説明

セメント組成物

【課題】 本発明は、左官材、屋根材、壁材、防水材などのこて塗り用モルタルや、吹付け用のモルタル、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材、及びグラウト材などに用いることができ、良好な作業性を有し、硬化収縮量が少なく、かつ高い接着耐久性を有するセメント組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】 セメント、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤を含むセメント組成物であって、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることを特徴とするセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左官材、屋根材、壁材、防水材などのこて塗り用モルタルや、吹付け用のモルタル、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材、及びグラウト材などに用いることができるセメント組成物、並びにこのセメント組成物と水とを混練して得られるモルタル、及びこのモルタルを用いて断面補修したコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはセメント、砂、再乳化形樹脂粉末、粉末流動化剤、粉末消泡剤を含むことを特徴とする注入用一粉型ポリマーセメントモルタル組成物が開示されており、該ポリマーセメントモルタル組成物はプレミックスタイプで、施工現場でのポリマーの計量、混合をする必要がなく、消泡剤を加えたことで硬化体の強度低下を抑えることができることが開示されている。
【0003】
厚塗り性の良好な断面修復材に関し、特許文献2にはセメント、粉末度5000cm/g以上の粉級フライアッシュ、繊維長3〜20mm、再乳化形樹脂粉末を含むことを特徴とするコンクリート断面修復材が開示され、該断面修復材はプレミックスタイプであり、施工現場でのポリマーの計量、混合をする必要がなく、粉末度5000cm/g以上の分級フライアッシュを加えたことで厚塗り性が向上することが開示されている。
【0004】
ポンプ圧送性向上、温度依存性の低いポリマーセメントモルタルに関し、特許文献3には再乳化形樹脂粉末、ノニオン系粉末分散剤、及びノニオン系消泡剤を含むことを特徴とするポリマーセメントモルタル組成物が開示され、該ポリマーセメントモルタル組成物についてもプレミックスタイプであり、施工現場でのポリマーの計量、混合をする必要がなく、ノニオン系粉末分散剤、消泡剤を加えたことでポリマーセメントモルタルの温度依存性の低減が可能となったことが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−138062号公報
【特許文献2】特開2001−322858号公報
【特許文献3】特開2006−44949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、左官材、屋根材、壁材、防水材などのこて塗り用モルタルや、吹付け用のモルタル、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材、及びグラウト材などに用いることができ、良好な作業性を有し、硬化収縮量が少なく、かつ高い接着耐久性を有するセメント組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討を行い、特定の物質を組み合わせることで、良好な作業性を有し、硬化収縮量が少なく、かつ高い接着耐久性を有するセメント組成物が得られることを見出して本発明を完成した。
即ち、本発明の第一は、
セメント、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤を含むセメント組成物であって、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることを特徴とするセメント組成物である。
さらに本発明の第二は、本発明のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタルである。
さらに本発明の第三は、本発明のセメント組成物と水の配合物を硬化させて得られるモルタル硬化物である。好ましくは本発明の第三は、本発明のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタルを、硬化させて得られるモルタル硬化物である。
さらに本発明の第四は、本発明のセメント組成物を用いてコンクリート劣化箇所に断面修復を施したコンクリート構造体である。
【0008】
本発明のセメント組成物の好ましい様態を以下に示す。これらは複数組み合わせることができる。
1)アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合再乳化形樹脂粉末であること。
2)アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、カチオン系のアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合再乳化形樹脂粉末であること。
3)セメント組成物は、さらにホルマイト系粘土鉱物を含むこと。
4)セメント組成物は、さらに流動化剤を含むこと。
5)セメント組成物は、さらに細骨材と繊維を含むこと。
6)セメント組成物は、コンクリート構造体表面の劣化部分を除去した箇所のコンクリート断面の修復に用いられること。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント組成物は、水と混練して、こて塗りなどの作業性に優れたモルタルを得ることができる。該モルタルの硬化物は、硬化収縮量が少なく、かつ高い接着耐久性(湿潤時、温冷繰り返し試験後)を有している。また、水量を調整することにより、良好な吹付け性を有する吹付け用モルタルを得ることができる。また、一回の吹付け操作により、広範囲かつ大量に厚付け施工が可能であるため、施工効率を大幅に改善することができる。したがって、本発明のセメント組成物は、土木建築構造物の補修や補強に用いる断面修復材用として好適に用いられるとともに、長期の供用に耐えうる優れた耐久性を有するコンクリート構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、セメント、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤を含むセメント組成物である。
