨーク9a,9bの仮想的境界線を図15の点線で示す。第1磁気ヨーク9aの基本形状は、基本的に第2実施形態に示した磁気ヨークと同じであるが、Y軸方向の長さが少し短い。第2磁気ヨーク9bの形状は、第1磁気ヨーク9aの形状と同一であり、これらの磁気ヨーク9a,9bはYZ平面に対して鏡対称の関係にある。
【0055】
第1磁気ヨーク9aは第1配線8aをX軸回りに囲んでいるが、第2磁気ヨーク9bは第2配線8bをX軸周りに囲んでいる。第1配線8aの周囲に発生した磁場Bの磁気線が第1磁気ヨーク9a内を通ることとなり、第1磁気ヨーク9a内における磁束密度は高くなる。また、第2配線8bの周囲に発生した磁場の磁気線が第2磁気ヨーク9b内を通ることとなり、第2磁気ヨーク9b内における磁束密度も高くなる。したがって、これらの磁場Bの重畳により、効率的に半導体層3C内に磁場Bを形成することができる。なお、第1ヨーク9a及び第2磁気ヨーク9bは、一体的に形成されているが、分離されていてもよい。
【0056】
図16は、第5実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図17は、スピン伝導素子のXVII−XVII矢印断面図、図18は、スピン伝導素子のXVIII−XVIII矢印断面図である。
【0057】
第5実施形態に係るスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子と比較して、第1配線8aに代えて、第3配線8cを半導体層3Cの上方に配置すると共に、第1強磁性層1及び第2強磁性層2の磁化方向D1,D2をX軸正方向としたものである。絶縁膜7cと第3配線8cとの間には、表面を平坦化するための被覆層10が介在しており、第3配線8cは、半導体層3C上に形成された被覆層10の表面上に形成され、X軸方向に沿って延びている。これらの点を除いて、第5実施形態にかかるスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと同一である。被覆層10は適当な絶縁体からなり、SiO2やSiNxなどの無機絶縁体の他、フォトレジストなどの有機物を用いることも可能である。
【0058】
第3配線8cへは、電流源から電流が供給されるが、この電流はX軸に沿って流れる。第3配線8cの周囲にX軸を囲む磁力線が通る磁場Bが発生する。磁化方向D1,D2と、磁場Bの向きは、半導体層3C内において直交している。この場合、磁場Bの影響によって、第1強磁性層1から第2強磁性層2に向かうスピンの向きが回転し、磁場Bに依存して、第2強磁性層2と第2電極5との間の電圧、すなわち出力電圧の大きさが変動する。この電圧は、電圧測定回路によって検出される。
【0059】
図19は、第6実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図20は、スピン伝導素子のXX−XX矢印断面図、図21は、スピン伝導素子のXXI−XXI矢印断面図である。
【0060】
第6実施形態に係るスピン伝導素子は、第5実施形態のスピン伝導素子と比較して、第3配線8c及び被覆層10のY軸方向幅を大きくし、周囲を磁気ヨーク9で囲み、磁気ヨーク9と配線8cとの間には絶縁層7xを介在させた点が異なり、これらの点を除いて、第6実施形態にかかるスピン伝導素子の構成は、第5実施形態のものと同一である。絶縁層7xは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0061】
磁気ヨーク9の形状は、Z軸方向から見た場合(図19)は長方形であり、Y軸方向から見た場合(図20)も長方形であり、X軸方向から見た場合(図21)は四角環の一部分を切り取った形状であり、切り取られた部分に半導体層3Cが位置する。磁気ヨーク9は、X軸の周囲を囲んでいるが、この周方向の両端部が、半導体層3Cの2側面(XZ平面)にそれぞれ隣接している。換言すれば、本実施形態においても、磁気ヨーク9による磁気回路内に半導体層3Cが配置されている。
【0062】
この構造においても、配線3cの両端には電流源が接続され、配線8cが延びるX軸を囲む磁力線は、効率的に半導体層3C内に導入され、半導体層3Cの内部においても磁場が有効に発生する。したがって、第1強磁性層1から注入されたスピンが、第2強磁性層2に拡散する際に、磁場Bによる影響を受けることになる。
【0063】
上記の実施形態においてSOI基板を用いた場合、スピンが伝導する半導体層3Cに、中間絶縁層3Bを介して半導体基板3Aから、ゲート電圧を印加することが可能である。半導体基板3Aにゲート電圧を印加すると、中間絶縁層3Bを介して、半導体層3Cにおけるゲート電位が変化する。これにより、半導体層3C内におけるスピンの伝導特性が変化し、外部磁場に対する出力変化及び外部磁場に対する感度を変化させることが可能になる。すなわち、ゲート電圧を制御することで、第2強磁性層2側へ到達するスピン又は電子量を制御することができる。ゲート電圧を印加するため、半導体基板3Aにはゲート電圧印加回路(電圧印加手段:図示せず)を接続し、第1強磁性層1と第2強磁性層2の間の領域において、抵抗値を下げるための不純物を印加しておくことが好ましい。
【0064】
次に、上述の第1〜第6実施形態における磁化方向について補足説明を行う。
【0065】
図23は、強磁性層の縦断面図である。図23(A)は、第1強磁性層1の詳細な構造を示しており、図23(B)は、第2強磁性層2の詳細な構造を示している。第1〜第4実施形態においては、第1強磁性層1の磁化方向D1と、第2強磁性層2の磁化方向D2は、Y軸に平行であり、同一方向であって、共に固定されている。磁化方向の固定には、反強磁性層を強磁性層に交換結合させる方法と、強磁性層のXY平面内におけるアスペクト比を高めることで形状異方性を担保する方法とがある。これらの方法は、単独で用いることもできるが、双方を用いることも可能である。これらの手法によれば、第1及び第2強磁性層の磁化方向を有効に固定することができる。第5及び第6実施形態の場合には、X軸方向に磁化方向が固定されているため、反強磁性層を利用する方法を用いる。
【0066】
第1強磁性層1の磁化方向の固定に反強磁性層を用いる場合、図23(A)に示すように、トンネル障壁層71上に、強磁性層1、反強磁性層1H、保護膜1Pを順次積層し、強磁性層1と反強磁性層1Hとは交換結合をさせる。なお、保護膜1Pにはコンタクトホールを空けてから、コンタクトホール内に配線層1wを形成し、これを反強磁性層1Hに接触させる。
【0067】
第2強磁性層2の磁化方向の固定に反強磁性層を用いる場合、図23(B)に示すように、トンネル障壁層72上に、強磁性層2、反強磁性層2H、保護膜2Pを順次積層し、強磁性層1と反強磁性層1Hとは交換結合をさせる。なお、保護膜2Pにはコンタクトホールを空けてから、コンタクトホール内に配線層2wを形成し、これを反強磁性層2Hに接触させる。
【0068】
形状異方性を利用する場合、第1強磁性層1及び第2強磁性層2において、それぞれのY軸方向の寸法をX軸方向の寸法よりも長くすることで、磁化方向をY軸方向に沿わせることができる。この場合のアスペクト比(Y/X)は、3以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましい。
【0069】
上記の強磁性層は、Cr、Mn、Co、Fe、Niの少なくとも一つを含む金属又はこの金属を含む合金である。強磁性層は、B、C、Nのうち少なくとも一種類の元素を含み、この元素を化合した化合物とすることもできる。上述の例では、強磁性層はCoFeである。
【0070】
上記の反強磁性層の材料としては、FeMn、IrMn、PtMn、又はNiMn等のMn合金を用いることができる。
【0071】
上述のスピン伝導素子は、第1及び第2強磁性層に加えて第1及び第2電極を備えており、合計で4つの端子を備えている。この場合、第2強磁性層2の直下においてはスピン蓄積が生じ、この場合は、スピン流のみを利用するスピン伝導素子として機能する。スピン流のみを利用するスピン伝導素子の場合は、磁化方向に関して、以下の場合(A1〜A3)がある。
【0072】
(A1)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が同一である(平行)場合について説明する。第1強磁性層1の磁化方向D1と、第2強磁性層2の磁化方向D2とを共に固定した場合、特定の偏極方向を有するスピン流の第2強磁性層2の直下の領域でのスピン分極率の制御因子は、配線によって形成される外部磁場Bである。外部磁場Bによって、多くのスピンが回転した場合には、このスピン分極率はスピンの回転した位相と磁場による減衰の関数として出力電圧が減少し、スピンが回転しない場合にはスピン分極率は伝播距離を関数として出力が減衰する。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場Bを変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。
【0073】
(A2)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が反対である(反平行)場合について説明する。第1強磁性層1の磁化方向と第2強磁性層2の磁化方向とを反対に設定する方法も考えられる。この場合、磁場Bに応じた出力電圧の論理構造が、上記(A1)の場合と異なるのみであり、上記と同様に、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。
【0074】
(A3)磁化方向D1及びD2の一方を固定し、他方を固定しない場合について説明する。すなわち、第1強磁性層1の磁化方向D1を固定しないで、第2強磁性層2の磁化方向D2を固定する構造も考えられる。この場合、第2強磁性層2の保持力は、第1強磁性層1の保持力よりも大きくなる。保持力の大きさは、上述のように、反強磁性層を用いるか、アスペクト比を高くすることで大きくすることができる。この場合、第2強磁性層2の磁化方向は、第1強磁性層1の磁化方向と比較して、動きにくい。もちろん、第1強磁性層1は、多少の異方性を有しており、単磁区化されており、磁場を印加しない状態においても、磁化方向は緩やかに一定の方向を向く傾向がある。換言すれば、第1強磁性層1の磁化方向を、外部磁場や、スピン注入により変更すると、出力電圧が変わることになり、第1磁性層1の磁化方向を、1つの情報として記憶している。配線による磁場も出力電圧の制御因子である。スピン流の伝達過程において、磁場を印加すると、第2強磁性層2の直下の領域での特定偏極のスピンの分極率が変動するため、磁化方向に加えて、磁場の有無を制御することで、演算機能を有することができる。したがって、このスピン伝導素子は、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。また、第1強磁性層1の磁化方向を被計測磁場により変動させる場合には、このスピン伝導素子は、被計測磁場の計測センサとしても用いることができ、この場合、配線によって発生する外部磁場Bは、出力電圧のオン・オフに用いることができる。
