説明

スリーブ加工方法

【課題】スリーブ表面を簡単かつ高精度に加工するスリーブ加工方法を提供する。
【解決手段】内径D1(mm)のスリーブ基材12を、D1<D2<D1+0.5mmの関係を有する外径D2(mm)の芯体14に嵌入する工程と、芯体14に嵌合された状態でスリーブ基材12の外周面を表面加工する工程と、表面加工が終了したスリーブ基材12を、芯体14から取り出す工程とを備えた。スリーブ基材12が芯体14にしっかり保持された状態でスリーブ基材12の外周面を表面加工するので、高精度の加工を簡単に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機、プリンタの熱定着部や転写部のベルト基材として使用されるスリーブのスリーブ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の重要性が高まる中、省エネルギ機器への要望が益々強まっている。複写機、プリンタの熱定着部に使用される部材も低熱容量化が求められ、ローラに代わってスリーブが多く使われるようになってきた。このスリーブは、シームレスあるいはエンドレスのベルトやチューブ、フィルム等を含むもので、不定形体である。一方、小型化、高速化、高画質化の要求の元、定着部品に求められる寸法精度は高い。定着部に使用されるスリーブを精度良く加工するためには、芯体に嵌合して円筒状あるいは円柱状のワークとして加工するのが有利である。
【特許文献1】特開2001−62905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
定着用のスリーブとして電鋳法によって得られたニッケル電鋳ベルトは、寸法精度が高いことで知られているが、深絞りや、スピニング加工等の塑性加工により得られるステンレスのスリーブや、熱加工を経る合成樹脂スリーブは、内径のばらつきを有しており、芯体と隙間なく嵌合するのが難しいという問題がある。
【0004】
なお、従来の技術として、予め筒状に成形したチューブを型に被せて加熱することによりチューブを収縮させ、型と円筒状フィルムとの間に気体を吹き込むことにより円筒状フィルムを型から外す円筒状フィルムの製造方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような製造方法はチューブを型に被せて熱収縮させることのみにより平滑性と所定寸法精度の円筒状フィルムを得るものであり、スリーブ表面を加工するスリーブ加工方法とは異なるものである。
【0005】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、スリーブ表面を簡単かつ高精度に加工するスリーブ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の各実施例においては、それぞれ次のような構成により上記の課題を解決する。
〈構成1〉
内径がD1(mm)のスリーブ基材を、D1<D2<D1+0.5mmの関係を有する外径がD2(mm)の芯体に嵌入する工程と、上記芯体に嵌合された状態で上記スリーブ基材の外周面を表面加工する工程と、上記表面加工が終了した上記スリーブ基材を、上記芯体から取り出す工程とを備えたことを特徴とするスリーブ加工方法。
【0007】
スリーブ基材が芯体にしっかり保持された状態でスリーブ基材の外周面を表面加工するので、高精度の加工を行うことができる。スリーブ基材の内径D1(mm)と芯体の外径D2(mm)との関係をD1<D2<D1+0.5mmとすることにより、スリーブ基材を損傷させない範囲で芯体に嵌入でき、あるいは離脱できる。
【0008】
〈構成2〉
構成1に記載のスリーブ加工方法において、上記芯体として、先端の端面が閉塞されかつ先端部近傍に周面を貫通する細孔を設けた円筒体を使用し、上記スリーブ基材を上記芯体の先端部から嵌入する際、又は上記スリーブ基材を上記芯体から離脱する際に、上記細孔から上記スリーブ基材内面に向けて流体を噴出させることを特徴とするスリーブ加工方法。
【0009】
円筒体とスリーブ基材との間に流体層が形成されることにより、芯体外周上のスリーブ基材をスムーズに移動できるので、作業性、生産性が大幅に向上する。
【0010】
〈構成3〉
構成2に記載のスリーブ加工方法において、上記流体として空気を用いることを特徴とするスリーブ加工方法。
【0011】
空気を使用すれば、簡易で作業性がよい。
【0012】
〈構成4〉
