説明

セラミックグリーン体の製造法、セラミックス、セラミック電解質及び燃料電池

【課題】本発明は、セラミックスを製造する工程であるグリーン体を焼結時に生じるセラミックスの割れ、また、当該セラミックスを用いた固体電解質にあっては導電性の低下、絶縁性の低下、機械的強度の低下を防止することができるものである。
【解決手段】本発明は、気相雰囲気を0.5μm以上の微粒子が1立方フィート当たり100000個以下とし、セラミックスグリーン体用スラリーをセラミックスグリーン体に成形することを特徴とするセラミックスグリーン体の製造方法である。更に当該グリーン体を焼成して得られるセラミックスおよび当該セラミックスを用いた燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に用いられるセラミックグリーン体の製造方法とその用途に関するものである。特にグリーン体がシートであることが好ましいものである。
【背景技術】
【0002】
従来からセラミックスの製造方法は多くの技術が開示されている。当該セラミックスの製造法としては、セラミックスの粉体を微粉砕して得られるスラリーを用いて任意の形状、例えばシート状に成形した後に焼結させる方法、セラミックスの酸化物の前駆体である水酸化物を含むスラリーを用いて任意の形状に成形した後に焼結させる方法などの湿式法、酸化物、水酸化物等の化合物を直接加圧成形し任意の形状とした後に焼結する方法などの乾式法が用いられている。これらの方法において焼結する前の形態をグリーン体と称し、シートである場合にはグリーンシートと称する。これらの焼結したものを各々セラミックス、セラミックスシートと称する。
【0003】
しかし、従来の製造方法を用いるとき、成形されたセラミックスのうち形状が特殊なもの、例えば円筒状、箱状、薄膜のシート状のものは焼成条件等で不具合のものが多く生じやすく、セラミックスの歩留まりが低いものであった。また当該セラミックスを用いた固体電解質にあっては導電性の低下、絶縁性の低下を防止することが見られた。
【0004】
また、焼成時の不具合を防止する手段としてシート製造時のスラリーの粒度分布を制御し不具合の少ない技術が提示されている(WO2003/098724号)。当該技術は粉体の制御の面で効率的ではない場合がある。
【0005】
【特許文献1】WO2003/098724号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セラミックスを製造する工程であるグリーン体を焼結時に生じるセラミックスの割れ、また、当該セラミックスを用いた固体電解質にあっては導電性の低下、絶縁性の低下、機械的強度の低下を防止することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討の結果、セラミックスグリーン体を製造する際の雰囲気、特に気相中に埃、ゴミ、塵などが存在すると、得られるグリーン体を焼結するときに不具合を生じさせセラミックスの割れなどの原因になること、および当該セラミックスを用いた固体電解質にあっては導電性の低下や、塵などの種類によっては絶縁性の低下、機械的強度の低下も引きおそれが生じることがあることを見出し、当該弊害を除去する方法を見出し発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いることで、セラミックス体の歩留まりを向上させ、かつセラミックスの導電性、絶縁性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る第一の発明は、0.5μm以上の微粒子が1立方フィート当たり100000個以下である気相雰囲気で、セラミックスグリーン体用スラリーをセラミックスグリーン体に成形することを特徴とするセラミックスグリーン体の製造方法である。また当該セラミックスが金属酸化物であることを特徴とする上記のセラミックスグリーン体の製造方法であり、当該金属酸化物がジルコニアであることを特徴とする上記のセラミックスグリーン体の製造方法である。当該ジルコニアは、Y、Sc、Ce、La、Mg,Ca,Sr,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Yb,Bi,Inからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物、好ましくは、Y、Sc、Ce、Mg,Ca,Ybからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とするセラミックスグリーン体の製造方法である。さらに、当該セラミックスグリーン体がシートであることを特徴とするセラミックグリーン体の製造方法である。当該セラミックスグリーン体を更に加工することを特徴とすることもできる。加工は、切断、曲げ、折りなどの定法を用いることができる。
【0010】
本発明にかかる第二の発明は、上記製造方法により得られるセラミックスグリーン体を焼成して得られることを特徴とするセラミックスである。
【0011】
本発明にかかる第三の発明は当該セラミックスを固体電解質として用いることを特徴とする燃料電池用電解質である。
【0012】
本発明にかかる第四の発明は、上記セラミックスを用いたことを特徴とする燃料電池である。
【0013】