【0075】
なお、上述の構造において、上記スピン伝導素子を、磁気抵抗効果を利用したスピン伝導素子として機能させることもできる。この場合、上述の4つの端子のうち、使用するのは第1及び第2強磁性層の2端子であり、第1及び第2電極は使用しない。すなわち、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に電子流源を接続してこれらの間に、特定偏極のスピンを有する電子を流すと共に、これらの間に電圧検出装置も接続し、磁気抵抗効果によって変動するこれらの端子間の電圧も計測する。磁気抵抗効果を利用するスピン伝導素子の場合は、磁化方向に関して、以下の場合(B1〜B3)がある。
【0076】
(B1)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が同一である(平行)場合について説明する。磁場Bを印加しない場合には、原則的には、走行中のスピンが回転しないため、特定の偏極スピンを有する電子が、第2強磁性層2に到達した場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層1との間の磁気抵抗は小さくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧は小さくなる。磁場Bを印加すると、スピンが回転するため、磁気抵抗が大きくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧が大きくなる。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場を変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができ、小さい磁場印加で高効率の変化を実現できるという利点がある。
【0077】
(B2)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が反対である(反平行)場合について説明する。この場合、磁化方向が同一(平行)な場合と比較して、出力電圧の論理が異なることになる。磁場Bを印加しない場合には、原則的には、走行中のスピンが回転しないが、磁化方向D1,D2は逆向きのため、特定の偏極スピンを有する電子が、第2強磁性層2に到達した場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層1との間の磁気抵抗は大きなままであり、電子流量を一定にすると、出力電圧は大きくなる。磁化方向に垂直な磁場Bを印加すると、高い均一性でスピンが回転するため、磁気抵抗が小さくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧が小さくなる。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場Bを変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができ、小さい磁場印加で高効率の変化を実現できるという利点がある。
【0078】
(B3)磁化方向D1及びD2の一方を固定し、他方を固定しない場合について説明する。
すなわち、第1強磁性層1の磁化方向D1を固定しないで、第2強磁性層2の磁化方向D2を固定する場合、第2強磁性層2の保持力は、第1強磁性層1の保持力よりも大きくなる。保持力の大きさは、上述のように、反強磁性層を用いるか、アスペクト比を高くすることで大きくすることができる。この場合、第2強磁性層2の磁化方向は、第1強磁性層1の磁化方向と比較して、動きにくい。もちろん、第1強磁性層1は、多少の異方性を有しており、単磁区化されており、磁場を印加しない状態においても、磁化方向は緩やかに一定の方向を向く傾向がある。換言すれば、第1強磁性層1の磁化方向を、外部磁場や、スピン注入により変更すると、出力電圧が変わることになり、第1磁性層1の磁化方向を、1つの情報として記憶している。配線による磁場Bも出力電圧の制御因子である。電子流の伝達過程において、磁場を印加すると、第2強磁性層2の直下の領域への特定偏極のスピンの到達率が変動するため、磁化方向に加えて、磁場の有無を制御することで、演算機能を有することができる。したがって、このスピン伝導素子は、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。また、第1強磁性層1の磁化方向を被計測磁場により変動させる場合には、このスピン伝導素子は、被計測磁場の計測センサとしても用いることができ、この場合、配線によって発生する外部磁場Bは、出力電圧のオン・オフに用いることができる。
【0079】
次に、上述のスピン伝導素子の製造方法について説明する。
【0080】
(第1実施形態の場合)
【0081】
まず、Siからなる半導体基板上にAl2O3からなる中間絶縁層及びSiからなる半導体層を堆積してなるSOI基板を用意し、半導体層表面のクリーニングを行い、表面の不純物及び酸化物を除去する。次に、半導体層の表面から不純物を添加し、半導体層の表層の不純物濃度を増加させ、表層における電子状態を変更する。不純物添加には、イオン注入法を用いることができるが、不純物としては、PやSbを採用することができる。
【0082】
MBE(分子線エピタキシー)法を用いて、半導体層の表面に、厚さ1nm程度のトンネル障壁層としての絶縁膜(MgO、Al2O3又はMgAl2O4)を形成し、続いて、スパッタ法により、トンネル障壁層上に強磁性層を形成する。強磁性層としては、例えばFeを用い、その上に、スパッタ法により、Ru層及びTa層を順次堆積して、これらの層からハードマスクを形成する。なお、ハードマスクの形成前に、強磁性層上に上述の反強磁性層を堆積することとしてもよい。磁化方向の固定のために、必要に応じて熱と磁場を強磁性層に印加することができる。次に、フォトレジストをハードマスク上に塗布し、フォトリソグラフィを用いて、長方形のチャネル領域が残留するように、チャネル領域周囲のハードマスクをイオンミリング又はドライエッチングして除去する。
【0083】
しかる後、このハードマスクを用いて、Siからなる半導体層を中間絶縁層に到達するまでエッチングする。このエッチングには、ウエットエッチング又は反応性ドライエッチング(RIE)などのドライエッチングを用いることができる。
【0084】
次に、イオンミリングを用いてハードマスクを除去し、強磁性層を露出させる。露出した強磁性層の表面にネガ型の電子線レジストを塗布し、このレジスト表面を電子線でY軸に平行に2箇所走査し、一対の細長い露光パターンを形成し、現像処理を行うことで、細長いレジストパターンを残留させる。このレジストパターンをマスクとして、強磁性層を半導体層の表面が露出するまでイオンミリングして、レジストパターンと同一形状の第1強磁性層及び第2強磁性層を画成する。
【0085】
次に、露出した半導体層の表面に絶縁膜を形成する。この絶縁膜は、シリコン酸化膜からなり、SiO2からなる半導体層の両側面及び上面を被覆する。この絶縁膜の形成にはスパッタ法を用いることができるが、Siの熱酸化を用いることも可能である。更に、この絶縁膜上に、2箇所が開口したレジストパターンを、フォトリソグラフィによって形成し、開口内に露出した絶縁膜をフッ酸水溶液等を用いたウエットエッチング又は、ドライエッチングを用いて除去し、半導体層の表面を露出させる。一対の開口内に露出した半導体層の表面上に上述の第1電極及び第2電極を堆積させる。それぞれの第1電極及び第2電極は、界面抵抗の小さなAl層を用いることができる。
【0086】
しかる後、半導体層の側面上に上記絶縁膜を介して第1配線を形成する。第1配線は、この配線の形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に第1配線を埋め込むことによって形成する。第1配線の材料としてはCuなどの金属を用いることができ、埋め込み形成の方法としては、メッキ法やスパッタ法を用いることができる。
【0087】
なお、SOI基板を用いた場合には、半導体層の厚みが大きいことによる影響を抑制することができるという効果があるが、かかる効果を期待しない場合には、最初に用意する基板はSOI基板でなく、Si基板であってもよい。また、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第2実施形態の場合)
【0088】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子に磁気ヨークを形成したものである。したがって、第2実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線の形成工程までは、第1実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なる。
【0089】
磁気ヨークの前に、磁気ヨークと配線との絶縁をとるため、図9に示した絶縁層7xを形成しておく。この絶縁層の形成においては、形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に絶縁層をスパッタ法で堆積する。なお、図9においては、必要な箇所のみに絶縁層7xが形成されているが、磁気ヨークの形成前においては全面に絶縁層を形成していてもよい。
【0090】
この絶縁層の形成後、磁気ヨークの形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に磁気ヨークを堆積する。この堆積には、スパッタ法を用いることができる。或いは、磁気ヨークの形成予定領域のみにレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、その周囲の表面をSiO2などの絶縁層で被覆した後、レジストパターンを除去し、除去した後に現れた開口内に、スパッタ法で磁気ヨーク材料を堆積し、その露出表面側から化学機械研磨を行うことで、表面を平坦化する方法を採用することもできる。この場合、磁気ヨークの周囲は絶縁層で囲まれることになる。なお、第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置している。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
【0091】
(第3実施形態の場合)
