説明

スラグの流出検知方法

【課題】 溶融金属容器から他の溶融金属容器に流出孔を介して溶融金属を排出する際に、溶融金属の排出の末期、溶融金属に混入して流出するスラグを、溶融金属容器からの排出流が細くてもまた太くても、その形状に拘わらず的確に検知し、スラグの流出量をばらつきなく所定量に制御する。
【解決手段】 溶融金属容器3の流出孔12から流出する排出流1Aを赤外線カメラ6で撮影し、赤外線カメラで測定される排出流の放射エネルギー値と予め設定したエネルギー閾値とを対比することによって溶融金属1とスラグ2とを判別し、前記流出孔から流出する溶融金属に混合して流出するスラグを検知するスラグの流出検知方法であって、前記赤外線カメラで撮影される排出流の幅を逐次算出し、算出された排出流の幅に応じて溶融金属とスラグとを判別するためのエネルギー閾値を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉及び取鍋などの溶融金属容器に設置される流出孔を介して該溶融金属容器から、取鍋やタンディッシュなどの他の溶融金属容器に溶銑及び溶鋼などの溶融金属を排出する際に、溶融金属の排出の末期、溶融金属に巻き込まれて流出するスラグを検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉を用いた溶銑の脱炭精錬工程においては、精錬剤として生石灰(CaO)やドロマイト(MgCO3 ・CaCO3 )などの造滓剤を添加したり、副原料としてマンガン鉱石を添加したり、また、除去された溶銑中の不純物自体がスラグになったりし、更には、酸化精錬であることに起因して鉄の酸化物が不可避的に発生することから、スラグをなくすることは不可能であり、脱炭精錬終了後の溶鋼上にはスラグが形成される。形成されたスラグは、転炉から取鍋などへの出鋼過程の末期、転炉内の溶鋼が少なくなってくると溶鋼に巻き込まれ、溶鋼とともに取鍋内に排出される。このスラグは鉄酸化物及びマンガン酸化物などの酸素ポテンシャルの高い、所謂「低級酸化物」を含んでいるので、大量のスラグが取鍋内に流出した場合には、溶鋼を脱酸するために添加した溶鋼中のAlとスラグ中の低級酸化物とが反応して溶鋼中にアルミナが形成され、清浄性の高い鋼を得ることができなくなるという問題が発生する。また、取鍋の耐火物がスラグによって溶損し、取鍋耐火物の寿命が低下するという問題も発生する。
【0003】
同様に、連続鋳造工程においては、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際、取鍋内の溶鋼量が少なくなった注入過程の末期に、取鍋内のスラグが溶鋼に巻き込まれ、溶鋼とともにタンディッシュに流出する。この場合のスラグは、一般的には既に低級酸化物は還元されており、酸化度の低いスラグであるので、巻き込まれたスラグがタンディッシュ内で全て浮上して溶鋼と分離してしまえば問題にはならないが、タンディッシュで浮上しきれずに鋳型内まで持ち来たされる場合には、スラグは鋳片に捕捉され、鋳片の清浄性が低下するといった問題が発生する。
【0004】
従って、スラグの流出を防止するために多数の提案がなされている。例えば、特許文献1には、転炉から出鋼口を介して取鍋へ溶鋼を出鋼する際に、転炉からの出鋼流を赤外線カメラで監視し、赤外線カメラで検知される流体が溶鋼からスラグに変わった時点で転炉を傾転(起立)させて出鋼を終了し、スラグの取鍋への流出を防止する方法が開示されている。また、特許文献2には、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入流の幅方向放射エネルギー分布を二次元CCDカメラで測定し、測定結果のうちの連続する最大幅部分を溶鋼注入流の径として検出し、溶鋼注入流の径の幅及びその積分値が増大したときにスラグ流出と判定して、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入を終了する方法が開示されている。尚、本発明においては、転炉からの出鋼流や取鍋からの注入流など、溶融金属容器の流出孔を介して流出する全ての流れを「排出流」と定義する。
【特許文献1】特開2001−107127号公報
