説明

セラミックシートをキャスティングするための方法および装置

薄い自立セラミックシートの製造方法は、キャリアフィルムを、約2cm/分〜約500cm/分の速度で、キャスティングヘッドに近接して、かつテープキャスターのキャスティングベッドを通過するように引張る工程を含んでもよい。キャスティングヘッドを使用して、約150μm未満のセラミックスリップの薄膜をキャリアフィルム上に堆積する。セラミックスリップは、セラミックスリップが約20体積%を超えるセラミック固形分分率を有するように流体媒体中に分散した約10μm未満の最終微結晶サイズを有するセラミック粉末を含んでもよい。堆積されたセラミックスリップを、キャリアフィルム上で乾燥させて、それによって未焼結セラミックシートをキャリアフィルム上に形成してもよい。未焼結セラミックシートを乾燥させた後、未焼結セラミックシートを焼結させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の権利】
【0001】
本発明の一部は、米国商務省によって裁定された契約番号70NANB4H3036に基づき政府支援によってなされた。米国政府は、本発明の特許請求の範囲の一部において一定の権利を有しうる。
【優先権】
【0002】
本出願は、2008年10月31日に出願された米国仮特許出願第61/197,955号明細書の利益および優先権を主張し、その記載内容が依拠され、全体が参照により本明細書に援用される。
【技術分野】
【0003】
本発明は、セラミックシートを形成するための方法および装置に関し、特に、キャスティングによって可撓性セラミック電解質シートを形成するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0004】
焼結セラミックシートなどの薄くて可撓性の焼結構造は、多種多様な実用的用途を有する。たとえば、可撓性焼結構造は、導波路などの電子および/または電気光学的用途、あるいは電子コーティング、超電導体、または高温超電導体の基体として使用することができる。可撓性焼結セラミック構造は、基体を擦傷から守るために保護層が必要となるガラスまたはその他の基体材料の保護層としても有用となり得る。特に、可撓性焼結セラミックシートまたはテープは、固体酸化物燃料電池中の電解触媒として使用することもできる。
【0005】
薄い可撓性焼結セラミックシートを製造するための現行方法は、セラミックスリップをキャリアフィルム上にキャスティングして未焼結セラミックシートまたはテープを製造することを含んでいる。スロットダイ、ロールコーター、ドクターブレード、コンマバー、あるいはその他の類似の装置および技術を使用して、セラミックスリップをキャリアフィルムに塗布することができる。次に、セラミックスリップを乾燥させることによって、キャリアフィルムの表面上に未焼結セラミックシートまたはテープが形成される。その後、セラミックシートまたはテープをフィルムからはがし、焼成することによって、薄く可撓性の焼結セラミックシートまたはテープが形成される
焼成中に圧力を加えることなく、面積が約100cmを超え厚さが約45マイクロメートル未満である薄く平坦な焼成セラミックシートを製造するためには、収縮およびプロセス応力の制御方法の独特の組み合わせが必要となる。プロセス中の各工程において均一に材料を供給することが重要である。この均一性がないと、焼成中に束縛されない本体が湾曲する。未焼結体、または焼成中の未焼結シートの上面から未焼結シートの底面までわずか1%の不均一性は、すべての不均一性が焼結中の応力/収縮の差に変換されるとすると、厚さ20マイクロメートルのジルコニア電解質シートの場合に約3mmの湾曲半径が生じうる。焼結中の「逆応力」のために、すべての不均一性が応力差に変換されるわけではなく、したがって湾曲またはゆがみに変換されるわけではない。このような条件下では、収縮の差ならびに湾曲またはゆがみの量は、1%の収縮のばらつきの場合に、約3〜10mm程度の湾曲半径となる。薄く平坦な電解質シートを得るためには、密度/焼結収縮のばらつきが1%を大きく下回ることが望ましい。しかし、剥離剤粉末を使用する積層などの束縛を行うと、残留剥離剤粉末が物体上に残留するか、物体内に欠陥が生じるかのいずれかとなる。このような技術は、より厚みのある物体に対して使用されている。本発明の目的は、大きな面積の薄い電解質シートを高歩留まりおよび最小限の欠陥で製造するための商業的に実施可能な方法を提供することである。
【0006】
上述の技術は薄く可撓性の焼結セラミック構造を形成するのに好適であるが、キャスティングプロセス中に未焼結セラミックシートまたはテープの中に亀裂または孔などの欠陥が生じると、未焼結セラミックシートまたはテープのさらなる加工に不適当となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、薄く可撓性の焼結セラミックシートの形成に使用するための未焼結セラミックシートをキャスティングするための改善された方法および装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態においては、薄い自立セラミックシートの製造方法は、キャリアフィルムを、キャスティングヘッドに近接して、テープキャスターのキャスティングベッドを約2cm/分〜約500cm/分の速度で通過するように引張る工程を含むことができる。キャスティングヘッドを使用してキャリアフィルム上にセラミックスリップの薄膜を堆積する。キャリアフィルム上に堆積されたセラミックスリップの薄膜は、厚さ約150μm未満で、幅が約15cmを超えることができる。セラミックスリップの薄膜は、セラミックスリップが体積当たり約20重量%を超えるセラミック固形分分率を有するように流体媒体中に分散した約10μm未満の最終微結晶サイズのセラミック粉末を含むことができる。キャリアフィルムがテープキャスターの乾燥室を通過するときに、堆積したセラミックスリップをキャリアフィルム上で乾燥し、それによって、キャリアフィルム上に未焼結セラミックシートを形成することができる。乾燥室は約0℃〜約150℃の温度に維持することができ、約40フィート/分(約12m/分)〜約3,000フィート/分(約910m/分)の速度で乾燥室に空気を通過させることができる。未焼結セラミックシートを乾燥させた後、未焼結セラミックシートを粗面化されたセッター上で焼結させることができる。焼結中に未焼結セラミックシートの上に追加の重量を加えなくてもよい。この結果得られる薄い自立セラミックシートは、直径が約10μmを超える非周期的な孔、直径が約10μmを超える非周期的な点欠陥、および長さが10μmを超える亀裂を全く有さない。
【0009】
別の一実施形態においては、薄い自立未焼結セラミックシートを形成するためのキャスティング装置は、キャスティングベッド、キャスティングヘッド、キャリアフィルム支持体、乾燥室、キャリアフィルム送出ロール、キャリアフィルム巻き取りロール、および静電気拡散装置を含むことができる。乾燥室は、キャスティングベッドを覆って配置してキャスティングヘッドを取り囲むことができ、排気口を含む。乾燥室の内部は、約0℃〜約150℃の温度に維持され、排気口は、乾燥室を空気が約40フィート/分(約12m/分)〜約1,300フィート/分(約400m/分)で通過するように操作可能である。キャスティングベッドを通過するように引張られるキャリアフィルムが持ち上げられて、少なくとも50%のキャスティングベッドの上で支持されるように、キャリアフィルム支持体を乾燥室の中でキャスティングベッドの上に配置することができる。キャリアフィルム送出ロールは、キャスティングベッドの入口の近傍に配置することができる。キャリアフィルム巻き取りロールは、キャスティングベッドの出口の近傍に配置することができ、約2cm/分〜約500cm/分でキャリアフィルムがキャスティングベッドを通過するように操作することができる。キャリアフィルムが静電気拡散装置の近傍を通過するように、静電気拡散装置をキャリアフィルム送出ロールまたはキャリアフィルム巻き取りロールの近傍に配置することができる。キャリアフィルム送出ロールから引張られたキャリアフィルムがキャスティングベッドに入る前にキャスティングヘッドの近傍を通過するように、キャスティングヘッドを、キャリアフィルム送出ロールの近傍に配置することができ、キャスティングヘッドは、キャリアフィルム上にセラミックスリップの薄膜を堆積するように操作することができ、セラミックスリップは、セラミックスリップが約20体積%を超えるセラミック固形分分率を有するように流体媒体中に分散した約10μm未満の最終微結晶サイズを有するセラミック粉末を含む。セラミックスリップの薄膜は、約150μm未満の厚さおよび約15cmを超える幅を有する。