(気相雰囲気の測定)
0.5μm以上の微粒子が1立方フィート当たり100000個を超える場合にはセラミックスグリーン体を焼結させるとき割れが生じやすく、また導電性が少なくなるからである。100個/立方フィートを以下であるときは気相中の塵等の原因よりも他の要素によりセラミックスに割れが生じやすくなるので、かかる値より下げる必要は少ない。
【0014】
当該クラスを測定する方法としては通常の方法を用いることができるが、好ましくは光散乱式の装置であり、詳しくは一定のガス中に存在する0.5μm以上の塵等を、He−Neガスレーザーを光源とし、塵等による相対光散乱強度と粒径との相関により当該範囲の微粒子の計測するものである。市販の装置としては気相中微粒子計(商品名「リオン社KC−22A」)を用い測定するものである。
【0015】
(グリーン体の製造方法)
本発明にかかるセラミックスは通常セラミックスとしてもいられるものであれば何れのものであっても良く、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカなどの酸化物、これらの酸化物に他の元素を固溶、複合させたものである。
【0016】
また、セラミックスの形状は、何れの形状であっても良いが、特に本発明において効果を生じる形状は、円筒状、箱状、薄膜シート状等の構造的に負荷が掛かり易く製造に困難なものにおいて効果が顕著に生じる。以下、本発明を詳細に説明するが便宜的にジルコニアシートを用いて説明するが、本発明の効果はジルコニアシート状のものに限定されるものではない。
【0017】
ジルコニアシートは、固体電解質膜などとしての実用性を高める意味から、その厚さが10μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上で、500μm以下、より好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下が望ましい。該シートを構成する好ましいジルコニアとしては、MgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y23,La23,CeO2,Pr23,Nd23,Sm23,Eu23,Gd23,Tb23,Dy23,Ho23,Er23,Yb23などの希土類元素酸化物、Sc23,Bi23,In23等の安定化剤を1種もしくは2種以上含有するジルコニアが挙げられ、その他の添加剤としてSiO2,Al23,Ge23,B23,SnO2,Ta25,Nb25等が含まれていてもよい。
【0018】
中でも、より高度の熱的、機械的、電気的、化学的特性を確保する上では、2〜7モル%の酸化イットリウムで安定化された正方晶及び/又は立方晶構造の酸化ジルコニウムが好ましく、該ジルコニアシートは、特に固体電解質膜用、中でも燃料電池の固体電解質膜用として極めて有効に活用できる。
【0019】
(スラリー法)
そして本発明の製法は、上記の様な表面性状を満たすジルコニアシートを確実に得ることのできる方法を提供するもので、その構成は、グリーンシートの製造に用いられるスラリーとして、スラリー固形成分の平均粒子径(50体積%径)が0.05〜0.8μm、90体積%径が0.5〜2μm、限界粒子径(100体積%径)が5μm以下であるスラリーを使用し、これをシート状に成形してから焼結するところに要旨を有している。
【0020】
当該スラリーは、上記粉体を乾式粉砕、湿式粉砕することで得られる。当該粉砕に際して、溶剤、バインダーを添加することも好ましい。当該バインダー等は通常セラミックスシートの製造に用いられるものを使用することかできる。乾式粉砕の場合には粉砕後に媒体を添加しスラリーとすることができる。当該スラリーをドクターブレード法、押出し成形法により任意の形態にすることかできる。またシートを変形させ任意の形状とすることもできる。かかる状態をグリーン体と称する。
【0021】
(乾式法)
前記粉体を所定の形状にプレスし成形することかできる。かかる場合には成形時の圧力は粉体の嵩密度の関係により適宜加圧し成形しグリーン体とすることができる。
【0022】
(セラミックスの製造方法)
上記グリーン体を所定の温度で焼結することでセラミッスを得ることができる。焼結温度は、1200℃〜1600℃、好ましくは1300℃〜1500℃である。燒結に際して乾燥工程を適宜いれることができる。溶剤、溶媒等の揮発成分を含むグリーン体であるときには工的に使用することかできる。
【0023】
(電解質)
セラミックスのうち、導電性を有するものを電解質として用いることができる。導電性を向上させるためにY、Scなどの添加成分を入れることができる。
【0024】
(燃料電池の製造方法)
上記電解質にアノードまたはカソード電極材料等を被覆し電極とすることができる。被覆するアノード電極シートの構成素材としては、Ni,Co,Feあるいはこれらの酸化物等と、上記ジルコニア及び/又はセリアとのサーメット、更にはこれらにMgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物やMgAl24などを添加したサーメットなどが、また被覆するカソード電極シートの構成素材としては、ぺロブスカイト型結晶構造を有するランタン・マンガネート、ランタン・コバルテート、あるいは、これらのうちランタンをCa,Srなどで一部置換し、もしくはマンガンをCo,Fe,Crなどで一部置換し、更にはランタンとコバルトの一部をCa,Sr,Co,Feなどで置換した複合酸化物などが例示される。
