説明

スリップ・テストを組込んだヒルホールド・ブレーキ機能

本発明は停止中の車両のずり下がりを防止する方法に関し、この方法は、ブレーキ操作により発生して複数の車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用するブレーキ圧力が自動的に固定されることによって車両が静止状態に保持されるようにする方法であって、更に、車両のスリップ状態を検知するためのスリップ・テストを実行するようにした方法である。スリップ検出用車輪(12a)の車輪ブレーキ(例えば11a)に作用するブレーキ圧力(p)を減圧するためのポンプ(10)の作動時間を格段に短縮できるようにしたものであって、これは、その他の車輪(12c)の車輪ブレーキ(11c)に作用しているブレーキ圧力(p)の昇圧を制限し、または完全に阻止することによって達成されており、これによって油圧ポンプの作動時間を短縮し得るのは、こうすることで、ポンプにより排出すべきブレーキ液の量を減らすことができ、または皆無とすることができるからである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1、2、及び4の前提部分に記載した種類の停止中の車両のずり下がりを防止する方法と、それら方法に適合する構成を有する請求項11の前提部分に記載した種類のそれら方法を実行するためのコントローラとに関する。
【背景技術】
【0002】
坂道においてブレーキをかけて静止状態にした車両が、その停止した状態からずり下がりを生じるのを防止するための自動ブレーキ機能が、最近の車両にはしばしば装備されている。この種のブレーキ機能は一般的に「ヒルホールド機能(坂道発進アシスト機能)」(HHC)と呼ばれており、この機能の一例は、例えばドイツ特許出願公開DE19950034A1号公報などに記載されて公知となっている。
【特許文献1】ドイツ特許出願公開DE19950034A1号公報
【0003】
ヒルホールド機能の概略作用は以下の通りである。先ず、運転者がブレーキをかけて車両を静止状態に至らせるまでの期間であるブレーキ操作期間中に、車輪ブレーキに作用するブレーキ圧力を制御弁によって固定する。また、そのために、HHC機能を提供するコントローラが、その制御弁を適切に制御する。これによって、運転者がブレーキ・ペダルから足を離した後も、そのブレーキ圧力が自動的に保持されたままとなる。こうしてブレーキがかかった状態は、アクセル・ペダルを踏下することで解除することができ、運転者は通常、この方法によってそのブレーキを解除しているが、ただし、例えば解除スイッチを操作するなどの、その他の方法によってHHC機能を解除することも可能である。
【0004】
上記特許文献により公知となっているヒルホールド機能は、略々あらゆる運転状況において運転快適性を明らかに向上させるものであるが、ただし、ある種の状況においては、リスクをもたらすこともある。周知の如く、凍結して滑り易くなった道路では、通常の車両はスリップをし始めることがある。その1つの典型的な状況は、例えば地下駐車場への進入路が凍結しているときに、車両がスリップ状態に陥るという場合である。かかる状況において、運転者が未熟であると、ヒルホールド機能を解除して車両を再び操向可能な状態に復帰させるという動作を十分に速やかに実行することは、殆ど不可能である。ヒルホールド機能によるブレーキを解除するためには、本来、アクセル・ペダルを踏み込まねばならないのであるが、運転者が未熟である場合には特に、このアクセル・ペダルを踏み込むということが、殆どできないのである。
【0005】
公知のHHCシステムのうちには、このような危機的状況を回避するために、スリップ・テストを実行して車両のスリップを検知するようにしたものがある。スリップ・テストにおいては、複数の車輪の夫々の車輪ブレーキに作用している固定されたブレーキ圧力のうち、少なくとも1個の車輪(スリップ検出用車輪)に作用しているブレーキ圧力を減圧し、それによって、車両がスリップをしはじめたならば、その車輪が回転できるようにしておく。そして、このスリップ検出用車輪の回転量が、所定のスレショルド値を超えたならば、それをもって「車両スリップ発生」状態が検知されたものと判定して、ヒルホールド機能を自動的に解除し、即ち、残りの車輪ブレーキに作用しているブレーキ圧力も減圧する。このスリップ・テストは、基本的に十分な信頼性を備えたものであるが、ただし短所も付随しており、その短所とは、スリップ検出用車輪のブレーキ圧力を減圧するためには、一般的に、油圧ポンプを利用しなければならないということである。車両が静止状態にあるときには、他に特に車両騒音というべきものが存在していないことから、この油圧ポンプの作動騒音が運転者には耳障りに感じられるのである。更に、油圧ポンプの作動時間が増大すれば、それに応じて油圧ポンプの摩耗量も増大することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、油圧ポンプの作動時間を大幅に短縮することのできる、ないしは油圧ポンプを全く作動させる必要のない、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以上の目的は、請求項1、2、4、及び11に記載した特徴によって達成される。従属請求項の主題は、本発明の具体的な実施の形態に係る特徴を記載したものである。