構成2又は3に記載のスリーブ加工方法において、上記芯体として、一端面が閉塞された円筒体であって、閉塞された端面の近傍に、傾斜面を介して連設された小径部が設けられ、さらに、上記小径部近傍に、周面を貫通する細孔が設けられた円筒体を使用することを特徴とするスリーブ加工方法。
【0013】
スリーブ基材を、小径部、傾斜部を経て漸次拡径しながらスムーズに芯体に嵌入できる。
【0014】
〈構成5〉
構成4に記載のスリーブ加工方法において、上記スリーブ基材の内径をD1、上記芯体の外径をD2、上記小径部の外径をD3としたとき、上記スリーブ基材と上記芯体とは、D2>D1>D3の関係を有するものであることを特徴とするスリーブ加工方法。
【0015】
スリーブ基材を芯体に適度の緊密性をもって嵌入できる。
【0016】
〈構成6〉
構成2〜5のいずれかに記載のスリーブ加工方法において、上記芯体の後端側に、軸心が貫通しかつ端部にフランジを有する保持部を設け、上記スリーブ基材を上記芯体の先端部から嵌入する際に、上記フランジを流体供給機構の支持台とエアパイプにより挟持して上記芯体を上記支持台上に起立固定することを特徴とするスリーブ加工方法。
【0017】
芯体を流体供給機構の支持台に簡単かつ堅固に固定できる。
【0018】
〈構成7〉
構成1〜6のいずれかに記載のスリーブ加工方法において、上記表面加工が、コロナ放電処理、プラズマ表面処理、ブラスト処理、プライマー処理、ゴム成形加工、コーティング加工、離型層被覆加工、研削加工、表面平滑化加工から少なくとも1つ選ばれる加工であることを特徴とするスリーブ加工方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、スリーブ基材を芯体に保持した状態でスリーブ基材の外周面を高精度に表面加工するものであるが、スリーブ基材を芯体に嵌入するときや離脱するときに、スリーブ基材が挫屈したり嵌入困難状態とならないように、スリーブ基材の内径と芯体の外径とを所定の関係に設定している。
以下、本発明の実施の形態を実施例ごとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1〜図3は実施例1のスリーブ加工方法の説明図で、図1は全体構成を示す断面図、図2(a)は芯体を示す断面図、図2(b)はスリーブ基材を示す断面図、図3は芯体を起立固定する支持台を示す平面図である。
本発明は、柔軟材質のスリーブ基材12の表面を高精度に加工するために、スリーブ基材12を、一旦、硬質の芯体14に嵌入してスリーブ基材12が芯体14にしっかり保持された状態とするものである。このため、図2に示すように、スリーブ基材12の内径をD1(mm)、芯体14の外径をD2(mm)としたとき、D1<D2<D1+0.5mmの関係が成り立つように構成された芯体14を使用する。
【0021】
このような芯体14を使用することにより、スリーブ基材12は、芯体14に嵌合したとき、適度に拡径して伸張するので、表面加工し易い状態となる。芯体14の構成がスリーブ基材12に対して上記の関係から外れて、芯体14の外径がスリーブ基材12の内径+0.5mmを越えるとスリーブ基材12を芯体14に嵌入することが実際上困難になる。また、芯体14の外径がスリーブ基材12の内径より小さくなると緩すぎて表面に適度な伸張状態が得られないため、加工面に斑が生じたり、真円度不良、挫屈の原因となる。
【0022】
芯体14にスリーブ基材12を嵌合した状態で、スリーブ基材12の外周面を所定の表面加工し、この表面加工が終了したスリーブ基材12を、芯体14から取り出すことにより、所望のスリーブを得る。
【0023】
スリーブ基材12は、ニッケル電鋳やステンレス等の金属製スリーブや、ポリイミドやポリアミドイミド、PEEK(Poly Ether Ether Ketone )等の耐熱合成樹脂製スリーブの外表面に、耐熱弾性層や離型層、必要に応じて各層間接着層を積層して成形されたものである。
【0024】
表面加工は、コロナ放電処理、プラズマ表面処理、ブラスト処理、プライマー処理、ゴム成形加工、コーティング加工、離型層被覆加工、研削加工、表面平滑化加工から少なくとも1つ選ばれる加工であり、スリーブ基材12を高精度に加工できるものである。
【0025】
ところで、スリーブ基材12の内径が芯体14の外径より若干小さいので、スリーブ基材12をよりスムーズに芯体14に嵌入できることが望ましい。また、スリーブ基材12の外周面を表面加工するときに、芯体14は、任意の部材に固定してもよいが、より簡単かつ堅固に固定できることが望ましい。
【0026】