【0010】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部は、その説明から当業者には容易に明らかとなるか、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、および添付の図面を含めた本明細書に記載の本発明を実施することによって理解されるであろう。上記の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、本発明の実施形態を提供しており、請求される本発明の性質および特徴を理解するための外観または構成を提供することを意図していることを理解されたい。
【0011】
図面中に示される実施形態は、本来説明的なものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明を限定することを意図したものではない。さらに、本明細書の特定の説明的実施形態の以下の説明は、以下の図面とともに読むことで容易に理解することができ、図面中の類似の構造は類似の参照番号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本明細書において示され説明される1つ以上の実施形態に従う薄く可撓性の未焼結セラミックシートをキャスティングするためのテープキャスターの断面の概略図である。
【図2】本明細書において示され説明される一実施形態に従う図1のテープキャスターとともに使用されるスロットダイの拡大図である。
【図3】本明細書において示され説明される一実施形態に従う焼成プロセス中にセッターに配置された未焼結セラミックシートの断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載の方法および装置は、固体酸化物燃料電池装置とともに使用することができるイットリア安定化ジルコニアセラミックシートなどの、薄く(たとえば、厚さ45マイクロメートル未満)可撓性のセラミック電解質シートの形成に関する。図1は、このようなセラミックシートを形成するためのテープキャスター装置の一実施形態を示している。テープキャスターは、一般に、キャスティングベッド、キャスティングヘッド、乾燥室、キャリアフィルム支持体、キャリアフィルム送出ロールおよびキャリアフィルム巻き取りロール、ならびにキャリアフィルム上の帯電を拡散または軽減するための1つ以上の装置を含む。未焼結セラミックシートを形成するためのセラミックスリップ、テープキャスター、およびテープキャスターの使用方法について、本明細書においてより詳細に説明する。
【0014】
本明細書に記載の可撓性セラミック電解質シートは、図1に示されるテープキャスターを使用して、テープキャスターを横断するキャリアフィルムにセラミックスリップを塗布することで形成される。セラミックスリップは、一般に、流体などのスリップ媒体中に懸濁したセラミック粉末を含む。スリップ媒体は、揮発性液体材料を含むことができる。
【0015】
スリップ用の液体材料は、少なくとも1種類の溶媒と、その溶媒中に溶解または分散する少なくとも1種類のバインダーとを含有することができる。バインダーとしては、たとえば、ポリビニルアルコール、アクリル類、ポリビニルブチラール、種々の分子量のポリエチレンオキシドおよびポリエチレングリコール類、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体類、寒天ゴムおよびアラビアゴムなどのゴム類、アクリル類、ビニルアクリル類、アクリル酸類、ポリアクリルアミド類、デンプン類、あるいは当技術分野において周知のバインダーのその他の組み合わせおよび順列を挙げることができる。あるいは、スリップは、水性液体を有するアクリルエマルジョンなどのエマルジョンを含有することができる。あるいは、スリップは、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル類、あるいは多官能性酸類およびグリコール類などの縮合ポリマー類などの、加熱、乾燥、または放射線への曝露によってバインダーを形成する1種類以上のバインダー前駆体を含有することができる。さらに、スリップは、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルフェニル、低分子量ポリエチレングリコール、またはその他の可塑剤などの低蒸気圧可塑剤を含有することができ、これらは特定のバインダーのガラス転移温度(T)を低下させたり可塑性を改善したりすることができ、取り扱いまたは後の形成の間に未焼結テープの脆性を低下させるために使用される。一般に、可塑剤含有率を増加させるとTが低下する。しかし、Tが低すぎると、低強度、または取り扱いによる変形に対する抵抗性が不十分となるために、テープの取り扱いが困難になる。
【0016】
本発明において、キャリアから除去した後で、取り扱いによる変形が起こらず自立するのに十分な剛性を未焼結テープが有することが好ましい。これは、バインダーのTを−50℃〜100℃の間、より好ましくは−10℃〜50℃の間に維持することによって実現される。これは、ポリビニルブチラール/フタル酸ジブチルバインダー系において、バインダー対可塑剤の比率を比較的高くすることによって、典型的には重量比で0.5を超え、より好ましくは1〜3.5の間、より好ましくは1.25〜2.5の間にすることによって実現される。別のポリマー/可塑剤系の場合には他の比率が適切となることが見いだされるであろう。たとえば、ポリメタクリル酸ブチルはTが十分低いので、30℃未満のTを得るためにほとんどまたは全く可塑剤を必要としない。ポリビニルブチラール/フタル酸ジブチル系では、通常、約2の比率によってテープの取り扱いが良好となる。ポリビニルブチラールおよびフタル酸ジブチルを使用して作製した未焼結テープの動的機械的分光法(Dynamic Mechanical Spectroscopy)(DMS)測定によると、2つの転移温度が示され、その第1は0℃〜3℃の間であり、第2は30℃〜100℃の間である。以下の表1に例を示している。これらの測定は、ポリメタクリル酸メチルの一時的キャリアによって支持された未焼結テープに対して行った。
【表1】

【0017】
これら2つの転移は、バインダー系に固有の軟化、および未焼結テープの複合バインダー/ジルコニアの軟化によるものと考えられる。未焼結テープ全体の剛性は、バインダー/可塑剤比、またはバインダー+可塑剤対セラミック粉末の比のいずれかを調整することによって調整することができる。一般に、バインダー−可塑剤対粉末の比率を増加させることによって、テープ全体の可塑性が、バインダー−可塑剤単独の可塑性により近くなる。バインダー/粉末比は、好ましくは約0.01〜約0.2の間であり、より好ましくはこの比は約0.03〜約0.1の間であり、それによって未焼結セラミック体は、焼成中に十分な強度および可塑性を有しながら、余分な収縮は最小限になる。0.05および0.06の比の場合を上記表に示している。
【0018】
中間の沸点の不揮発性残留液体を加えることによって、より低い取り扱い温度を実現することもできる。この場合、初期乾燥後に残留量の溶媒が維持され、ポリマーをさらに可塑化する機能を果たすことが好ましい。この液体はバインダーの良溶媒である必要はないが、焼結前に十分に可塑化する機能を果たす必要がある。Tが低下する量は、バインダー/可塑剤比、およびバインダー/残留液体比の両方によって決定される。好適な溶媒の例としては、アルコール類、ケトン類、アセテート類、エーテル類、グリコール類、グリコールエーテル類、あるいは高沸点および/または低蒸発速度を有する混合機能の溶媒が挙げられる。このようなものとしては、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、テルピネオール、またはその他の高沸点アルコール類を挙げることができる。エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、およびその他の高沸点アルコール類などのグリコール類およびグリコールエーテル類が好ましい。これらの例は、ポリマー、溶媒、および可塑剤の可能性のある組み合わせを限定することを意味するものではなく、当業者にさらに周知となりうることを示している。
