説明

スラグ分析方法

【課題】スラグ中の微量元素、特に揮発性微量元素を正確且つ迅速に分析することができるスラグ分析方法を提供する。
【解決手段】採取したスラグの少なくとも95%以上が球換算直径で50μm以下となるようにスラグを粉砕し、圧力30t/cm以上で且つ20秒以上加圧プレスすることにより、厚さが2〜4mmで分析面の凹凸が0.05mm以下の試料を成形し、上記分析面に対し、電圧30kV〜40kV、電流50〜70mAのX線を照射してスラグ中の揮発性微量元素の分析を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグに含まれる揮発性微量元素の分析に好適なスラグ分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精錬工程において溶鋼を清浄化するには、スラグ組成を正確に制御する必要があり、その制御のために行われるスラグ成分分析方法として、ガラスビードを用いた微量元素の定量分析法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ガラスビードの作製は、粉末試料と融剤と混合し、さらに、酸化剤等を混合したものを溶融るつぼに入れ、約800℃〜1200℃の加熱条件で加熱・溶融が行なわれるが、スラグ中の揮発性微量元素については、上記加熱・溶融時に揮発してしまうため、正確な分析を行うことができなかった。
【0004】
一方、試料を粉砕した後、プレス成形して蛍光X線分析するブリケット法もスラグ分析方法として知られており(例えば、特許文献2参照)、このブリケット法によれば、試料を加熱・溶融しないため、スラグ中の揮発性微量元素が加熱によって揮発する虞れは少ない。
【特許文献1】特開平10−132715号公報
【特許文献2】特開平11−23496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記蛍光X線分析装置としては、通常、分光結晶を用いる波長分散型のものが使用されている。しかしながら、この種の分析装置は感度、分析精度の点で優れているものの、分析結果は、試料の表面形状に大きく影響されるという問題がある。
【0006】
そこで、試料表面を平滑にするための工夫がなされているが、試料の粒径を調製しても期待する分析精度が得られず、具体的な方法は確立されていない。また、試料調製に費やされる時間が長くなると、分析結果を操業へフィードバックすることが遅れることになる。その結果、現場でスラグ組成を制御するために上記分析結果を役立てることができなくなる。
【0007】
また、脱燐などの精錬反応を活発にするとともに、不要となったスラグの排出を容易にするため、フッ素を含む蛍石を造滓材として添加することでスラグの融点や粘土を下げることが行われている。
【0008】
しかしながら、スラグは土木および建築用の材料として使用されることがあることから、そのスラグからのフッ素溶出量に関しては、環境基準値としての0.8ppm以下を満足しなければならず、このような観点からも上記フッ素等の微量元素についても正確に分析する必要がある。
【0009】
本発明は以上のような従来のスラグ分析方法における課題を考慮してなされたものであり、スラグ中の微量元素、特に揮発性微量元素を正確且つ迅速に分析することができるスラグ分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、採取したスラグの少なくとも95%以上が球換算直径で50μm以下となるようにスラグを粉砕し、
圧力30t/cm以上で且つ20秒以上加圧プレスすることにより、厚さが2〜4mmで分析面の凹凸が0.05mm以下の試料を成形し、
上記分析面に対し、電圧30kV〜40kV、電流50〜70mAのX線を照射してスラグ中の揮発性微量元素の分析を行うスラグ分析方法である。
【0011】
本発明のスラグ分析方法において、揮発性微量元素とは、沸点が1,000℃以下である任意の微量元素が含まれるが、具体例としてはフッ素(−188.1℃)、水銀(356.6℃)、亜鉛(907.0℃)等が示される。
【0012】
また、微量とは0.2%以下である。従来、スラグ中に含まれる成分が0.2%以下の元素については測定誤差が大きかった。したがって、本発明が対象としている元素の分析では測定精度を向上させる必要があった。
【0013】
本発明のスラグ分析方法は、バインダーを使用せずに上記試料を成形することを要旨とする。
【0014】
本発明のスラグ分析方法において、上記スラグが精錬スラグであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スラグ中の微量元素、特に揮発性微量元素を正確且つ迅速に分析することができるという長所を有する。
