説明

セメント製造設備における廃棄物燃料化システムおよび廃棄物燃料化システムを用いたセメントの製造方法

【課題】 ハロゲン含有物を、これに含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよび当該システムを用いたセメントの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 間接加熱によりハロゲンを含むハロゲン含有物を加熱してハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成するハロゲン分離手段8と、ハロゲン分離手段8の熱媒体としてプレヒータ2またはバイパス手段の高温ガスを供給する熱媒体供給ライン14と、ハロゲン分離手段8から排出された可燃性ガスからハロゲンを回収するハロゲン回収手段11と、ハロゲン回収手段11によってハロゲンが回収された後の可燃性ガスをセメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段13と、ハロゲン分離手段8から排気された高温ガスをプレヒータ2またはその上流側の排気管に戻す戻りライン17とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素等のハロゲンを含むハロゲン含有物を燃料化して、セメント製造設備における燃料の一部として利用するセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよび当該システムを用いたセメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、各種飲料容器や記録用テープあるいは自動車のタイヤ等として、様々なプラスチック類が使用されている。これらプラスチック類は、使用後に多量の産業廃棄物として廃棄処分となるが、近年、埋立処理の限界から、当該廃棄物を焼却処理する方法が採用されている。
【0003】
ところで、上記プラスチック類のような可燃性廃棄物は、焼却によって所定の熱量を発生する。そこで、当該可燃性廃棄物をセメント製造設備におけるロータリーキルン内に投入して焼成するとともに、同時にその際の発熱量をセメント製造に係る燃料の一部として利用する処理方法が実施されている。
【0004】
この際に、上記可燃性廃棄物を、ロータリーキルンの窯尻部分や、その前段の設けられた立ち上がりダクトに直接投入すると、焼却時の熱量をセメント原料の予熱に利用することはできるものの、ロータリーキルン内におけるセメント原料の焼成には寄与しないことになる。また、上記可燃性廃棄物が水分を多く含む場合には、その気化熱によって投入箇所における排気ガス温度が低下し、却って安定操業に支障を来すおそれもある。
【0005】
このような問題点を解決するための先行技術として、例えば下記特許文献1に記載のセメント焼成用廃棄物処理装置が提案されている。
この廃棄物処理装置は、プラスチック等の可燃性廃棄物をロータリーキルン内に投入する前に高温ガスで乾留して乾留ガスを発生させる外熱式キルンと、上記ロータリーキルンで発生する高温の塩素バイパスガスと低温のクーラー排ガスとを混合した高温ガスを上記外熱式キルンに供給する高温ガス供給装置と、上記外熱式キルンで発生した乾留ガスをロータリーキルンのバーナーに供給する乾留ガス供給ラインとを備えたものである。
【0006】
上記構成からなる廃棄物処理装置によれば、外熱式キルンで生成した乾留ガスを、ロータリーキルンのバーナーに供給しているので、その発熱量分のキルンの主燃料を低減化することができるとともに、上記外熱式キルンで処理した乾留灰は、セメント焼成設備に供給しないために、塩素および水分による悪影響を回避することができるという利点がある。
【特許文献1】特開2002−195524公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の廃棄物処理装置にあっては、可燃性廃棄物がポリ塩化ビニル(PVC)等の塩素含有量の多いプラスチックである場合に、外熱式キルンにおける乾留により、その塩素分の大部分が乾留ガスに移行するために、これをロータリーキルンの燃料として使用すると、当該ロータリーキルンを含めたセメント焼成設備内において塩素が濃縮され、プレヒータで閉塞するため、操業に悪影響を及ぼすという問題点がある。
【0008】
また、一般に、セメント製造設備には、上記塩素が設備内を循環することによって濃縮されることを回避すべく、排ガスの一部を抜き出して塩素分を除去する塩素バイパスシステムが設置されているが、上記乾留ガスから別途導入される塩素までを除去する能力は無く、このため上記廃棄物の処理量または廃棄物における塩素含有量が著しく制限されるという問題点も生じる。
【0009】
さらに、この種のセメント製造設備は、ロータリーキルンが100m程度の長さを有する巨大なプラントであるのに対して、上記廃棄物処理装置においては、外熱式キルンの熱源として、ロータリーキルンの窯尻上部に設けられた塩素バイパスからの高温ガスと、ロータリーキルンの窯前側に設けられたクーラーからの低温排ガスとを混合したものを用いているために、全体として高温ガスの配管が極端に長いものになって装置が大形化、かつ複雑化するという問題点がある。
【0010】
