説明

スラスト磁気軸受及びそのようなスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータ

【課題】電動機の中で発生する軸方向力を全面的に、しかも単独で受けるのに適し、特に、小型ディスクドライブ装置に具備されるスピンドルモータに好適に利用できるスラスト磁気軸受を提供する。
【解決手段】スラスト磁気軸受は、少なくとも1個の永久磁石と、該永久磁石に割り当てられ、該永久磁石の対向する端部に配設されつつ、回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配された少なくとも2個の磁束誘導部材とから成る第1の軸受構成部材と、軸方向に互いに間隔を置いて配設されつつ、前記回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配された少なくとも2個の磁束誘導部材(32; 132)から成る第2の軸受構成部材を含む。第2の軸受構成部材に属する前記磁束誘導部材(32; 132)の各々は、前記第1の軸受構成部材に属する前記磁束誘導部材(28; 128)に割り当てられつつ、空隙(34)を置いて該磁束誘導部材と半径方向に直に正対する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ構成部材と相対的に、回転軸の周りを回転できるよう支承されたロータ構成部材に作用する軸方向力を受けるスラスト磁気軸受に関する。更には、そのようなスラスト磁気軸受を具備するモータであって、好適にはハードディスクドライブ装置を駆動させる目的で起用できるスピンドルモータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、径が2.5インチ、1インチ若しくはそれ以下であるディスクを搭載するハードディスクドライブ装置や小型冷却ファンの駆動源として起用されるスピンドルモータのような小型モータを回転自在に支承する場合、軸方向力を受ける目的でスラスト磁気軸受を起用することが知られている。ここで述べるような構造をしつつ、好適には電子整流式ブラシレス直流モータとして形成されたスピンドルモータの場合、モータ軸は1枚又は複数枚のハードディスクの搭載を目的とするハブに結合されている。また、ロータマグネットがそのハブに連結されつつステータと同軸に配設されている。
【0003】
特許文献1には、例えば、軸がハードディスクを担持する役目を担い、且つ、ロータに連結されているロータハブに結合さているハードディスクドライブ装置が記載されている。その軸は、軸受スリーブの中に導入され、その軸受スリーブと軸との間にはラジアル流体動圧軸受並びにアキシャル・スラスト軸受が形成されている。そのアキシャル・スラスト軸受には、始動回転トルクを減少させる目的で、磁性素子によって予圧が付加される。
【0004】
磁気軸受に係る用途、理論及び算定については当該文献の中で広範囲にわたって取り扱われている。磁気軸受が、特に、軸受摩擦の減少という観点から見て有用であることは疑う余地がない。受動磁気軸受における主たる問題点は、少なくとも1の自由度に対して安定化装置が必要とされる点である。それは、磁石単独では、軸受を安定した均衡状態に保つことができないからである。それゆえ、永久磁石だけで安定した軸受を得ることは不可能である。従って、いわゆる磁気浮上(浮遊状態)を得るには、別の安定化装置を追加せねばならない。このため、従来の技術では多くの解決策が提案されてきた。
【0005】
例えば、Lawrence Livermore National Laboratory, UCRL-ID-137632から2000年2月17日に発行された“Stability issues in Ambient-Temperature Passive Magnetic Bearing Systems(周囲温度における受動磁気軸受システムの安定性についての諸問題)“の中で、R. F. Postは、浮遊(浮上)素子と安定化素子との特殊な組み合わせによる磁気軸受装置について述べている。その中でPostは、アーンショーの定理を満足する軸受を構成する上で累積的に必要とされる三つの主たる構成要素を挙げている。第1の構成要素は、浮上力(浮遊状態)を発生させるリングマグネットの対であって、それらのリングマグネットの一方は固定され、他方は回転する。上述した安定化に寄与するもう一つの構成要素をPostは“Halbach-Stabilisator (Halbach-安定装置)“と呼ぶ。その構成要素では、Halbachの磁界分布に従って配設されつつ、それらに割り当てられた磁束誘導体と正対する単独の複数個の永久磁石が起用されている。第3の構成要素は、低回転数による稼動状態では起用されつつも高回転数による稼動ではできる限り開放することが望ましい機械的軸受装置である。更に、Postは、渦電流による緩衝装置の使用に係る議論を進めている。Postの提案による装置は、比較的大掛かりであるような印象を与え、大量生産される電動機には適さず、特に、例えば、径が2.5インチ又は1インチ若しくはそれ以下であるディスクを搭載する小型ハードディスクドライブ装置(小型ディスクドライブ装置)に起用されるスピンドルモータには適さない。
【0006】
特許文献2には、受動スラスト磁気軸受並びに、油圧軸受又は玉軸受として実現されてよいピボット軸受を具備するスピンドルモータが記載されている。その受動スラスト磁気軸受は軸方向の引付力を発生させ、ピボット軸受は、上述した構成要素を、半径方向における安定性をも有するような軸受装置が形成されるよう安定化させる。これと類似する従来技術が米国特許US 5,561,335及び米国特許US 5,545,937にも記載されている。
【0007】
特許文献3には、浮遊素子と安定化素子とを備える水平軸用受動磁気軸受が記載されている。その浮遊素子は、固定されつつ湾曲している強磁性のセグメントから成る。それらのセグメントは、半径方向に作用する環状の磁気構造体の中に位置する。その磁気構造体は中空である軸の内周に配設されている。上記湾曲しているセグメントと磁気構造体との間に働く引付力は、軸を浮上させる目的で垂直方向に作用する一方でその軸を心合わせする目的で水平方向にも作用する。上述した安定化素子は、環状である磁性のHalbach-構造体と、そのHalbach-構造体の中に配設されている固定された環状の磁気回路から成る。上記Halbach-構造体は先に述べた、中空である軸の内周に配設されている。上述したHalbach-構造体と磁気回路の間に作用する反発力は、そのHalbach-構造体と磁気回路との半径方向の間隔と反比例的に増加し、軸が均衡を失ったとき、その軸を再び均衡状態に戻す復元力として働く。当該軸受は、磁性素子体と強磁性構造体との間に、相応の渦電流損を発生させる渦電流が生じるよう構成されている。
【0008】
特許文献4には、ベースプレートとモータシャフトの間に取り付けられた磁性素子を具備するスピンドルモータ用磁気軸受が記載されている。その磁性素子は、同軸に配列されつつ互いに反発することでシャフトを浮遊させ、それによって機械的摩擦を最小限に抑える内側の磁気区分と外側の磁気区分を含む。上記磁気軸受は、回転するシャフトを支承するため固定された軸の中に配設され、シャフトの頂部はベースプレートの相手方部材に支持される。
【0009】
特許文献5には、受動(アキシャル)スラスト磁気軸受とラジアルすべり軸受又は玉軸受とを具備するロータ型モータ用磁気軸受構造が記載されている。
【0010】
特許文献5では、玉軸受を基礎とした鋼又はダイヤモンド製スラスト軸受、磁性流体軸受、渦電流素子、アキシャル・スラスト軸受としてのすべり軸受並びに動圧軸受乃至は流体軸受又は空気軸受と組み合わされたハイブリッド受動磁気軸受を含む安定化装置を備えた磁気軸受が開示されている。
【特許文献1】米国特許第6,172,847号明細書
【特許文献2】米国特許第5,541,460号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0042812号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0117031号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0046467号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、電動機の中で発生する軸方向力を全面的に、しかも単独で受けるのに適し、且つ電動機の始動時及び安定稼動時における摩擦も最小限であるばかりでなく、特に小型ディスクドライブ装置に具備されるスピンドルモータに好適に利用できるスラスト磁気軸受を提供することである。
【0012】
本発明の別の課題は、始動時及び安定稼動時の何れにおいても、その摩擦量が最小限であって、特に低消費電力型ハードディスクドライブ装置での使用に好適であるスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ステータ構成部材と相対的に、回転軸の周りを回転できるよう支承されたロ
ータ構成部材に作用する軸方向力を受けるスラスト磁気軸受であり、その磁気軸受は、軸
方向に磁化された少なくとも1個の永久磁石と、その永久磁石に割り当てられた少なくと
も2個の磁束誘導部材から成る第1の軸受構成部材を含む。それらの磁束誘導部材は、対
