説明

スラリー及びスラリーの製造方法

【課題】ワイヤソーによるワークの切断において、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の砥粒を用いる場合においても、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できるスラリー及びこのスラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の一部又は全てをジェットミルで再度粉砕することによって前記砥粒の平均円形度を0.900以上にし、該平均円形度が0.900以上の砥粒とクーラントとを混合して前記スラリーを製造することを特徴とするスラリーの製造方法及び、スラリーに混合された砥粒の平均円形度が0.900以上であることを特徴とするスラリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットなどのワークを切断するワイヤソーで使用されるスラリー及びそのスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェーハや太陽電池用ソーラーセル等の製造工程における半導体材料、磁性材料、セラミックなどのワークの切断にワイヤソーが使用されている。
ワイヤソーはワイヤを往復方向に走行させ、炭化珪素などの遊離砥粒を混合させたスラリーを供給しながらワイヤにワークを押し当ててワークを切断する装置である。このスラリーには、油性クーラントが使用される場合と、水溶性クーラントが使用される場合とがあるが、使用後のリサイクルや排液処理などの環境負荷の問題から、近年は水溶性クーラントが主流となっている。
【0003】
このようにワイヤソーでワークを切断した際に、ワイヤ径と砥粒径のおおよそ2〜3倍を足し合わせた分の幅が、切り屑(カーフロス)として原料ロスになることが知られている。そのため、カーフロスを減らすために、ワイヤ径を細線化することや、砥粒径を小さくすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一般的に、砥粒の大きさは粒度で表されることが多く、その区分は、例えばJIS規格のR6001に規定されている。
従来、半導体用シリコンウェーハの切断では、例えば直径0.16mmのピアノ線ワイヤと、累積高さ50%点の粒子径(以下、砥粒径と略す場合がある)が11.5μmの炭化珪素砥粒(砥粒番手#1000)が混合されたスラリーが用いられていた。しかし、近年は、上記したようにカーフロス低減のためにワイヤの細線化及び砥粒の細粒化が進められ、直径0.14mmのピアノ線ワイヤと、砥粒径が8.0μmの炭化珪素砥粒(砥粒番手#1500)が混合されたスラリーが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、スラリーに混合された砥粒の砥粒径以外に、ワークの切断に影響を与えるスラリーの特徴として、スラリー粘度及び砥粒濃度がある。
スラリーの砥粒濃度は切断能力に影響を与え、砥粒濃度が高くなるほど切断能力は高くなり、逆に砥粒濃度が低くなると切断能力も低くなる。例えば砥粒番手#1500の炭化珪素砥粒を使用する場合には、砥粒濃度を50%程度としている。
【0007】
また、スラリー粘度はワイヤへ砥粒を付着させてワーク切断部に砥粒を供給する作用に影響し、スラリー粘度が低すぎると切断部への砥粒の供給量が不足して切断能力が下がるため、ある程度以上のスラリー粘度とする必要がある。また、スラリー粘度が高すぎると切断部への砥粒の供給量は増えるが、ワークとワイヤ間の粘性抵抗力が大きくなりすぎて、ワイヤに過大な力が作用して断線したり、ワークが破損したりする問題が生じる。このため、スラリー粘度は100から200mPa・s程度であることが望ましく、より望ましくは100から150mPa・sである。
【0008】
このスラリー粘度には、砥粒濃度が高濃度になるほど粘度が上昇する特性と、砥粒番手が高番手になるほど、すなわち砥粒径が小さくなるほど粘度が上昇する特性がある。そのため、スラリー粘度を上記のような所望の範囲に調整にするために砥粒濃度を調整している。
ここで、図3に、信濃電気製錬(株)から市販されている炭化珪素砥粒(商品名:シナノランダムGP)をプロピレングリコール(約82質量%)と水(約18質量%)を主体とした水溶性クーラントに混合した際のスラリー粘度と砥粒濃度との関係を示す。
【0009】
図3に示すように、砥粒濃度が高濃度になるほどスラリー粘度が上昇し、砥粒径が小さくなるほど粘度が上昇していることが分かる。
また、砥粒径が小さくなるほど砥粒濃度の増加に対してスラリー粘度の上昇する割合が大きくなっている。砥粒番手#1000、及び#1500の砥粒を用いたスラリーでは、砥粒径の大きさによるスラリー粘度の変化が比較的小さいので、同一のスラリー粘度に調整するときの砥粒濃度の変更量も小さく、切断能力の変化も小さい。しかし、これらのスラリーと比較して、砥粒番手#2500の砥粒を用いたスラリーでは、砥粒濃度の増加に対して大幅にスラリー粘度が上昇してしまう。
【0010】