【0092】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子において配線数が1本から2本に増加したものである。したがって、第3実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線8aの形成工程において、これと同一の工程で、第2配線8bを形成する点のみが第1実施形態の場合と相違し、残りの工程は同一である。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第4実施形態の場合)
【0093】
第4実施形態のスピン伝導素子は、第3実施形態のスピン伝導素子において、磁気ヨークを形成したものである。したがって、第4実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線及び第2配線の形成工程までは、第3実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なり、残りの工程は同一である。磁気ヨークの形成工程は、その形状を除いて、第2実施形態の場合と同一であり、形成前には絶縁をとるための絶縁層7x、7yを、第2実施形態と同様に形成する。第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置していたが、第3実施形態では、双方の端部が半導体層の外側に位置している。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第5実施形態の場合)
【0094】
第5実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子において配線の位置を半導体層の上部に変更したものである。したがって、第5実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線8aの形成工程において、その形成位置を、第3配線8cの形成位置に変更した点のみが第1実施形態の場合と相違し、残りの工程は同一である。もちろん、形成前に、半導体層上部の絶縁膜上に、被覆層10をスパッタ法で形成しておき、第3配線8cは、この上に形成する(図17参照)。第3配線8cを形成する場合のエッチングにおいては、そのレジストを用いて被覆層10もエッチングする。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第6実施形態の場合)
【0095】
第6実施形態のスピン伝導素子は、第5実施形態のスピン伝導素子において配線の寸法を変更し、磁気ヨークを設けたものである。したがって、第5実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第3配線の形成工程までは、そのY軸寸法を広げた点を除いて、第5実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なり、残りの工程は同一である。磁気ヨークの形成工程は、その形状を除いて、第2実施形態の場合と同一であり、形成前には絶縁をとるための絶縁層7xを、第2実施形態と同様に形成する。第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置していたが、第3実施形態では、双方の端部が半導体層の外側に位置している。また、半導体層の側方に隣接する磁気ヨーク下部領域(半導体層側の領域)をパターニング形成した後に、この上に、YZ断面が逆U文字型の磁気ヨークを形成してもよい。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。なお、磁気抵抗効果を用いたスピン伝導素子の場合には、第1電極及び第2電極は形成するには及ばない。
【0096】
以上、説明したように、本発明のスピン伝導デバイスは、第1強磁性層1と第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することができる。そして、このように磁化情報が改変するという性質を積極的に利用すれば、外部磁場をスピン伝導経路に印加することによって、スピンの有する磁化情報を伝播中に変調或いは消去することが可能である。また、十分なスピン寿命と電極間距離があれば、スピンの回転振動を利用したデータの書き換えも可能である。なお、不要な磁場が半導体層3C内に発生しないようにするには、チャネルとしてのスピン伝導経路の周囲に磁気シールドを形成すればよい。
【0097】
なお、強磁性層の磁化方向は、上述のように、スピン流のみを用いる非局所配置の場合であっても、磁気抵抗効果を用いる場合であっても、どのような向きであっても使用することが可能であり、前者の非局所配置の場合には、磁化方向を平行とする場合と、反平行とする場合において、出力結果に差は生じないが、製造段階においては、同一方向に磁場をかけて強磁性層を加熱することで、磁化方向を平行とする方が容易であるため、第1及び第2強磁性層の磁化方向は平行であることが好ましい。一方、後者の磁気抵抗効果を用いる配置の場合には、第1及び第2強磁性層の磁化方向を反平行とした方が、平行とした場合よりも、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【符号の説明】
【0098】
3A・・・半導体基板、3B・・・中間絶縁層、3C・・・半導体層、8a,8b,8c・・・磁場発生用の配線、I・・・電流源、E・・・電子流源、V・・・電圧測定回路、7a,7b,7c・・・絶縁膜、71,72・・・トンネル障壁層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場を用いたスピン伝導素子に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
最近、スピン伝導素子に興味が集まっている。従来、スピンの流れ(スピン流)は電流に付随するものと考えられていたため、スピン単独の流れは知られていなかった。電流に付随したスピン流は、一般的に磁気抵抗効果を用いる広範囲の応用製品において利用されている。このような製品には、ハードディスクドライブ(HDD)における磁気ヘッド、磁気センサ、或いは磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)などがある。スピン伝導素子とは、従来からある電流に付随したスピン流を利用する素子と、スピン流のみを利用する素子の総称である。
【0003】
薄膜技術を利用したスピン伝導素子も注目されている。その応用例の一つが、Spin-MOSFETである(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。その他のスピン流に関する技術は、例えば特許文献4や非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4143644号
【特許文献2】特開2002−246487号公報
【特許文献3】特開平09−097906号公報
【特許文献4】特許第3818276号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F.J.Jedema et. al.、「Electrical detection of spin precession in a metallic mesoscopicspin valve」、Nature 416, 713、(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スピンの走行距離が長い場合には、外部磁場によりスピンの向きが影響を受け易くなる。このような場合、外部磁場が非常に弱い場合であっても、スピンが回転することとなり、スピンの向きに依存する正確な磁化情報は、伝達中に改変されることになる。スピンが伝達の初期段階において有する磁化情報は、スピンが初期段階に通過する強磁性体の磁化方向に依存する。伝達中に磁化情報が改変されると、これを収集した場合に、正確な情報は減少し、ノイズ情報は増加することになる。一般に、ノイズ情報の増加は、好ましいことではない。
【0007】
その一方で、磁化情報が改変してしまうという悪性を積極的に利用できれば、新しい技術となる可能性があるが、磁化情報の改変という現象、すなわち「Hanle効果」を積極的に利用することは不可能であると思われた。これは情報を書き換えるための「Hanle効果」を誘発させるためにはスピンが伝導する方向及びスピンの磁化方向に垂直な外部磁場が印加される必要がある。外部磁場が垂直方向から大きくずれた場合には外部磁場に対するスピンの回転が不均一になり、正確に情報を書き換えることが困難となる。
【0008】
本発明は、このような性質を積極的に利用した新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明に係るスピン伝導素子は、半導体層と、前記半導体層上に第1トンネル障壁層を介して設けられた第1強磁性層と、前記半導体層上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して設けられた第2強磁性層と、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第1配線と、を備えることを特徴とする。
【0010】
スピン流を利用する場合、第1及び第2強磁性層間を流れるスピン流を、磁場によって制御することで、このスピン伝導素子を、一時的なメモリなどに利用することができる。また、このスピン伝導素子において、磁気抵抗効果を利用する場合、第1及び第2強磁性層間を流れる電流のスピンを磁場によって制御することで、これらの間の磁気抵抗を制御することができ、このスピン伝導素子を、一時的なメモリなどに利用することができる。
【0011】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第1強磁性層側に設けられた第1電極と、前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第2強磁性層側に設けられた第2電極と、前記第1強磁性層と前記第1電極との間に電子を流す電子流源と、前記第2強磁性層と前記第2電極との間の電圧を測定する電圧測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