【特許文献2】特開平2−251362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2ともに、溶鋼よりもスラグの方が、放射率が大きいこと、つまり放射エネルギーが大きいことを利用して溶鋼とスラグとを判別しているが、これらの従来技術には、次のような問題点がある。即ち、特許文献1及び特許文献2ともに、溶鋼とスラグとを判別する際に、或る一定の放射エネルギー値を、溶融金属とスラグとを判別するための閾値(以下、「エネルギー閾値」と記す)として設定し、検出される放射エネルギー値が、エネルギー閾値を越えたときにスラグ、エネルギー閾値以下の場合を溶鋼と判別しており、このエネルギー閾値を固定していることである。
【0006】
本発明者等の知見によれば、スラグの粘性が高い場合には、流出孔の直径などその他の条件が同じであっても、流出する排出流(スラグ流)が細くなって放射率が見掛け上小さくなり、放射エネルギーが低下する。従って、エネルギー閾値を固定している特許文献1及び特許文献2では、流出する排出流が細くなった場合には、スラグが流出中であっても検出される放射エネルギー値が設定したエネルギー閾値を越えず、スラグと判定されないことが発生するという問題がある。また、この問題を回避するために、エネルギー閾値を下げて設定した場合には、溶損などにより流出孔の状態が悪いときには、排出流が乱れることから放射率が見掛け上大きくなり、溶鋼が流出しているにも拘わらず検出される放射エネルギー値がエネルギー閾値を越え、溶鋼をスラグと誤認識してしまうという問題が発生する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉から取鍋への出鋼時及び取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時などのように、溶融金属容器から他の溶融金属容器に流出孔を介して溶融金属を排出する際に、溶融金属の排出の末期、溶融金属に混入して流出するスラグを、溶融金属容器からの排出流が細くてもまた太くても、その形状に拘わらず的確に検知し、スラグの流出量をばらつきなく所定量に制御することのできるスラグの流出検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明に係るスラグの流出検知方法は、溶融金属容器の流出孔から流出する排出流を赤外線カメラで撮影し、赤外線カメラで測定される排出流の放射エネルギー値と予め設定したエネルギー閾値とを対比することによって溶融金属とスラグとを判別し、前記流出孔から流出する溶融金属に混合して流出するスラグを検知するスラグの流出検知方法であって、前記赤外線カメラで撮影される排出流の幅を逐次算出し、算出された排出流の幅に応じて溶融金属とスラグとを判別するためのエネルギー閾値を変更することを特徴とするものである。
【0009】
第2の発明に係るスラグの流出検知方法は、第1の発明において、前記溶融金属容器が転炉であり、且つ前記溶融金属が溶鋼であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、赤外線カメラで撮影される溶融金属容器の流出孔からの排出流の幅を逐次算出し、算出された幅に応じて溶融金属とスラグとを判別するためのエネルギー閾値を変更するので、従来は溶鋼と判断されてスラグ流出を検知できなかった、排出流の幅が狭い場合(排出流が細い場合)であっても、スラグ検知が可能となる。一方、排出流の幅が広い場合(排出流が太い場合)には、排出流の放射エネルギーが高くなるが、エネルギー閾値が大きくなるので、溶鋼をスラグと誤認することが防止される。これにより、溶融金属容器からのスラグ流出量をばらつきなく所定量に制御することが可能となり、その結果、溶鋼清浄性の向上、脱酸剤原単位の削減などが達成されて工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態例を示す図であって、転炉から取鍋に溶鋼を出鋼する際に本発明を実施した例を示す概略断面図である。
【0012】
図1に示すように、外殻を鉄皮10とし、鉄皮10の内側に耐火物11が施工された転炉3の側壁には、溶鋼1を取鍋4に排出するための流出孔である出鋼口12が設置されている。この転炉3の出鋼口12の近傍には、スラグストッパー9が設置されており、スラグストッパー9は、転炉3とは距離を隔てた位置に設置されるスラグストッパー制御装置8によって制御されている。また、転炉3から取鍋4への排出流である出鋼流1Aに混合して流出するスラグ2を検知するために、赤外線カメラ6及び検知部7からなるスラグ検知装置5が設置されている。
【0013】
