説明

セメント焼成炉からの亜鉛除去方法

【課題】セメントの品質に影響を与えずに、セメントの亜鉛の含有量を効率よく低下させる方法の提供。
【解決手段】セメントキルン内の原料温度が1100℃〜1300℃の領域に可燃性物質を投入し、該セメントキルンの燃焼ガスの一部または全部を抽気して該燃焼ガスに含まれるダストを集塵して亜鉛を回収するセメント焼成炉からの亜鉛除去方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコセメントを含むセメントの焼成炉からの亜鉛の除去方法に関し、特に、セメントキルンの窯尻から燃焼ガスの一部または全部を抽気したガスに含まれるダストを回収することにより、セメント焼成炉から亜鉛を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エコセメントを含むセメントの製造におけるリサイクル資源の活用量の増加に伴い、セメント中の亜鉛の含有量が増加傾向にある。亜鉛の含有量が高くなると、セメントの凝結時間が長くなり初期強度が低下するなどの問題が生じる可能性があるため、セメント中の亜鉛の含有量を0.8質量%以下、好ましくは0.5質量%以下にする必要がある。
【0003】
そこで、セメント中の亜鉛の含有量を低減する技術として、例えば、特許文献1には、(A)亜鉛、鉛および塩素を含む物質に対して、塩素の含有量が1〜8質量%で、かつ、(アルカリ金属+鉛)/塩素の化学当量比が1.2以上になるように成分の調整を行ない、かつ、還元剤を添加して、加熱用材料を調製する工程と、(B)加熱用材料を加熱炉内にて900〜1300℃で加熱して、亜鉛、鉛および塩素を揮発成分として含む排ガスと、焼成物を得る工程と、(C)乾式集塵機を用いて、工程(B)の排ガスから、酸化亜鉛、塩化鉛およびアルカリ金属の塩化物を主成分とするダストを捕集する工程とを含む処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献に記載の従来技術では、セメント製造において塩素が1質量%以上必要である。かかる場合に、(アルカリ金属+鉛)/塩素の化学当量比は1.2以上にしないとセメントクリンカ中に塩素が多く残存することになり、セメントの品質に重大な悪影響を及ぼす虞がある。しかし、(アルカリ金属+鉛)/塩素の化学当量比を1.2以上にすれば、塩素、鉛は揮発するとしても、亜鉛の揮発率は塩素や鉛より低く、亜鉛はセメントクリンカに残留しやすいため、原料中の亜鉛の量によって使用できるリサイクル資源の量が制限を受ける。
もっとも、還元剤の添加により亜鉛の揮発率は増加するが、原料温度が1300℃を超えて還元状態になると、セメントの色調変化や凝結遅延などセメントの品質に悪影響を及ぼす虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメントの品質に悪影響を与えることなく、セメントキルン内の亜鉛の揮発を促進し、回収する排ガス中のダストへの亜鉛の濃縮率を高めることにより、セメントの亜鉛の含有量を効率よく低下させることのできるセメント焼成炉からの亜鉛除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント焼成炉からの亜鉛除去方法であって、セメントキルン内の原料温度が1100〜1300℃の領域を還元雰囲気にすることにより、亜鉛の揮発率を大幅に上昇させ、該セメントキルンの燃焼ガスの一部を抽気して該燃焼ガスに含まれるダストを集塵して亜鉛を回収することを特徴とする。
ここで、セメントキルン内の原料温度が1100℃未満では、温度が低すぎて亜鉛の揮発が十分でなく、セメントキルン内の原料温度が1300℃を超えると、セメントの色調変化や凝結遅延等セメントの品質に悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
1100〜1300℃の領域において可燃性物質を燃焼させる方法として、(1)粉状及び/又はスラリー状の燃料及び/又は可燃物を、ノズルを用いて原料温度が1100〜1300℃の領域に噴射する方法、(2)該セメントキルンの窯尻側から原料温度が1100〜1300℃の領域に、塊状の燃料及び/又は可燃物を含む原料を遠投装置を用いて投入する方法、(3)セメントキルンの窯尻部の傾斜面を利用して、円筒状又は球状の燃料及び/又は可燃物を含む原料をセメントキルン内の原料温度が1100〜1300℃の領域に投入する方法などがある。
【0009】
可燃性物質としてはコークス、活性炭、廃木材、廃プラスチック、重油スラッジ、都市ゴミ等の廃棄物を圧縮・固形化した廃棄物固形塊等があげられる。
【0010】
キルン内の原料温度は、輻射温度計や熱電対を用いて測定することができる。あらかじめ原料温度を測定し、可燃性物質を投入する位置を決める。当該温度で可燃性物質を着地燃焼させることにより、原料近傍の還元状態は容易に達成され、亜鉛の揮発は容易になる。
【0011】
揮発した亜鉛の多くは、燃焼ガスに含まれるダストに付着した状態で存在し、当該ダストを電気集塵機、バグフィルター等により集塵することにより亜鉛を回収することができる。
【実施例】
【0012】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
石灰石、都市ごみ焼却灰および鉄原料を用いて、表1に示すエコセメント原料を調合しロータリーキルンを用いてセメントクリンカを焼成した。
ここで、クリンカ1〜5は、ロータリーキルンの出口側から、表2に示す各原料温度の投入位置に、平均粒径が2mmのコークスをクリンカに対し2質量%添加して焼成した。クリンカ6は、コークスを投入しないで焼成した。表2に各クリンカ中の塩素、亜鉛、鉛および銅の含有量を、また、各クリンカにセメント中のSO3量が3.2質量%になるように二水石膏を添加して得たエコセメントの色調および凝結時間を、表3に示した。なお、エコセメント7は従来から製造されているエコセメントである。
なお、色調はハンター色差計を用いて測定し、凝結時間はJIS R 5201に準拠して測定した。
【0013】
【表1】

単位;質量%
【0014】
【表2】

【0015】
【表3】

【0016】
表2から分かるように、コークス投入位置の原料温度が1100〜1400℃のクリンカ2〜5は、亜鉛の含有量が0.15〜0.5質量%と低い。
これに対し、コークス投入位置の原料温度が1000℃と低いクリンカ1、および従来のエコセメントクリンカの製造方法であるコークスを投入しないで焼成して得たクリンカ6(ブランクに相当)は、亜鉛の含有量がそれぞれ0.62質量%および0.63質量%と、いずれも高い。
よって、亜鉛の含有量の低減の観点から、コークス投入位置の原料温度は1100℃以上が好ましいことが分かる。
【0017】
表3から分かるように、コークス投入位置の原料温度が1100〜1300℃のエコセメント2〜4は、色調および凝結時間について、従来のエコセメントであるエコセメント7と同等である。
これに対し、コークス投入位置の原料温度が1400℃のエコセメント5は、エコセメント7と比べて、L値、b値が高く、また凝結も遅い。亜鉛濃度が0.5%を超えているエコセメント1及びエコセメント6の色調はエコセメント7と同等であるが、凝結時間が長い。
よって、色調および凝結時間の観点からは、コークス投入位置の原料温度は1100〜1300℃が好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルン内の原料温度が1100℃〜1300℃の領域に可燃性物質を投入し、該セメントキルンの燃焼ガスの一部または全部を抽気して該燃焼ガスに含まれるダストを集塵して亜鉛を回収することを特徴とするセメント焼成炉からの亜鉛除去方法。

【公開番号】特開2010−235371(P2010−235371A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84257(P2009−84257)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】