本発明で用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどの各種混合セメント、或いはアルミナセメント、膨張セメントなどの特殊セメントなどの土木建築業界で一般に使用されるものを用いることができ、これらを単独で、又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0011】
本発明で用いるアクリル共重合再乳化形樹脂粉末について、その製造方法は、特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを好適に用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパージョンを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いる。
本発明では、樹脂粉末として保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル供重合系の再乳化形樹脂粉末を用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル供重合体の再乳化形樹脂粉末を用いることができる。
【0012】
アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末の1次粒子(エマルジョン)の平均粒経は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、更に好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
1次粒子の平均粒経が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いたセメント組成物では、土木建築構造物の補修、及び、土木建築構造物の補強などの断面修復材用の断面修復材として使用する場合に、こてを用いたモルタル施工の作業を行う過程で、良好なこて作業性(こて切れ、こて送り、こて伸び、こて離れ)を得ることができる。
樹脂粉末の1次粒径の平均粒径が前記範囲よりも大きい場合、土木建築構造物の補修及び、土木建築構造物の補強に用いる時のモルタルのこて作業性は良好なものの、セメント組成物の硬化体の接着耐久性が低下するため好ましくなく、樹脂粉末の1次粒径の平均粒経が前記範囲よりも小さい場合、接着耐久性は良好なものの、モルタルのこて作業性が悪くなることから好ましくない。
【0013】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末100重量%中に再乳化形樹脂粉末の1次粒子が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、さらに好ましくは0.15〜0.9μmの粒子を95%以上含み、より好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75%質量%以上含むものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着耐久性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
前記範囲の粒径の1次粒子を前記の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いたセメント組成物では、モルタルのこて作業を行う過程で、良好な作業性を得ることができる。
樹脂粉末の1次粒径の平均粒径が前記範囲よりも大きい場合、モルタルのこて作業性は良好なものの、接着耐久性が低下するため好ましくなく、樹脂粉末の1次粒径の平均粒経が前記範囲よりも小さい場合、接着耐久性は良好なものの、こて作業性が悪くなることから好ましくない。
【0014】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかにかつ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、セメント組成物中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0015】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化樹脂粉末は、カチオン性、ノニオン性及びアニオン性のものを用いることができ、特に、モルタルとコンクリートとの接着耐久性をより高める効果がより高いことから、カチオン性であることが好ましい。
また、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末にアンモニウム塩又は第4級アンモニウム基を導入することにより、カチオン性を付与されたカチオン系のアクリル共重合再乳化形樹脂粉末がより好ましい。
カチオン系のアクリル共重合再乳化形樹脂粉末を用いた場合、カチオンに帯電した荷電ポリマー粒子が、セメント、砂、及び被着体と静電的に引き合って、密着性が向上することにより、モルタルとコンクリートとの接着耐久性がより高まるものと推考される。
【0016】
本発明では、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、かつ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル系共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いることによって、モルタルのこて作業を行う過程で良好な作業性、接着耐久性に優れた特性を併せて得ることができる。