赤外線カメラ6は、出鋼流1A及びその背景を二次元で撮影し、各被写体の放射エネルギーを測定するとともに、各被写体の放射エネルギーを表示する装置である。赤外線カメラ6により撮影された二次元の画像は検知部7に送られる。検知部7は、赤外線カメラ6から送られた画像に基づいて、出鋼流1Aの幅の算出、スラグ流出の検知並びにスラグ流出の判定を行う装置である。赤外線カメラ6でなくても、例えばCCDカメラなどでも被写体の放射エネルギーを計測することは可能であるが、検出感度が高いことから本発明では赤外線カメラ6を使用している。但し、赤外線カメラ6の代わりにCCDカメラを使用しても、本発明を実施することは可能である。検知部7の信号は、スラグストッパー制御装置8に入力されている。
【0014】
スラグストッパー9は、回転自在なアーム13と、アーム13の先端部に取り付けられた鋳鉄製の止め栓部14と、アーム13を駆動するための油圧シリンダー15と、から構成されており、油圧シリンダー15が作動することにより、アーム13の先端部の止め栓部14が出鋼口12に嵌合するようになっている。この止め栓部14には、止め栓部14の中心部を貫通してガス吹込み孔(図示せず)が設けられ、このガス吹込み孔から供給される窒素ガスが、止め栓部14を出鋼口12に嵌合したときに、出鋼口12の流路内に噴射されるようになっている。ガス吹込み孔を流れる窒素ガス流量及び油圧シリンダー15を作動するための作動油は、スラグストッパー制御装置8によって制御されている。尚、図1では、油圧シリンダー15に接続する油圧配管、ガス吹込み孔に接続するガス供給管及び流量調整弁などは省略している。
【0015】
このような構成の転炉3及びスラグ検知装置5を用いて、次のようにして本発明を実施する。
【0016】
転炉3に溶銑を装入し、更に、生石灰、焼成ドロマイト、蛍石などの造滓剤を装入して、上吹きランス(図示せず)または底吹き羽口(図示せず)若しくは双方から酸素ガスを溶銑に供給して脱炭精錬を実施する。溶銑は脱炭精錬されて溶鋼1が溶製され、造滓剤は溶融してスラグ2が生成される。溶製した溶鋼1を取鍋4に出鋼するに当たり、出鋼口12が下面側に位置するように転炉3を傾動させる。転炉3の傾動により、溶鋼1は出鋼口12を通る出鋼流1Aとなって取鍋4に流下する。溶鋼1の出鋼が進み、転炉3に滞留する溶鋼1が少なくなると、溶鋼1の上に浮遊するスラグ2が溶鋼1に巻き込まれ、出鋼流1Aに混入して取鍋4に流出する。
【0017】
この出鋼流1Aを赤外線カメラ6で連続して監視し、一定周期で出鋼流1Aの二次元画像を撮影し、撮影した二次元画像の各位置の放射エネルギーを測定する。測定された各位置の放射エネルギーは検知部7に送られる。
【0018】
図2に、或る時刻において赤外線カメラ6により測定された出鋼流1A及び背景の放射エネルギーの二次元画像を示す。図2において、「Z」として示す放射エネルギーの極めて低い部分(以下、「範囲(Z)」と記す)は出鋼流1Aの背景であり、「X」として示す放射エネルギーレベルの高い部分(以下、「範囲(X)」と記す)が出鋼流1Aの溶鋼1の部分であり、出鋼流1Aのなかで放射エネルギーレベルの高い「Y」として示す部分(以下、「範囲(Y)」と記す)がスラグ2の部分である。
【0019】
撮影した二次元画像を、範囲(X)、範囲(Y)及び範囲(Z)の3つの範囲に判別する方法を、図3を用いて説明する。図3は、図2に示すA−A’線上の放射エネルギー分布を示す概略図である。背景つまり範囲(Z)の部分は、放射エネルギーが極めて低く、出鋼流1Aの部分、つまり範囲(X)及び範囲(Y)とは明確に判別することができる。出鋼流1Aの部分において、溶鋼1の放射エネルギーはEm であり、スラグ2の放射エネルギーは溶鋼1の放射エネルギー(Em )よりも高いEs であるので、溶鋼1とスラグ2とを判別することができる。具体的には、図3に示すように、Em よりも大きく且つEs よりも小さい所定のエネルギー閾値Ec を設定しておき、計測される放射エネルギーレベルがエネルギー閾値Ec を越えた範囲をスラグ2、つまり範囲(Y)とし、それ以外を溶鋼1、つまり範囲(X)として判別する。検知部7では、送られてくる放射エネルギーの測定データに基づき、二次元画像全体について、このようにして溶鋼1、スラグ2及び背景の3つに判別する。
【0020】
つまり、赤外線波長領域におけるスラグ2の放射率は、溶鋼1の放射率の1.2〜1.5倍であり、これによって測定される放射エネルギーレベルに差が発生するので、赤外線カメラ6を使用することによって、出鋼流1Aにおける溶鋼1とスラグ2とを明確に区別することが可能となる。図3は、出鋼流1Aにスラグ2が混入した状態を示しており、スラグ2が混入していない場合には、画像は範囲(X)と範囲(Z)とで構成され、出鋼流1Aが全てスラグ2の場合には、画像は範囲(Y)と範囲(Z)とで構成される。