【0008】
本発明の本質的な特徴の1つは、ブレーキ操作期間中に、少なくとも1つの車輪ブレーキに作用するブレーキ圧力の昇圧を制限するか、または完全に阻止することにより、当該車輪(スリップ検出用車輪)に作用するブレーキ圧力が僅かにしか昇圧しないか、または全く昇圧しないようにすることにある。これによって、スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力を減圧するための油圧ポンプの作動時間を大幅に短縮することができ、ないしは油圧ポンプを全く利用せずに済むようになる。更にこれによって、騒音に煩わされることが少なくなり、油圧ポンプの摩耗量も低減される。
【0009】
スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力の昇圧を制限するには、例えば制御弁などの圧力制限機構を、適宜に制御するようにすることが好ましく、即ち、ブレーキ操作期間中に制御弁を完全に、または部分的に閉弁するようにするとよい。またそのように制御するための機能をコントローラに組込むことが好ましい。
【0010】
本発明の第1の実施の形態によれば、ヒルホールド機能は次のように構成されており、即ち、少なくとも1つのスリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力の昇圧を完全に阻止して、運転者がブレーキ操作を行ったときにも、当該車輪に対応した車輪ブレーキが略々無圧力状態に保持されるようにしている。これによって、車両がスリップを生じたときには、スリップ検出用車輪が回転できるようにしている。ブレーキ圧力を制限するには、例えば、殆どのブレーキ装置にもともと装備されている車輪ブレーキの流入制御弁を閉弁するなどの方法を用いるとよい。この第1の実施の形態によれば、スリップ検出用車輪に作用しているブレーキ圧力を減圧するために油圧ポンプを作動させる必要がない。
【0011】
本発明の第2の実施の形態によれば、ヒルホールド機能は次のように実現されており、即ち、少なくとも1つのスリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力の昇圧を制限して、その後に減圧するようにしている。これによって得られる利点は、スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力が比較的小さなものとなるため、油圧ポンプを作動させなければならない時間が短縮されることである。
【0012】
スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力の減圧は、車両が静止状態に至る前に行うことが好ましい。そうすれば、運転者に油圧ポンプの作動騒音をそれほど耳障りに感じさせずに済む。なぜならば、油圧ポンプが作動するのが、車両が静止状態に至る前であるならば、その油圧ポンプの作動騒音がその他の車両騒音によって少なくとも部分的にかき消されるからである。
【0013】
本発明の第3の実施の形態は、車両状態に関連したものであり、その車両状態とは、運転者がブレーキ・ペダルを非常に軽くしか操作していないために、ブレーキ圧力もそれに応じた小さな圧力でしかないという状態である。この状態が存在している場合には、ブレーキ操作期間中に車輪ブレーキのブレーキ圧力を制限しない。そして、車輪ブレーキのブレーキ圧力を測定する。測定したブレーキ圧力が所定のスレショルド値より小さかったならば、スリップ検出用車輪の車輪ブレーキの流出制御弁を開弁して、ブレーキ圧力をリザーバへ逃がすようにする。この場合の減圧は、油圧ポンプを作動させずに行われる。油圧ポンプは、リザーバを空にする必要が生じたときにはじめて作動させるようにすることが好ましく、また、そのための油圧ポンプの作動は、車両が走行状態に復帰してから行うようにすることが好ましい。そうすれば、その油圧ポンプの作動騒音が、他の車両騒音によってかき消されるため、耳障りに感じずに済む。
【0014】
スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力を制限するのは、車両が低速で走行している状態からブレーキがかけられた場合に限るようにすることが好ましい。そうすれば、その制限されたブレーキ圧力でも、予め定められた最小限度の減速度で車両を減速させることができるため、走行安全性が損なわれることがない。
【0015】