本発明では、特に、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、かつ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆され、さらに、カチオン性であるアクリル系共重合系の再乳化形樹脂粉末を選択することによって、モルタルのこて作業を行う過程での作業性や、接着耐久性にさらに優れた特性を得ることができる。
【0017】
本発明で用いるアクリル系共重合系の再乳化形樹脂粉末は、噴霧乾燥やフリーズドライなどの方法で1次粒子中の溶媒を除去し乾燥した2次粒子の形態で用いられる。
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜90μmの範囲であり、より好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲であることが、再乳化形樹脂粉末を含むセメント組成物と水とを混練してモルタルにする過程で、再乳化形樹脂粉末の2次粒子がセメント組成物に含まれている細骨材によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすいことから前記範囲の2次粒子径の再乳化形樹脂粉末を用いることが好ましい。
樹脂粉末の2次粒子の粒子径が前記範囲よりも大きい場合、再乳化形樹脂粉末を含むセメント組成物と水とを混練してモルタルにする過程で、再乳化形樹脂粉末の2次粒子が再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散されにくくなることから好ましくなく、樹脂粉末の2次粒子の粒子径が前記範囲よりも小さい場合、工場においてプレミックスしてセメント組成物を製造する際に、再乳化形樹脂粉末が飛散して作業環境が悪くなるなどのハンドリング性が悪くなることから好ましくない。
【0018】
本発明で用いる再乳化形樹脂粉末は、セメント100質重量部に対して、好ましくは2〜18質量部、より好ましくは2.5〜14質量部、さらに好ましくは3〜13質量部、特に好ましくは3.5〜12質量部の範囲で配合することによって、良好なこて作業性(こて切れ、こて送り、こて伸び、こて離れ)、接着耐久性に優れた特性を併せて得ることができる。
樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、再乳化形樹脂粉末を含むセメント組成物と水とを混練してモルタルにする過程で、樹脂粉末による巻き込みエアーが多くなるため硬化体の圧縮強度が低下し、また、こて作業性が悪くなることから好ましくなく、樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも小さい場合、硬化体の圧縮強度は高くなるものの、接着耐久性が低下するため好ましくない。
【0019】
本発明で用いる膨張材は、金属粉、カルシウムサルフォアルミネート(CSA系)及びCaOを主成分とする石灰系などの膨張材を使用することができ、金属粉、カルシウムサルフォアルミネート系及び石灰系の膨張材から選ばれる2種以上を併用して用いることができる。
【0020】
カルシウムサルフォアルミネート系膨張材としては、アウインを挙げることができ、石灰系膨張材としては、生石灰、生石灰―石膏混合系及び仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらの一種又は二種以上の混合物として使用できる。特に石灰系膨張材としては、生石灰及び/又は生石灰―石膏混合系が好ましい。
【0021】
膨張材の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、セメント100質量部に対し、好ましくは2〜20質量部、より好ましくは2.5〜18質量部、さらに好ましくは3〜16質量部、特にこのましくは4〜15質量部が好ましく、添加量が少ないと膨張性に寄与せず、添加量が多いと過剰膨張するため、好ましくない。
【0022】
本発明で用いる収縮低減剤は、ポリオキシアルキレン誘導体を含むアルキレン類の重合体をエーテル化した有機系収縮低減剤を使用することができる。
収縮低減剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、セメント100質量部に対し、好ましくは0.5〜8質量部、より好ましくは0.75〜6質量部、さらに好ましくは1〜5質量部、特に好ましくは1.2〜4質量部の範囲で用いることが好ましく、添加量が前記範囲より少ないと収縮低減への寄与が小さくなり、添加量が前記範囲より多いと強度発現性が低下し、収縮低減効果が頭打ちになると共に、経済的でない。
【0023】
本発明のセメント組成物は、セメント、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤のほかに、ホルマイト粘土鉱物、流動化剤、細骨材、繊維及び増粘剤を用いることができる。
本発明で用いるホルマイト粘土鉱物は、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイトなどが挙げられ、一種、又は二種以上の混合物として使用できる。
ホルマイト粘土鉱物は、粒状粘土鉱物や繊維状粘土鉱物を用いることができ、特に、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイトなどの繊維状粘土鉱物を好ましく用いることができる。
特に本発明のセメント組成物は、セメント100重量部に対して、好ましくは0.4〜5質量部、より好ましくは0.6〜4.5質量部、さらに好ましくは0.8〜4.2質量部、特に好ましくは1〜4質量部の範囲で配合することによって、良好なこて作業性(こて切れ、こて送り、こて伸び、こて離れ)、塗着性、厚付け性に優れた特性を併せて得ることができる。
【0024】
本発明で用いる流動化剤は、減水効果、好適な流動性を併せ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系、ポリエーテルカルボン酸などの市販の流動化剤が使用でき、特にポリエーテル系、ポリエーテルカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で使用でき、セメント100重量部に対して、好ましくは0.02〜0.40質量部、より好ましくは0.03〜0.30質量部、さらに好ましくは0.04〜0.25質量部、特に好ましくは0.06〜0.20質量部の範囲で配合することができる。添加量が少ないと優れた流動性が発現せず、また添加量が多すぎても強度発現性に悪影響を与えるだけでなく、経済的でない。