加えて、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の塩素含有量が少ないプラスチック廃棄物は、それ自体で高い発熱量を有するものの、上記廃棄物処理装置においては、乾留灰をセメント焼成設備内に導入しないために、廃棄物からの十分なエネルギーの再利用を図ることができず、かつ依然として処理が必要な乾留灰という2次廃棄物が生成されてしまうという問題点を有する。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、塩素を含む可燃性廃棄物等のハロゲン含有物を、当該ハロゲン含有物に含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよび当該システムを用いたセメントの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、セメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータから導入された上記セメント原料を焼成するセメントキルンとを有するセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムであって、間接加熱によりハロゲンを含むハロゲン含有物を加熱して当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成するハロゲン分離手段と、このハロゲン分離手段の熱媒体として上記プレヒータまたは当該プレヒータから高温ガスの一部を抜き出すバイパス手段の高温ガスの一部を供給する熱媒体供給ラインと、上記ハロゲン分離手段から排出された上記可燃性ガスから上記ハロゲンを回収するハロゲン回収手段と、このハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段と、上記ハロゲン分離手段から排気された上記高温ガスを上記プレヒータまたはその上流側の排気管に戻す戻りラインとを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
なお、上記バイパス手段とは、塩素バイパスあるいはアルカリバイパス等のプレヒータから分岐された各種のバイパス設備の全体を指すものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記残留物を上記セメント製造設備の燃料として供給する残留物供給手段を有することを特徴とするものである。
【0014】
ここで、請求項3に記載の発明は、上記ハロゲン含有物が、可燃性廃棄物であり、かつ上記ハロゲン分離手段は、間接加熱により上記可燃性廃棄物を熱分解して、ハロゲンを含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む残留物とを生成させる熱分解手段であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記ハロゲン分離手段に、上記可燃性ガスの一部を燃焼させて当該ハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の戻りラインが、上記熱媒体供給ラインの高温ガス抜き出し箇所よりも当該高温ガスの温度が低い箇所に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
次いで、請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法であって、上記セメントキルンの窯前に設けられたバーナによって、上記セメント原料を焼成してクリンカを製造するに際して、上記ハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを、上記セメント製造設備に燃料として供給することを特徴とするものである。
【0018】
この際に、請求項7に記載の発明は、上記残留物を、上記セメントキルン内および/または当該セメントキルンの前段に設けられた仮焼炉で燃焼させて燃料の一部として使用することを特徴とするものである。
また、請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の発明において、上記ハロゲン分離手段において上記ハロゲン含有物から上記ハロゲンを分離させるに際して、上記ハロゲン含有物に伝熱部材を混入することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、請求項9に記載の発明は、請求項6〜8のいずれかに記載の発明において、上記ハロゲン分離手段に、上記ハロゲン含有物が当該ハロゲン分離手段に付着することを防止する付着防止材を供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜5のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよびこれを用いた請求項6〜9のいずれかに記載のセメントの製造方法によれば、ハロゲン分離手段によって、間接加熱により塩素や臭素等のハロゲンを含むハロゲン含有物から上記ハロゲンが分離されることにより、当該ハロゲンを含む可燃性ガスと、残留物とが生成する。
【0021】