【0021】
ここで、従来、エネルギー閾値Ec は一定値のまま判定していたが、本発明者等は、種々の試験操業の結果から、出鋼流1Aの幅によって放射率が変化すること、換言すれば、出鋼流1Aの幅によって放射エネルギーが変化することから、エネルギー閾値Ec を一定値としたまま判定すると、スラグ2を検知できない場合が発生することを確認した。具体的には、後述する実施例にも示すように、出鋼流1Aの幅が狭くなる、つまり出鋼流1Aが細くなると、溶鋼1及びスラグ2ともに放射率が小さくなるので、出鋼流1Aの幅が狭い場合には、出鋼流1Aの幅が広い場合、つまり出鋼流1Aが太い場合に比べて、相対的にエネルギー閾値Ec を小さくする必要のあることを見出した。
【0022】
そこで、本発明においては、検知部7は、先ず、赤外線カメラ6から送られてくる二次元画像の放射エネルギーデータに基づき、二次元画像における出鋼流1Aの幅を算出する。出鋼流1Aの幅を算出する方法は、例えば前述した図2において、範囲(X)の部分と範囲(Y)の部分とを合計して出鋼流1Aの面積を求め、求めた出鋼流1Aの面積を画像の長さLで除算することにより、近似的に出鋼流1Aの幅を算出することができる。或いは、図2に示すA−A’線のような走査線上での出鋼流1Aの幅を求め、それを画像全体について求め、求めた値の平均値を出鋼流1Aの幅とすることもできる。二次元画像において出鋼流1Aの幅は、厳密には画像の上端部と下端部とで差が生じるが、その差はそれほど大きくなく、放射率の変化は小さいので、出鋼流1Aの幅として平均値を用いても問題にはならない。
【0023】
検知部7は、出鋼流1Aの幅を算出したならば、予め検知部7に入力されている、出鋼流1Aの幅とエネルギー閾値Ec との関係に基づいて、赤外線カメラ6から放射エネルギーデータが入力された時点での出鋼流1Aの幅に応じたエネルギー閾値Ec を決定し、決定したエネルギー閾値Ec に基づいて範囲(X)か範囲(Y)かを、つまり溶鋼1かスラグ2かを判定する。検知部7は、赤外線カメラ6からデータが送られてくる毎に、この出鋼流1Aの幅を算出し、算出された出鋼流1Aの幅に応じてエネルギー閾値Ec を定め、定めたエネルギー閾値Ec に基づいて溶鋼1かスラグ2かを判定する。
【0024】
そして、検知部7は、出鋼流1Aの面積(=範囲(X)+範囲(Y))における範囲(Y)の比率(Y/(X+Y))が所定の値になった時点を「スラグ2が流出した時点」と判定して、その判定信号をスラグストッパー制御装置8に出力する。この場合、スラグ2の流出を可能な限り少なくしたい場合には、比率(Y/(X+Y))を小さい値(例えば0.1程度)とし、一方、転炉3に残留する溶鋼1を少なくしたい場合には、比率(Y/(X+Y))を大きくする(例えば0.5〜0.7程度)とするなど、溶製される溶鋼の品質レベルなどに応じて比率(Y/(X+Y))を設定する。但し、比率(Y/(X+Y))は、当該溶鋼の出鋼中は或る一定の値とする。
【0025】
つまり、比率(Y/(X+Y))は、当該溶鋼の出鋼中は或る一定の値であるので、赤外線カメラ6で測定される放射エネルギーの総量に応じてスラグ2の流出を判定することになるが、本発明においては、出鋼流1Aの幅に応じて溶鋼1かスラグ2かを判定するので、赤外線カメラ6で測定される放射エネルギーの総量が同一であっても、出鋼流1Aの幅によっては、溶鋼1と判定したり或いはスラグ2と判定したりすることになる。尚、エネルギー閾値Ec を一定値とする従来の検知方法では、放射エネルギーの総量に基づき一義的に溶鋼1かスラグ2かに判別される。
【0026】
検知部7からスラグ流出の判定信号を受けたスラグストッパー制御装置8は、アーム13の先端に設置した止め栓部14によって出鋼口12が閉塞されるように油圧シリンダー15を作動させると同時に、止め栓部14の先端部から窒素ガスが流れ出るように電磁弁(図示せず)を制御する。出鋼流1Aは止め栓部14によって止められるのみならず、出鋼口12の内部に噴射される窒素ガスによって、出鋼口12の内部の溶鋼1及びスラグ2は転炉3の内部に押し戻される。これにより、出鋼口12の溶鋼1による閉塞は防止される。転炉3は、スラグストッパー9の作動と同時にまたは作動直後に、炉口が上となるように傾動し、その後、出鋼口12が上面側に位置するように更に傾動し、スラグ2は炉口からスラグポット(図示せず)に排出される。
【0027】