【0025】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、シリカ粉、FCC触媒などの各種無機系触媒の廃材、寒水石、石灰類などが挙げられ、一種または二種以上の混合物として使用でき、2mm以下の径の珪砂、川砂、海砂、シリカ粉、FCC触媒などの各種無機系触媒の廃材、寒水石、石灰類などを用いることが好ましい。
2mm以下の径の細骨材を用いることにより、良好なこて作業性(こて切れ、こて送り、こて伸び、こて離れ)や吹付け性が向上するために好ましく用いることができる。
【0026】
細骨材は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、セメント100質量部に対して、好ましくは0〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、さらに好ましくは40〜170質量部、特に好ましくは60〜160質量部が流動性や硬化体強度発現性などのために好ましい。
【0027】
本発明では、クラック防止、こて作業性向上のために繊維を用いることができる。
本発明で用いる繊維は、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などを用いることができ、これらは一種、又は二種以上の混合物として使用できる。
繊維は、建材用を用いることが好ましく、繊維長さは0.5〜15mm程度のものを用いることが好ましい。
本発明のセメント組成物において、クラック防止及びこて作業性向上効果を高めるために、セメント100質量部に対し、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.03〜1.5質量部、さらに好ましくは0.05〜1.2質量部、特に好ましくは0.08〜1質量部が好ましい。添加量が少ないとひび割れ防止に寄与せず、また添加量が多すぎても混練性、施工性が低下するため、好ましくない。
【0028】
本発明では、厚付け性を向上させるために増粘剤を用いることができる。
本発明で用いる増粘剤は、ヒドロキシメチルセルロースを含むセルロース系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して使用することができる。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、セメント100質量部に対し、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1.5質量部、さらに好ましくは0.0075〜1質量部、特に好ましくは0.01〜0.8質量部含むことが好ましい。添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下をするため、好ましくない。
【0029】
本発明では、セメント及びアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末と、膨張材、収縮低減材、ホルマイト粘土鉱物、流動化剤、細骨材、繊維及び増粘剤などを混合機で混合して、セメント組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0030】
セメント組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合、攪拌して、水硬性スラリー又は水硬性モルタルを製造することができ、その水硬性スラリー又は水硬性モルタルを硬化させてモルタル硬化物を得ることができる。
【0031】
本発明のセメント組成物は、用途に応じて、水の配合量を適宜選択することにより、フローを調整して用いることができる。
本発明のセメント組成物は、水と配合し、混練することにより、水硬性スラリー又は水硬性モルタルとして用いることができる。
本発明のセメント組成物は、水と配合して、コテ塗り用や吹付け用に優れたスラリーやモルタルを得ることができる。
本発明のセメント組成物において、水の配合量は、セメント100質量部に対し、好ましくは10〜100質量部、よりに好ましくは15〜90質量部、さらに好ましくは20〜80質量部、特に好ましくは30〜70質量部を加えて用いることが好ましい。
【0032】
本発明のセメント組成物において、特にコテ塗り用として用いる場合、水の配合量は、セメント100質量部に対し、好ましくは、10〜100質量部、より好ましくは31〜60質量部、さらに好ましくは32〜55質量部、特に好ましくは33〜50質量部を加えて用いることが好ましい。10質量部未満では配合時の混練抵抗が増し、またコテ塗り作業性が低下するため適当でない。また、100質量部を超えると強度発現性が低下し、また施工時の厚付け性も困難になるため適当でない。
【0033】
本発明のセメント組成物は、特に吹付け用として用いる場合、水の配合量は、セメント100質量部に対し、好ましくは、10〜100質量部、より好ましくは36〜65質量部、さらに好ましくは37〜60質量部、特に好ましくは38〜55質量部を加えて用いることが好ましい。10質量部未満では配合時の混練抵抗が増し、また圧送性が低下するため適当でない。また、100質量部を超えると強度発現性が低下し、また吹付け時の厚付け性も低下するため適当でない。
【0034】
本発明のセメント組成物は、水量を調整することにより、吹付け用のモルタルとして好適に用いることができる。
本発明のセメント組成物は、水と配合し、混練することにより、吹付け時の吐出において脈動を起こしにくく、良好な吹付け作業性を有するモルタルが得られる。さらに、モルタルを吹付け施工することによって、均一に厚付けすることができ、吹付け後のモルタルはダレやブリージングが起こらない。
【0035】
本発明のセメント組成物に使用されるモルタルポンプは、特に限定されるものではなく、現在一般に使用されているモルタルポンプを適宜選択して用いることができる。特に、ホース内のモルタルの詰まりも少なく、均一な仕上がりが得られるスクイズ式モルタルポンプやスネーク式モルタルポンプを好適に用いることができる。