向する永久磁石の端部に配設され、回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配置されてい
る。本スラスト磁気軸受は、軸方向に互いに間隔を置いて配設されつつ、回転軸に対して
半径方向及び垂直方向に配された少なくとも2個の磁束誘導部材から成る第2の軸受構成
部材を含む。第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材の各々が、第1の軸受構成部材に
属する磁束誘導部材に割り当てられ、且つ半径方向に空隙を介在させつつ、第1の軸受構
成部材と直に正対している。
【0014】
本発明によるスラスト磁気軸受は、例えば、スラスト流体動圧軸受、ピボット軸受又は玉軸受といった通常の構造をした従来のスラスト軸受に完全に代わることができる。スラスト磁気軸受は、通常の構造をした他種のスラスト軸受と比べた場合、摩擦を発生させない。それによって、当該軸受装置は、例えば、スピンドルモータといった電動機に非常に好適に起用でき、軸受全体における摩擦が僅かであることからして電動機の消費電力も削減される。
【0015】
電動機に起用するためには、軸受構成部材の一方はステータ構成部材に、他方はロータ構成部材に各々連結されている。
【0016】
スラスト磁気軸受の第1の実施態様では、第1の軸受構成部材に属する永久磁石は環状であって、第1と第2の端面並びに内周面と外周面とを備える。その永久磁石は、更に回転軸の方向に従って軸方向に磁化されつつ回転軸と同心に配設されている。上記永久磁石は、好適には、渦電流の発生を避ける目的で軸方向に単極に磁化されているか若しくは軸方向に多極に磁化されている。環状の磁束誘導部材の一方は上記永久磁石の第1の端面に、他方の環状の磁束誘導部材はその永久磁石の第2の端面に配設されている。上述した少なくとも2個の磁束誘導部材は内周面と外周面とを備える。好適には、それらの磁束誘導部材の内周面及び外周面は、上記永久磁石の内周面又は外周面から突出してよい。
【0017】
本発明の第1の実施態様では、第2の軸受構成部材は環状であって、第1の軸受構成部材に属する永久磁石と半径方向に対向している。その場合、第2の軸受構成部材は第1の軸受構成部材と同一に形成されてよい。言い換えると、第2の軸受構成部材は、回転軸の方向に従って軸方向に磁化され、且つその両端部に各々磁束誘導部材が配設された環状の永久磁石を含んでよい。第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、永久磁石の半径方向の内周面乃至は半径方向の外周面から突出してよく、半径方向において、相応する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と直に正対する。互いに正対する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、その構造からして、上述した永久磁石から発生する磁束流れを集約及び結束させる磁束流れ集約構造部を成す。それによって、スラスト磁気軸受が受けるべき軸方向力が増加する。
【0018】
本発明の別の好適な実施態様では、第2の軸受構成部材は強磁性材料から成ってよく、且つ回転軸と同心に配設されてよい。この場合、磁束誘導部材が第2の軸受構成部材と一体化された構成要素であると好都合である。好適には、第2の軸受構成部材の外径が最も大きく、内径が最も小さいのは磁束誘導部材が設けられた部分である。
【0019】
第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材が、各々単独素子として形成されている限り、それらの磁束誘導部材は、好適には強磁性材料から成ってよい。磁束誘導部材の各々が、好適には環状の板部材から成り、その場合、板部材は、複数枚の薄板を軸方向、すなわち、回転軸の方向にスタックして成ってよい。
【0020】
磁束誘導部材を成す薄板スタックは、好適には薄板を複数枚積層して構成される。軸方向に単極に磁化された永久磁石を用いること乃至は薄板スタックを磁束誘導部材として用いることで渦電流の発生を最大限に回避できるので、あえて考慮しなければならないような渦電流損は発生しない。磁束誘導部材の厚さは、好適には永久磁石の厚さより遥かに小さい。本発明によれば、第1の軸受構成部材及び/又は第2の軸受構成部材は、軸方向に互いに反対の極性に磁化された2個若しくはそれ以上の永久磁石を含んでよい。それらの複数個の永久磁石の間及びその都度外側に位置する永久磁石の端面には、各々上記で説明したような種類に属する磁束誘導部材が配設されている。
【0021】
本発明の趣旨からして、第1の軸受構成部材が電動機に属するステータ構成部材に配設され、第2の軸受構成部材が電動機に属するロータ構成部材に配設されているか、或いはそれとは逆に、第1の軸受構成部材が電動機に属するロータ構成部材に配設され、第2の軸受構成部材が電動機に属するステータ構成部材に配設されるのが好ましいのかといったことは重要ではない。
【0022】
上述したロータ構成部材とステータ構成部材との間で生じる半径方向力は、例えば、ラジアル流体動圧軸受、転がり軸受といった公知の構造をしたラジアル軸受を用いて吸収すればよい。
【0023】
本発明の別な観点によれば、本発明は、静止しているモータ構成部材、すなわち、ステータと、回転自在であるモータ部材、すなわち、ロータとを備え、且つそのロータをステータに対して回転軸の周りに回転自在に支承するラジアル流体動圧軸受を備えるモータが提供される。尚、そのロータの一部とステータの一部との間には軸受隙間が形成され、その軸受隙間には軸受流体が充填されている。更に、本モータは、少なくとも1個の永久磁石と、その永久磁石に割り当てられ、互いに対向するその永久磁石の両側端面に配設されつつ回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配置された少なくとも2個の磁束誘導部材から成る第1の軸受構成部材を有するスラスト磁気軸受を含む。そのスラスト磁気軸受は、互いに間隔を置いて配設されつつ回転軸に対して、半径方向及び垂直方向に配置された2個の磁束誘導部材を具備する磁束流れ集約構造部を有する第2の軸受構成部材を含む。ここで、上記第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材の各々が、上述した第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材に各々割り当てられ、且つ半径方向に空隙を介在させつつ、その磁束誘導部材と直に正対している。本モータを駆動させる手段として、静止しているモータ構成部材に配設されたステータ構造体と、回転自在であるモータ構成部材に配設されたロータマグネットを備える電磁駆動装置が設けられている。
【0024】
本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータは、通常の構造をしつつスラスト流体動圧軸受、スラスト玉軸受又はピボット軸受を具備する従来のスピンドルモータと比較した場合、スラスト磁気軸受を具備することで、軸受の総摩擦量が、従来の技術による上記構造と比べて減少することを利点とする。摩擦量が減少することで、そのスピンドルモータが必要とする駆動電力はより少なくてすみ、消費電力も公知の構造によるスピンドルモータの消費電力よりもおよそ30%まで引き下げられる。従って、そのようなスピンドルモータは、低消費電力型ハードディスクドライブ装置での使用又は省電力型の駆動装置での使用に非常に好適である。
【0025】
本スピンドルモータに属する、静止しているモータ構成部材は、ベースプレートに固定された軸受スリーブを含み、第1の軸受部材は、好適には、その軸受スリーブの外周に配設されている。その回転自在であるモータ構成部材は、上記軸受スリーブの中に回転支承された軸と、その軸に連結されたハブとを含む。尚、先述したスラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材は、上記ハブの内周又はそのハブに連結された構成部材に配設されつつ上述した第1の軸受構成部材を囲んでいる。
【0026】
上記スラスト磁気軸受に属する双方の軸受構成部材の位置関係を入れ替えて、本スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材をハブの内周面に配設し、第2の軸受構成部材を軸受スリーブの外周に配設するようにしてよいことはあえて言うまでもない。
【0027】