【0016】
また、スラグ中の微量元素を迅速に分析できることによって、分析結果を操業にフィードバックさせ、スラグ組成の制御に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0018】
なお、本実施形態では沸点が1,000℃以下の揮発性微量元素としてフッ素を例に取り、その分析方法について説明する。
【0019】
図1は、転炉スラグのサンプリング方法を示したものである。
【0020】
同図において、転炉の操業では、転炉1を直立させた状態で酸素吹込みランス2から酸素を吹き込み、炉底から不活性ガス等を吹き込み、浴を撹拌しつつ水練を行う。
【0021】
水練が終了すると、転炉1の炉体を傾け、出鋼口1aから溶鋼を取鍋3内に注入する。
【0022】
このとき、転炉1内のスラグ層Sに対しサンプラー4を挿入し、そのサンプラー4に付着して固化したスラグを試料として採取する。
【0023】
採取したスラグを、ミル(島津製 オートマティックディスクミル OD−10A型)を用いて粉砕し、スラグの95%以上が球換算直径で50μm以下となるように調製した。
【0024】
フッ素は加熱によって揮発あるいは揮発しやすい物質に変化する。これまで行っていたガラスビードによる試料作製では、採取したスラグを加熱・溶融すると、スラグに含まれているフッ素が揮発してしまい、フッ素濃度を正確に分析することが困難であった。
【0025】
このような揮発性微量元素の分析には、加熱・溶融せずに試料を作製するブリケット法が有効であるが、その反面、ガラスビードほどに試料表面を平滑にすることが困難である。
【0026】
ブリケットとしてスラグを粉砕するにあたり、試料表面をできるだけ平滑にするためには、まず、スラグの粉砕条件を、上記したように、スラグの95%以上が球換算直径で50μm以下とすることが必要である。
【0027】
さらに、粉砕したスラグにはバインダーを添加しないことが必要である。バインダーを添加すると、分析値に誤差が生じるためである。
【0028】
次に、粉砕されたスラグを60〜70g計量し、計量したスラグを試料作製用の鋼製円筒内に充填する。上記円筒のサイズは、直径35mm、高さ10mm、厚さ0.5mmであり、スラグの充填密度は約2.8g/cmである。
【0029】
次いで、スラグを充填した円筒を、油圧プレス装置(島津製 オートマティックサンプラー SPA−10型)を用いて筒軸方向に圧縮する。
【0030】
プレスの条件は、圧力30t/cm以上で20秒以上加えるものとし、得られた試料厚みが2〜4mmに成形されるようにする。
【0031】
なお、圧力を過剰に加えると、試料厚みが2mmを下回り、平坦な試料表面を得ることができなくなるため、40t/cm以下とすることが好ましい。
【0032】
なお、プレス時間をかけ過ぎても同様に試料厚みが2mmを下回って平坦な試料表面を得ることができないため、40秒以内とすることが好ましい。
【0033】
上記の粉砕条件およびプレス条件にしたがって試料を作製すれば、試料表面の凹凸を平坦に、具体的には、0.05mm以下にすることができる。なお、上記凹凸とは、分析面全体の中での最大高さと最小高さの差を意味する。
【0034】
図2は光切断法によって試料表面の凹凸を測定する装置の原理図である。
【0035】
同図において、10はスポット光を出射するレーザーポインタであり、出射されたスポット光は試料表面11で反射し、レンズ12を通過してPSD(Position Sensitive Detector)13上に結像するようになっている。
【0036】
A点で反射したスポット光はPSD13のA′点に結像され、B点で反射したスポット光は同じくB′点で結像され、C点で反射した場合には同じくC′点で結像される。
【0037】
PSD13はスポット光が当たると、光量に応じた電圧を発生し、スポット位置から離れた点の電位は膜材質の抵抗によって低下するため、PSD13の両端に発生する電圧の比に基づき、結像点の位置情報を求めることができる。
【0038】
今、測定したい点がA点であると、三角測量の原理を利用して試料表面11のA点の高さを求めることができる。
【0039】
図3〜図7は、このようにして求められた凹凸高さ情報を色パターンに変換し、拡大して示したものであり、プレス条件が試料表面の凹凸に与える影響を調べたものである。
【0040】
なお、各図の左側に配置されているカラーバーは色パターンおよびその濃度に対応する凹凸レベルを示しており、上限0.35mmから下限−0.25mmまで、0.6mmの範囲で凹凸レベルを認識できるようになっている。
【0041】