電子流源により、第1強磁性層と第1電極との間に電子流が供給されると、半導体層内を電子が流れるが、第1強磁性層下の第1トンネル障壁層と半導体層の界面からは、スピン流が拡散する。このスピン流は、第2強磁性層方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2トンネル障壁層を介して、第2強磁性層がスピンを感じ、第2強磁性層と第2電極との間には電圧が発生する。この電圧は、電圧測定手段によって検出される。スピン伝導素子における第1配線に電流を供給すると、その周囲に磁場が発生するが、半導体層のスピンが走行する領域内において、磁場が印加されると、磁場の影響を受けて、スピンの方向が変わる。したがって、この磁場を制御することで、第2強磁性層が感じるスピンの電位を制御することができる。したがって、このスピン伝達素子は、スピン伝導を利用した演算回路において、磁場が印加されたときのみ情報を書き換えることができる揮発メモリ、あるいはスピン流のゲート効果の素子として利用することができる。なお、第1及び第2トンネル障壁層は共通層であってもよい。
【0013】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは等しく、前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直であることを特徴とする。
【0014】
この場合、第1強磁性層側から流出するスピンの方向が、配線を流れる電流によって生成された磁場により、走行中に変化し、第2強磁性層に到達した時点では、スピンの向きを大きく変化させることで、第2強磁性層が感じるスピンの電位を変化させることができる。すなわち、走行中のスピンの方向が磁場によって大きく影響を受けるため、磁場による出力制御がより効果的になる。
【0015】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記第1配線を囲む第1磁気ヨークを更に備えることを特徴とする。この場合、第1配線の周囲に発生した磁場の磁気線が第1磁気ヨーク内を通ることとなり、第1磁気ヨーク内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層内に磁場を形成することができる。また、このときヨークの構造により伝導するスピンに対して垂直な磁場が印加されるため効率的なスピンの回転を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係るスピン伝導素子は、前記第1配線と共に前記半導体層を挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第2配線を、更に備えることを特徴とする。
【0017】
この場合、第1配線の周囲に加えて、第2配線の周囲においても、磁場を発生させることができるため、これらの磁場の重畳により、大きな磁場を半導体層内に発生させることができる。したがって、磁場によるスピン方向制御が更に有効になる。
【0018】
前記第2配線を囲む第2磁気ヨークを更に備えることを特徴とする。この場合、第2配線の周囲に発生した磁場の磁気線が第2磁気ヨーク内を通ることとなり、第2磁気ヨーク内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層内に磁場を形成することができる。なお、第1及び第2磁気ヨークは、一体的に形成されていてもよい。
【0019】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、絶縁膜又はショットキ障壁から構成されていることを特徴とする。トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキ障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキ障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0020】
また、前記絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0021】
前記第2強磁性層の保持力は、前記第1強磁性層の保持力よりも大きいことを特徴とする。この場合、第2強磁性層の磁化方向は、第1強磁性層の磁化方向と比較して、動きにくい。したがって、このスピン伝導素子は、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子に用いることができる。
【0022】
また、本発明に係るスピン伝導素子においては、前記第2強磁性層に交換結合した反強磁性層を更に備えること、及び/又は、前記第2強磁性層が形状異方性を備えることにより、前記第2強磁性層の磁化方向が固定されていることを特徴とする。これらの手法によれば、第2強磁性層の磁化方向を有効に固定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるスピン伝導素子によれば、有効に「Hanle効果」を利用することができるため、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することが可能である。
【0024】
上記の発明はスピン伝導のみを利用した演算素子に限定されるものではない。スピン伝導と電流の効果である磁気抵抗効果を利用した場合には、前述の前記第1電極及び前記第2電極を削除した構造で、同様のことが実現できる。
【0025】
磁気抵抗効果を用いる場合、前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは反平行であり、前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直であることを特徴とする。この場合、垂直な磁場に対する応答が大きくなり、小さい磁場で大きな変調が可能になるという利点がある。また、スピン流を用いる場合、第1強磁性層の磁化方向と第2強磁性層の磁化方向とを平行にする場合、製造時において、磁場をかけて同時に熱処理を行えばよいので、製造が容易となる。
【0026】
また、上述のスピン伝導素子は、前記半導体層が中間絶縁層を介して形成される半導体基板と、前記半導体基板にゲート電圧を印加する電圧印加手段と、を備えることを特徴とする。この場合、ゲート電圧によって、第1及び第2強磁性層間を流れるスピン量又は電子量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】スピン伝導素子の斜視図である。
【図2】スピン伝導素子の平面図である。
【図3】スピン伝導素子のIII−III矢印断面図である。
【図4】スピン伝導素子のIV−IV矢印断面図である。
【図5】スピン伝導素子(変形例)の断面図である。
【図6】スピン伝導素子(変形例)の断面図である。
【図7】スピン伝導素子の平面図である。
【図8】スピン伝導素子のVIII−VIII矢印断面図である。
【図9】スピン伝導素子のIX−IX矢印断面図である。
【図10】スピン伝導素子の平面図である。
【図11】スピン伝導素子のXI−XI矢印断面図である。
【図12】スピン伝導素子のXII−XII矢印断面図である。
【図13】スピン伝導素子の平面図である。
【図14】スピン伝導素子のXIV−XIV矢印断面図である。
【図15】スピン伝導素子のXV−XV矢印断面図である。
【図16】スピン伝導素子の平面図である。
【図17】スピン伝導素子のXVII−XVII矢印断面図である。
【図18】スピン伝導素子のXVIII−XVIII矢印断面図である。
【図19】スピン伝導素子の平面図である。
【図20】スピン伝導素子のXX−XX矢印断面図である。
【図21】スピン伝導素子のXXI−XXI矢印断面図である。
【図22】スピン伝導素子におけるスピンの方向の回転について説明するための図である。
【図23】強磁性層の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施の形態に係るスピン伝導素子について説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0029】
図1は、第1実施形態に係るスピン伝導素子の斜視図であり、図2は、第1実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図3は、スピン伝導素子のIII−III矢印断面図、図4は、スピン伝導素子のIV−IV矢印断面図である。なお、基板厚み方向をZ軸とし、これに垂直な2軸をX軸及びY軸とする三次元直交座標系が設定される。
【0030】
このスピン伝導素子はSOI(Silicon On Insulator)基板3を備えている。SOI基板3は、半導体基板3Aと、中間絶縁層3Bと、半導体層3Cとを順次積層してなる基板である。半導体基板3A及び半導体層3CはSiからなり、中間絶縁層3BはAl2O3又はSiO2からなる。
【0031】
半導体層3Cは、周囲をエッチングすることによって直方体に加工されている。半導体層3Cの近傍には磁場発生用の第1配線8aが配置されている。第1配線8aは、半導体層3Cに併設され、これらの長手方向(X軸方向)が一致しており、これらは互いに平行に延びている。半導体層3Cの周囲は、絶縁膜7a,7b,7cによって囲まれている。絶縁膜7a,7b,7cは、本例ではSiO2からなるが、これはSiNx、MgO、Al2O3又はMgAl2O4からなることとしてもよい。なお、同図では、半導体層3Cの長手方向の両端部には絶縁膜が設けられていないが、これらの両端部の表面を絶縁膜で被覆することとしてもよい。
【0032】
半導体層3Cの側面は絶縁膜7a,7bで被覆されると共に、上面は絶縁膜7cで被覆されている。第1配線8aは、半導体層3Cの側面に絶縁層7cを介して設けられている。
【0033】
また、スピン伝導素子は、図3に示すように、X軸に沿って順次配置された第1強磁性層1と、第1電極4と、第2強磁性層2と、第2電極5とを備えている。第1強磁性層1は、半導体層3C上に第1トンネル障壁層71を介して設けられている。第1電極4は、半導体層3C上に設けられ、第1強磁性層1の近傍に配置されている。第2強磁性層2は、半導体層3C上に、第1強磁性層71から離間し、第2トンネル障壁層72を介して設けられている。第2電極5は、半導体層3C上に設けられており、第2強磁性層2の近傍に配置されている。
【0034】
第1配線8aは、電流源Iから、第1配線8aに電流iが供給されることにより、半導体層3Cにおける、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に領域内に、磁場Bを発生させるものである。電流源Iは、第1配線8aの両端部に電気的に接続されている。磁場Bは、X軸を囲む方向に発生しているため、半導体層3Cの内部においては、この厚み方向に平行に磁束が通っていることになる。
【0035】
スピン流を利用したスピン伝導素子は、図1に示すように、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子eを流す電子流源Eと、第2強磁性層2と第2電極5との間の電圧を測定する電圧測定回路(手段)Vとを備えている。