本スピンドルモータの1の実施態様では、スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材の永久磁石は環状であって、第1と第2の端面並びに内周面と外周面とを備える。その永久磁石は、回転軸の方向に従って、好適には軸方向に単極に磁化されつつ回転軸と同心に配設されている。環状の磁束誘導部材の一方は上記永久磁石の第1の端面に、他方の環状の磁束誘導部材はその永久磁石の第2の端面に配設されている。上述した磁束誘導部材は、内周面と外周面とを備える。好適には、それらの磁束誘導部材の半径方向内周面及び半径方向外周面は、上記永久磁石の半径方向内周面又は半径方向外周面から突出してよい。上記磁束誘導部材は、軸受スリーブと一体化された構成要素であってよいが、軸受スリーブとは別個に形成されていてもよい。いずれにせよ、磁束誘導部材は、強磁性材料から作られた薄板リング状の部材でなければならない。本スラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材は、好適な実施態様では、環状であって、第1の軸受構成部材と半径方向に正対している。尚、第2の軸受構成部材は、第1の軸受構成部材と同一に形成されてよい。言い換えると、第2の軸受構成部材も、回転軸の方向に従って磁化されつつ、その端部側に各々磁束誘導部材が具備された永久磁石を含んでよい。上記第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、その第2の軸受構成部材に属する永久磁石の半径方向の内周面乃至は半径方向の外周面から突出してよく、相応する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と、半径方向において、直に正対する。互いに正対する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、その構造からして、上述した永久磁石から発生する磁束流れを集約及び結束させる磁束流れ集中手段を成す。それによって、スラスト磁気軸受が受けるべき軸方向力が増加する。
【0028】
本発明の別の好適な実施態様では、本スラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材は強磁性材料から成ってよく、且つ回転軸と同心に配設されてよい。この場合、磁束誘導部材が第2の軸受構成部材と一体化された構成要素であると好都合である。好適には、第2の軸受構成部材の外径が最も大きい領域乃至は内径が最も小さい領域は、磁束誘導部材の領域である。軸受構成部材に属する磁束誘導部材が、各々単独素子として形成されている限り、それらの磁束誘導部材は、好適には強磁性材料から成る。磁束誘導部材の各々が、好適には環状の板部材から成り、その場合、板部材は、固体材料若しくは複数枚の薄板を軸方向、すなわち、回転軸の方向にスタックして成ってよい。従って、各々の磁束誘導部材を成す薄板スタックは、好適には薄板を複数枚積層して構成される。薄板スタックを磁束誘導部材として用い、軸方向に単極に磁化された永久磁石を用いることで渦電流の発生を回避できるので、渦電流損は発生しない。磁束誘導部材の厚さは、好適には永久磁石の厚さより遥かに小さい。本発明によれば、本スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材及び/又は第2の軸受構成部材は、互いに軸方向に重なり合いつつ互いに反対の極性に磁化された2個若しくはそれ以上の環状の永久磁石を含んでよい。それらの複数個の永久磁石の間及びその都度外側に位置する永久磁石の端面には、各々上記で説明したような種類に属する磁束誘導部材が配設されている。
本発明の趣旨からして、本スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材が本モータの静止している構成部材に配設され、本スラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材が本モータの回転自在の構成部材に配設されているか、或いはそれとは逆に、第1の軸受構成部材が本モータの回転自在の構成部材に配設され、第2の軸受構成部材が本モータの静止している構成部材に配設されるのが好ましいのかといったことは重要ではない。
【0029】
上述したロータ構成部材とステータ構成部材との間で生じる半径方向力は、例えば、ラジアル流体動圧軸受、転がり軸受といった、公知の構造をしたラジアル軸受を用いて受けられる。好適には、流体動圧軸受である2個のラジアル軸受部は、互いに正対する軸の軸受面と軸受スリーブの軸受面とによって形成され、それらの軸受面は軸受隙間によって互いに隔てられている。
【0030】
本発明では、本スピンドルモータに属する軸受装置は、その一方が閉塞され、その軸受隙間の開口側端部には、好適には軸受隙間から軸受開口部への延長線上に見たとき、軸受スリーブに属する半径内向きの胴部とその胴部と対向しつつ回転軸と相対的に、僅かな傾斜によって半径内方に向けられたハブ胴部との間に配され、それによって、上記ハブの内壁とその内壁と対向する軸受スリーブの外壁との間に円錐状の毛細管シール隙間を形成するシール隙間が接続する。尚、そのシール隙間には、少なくとも部分的に軸受流体が充填されている。そのシール隙間は、概ね半径方向に延びる環状隙間を介して上記軸受隙間と接続され、且つその軸受隙間と実質的には平行に延びてよい。しかし、上述したシール隙間は、先の軸受隙間に対して概ね横方向に延びてもよく、その場合、そのシール隙間は先述した軸受スリーブの一方端部とその端部と対向するハブの環状面の間に配設され、その中には、軸受流体が部分的に充填されている。そのシール隙間は、毛細管シール、好適には、上記軸受隙間を起点に0°から15°の角度で開口する円錐状の毛細管シールを成す。
【0031】
本スピンドルモータに属するハブは、1個又は複数個の部材から成ってよい。そのハブは、例えば、軸に結合された第1のハブ構成部材と、その第1のハブ構成部材に結合された第2のハブ構成部材から成ってよい。後者の場合、第2の軸受構成部材は、第2のハブ構成部材の一部として形成されているか若しくは全体として、第2のハブ構成部材を成す。第2の軸受構成部材を第2のハブ構成部材とは別に、第3のハブ構成部材として形成してよいことはあえて言うまでもない。更に、軸と第1のハブ構成部材を一体に形成することも可能である。この場合、軸に結合されたストッパーリングは、組み立ての都合上、独立した部材として構成される。
【0032】
回転自在であるモータ構成部材が、静止しているモータ部材に対してあまりにも極端に軸方向にスライドしてしまうのを避ける目的で、軸の一方端部には、好適には、軸受スリーブの中心孔に配設された段部と軸方向に正対しつつ、軸があまりにも極端に軸方向にスライドした場合その段部に接触するようになっているストッパーリングが配設されている。
【0033】
別の選択肢として、本スラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材に、軸受スリーブの外周に設けられた段部と軸方向に対向するストッパーリングを配設するようにしてもよい。上記第2の軸受構成部材がハブの一部を成し、そのハブが軸に結合されていることからして、この構造によっても回転自在である軸受構成部材における過度の軸方向隙間が生じるのを避けることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のスラスト磁気軸受及びそのようなスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータによれば、電動機の中で発生する軸方向力を全面的に、しかも単独で受けるのに適し、且つ電動機の始動時及び安定稼動時における摩擦も最小限であるばかりでなく、特に小型ディスクドライブ装置に具備されるスピンドルモータに好適に利用できる。
また、始動時及び安定稼動時の何れにおいてもその摩擦量が最小限であって、特に低消費電力型ハードディスクドライブ装置での使用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明を、スラスト磁気軸受の好適な複数の実施態様並びにそのようなスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの好適な複数の実施態様を基に、図面と関連付けて詳しく説明する。
【0036】
図1は、本発明によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の概略断面図である。図示された軸受装置は、例えば、モータを回転支承するために使用できる。その軸受装置は、軸受スリーブ12が保持された略ベースプレート形状のステータ構成部材10を含む。軸受スリーブ12は、ハブと称するロータ構成部材16に連結された軸14を回転自在に収容する。軸14は、2個のラジアル軸受部18aと18bによって、回転軸20の周りを自在に回転できるよう軸受スリーブ12の内面に支承されている。ラジアル軸受部18aと18bは、図示された例では、従来の技術から基本的に知られたラジアル流体軸受として形成されている。軸14に作用する軸方向力を受けるのは、本発明に基づいて構成され、第1の軸受構成部材24と第2の軸受構成部材30とから形成されるスラスト磁気軸受22である。第1の軸受構成部材24は、図示された例では、第2の軸受構成部材30の半径方向内方に形成されつつ軸受スリーブ12の外周面に設けられた段部付近に配設されている。第1の軸受構成部材24は、回転軸20と同心に配された環状の永久磁石26を含む。永久磁石26の両側端部には2個の環状の磁束誘導部材28aと28bとが配設されている。それらの磁束誘導部材は、好適には強磁性材料から成る。永久磁石26は、好適には軸方向に単極に磁化されている。
【0037】