【0036】
本発明のセメント組成物に使用される吹付けガンは、特に限定されるものではなく、現在一般に使用されている建築用吹付けガンを、適宜選択して用いることができる。特に、均一に厚付けが可能なスプレーガンやリングガンを好適に用いることができる。
【0037】
本発明のセメント組成物を用いて調製したモルタルを、壁面の一ヶ所約10cmの円形状に吹付けガンを用いて吹付けた場合、一回の吹付け操作により、好ましくは、50〜200mm、より好ましくは、60〜180mm、さらに好ましくは、70〜160mm、特に好ましくは、80〜150mmの厚さに吹付けることができる。200mmを超えると剥落の可能性が高まるため適当でない。
【0038】
本発明では、本発明のセメント組成物を用いて調製したモルタルを吹付けた一層目の上に、更に吹付け処理を行って多層の吹付けモルタル層を形成することができる。多層の吹付けモルタルの厚さは、好ましくは、50〜250mm、より好ましくは、70〜230mm、更に好ましくは、85〜210mm、特に好ましくは、100〜200mmの範囲に好ましく吹付けることができる。250mmを超えると剥落の可能性が高まるため適当でない。
【0039】
本発明のセメント組成物は、左官材、屋根材、床材、壁材、防水材などのこて塗り用のモルタルや吹付け用のモルタル、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材やグラウト材などとして土木、建築、建設分野に好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0041】
(こて塗り作業性の評価)
モルタルをステンレス製こてでラスカット面に約3〜20mm程度の厚みで塗り付け、こて塗り作業性時のモルタルの切れ、送り、伸び、離れ、塗着性の5項目について評価を行う。
1)切れ(こて残り)の評価:5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良の5段階で行う。
2)送り(重さ)の評価:5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良の5段階で行う。
3)伸び(塗り面積)の評価:5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良の5段階で行う。
4)離れ(ベタツキ)の評価:5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良の5段階で行う。
5)塗着性(塗り厚性)の評価:5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良の5段階で行う。
【0042】
(モルタルの評価)
JIS R 5201に準拠して測定する。練り混ぜたモルタルを、乾燥した布でよくぬぐったフローテーブル上に中央の位置に正しく置いたフローコーンに2層に詰める。各層は突き棒の先端がその層の約1/2の深さまで入るよう、全面にわたって各々15回突き、最後に不足分を補い表面をならす。直ちにフローコーンを正しく上の方に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、モルタルが広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで測定し、その平均値をmm単位とする無名数の整数で表す。
評価条件は、温度20±2℃、湿度65±5%の環境下で行う。
【0043】
(モルタル硬化物の評価)
混練したモルタルを硬化させ、硬化体物性を測定した。
接着強度試験(湿潤接着、温冷繰り返し)については、下地板にJIS規格モルタル板を使用して、東日本、中日本、西日本高速道路株式会社日本道路公団規格JHS-416-2004(断面修復材料品質規格試験方法)に準拠して成型、養生、強度試験を行った。
長さ変化試験については、東日本、中日本、西日本高速道路株式会社日本道路公団規格JHS-416-2004(断面修復材料品質規格試験方法)に準拠して成型、養生、長さ変化試験を行った。
【0044】
(吹付け性の評価)
混練したモルタルをホッパーへ落とし、ポンプで圧送した。
吹付け性の評価については、圧送性試験、図1に示す天井面に設置したPC版(200×1090×2680mm)への天井面厚付け性試験、(東日本、中日本、西日本高速道路株式会社日本道路公団規格JHS-432:2006(断面修復用吹付けモルタルの試験方法)に準拠した振動試験を行った。振動試験は、変位振幅が0.5±0.1mmで制御できる性能を有している振動負荷を与える試験機に大きさが(200×1200×2450mm)の試験体に全振幅0.5mm、振動周波数5Hzを与えた状況下で、表6に示すミキサー、スクイズポンプ、コンプレッサー、ノズル、圧送ホースを使用し、下側より上向きに吹付けを行った。振動負荷は仕上げ終了後より24時間連続して行った。
【0045】
原料は以下のものを使用した。
1)セメント:ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製)。
2)再乳化形樹脂粉末:
・樹脂A:アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体、1次粒子がポリビニアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末、カチオンタイプ、ニチゴー・モビニール社製、LDM7100P。
・樹脂B:アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末、ノニオンタイプ、ニチゴー・モビニール社製、LDM7000P。
・樹脂C:エチレン/酢酸ビニル共重合体、再乳化形樹脂粉末、日本化成社製、LL5055。
・樹脂D:酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体、再乳化形樹脂粉末、ニチゴー・モビニール社製、DM200。
3)ホルマイト系粘土鉱物:アタパルジャイト、ユニオン化成社製。
4)流動化剤 :ポリカル系流動化剤、日本油脂社製。