そして、上記可燃性ガスについては、ハロゲン回収手段において上記塩素分や臭素分等のハロゲンが除去されて可燃性ガスとされた後に、ガス供給手段によってセメント製造設備の燃料として供給される。
【0022】
また、請求項2または請求項7に記載の発明においては、上記残留物についても、残留物供給手段によって、セメント製造設備に燃料として供給される。
この結果、各種のハロゲンを含むハロゲン含有物を、これに含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなく、その発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
【0023】
請求項2において、上記残留物を供給するセメント製造設備としては、セメントキルン、仮焼炉の他、当該セメント製造設備に設けられている発電機やボイラ等が適用可能であるが、例えば、請求項7に記載の発明のように、セメントキルンまたは仮焼炉が好適である。特に、上記残留物を仮焼炉に供給するようにすれば、熱源としてプレヒータまたはバイパス手段からの高温ガスをプレヒータまたはその上流側に戻していることと相まって、他のハロゲン回収手段を含めた各種機器および配管類をセメントキルンの窯尻側に集中配置することができ、よってシステム全体の小型簡易化を図ることができる。
【0024】
また、ハロゲン分離手段において間接加熱によりハロゲン含有物からの可燃性ガスの生成等を行っているために、必要最小限の熱媒体を供給することにより、上記作用効果を得ることができる。しかも、上記プレヒータまたはバイパス手段から抜き出してハロゲン分離手段に供給した高温ガスを、再び戻りラインを介して当該プレヒータまたはその上流側に戻しているために、上記プレヒータ内おける空気の流れに大きな変動を与えることがない。
【0025】
特に、請求項3に記載の発明によれば、ハロゲン含有物が可燃性廃棄物である場合に、当該可燃性廃棄物が熱分解手段によって熱分解され、塩化水素と主として炭化水素を含む可燃性ガスとから構成され熱分解ガスと、大部分のハロゲンが除去された炭化物を主成分とし、熱分解温度に応じた油分を含有する熱分解残渣とが生成する。
【0026】
そして、上記熱分解ガスについては、ハロゲン回収手段において上記ハロゲン分が除去されて可燃性ガスとされた後に、ガス供給手段によってセメント製造設備の燃料として供給される。他方、上記熱分解残渣についても、残留物供給手段によって上記セメントキルン内に燃料として供給することができる。
【0027】
この結果、塩素等のハロゲンを含む可燃性廃棄物を、セメント製造設備において円滑に処理することができ、かつ上記廃棄物に含まれる塩素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。また、熱分解手段において間接加熱により廃棄物の熱分解を行っているために、廃棄物の脱塩に必要な最小限の熱媒体を供給することにより、上記作用効果を得ることができる。
【0028】
なお、上記プレヒータ等から抜き出した高温ガスは、ハロゲン分離手段においてハロゲン含有物と熱交換することにより、その温度が低下する。そこで、特に請求項5に記載の発明のように、戻りラインを、上記熱媒体供給ラインの高温ガス抜き出し箇所よりも温度が低い箇所に接続すれば、プレヒータ全体としての熱的なバランスを乱すおそれも低減化させることができる。
【0029】
なお、一般にプレヒータは、上記高温ガスを予熱媒体兼遠心分離媒体とする複数段のサイクロンを有しており、セメント原料は、これらサイクロンを順次経ることにより、最終的に約900〜1000℃まで予熱されてセメントキルン内に導入されるようになっている。また、仮焼炉が設けられている場合に、当該仮焼炉における温度は、最下段のサイクロンにおける高温ガスの温度よりも幾分高い。このため、プレヒータ等からハロゲン分離手段に供給する高温ガスは、抜き出すサイクロン等を適宜選択することにより、上記ハロゲンの分離に必要な約250℃〜900℃の範囲の空気を供給することが可能である。
【0030】
したがって、上記プレヒータ等から供給する空気のみでハロゲン分離手段におけるハロゲン含有物の所望の加熱処理を行うことが可能であるが、請求項4に記載の発明のように、ハロゲン分離手段に、上記可燃性ガスの一部を燃焼させて当該ハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段を設ければ、処理すべきハロゲン含有物の量が多く、よってプレヒータ等から供給する高温ガスのみでは十分な熱量を確保し難い場合においても、所望の熱分解を行うことが可能になる。
【0031】
また、請求項8に記載の発明によれば、ハロゲン分離手段においてハロゲン含有物にスチールボール等の伝熱部材を混入しているので、間接加熱によっても、熱分解効率を向上させることが可能になる。
【0032】
さらに、請求項9に記載の発明によれば、上記ハロゲン分離手段として例えばロータリーキルン型外熱式熱分解炉等を用いた場合においても、付着防止材を投入することによって、上記ハロゲン含有物が外熱式熱分解炉等の内壁に付着することを防止して、円滑なハロゲンの分離処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムを、ハロゲン含有物が塩素を含む可燃性廃棄物である場合に適用したセメント製造設備における廃棄物燃料化システムの第1実施形態を示すもので、図中符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンである。
このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、その図中左方の窯尻1a側に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ2が設けられるとともに、図中右方の窯前1bには、内部を加熱するための主バーナ(図示を略す。)が設けられている。また、この窯前1bには、セメントキルン1によって得られたクリンカを冷却するクリンカクーラ3が設けられている。
【0034】
ここで、上記プレヒータ2は、上下方向に直列的に配置された複数段(図では4段)のサイクロン2a〜2dによって構成されており、1段目のサイクロン2aにセメント原料が供給されている。また、3段目のサイクロン2cと4段目のサイクロン2dとの間には、下端部にセメントキルン1の窯尻1aから燃焼排ガスが導入されるとともに、内部に図示されない燃料供給ラインから供給される石炭等の燃料の燃焼装置が設けられた仮焼炉4が設けられている。
【0035】
そして、これらセメントキルン1、プレヒータ2および仮焼炉4等を有するセメント製造設備には、塩素を含む可燃性プラスチック廃棄物を前処理してセメントキルン1に導入するための廃棄物燃料化システムが設けられている。
【0036】
図中符号5は、この廃棄物燃料化システムの最上流側に設けられた選別装置(選別手段)である。この選別装置5は、処理すべき可燃性プラスチック廃棄物を、比重選別あるいは赤外線選別等によって、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素含有量の多い廃棄物(以下、塩素含有プラスチックと略す。)と、ポリエチレンやポリプロピレン等の塩素含有量が少ない廃棄物(以下、低塩素濃度プラスチックと略す。)とに分離するものである。
【0037】
そして、この選別装置5によって分離された低塩素濃度プラスチックは、廃棄物燃料供給ライン6を介して、上記仮焼炉4にその燃料の一部として投入されるようになっている。他方、選別装置5によって分離された塩素含有プラスチックは、熱分解ライン7から後段の熱分解炉(ハロゲン分離手段、熱分解手段)8に導入されるようになっている。
【0038】
この熱分解炉8は、熱媒体が導入される外筒8aと、軸線回りに回転自在に設けられて内部に塩素含有プラスチックが供給される内筒8bとを有するロータリーキルン型の外熱式熱分解炉であり、内筒8bの一端側に上記熱分解ライン7が接続されている。また、この接続部分には、内部に付着防止材を供給するための投入口9が接続されている。
【0039】
ここで、上記付着防止材としては、粘土等の土質材、紙材、木材、プラスチックフィルム等が適用可能である。この際に、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルム等の廃棄物を代替使用すれば、これらの廃棄物の処理も同時に行うことが可能になる。また、他の付着防止材として、セメント原料やオイルコークス灰等も使用することができる。この際に、粗粉状であれば、上記廃棄物への担持体として機能させることができ、微細粉であれば、上記廃棄物へのもち粉状の被覆体として機能させることができる。
【0040】
そして、熱分解炉8の内筒8bの他端側には、この熱分解炉8において生成した熱分解残渣を仮焼炉4内に燃料の一部として供給する搬送ライン(残留物供給手段)10が設けられている。さらに、この内筒8bの上部には、この熱分解炉8において生成した熱分解ガスを、後段のガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)11へと送る分解ガス抜き出しライン12が接続されている。
【0041】
このガス洗浄装置11は、熱分解炉8から排出された上記熱分解ガスに、供給管11aから添加される水酸化カルシウム等のアルカリ成分を接触させて、当該熱分解ガス中に含まれる塩素分を、塩化カルシウム等の塩として熱分解ガスから除去するためのもので、湿式あるいは乾式の各種ガス洗浄装置が適用可能である。ここで、図中符号11bは、上記塩化カルシウム水溶液等の排出管であり、符号11cは、未反応のアルカリ成分を含む熱分解ガスをガス洗浄装置11の入口に戻す戻り管である。
【0042】
そして、このガス洗浄装置11の排出側には、このガス洗浄装置11によって洗浄された可燃性ガスを、仮焼炉4内に燃料の一部として供給するためのガス供給ライン(ガス供給手段)13が接続されている。
【0043】
他方、熱分解炉8の外筒8aの一端側には、熱媒体としてプレヒータ2における3段目のサイクロン2cから高温ガスを抜き出して熱分解炉8に供給するための熱媒体供給ライン14が接続されている。また、この熱分解炉8の外筒8aの他端側には、熱分解炉8から排気される上記高温ガスを、抜き出したサイクロン2cの位置よりも温度が低い2段目のサイクロン2aと1段目のサイクロン2aとの間の排ガス管15、またはその上流側の排気管16に戻す戻りライン17が設けられている。なお、図中符号18は、排気ファンである。
【0044】