【0036】
電子流源Eにより、第1強磁性層1と第1電極4との間に電子流が供給されると、半導体層3C内を電子が流れる。本例では、第1強磁性層1から第1電極4に電子が流れ(電流の向きは逆)、第1強磁性層1の直下の半導体領域内においてスピンが発生する。すなわち、第1強磁性層1の下の第1トンネル障壁層71と半導体層3Cの界面からは、スピン流が拡散する。このスピン流は、第2強磁性層2方向にも流れ、スピンの磁化方向に依存して、第2トンネル障壁層72を介して、第2強磁性層2はスピン流が作る電位に応じて、第2強磁性層2と第2電極5との間には電圧が発生する。この電圧は、電圧測定回路Vによって検出される。
【0037】
図22は、スピン伝導素子におけるスピンの方向の回転について説明するための図である。
【0038】
スピン伝導素子における第1配線8aに電流を供給すると、その周囲に磁場Bが発生するが、半導体層3Cのスピンが走行する領域内において、磁場Bが印加されると、磁場の影響を受けて、図22の矢印によって示されるスピンの方向が変わる。したがって、この磁場を制御することで、第2強磁性層が感じるスピン電位を制御することができる。したがって、このスピン伝達素子は、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することができる。なお、図3に示した第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は共通層であってもよい。
【0039】
また、図2に示すように、第1強磁性層1の磁化方向D1と第2強磁性層2の磁化方向D2とは等しく、共にY軸の正方向を向いており、半導体層3Cの位置における磁場Bの方向は、第1又は第2強磁性層1,2の磁化方向D1,D2に対して垂直である。
【0040】
この場合、第1強磁性層1側から流出するスピンの方向が、配線8aを流れる電流によって生成された磁場Bにより、半導体層3Cの走行中に変化し、第2強磁性層2に到達した時点では、スピンの向きを大きく変化させ、第2強磁性層が感じるスピン電位を変化させることができる(図22参照)。すなわち、走行中のスピンの方向が磁場Bによって大きく影響を受けるため、磁場Bによる出力制御がより効果的になる。
【0041】
第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は、絶縁膜から構成されている。これらのトンネル障壁層はショットキ障壁(半導体層に金属層を接触させる)から構成することも可能であるし、また、トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキ障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキ障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0042】
また、第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72を構成する絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなる。これらの材料の場合、スピンのトンネルが効果的に行え、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0043】
なお、第1トンネル障壁層71及び第2トンネル障壁層72は、上記被覆用の絶縁膜7cと共通にすることもできる。
【0044】
また、図5に示すように絶縁膜7a,7b,7cのうち、絶縁膜7bを省略することも可能であるし、図6に示すように絶縁膜7b,7cを省略することも可能である。
【0045】
図7は、第2実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図8は、スピン伝導素子のVIII−VIII矢印断面図、図9は、スピン伝導素子のIX−IX矢印断面図である。
【0046】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1配線8aを囲む第1磁気ヨーク9aを更に備えている。磁気ヨーク9aを構成する材料としては、例えばNi、Fe、Coのうち少なくとも一つの元素を含む金属からなる強磁性体が好適であり、例えばNiFeを用いることができる。第2実施形態のスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと比較して、第1磁気ヨーク9aを備え、磁気ヨーク9aと配線8cとの間には絶縁層7xが介在している。かかる点を除いて、第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のものと同一である。絶縁層7xは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0047】
第2実施形態のスピン伝導素子においては、第1配線8aの周囲に発生した磁場Bの磁気線が第1磁気ヨーク9a内を通ることとなり、第1磁気ヨーク9a内における磁束密度は高くなるため、効率的に半導体層3C内に磁場Bを形成することができる。
【0048】
磁気ヨーク9aの形状は、Z軸方向からみた場合(図7)長方形であり、Y軸方向からみた場合(図8)も長方形であり、X軸方向からみた場合(図9)は四角環の一部が欠けた形状となる。磁気ヨーク9aは、X軸を中心として第1配線8aを取り囲むように配置されているが、第1強磁性層1と第2強磁性層2の間に位置する半導体層3Cの領域を覆っている。換言すれば、本実施形態においては、磁気ヨーク9による磁気回路内に半導体層3Cが配置されている。
【0049】
図10は、第3実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図11は、スピン伝導素子のXI−XI矢印断面図、図12は、スピン伝導素子のXII−XII矢印断面図である。
【0050】
第3実施形態のスピン伝導素子は、第2配線8bを備えている。第2配線8bは、第1配線8aと共に半導体層3Cを挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、半導体層3Cにおける、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に領域内に、磁場Bを発生させる。第3実施形態のスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと比較して、第2配線8bを備えている点以外は、同一である。
【0051】
この場合、第1配線8aの周囲に加えて、第2配線8bの周囲においても、磁場を発生させることができ、これらの磁場Bの重畳により、少ない電流で大きな磁場を半導体層内に発生させることができる。したがって、磁場Bによるスピン方向制御が更に有効になる。なお、第1配線8aと第2配線8bを流れる電流の方向は逆方向であり、磁場の回転の向きも逆となる。また、第1配線8aには電流源から電流が供給されるが、第2配線8bにも図示しない電流源から電流が供給される。
【0052】
図13は、第4実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図14は、スピン伝導素子のXIV−XIV矢印断面図、図15は、スピン伝導素子のXV−XV矢印断面図である。
【0053】
第4実施形態のスピン伝導素子は、第3実施形態のスピン伝導素子と比較すると、第2磁気ヨーク9を更に備え、磁気ヨーク9と配線8a,8bとの間には絶縁層7x,7yがそれぞれ介在している。第4実施形態のスピン伝導素子の構成は、これらの点を除いて、第3実施形態のものと同一である。絶縁層7x,7yは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0054】
本例の磁気ヨーク9は、第1磁気ヨーク9aと第2磁気ヨーク9bを一体化した形状を有している。これらの磁気ヨーク9a,9bの仮想的境界線を図15の点線で示す。第1磁気ヨーク9aの基本形状は、基本的に第2実施形態に示した磁気ヨークと同じであるが、Y軸方向の長さが少し短い。第2磁気ヨーク9bの形状は、第1磁気ヨーク9aの形状と同一であり、これらの磁気ヨーク9a,9bはYZ平面に対して鏡対称の関係にある。
【0055】
第1磁気ヨーク9aは第1配線8aをX軸回りに囲んでいるが、第2磁気ヨーク9bは第2配線8bをX軸周りに囲んでいる。第1配線8aの周囲に発生した磁場Bの磁気線が第1磁気ヨーク9a内を通ることとなり、第1磁気ヨーク9a内における磁束密度は高くなる。また、第2配線8bの周囲に発生した磁場の磁気線が第2磁気ヨーク9b内を通ることとなり、第2磁気ヨーク9b内における磁束密度も高くなる。したがって、これらの磁場Bの重畳により、効率的に半導体層3C内に磁場Bを形成することができる。なお、第1ヨーク9a及び第2磁気ヨーク9bは、一体的に形成されているが、分離されていてもよい。
【0056】
図16は、第5実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図17は、スピン伝導素子のXVII−XVII矢印断面図、図18は、スピン伝導素子のXVIII−XVIII矢印断面図である。
【0057】
第5実施形態に係るスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子と比較して、第1配線8aに代えて、第3配線8cを半導体層3Cの上方に配置すると共に、第1強磁性層1及び第2強磁性層2の磁化方向D1,D2をX軸正方向としたものである。絶縁膜7cと第3配線8cとの間には、表面を平坦化するための被覆層10が介在しており、第3配線8cは、半導体層3C上に形成された被覆層10の表面上に形成され、X軸方向に沿って延びている。これらの点を除いて、第5実施形態にかかるスピン伝導素子の構成は、第1実施形態のものと同一である。被覆層10は適当な絶縁体からなり、SiO2やSiNxなどの無機絶縁体の他、フォトレジストなどの有機物を用いることも可能である。
【0058】
第3配線8cへは、電流源から電流が供給されるが、この電流はX軸に沿って流れる。第3配線8cの周囲にX軸を囲む磁力線が通る磁場Bが発生する。磁化方向D1,D2と、磁場Bの向きは、半導体層3C内において直交している。この場合、磁場Bの影響によって、第1強磁性層1から第2強磁性層2に向かうスピンの向きが回転し、磁場Bに依存して、第2強磁性層2と第2電極5との間の電圧、すなわち出力電圧の大きさが変動する。この電圧は、電圧測定回路によって検出される。
【0059】