そのため、砥粒番手#2500の砥粒を用いる場合には、例えば砥粒濃度を40%程度に大幅に低下させてスラリーの粘度を100から200mPa・sの範囲内に調整する必要がある。しかし、前述したように砥粒濃度の低下は切断能力の低下を引き起こすので、切断品質を悪化させて製品の不良率を増加させたり、ワークの切断に要する時間が長時間となって生産性が低下したりして、結果的にコストアップを引き起こす問題が生じる。
【0011】
このように、カーフロスを低減するために、砥粒番手#2000よりも高番手の、例えば砥粒番手#2500の砥粒のような、砥粒径が小さいものを使用する場合、スラリー粘度及び砥粒濃度を共に適切に調整して高い切断能力で切断することが困難である。
【0012】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、ワイヤソーによるワークの切断において、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の砥粒を用いる場合においても、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できるスラリー及びこのスラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ワイヤソーで使用される遊離砥粒方式のスラリーであって、スラリーに混合された砥粒の平均円形度が0.900以上であることを特徴とするスラリーが提供される。
【0014】
このようなスラリーであれば、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の砥粒、例えば砥粒番手#2500の砥粒を用いる場合においても、砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整できるので、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる。
【0015】
このとき、前記スラリーに混合された砥粒のJIS R6002 電気抵抗試験方法による累積高さ50%点の粒子径(砥粒径)が6.0μm以下であることが好ましい。
このようなものであれば、カーフロスを低減しつつ、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる。
【0016】
またこのとき、前記スラリーに混合された砥粒の質量濃度が50%以上であることが好ましい。
このようなものであれば、十分な切断能力で切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を確実に抑制できる。
【0017】
またこのとき、前記スラリーの粘度が100mPa・s以上、200mPa・s以下のものであることが好ましい。
このようなものであれば、ワーク切断部に十分な砥粒を供給して切断能力を高めつつ、ワイヤに過大な力が作用して断線したり、ワークが破損したりするのを確実に抑制できる。
【0018】
また、本発明によれば、ワイヤソーで使用される遊離砥粒方式のスラリーの製造方法であって、ローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の一部又は全てをジェットミルで再度粉砕することによって前記砥粒の平均円形度を0.900以上にし、該平均円形度が0.900以上の砥粒とクーラントとを混合して前記スラリーを製造することを特徴とするスラリーの製造方法が提供される。
【0019】
このようなスラリーの製造方法であれば、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の、例えば砥粒番手#2500の砥粒を用いる場合においても、砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整でき、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できるスラリーを確実に製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスラリーは、スラリーに混合された砥粒の平均円形度が0.900以上であるので、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の砥粒を用いる場合においても、砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整できるので、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる。また、本発明のスラリーの製造方法は、ローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の一部又は全てをジェットミルで再度粉砕することによって砥粒の平均円形度を0.900以上にするので、上記のような本発明のスラリーを確実に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一般的なワイヤソーの概略図である。