更に、以上に述べた様々な方法は、その前提条件としてスリップのおそれが存在するという走行条件下でのみ、実行するものとすることが特に好ましい。本発明において、スリップのおそれ有りと見なす条件は、例えば、外気温が所定の温度スレショルド値以下であるという条件などであり、その場合の温度スレショルド値は、例えば3℃などである。
【0016】
「スリップのおそれ有り」状態の有無は、摩擦係数μを推定することによって判定するようにしてもよい。摩擦係数を推定するための様々なアルゴリズムが公知となっている。そして、その摩擦係数が小さく、所定のスレショルド値以下である場合にのみ、ブレーキ圧力を制限するようにする。ただし、その他の判定基準を採用することも可能である。
【0017】
本発明におけるスリップ・テスト(即ち、車輪の回転量のモニタ)は、車両の後車輪に対して実施するようにすることが好ましく、なぜならば、一般的に後車輪は、車両の減速作用の全体に対する寄与割合が小さいからである。
【0018】
本発明に従って構成されるヒルホールド機能部を備えたブレーキ装置は、好ましくは、HHC機能部をアルゴリズムとして組込んだコントローラを備えると共に、油圧ブレーキ系を備えたものであり、該油圧ブレーキ系は、複数の車輪ブレーキと、少なくとも1つの油圧ポンプと、例えば制御弁などの圧力制限機構とを含むものである。前記コントローラは、少なくとも前記圧力制限機構及び前記油圧ポンプに接続されており、ヒルホールド機能を起動すべきブレーキ操作が行われたならば、上で述べたようにして、前記圧力制限機構及び前記油圧ポンプを制御するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しつつ、その具体例に即して、本発明について更に詳細に説明して行く。
【0020】
図1に示したのはヒルホールド機能部14を備えた油圧ブレーキ装置の模式図である。同図では、図の見やすさを旨として、本来のブレーキ系の部分はブロック6によって単に模式的に示してある。
【0021】
このブレーキ装置は、一般的なブレーキ装置がそうであるように、フット・ブレーキ・ペダル1と、運転者が作用させるブレーキ操作力を増大させるブレーキ倍力装置2と、メイン・ブレーキ・シリンダ3とを備えており、メイン・ブレーキ・シリンダ3にはブレーキ液リザーバ4が装備されている。ブレーキ操作が行われたならば、メイン・ブレーキ・シリンダ3の内部で発生したブレーキ圧力が、油圧配管5を介して夫々の車輪ブレーキ11a〜11dへ伝達される。これによって車両の車輪12a〜12dの回転が減速される。
【0022】
このブレーキ装置は、ブレーキ・コントローラ9を備えている。ブレーキ・コントローラ9には様々なアルゴリズムが組込まれており、それらアルゴリズムのうちに、ヒルホールド機能部(HHC)14のアルゴリズムが含まれている。ヒルホールド機能部14は、ブレーキをかけて静止状態にした車両が、その後、ずり下がりを生じるのを防止するように機能するものである。このヒルホールド機能部の作用の概略は、以下の通りである。先ず、ブレーキ操作期間中に、車輪ブレーキ11a〜11dの夫々に作用するブレーキ圧力が昇圧され、それら昇圧されたブレーキ圧力は、制御弁13a〜13d及び16a〜16dが閉弁されることによって、固定されて保持される(尚、図面には、複数の制御弁13a〜13dのうちの1つの制御弁13aと、複数の制御弁16a〜16dのうちの1つの制御弁16aとだけを示してあり、図示したそれら制御弁13a、16aは、複数の車輪ブレーキ11a〜11dのうちの1つの車輪ブレーキ11aに装備されている制御弁である)。以上によって、車両は自動的に停止状態に保持されるため、運転者は、フット・ブレーキ・ペダルを踏まずに、車両を停止状態に保持しておくことができる。このヒルホールド機能を解除するには、運転者がアクセル・ペダルを踏下すればよく、またその他の方法として、例えば解除スイッチを操作することによっても、このヒルホールド機能を解除することができる。
【0023】
危急的状況において、HHC機能部14の速やかな機能解除を可能にするために、このシステムは、スリップ・テストを実施するようにしてある。このスリップ・テストは、スリップ検出用車輪(例えば車輪12a)の動きをモニタすることによって行われている。このスリップ・テストによって「車両スリップ発生」状態が検知された場合には、HHC機能部が自動的に機能解除されて、車輪ブレーキ11a〜11dに作用するブレーキ圧力がそれまでは固定されていたものが減圧されるため、それによって車両の操向操作が可能になる。
【0024】
以下に、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能の様々な方法について、具体例に即して更に詳細に説明して行く。
【0025】