このため、図示したように、芯体14として、先端の端面が閉塞されかつ先端部近傍に周面を貫通する細孔16を設けた円筒体を使用する。また、芯体14の後端側に、軸心が貫通しかつ端部にフランジ24を有する保持部26を設けた構成とする。図中、符号22は、芯体14の後端側外周に設けられた突起部で、芯体14に嵌合されたスリーブ基材12の下端を一定位置に支持するストッパを示している。
【0027】
また、図示を省略したが、流体供給機構を用意する。
流体供給機構は、例えば圧縮空気を供給する周知設備であり、圧縮空気を生成する周知構成の本体(図示せず)と、この本体に接続されて圧縮空気を送出するエアパイプ30と、芯体14の保持部26を固定する支持台28とを備えている。支持台28には、図3に示すように、板体の中央部に、大、小2つの貫通孔32、34と連通溝35とがひょうたん型をなすように配設されている。大貫通孔32の口径は保持部26のフランジ24の外径より若干大きく形成され、小貫通孔34の口径は同フランジ24の外径より小さく形成されている。連通溝35は保持部26が移動できる横幅とされている。
【0028】
芯体14を支持台28に固定する際、最下端のフランジ24を大貫通孔32から挿入し連通溝35を経由して小貫通孔34に移動する。この状態でエアパイプ30を上方向に移動してその端面を、図1に示すようにフランジ24端面に連結する。すなわち、フランジ24を支持台28とエアパイプ30により挟持して芯体14を支持台上に起立固定した状態とする。
【0029】
スリーブ基材12を芯体14の先端部から嵌入する際に、エアパイプ30を介して芯体14内に空気を供給し、さらに細孔16から圧縮空気としてスリーブ基材12の内面に向けて噴出させることにより、芯体14とスリーブ基材12との間に空気層が形成され、芯体外周上のスリーブ基材をスムーズに移動できるようになる。
【0030】
スリーブ基材12が芯体14の所定位置に達したとき空気噴出を停止することにより、スリーブ基材12が縮径し円筒体に堅固に嵌合されることになる。また、スリーブ基材12を芯体14から離脱する際にも、細孔16からスリーブ基材12内面に向けて圧縮空気を噴出させて芯体外周上のスリーブ基材を拡径してスムーズに移動できるようにしてもよい。
【0031】
スリーブ基材12が芯体14にしっかり保持された状態でスリーブ基材12の外周面を表面加工するので、高精度の加工を行うことができ、作業性、生産性がより一層向上する。
【実施例2】
【0032】
図4及び図5は実施例2のスリーブ加工方法の説明図で、図4は芯体の要部を示す断面図、図5(a)〜(c)はスリーブ基材を芯体に嵌入する経緯を示す断面図である。これらの図には図1と共通する部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0033】
この実施例では、図4に示すように、芯体14として、一端面が閉塞された円筒体であって、閉塞された端面の近傍に、傾斜面18を介して連設された小径部20が設けられ、さらに、小径部20近傍に、周面を貫通する細孔16が設けられた円筒体を使用する。細孔16は小径部20にではなく、小径部20近傍に設けられている。また、スリーブ基材12の内径をD1(図5(a))、芯体14の外径をD2、小径部20の外径をD3としたとき、スリーブ基材12と芯体14とは、D2>D1>D3の関係を有するものである。
【0034】
図5(a)に示すように、スリーブ基材12を芯体14の先端部から嵌入するが、スリーブ基材12の嵌入端が芯体14先端の小径部20に沿い、小径部20から滑らかに設けられた傾斜面18に沿って嵌入される。スリーブ基材12は小径部20、傾斜部を経て漸次拡径していく。図5(b)に示すように、スリーブ基材12の嵌入端が細孔16の開口部を少し通過したとき細孔16からスリーブ基材12内面に向けて圧縮空気を噴出させる。芯体14とスリーブ基材12との間に空気層が形成され、スリーブ基材12が拡径するので、スリーブ基材12をスムーズに芯体14上を移動できるようになる。図5(c)に示すように、スリーブ基材12を芯体14の所定位置に移動したとき流体噴出を停止することにより、スリーブ基材12が縮径し芯体14に堅固に嵌合されることになる。この状態で、スリーブ基材12の外周面の所定の表面加工を行う。この表面加工が終了したスリーブ基材12を、芯体14から取り出すことにより、所望のスリーブを得る。
【0035】
<実施例>