第2の軸受構成部材30は、この実施態様では、ロータ構成部材16と一体に結合された環状突起から成る。その突起は、第1の軸受構成部材24に属する磁束誘導部材28aと28bと半径方向に正対する2個の磁束誘導部材32a及び32bを形成する。第1の軸受構成部材24の永久磁石26から発する磁束線は磁束誘導部材28aと28bに集約され、空隙34及び第2の軸受構成部材30に属する磁束誘導部材32aと32bとを介して永久磁石26に戻される。第1の軸受構成部材24に対抗している磁束誘導部材32aと32bとの間の半環状空間は反磁性材料で満たされてよい。
【0038】
軸14とロータ構成部材16とが、軸受スリーブ12及びステータ構成部材10と相対的に軸方向において可動範囲を動くと、永久磁石26並びに磁束誘導部材18a、18b、32a、32bとが、対向する側で、軸方向に復元力を発生させる。その復元力は、ロータ構成部材をステータ構成部材と相対的に、軸方向において安定的に浮遊させておく力である。永久磁石26は、更に第2の軸受構成部材30を半径方向に引き付けるので、軸受にはそれとは別に、半径方向に予圧が付加される。それによって、ラジアル軸受部18aと18bとの作用が支援される。第2の軸受構成部材30乃至はロータ構成部材16は、好適には強磁性材料から成る。軸受スリーブ12並びに軸14は、好適には非磁性鋼といった非磁性材料又は弱磁性材料から成る。
【0039】
本発明によるスラスト磁気軸受構造では、公知の構造をしたアキシャル・スラスト流体動圧軸受を省略して軸方向の軸受隙間をその分大きくとることができるゆえ、軸受摩擦を大幅に減らすことが可能である。その磁気軸受は、軸受装置が静止しているときでさえ、例えば、スラスト流体動圧軸受とは違って、相応に作用する。
【0040】
図11は、本発明によるスラスト磁気軸受において、そのスラスト磁気軸受の軸方向振れと安定状態との関係における軸方向の復元力の特性曲線を示す。そのスラスト磁気軸受の直径は、この例では、数ミリメートルから数センチメートルであって、軸方向隙間は、例えば、±100μmであることが考えられる。図11に示すように、この態様では数ニュートンに及ぶ復元力を得ることが可能であって、復元力は軸受のデザイン及び寸法諸元によって変化しうる。ゆえに、図11に示す数値はあくまでも一例であることを理解されたい。
【0041】
復元力の特性曲線60を見ると、その特性曲線に、構成部材、特に軸受スリーブ12及びロータ構成部材16の特性及び材質による影響から来る非対称性があることがわかる。
【0042】
図2は、本発明の別の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。その中で、図1と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。図2に示す実施態様は、スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材24の構造が第1の実施態様と異なる。第1の軸受構成部材24は、その両側端面に各々1個の磁束誘導部材28aと28bとが配設された永久磁石26を含む。図1に示す第1の実施態様とは逆に、図2に示す磁束誘導部材28aと28bの外径は、永久磁石26の外径より大きいので、それらの磁束誘導部材28aと28bはその永久磁石26の端から突出し、磁束線は、磁束誘導部材28aと28bとの間乃至は第2の軸受構成部材30に属する磁束誘導部材32aと32bとの間に介在する空隙の中により強く集約する。このような策を講じることで、図1の態様と比べてスラスト磁気軸受22のより大きい復元力が得られる。
【0043】
図3は、本発明によるスラスト磁気軸受の更に別の実施態様を示す概略断面図である。その中で、図1と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。図3に示す実施態様は、第1の軸受構成部材24に属する永久磁石の数並びに磁束誘導部材の数が図1及び図2に示す実施態様と異なる。第1の軸受構成部材24は、環状である2個の永久磁石36と38とを含み、それらの永久磁石の間及び永久磁石36と38の全ての端面には、各々1個の磁束誘導部材40a、40b及び40cが配設されている。永久磁石36、38は、軸方向において互いに反対の極性にて磁化されている。第2の軸受構成部材30は、第1の軸受構成部材24と半径方向に正対するよう配設され、同じく第1の軸受構成部材24に属する磁束誘導部材40a、40b及び40cと半径方向に正対するよう各々配設された3個の磁束誘導部材42a、42b及び42cを含む。2個の永久磁石36、38を起用することで、本スラスト磁気軸受においては図1及び図2に示す軸受と比べて、より大きい復元力が得られる。それは、図3の態様では、図1及び図2の態様と比べて磁気力がほぼ倍増するからである。
【0044】
図4は、2個の軸受構成部材に属する磁束誘導部材の変型例を断面図で示したものである。スラスト磁気軸受22の第1の軸受構成部材24に属する磁束誘導部材44の外径は同一寸法ではなく、外周には複数本の溝が設けられている。そのため、磁束誘導部材44を断面で見ると、小歯が加工されているかのように見える。それらの小歯の数は、磁束誘導部材44の厚さ並びに溝を加工するために使用された工程によって決まる。第1の軸受構成部材24と半径方向に対向する第2の軸受構成部材30に属する磁束誘導部材46も、同一数の小歯を有する。因みに、磁束誘導部材44に設けられた小歯の各々は、磁束誘導部材46に設けられた各々の小歯と真向かいに配されている。そのような小歯を多数設けることで、永久磁石26から発せられる磁束線はより好適に集約され、それによって磁束流れのより多くをスラスト磁気軸受に与えられた目的のために活用できる。磁束線の集約率を更に高めるため、磁束誘導部材に設けられた個々の小歯の間に介在する空間を反磁性材料で満たすようにしてよい。
【0045】
図5は、積層された複数枚の薄板から成る磁束誘導部材48を具備するスラスト磁気軸受22に属する第1の軸受構成部材24の概略断面図である。磁束誘導部材48を成す重ねられた複数枚の薄板は、半径方向に配されていることから、軸方向に多極に磁化された永久磁石26を用いた場合でも、渦電流の発生を回避できる。
【0046】
図6は、本発明の別の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の概略断面図である。図6の態様は、概ね図1の態様に相応し、図6と図1の中で同一の部材についてはそれと同一の符号を付した。図6の態様は、スラスト磁気軸受22に属する第1の軸受構成部材24が図1に示す態様と異なる。第1の軸受構成部材24に属する永久磁石26に配設された磁束誘導部材28aと28bは、この実施態様では、環状である上記永久磁石の端面を全面的に覆っているのではなく、永久磁石26の内径は、環状である磁束誘導部材28aと28bの内径よりも小さくなっている。それによって、背面における漂遊磁束は減少し、本流の実効磁束が増大する。これに対して、永久磁石26の外径寸法と磁束誘導部材28a、28bの外径寸法は同一である。
【0047】
図7は、本発明によるスラスト磁気軸受の更に別の実施態様を示す。尚、図1及び図2に示されたのと同一の部材にはそれと同一の符号を付した。これまでに述べた本発明の実施態様とは異なって、図7では、第1の軸受構成部材50と第2の軸受構成部材52の位置が入れ替わっている。すなわち、第1の軸受構成部材50がロータ構成部材16に配設されている一方で、第2の軸受構成部材52は軸受スリーブ12に配設されている。第1の軸受構成部材50は、永久磁石51と、各々がその永久磁石の端部側に固定された上、接続部材によってロータ構成部材16に固定された磁束誘導部材とを含む。回転軸20と半径方向に正対するようにして、軸受スリーブ12の段部に固定された第2の軸受構成部材52が配設されている。第2の軸受構成部材52は、上記第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と半径方向に正対する磁束誘導部材を含む。
【0048】
図8は、図7に示す実施態様の変型例であって、第2の軸受構成部材54が軸の外周面と直に境を接しつつ軸受スリーブ12と相まって軸14を半径方向に支承する役目を果たす点が図7の実施態様と異なる。第1の軸受構成部材50には、第2の軸受構成部材54と半径方向に正対するようにして磁束誘導部材が設けられている。
【0049】
図9は、本発明の更に別の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。軸114がラジアル軸受部118aと118bとによって回転支承されたステータ構成部材110には、第1の軸受構成部材124が固定されている。第1の軸受構成部材124は永久磁石126を含む。永久磁石126の両側端面には、各々永久磁石126の外周から突出する磁束誘導部材128aと128bが固定されている。軸114は、ロータ構成部材116に連結されている。そのロータ構成部材116の内周面には、第2の軸受構成部材130が、第1の軸受構成部材124と半径方向に正対するようにして配設されている。第2の軸受構成部材130も両側端面に、各々磁束誘導部材132aと132bが配設された永久磁石156を含む。磁束誘導部材132aと132bは、永久磁石156の内周面から突出しつつ磁束誘導部材128aと128bに半径横行に直に正対している。この態様は、軸受構成部材124と130の各々において、永久磁石が1個ずつ用いられていることを特徴とする。但し、1個の軸受構成部材に対して2個又はそれ以上の永久磁石を用いるようにしてもよい。
【0050】