【0019】
低沸点または高蒸発速度の第3の種類の揮発性液体を使用することができる。ポリビニルブチラールバインダーの場合、このようなものとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ならびに25℃において5torr(670Pa)以上の蒸気圧および100℃未満の沸点を有する他の溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、乾燥時間を短縮する機能を果たし、したがって、必要な乾燥工程が減少するので設備費が削減される。表2は、使用できる可能性のある揮発性物質の一覧を示している。
【0020】
要約すると、スリップは、バインダーと、場合により可塑剤または高沸点溶媒と、低沸点溶媒とを含有することができる。溶媒、バインダー、および可塑剤を適切に選択することによって、適切な可塑性および取り扱いに十分な剛性を有する未焼結セラミックシートを製造することができる。本発明の用途の1つにおいては、スリップは、低沸点溶媒、中間沸点溶媒、および可塑剤を使用して製造される。100℃未満で乾燥させた後、低沸点溶媒は除去されており、少なくとも一部の中溶媒は可塑剤とともに残留する。シートをさらに乾燥させると、残留する中間沸点溶媒が除去されて、シートがキャリアフィルムからはがす。はがした後、未焼結テープは、脆性破壊や望ましくない変形を起こすことなく取り扱うことができる。次にシートをアルミナセッター上に配置し、焼成することによって最終電解質が形成される。
【表2−1】

【表2−2】

【0021】
一実施形態においては、所定のセラミックシートを形成するために使用されるセラミック粉末は、ジルコニアまたはイットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶(3Y TZP)などの固体電解質を含むことができる。しかし、他の固体電解質、あるいは固体電解質および/またはセラミック粉末の組み合わせを使用することもできることを理解されたい。セラミック粉末は、一般に、10マイクロメートル未満の最終微結晶サイズを含むことができる。たとえば、セラミック粉末は、約1マイクロメートル未満の平均粒度を有し、約10%未満の粒子が5マイクロメートルを超えてもよい。より好ましくは、平均粒度が約0.4マイクロメートル未満であり、約10%未満の粒子が約1マイクロメートルを超えてもよい。これらのセラミック微粉末は、典型的には、10〜100マイクロメートルの容易に分散する凝集物として製造される。これらの凝集物は、容易には分散しないより小さな凝集物または単独の粒子からなることができる。重要となる臨界粒度は、容易に分散する凝集物サイズではなく、いわゆる「強固な」凝集物または個別の粒子のサイズである。3Y TZP粉末の場合、強固な凝集物は、約0.02マイクロメートル程度のさらに小さな粒子から構成されることができ、一方、強固な凝集物自体は、典型的には直径が0.2〜0.4マイクロメートル程度である。3Y TZPの性質は、焼成体の結晶粒度によって広範囲の材料特性が決定されることである。正方晶から単斜晶への変態の容易さと、湿潤環境での分解しやすさとの両方が、3Y TZP結晶粒度によって変化する。本明細書に記載の実施形態によって、狭くおよび微細な(好ましくは約0.5マイクロメートル未満、より好ましくは約0.3マイクロメートル未満)結晶粒度を有し、15%以下の結晶粒が約0.6マイクロメートルを超える焼成体が製造されることが分かった。さらに、この焼成体は、好ましくは約2マイクロメートルを超える正方晶結晶粒を有さず、より好ましくは約1マイクロメートルを超える正方晶結晶粒を有さない。焼成体中の結晶粒の一部は、立方晶結晶粒であってよく、通常これらは3Y TZP中で正方晶結晶粒よりも大きい。
【0022】
次にセラミック粉末は、精製するためまたは粒度分布を狭くするために選鉱される。選鉱は、必要な分散特性および良好な乾燥特性の両方が得られる溶媒系を使用して行うことができる。選択される溶媒系は、前述のように選択されるバインダーにも依存する。Monsanto B−98(またはその代替品)などのポリビニルブチラールバインダー(PVB)の場合、ケトン、エステル、またはアルコールを主成分とする溶媒系が好ましい。典型的なケトン類(アセトンおよびメチルエチルケトン)は、蒸気圧が高く乾燥速度が速いため、乾燥中および乾燥後に、セラミック粉末のセラミックスリップから形成される未焼結セラミックシートの均一性を制御することは比較的困難である。メタノール、エタノール、1−ブタノールなどのアルコール類、特にアルコール類の混合物、よりゆっくりと乾燥し、未焼結セラミックシートの形成により有用となりうる。エタノールなどの低分子量でより速く乾燥するアルコールと、1−ブタノールなどのより高分子量でよりゆっくりと乾燥するアルコールとの混合物によって、乾燥速度を微調整できる系が得られる。少量の水(全溶媒の重量の10%未満、より好ましくは約3%〜約7%)を加えることによって、未焼結セラミックシートの形成プロセスが安定化し、バインダーPVBの溶解速度が向上することが分かった。
【0023】
低分子量で速く乾燥するアルコール成分の好ましい濃度は、t−ブタノールの1〜2倍の蒸発速度(たとえば、エタノールと同等の蒸発速度)のアルコールの場合、約30重量%〜約90重量%、より好ましくは約50重量%〜約80重量%、最も好ましくは約70重量%〜約75重量%であり、メタノールと同等の蒸発速度(t−ブタノールの2倍)の溶媒の場合、約50重量%〜約75重量%である。より遅い蒸発速度のアルコール、グリコール、またはグリコールエーテルは、乾燥速度を低下させるため、乾燥の均一性を改善するため、およびキャストテープ全体の密度のばらつきを制限するために使用することができる。典型的なスリップにおいては、ブタノールおよびプロピレングリコールの両方が、蒸発速度を低下させる機能を果たす。速く蒸発する溶媒がt−ブタノールの1〜2倍の間の速度を有する場合、t−ブタノールよりも蒸発速度が遅いより遅く乾燥する溶媒の好ましい総濃度は、約0重量%〜約60重量%、より好ましくは約10重量%〜約30%の間、最も好ましくは約15重量%〜約25重量%の間である。エタノールに対するメタノール(t−ブタノールの2倍の蒸発速度を有する溶媒)のように、主成分がより速い蒸発速度を有する場合には、より高い濃度が使用され、その場合より遅く乾燥する溶媒は約30重量%〜約60重量%の範囲内が好ましい。さらに、向上した双極子強度および水素結合を有する溶媒を加えることができる。この種類の好ましい構成要素としては、前述のグリコール類およびアルコールエーテル類が挙げられる。これらの溶媒の好ましい濃度は、約0.1重量%〜約60重量%の間、より好ましくは約1重量%〜約30重量%の間、最も好ましくは約3重量%〜約10重量%の間である。これらはゆっくり乾燥する溶媒成分としても機能することができ、前述のゆっくり乾燥する溶媒に関する好ましい範囲が適用される。
【0024】
セラミックスリップの形成に使用される溶媒は、セラミック粒子の分散を改善するのに十分な双極子強度および水素結合が得られるように選択するべきであることも分かった。そのような溶媒としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのエタノールエーテル類、ならびに1,2エタンジオール、1,2プロパンジオール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,4ブタンジオール、2、3−ブタンジオール、およびより高分子量のジオール類などのジオール類を挙げることができる。これらの材料は、エーテル官能基およびアルコール官能基、あるいは2つのアルコール官能基のいずれかを有する二座の性質のために、セラミック粉末の分散において特に良好である。2つの炭素によって分離された複数の酸素基を有する化合物は、3Y TZPの分散に関して最も有効であることが分かっている。拡散反射フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を使用すると、2−メトキシエタノールなどの材料は、セラミックの表面からアルコール類を移動させ、そのためより強く結合することが分かった。これらの二座化合物は、より高い沸点をも有し、乾燥速度の調整に使用することができる。これらの使用は、これらに対するバインダーの溶解性によって制限される。たとえば、PVBはニートの1,2プロパンジオール(プロピレングリコール)中で膨潤するが、溶解はしない。しかし、PVBは、1,2プロパンジオールおよびエタノールの混合物、あるいは1,2プロパンジオール、エタノール、および1−ブタノールの混合物中に溶解することができる。1,2プロパンジオールおよびエタノールを含有する混合物は、分散特性、乾燥速度、およびバインダー溶解性のバランスが良いため好ましい溶媒混合物である。