図19は、第6実施形態に係るスピン伝導素子の平面図、図20は、スピン伝導素子のXX−XX矢印断面図、図21は、スピン伝導素子のXXI−XXI矢印断面図である。
【0060】
第6実施形態に係るスピン伝導素子は、第5実施形態のスピン伝導素子と比較して、第3配線8c及び被覆層10のY軸方向幅を大きくし、周囲を磁気ヨーク9で囲み、磁気ヨーク9と配線8cとの間には絶縁層7xを介在させた点が異なり、これらの点を除いて、第6実施形態にかかるスピン伝導素子の構成は、第5実施形態のものと同一である。絶縁層7xは、例えばSiO2やSiNxなどの無機絶縁体からなる。
【0061】
磁気ヨーク9の形状は、Z軸方向から見た場合(図19)は長方形であり、Y軸方向から見た場合(図20)も長方形であり、X軸方向から見た場合(図21)は四角環の一部分を切り取った形状であり、切り取られた部分に半導体層3Cが位置する。磁気ヨーク9は、X軸の周囲を囲んでいるが、この周方向の両端部が、半導体層3Cの2側面(XZ平面)にそれぞれ隣接している。換言すれば、本実施形態においても、磁気ヨーク9による磁気回路内に半導体層3Cが配置されている。
【0062】
この構造においても、配線3cの両端には電流源が接続され、配線8cが延びるX軸を囲む磁力線は、効率的に半導体層3C内に導入され、半導体層3Cの内部においても磁場が有効に発生する。したがって、第1強磁性層1から注入されたスピンが、第2強磁性層2に拡散する際に、磁場Bによる影響を受けることになる。
【0063】
上記の実施形態においてSOI基板を用いた場合、スピンが伝導する半導体層3Cに、中間絶縁層3Bを介して半導体基板3Aから、ゲート電圧を印加することが可能である。半導体基板3Aにゲート電圧を印加すると、中間絶縁層3Bを介して、半導体層3Cにおけるゲート電位が変化する。これにより、半導体層3C内におけるスピンの伝導特性が変化し、外部磁場に対する出力変化及び外部磁場に対する感度を変化させることが可能になる。すなわち、ゲート電圧を制御することで、第2強磁性層2側へ到達するスピン又は電子量を制御することができる。ゲート電圧を印加するため、半導体基板3Aにはゲート電圧印加回路(電圧印加手段:図示せず)を接続し、第1強磁性層1と第2強磁性層2の間の領域において、抵抗値を下げるための不純物を印加しておくことが好ましい。
【0064】
次に、上述の第1〜第6実施形態における磁化方向について補足説明を行う。
【0065】
図23は、強磁性層の縦断面図である。図23(A)は、第1強磁性層1の詳細な構造を示しており、図23(B)は、第2強磁性層2の詳細な構造を示している。第1〜第4実施形態においては、第1強磁性層1の磁化方向D1と、第2強磁性層2の磁化方向D2は、Y軸に平行であり、同一方向であって、共に固定されている。磁化方向の固定には、反強磁性層を強磁性層に交換結合させる方法と、強磁性層のXY平面内におけるアスペクト比を高めることで形状異方性を担保する方法とがある。これらの方法は、単独で用いることもできるが、双方を用いることも可能である。これらの手法によれば、第1及び第2強磁性層の磁化方向を有効に固定することができる。第5及び第6実施形態の場合には、X軸方向に磁化方向が固定されているため、反強磁性層を利用する方法を用いる。
【0066】
第1強磁性層1の磁化方向の固定に反強磁性層を用いる場合、図23(A)に示すように、トンネル障壁層71上に、強磁性層1、反強磁性層1H、保護膜1Pを順次積層し、強磁性層1と反強磁性層1Hとは交換結合をさせる。なお、保護膜1Pにはコンタクトホールを空けてから、コンタクトホール内に配線層1wを形成し、これを反強磁性層1Hに接触させる。
【0067】
第2強磁性層2の磁化方向の固定に反強磁性層を用いる場合、図23(B)に示すように、トンネル障壁層72上に、強磁性層2、反強磁性層2H、保護膜2Pを順次積層し、強磁性層1と反強磁性層1Hとは交換結合をさせる。なお、保護膜2Pにはコンタクトホールを空けてから、コンタクトホール内に配線層2wを形成し、これを反強磁性層2Hに接触させる。
【0068】
形状異方性を利用する場合、第1強磁性層1及び第2強磁性層2において、それぞれのY軸方向の寸法をX軸方向の寸法よりも長くすることで、磁化方向をY軸方向に沿わせることができる。この場合のアスペクト比(Y/X)は、3以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましい。
【0069】
上記の強磁性層は、Cr、Mn、Co、Fe、Niの少なくとも一つを含む金属又はこの金属を含む合金である。強磁性層は、B、C、Nのうち少なくとも一種類の元素を含み、この元素を化合した化合物とすることもできる。上述の例では、強磁性層はCoFeである。
【0070】
上記の反強磁性層の材料としては、FeMn、IrMn、PtMn、又はNiMn等のMn合金を用いることができる。
【0071】
上述のスピン伝導素子は、第1及び第2強磁性層に加えて第1及び第2電極を備えており、合計で4つの端子を備えている。この場合、第2強磁性層2の直下においてはスピン蓄積が生じ、この場合は、スピン流のみを利用するスピン伝導素子として機能する。スピン流のみを利用するスピン伝導素子の場合は、磁化方向に関して、以下の場合(A1〜A3)がある。
【0072】
(A1)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が同一である(平行)場合について説明する。第1強磁性層1の磁化方向D1と、第2強磁性層2の磁化方向D2とを共に固定した場合、特定の偏極方向を有するスピン流の第2強磁性層2の直下の領域でのスピン分極率の制御因子は、配線によって形成される外部磁場Bである。外部磁場Bによって、多くのスピンが回転した場合には、このスピン分極率はスピンの回転した位相と磁場による減衰の関数として出力電圧が減少し、スピンが回転しない場合にはスピン分極率は伝播距離を関数として出力が減衰する。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場Bを変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。
【0073】
(A2)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が反対である(反平行)場合について説明する。第1強磁性層1の磁化方向と第2強磁性層2の磁化方向とを反対に設定する方法も考えられる。この場合、磁場Bに応じた出力電圧の論理構造が、上記(A1)の場合と異なるのみであり、上記と同様に、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。
【0074】
(A3)磁化方向D1及びD2の一方を固定し、他方を固定しない場合について説明する。すなわち、第1強磁性層1の磁化方向D1を固定しないで、第2強磁性層2の磁化方向D2を固定する構造も考えられる。この場合、第2強磁性層2の保持力は、第1強磁性層1の保持力よりも大きくなる。保持力の大きさは、上述のように、反強磁性層を用いるか、アスペクト比を高くすることで大きくすることができる。この場合、第2強磁性層2の磁化方向は、第1強磁性層1の磁化方向と比較して、動きにくい。もちろん、第1強磁性層1は、多少の異方性を有しており、単磁区化されており、磁場を印加しない状態においても、磁化方向は緩やかに一定の方向を向く傾向がある。換言すれば、第1強磁性層1の磁化方向を、外部磁場や、スピン注入により変更すると、出力電圧が変わることになり、第1磁性層1の磁化方向を、1つの情報として記憶している。配線による磁場も出力電圧の制御因子である。スピン流の伝達過程において、磁場を印加すると、第2強磁性層2の直下の領域での特定偏極のスピンの分極率が変動するため、磁化方向に加えて、磁場の有無を制御することで、演算機能を有することができる。したがって、このスピン伝導素子は、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。また、第1強磁性層1の磁化方向を被計測磁場により変動させる場合には、このスピン伝導素子は、被計測磁場の計測センサとしても用いることができ、この場合、配線によって発生する外部磁場Bは、出力電圧のオン・オフに用いることができる。
【0075】
なお、上述の構造において、上記スピン伝導素子を、磁気抵抗効果を利用したスピン伝導素子として機能させることもできる。この場合、上述の4つの端子のうち、使用するのは第1及び第2強磁性層の2端子であり、第1及び第2電極は使用しない。すなわち、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に電子流源を接続してこれらの間に、特定偏極のスピンを有する電子を流すと共に、これらの間に電圧検出装置も接続し、磁気抵抗効果によって変動するこれらの端子間の電圧も計測する。磁気抵抗効果を利用するスピン伝導素子の場合は、磁化方向に関して、以下の場合(B1〜B3)がある。
【0076】
(B1)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が同一である(平行)場合について説明する。磁場Bを印加しない場合には、原則的には、走行中のスピンが回転しないため、特定の偏極スピンを有する電子が、第2強磁性層2に到達した場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層1との間の磁気抵抗は小さくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧は小さくなる。磁場Bを印加すると、スピンが回転するため、磁気抵抗が大きくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧が大きくなる。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場を変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができ、小さい磁場印加で高効率の変化を実現できるという利点がある。
【0077】