【図2】本発明のスラリーの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図3】砥粒濃度とスラリー粘度の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明者は、ワイヤソーで使用する、例えば砥粒番手#2500の砥粒のような砥粒径の小さい砥粒が混合されたスラリーにおいて、砥粒濃度の増加に伴いスラリー粘度が大幅に上昇する原因と、これに対する対策について詳細に検討した。その結果、本発明者はこのようなスラリーでは砥粒を例えば50%と高濃度に混合しており、また、砥粒濃度によってスラリー粘度が変化することから、スラリー粘度には砥粒同士の相互干渉が強く影響し、砥粒同士の相互干渉を変化させる要因として砥粒形状の影響があること、すなわち、砥粒形状がスラリー粘度に重大な影響を及ぼしていることを突き止めた。
【0023】
さらに、本発明者はこの砥粒形状に関して鋭意調査を行い、砥粒形状をジェットミルによる粉砕で変化させ、スラリーに混合される砥粒の平均円形度を0.900以上にすることで同一砥粒濃度でのスラリー粘度を低下でき、従って、砥粒径の小さい砥粒を用いた際のスラリー粘度の上昇を、スラリーに混合する砥粒の質量濃度を下げることなく、ワークの切断に使用出来るレベルまで下げることができることを知見し、本発明を完成させた。
【0024】
まず、ワイヤソーによるワークの切断についての概略を説明する。
図1に示すように、ワイヤソー1は、主に、ワークWを切断するためのワイヤ2、ワイヤ2を巻掛けた溝付きローラ3、ワイヤ2に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構4、切断されるワークWを下方へと送り出すワーク送り機構5、切断時にスラリを供給するスラリ供給機構6などで構成されている。
【0025】
ワイヤ2は、一方のワイヤリール7から繰り出され、トラバーサ8を介してパウダクラッチ(定トルクモータ9)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)等からなるワイヤ張力付与機構4を経て、溝付きローラ3に入っている。ワイヤ2はこの溝付きローラ3に300〜400回程度巻掛けられた後、もう一方のワイヤ張力付与機構4’を経てワイヤリール7’に巻き取られている。
【0026】
このようなワイヤソー1でワークを切断する際には、まず、ワーク送り機構5でワークWを保持する。また、ワイヤ張力付与機構4を用いてワイヤ2に適当な張力をかけ、駆動モータ(不図示)によりワイヤ2を往復方向に走行させる。次に、スラリーを供給しながらワーク送り機構5によりワークWを下方に位置するワイヤ2へ送り、ワークWをワイヤ2に押し当てて切り込み送りすることによってワークWを切断する。
【0027】
本発明のスラリーは、このようなワイヤソーによるワークの切断の際に用いられる遊離砥粒方式のスラリーである。そして、このスラリーに混合された砥粒の平均円形度が0.900以上のものである。
ここで、円形度は砥粒の投影像の周囲長を分母に砥粒の投影像と同じ投影面積を持つ円の周囲長を分子にした値であり、以下の式1で表される。

【0028】
すなわち、円形度は1以下の値であり、円形度が1に近いほど砥粒は丸みを帯びる。この円形度は、フロー式粒子画像解析装置(例えば、シスメックス社製FPIA−3000)を用いて砥粒形状の解析を行うことにより求めることができる。通常、スラリーには無数の砥粒が含まれているため、スラリーに含まれる各砥粒の円形度を全砥粒で平均した値を指標とするのが理想である。実際には、スラリーに混合する全ての砥粒について円形度を算出することは不可能に近いため、スラリーに混合する砥粒から一部のサンプルを取り出し、そのサンプルについての平均値を算出する。この平均値が平均円形度である。
【0029】
本発明のスラリーは、このような平均円形度が0.900以上の砥粒とクーラントとを所定の比率で混合して構成される。
ここで、砥粒としては、例えば炭化珪素砥粒とすることができる。また、クーラントとしては、水溶性クーラントとすることができる。
このような本発明のスラリーであれば、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも高番手の、例えば砥粒番手#2500の砥粒のような砥粒径の小さいものを用いる場合においても、砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整できる。従って、本発明のスラリーを用いれば、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる。
【0030】
このように、本発明のスラリーはカーフロスを低減するために砥粒径の小さい砥粒を用いる場合に好適に適用される。具体的には、スラリーに混合された砥粒のJIS R6002 電気抵抗試験方法による累積高さ50%点の粒子径が6.0μm以下、特には5.5μm以下であることが好ましい。なお、累積高さ50%点の粒子径が6.7μmの砥粒は砥粒番手#2000の砥粒に相当し、5.5μmは砥粒番手#2500の砥粒に相当する。