【0025】
選鉱中の溶媒/粉末混合物には、典型的には1種類以上の分散剤が加えられる。これらの分散剤は、当技術分野において広く周知であり、セラミックの表面化学および使用される溶媒により決定される。3Y TZPの場合、有用であることが分かっている分散剤の種類の1つは、Akzo−Nobel製造のPS 236などのEmphos製品などのリン酸エステル類である。3Y TZP系中の分散剤によって、粒子間に立体障害が生じ、粒子−粒子相互作用によるゲル化が防止される。分散剤は、ゼータ電位(たとえば、セラミック粒子間の界面動電位)を実施的に低下させず、同時に立体障害によるゲルの破壊を促進するように選択することができる。ゲルは、典型的には弱く結合した粒子−粒子網目構造であり、これによって実質的に固定された自立する溶液が形成される。このゲルは、撹拌して「破壊」することができ、それによって易流動性液体を得ることができる。ゲルは撹拌後に再形成されることがある。
【0026】
一実施形態においては、スリップ媒体は、エタノール、ブタノール、プロピレングリコール、水、およびリン酸エステルなどの分散剤を含む。この実施形態においては、スリップ媒体は、(セラミックスリップの重量%の単位で)約70重量%を超えるエタノール、より好ましくは約75重量%を超えるエタノールを含むことができる。スリップ媒体中のブタノールの量は、約10重量%〜約20重量%とすることができる。プロピレングリコールの量は約6重量%未満とすることができる。スリップ媒体中の水の量は約5重量%とすることができる。リン酸エステルの量は、約6重量%未満、より好ましくは約4重量%未満とすることができる。リン酸エステルの量は粉末重量を基準としていることに留意されたい。一実施形態においては、リン酸エステルはphosphalon 236である。
【0027】
別の一実施形態においては、スリップ媒体は、メタノールおよび2−メトキシエタノールを含む。この実施形態において、スリップ媒体中のメタノールの量は(セラミックスリップの重量%の単位で)約54重量%であり、2−メトキシエタノールの量は約46重量%である。
【0028】
ブタノール、プロピレングリコール、およびリン酸エステルの混合物を含むスリップ媒体に関して特に言及しているが、揮発性流体の別の混合物を含む別のスリップ媒体もスリップ媒体として使用できることを理解されたい。
【0029】
セラミック粉末をスリップ媒体と混合するために、粉砕媒体の存在下でセラミック粉末をスリップ媒体および分散剤とともに粉砕することができる。たとえば、セラミック粉末が3Y TZPである場合、3Y TZP粉末は、ジルコニア粉砕媒体の存在下でスリップ媒体とともに粉砕することができる。分散させたスリップは、振動ミル(SWECO M−18など)、アトリッションミル、または類似の装置を使用して粉砕される。たとえば、振動ミルを使用すると、粉末/溶媒混合物は1〜5日の間、より典型的には約72時間で粉砕することができる。粉砕によって柔らかい凝集物は崩壊し、強固な凝集物は部分的に破壊される。
【0030】
一実施形態においては、粉末は、Stokesの沈降によってさらに選鉱することができる。粉砕した粉末/溶媒混合物(たとえば、セラミックスリップ)を入れたポリエチレン瓶を72時間静置して、その間に1マイクロメートルを超える粒子または凝集物の大部分を沈殿させることができる。セラミックスリップの流体部分を第2の瓶に移し、さらに24時間静置すると、1マイクロメートルを超える凝集物を沈殿させることができる。しかし、移すのが非効率的であるため幾分大きな凝集物が残留しうることを理解されたい。一般に、本明細書に記載の方法により作製した未焼結セラミックテープの電子顕微鏡写真では、1マイクロメートルを超えるセラミック粒子があまり多量には存在しないことが示される。
【0031】
バインダーを加えた後のスリップ粘度の制御は、粒子上の表面電荷を低下させながら、分散剤の一部またはすべてを置換するように意図された物質を加えることによって行うことができる。一実施形態においては、少ない制御された量の希薄有機酸を加えることによって、表面電荷が低下する。酸は、より均一に分散し、セラミック粒子が局所的に高濃度になるのを防止するために希釈され、この局所的な高濃度は、粉末との不均一反応、ならびにフロック、凝集粒子、または沈殿物とも呼ばれる「強固な」凝集物の形成の原因となる。すべての有機酸がこの機能を果たすが、電荷を低下させながら、溶媒からの粉末の局所的な沈殿を引き起こすことがない良好なバランスが酢酸によって得られることが分かった。一実施形態においては、電荷調整剤は、酢酸、および/または酢酸と2−プロパノールとの組み合わせを含むことができる。たとえば、酢酸を2−プロパノールで1:1に希釈したものを使用することができる。しかし、酢酸と2−プロパノールとの他の組み合わせを含めた種々の他の有機酸を使用することもできることを理解されたい。一実施形態においては、電荷調整剤を加えることによって、約15℃〜約32℃の温度で最大約3倍にセラミックスリップの粘度を増加させることができる。約0〜約100%の範囲の電荷の低下が可能であるが、3Y TZPの場合、20〜70%の間の範囲内、最も好ましくは約50%の表面電荷の低下によって、スリップ粘度および乾燥特性が最良の範囲となることが分かった。一般に、この穏やかな電荷調整によって、電荷調整されたスリップ中に目に見える凝集粒子はなくなるが、スリップ乾燥挙動を大きく変化させることはない。エタノール/ブタノール/プロピレングリコールスリップおよびメタノール/2−メトキシエタノールスリップにおいては、スリップの界面動電位の大きさから測定して粒子状の電荷を約50%低下させるのに十分な濃度の酢酸を加えることができる。電荷調整剤が酢酸および2−プロパノールの1:1である場合、好ましい酢酸添加量は、セラミック成分の約0.5%〜約2.5重量%、より好ましくは約0.75重量%〜約1.5重量%である。より長い鎖長の有機酸または分岐有機酸の場合、好ましい範囲はより少ない値となり、好ましくは約0.25%〜約1.5%である。
【0032】
セラミックスリップを電荷調整すると、表面電荷および結合した分散剤が減少することによって、セラミック粒子は自由に移動できなくなり、乾燥によって生じる剪断が粒子−粒子相互作用に打ち勝つことがなくなる。その結果、乾燥中にスリップ中の溶媒量が低下すると、セラミック粒子は粒子−粒子間隔を維持できなくなり、より高密度の領域を形成し始める。これらの領域が崩壊すると、シネレスが起こって、局所的に崩壊したスリップ領域から液体が押し出される。崩壊領域は、典型的には直径が5〜50マイクロメートルであり、領域間は溶媒との接触が多くなり、粒子がより低密度となる。乾燥および焼成を行うと、これらの領域は微細な(典型的にはサブミクロンの)孔隙の線としてみることができ、これは崩壊構造を示している。サブミクロンの孔隙の線の存在は、乾燥中に局所領域の崩壊が発生する電荷調整が行われていないスリップには見られない。これらの局所密度のばらつきがないと、乾燥したスリップは一般に上面から底面までで密度のばらつきを有する。本発明の方法によって、密度のばらつきが解消される。
【0033】
バインダーおよび可塑剤は、スリップ媒体に加えることもできる。バインダーは、本明細書に記載のバインダー材料の群から選択することができる。可塑剤は、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルフェニル、低分子量ポリエチレングリコール、または類似の可塑剤を含むことができる。
【0034】
一実施形態においては、バインダーは、約10重量%未満の量(セラミックスリップの重量%の単位)でスリップ媒体に加えられるポリビニルブチラール(PVB)である。別の一実施形態においては、バインダーは、約4重量%〜約9重量%、より好ましくは5重量%〜約8重量%、最も好ましくは約6重量%〜約7重量%の量でスリップ媒体に加えられる。可塑剤は、バインダー対可塑剤の比が約0.5〜約3.5、より好ましくは約1〜約3、最も好ましくは約1.5〜約2となる量でスリップ媒体に加えられるフタル酸ジブチルであってよい。