図10は、本発明によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図であって、図9と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。図10の態様が図9の態様と異なる点は、磁束誘導部材128aと128bの内径面及び外径面が永久磁石126の内径面及び外径面と同一の平面上に延びる点である。それと同様に、磁束誘導部材132aと132bの内径面及び外径面も、永久磁石156の内径面及び外径面と同一の平面上に延びる。
【0051】
これまでに述べたスラスト磁気軸受を備える軸受装置は、特に径が3.5インチ又は2.5
インチ若しくはそれ以下であるディスクを搭載するハードディスクドライブ装置に起用さ
れるスピンドルモータの回転支承に好適に利用できる。そのようなスピンドルモータでは、軸の径は、例えば、2から3mmであって、ハブの外径は10から20mmである。この場合、
永久磁石の厚さは、例えば、1mm、磁束誘導部材の厚さは、例えば、0.2mmである。但し、
これらの寸法は一例として挙げられているにすぎず、本発明がこれに限定されるものでは
ない。
【0052】
図12は、本発明によるスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの断面図である。そのスピンドルモータは、軸受スリーブ212が固定された開口部を備えるベースプレート210を含む。軸受スリーブ212は、軸214が回転自在に支承された中心孔を有する。軸214の外周面と軸受スリーブ212に設けられた中心孔の内周面との間には、軸受流体が充填された軸受隙間216が存在する。軸受隙間216から軸受流体が流出するのを防ぐ目的で、その軸受隙間216の一方側は、軸受スリーブ212に設けられた凹部に配置され且つ固定されたカバープレート218によって閉塞されている。カバープレート218又はそれと対向する軸214の面には、軸の下方に蓄積される空気を追い出し、内方に向けたポンプ作用を発生させるスパイラル状の溝を配設してよい。軸受隙間216の他方の側は、環状の連結隙間226を介して、軸受スリーブ212の外周面とそれと対向するハブ222の内周面との間に配された円錐状の毛細管シールを成すシール隙間228に結合されている。連結隙間226の領域では、軸受流体に作用する遠心力を調整する溝型のポンプ構造266を軸受スリーブの面又はハブの面に追加してよい。ポンプ構造266は、シール隙間228によって形成された毛細管シールを支援するための一種のポンプシールを成す。上記ポンプ構造は、回転軸230に向けて内方向に作用するポンプ作用を発生させる。軸受スリーブ胴部の直径が小さくなっていることから、連結隙間226の内部並びに毛細管シールの内部で生じる軸受摩擦は僅かであり、モータの消費電力は大幅に減少する。
【0053】
ハブ222は、軸214の自由端部に結合されている。軸214を軸受スリーブ212の中で回転支承させるには、好適には魚骨状であるラジアル軸受溝構造を具備するラジアル流体軸受部として形成された2個のラジアル流体動圧軸受部224aと224bとを用いる。しかし、上側のラジアル流体動圧軸受部224aは、好適には非対称であって、上側軸受開口部に隣接するラジアル軸受溝構造の枝は下側の枝よりも長く、軸受内部では動圧が上昇して、軸受流体の中で溶解された空気がアウトガス化するのを防ぐことができる。基本的には、多面すべり軸受又は溝を備えないすべり軸受をラジアル軸受部として起用してもよい。軸214が軸受スリーブ212の中で軸方向に過度に移動するのを防ぐため、軸214の一方端部には、軸受スリーブ212に設けられた凹部に配されたストッパーリング220が具備される。ストッパーリング220は、上記軸受スリーブ212によって形成された段部と正対し、軸214が極端な軸方向の動きをするとすぐにその段部に接触する。軸214の端部側と対向するカバープレート218の面には、軸受スリーブ212の中で軸214が回転するのに伴って軸受流体にポンプ作用を発生させる溝構造が具備されてよい。そのポンプ作用に伴って、本軸受内におけるこの領域では動圧が上昇して、本軸受の閉塞端部が低圧になるのを防ぐ。本スピンドルモータに属する電磁駆動装置は、ベースプレート210に固定されたステータ構造体232によって形成される。そのステータ構造体232の半径方向外方では、ハブ222に取り付けられたロータマグネット234がステータ構造体232と正対するよう配されている。
【0054】
軸214に作用する軸方向力は、第1の軸受構成部材238と第2の軸受構成部材244から成るスラスト磁気軸受236によって受けられる。第1の軸受構成部材238は、図12では、第2の軸受構成部材244より半径方向内側に位置しつつ軸受スリーブ212の外周に設けられた段部付近に配設されている。第1の軸受構成部材238は、回転軸230と同心に配設され、例えば、NdFeBを成分とする環状の永久磁石240を含む。永久磁石240の両側端面には2個の磁束誘導部材242aと242bが配設されている。それらの磁束誘導部材は、好適にはその厚さが、例えば0.2mmである強磁性の薄板又は薄板スタックから成る。永久磁石240は、軸方向、すなわち回転軸230の方向に従って、単極又は多極に磁化されている。先述した軸受スリーブが磁束をできる限り短絡させることがないように、軸受スリーブ或いは軸もが、好適には非磁性材料又は弱磁性の鋼から成る。
【0055】
第2の軸受構成部材244は、この実施態様では、ハブ222のバブ構成部材の外側部分222bに形成された環状突起を含む。その突起の外縁部には、好適には一体に形成された2個の磁束誘導部材246aと246bとを成す磁束集積構造部241が具備されている。尚、上記2個の磁束誘導部材は、第1の軸受構成部材238に属する磁束誘導部材242aと242bとに半径方向において正対するよう配されている。磁束誘導部材242a及び242bの外径は、好適には永久磁石240の外径よりも若干大きい。同様に、磁束集積構造部241に属する磁束誘導部材246a及び246bも環状部を形成し、第2の軸受構成部材244の最小内径が明示される。各々が互いに正対する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、空隙248によって互いに隔てられている。第1の軸受構成部材238の永久磁石240から発する磁束線は、磁束誘導部材242aと242bに集約された後、半径方向において、空隙248及び第2の軸受構成部材244に属する磁束誘導部材246aと246bとを介して永久磁石240に戻される。軸214とハブ222とが、軸受スリーブ212及びベースプレート210と相対的に軸方向において、可動範囲を動くと同時に、永久磁石240並びに磁束誘導部材242aと242b及び正対する軸受構成部材244に属する磁束誘導部材246aと246bとの協働により、回転自在であるモータ構成部材を静止しているモータ構成部材と相対的に、安定した軸方向の浮遊状態に保つ復元力が発生する。永久磁石240は、第2の軸受構成部材244を半径方向にも引き付けるので、軸方向における安定性が得られるだけでなく、当該流体軸受には半径方向の予圧が付加され、ラジアル流体動圧軸受部224aと224bの作用が支援されることになる。
【0056】
ハブ222は、好適には2個のハブ構成部材222aと222bから成り、ハブ構成部材222aのためには、好適にはアルミニウム若しくは弱磁性鋼といった非磁性や弱磁性の材料を用いる。尚、第2の軸受構成部材244が、直接形成される第2のハブ構成部材222bのためには、好適には鋼のような強磁性材料を用いる。2個の構成部材から成るハブの場合、先ず第1のハブ構成部材222aを取り付けた後、軸受に軸受流体を充填し、次いで第2のハブ構成部材222bを取り付けるようにするとよい。
【0057】
本発明によるスラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータでは、公知の構造をしたスラスト流体動圧軸受を省略して、それに代えて、摩擦のないスラスト磁気軸受を利用できるので、軸受装置の摩擦損失を大幅に減らすことが可能である。更に、スラスト流体動圧軸受を用いないため、流体隙間の軸方向隙間を相応に大きくとることができ、ここでも摩擦損失を減らすことができる。これは、軸方向の軸受隙間を、これまでより約10μmから少なくとも2倍から3倍、すなわち20-30μmにまで拡大できることを意味する。本スラスト磁気軸受は、稼動時、つまり、軸受が回転しはじめてからのみ、軸方向に作用する動圧力の形成に伴う軸方向の相応の浮上量(“fly height“)が得られるようなスラスト流体動圧軸受とは異なり、軸受装置が静止しているときであっても、相応に作用する。
【0058】
好適には、軸受スリーブ212に、軸受スリーブ212の軸方向貫通孔として形成される循環流路(図示せず)を具備するようにしてもよい。その循環流路は、各軸受隙間の外において、例えば、当該軸受の下側領域、すなわち、ストッパーリング220の領域に位置する軸受隙間部を上側領域の連結隙間226と連通させて、軸受流体を軸受内部で均一に循環させ、且つラジアル流体動圧軸受部における軸受孔の円筒度の逸脱があった場合、特に軸端部において、流体動圧軸受部内の動圧を調整する役目を担う。
【0059】