図2に示したのは、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能の第1の実施の形態のフローチャートである。ここでは、選択した車輪(スリップ検出用車輪)については、ブレーキ操作期間中にそのブレーキ圧力が昇圧されるのを完全に阻止しており、その他の車輪(図示例では車輪12b〜12d)については、通常の通りにブレーキ圧力を昇圧できるようにしている。そのため、車両が静止状態に至ったときには、スリップ検出用車輪以外の車輪(図示例では12b〜12d)は回転がロックされているのに対し、スリップ検出用車輪(図示例では12a)だけは回転可能な状態とされている。車両が静止状態にあるときに、このスリップ検出用車輪が回転しはじめたならば、それによって「車両スリップ発生」状態が検知される。
【0026】
更に詳細に説明すると、この実施の形態のヒルホールド機能は、先ずステップ20において、車両がスリップするおそれのある走行条件(例えば路面の凍結)がそもそも存在しているか否かを調べる。車両がスリップするおそれを検知する方法としては、例えば、周囲温度をモニタするという方法や、路面摩擦係数μを判定するという方法などがある。そして、スリップのおそれが存在している場合(YES)にのみ、スリップ・テストを実行し、そうでない場合(NO)には、この方法を終了させる。
【0027】
ステップ21では、車両の速度vが所定の低速スレショルド値vより小さいか否かを調べる。車両の速度が低速である場合にのみ、1個の車輪ブレーキのブレーキ圧力の昇圧阻止を可能にするようにしており、これは安全上の理由によるものである。車両の速度が高速である場合(NOの場合)には、そのような昇圧阻止を可能にしてしまうと、車両の減速が運転者の意図した通りに行われないおそれがあるからである。それゆえ、そのような場合(NOの場合)にも、この方法を終了させる。車両の速度vを知るには、例えば、回転数センサ15(図1参照)からの信号に基づいて速度を算出するなどすればよい。
【0028】
ステップ22において、運転者がフット・ブレーキ・ペダルを踏下したことをコントローラ9が検知したならば、続くステップ23においてコントローラ9は一方の後車輪(図示例では車輪12c)に対応した流入制御弁13を制御してこれを閉弁し、それによって当該車輪に対応した車輪ブレーキ(11c)のブレーキ圧力の昇圧を阻止する。
【0029】
続くステップ24では、車両が静止状態に至ったか否かを調べる。これを検知するための手段としても、車輪回転数センサ15の出力値を利用するとよい。これに対して、もし運転者がアクセル・ペダルを再度踏み込んでいたならば、この方法を終了させる。一方、車両が静止状態にあると判断された場合には、コントローラ9はステップ24において、残りの車輪(12a、12b、12d)の夫々の制御弁(13a、13b、13d)を制御して、それら車輪に対応した車輪ブレーキ(11a、11b、11d)にそのとき作用しているブレーキ圧力を固定する。これによって残りの車輪はロックされる。
【0030】
続くステップ26及び27は、スリップ・テストを表したステップであり、このスリップ・テストを実行するには、先ずステップ26で、スリップ検出用車輪12cの回転量をモニタする。それには、スリップ検出用車輪に対応した車輪回転数センサ15を利用するとよい。スリップ検出用車輪12cの回転量が所定のスレショルド値nを超えたならば(ステップ26におけるYESの場合)、それによって「車両スリップ発生」状態が検知されたものと判断し、ステップ27において車輪11a、11b、11dのブレーキ圧力を即座に消圧する。このブレーキ圧力の消圧は、コントローラ9が、対応した流出制御弁16a、16b、16dを然るべく制御することによって行う。これによって、HHC機能部は自動的に機能解除される。従ってこの方法によれば、スリップ・テストを実行するために油圧ポンプ10を作動させる必要はない。
【0031】
図3に示したのは、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能の別の実施の形態であり、ここでは、ブレーキ操作期間の第1段階において、スリップ検出用車輪(この具体例では車輪12c)のブレーキ圧力の昇圧を許容し、ブレーキ操作期間の第2段階において、車両が静止状態に至る前にそのブレーキ圧力を減圧するようにしている。
【0032】
この方法でも、先ずステップ30において、前提条件としてのスリップのおそれの有無を評価し、続いてステップ31において、車両の速度をチェックし、これらは上でステップ20及び21に関して説明したのと同様にして行う。ただし、ブレーキ操作が行われても(ステップ32)、特段のことをせずに、スリップ検出用車輪12cのブレーキ圧力が昇圧するのをそのまま許容する(ステップ33)。ステップ34では、スリップ検出用車輪(12c)の車輪ブレーキ(11c)のブレーキ圧力pを、油圧ポンプ10により減圧する。その際の油圧ポンプ10の制御は、少なくとも車両が静止状態に至る前にこの油圧ポンプ10の作動を開始するようにし、そして更に、車両が静止状態に至る前にブレーキ圧力pの減圧を完了させることが好ましい。そのようにすれば、この油圧ポンプの作動騒音は、その他の車両騒音によって少なくとも部分的にかき消されるようになる。