【0035】
可塑剤およびバインダーを加えた後、ボールミル中での混合物の回転、振動ミル中での混合物の振盪、または類似の装置によって、得られたセラミックスリップを可塑剤およびバインダーとともに均質化することで、バインダーの溶解および分散を確実にする。セラミックスリップを均質化するためにボールミルが使用される場合、セラミックスリップは、ボールミル上での約24時間の回転の後に適切に均質化されうる。ボールミルの回転速度は、スリップ中に空気が取り込まれるのを回避するのに十分遅くなるように選択される。
【0036】
電荷調整せずに均一な未焼結セラミックシートを製造することは可能であるが、電荷調整したスリップは、有用な乾燥速度を含めたより広範囲の乾燥条件下で平坦なシートを製造することができる。乾燥プロセスは、2つの主要工程で行うことができる。第1の工程中、十分な溶媒が除去されて、粒子が粒径の数倍を超えて自由に移動することがもはやできない物体が形成される。この時点で、大部分の溶媒が蒸発している。3Y TZPセラミックスリップの場合、このことは色がわずかに変化して、わずかな青色が失われることで分かる。乾燥の第2の工程は、溶媒をほぼ完全に除去することである。第1の工程中、乾燥速度は、選択した溶媒、温度、気流、および乾燥されるスリップの上の溶媒濃度によって制御される。
【0037】
焼成したテープの湾曲の制限は、最終スリップ粘度を制御することによっても行えることが分かった。降伏応力を有する粘稠媒体のHerschel−Bulkleyモデルは次式:
【数1】

【0038】
(式中、τは剪断応力(D/cm)であり、τは降伏応力(D/cm)であり、kは粘度であり、
【数2】

【0039】
は剪断速度(1/sec)であり、nは剪断速度のべき乗指数である)
の通りである。バインダーを有する凝集スリップは、Bingham擬塑性と一般に呼ばれる粘弾性挙動を示し、降伏応力と、1ではないnの値の両方を有することが好ましい。降伏応力は、加荷重下での粒子の運動に対する抵抗性を示している。キャスティング中の粘度は、リザーバーからダイまで流れ、ダイから出るのに十分低い粘度である必要があり、一方、高い降伏応力、および剪断から解放された後での急速な粘度増加によって、キャスティング後にスリップが移動しなくなり、乾燥によって発生する剪断は、粒子の運動を開始するのには不十分となる。
【0040】
バインダーを有する凝集スリップの好ましいτの値は、約20〜約200の間、より好ましくは約60〜約110、最も好ましくは約70〜約90の間である。好ましいkの値は、約1〜約100の間、より好ましくは約20〜約60の間、最も好ましくは約28〜約42の間である。べき乗指数nの好ましい値は、約0.2〜約1の間、より好ましくは約0.3〜約0.8の間、最も好ましくは約0.55〜約0.65の間である。本明細書に記載のスリップの典型的な値を以下の表3に示している。剪断速度が0から232sec−1まで掃引し0sec−1まで戻す場合、上昇掃引中に測定される剪断応力と下降掃引中に測定される剪断応力との間にある程度のヒステリシスが存在する場合がある。Hershel−Bulkleyフィットの上昇および下降の両方の値を示している。
【表3】

【0041】
凝集前およびバインダー添加の前のスリップは、好ましくはほぼ線形の剪断速度依存性を有するNewtonian挙動(たとえば、べき乗指数nがほぼ1である)および低いまたはほぼ0の降伏応力τを主として示す。粘度が比較的低い(kが<100である)ことも好ましい。凝集前のスリップの場合、好ましいkの値は、約0.01〜約100の間、より好ましくは約0.05〜約1の間、最も好ましくは約0.09〜約0.12の間である。好ましいnの値は、約0.5〜約1の間、より好ましくは約0.9〜約1の間、最も好ましくは約0.95〜約0.98の間である。好ましいτの値は、約0〜約10の間、より好ましくは約0〜1の間、最も好ましくは約0〜約0.1の間である。
【0042】
可塑剤およびバインダーを加えると、その結果得られるセラミックスリップはセラミック固形分分率が、少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、さらにより好ましくは少なくとも約55重量%、さらにより好ましくは約63重量%を超え、最も好ましくは約80重量%となることができる。セラミックスリップは、約2.25グラム/立方センチメートルを超える重量密度、約460cP(約0.46Pa・s)を超える粘度を有することもできる。
【0043】
一実施形態においては、テープキャスターを使用してセラミックスリップをフィルム基材上に体積する前に、セラミックスリップを濾過することで、特定のサイズよりも大きいセラミック粒子凝集物が除去される。たとえば、この濾過方法は、セラミックスリップを2段フィルターに通す工程を含むことができる。この2段フィルターは、直径20μm未満のセラミック粒子凝集物が通過する第1のフィルターと、直径10μm未満のセラミック粒子凝集物が通過する第2のフィルターとを含むことができ、それによって、セラミックスリップがフィルターを出たときには、セラミックスリップは、直径10μm未満のセラミック粒子凝集物を含むようになる。別の一実施形態においては、2段フィルターは、15μm未満の凝集セラミック粒子凝集物が通過する第1のフィルターと、直径7μm未満の凝集セラミック粒子凝集物が通過する第2のフィルターとを含むことができ、それによって、セラミックスリップがフィルターを出たときには、セラミックスリップは直径7μm未満のセラミック粒子凝集物を含むようになる。
【0044】
キャスティング方法は、キャリアフィルム表面にスリップが均一に送出されるように選択することができる。未焼結セラミックシートの薄い(たとえば<45マイクロメートル)性質のため、燃料電池電解質などの用途の大型(たとえば100cm)セラミックシートの場合には一貫した厚さで送出することは困難となる。面積が100cmを超える自立する薄い電解質を製造するためには、シートの厚さとシート全面積との両方での未焼結密度のより高い均一性が必要となる。シートの厚さのために、密度の小さなばらつきは、複数の積層によって対応することができず、その結果、シート収縮のばらつき、湾曲、およびひずみが生じる。約45cm/分のキャスティング速度で、平坦で均一で薄いセラミックシートが得られる均一に乾燥した実焼結セラミックシートを製造できることが分かった。
【0045】
これより図1を参照すると、本明細書に記載の一態様によるテープキャスター100の長手方向断面が概略的に描かれている。テープキャスターを使用して、本明細書に記載のセラミックスリップを基材フィルム上に堆積し乾燥させ、それによって未焼結セラミックシートを形成することができる。好ましくは、テープキャスターおよび関連の設備は、クラス10,000の濾過空気環境中、より好ましくは、クラス1,000の濾過空気環境中、または空気清浄機で濾過された空気環境中に配置することができる。
【0046】
テープキャスター100は、排気口128を有する乾燥室132によって取り囲まれたキャスティングベッド102を含む。キャスティングベッド102は、両端において乾燥室132から間隔を開けて離れており、それによって、送出端部または入口130および巻き取り端部または出口140がキャスティングベッド102に形成される。排気口128を使用して、約40フィート/分(約12m/分)〜約3,000フィート/分(約910m/分)、より好ましくは約40フィート/分(約12m/分)〜約600フィート/分(約180m/分)の間、最も好ましくは40フィート/分(約12m/分)〜300フィート/分(約91m/分)の間の速度で乾燥室132に空気を流すことができる。一実施形態においては、空気は乾燥室から約100フィート/分(約30m/分)の速度で排出される。空気は、キャスティングベッド102の送出端部130および/または巻き取り端部140から乾燥室中に引き込むことができる。
【0047】