図13は、スピンドルモータの一部を示す。尚、ベースプレート及び電磁駆動装置は図示されていない。図13の中で、図12と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。図13に示すスピンドルモータの構成部品及びその機能に係る説明は、図12に示すスピンドルモータに係る説明に準じる。図13では、スピンドルモータに属するハブ322が一体に形成され、好適には弱磁性材料又はアルミニウムといった非磁性材料若しくは弱磁性鋼から成る点が図1と異なる。第2の軸受構成部材344は、環状の部材であって、ハブ322の凸部に、例えば、圧入又は接着等によって取り付けられている。第2の軸受構成部材344は、強磁性材料から成り、半径内方を向く2個の磁束誘導部材346aと346bとを形成する。
【0060】
図14は、図12及び図13に示すスピンドルモータと類似する構造をしたスピンドルモータを示す。図14では、図12に示されたベースプレート及び電磁駆動装置は、上記同様に省略されている。
【0061】
本スピンドルモータは、軸414を、好適にはラジアル流体動圧軸受である2個のラジアル流体動圧軸受部424aと424bとによって、回転軸430に対して回転自在に支承する軸受スリーブ412を含む。軸414は、一貫して円筒状に形成され、ストッパーリングは具備しない。軸受スリーブ412の一方の端部は、カバープレート418によって閉塞されている。軸414及び軸受スリーブ412の面は、軸受隙間416によって互いに隔てられ、軸受隙間416は、連結隙間426を介して軸受隙間416に接続されたシール隙間428に移行する。軸受隙間416と、連結隙間426とシール隙間428から成る構造は、図12に示す構造に準じる。軸受スリーブ412の外周に位置する段部には、永久磁石440並びにその永久磁石440の端部側に配設された磁束誘導部材442aと442bとを含む、スラスト磁気軸受436に属する第1の軸受構成部材438が配設されている。第1の軸受構成部材438と半径方向に正対する位置に、内側のハブ構成部材422aに結合された外側のハブ構成部材422bの一部である第2の軸受構成部材444が位置する。尚、内側のハブ構成部材422aは軸414に結合されている。スラスト磁気軸受436の配設状態及び機能は図12に示すスラスト磁気軸受に準じる。第2の軸受構成部材444は、第1の軸受構成部材438に属する磁束誘導部材442a及び442bと半径方向に正対する2個の磁束誘導部材446aと446bとを含む。第2の磁束誘導部材446bの下方では、第2の軸受構成部材444が延在し、軸受スリーブ412に設けられた段部と軸方向に正対する半径方向内向きに突出したストッパーリング450を形成する。ストッパーリング450は、上記段部と相まって、当該軸受装置の軸方向隙間を制限するストッパー素子を成す。すなわち、本スピンドルモータでは、ストッパー素子は、軸と軸受スリーブによってではなく、第2の軸受構成部材444の突出部と軸受スリーブに設けられた段部とを関連付けることで形成される。
【0062】
第2の軸受構成部材444に具備されたストッパーリング450が有する別な利点は、そのストッパーリング450がドライ状態で作用する点である。言い換えると、そのストッパーリング450は、軸受流体と接触した状態で作用するのではないということであって、それにより、軸受またはモータが通常に稼動しているとき、そのストッパーリング450は摩擦損失を発生させない。これとは反対に、例えば、図12に示すような、軸受流体と接触した状態で作用するストッパーリングは、軸受流体の中で常に僅かな摩擦損失を発生させる。
【0063】
図15は、図12のスピンドルモータと類似する本発明によるスピンドルモータの別の実施態様を示す。その中で、図12と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。ベースプレートと電磁駆動装置は図示しない。図15に示すスピンドルモータは、軸受隙間のシールの構成が図12のスピンドルモータと異なる。軸受隙間216の開口端部は、軸受スリーブ212の端面と、その端面と対向するハブ222或いは一方のハブ構成部材222aの間に環状に配設された半径方向の連結隙間226に移行する。連結隙間226の幅は終始同一であってもよいし、半径方向外方に向かって拡大してもよい。連結隙間226の半径方向外方では、ハブ構成部材222aの下側と本スラスト磁気軸受に属する両方の軸受構成部材238と244の間にフリースペースが形成されている。そのフリースペースの中には、環状の部材252が配設され、例えば、磁束誘導部材242aの上側に固定されている。環状の部材252の内周とその部材と対向する軸受スリーブ212の外周の間には、その断面が円錐状であって、連結隙間226に接続された環状隙間が形成される。本発明では、その環状隙間は、毛細管シール隙間254として用いられる。その毛細管シール隙間には部分的に軸受流体が充填されているので、特に温度上昇によって体積膨張する軸受流体のための油溜めとしての働きをする。連結隙間226には全面的に軸受流体が充填されている。軸受隙間216或いは軸受全体をシールする目的で、環状の部材252の上側端部とハブ構成部材222aの下側の間に存在する別の隙間256が設けられている。同様に、隙間256も毛細管シールを形成し、毛細管作用による流体の流出を防止できるほどに小さい。例えば、隙間256の幅が7-10μmである一方で、シール隙間254の最も幅狭の部分の幅は40-100μmであることが考えられる。このような構造は、上述したような油溜めが、軸受スリーブ212並びに環状の部材252との間、或いは回転しない2個の部材の間に形成され、遠心作用及び摩擦損失の発生が僅かであることを利点とする。
【0064】
図16は、図12及び図15に示すスピンドルモータと類似する構造をしたスピンドルモータを示す。その中で、図12及び図15と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。尚、図16のスピンドルモータに係る説明については図12の説明を適用する。図16に示すスピンドルモータでは、軸方向のシール隙間258は、軸受隙間216の延長として、軸受スリーブ212の開口端部を円錐状に拡開させることで形成される。シール隙間258は、円錐状に拡開して円錐状の毛細管シールを成す。軸方向に延びるシール隙間258は、シール隙間258の延長部を成し、且つ部分的に軸受流体が充填された半径方向の隙間259に移行する。半径方向の隙間259は、これまでに述べたその他の実施態様におけるシール隙間と同様に、軸受流体の油溜めとして機能する。隙間259は半径方向外方に向かって開口するので、軸受流体に作用する遠心力に対してシール性が弱い。それゆえ、回転数が高い場合、軸受流体が隙間259から外に流出する可能性がある。そのため、図16に示すモータは、低回転数での稼動により好適である。スラスト磁気軸受236は、軸受スリーブ212の段部に配設された第1の軸受構成部材238によって形成される。ハブ322は、一体に形成され、2個の磁束誘導部材546aと546bとを有する第2の軸受構成部材544を構成する環状凸部を含む。ハブ322と第2の軸受構成部材544は一体に形成されているため、軸受への軸受流体の充填は、ハブ322を軸214に取り付けた後、第2の軸受構成部材544の上側領域に半径方向に設けられる貫通孔260を通して行うことが望ましい。貫通孔260を通して、軸受流体を隙間259、すなわち本流体動圧軸受部に入れることができる。
【0065】
図12から図15に示されたスピンドルモータでは、ハブは、二つの部分から成るか、若しくは、第2の軸受構成部材がそのハブと別個に構成されるので、当該軸受部に軸受流体を充填することは容易である。
【0066】
図17は、本発明による別構造のスピンドルモータの断面図である。そのスピンドルモータは、軸受スリーブ612が固定された開口部を備えるベースプレート610を含む。軸受スリーブ612は、軸614が回転自在に支承された中心孔を有する。軸614の外周面と軸受スリーブ612に設けられた中心孔の内周面との間には、その幅が数ミクロンであって、且つ軸受流体が充填された軸受隙間616が存在する。軸受隙間616から軸受流体が流出するのを防ぐ目的で、その軸受隙間の一端側は、軸受スリーブ612に設けられた凹部に配置され、且つ固定されたカバープレート618によって閉塞されている。カバープレート618又はそれと対向する軸614の端部には、軸方向の支承のため或いは軸の下方に蓄積される空気を追い出し、且つ内方に向けたポンプ作用を発生させるためのスパイラル状の溝を配設してよい。軸614とカバープレート618の隙間間隔は比較的小さく、例えば、60μmである。軸受隙間616の他端側は、環状の連結隙間626を介してシール隙間628に接続する。シール隙間628は、軸受スリーブ612の外周面と対向する環状の部材620(ストッパーリング)の間に、略軸方向に配設された円錐状の毛細管シールとして形成されている。連結隙間626の幅は、上述した軸受隙間の幅より約一桁分大きく、例えば、640μmである。連結隙間626の領域では、軸受流体に作用する遠心力を調整するポンプ溝構造650が追加されてよい。ポンプ溝構造650は、軸受スリーブ612の端面、又は対向するハブ622の面に配設され、シール隙間628のシール作用を支援する一種のポンプシールを成す。ポンプ溝構造650は、軸受内部に軸受隙間616に向けたポンプ作用を発生させる。
【0067】