なお、上記プレヒータ2においては、セメントキルン1の窯尻1aから導入される燃焼排ガス(高温ガス)が、順次上方のサイクロン2d〜2aへと送られる過程で、セメント原料を予熱することにより、漸次冷却される。このため、窯尻1aにおいて約900℃〜1000℃であった上記高温ガスは、1段目のサイクロン2aにおいて約(300℃)になるが、いずれのサイクロン2a〜2dから上記高温ガスを抜き出したとしても、上記熱分解に必要な約250℃〜900℃の範囲の空気を供給することが可能である。
【0045】
一方、上記熱分解は、最高温度が250℃〜650℃の範囲において行うことが望ましい。この際に、当該熱分解を上記範囲内の比較的低い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は比較的小さいものの、熱分解残渣に炭素分が多くの残存し、その発熱量は大きくなる。また、逆に比較的高い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は大きくなるが、逆に熱分解残渣における可燃分が少なくなるとともに、油分の発生量が増加する。
【0046】
したがって、本実施形態においては、一例として3段目のサイクロン3cから上記高温ガスを抜き出す場合について示しているが、上記廃棄物の性状や可燃性ガスの仕様用途等を勘案して、抜き出すサイクロン2a〜2dを適宜選択することにより、上記加熱温度を選択することが可能である。
【0047】
次に、上記構成からなるセメント製造設備における廃棄物燃料化システムを用いた、本発明に係るセメントの製造方法の一実施形態について説明する。
先ず、プレヒータ2において予熱されるとともに、仮焼炉4において仮焼成されたセメント原料を、図中点線矢印で示すように、窯尻1aからセメントキルン1内に導入する。すると、このセメントキルン1内において窯尻1a側から窯前1b側へと徐々に送られる過程において、主バーナからの燃焼排ガスによって加熱され、焼成されてクリンカとなる。
【0048】
次いで、窯前1bに到達したクリンカは、図中点線矢印で示すように、クリンカークーラ3内に落下して図中右方に送られる。この際に、クリンカクーラ3内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて最終的に当該クリンカクーラ3から取り出される。
また、クリンカクーラ3においてクリンカを冷却することによって昇温した空気は、主バーナ等の燃焼用の2次空気としてセメントキルン1内に導入され、さらに排ガスとなってプレヒータ2の加熱源として利用される。
【0049】
以上のセメントクリンカの製造と並行して、塩素含有プラスチックを含む処理すべき可燃性廃棄物を選別装置5に投入し、塩素含有プラスチックと、他の低塩素濃度プラスチック等の廃棄物とに分離する。そして、低塩素濃度プラスチックについては、廃棄物燃料供給ライン6を介して直接仮焼炉4に投入することにより、仮焼炉4内で燃焼させて、その燃料の一部として利用する。
【0050】
他方、選別装置5によって分離された塩素含有プラスチックについては、熱分解ライン7から後段の熱分解炉8に導入することにより、熱媒体供給ライン14から供給されるプレヒータ2の高温ガスによって熱分解される。この結果、熱分解炉8内には、塩化水素と主として炭化水素を含む可燃性ガスとから構成され熱分解ガスと、大部分の塩素が除去された炭化物を主成分とする熱分解残渣とが生成する。この際に、投入口9から供給された付着防止材によって、上記塩素含有プラスチックが熱分解炉8の内壁に付着することが防止される。
【0051】
そして、上記熱分解残渣については、搬送ライン10によって仮焼炉4に供給し、同様に燃料の一部として利用する。また、上記熱分解ガスについては、ガス洗浄装置11において塩素分を除去した可燃性ガスとしたうえで、ガス供給ライン13を通して仮焼炉4に供給し、燃料の一部として利用する。
【0052】
このようにして、塩素を含む可燃性廃棄物を、セメント製造設備において円滑に処理することができ、かつ上記廃棄物に含まれる塩素に起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
加えて、熱分解装置8の熱源として、プレヒータ2からの高温ガスを使用するとともに、熱分解残渣および可燃性ガスを仮焼炉4に供給しているので、他のガス洗浄装置11を含めた各種機器および配管類をセメントキルン1の窯尻1a側に集中配置することができ、よってシステム全体の小型簡易化を図ることができる。
【0053】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態を説明するためのもので、図1に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この廃棄物燃料化システムにおいては、付着防止材とともに1mmφ以上の直径を有するスチールボール(伝熱部材)が投入口9から熱分解炉8内に供給されるようになっている。
【0054】
そして、この熱分解炉8の後段に、搬送ライン10から送られてきた熱分解残渣およびスチールボールを100℃以下まで冷却するとともに、これら熱分解残渣とスチールボールとを軸線回りに回転させることにより、上記熱分解残渣を粉砕するロータリーキルン型の冷却粉砕装置(冷却細分化手段)20が設置されている。
【0055】