当該被覆に際しては通常塗布、印刷等を用い当該電解質に被覆し焼成し電極とすることができる。更に他の電極を組み合わせて燃料電池とすることができる。
【実施例】
【0025】
市販の3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製商品名「HSY−3.0」、平均粒子径:0.7μm、90%径:1.9μm)100質量部に対し、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒50質量部を、直径10mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで40時間混練してスラリーを調製した。このスラリーを濃縮脱泡して粘度を3Pa・sに調整した後、最後に200メッシュのフィルターに通した。
【0026】
次に、作業場所の気相雰囲気が0.5μm以上の粒子数の個数が70000個/立方フィート(商品名「リオン社KC−22A」で粒子数を測定した)である部屋において、以下の塗工作業、打抜き作業、グリーンシート重ね作業を行った。
【0027】
(塗工作業)
ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に上記スラリーを塗工し、厚さ約300μmのグリーンシートを得た。
【0028】
(打抜き作業)
このグリーンシートを、連続型打抜き機(同前)に刃型を取付けて、プレスストローク:40mm、プレススピード:80spmで直径15cmの円形に切断した。
【0029】
(グリーンシート重ね作業)
ジルコニアグリーンシートの焼成と評価)棚板上に、一辺20cmの正方形状の多孔質セラミック薄板を載せ、この上に上記で得た直径15cmの円形のジルコニアグリーンシートを重ね、同様にして更に交互に4枚ずつ多孔質セラミック薄板とジルコニアグリーンシートを重ね合わせ、最後に多孔質セラミック薄板を載せた。
【0030】
この様にして、各多孔質セラミック薄板とジルコニアグリーンシートを各々5枚ずつ重ね合わせたものを20組準備し、それらを大気雰囲気下に1400℃で2時間焼成することにより、直径12cmの円形、厚さ約220μmのジルコニアシート100枚を得た。得られたジルコニアシートには焼成時に割れたシートは無かった。また、このシートの導電率を1000℃で測定したところ、0.055S/cmであった。
【0031】
(比較例1)
実施例のうち、塗工作業、打抜き作業、グリーンシート重ね作業を、作業場所の気相雰囲気が0.5μm以上の粒子数個数が550000個/立方フィート(商品名「リオン社KC−22A」で粒子数を測定した)である部屋で行った。
得られたジルコニアシート100枚のうち、7枚に割れが生じていた。また、このシートの導電率を1000℃測定したところ、0.050S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、強靭なセラミックス体を製造する技術であり、当該セラミックスは電解質、電極、センサー、燃料電池に用いることかできるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5μm以上の微粒子が1立方フィート当たり100000個以下である気相雰囲気下で、セラミックスグリーン体用スラリーをセラミックスグリーン体に成形することを特徴とするセラミックスグリーン体の製造方法。
【請求項2】
当該セラミックスが金属酸化物であることを特徴とする請求項1記載のセラミックスグリーン体の製造方法。
【請求項3】
当該金属酸化物がジルコニアであることを特徴とする請求項1記載のセラミックスグリーン体の製造方法。
【請求項4】
当該ジルコニアが、Y、Sc、Ce、La、Mg,Ca,Sr,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Yb,Bi,Inからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とする請求項3記載のセラミックスグリーン体の製造方法。
【請求項5】
当該セラミックスグリーン体がシートであることを特徴とする請求項1〜4記載のセラミックグリーン体の製造方法。
【請求項6】
当該セラミックスグリーン体を更に加工することを特徴とする請求項1〜5記載のセラミックス製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の製造方法により得られるセラミックスグリーン体を焼成して得られることを特徴とするセラミックス。
【請求項8】
請求項7記載のセラミックスを固体電解質として用いることを特徴とする燃料電池用電解質。
【請求項9】
請求項7記載のセラミックスを用いたことを特徴とする燃料電池。

【公開番号】特開2007−261873(P2007−261873A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88729(P2006−88729)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】