このようなものであれば、カーフロスを十分に低減しつつ、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる。
【0031】
上記した砥粒とクーラントとの混合比率に関しては、スラリーに混合された砥粒の質量濃度が50%以上であることが好ましい。
このようなものであれば、十分な切断能力で切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を確実に抑制できる。
また、スラリー粘度は100mPa・s以上、200mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以上、150mPa・s以下であることがより好ましい。
このようなものであれば、ワーク切断部に十分な砥粒を供給して切断能力を高めつつ、ワイヤに過大な力が作用して断線したり、ワークが破損したりするのを確実に抑制できる。
【0032】
上記した本発明のスラリーは以下に説明する本発明のスラリーの製造方法によって製造することができる。
図2のように、本発明のスラリーの製造方法では、まず、市販されているローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の一部又は全てをジェットミルで再度粉砕することによって砥粒の平均円形度を0.900以上にする(図2(A))。
ここで、ローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒として、例えば、市販の炭化珪素砥粒を用いることができる。市販の炭化珪素砥粒として、アチソン法と呼ばれる製造方法により、珪素材料と炭素材料を電気炉(アチソン炉)で反応させて製造した塊をローラーミル、又はボールミルと呼ばれる粉砕機によって粉砕し、所望の粒度分布になるように分級されたものが提供されている。このようなローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の平均円形度は0.900未満である。
【0033】
またここで、砥粒番手#2000の砥粒よりも砥粒径が小さいもの、例えば砥粒番手#2500の砥粒を用いればワーク切断時のカーフロスを確実に低減できるので好ましい。
なお、ジェットミルは、原料砥粒を高圧、高速の噴流とともにミル内に供給し、砥粒同士の衝突により粉砕を行う機器である。
再度粉砕した砥粒の平均円形度を例えばフロー式粒子画像解析装置を用いて測定し(図2(B))、平均円形度が0.900以上であることを確認した後、この平均円形度が0.900以上の砥粒とクーラントとを混合してスラリーを製造する(図2(C))。ここで、クーラントとして、油性のものを用いることもできるが、水溶性クーラントを用いることが好ましい。
【0034】
このような本発明のスラリーの製造方法であれば、カーフロスを低減するために砥粒番手#2000よりも高番手の砥粒、例えば砥粒番手#2500の砥粒のような砥粒径の小さいものを用いる場合においても、砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整でき、砥粒濃度の低下による切断能力の低下、ひいては切断品質の悪化や生産性の低下によるコスト増加を抑制できる上記した本発明のスラリーを確実に製造できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
本発明のスラリーの製造方法に従って本発明のスラリーを製造した。
まず、濃電気製錬(株)から市販されている炭化珪素砥粒(商品名:シナノランダムGP)の砥粒番手が#1500、#2000、#2500のものについて、シスメックス社製フロー式粒子画像解析装置FPIA−3000を用いて平均円形度の測定を行ったところ、#1500で0.886、#2000で0.888、#2500で0.889といずれも0.900未満であった。
【0037】
このうち#2000の炭化珪素砥粒をジェットミルで粉砕し、粉砕後の砥粒の平均円形度を測定した。ここで、ジェットミルによる砥粒粉砕の度合いを表す指標として、粉砕前の砥粒径から粉砕後の砥粒径を引いた値を粉砕量と定義して使用した。粉砕量は0.1μm、0.7μm、1.2μmの3水準に設定した。なお、粉砕量1.2μmのサンプルは、砥粒番手#2500と同等の砥粒径5.5μmの砥粒である。ジェットミルによる粉砕後の砥粒の平均円形度は、粉砕前の0.888に対して、粉砕量0.1μmで0.899、粉砕量0.7μmで0.913、粉砕量1.2μmで0.923と、粉砕量を大きくするほど1に近づき、砥粒の形状が真円形に近づいた。
【0038】
そこで、平均円形度が0.900以上であった粉砕量0.7μm及び粉砕量1.2μmとしたサンプル砥粒をプロピレングリコール(約82質量%)と水(約18質量%)を主体とした水溶性クーラントに50%質量濃度で混合し本発明のスラリーを製造した。これらスラリーのスラリー粘度をデジタル粘度計(東機産業(株)製 TVB−10型)で測定したところ、粉砕量0.7μmの場合で137.8mPa・s、粉砕量1.2μmの場合で121.9mPa・sであった。