図3はプレス時間5秒の場合、図4は、プレス時間10秒の場合、図5は、プレス時間15秒の場合、図6はプレス時間20秒の場合、図7はプレス時間25秒の場合の試料表面の凹凸状態をそれぞれ示しており、プレス圧力はいずれも30t/cmである。
【0042】
また、図3中、符号Rは分析面の範囲を示しており、その直径は20mmである。なお、凹凸レベルの測定においては、円以外の形態であっても測定することができる。
【0043】
これらの図から、プレス圧力を30t/cmに設定した場合、プレス時間を20秒以上とすれば、平坦な試料表面の得られることがわかる。
【0044】
プレス時間を20秒とした図6では、試料表面の凹凸を0.05mm以下とすることができ、プレス時間を25秒とした図7においても、試料表面の凹凸を0.05mm以下とすることができた。
【0045】
このようにして試料表面の凹凸が0.05mmに調製された試料を用い、波長分散型の蛍光X線分析装置(理学製 サイマルテックス 12型)でスラグの成分分析を行った。
【0046】
上記蛍光X線分析装置は、試料を励起するためのX線発生装置、試料室、発生した蛍光X線の波長を決めるための分光系、そしてスペクトルを記録するための検出器から構成されており、試料からの蛍光X線の波長をブラッグ(Bragg)の法則を用いて決定し、試料からの蛍光X線のうち、ソーラースリット(薄板を0.1mm程度の間隔で平行に並べたもの)により略平行な成分のみを取り出し、分光結晶に入射させ、検出器で電圧パルスとして取り出すようになっている。
【0047】
電圧30kV〜40kV、電流50〜70mAの条件でX線を試料に照射した結果を表1〜表3に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
a.試料No.1〜20
比較例としての試料No.1〜20については、採取したスラグの粉砕条件として粉砕時間を60秒に設定するとともに、粉砕後の50μm以下のスラグの割合を85%とした。
【0050】
また、プレス条件として、圧力を10〜40t/cmまで、試料数5単位で10t/cmずつ変化させるとともに、プレス時間を試料数5単位で3〜20秒まで変化させた。
【0051】
また、X線照射条件を、30kV−50mA、30kV−60mA、30kV−70mA、40kV−50mA、40kV−60mA、40kV−70mAのうちのいずれかの組み合わせに設定した。
【0052】
上記の各条件にしたがってフッ素蛍光X線分析を行ない、その分析結果の有効性を確認するためにフッ素化学分析値と比較した。
【0053】
上記フッ素化学分析は、以下の方法によって行われる。
【0054】
試料を加熱蒸気中に通じた酸素気流中で高温加熱し、フッ素を捕集容器に導き、0.1Nの水酸化ナトリウム標準溶液で滴定する。
【0055】
滴定後の捕集溶液をメスフラスコ(容量250ml)に希釈後、一定量(分取溶液中に50μg以下となる量)をメスフラスコ(容量50ml)に分取し、ランタンアリザリン・コンプレクソン溶液50ml、アセトン10mlを加え、水で標線まで希釈してよく振り混ぜる。
【0056】
2時間以上放置した後、空試験液を対象に620nmにおける吸光度を測定し、予め作製された検量線からフッ素含有率を求める。
【0057】
例えば試料No.1ではフッ素蛍光X線分析値として0.043%が得られたが、フッ素化学分析値0.084%と比較すると誤差が大きいため、分析精度が高いとは言えない。
【0058】
試料No.5は誤差が最も小さく、0.020%であるが、この場合も分析精度が高いとは言えない。
【0059】
なお、本実施形態では誤差の許容範囲を0.008%とし、この値を超える誤差がある場合は×、許容誤差範囲内であれば〇とした。また、誤差は、予め化学分析にて分析した対象元素の濃度に対し、蛍光X線分析で測定した値の誤差を示している。
【0060】
【表2】

【0061】
b.試料No.21〜40(表1〜表2)
比較例としての試料No.21〜40については、粉砕条件として粉砕時間を90秒に設定するとともに、粉砕後の50μm以下のスラグの割合を90%とした。
【0062】
また、プレス条件として、圧力を10〜40t/cmまで、試料数5単位で10t/cmずつ変化させるとともに、プレス時間を試料数5単位で3〜20秒まで変化させた。
【0063】
また、X線照射条件を、30kV−50mA、30kV−60mA、30kV−70mA、40kV−50mA、40kV−70mAのうちのいずれかの組み合わせに設定した。
【0064】
上記の各条件にしたがってフッ素蛍光X線分析を行ない、その分析結果をフッ素化学分析値と比較した。
【0065】
例えば試料No.21ではフッ素蛍光X線分析値として0.036%が得られたが、フッ素化学分析値0.084%と比較すると、誤差が大きく分析精度が高いとは言えない。