また、この冷却粉砕装置20の底部には、1mmφ以下まで粉砕された熱分解残渣を分離する篩21が設けられ、この篩21を通過した熱分解残渣が、搬送ライン9からセメントキルン1に供給されるようになっている。さらに、冷却粉砕装置20の下部には、篩21によって分離されたスチールボールを排出する排出ライン22が設けられている。
【0056】
以上の構成からなる廃棄物燃料化システムおよびこれを用いたセメントの製造方法においては、第1の実施形態に示したものに加えて、さらに熱分解炉8において塩素含有プラスチックを熱分解するに際して、これにスチールボールを混入しているので、加熱されたスチールボールによって直接塩素含有プラスチックを加熱することができる。このため、間接加熱によっても、熱分解効率を向上させることができる。
【0057】
また、熱分解炉8の後段に設けたロータリーキルン型の冷却粉砕装置20によって、搬送ライン10から送られてきた熱分解残渣が100℃以下まで冷却されるとともに、スチールボールによって粉砕される。そして、この冷却粉砕装置20の底部に設けた篩21によって、1mmφ以下まで粉砕された熱分解残渣が分離されて、搬送ライン10から仮焼炉4に供給される。他方、排出ライン22から排出されたスチールボールは、再び投入口9から熱分解炉8に供給することにより、循環使用することができる。
【0058】
したがって、先ず冷却粉砕装置20によって上記熱分解残渣を冷却することにより、その細分化処理が容易になるとともに、1mmφ以下まで細分化した熱分解残渣をセメントキルン1内に投入しているので、搬送等のハンドリングおよび仮焼炉4における処理が容易になる。ちなみに、このように熱分解残渣を細分化した場合には、下記第3の実施形態において示すように、当該熱分解残渣をセメントキルン1の窯前1bから内部に投入して燃焼させてもよい。
【0059】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態を説明するためのもので、同様に図1および図2に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
本実施形態においては、セメントキルン1の窯尻1aから4段目のサイクロン2dへ排気ガスを送るダクトに塩素バイパス管30が接続されており、この塩素バイパス管30によって抜き取られた排ガスの一部が、後段のバッグフィルター31に送られるようになっている。
【0060】
そして、熱分解炉8に熱媒体として高温ガスを供給する熱媒体供給ライン32が、上記塩素バイパス管30に枝配管されている。なお、この塩素バイパス管30から抜き取られた高温ガスを熱分解炉8に熱媒体として使用する場合に、当該高温ガス中に含まれる粉塵の量が比較的多いために、上記熱分解炉8がチューブ式等の熱交換器である場合には、チューブ等の目詰まりを防止するために、熱媒体供給ライン32の中間部に、サイクロン等の粉塵除去手段を介装することが好ましい。
【0061】
また、本実施形態の廃棄物燃料化システムにおいては、第1および第2の実施形態において示した選別装置5が設けられておらず、この結果、塩素含有プラスチックおよび低塩素濃度プラスチック等が共に熱分解炉8に導入されるようになっている。
【0062】
さらに、熱分解炉8において生成し、冷却粉砕装置20によって細分化処理された熱分解残渣は、搬送ライン(残留物供給手段)33から、セメントキルン1の窯前1bから内部に投入されるようになっている。また、ガス洗浄装置11によって塩素が除去された可燃性ガスも、ガス供給ライン34から同様にセメントキルン1の窯前1bから内部に供給されるようになっている。
【0063】
他方、この熱分解炉8には、補助加熱器(補助加熱手段)35が設けられている。この補助加熱器35には、その燃料としてガス洗浄装置11からセメントキルン1に可燃性ガスを送るガス供給ライン33の枝配管36が接続されている。そして、この補助加熱器35において上記可燃性ガスの一部が燃焼されることによって生じた高温ガスが、補助加熱ライン37から、熱分解炉8の外筒8a内に供給されるようになっている。
【0064】
本実施形態の廃棄物燃料化システムおよびこれを用いたセメントの製造方法によれば、塩素含有プラスチックおよび低塩素濃度プラスチックを選別することなく、共に熱分解炉8に導入しているので、特に処理すべき廃棄物が塩素含有プラスチックを多量に含む場合にシステム全体の簡易化を図ることができて好適である。
【0065】
加えて、熱分解炉8に、可燃性ガスの一部を燃焼させて熱分解炉8の熱源の一部として供給する補助加熱器35を設けているので、処理すべき廃棄物の量が多く、よって塩素バイパス管30から供給する高温ガスのみでは十分な熱量を確保し難い場合等に、この補助加熱器35によって熱量を補充することにより所望の熱分解を行うことができる。
【0066】
なお、上記第1〜第3の実施形態においては、いずれも熱分解ガスから塩素分が除去された可燃性ガスを、仮焼炉4またはセメントキルン1内に燃料の一部として供給する場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、別途配管により、あるいはボンベ等に充填した上で、上記セメント製造設備の発電機に燃料として供給することも可能である。
【0067】