【0033】
ステップ35において、車両が静止状態に至ったことが検知されたならば、その他の車輪ブレーキ11a、11b、11dに作用しているブレーキ圧力を固定することによって(ステップ36)、車両をその停止状態に保持するようにする。ステップ37及び38では、スリップ・テストを実行して必要に応じてHHC機能部14の機能解除を行い、これは上でステップ26及び27に関して説明したのと同様にして行う。
【0034】
図4に示したのは、また別の方法による、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能の基本的な方法ステップであり、この方法では、ブレーキ操作期間中にスリップ検出用車輪(この具体例では車輪12c)のブレーキ圧力の昇圧を制限する。これによって、スリップ検出用車輪のブレーキ圧力を減圧するのに必要とされる油圧ポンプの作動時間を、大幅に短縮することができる。図3のヒルホールド機能と相違する点は、この方法では、ステップ44において、スリップ検出用車輪(12c)に作用するブレーキ圧力pの昇圧を、圧力制御機構(この具体例では制御弁13c)を適宜に制御することにより制限していることである。この方法では、スリップ検出用車輪12cに作用するブレーキ圧力の減圧(ステップ35)は、車両が静止状態に至る前と後とのいずれに行うようにしてもよい(ステップ34)。
【0035】
図5に示したのは、スリップ・テストを組込んだヒルホールド機能の第4の実施の形態であり、この方法は、スリップ検出用車輪に作用するブレーキ圧力を減圧するのに油圧ポンプ10を使用せず、流出制御弁16(図1参照)を開弁することだけでその減圧を行うようにしたものである。流出制御弁を開弁したならば、ブレーキ液は車輪ブレーキ11a〜11dに付設されているリザーバ7へ流入する。この方法によれば、車両が静止状態にあるときに油圧ポンプ10を作動させる必要がない。ただし、この方法を用いることができるのは、運転者がブレーキを軽くしかかけないために、車輪ブレーキの中へ比較的少量のブレーキ液しか送り込まれない場合である。
【0036】
この方法でも、先ずステップ50において、スリップのおそれの有無を評価し、続いてステップ51において、車両の速度vをチェックする。ブレーキ操作が行われて、そのことがステップ52において検知されたならば、スリップ検出用車輪(この具体例では12c)に作用するブレーキ圧力pの昇圧を制限する。ステップ54では、そのブレーキ圧力pの大きさを調べる。ブレーキ圧力pが所定のスレショルド値pより大きかったならば(NOの場合)、この方法を終了させる。一方、ブレーキ圧力pがスレショルド値pより小さかったならば、ステップ55において、スリップ検出用車輪(11c)に作用しているそのブレーキ圧力pを減圧して、リザーバ7への排出を行う。この場合、車輪ブレーキ(11c)の中に比較的少量のブレーキ液しか存在していないため、これによってブレーキ圧力pは、スリップ検出用車輪が回転できる程度にまで、また特に、スリップ検出用車輪がロック状態から開放される程度にまで減圧される。車両が静止状態に至って、そのことがステップ56において検知されたならば、残りの車輪12a、12b、12dの夫々の車輪ブレーキ11a、11b、11dのブレーキ圧力を固定する。機能解除の条件が成立したことがステップ58において検知されたならば、それら車輪12a、12b、12dに作用しているブレーキ圧力を減圧する(ステップ59)。この後、車両が走行を開始して、所定の速度に達したならば、ステップ60において、油圧ポンプ10を作動させてリザーバ7を空にする。この方法でも、車両が静止状態にある間は油圧ポンプは作動させずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ヒルホールド機能部を備えた自動車用油圧ブレーキ装置の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るヒルホールド機能の主要な方法ステップを示したフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るヒルホールド機能の主要な方法ステップを示したフローチャートである。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るヒルホールド機能の主要な方法ステップを示したフローチャートである。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係るヒルホールド機能の主要な方法ステップを示したフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止状態にした車両のずり下がりを防止するために、車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用しているブレーキ圧力(p)が自動的に固定されて保持されるようにした、停止中の車両のずり下がりを防止する方法において、