図4に示すように、外径D2が60.15mm、先端小径部20外径D3が59.8mm、長さLが320mmで、口径1mmの流体噴出用細孔16を有するステンレス製の円筒形芯体14を準傭した。図5に示すように、内径D1が60.0mm、肉厚が75μm、長さが320mm熱硬化性ポリイミド樹脂からなるスリーブ基材12を嵌入し、細孔16から外方に向けて圧縮空気を噴射しながら、芯体14外周に嵌合した。この状態で、スリーブ基材12の表面をコロナ放電処理した後、デュロメータタイプAにおける硬さ20度のシリコーンゴムをコーティングし熱硬化した。この後、細孔16から圧縮空気を噴射しながらスリーブ基材12を取り出し寸法精度に優れた定着用スリーブを得た。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1のスリーブ加工方法の説明図で、全体構成を示す断面図である。
【図2】同実施例のスリーブ加工方法の説明図で、(a)は芯体を示す断面図、(b)はスリーブ基材を示す断面図である。
【図3】同実施例のスリーブ加工方法の説明図で、芯体を起立固定する支持台を示す平面図である。
【図4】実施例2のスリーブ加工方法の説明図で、芯体の要部を示す断面図である。
【図5】同実施例のスリーブ加工方法の説明図で、スリーブ基材を芯体に嵌入する経緯を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
12 スリーブ基材
14 芯体
16 細孔
18 傾斜面
20 小径部
22 ストッパ
24 フランジ
26 保持部
28 支持台
30 エアパイプ
32 大貫通孔
34 小貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径がD1(mm)のスリーブ基材を、D1<D2<D1+0.5mmの関係を有する、外径がD2(mm)の芯体に嵌入する工程と、
前記芯体に嵌合された状態で前記スリーブ基材の外周面を表面加工する工程と、
前記表面加工が終了した前記スリーブ基材を、前記芯体から取り出す工程とを備えたことを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスリーブ加工方法において、
前記芯体として、先端の端面が閉塞されかつ先端部近傍に周面を貫通する細孔を設けた円筒体を使用し、
前記スリーブ基材を前記芯体の先端部から嵌入する際、又は前記スリーブ基材を前記芯体から離脱する際に、前記細孔から前記スリーブ基材内面に向けて流体を噴出させることを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスリーブ加工方法において、
前記流体として空気を用いることを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のスリーブ加工方法において、
前記芯体として、一端面が閉塞された円筒体であって、閉塞された端面の近傍に、傾斜面を介して連設された小径部が設けられ、さらに、前記小径部近傍に、周面を貫通する細孔が設けられた円筒体を使用することを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスリーブ加工方法において、
前記スリーブ基材の内径をD1、前記芯体の外径をD2、前記小径部の外径をD3としたとき、前記スリーブ基材と前記芯体とは、D2>D1>D3の関係を有するものであることを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載のスリーブ加工方法において、
前記芯体の後端側に、軸心が貫通しかつ端部にフランジを有する保持部を設け、
前記スリーブ基材を前記芯体の先端部から嵌入する際に、前記フランジを流体供給機構の支持台とエアパイプにより挟持して前記芯体を前記支持台上に起立固定することを特徴とするスリーブ加工方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のスリーブ加工方法において、
前記表面加工が、コロナ放電処理、プラズマ表面処理、ブラスト処理、プライマー処理、ゴム成形加工、コーティング加工、離型層被覆加工、研削加工、表面平滑化加工から少なくとも1つ選ばれる加工であることを特徴とするスリーブ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−313691(P2007−313691A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143536(P2006−143536)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】