このように、本発明によれば、赤外線カメラ6で撮影される転炉3の出鋼口12からの出鋼流1Aの幅を逐次算出し、算出された幅に応じて、溶鋼1とスラグ2とを判別するためのエネルギー閾値を変更するので、従来は溶鋼1と判断されてスラグ流出を検知できなかった出鋼流1Aの幅が狭い場合であっても、スラグ検知が可能となる。一方、出鋼流1Aの幅が広い場合には、エネルギー閾値を大きくするので、溶鋼1をスラグ2と誤認することが防止される。これにより、転炉3からのスラグ流出量をばらつきなく所定量に制御することが可能となる。
【0028】
尚、本発明は上記説明に限るものではなく種々の変更が可能である。例えば、上記説明では、溶銑を脱炭精錬して得た溶鋼1の転炉3からの出鋼時に本発明を適用しているが、溶銑を予備脱燐処理して得た脱燐溶銑を転炉3から溶銑鍋などへ出湯する際にも本発明を適用することができる。また、転炉3からの出鋼流1Aに代えて、取鍋4からタンディッシュへの溶鋼の注入流に対しても同様に適用することができる。更に、スラグストッパー9の構造も上記に限るものではなく、出鋼口12を閉塞することができる限り、どのような構造であってもよい。また更に、スラグストッパー9を使用することなく、検知部7がスラグ流出を判定した時点で、転炉3を起立するように傾動させて出鋼口12からの流出を停止するようにしてもよい。
【実施例1】
【0029】
図1に示す構成の転炉及びスラグ検知装置を用いて、転炉から取鍋への溶鋼の出鋼時に出鋼流の幅及び放射エネルギーを測定した。用いた転炉は、容量が250トンの上底吹き転炉である。
【0030】
図4に、出鋼開始からの経過時間に対して赤外線カメラで測定される放射エネルギーの総量と出鋼流の幅との関係を示す。スラグは出鋼開始から約217秒程度経過した時点から流出し始めており、スラグの粘性が高いためにスラグの流出が開始されると出鋼流の幅が狭くなることが観察された。出鋼流の幅が狭くなり始めた時点で放射エネルギーの総量が低下した。
【0031】
この場合、従来は溶鋼とスラグとを判別するためのエネルギー閾値として230a.u.程度の一定値に設定しており、スラグの流出を検知できなかったが、本発明においてはエネルギー閾値として、出鋼流の幅が280mm以上の場合に230a.u.、出鋼流の幅が280mm未満の場合に190a.u.とすることで、スラグ流出を検知することが可能となった。尚、図4において、出鋼終了時に出鋼流の幅が急激に拡大しているのは、スラグストッパーを作動させたためである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】転炉から取鍋に溶鋼を出鋼する際に本発明を実施した例を示す概略断面図である。
【図2】赤外線カメラにより撮影された出鋼流1Aの二次元画像の概略図である。
【図3】図2に示す、A−A’線上の放射エネルギー分布を示す概略図である。
【図4】出鋼開始からの経過時間に対して赤外線カメラで測定される放射エネルギーの総量と出鋼流の幅との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 溶鋼
1A 出鋼流
2 スラグ
3 転炉
4 取鍋
5 スラグ検知装置
6 赤外線カメラ
7 検知部
8 スラグストッパー制御装置
9 スラグストッパー
10 鉄皮
11 耐火物
12 出鋼口
13 アーム
14 止め栓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属容器の流出孔から流出する排出流を赤外線カメラで撮影し、赤外線カメラで測定される排出流の放射エネルギー値と予め設定したエネルギー閾値とを対比することによって溶融金属とスラグとを判別し、前記流出孔から流出する溶融金属に混合して流出するスラグを検知するスラグの流出検知方法であって、前記赤外線カメラで撮影される排出流の幅を逐次算出し、算出された排出流の幅に応じて溶融金属とスラグとを判別するためのエネルギー閾値を変更することを特徴とする、スラグの流出検知方法。
【請求項2】
前記溶融金属容器が転炉であり、且つ前記溶融金属が溶鋼であることを特徴とする、請求項1に記載のスラグの流出検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−68029(P2009−68029A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234517(P2007−234517)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】