キャスター100は、乾燥室132中にあり、キャスティングベッド102の上に横方向に配置された複数のキャリアフィルム支持体116、118を含むことができる。キャリアフィルム支持体が、キャリアフィルム104をキャスティングベッド102の上に持ち上げることによって、キャスティングベッド102と接触することによる擦傷またはその他の損傷がキャリアフィルムに生じるのが防止される。また、キャリアフィルム104がキャスティングベッド102の上に持ち上げられることで、キャリアフィルム支持体116、118は、キャリアフィルムがキャスティングベッドを横断して引張られるときにキャリアフィルム104とキャスティングベッド102とが接触することによって発生するキャリアフィルム104上の帯電を解消または軽減する。
【0048】
一実施形態においては、キャスティングベッド支持体は、図1中に示されるように、固定(回転しない)静止した支持棒116、回転する支持ローラー118、および/またはそれらの組み合わせを含むことができる。固定支持棒116は、キャリアフィルム104とキャリアフィルム支持体116、118との間の摩擦を導入および/または制御するために使用することができ、それによって、キャスティングベッド102を横断して引張られるときのキャリアフィルム104の張力調整を補助することができる。長方形断面の固定支持棒が図1中に概略的に示されているが、固定支持棒116は、キャリアフィルムを支持するのに好適なあらゆる幾何学的形状であってよいことを理解されたい。テープキャスター100の支持棒116とキャリアフィルム104との間の接触摩擦を調節できるように、支持棒116は取り外しおよび位置変更が可能であってよい。一実施形態においては、図1中に示されるように、入口130の近傍のキャスティングベッド102の半分に複数の支持棒116を集めることができ、一方、出口140の近傍のキャスティングベッド102の残り半分には複数の支持ローラー118を集めることができる。別の一実施形態(図示せず)においては、支持ローラー118および支持棒116によって、キャスティングベッドの長さの約50%にわたって、キャスティングベッド102の上にキャリアフィルム104が支持される。さらに別の一実施形態(図示せず)においては、支持ローラー118および支持棒116によって、キャスティングベッドの長さの約75%にわたって、キャスティングベッド102の上にキャリアフィルム104が支持される。支持棒116および支持ローラー118のその他の相対位置およびグループ分けを使用することもできることを理解されたい。
【0049】
キャスター100は、キャリアフィルム104をキャスティングベッド102に供給するためのキャリアフィルム送出ロール106と、キャスター100を通過したキャリアフィルムを受け取るためのキャリアフィルム巻き取りロール108とを含むこともできる。キャリアフィルムは、厚さが約25マイクロメートルを超え約250μm未満であってよく、好ましい厚さは約50μm〜約175μmの間、より好ましくは約75μm〜約150μmの間である。キャリアフィルムは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム、PTFEがコーティング/積層されたフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、超高分子量ポリエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、または類似のポリマーフィルムなどのポリマーフィルムを含むことができる。フィルム上に堆積したセラミックスリップを乾燥させた後のキャリアフィルムの除去特性を改善するために、キャリアフィルムにシリコンまたはカルナウバをコーティングすることができる。図1中に示される実施形態においては、キャリアフィルム104は厚さが約125μmのPTFEである。しかし、キャリアフィルム104は、未焼結セラミックシートを形成するためのセラミックスリップを受け取るのに好適な他のコーティングされたポリマーフィルムおよびコーティングされていないポリマーフィルムを含むことができることを理解されたい。
【0050】
キャリアフィルム送出ロール106は、キャスティングベッド102の送出端部または入口130の近傍に配置され、一方、キャリアフィルム巻き取りロール108は、キャスティングベッド102の巻き取り端部または出口140の近傍に配置される。キャリアフィルム104は、キャリアフィルム送出ロール106から引張られ、ガイドローラー134によって方向が変えられる。キャリアフィルム104の方向が変えられた後、キャリアフィルム104は、バッキングローラー124上に向かい、キャスティングベッド102の入口130に入る。本明細書においてさらに詳細に論じられるように、キャスティングベッド102に入る前に、キャスティングヘッド114によってキャリアフィルム上にセラミックスリップの薄膜(図示せず)を堆積することができる。キャスティングベッド102に入った後、キャリアフィルム104はキャリアフィルム支持体116、118の上でキャスティングベッド102を横断し、キャスティングベッド102を出口140から出て、そこでバッキングローラー124によって方向が変えられて、キャリアフィルム巻き取りロール108上に巻き取られる。キャリアフィルム巻き取りロール108は、キャリアフィルム巻き取りロール108に回転運動を与える巻き取り機構またはモーター(図示せず)に動作可能に連結することができる。キャリアフィルム巻き取りロール108の回転運動によって、キャリアフィルム送出ロール106からキャリアフィルム104が引張られてキャスター100を通過する。したがって、キャリアフィルム巻き取りロール108の回転速度を使用することで、キャリアフィルム104がキャスター100を通して引張られる速度を制御することができ、それによってキャスティングされた未焼結セラミックシート(図示せず)の性質に影響を与えることができる。さらに、キャリアフィルム巻き取りロール108の回転速度は、支持棒116とともに、キャリアフィルム104に加わる張力を制御するために使用することもできる。一実施形態においては、キャリアフィルム104は、テープキャスター中に約2cm/分〜約500cm/分、より好ましくは約2cm/分〜約100cm/分、最も好ましくは約7.5cm/分〜約75cm/分で引張ることができる。別の一実施形態においては、キャリアフィルムは約45cm/分でテープキャスターを通して引張ることができる。
【0051】
本明細書において前述したように、キャリアフィルム104がキャスター100を通して引張られるときに、キャリアフィルム104は、ローラー、支持体、キャスティングベッドなどの種々の構成要素との摩擦接触によって静電気が発生しうる。キャリアフィルム104は、キャリアフィルム104がキャリアフィルム送出ロール106から引張られるときなどに、キャリアフィルム自体と接触してさえも静電気が発生しうる。特にキャリアフィルム104がポリマー材料である場合にこのようなことが起こる。キャリアフィルム104の帯電は、キャリアフィルム104がキャスターを通過するときにフィルムが擦傷または損傷すると生じうる。たとえば、キャリアフィルム104の帯電は、キャリアフィルムがキャスターベッド102の表面まで引張られて表面と接触した時に生じることがあり、それによってキャリアフィルムの擦傷または損傷、および/またはさらなる帯電が生じうる。キャリアフィルム104の裏面上の擦傷によって、キャリアフィルム上に堆積された未焼結セラミックシートに亀裂またはその他の欠陥が生じることがある。このような欠陥によって、未焼結セラミックシートをキャリアフィルム104からはがすことが困難となり、欠陥を有する未焼結セラミックシートを廃棄することになる場合がある。本明細書において前述したように、このような欠陥の発生は、支持棒116、118を使用してキャリアフィルム104をキャスティングベッドの上で支持することによって減少させることができ、それによってキャリアフィルムの損傷を緩和または軽減し、キャリアフィルム上に発生しうる帯電量を減少させることができる。したがって、キャスター100は、キャリアフィルム104の経路に沿って配置された1つ以上の異なる静電気拡散装置を含むことができ、それを使用することでキャリアフィルムの帯電を緩和または解消することができ、それによって、キャリアフィルムの損傷が防止でき、結果として得られる未焼結セラミックシートの欠陥を減少させることができる。
【0052】