5)骨材 :細骨材(5号珪砂、6号珪砂、寒水石)
6)繊維 :ビニロン繊維(クラレ社製、長さ6mm)
7)増粘剤 :セルロース系増粘剤、信越化学社製。
8)収縮低減剤 :ポリエーテル系収縮低減剤、日本油脂社製。
9)膨張材 :カルシウムサルフォアルミネート(CSA系)膨張材、太平洋マテリアル社製。
【0046】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
温度20℃、相対湿度65%の条件化で、セメント組成物に、表1に示す配合量の水を加え、3分間ホバートミキサーにて混練を行ってモルタルを調製した。得られたモルタルを用いて、こて塗り作業性の評価を行った結果を表2に示す。また、モルタル硬化物の長さ変化試験および接着強度試験の評価を行った結果を表3及び表4に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
[実施例6〜10]
セメント組成物に、表5に示す配合量の水を加え、3分間ミキサーにて混練を行い、モルタルを調整した。更に、表5の実施例7を用いて、表6に示す吹付け機材を使用して吹付け性の評価を行った。吹付け性の評価として、圧送性試験、図1に示す天井面に設置したPC版(200×1090×2680mm)への天井面厚付け性試験、東日本、中日本、西日本高速道路株式会社日本道路公団規格JHS-432:2006(断面修復用吹付けモルタルの試験方法)に準拠した振動試験を行った。圧送性試験、図1に示す天井面に設置したPC版(200×1090×2680mm)への天井面厚付け性試験、JHS-432:2006(断面修復用吹付けモルタルの試験方法)に準拠した振動試験の結果を表6に示す。また、実施例10については、吹付け後28日まで現場養生を行った後、直径75mm×高さ150mmの円柱供試体を5本採取し、引張接着性試験を行った。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
(1)樹脂成分としてエチレン/酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末を使用した比較例3、及び樹脂粉として酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体の樹脂粉末を使用した比較例4、いずれも良好なこて塗り作業性が得られなかった。
(2)樹脂成分としてアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体で1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末を使用した実施例1、実施例2いずれも良好なこて塗り作業性を得ることができた。
(3)収縮低減剤を使用しなかった比較例2、膨張材を使用しなかった比較例3いずれも、長さ変化率が実施例1、実施例2と比較して劣っていた。
(4)樹脂成分としてエチレン/酢酸ビニル共重合体の樹脂粉末を使用した比較例3、及び樹脂粉として酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体の樹脂粉末を使用した比較例4いずれも温冷繰り返し接着強度において、実施例1、実施例2と比較して小さかった。特に、樹脂成分量を2倍に増やした実施例3、実施例4と比較例5との接着強度の差はより顕著であった。
(5)樹脂成分としてアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体で1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末を使用した実施例6及び実施例7のセメント組成物を用いることによって、実施例8、実施例9及び実施例10に示すように、良好な圧送性と、天井面への厚付け性とが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】天井面に設置したPC版への天井面厚付け性試験の概要を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤を含むセメント組成物であって、アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
アクリル共重合再乳化形樹脂粉末は、カチオン系のアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
セメント組成物は、さらにホルマイト粘土鉱物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
セメント組成物は、さらに流動化剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
セメント組成物は、さらに細骨材と繊維とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項7】
セメント組成物は、劣化したコンクリートを除去した後に断面を修復するコンクリート断面の修復に用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタル。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタルを、硬化させて得られるモルタル硬化物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタルを用いてコンクリート劣化箇所に断面修復を施したコンクリート構造体。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセメント組成物と水とを混練して得られるモルタルを用いてコンクリート劣化箇所に湿式吹付け工法により断面修復を施したコンクリート構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102216(P2009−102216A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52799(P2008−52799)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】