【0066】
試料No.35は誤差が最も小さく、0.021%であるが、この場合も分析精度が高いとは言えない。
【0067】
c.試料No.41〜63
比較例および実施例としての試料No.41〜63については、粉砕条件として粉砕時間を150秒に設定するとともに、粉砕後の50μm以下のスラグの割合を95%とした。
【0068】
また、プレス条件として、圧力を10〜40t/cmまで変化させるとともに、プレス時間を3〜40秒まで変化させた。
【0069】
また、X線照射条件を、30kV−50mA、30kV−60mA、30kV−70mA、40kV−60mA、40kV−70mAのうちのいずれかの組み合わせに設定した。
【0070】
上記の条件でフッ素蛍光X線分析を行ない、その分析結果の精度をフッ素化学分析値と比較した。
【0071】
比較例としての試料No.41〜54、および試料No.58〜62では、いずれもフッ素蛍光X線分析値と化学分析値との誤差が基準値を超えていた。
【0072】
これに対し、実施例としての試料No.55〜57および試料No.63では、誤差が0.000〜0.005の範囲内に収まっており分析精度が高いという結果が得られた。
【0073】
【表3】

【0074】
d.試料No.64〜98
比較例および実施例としての試料No.64〜98については、粉砕条件として粉砕時間を200秒(一部については150秒)に設定するとともに、粉砕後の50μm以下のスラグの割合を98%(一部については95%)とした。
【0075】
また、プレス条件として、圧力を10〜60t/cmまで変化させるとともに、プレス時間を3〜60秒まで変化させた。
【0076】
また、X線照射条件としての電圧−電流値を、下記表4の組み合わせのうちのいずれかを選択した。
【0077】
【表4】

【0078】
上記の各条件でフッ素蛍光X線分析を行ない、その分析結果の精度をフッ素化学分析値と比較した。
【0079】
比較例としての試料No.64〜77、試料No.79〜83、試料No.86〜88、試料No.90〜91、試料No.93〜94では、いずれも蛍光X線分析値と化学分析値との誤差が基準値を超えていた。
【0080】
これに対し、実施例としての試料No.78、84〜85、89、92、95〜98では、誤差が0.001〜0.008の範囲内に収まっており分析精度が高いという結果が得られた。
【0081】
化学分析を行えば、精度の高いスラグ分析が可能であるが、分析に2時間程度の時間が必要となり、分析結果を精錬操業にフィードバックさせることは困難である。
【0082】
これに対し、本発明のスラグ分析方法によれば、およそ5分で精度の高い分析結果を得ることができるため、精錬操業にフィードバックさせてスラグ組成の管理に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る転炉スラグのサンプリング方法を示す説明図である。
【図2】本発明に係る試料表面の凹凸を測定する装置の原理図である。
【図3】試料表面の凹凸を示した図表である。
【図4】試料表面の凹凸を示した図表である。
【図5】試料表面の凹凸を示した図表である。
【図6】試料表面の凹凸を示した図表である。
【図7】試料表面の凹凸を示した図表である。
【符号の説明】
【0084】
1 転炉
1a 出鋼口
2 酸素吹込みランス
3 取鍋
4 サンプラー
10 レーザーポインタ
11 試料表面
12 レンズ
13 PSD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取したスラグの少なくとも95%以上が球換算直径で50μm以下となるようにスラグを粉砕し、
圧力30t/cm以上で且つ20秒以上加圧プレスすることにより、厚さが2〜4mmで分析面の表面凹凸が0.05mm以下の試料を成形し、
上記分析面に対し、電圧30kV〜40kV、電流50〜70mAのX線を照射してスラグ中の揮発性微量元素の分析を行うことを特徴とするスラグ分析方法。
【請求項2】
沸点が1,000℃以下の微量元素の分析を行う請求項1記載のスラグ分析方法。
【請求項3】
バインダーを使用せずに上記試料を成形する請求項1または2に記載のスラグ分析方法。
【請求項4】
上記スラグが精錬スラグである請求項1〜3のいずれか1項に記載のスラグ分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−115558(P2009−115558A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287757(P2007−287757)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】