一実施形態においては、キャリアフィルム104上の帯電を緩和または解消するために、キャスター100は、キャスティングベッド102の表面上に長手方向および/または横方向に配置された導電性ストリップ(図示せず)を含むことができる。導電性ストリップを共通接地122に接続し、それによってキャスティングベッド102、またはキャリアフィルム104などのキャスティングベッド102と接触する可能性のある材料のいずれかの表面上の帯電の拡散および防止を行うことができる。
【0053】
別の一実施形態においては、キャスター100は、キャスティングベッド102の入口130、キャスティングベッド102の出口140、またはその両方の近傍に配置される接地ブラシ120を含むことができ、それによって、キャリアフィルムがキャスティングベッド102に入るときまたは出るときに、キャリアフィルム104の下面が接地ブラシと接触する。接地ブラシ120は、キャリアフィルム102の擦傷およびその他の損傷を引き起こさない導電性材料を含むことができる。キャリアフィルム102が接地ブラシ120と接触したときに、キャリアフィルム104のすべての帯電が接地に拡散するように、接地ブラシ120を接地に接続することができる。
【0054】
別の一実施形態においては、キャスター100は、キャリアフィルム送出ロール106、巻き取りロール108、またはその両方の近傍に配置された帯電防止ブロアー110を含むことができる。帯電防止ブロアー110は、帯電を中和するイオン化空気流を放出する。したがって、キャリアフィルム送出ロール106または巻き取りロール108の近傍に帯電防止ブロアー110を配置し、ブロアーからのイオン化空気をキャリアフィルム104上に向けることによって、キャリアフィルム104がロールから引張られたりロール上に巻き取られたりするときのキャリアフィルム上の帯電を中和することができ、それによってキャリアフィルム104上の帯電を緩和することができる。
【0055】
別の一実施形態においては、キャスター100は、1つ以上のイオン放電棒112を含むことができる。たとえば、図1中に示されるように、イオン放電棒112は、乾燥室132内に配置され、それによって、キャリアフィルム104が引張られてキャスティングベッド102を通過するときに、キャリアフィルム104が各イオン放電棒112の下および/または付近を通過する。帯電防止ブロアー110と同様に、イオン放電棒112は、帯電を中和するイオン流を放出する。したがって、キャリアフィルム104がイオン放電棒の下を通過するときに、イオン放電棒から放出されるイオン流によってキャリアフィルム上の帯電が中和され、それによってキャリアフィルム104上の帯電が緩和される。
【0056】
本明細書において示され説明される未焼結セラミックシートを形成するための方法および装置は、前述の静電気拡散装置または技術のいずれか1つ、あるいはそれらの装置および技術の種々の組み合わせを使用することができることを理解されたい。さらに、キャリアフィルムおよび/またはキャスターに対する静電気拡散装置の特定の部品の配置に関して本明細書において具体的な言及が行われているが、このような静電気拡散装置は、キャリアフィルムおよび/またはキャスターに対する種々の他の位置に配置しながら、同じ静電気拡散効果を依然として実現することができることを理解されたい。したがって、本明細書において特に明記しない限り、本明細書に記載の静電気拡散装置の種々の部品の配置に関して特に限定されることを意図していない。
【0057】
本明細書において前述したように、キャリアフィルム104がキャリアフィルム送出ロール106から引張られた後であり、キャリアフィルムがキャスティングベッド102に入る前に、キャリアフィルム104はキャスティングヘッド114の近傍まで引張られ、そこでセラミックスリップがキャリアフィルム104上に堆積される。キャスティングヘッド114は、セラミックスリップをキャリアフィルム104に塗布するためのスロットダイ、ドクターブレード、コンマバー、ロールコーター、またはその他の類似のコーターを含むことができる。図1および2中に示される実施形態において、キャスティングヘッド114は、キャリアフィルム104の幅に沿ってセラミックスリップのフィルムを塗布するように構成されたスロットダイである。キャリアフィルム上に堆積されるセラミックスリップの薄膜の幅が少なくとも15cmとなるように、スロットダイは少なくとも15cmの幅を有することができる。スロットダイは、約25μm〜約250μmで調節可能なスロット間隙(S)(図2に示される)を有することができる。水平(たとえば、0度)に対して約+25度〜約−25度、または+25度〜−25度の間の範囲の50度の間の角度において、セラミックスリップがスロットダイを出るようにスロットダイの方向を決定することができる。一実施形態においては、スロットダイは、約25μm〜約300μm、より好ましくは約50μm〜約200μm、最も好ましくは約75μm〜約175μmの距離(d)だけキャリアフィルム104から間隔を開けることができる。
【0058】
キャリアフィルム上に、約150μm未満、より好ましくは約100μm未満、最も好ましくは約50μm未満の湿潤厚さを有するセラミックスリップの薄膜を堆積するようにスロットダイを操作することができる。この範囲内の湿潤厚さを有するスリップフィルムからは、乾燥および焼結の作業の後に、約150μm未満、より好ましくは約100μm未満、最も好ましくは約50μm未満の厚さを有するセラミックシートを形成することができる。
【0059】
15cm/分〜90cm/分の間のフィルム引張り速度でキャリアフィルム上に均一な厚さの薄いセラミックスリップを堆積するためには、キャスティングヘッド114に操作可能に接続されたスリップ計量装置136であって、セラミックスリップが収容された別のリザーバー(図示せず)に操作可能に接続されたギヤポンプ(図示せず)を含むスリップ計量装置136を使用して、セラミックスリップをキャスティングヘッド114に送出する。リザーバーは加圧することができる。セラミックスリップは、リザーバーの内側の、PTFEの袋または類似のポリマーの袋などのポリマーの袋中に収容することで、セラミックスリップの汚染を回避することができる。ポリマーの袋は、圧縮フィッティングによって液圧容器の蓋を通過する管によってキャスティングダイに接続される。精密ギヤポンプによって作動液が液圧容器中に圧送される。汚染の影響を限定するためにプロピレングリコールを使用することができるが、汚染が生じない他の作動液も使用できることを理解されたい。加圧された作動液は、ポリマーの袋を圧迫し、それによってセラミックスリップがキャスティングヘッド中に押し出される。
【0060】
セラミックスリップが所定の速度でキャリアフィルム上に堆積されるよう、リザーバーからキャスティングヘッドまで所定の速度でセラミックスリップを送達するように、スリップ計量装置136を操作可能である。たとえば、一実施形態においては、約0.01ml/cm/分〜約2.2ml/cm/分の速度でスリップがキャリアフィルム上に堆積されるように、スリップ計量装置136は、スリップリザーバーからキャスティングヘッドまでスリップを送達するように操作可能である。一実施形態においては、幅30cmのセラミック未焼結シートを製造するために、キャリアフィルムが約45cm/分の速度で引張られるときに、スリップがキャリアフィルム上に約6ml/分の速度で堆積されるように、スリップ計量装置136は、スリップがキャスティングヘッド114まで送出されるように操作可能である。
【0061】
キャリアフィルム104がキャスティングヘッドの近傍まで移動したときに、セラミックスリップがキャリアフィルムに塗布され、それによってセラミックスリップの薄膜がキャリアフィルム104の表面上に形成される。セラミックスリップの薄膜の厚さは、セラミックスリップがキャスティングヘッド114を出る速度、およびキャリアフィルム104がキャリアフィルム送出ロールから引張られる速度の関数となる。したがって、いずれかの速度を調節することによって、セラミックスリップの薄膜の厚さを調節することができる。一実施形態においては、セラミックスリップがキャリアフィルム104に塗布される速度、およびキャリアフィルム104がキャリアフィルム送出ロール106から引張られる速度は、キャリアフィルム上に堆積されるセラミックスリップの厚さが約150μm未満、より好ましくは約100μm未満、最も好ましくは約50μm未満となるように選択される。一実施形態においては、キャスティングヘッド104が幅30cmのスロットダイであり、キャリアフィルム104が45cm/分の速度で引張られる場合、セラミックスリップがキャリアフィルム104上に約6ml/分の速度で堆積されるように、スリップ計量装置136は、セラミックスリップをキャスティングヘッド114まで送出するように操作可能であり、それによって、湿潤厚さが約44μmであるセラミックスリップの薄層がキャリアフィルム104の表面上に形成される。乾燥後、キャリアフィルム上の未焼結セラミックシートの厚さは、上記のスリップ堆積速度およびフィルム延伸速度の場合、厚さ約25μmとなる。