また、第2および第3の実施形態において示した熱分解炉8後段の冷却細分化手段についても、スチールボールを用いて上記熱分解残渣を粉砕するロータリーキルン型の冷却粉砕装置20に限らず、温度条件やプラスチックの性状等によっては、シュレッダー等のせん断式破砕機やクラッシャー等の臼型破砕機等の他の細分化手段を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムの第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】同、第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】同、第3の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1 セメントキルン
1a 窯尻
1b 窯前
2 プレヒータ
4 仮焼炉
5 選別装置(選別手段)
6 廃棄物燃料供給ライン
7 熱分解ライン
8 熱分解炉(ハロゲン分離手段、熱分解手段)
9 付着防止材の投入口
10、33 搬送ライン(残留物供給手段)
11 ガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)
13、34 ガス供給ライン(ガス供給手段)
14、32 熱媒体供給ライン
17 戻りライン
20 冷却粉砕装置
30 塩素バイパス管
35補助加熱器(補助加熱手段)
36 ガス供給ラインの枝配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータから導入された上記セメント原料を焼成するセメントキルンとを有するセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムであって、
間接加熱によりハロゲンを含むハロゲン含有物を加熱して当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成するハロゲン分離手段と、
このハロゲン分離手段の熱媒体として上記プレヒータまたは当該プレヒータから高温ガスの一部を抜き出すバイパス手段の高温ガスの一部を供給する熱媒体供給ラインと、
上記ハロゲン分離手段から排出された上記可燃性ガスから上記ハロゲンを回収するハロゲン回収手段と、
このハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段と、
上記ハロゲン分離手段から排気された上記高温ガスを上記プレヒータまたはその上流側の排気管に戻す戻りラインと、
を備えてなることを特徴とするセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項2】
上記残留物を上記セメント製造設備の燃料として供給する残留物供給手段を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項3】
上記ハロゲン含有物は、可燃性廃棄物であり、
かつ上記ハロゲン分離手段は、間接加熱により上記可燃性廃棄物を熱分解して、ハロゲンを含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む残留物とを生成させる熱分解手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項4】
上記ハロゲン分離手段には、上記可燃性ガスの一部を燃焼させて当該ハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項5】
上記戻りラインは、上記熱媒体供給ラインの高温ガス抜き出し箇所よりも当該高温ガスの温度が低い箇所に接続されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法であって、
上記セメントキルンの窯前に設けられたバーナによって、上記セメント原料を焼成してクリンカを製造するに際して、上記ハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを、上記セメント製造設備に燃料として供給することを特徴とするハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項7】
上記残留物を、上記セメントキルン内および/または当該セメントキルンの前段に設けられた仮焼炉で燃焼させて燃料の一部として使用することを特徴とする請求項6に記載のハロゲン含有物燃料システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項8】
上記ハロゲン分離手段において上記ハロゲン含有物から上記ハロゲンを分離させるに際して、上記ハロゲン含有物に伝熱部材を混入することを特徴とする請求項6または7に記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項9】
上記ハロゲン分離手段に、上記ハロゲン含有物が当該ハロゲン分離手段に付着することを防止する付着防止材を供給することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−206386(P2006−206386A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21099(P2005−21099)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】