ブレーキ操作期間中に、スリップ検出用車輪(12a)の車輪ブレーキに作用するブレーキ圧力(p)の昇圧を制限して、当該車輪ブレーキ(11a)に作用するブレーキ圧力をその他の車輪ブレーキ(11b〜11d)に作用するブレーキ圧力より小さくすることを特徴とする方法。
【請求項2】
ブレーキ操作期間中に、前記スリップ検出用車輪(12a)の車輪ブレーキ(11a)に作用するブレーキ圧力(p)の昇圧を完全に阻止して、当該車輪ブレーキ(11a)を無圧力状態に保持することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両がスリップを生じた場合に、前記車両が静止状態に至る前に前記スリップ検出用車輪(12a〜11d)の車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用している残留ブレーキ圧力(p)を減圧して、当該車輪ブレーキに対応した車輪(12a〜12d)が回転できるようにすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
静止状態にした車両のずり下がりを防止するために、車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用しているブレーキ圧力(p)が自動的に固定されて保持されるようにした、停止中の車両のずり下がりを防止する方法において、
ブレーキ操作期間中に、車輪ブレーキに作用しているブレーキ圧力(p)の大きさを求め、当該ブレーキ圧力が所定のスレショルド値より小さい場合に、スリップ検出用車輪(12a〜12d)の流出制御弁(16)を開弁して、それに対応した車輪ブレーキ(11a〜11d)から当該ブレーキ圧力(p)を消圧することを特徴とする方法。
【請求項5】
周囲温度(T)を監視して、当該周囲温度が所定スレショルド値より低い場合にのみ、前記方法を実行することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
路面の摩擦係数(μ)を求め、当該摩擦係数が所定のスレショルド値より小さい場合にのみ、前記方法を実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレーキ装置の制御弁(13)を制御することによって、前記スリップ検出用車輪の車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用するブレーキ圧力の昇圧を制限し、または完全に阻止することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
ブレーキ操作期間中に前記車両の速度を監視して、当該速度が所定の速度スレショルド値より小さい場合にのみ、車輪ブレーキ(11a〜11d)に作用するブレーキ圧力(p)の昇圧を制限することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記スリップ検出用車輪が後車輪(11c、11d)であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記スリップ検出用車輪(12a〜12d)の回転量を監視して、前記スリップ検出用車輪(12a〜12d)の車輪回転速度が所定のスレショルド値より大きい場合に、全ての車輪(12a〜12d)に作用しているブレーキ圧力(p)を減圧することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
静止状態にした車両をその状態に維持することのできるブレーキ機能を実行するためのアルゴリズム(14)を備えたコントローラにおいて、請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法を実行する手段を備えたことを特徴とするコントローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−537395(P2009−537395A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511428(P2009−511428)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053217
【国際公開番号】WO2007/134902
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】