(B2)磁化方向D1及びD2の双方を固定するが、これらの磁化方向が反対である(反平行)場合について説明する。この場合、磁化方向が同一(平行)な場合と比較して、出力電圧の論理が異なることになる。磁場Bを印加しない場合には、原則的には、走行中のスピンが回転しないが、磁化方向D1,D2は逆向きのため、特定の偏極スピンを有する電子が、第2強磁性層2に到達した場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層1との間の磁気抵抗は大きなままであり、電子流量を一定にすると、出力電圧は大きくなる。磁化方向に垂直な磁場Bを印加すると、高い均一性でスピンが回転するため、磁気抵抗が小さくなり、電子流量を一定にすると、出力電圧が小さくなる。すなわち、配線に流れる電流に依存して、磁場Bを変動させ、一時的に出力電圧を一定の値に保持することができる。電子流源から電子が供給される条件と、電流源から電流が磁場形成用の配線に供給されて磁場が発生する条件の組み合わせにより、異なる出力電圧を得ることができ、これらを組み合わせることで演算を行うことも可能である。すなわち、このスピン伝導素子は、演算機能を有することができる。このスピン伝導素子は、書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができ、小さい磁場印加で高効率の変化を実現できるという利点がある。
【0078】
(B3)磁化方向D1及びD2の一方を固定し、他方を固定しない場合について説明する。
すなわち、第1強磁性層1の磁化方向D1を固定しないで、第2強磁性層2の磁化方向D2を固定する場合、第2強磁性層2の保持力は、第1強磁性層1の保持力よりも大きくなる。保持力の大きさは、上述のように、反強磁性層を用いるか、アスペクト比を高くすることで大きくすることができる。この場合、第2強磁性層2の磁化方向は、第1強磁性層1の磁化方向と比較して、動きにくい。もちろん、第1強磁性層1は、多少の異方性を有しており、単磁区化されており、磁場を印加しない状態においても、磁化方向は緩やかに一定の方向を向く傾向がある。換言すれば、第1強磁性層1の磁化方向を、外部磁場や、スピン注入により変更すると、出力電圧が変わることになり、第1磁性層1の磁化方向を、1つの情報として記憶している。配線による磁場Bも出力電圧の制御因子である。電子流の伝達過程において、磁場を印加すると、第2強磁性層2の直下の領域への特定偏極のスピンの到達率が変動するため、磁化方向に加えて、磁場の有無を制御することで、演算機能を有することができる。したがって、このスピン伝導素子は、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に用いることができる。また、第1強磁性層1の磁化方向を被計測磁場により変動させる場合には、このスピン伝導素子は、被計測磁場の計測センサとしても用いることができ、この場合、配線によって発生する外部磁場Bは、出力電圧のオン・オフに用いることができる。
【0079】
次に、上述のスピン伝導素子の製造方法について説明する。
【0080】
(第1実施形態の場合)
【0081】
まず、Siからなる半導体基板上にAl2O3からなる中間絶縁層及びSiからなる半導体層を堆積してなるSOI基板を用意し、半導体層表面のクリーニングを行い、表面の不純物及び酸化物を除去する。次に、半導体層の表面から不純物を添加し、半導体層の表層の不純物濃度を増加させ、表層における電子状態を変更する。不純物添加には、イオン注入法を用いることができるが、不純物としては、PやSbを採用することができる。
【0082】
MBE(分子線エピタキシー)法を用いて、半導体層の表面に、厚さ1nm程度のトンネル障壁層としての絶縁膜(MgO、Al2O3又はMgAl2O4)を形成し、続いて、スパッタ法により、トンネル障壁層上に強磁性層を形成する。強磁性層としては、例えばFeを用い、その上に、スパッタ法により、Ru層及びTa層を順次堆積して、これらの層からハードマスクを形成する。なお、ハードマスクの形成前に、強磁性層上に上述の反強磁性層を堆積することとしてもよい。磁化方向の固定のために、必要に応じて熱と磁場を強磁性層に印加することができる。次に、フォトレジストをハードマスク上に塗布し、フォトリソグラフィを用いて、長方形のチャネル領域が残留するように、チャネル領域周囲のハードマスクをイオンミリング又はドライエッチングして除去する。
【0083】
しかる後、このハードマスクを用いて、Siからなる半導体層を中間絶縁層に到達するまでエッチングする。このエッチングには、ウエットエッチング又は反応性ドライエッチング(RIE)などのドライエッチングを用いることができる。
【0084】
次に、イオンミリングを用いてハードマスクを除去し、強磁性層を露出させる。露出した強磁性層の表面にネガ型の電子線レジストを塗布し、このレジスト表面を電子線でY軸に平行に2箇所走査し、一対の細長い露光パターンを形成し、現像処理を行うことで、細長いレジストパターンを残留させる。このレジストパターンをマスクとして、強磁性層を半導体層の表面が露出するまでイオンミリングして、レジストパターンと同一形状の第1強磁性層及び第2強磁性層を画成する。
【0085】
次に、露出した半導体層の表面に絶縁膜を形成する。この絶縁膜は、シリコン酸化膜からなり、SiO2からなる半導体層の両側面及び上面を被覆する。この絶縁膜の形成にはスパッタ法を用いることができるが、Siの熱酸化を用いることも可能である。更に、この絶縁膜上に、2箇所が開口したレジストパターンを、フォトリソグラフィによって形成し、開口内に露出した絶縁膜をフッ酸水溶液等を用いたウエットエッチング又は、ドライエッチングを用いて除去し、半導体層の表面を露出させる。一対の開口内に露出した半導体層の表面上に上述の第1電極及び第2電極を堆積させる。それぞれの第1電極及び第2電極は、界面抵抗の小さなAl層を用いることができる。
【0086】
しかる後、半導体層の側面上に上記絶縁膜を介して第1配線を形成する。第1配線は、この配線の形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に第1配線を埋め込むことによって形成する。第1配線の材料としてはCuなどの金属を用いることができ、埋め込み形成の方法としては、メッキ法やスパッタ法を用いることができる。
【0087】
なお、SOI基板を用いた場合には、半導体層の厚みが大きいことによる影響を抑制することができるという効果があるが、かかる効果を期待しない場合には、最初に用意する基板はSOI基板でなく、Si基板であってもよい。また、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第2実施形態の場合)
【0088】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子に磁気ヨークを形成したものである。したがって、第2実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線の形成工程までは、第1実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なる。
【0089】
磁気ヨークの前に、磁気ヨークと配線との絶縁をとるため、図9に示した絶縁層7xを形成しておく。この絶縁層の形成においては、形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に絶縁層をスパッタ法で堆積する。なお、図9においては、必要な箇所のみに絶縁層7xが形成されているが、磁気ヨークの形成前においては全面に絶縁層を形成していてもよい。
【0090】
この絶縁層の形成後、磁気ヨークの形成予定領域が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、開口内に磁気ヨークを堆積する。この堆積には、スパッタ法を用いることができる。或いは、磁気ヨークの形成予定領域のみにレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成し、その周囲の表面をSiO2などの絶縁層で被覆した後、レジストパターンを除去し、除去した後に現れた開口内に、スパッタ法で磁気ヨーク材料を堆積し、その露出表面側から化学機械研磨を行うことで、表面を平坦化する方法を採用することもできる。この場合、磁気ヨークの周囲は絶縁層で囲まれることになる。なお、第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置している。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
【0091】
(第3実施形態の場合)
【0092】
第2実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子において配線数が1本から2本に増加したものである。したがって、第3実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線8aの形成工程において、これと同一の工程で、第2配線8bを形成する点のみが第1実施形態の場合と相違し、残りの工程は同一である。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第4実施形態の場合)
【0093】
第4実施形態のスピン伝導素子は、第3実施形態のスピン伝導素子において、磁気ヨークを形成したものである。したがって、第4実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線及び第2配線の形成工程までは、第3実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なり、残りの工程は同一である。磁気ヨークの形成工程は、その形状を除いて、第2実施形態の場合と同一であり、形成前には絶縁をとるための絶縁層7x、7yを、第2実施形態と同様に形成する。第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置していたが、第3実施形態では、双方の端部が半導体層の外側に位置している。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第5実施形態の場合)
【0094】
第5実施形態のスピン伝導素子は、第1実施形態のスピン伝導素子において配線の位置を半導体層の上部に変更したものである。したがって、第5実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第1配線8aの形成工程において、その形成位置を、第3配線8cの形成位置に変更した点のみが第1実施形態の場合と相違し、残りの工程は同一である。もちろん、形成前に、半導体層上部の絶縁膜上に、被覆層10をスパッタ法で形成しておき、第3配線8cは、この上に形成する(図17参照)。第3配線8cを形成する場合のエッチングにおいては、そのレジストを用いて被覆層10もエッチングする。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。
(第6実施形態の場合)
【0095】