ハブ622は、軸614の自由端部に結合されている。軸614を軸受スリーブ612の中で回転自在に支承するためには、軸受面に具備された魚骨状(へリングボーン型)の軸受溝構造によって特徴付けられた2個のラジアル流体動圧軸受部624aと624bを用いる。基本的には、上述したラジアル流体動圧軸受部は、多面すべり軸受又は溝を備えないすべり軸受であってもよい。軸614が軸受スリーブ612の中で軸方向に過度に移動するのを防ぐため、ハブ622の凸部の段部にストッパーリング620が配設されている。ストッパーリング620は、シール隙間628を形成し、軸受スリーブ612の他端部側に具備された鍔部612aと軸方向に対向する。ストッパーリング620は、軸614が極端な軸方向の移動(上向き移動)を行うと、直ちに鍔部612aに接触する。因みに、ストッパーリング620は、非磁性材料又は弱磁性材料から成る。
【0068】
軸614に作用する軸方向力は、第1の軸受構成部材638と第2の軸受構成部材644から成るスラスト磁気軸受636によって受けられる。第1の軸受構成部材638は、図17では、第2の軸受構成部材644より半径方向内側に位置しつつ軸受スリーブ612の外周面に設けられた段部付近に配設されている。第1の軸受構成部材638は、回転軸630と同心に配設され、且つ、例えば、NdFeB又はSmFeNを成分とする環状の永久磁石640を含む。永久磁石640の両側端面には、2個の磁束誘導部材642aと642bが配設されている。それらの磁束誘導部材は、好適にはその厚さが、例えば0.2mmであって、半径方向に異方性を有する強磁性の薄板又は薄板スタックから成る。永久磁石640は、軸方向、すなわち回転軸630の方向に従って、単極又は多極に磁化されている。軸受スリーブ612が、磁束を短絡させる事態をできる限り防ぐ意味で、上記軸受スリーブ612或いは軸614が、好適には非磁性材料又は導磁率が100を下回る弱磁性の鋼から成る。
【0069】
第2の軸受構成部材644は、この実施態様では、ハブ622に配設された環状凸部を含む。その凸部の外縁部には、好適には一体に形成された2個の磁束誘導部材646aと646bとを有する。それらの磁束誘導部材は、第1の軸受構成部材638に属する磁束誘導部材642a及び642bと半径方向において正対するよう配されている。磁束誘導部材642a及び642bの外径は、好適には永久磁石640の外径よりも若干大きい。同様に、第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材646a及び646bも、環状部を有する磁束集積構造を形成し、第2の軸受構成部材644の最小内径が形成される。各々が互いに正対する第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材と第2の軸受構成部材に属する磁束誘導部材は、空隙648によって互いに隔てられている。第1の軸受構成部材638の永久磁石640から発する磁束線は、磁束誘導部材642aと642bに集約された後、半径方向において、空隙648及び第2の軸受構成部材644に属する磁束誘導部材646aと646bを介して永久磁石640に戻される。今、軸614とハブ622が、軸受スリーブ612及びベースプレート610と相対的に軸方向において、可動範囲内で動くと、これと同時に、永久磁石640並びに磁束誘導部材642aと642b及び正対する軸受構成部材に属する磁束誘導部材646aと646bとの協働により、回転自在であるモータ構成部材を、静止しているモータ構成部材に対して、安定した軸方向の浮遊状態に保つための軸方向(回転軸630の方向)の復元力が発生する。第2の軸受構成部材644が直接形成されたハブ622は、好適には鋼といった強磁性材料から成る。
【0070】
本スピンドルモータに属する電磁駆動装置は、ベースプレート610に固定されたステータ構造体632によって形成される。そのステータ構造体632の半径方向外方では、ハブ622に配設されたロータマグネット634がステータ構造体632と正対するよう配されている。上記ハブ622は強磁性材料であることから、ロータマグネットのための保磁子を別個に設けることは必要ない。
【0071】
本スピンドルモータの組み立てに際しては、先ず軸614をハブ622の開口部に圧入若しくは接着してハブ622と直角に配置する。次いで、軸受スリーブ612の下側開口部をカバープレート618によって閉塞する。カバープレート618は軸受スリーブ612に、例えば、溶接又は接着する。次いで、一方の側が閉塞された軸受スリーブ612を軸614に取り付ける。次いで、ストッパーリング620をハブ622に固定して、軸614が軸受スリーブ612から抜け出さないようにする。ここで、従来の技術から公知である適切な方法により、軸受流体を、シール隙間628を介して軸受部の内部、すなわち軸受隙間616及び連結隙間626に充填する。その後、連結隙間626の隙間間隔を、相応の調整手段によって調整し、スラスト磁気軸受636を組み立てる。スラスト磁気軸受636に属する第1の軸受構成部材638を軸受スリーブ612に取り付け、接着剤で固定する。この接着剤は、滑り手段として機能する。よって、第1の軸受構成部材638は、接着剤が固まらないうちに、軸方向に働く磁力により、自力で第2の軸受構成部材644との正しい位置関係が得られる位置に来る。
【0072】
図18は、本発明によるスピンドルモータの第2の実施態様を示す。図18では、図17と同一の構成部材にはそれと同一の符号を付した。但し、600番台の符号に代えて700番台の符号を用いる。軸714のカバープレート718に隣接する端部には、軸受スリーブ712に設けられた凹部に配置されたストッパーリング720が具備されている点が、図17に示す実施態様と異なる。ストッパーリング720は、軸受スリーブ712に形成された段部と正対しつつ、軸714があまりにも極端に軸方向にスライドした場合、その段部に接触するようになっている。
軸受隙間716は、連結隙間726を介してシール隙間728に接続する。シール隙間728は、軸受スリーブ712の外側胴部及びハブ722に設けられた環状凸部の内周面によって形成される。スラスト磁気軸受に属する第2の軸受構成部材744も、同じくハブ722に設けられた環状凸部に配設されている。
【0073】
軸受スリーブ712には、軸受スリーブ712の中で回転軸730に対して斜めに延びる貫通孔として形成された循環流路が任意に具備されている。循環流路752は、本軸受部の下側領域、すなわちストッパーリング720の領域に位置する軸受隙間部を連結隙間726と接続し、軸受流体を軸受隙間の中で均一に循環させ、且つ本軸受部の内部、特に軸両端部において、動圧を調整する役目を担う。
【0074】
各々の図に示された全てのスピンドルモータにおいて、本スラスト磁気軸受に属する第1の軸受構成部材をハブに配設し、第2の軸受構成部材を軸受スリーブに配設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の概略断面図である。
【図2】本発明の第2の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。
【図3】本発明の第3の実施態様によるスラスト磁気軸受の断面図である。
【図4】外周に小歯が加工された磁束誘導部材の断面図である。
【図5】複数枚の薄板を重ねて成る磁束誘導部材の概略図である。
【図6】本発明の第4の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の概略断面図である。
【図7】本発明の第5の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。
【図8】本発明の第6の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。
【図9】本発明の第7の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。
【図10】本発明の第8の実施態様によるスラスト磁気軸受を備える軸受装置の断面図である。
【図11】本スラスト磁気軸受から発生した軸方向力の特性曲線を示す。
【図12】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第1の実施態様の断面図である。
【図13】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第2の実施態様の断面図(ベースプレート及び電磁駆動装置は図示せず)である。
【図14】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第3の実施態様の断面図(ベースプレート及び電磁駆動装置は図示せず)である。
【図15】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第4の実施態様の断面図(ベースプレート及び電磁駆動装置は図示せず)である。
【図16】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第5の実施態様の断面図(ベースプレート及び電磁駆動装置は図示せず)である。
【図17】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第6の実施態様の断面図である。