【0039】
このように、このスラリーは砥粒番手#2000よりも小さい砥粒径の砥粒を用いた場合においても、砥粒濃度を50%と十分に高く保ちつつスラリー粘度を100から200mPa・sの範囲内に調整できている。特に、砥粒番手#2500の砥粒に相当する粉砕量1.2μmの砥粒を用いた実施例1のスラリーと後述する比較例1のスラリーとを比較すると、実施例1では上記のように砥粒濃度を十分に高く保ちつつスラリー粘度を適切に調整できたのに対し、後述する比較例1では砥粒濃度を50%とするとスラリー粘度が914mPa・sと大幅に上昇してしてしまい、スラリー粘度を100から200mPa・sの範囲内に調整するためには砥粒濃度を43%程度、より好ましくは39%程度にまで下げなければならず、切断能力の低下が避けられない。
【0040】
(実施例2)
実施例1で製造した粉砕量1.2μmの場合の本発明のスラリーを用い、ワイヤソーで直径300mm、長さ200mmのシリコンインゴットを切断し、切断能力及び切断品質を評価した。ここで切断能力の評価は、ワークの切断中のワイヤたわみ量の最大値で評価した。ワイヤソーによるワークの切断では、ワークの切断を開始する前にワイヤへワークを送り込む速度を設定して行うので、使用したスラリーの切断能力が高い場合には、ワークの切断中のワイヤたわみ量が小さく、逆に使用したスラリーの切断能力が低い場合には、ワークの切断中のワイヤたわみ量が大きくなる。また、切断品質として、切断した全ウェーハのTTV及びWarp−bfのそれぞれの平均値を評価した。
【0041】
その結果、ワイヤたわみ量の最大値が8mmと、後述する比較例2のワイヤたわみ量の最大値10mmに対して20%低減されていた。
また、切断品質は、TTVが6.8μm、Warp−bfが6.7μmと、後述する比較例2のTTVが9.1μm、Warp−bfが15.8μmと比べ改善されていた。
【0042】
(比較例1)
市販されている炭化珪素砥粒をそのまま水溶性クーラントに50%質量濃度で混合してスラリーを製造した。ここで、炭化珪素砥粒は砥粒番手#2500のものを用いた。この砥粒の平均円形度は0.889と0.900未満であった。
製造されたスラリーのスラリー粘度を測定したところ914mPa・sであり、ワイヤソーによるワークの切断に適切な100から200mPa・sの範囲から大幅に上昇してしまった。このスラリーはワイヤソーによるワークの切断に使用できないレベルのものであった。また、スラリー粘度を120mPa・sに調整するために砥粒の質量濃度を39%程度まで下げる必要があった。
【0043】
(比較例2)
比較例1で製造した、スラリー粘度120mPa・s、砥粒の質量濃度39%のスラリーを用いた以外、実施例2と同様の条件でシリコンインゴットを切断し、実施例2と同様に評価した。
その結果、ワイヤたわみ量の最大値が10mmと、実施例2の結果と比べ悪化していた。
また、切断品質は、TTVが9.1μm、Warp−bfが15.8μmと実施例2と比べ悪化していた。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
1…ワイヤソー、 2…ワイヤ、 3…溝付きローラ、
4、4’…ワイヤ張力付与機構、 5…ワーク送り機構、
6…スラリ供給機構、 7、7’…ワイヤリール、 8…トラバーサ、
9…定トルクモータ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソーで使用される遊離砥粒方式のスラリーであって、スラリーに混合された砥粒の平均円形度が0.900以上であることを特徴とするスラリー。
【請求項2】
前記スラリーに混合された砥粒のJIS R6002 電気抵抗試験方法による累積高さ50%点の粒子径が6.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスラリー。
【請求項3】
前記スラリーに混合された砥粒の質量濃度が50%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスラリー。
【請求項4】
前記スラリーの粘度が100mPa・s以上、200mPa・s以下のものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のスラリー。
【請求項5】
ワイヤソーで使用される遊離砥粒方式のスラリーの製造方法であって、
ローラーミル、又はボールミルで粉砕された砥粒の一部又は全てをジェットミルで再度粉砕することによって前記砥粒の平均円形度を0.900以上にし、該平均円形度が0.900以上の砥粒とクーラントとを混合して前記スラリーを製造することを特徴とするスラリーの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91141(P2013−91141A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235924(P2011−235924)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】