第6実施形態のスピン伝導素子は、第5実施形態のスピン伝導素子において配線の寸法を変更し、磁気ヨークを設けたものである。したがって、第5実施形態のスピン伝導素子の製造方法は、第3配線の形成工程までは、そのY軸寸法を広げた点を除いて、第5実施形態の場合の製造方法と同一であり、この工程の後、磁気ヨークを形成する点のみが異なり、残りの工程は同一である。磁気ヨークの形成工程は、その形状を除いて、第2実施形態の場合と同一であり、形成前には絶縁をとるための絶縁層7xを、第2実施形態と同様に形成する。第2実施形態の場合は、磁気ヨークの形成予定領域のY軸方向の端部の一方が半導体層上に位置し他方が半導体層の外側に位置していたが、第3実施形態では、双方の端部が半導体層の外側に位置している。また、半導体層の側方に隣接する磁気ヨーク下部領域(半導体層側の領域)をパターニング形成した後に、この上に、YZ断面が逆U文字型の磁気ヨークを形成してもよい。また、第1実施形態と同様に、SOI基板に代えてSi基板を用いたり、素子又は基板全体を囲む磁気シールドを必要に応じて形成することも可能である。なお、磁気抵抗効果を用いたスピン伝導素子の場合には、第1電極及び第2電極は形成するには及ばない。
【0096】
以上、説明したように、本発明のスピン伝導デバイスは、第1強磁性層1と第2強磁性層の磁化方向に対応した不揮発なメモリ素子、あるいは書き換え可能な論理素子における揮発なメモリ素子あるいは一時的な書き変えが可能なスピン伝導を利用した演算素子に利用することができる。そして、このように磁化情報が改変するという性質を積極的に利用すれば、外部磁場をスピン伝導経路に印加することによって、スピンの有する磁化情報を伝播中に変調或いは消去することが可能である。また、十分なスピン寿命と電極間距離があれば、スピンの回転振動を利用したデータの書き換えも可能である。なお、不要な磁場が半導体層3C内に発生しないようにするには、チャネルとしてのスピン伝導経路の周囲に磁気シールドを形成すればよい。
【0097】
なお、強磁性層の磁化方向は、上述のように、スピン流のみを用いる非局所配置の場合であっても、磁気抵抗効果を用いる場合であっても、どのような向きであっても使用することが可能であり、前者の非局所配置の場合には、磁化方向を平行とする場合と、反平行とする場合において、出力結果に差は生じないが、製造段階においては、同一方向に磁場をかけて強磁性層を加熱することで、磁化方向を平行とする方が容易であるため、第1及び第2強磁性層の磁化方向は平行であることが好ましい。一方、後者の磁気抵抗効果を用いる配置の場合には、第1及び第2強磁性層の磁化方向を反平行とした方が、平行とした場合よりも、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【符号の説明】
【0098】
3A・・・半導体基板、3B・・・中間絶縁層、3C・・・半導体層、8a,8b,8c・・・磁場発生用の配線、I・・・電流源、E・・・電子流源、V・・・電圧測定回路、7a,7b,7c・・・絶縁膜、71,72・・・トンネル障壁層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、
前記半導体層上に第1トンネル障壁層を介して設けられた第1強磁性層と、
前記半導体層上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して設けられた第2強磁性層と、
電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第1配線と、
を備えることを特徴とするスピン伝導素子。
【請求項2】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは反平行であり、
前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直である、
ことを特徴とする請求項1に記載のスピン伝導素子。
【請求項3】
前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第1強磁性層側に設けられた第1電極と、
前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第2強磁性層側に設けられた第2電極と、
前記第1強磁性層と前記第1電極との間に電子を流す電子流源と、
前記第2強磁性層と前記第2電極との間の電圧を測定する電圧測定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のスピン伝導素子。
【請求項4】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは平行であり、
前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直である、
ことを特徴とする請求項3に記載のスピン伝導素子。
【請求項5】
前記第1配線を囲む第1磁気ヨークを更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項6】
前記第1配線と共に前記半導体層を挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第2配線を、更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項7】
前記第2配線を囲む第2磁気ヨークを更に備えることを特徴とする請求項6に記載のスピン伝導素子。
【請求項8】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、絶縁膜又はショットキ障壁から構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項9】
前記絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする請求項8に記載のスピン伝導素子。
【請求項10】
前記第2強磁性層の保持力は、前記第1強磁性層の保持力よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項11】
前記第2強磁性層に交換結合した反強磁性層を更に備えること、及び/又は、前記第2強磁性層が形状異方性を備えることにより、前記第2強磁性層の磁化方向が固定されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項12】
前記半導体層が中間絶縁層を介して形成される半導体基板と、
前記半導体基板にゲート電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項1】
半導体層と、
前記半導体層上に第1トンネル障壁層を介して設けられた第1強磁性層と、
前記半導体層上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して設けられた第2強磁性層と、
電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第1配線と、
を備えることを特徴とするスピン伝導素子。
【請求項2】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは反平行であり、
前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直である、
ことを特徴とする請求項1に記載のスピン伝導素子。
【請求項3】
前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第1強磁性層側に設けられた第1電極と、
前記半導体層上の前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の領域の外側であって、前記第2強磁性層側に設けられた第2電極と、
前記第1強磁性層と前記第1電極との間に電子を流す電子流源と、
前記第2強磁性層と前記第2電極との間の電圧を測定する電圧測定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のスピン伝導素子。
【請求項4】
前記第1強磁性層の磁化方向と前記第2強磁性層の磁化方向とは平行であり、
前記磁場の方向は、前記第1又は第2強磁性層の磁化方向に対して垂直である、
ことを特徴とする請求項3に記載のスピン伝導素子。
【請求項5】
前記第1配線を囲む第1磁気ヨークを更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項6】
前記第1配線と共に前記半導体層を挟む位置に配置され、電流が供給されることにより、前記半導体層における、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に領域内に、磁場を発生させる第2配線を、更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項7】
前記第2配線を囲む第2磁気ヨークを更に備えることを特徴とする請求項6に記載のスピン伝導素子。
【請求項8】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、絶縁膜又はショットキ障壁から構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項9】
前記絶縁膜は、MgO、Al2O3、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする請求項8に記載のスピン伝導素子。
【請求項10】
前記第2強磁性層の保持力は、前記第1強磁性層の保持力よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項11】
前記第2強磁性層に交換結合した反強磁性層を更に備えること、及び/又は、前記第2強磁性層が形状異方性を備えることにより、前記第2強磁性層の磁化方向が固定されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【請求項12】
前記半導体層が中間絶縁層を介して形成される半導体基板と、
前記半導体基板にゲート電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のスピン伝導素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−151307(P2012−151307A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9234(P2011−9234)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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