【図18】本発明による、スラスト磁気軸受を備えるスピンドルモータの第7の実施態様の断面図である。
【符号の説明】
【0076】
10 ステータ構成部材、ベースプレート
12 軸受スリーブ
14 軸
15 ストッパーリング
16 ロータ構成部材、ハブ
17 カバープレート
18a, 18b ラジアル軸受部
20 回転軸
22 スラスト磁気軸受
24 第1の軸受構成部材
26 永久磁石
28a, 28b 磁束誘導部材
30 第2の軸受構成部材
32a, 32b 磁束誘導部材
34 空隙
36 永久磁石
38 永久磁石
40a, 40b, 40c 磁束誘導部材
42a, 42b, 42c 磁束誘導部材
44 磁束誘導部材
46 磁束誘導部材
48 磁束誘導部材
50 第1の軸受構成部材
51 永久磁石
52 第2の軸受構成部材
54 第2の軸受構成部材
60 特性曲線
110 ステータ構成部材、ベースプレート
114 軸
116 ロータ構成部材、ハブ
118a, 118b ラジアル軸受部
120 回転軸
124 第1の軸受構成部材
126 永久磁石
128a, 28b 磁束誘導部材
130 第2の軸受構成部材
132a, 132b 磁束誘導部材
156 永久磁石
210 ベースプレート
212 軸受スリーブ
214 軸
216 軸受隙間
218 カバープレート
220 ストッパーリング
222 ハブ
222a, 222b ハブ構成部材
224a, 224b ラジアル流体動圧軸受部
226 連結隙間
228 シール隙間
230 回転軸
232 ステータ構造体
234 ロータマグネット
236 スラスト磁気軸受
238 第1の軸受構成部材
240 永久磁石
241 磁束流れ集約構造部
242a, 242b 磁束誘導部材
244 第2の軸受構成部材
246a, 246b 磁束誘導部材
248 空隙
252 環状の部材
254 シール隙間
256 隙間
258 シール隙間
259 隙間
260 貫通孔
262 特性曲線
264 溝構造
266 ポンプ溝構造
322 ハブ
344 第2の軸受構成部材
346a, 346b 磁束誘導部材
412 軸受スリーブ
414 軸
416 軸受隙間
418 カバープレート
422 ハブ
422a, 422b ハブ構成部材
424a, 424b ラジアル流体動圧軸受部
426 連結隙間
428 シール隙間
430 回転軸
436 スラスト磁気軸受
438 第1の軸受構成部材
440 永久磁石
442a, 442b 磁束誘導部材
444 第2の軸受構成部材
446a, 446b 磁束誘導部材
448 空隙
450 ストッパーリング
464 溝構造
466 ポンプ構造
522 ハブ
544 第2の軸受構成部材
546a, 546b 磁束誘導部材
610 ベースプレート
612 軸受スリーブ
612a 鍔部
614 軸
616 軸受隙間
618 カバープレート
620 ストッパーリング
622 ハブ
624a, 624b ラジアル流体動圧軸受部
626 連結隙間
628 シール隙間
630 回転軸
632 ステータ構造体
634 ロータマグネット
636 スラスト磁気軸受
638 第1の軸受構成部材
640 永久磁石
642a, 642b 磁束誘導部材
644 第2の軸受構成部材
646a, 646b 磁束誘導部材
648 空隙
650 ポンプ溝構造
710 ベースプレート
712 軸受スリーブ
714 軸
716 軸受隙間
718 カバープレート
720 ストッパーリング
722 ハブ
724a, 724b ラジアル流体動圧軸受部
726 連結隙間
728 シール隙間
730 回転軸
732 ステータ構造体
734 ロータマグネット
736 スラスト磁気軸受
738 第1の軸受構成部材
740 永久磁石
742a, 742b 磁束誘導部材
744 第2の軸受構成部材
746a, 746b 磁束誘導部材
748 空隙
750 ポンプ溝構造
752 循環流路




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ構成部材と相対的に、回転軸(20; 120)の周りを自在に回転できるよう支承されたロータ構成部材に作用する軸方向力を受けるスラスト磁気軸受(22)であって、
少なくとも1個の永久磁石(26; 126)と、該永久磁石に割り当てられ、該永久磁石の対向する端部に配設されつつ、前記回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配された少なくとも2個の磁束誘導部材(28; 128)とから成る第1の軸受構成部材(24; 50; 124)と、
互いに間隔を置いて配設されつつ、前記回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配された少なくとも2個の磁束誘導部材(32; 132)から成る第2の軸受構成部材(30)であって、該第2の軸受構成部材(30)に属する前記磁束誘導部材(32; 132)の各々が、前記第1の軸受構成部材に属する前記磁束誘導部材(28; 128)に割り当てられつつ、空隙(34)を置いて該磁束誘導部材と半径方向に直に正対する第2の軸受構成部材と、を含むスラスト磁気軸受。
【請求項2】
前記軸受構成部材(24; 30)の一方がステータ構成部材に、他方の前記軸受構成部材(30; 24)がロータ構成部材に各々連結されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト磁気軸受。
【請求項3】
前記永久磁石(26; 126)が、前記回転軸(20)の方向に従って軸方向に磁化されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト磁気軸受。
【請求項4】
前記永久磁石(26; 126)が、前記回転軸(20)と同心に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト磁気軸受。
【請求項5】
前記磁束誘導部材(28a; 128a)の内周面又は外周面が、前記永久磁石(26; 126)の内周面又は外周面から突出していることを特徴とする請求項1に記載のスラスト磁気軸受。
【請求項6】
前記磁束誘導部材(28; 128; 32, 132)が、複数枚の薄板を軸方向に重ねた薄板スタックから成ることを特徴とする請求項1に記載のスラスト磁気軸受。
【請求項7】
静止しているモータ構成部材(ベースプレート210, 軸受スリーブ212; 412; 612; 712)と、
回転自在のモータ構成部材(軸214; 414; 614; 714, ハブ222; 422; 522; 622; 722)と、
前記回転自在のモータ構成部材(軸214, 414, 614, 714; ハブ222, 422, 522, 622, 722)を前記静止しているモータ構成部材(ベースプレート210, 軸受スリーブ212; 412; 612; 712)に対して回転軸(234; 430; 630; 730)に対して回転自在に支承する少なくとも1個のラジアル流体動圧軸受部(224a, 224b; 424a, 424b)と、
少なくとも1個の永久磁石(240; 440; 740)と前記永久磁石に割り当てられつつ前記永久磁石の互いに正対する両側端部に配設されて、前記回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配置された、少なくとも2個の磁束誘導部材(242a, 242b; 442a, 442b; 642a, 642b; 742a, 742b)から成る第1の軸受構成部材(238; 438; 638; 738)及び、
互いに軸方向に間隔を置いて配設されつつ、前記回転軸に対して半径方向及び垂直方向に配置された少なくとも2個の磁束誘導部材(246a, 246b; 346a, 346b; 446a, 446b; 546a, 546b; 646a, 646b; 746a, 746b)を有する第2の軸受構成部材(244; 344; 444; 544; 644; 744)と、を具備するスラスト磁気軸受(236; 436; 636; 736)と、
前記静止しているモータ構成部材に配設されたステータ構造体(232; 632; 732)と前記回転自在のモータ構成部材に配設されたロータマグネット(234; 634; 734)を備える電磁駆動装置と、
を含むスピンドルモータであって、
前記回転自在のモータ構成部材の一部と前記静止しているモータ構成部材の一部との間に軸受隙間(216; 416; 616; 716)が形成され、該軸受隙間に軸受流体が充填され、且つ、
前記第2の軸受構成部材に属する前記磁束誘導部材が各々前記第1の軸受構成部材に属する磁束誘導部材に割り当てられ、前記第2の軸受構成部材に属する前記磁束誘導部材の各々が、半径方向に、空隙(248; 448; 648; 748)を介在させつつ、前記第1の軸受構成部材と直に正対していることを特徴とするスピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−144922(P2009−144922A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313866(P2008−313866)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】