【0062】
キャスティングヘッド114によってキャリアフィルム104上に堆積されたセラミックスリップは、本明細書で前述したような種々の電荷調整剤、分散剤、バインダー、および可塑剤の溶液中のセラミック粒子材料を含むことができ、それによって得られる未焼結セラミックシートおよび焼結セラミックシートが可撓性となる。しかし、ジルコニアを含むセラミックスリップがキャリアフィルム上に堆積されると本明細書において特に言及しているが、薄く可撓性の焼結セラミックシートを製造するためのあらゆる好適なセラミック組成物をキャリアフィルム上に堆積することができ、それによって薄い未焼結セラミックシートが製造され、それを前駆体として所望のセラミック塑性を有する薄く可撓性の焼結セラミックシートを形成することができることを理解されたい。
【0063】
面積が約100cmを超える平坦で薄いセラミックを製造するためには、一定の粒度、科学的性質、固体充填量、キャスティングプロセス用のレオロジー、および特定の乾燥速度を有するスリップが必要となる。本明細書において説明したように、一定の粒度、水、表面電荷、およびレオロジーを有するスリップを得るために、非常に特殊な材料およびプロセスパラメーターが使用される。不均一性、密度勾配、および残留応力を制限するための乾燥速度および溶媒蒸気圧の制御は、乾燥されるテープを通過する気流方向および気流速度の制御、テープと乾燥領域上部との間の間隙の制御によって実現される。セラミックスリップの薄膜をキャリアフィルム上に堆積した後、セラミックスリップの薄膜が積層されたキャリアフィルムは、本明細書において前述したように、乾燥室132を通して引張られている間、キャスティングベッド102の上方でキャリアフィルム支持体上に支持されることができる。乾燥室の温度が、約150℃、より好ましくは約100℃、最も好ましくは約60℃未満に維持されるように、乾燥室132の温度を制御することができる。これらの温度範囲と合わせて使用される本明細書に記載の気流速度が、焼成後も平坦に維持される均一な乾燥テープを製造するために好都合となることが分かった。これらの範囲によって、エタノール、1−ブタノール、1,2プロパンジオール溶媒系の場合に約1分〜約15分、より好ましくは約2分〜約10分の乾燥時間が得られる。これらの乾燥時間は、テープ製造において経済的に実行可能となる。
【0064】
一実施形態においては、キャリアフィルム104が乾燥室132を通して引張られるときに、キャスター100の内部、特に乾燥室132の内部を加熱することによって、キャリアフィルム104およびセラミックスリップの薄膜を加熱して、セラミックスリップの薄膜から溶媒を除去することができる。乾燥室132の内部は、キャスティングベッド102の下に配置された複数の加熱装置(図示せず)によって加熱することができ、それによってキャスティングベッド102を通して熱が放射され、乾燥室132の内部が加熱される。加熱装置は、キャスティングベッド102の長さに沿って配置することができ、キャスティングベッド102の異なる位置において異なる速度または温度で加熱できるように、個別に制御することができる。個別に制御された加熱装置を使用して、キャスティングベッド102の入口130と、キャスティングベッド102の出口140との間に温度勾配を生じさせることもできる。セラミックスリップから放出される溶媒蒸気は、排気口128を介して乾燥室132から排出することができる。したがって、独立して制御された加熱装置を使用することで、セラミックスリップの薄膜から溶媒が除去される速度を制御することができ、したがって、結果として得られる未焼結セラミックシートの性質を制御することができる。
【0065】
別の一実施形態においては、乾燥室132の内部は、乾燥室132の内部に熱風を循環させることによって加熱することができる。たとえば、キャスター100の外部の空気を乾燥室132中に引き込み、空気加熱装置または類似の装置を使用して加熱することができる。次に、加熱された空気を乾燥室132の内部に循環させて、乾燥室132を所望の温度に加熱し、それによって、キャリアフィルム104上に堆積されたセラミックスリップの薄膜からの溶媒の除去、およびセラミックスリップの乾燥が促進される。セラミックスリップから放出された溶媒蒸気は、排気口128を介して乾燥室132から排出することができる。
【0066】
別の一実施形態においては、乾燥室132は、キャスティングベッド102の下に配置された加熱装置と、キャスティングベッドの外側から引き込みこまれて乾燥室132の内部を循環する熱風との両方を使用して加熱される。
【0067】
したがって、キャリアフィルム104およびセラミックスリップの薄膜が、キャスティングベッド102を横断し、乾燥室132の加熱された内部を通過することによって、セラミックスリップの薄膜中に含まれる溶媒は、乾燥室132の内部が高温であるために、蒸発によって除去することができる。
【0068】
別の一実施形態においては、乾燥室132は第1の温度に加熱され、それによって、キャリアフィルム104およびセラミックスリップの薄膜がキャスティングベッド102に最初に通されるときに、溶媒の一部のみがセラミックスリップの薄膜から除去され、それによってセラミックスリップの薄膜は部分的にのみ乾燥される。たとえば、キャリアフィルムおよびセラミックスリップの薄膜がキャスティングベッド102を最初に通過する間に、乾燥室132の温度は、約97%〜約98%の溶媒のみがセラミックスリップの薄膜から除去されるような温度にすることができる。その後、キャリアフィルム104および部分的に乾燥したセラミックスリップの薄膜をキャリアフィルム巻き取りロール上に巻き取る。次にキャリアフィルム巻き取りロール108を取り外し、キャリアフィルム送出ロール106の位置に取り付け、キャリアフィルム104および部分的に乾燥したセラミックスリップ薄膜のキャスティングベッド102への第2回目の通過を行う。この第2のパス中には追加のセラミックスリップをキャリアフィルムに塗布しない。その代わり、キャリアフィルム104がキャスティングベッド102を最初に通過した後に残留するすべての溶媒を除去するために、第2の異なる温度に乾燥室132を加熱する。キャリアフィルム104がキャスティングベッド102を通過する第2のパスは、最初のパスと同じ速度で行うこともできるし、第2の異なる速度で行うこともできる。さらに、乾燥室132の温度は、キャリアフィルムがキャリアフィルム送出ロール106から引張られる速度に依存して調節することができ、それによってキャリアフィルム104上のセラミックスリップの薄膜から溶媒が除去される速度を変更することができる。
【0069】
セラミックスリップの薄膜の乾燥を促進するために、キャリアフィルム104およびセラミックスリップの薄膜がキャスティングベッド102を通過する1回または2回のパスの使用に関して本明細書において特に言及しているが、ここで、キャリアフィルム104およびセラミックスリップの薄膜の3回以上のパスを、セラミックスリップの薄膜の乾燥のために使用できることを理解されたい。さらに、セラミックスリップの薄膜から溶媒が蒸発する速度は、乾燥室132の温度、キャリアフィルム104がキャリアフィルム送出ロール106から引張られる速度、またはその両方を調節することによって制御することができることも理解されたい。
【0070】
セラミックスリップの薄膜から溶媒を除去した後、未焼結セラミックシートは、キャリアフィルム104上に堆積した状態で残しておく。その後、未焼結セラミックシートをキャリアフィルムから取り外す、未焼結セラミックシートを分割する、および未焼結セラミックシートを焼結して薄く可撓性の焼結セラミックシートを形成するなどの後の処理のために、堆積された未焼結セラミックシートを有するキャリアフィルムをキャリアフィルム巻き取りロール上に巻き取る。加熱によって溶媒を除去した後でも、未焼結セラミックシートは依然として可撓性であり曲げやすいことに留意されたい。
【0071】
未焼結セラミックシートを乾燥させた後、未焼結セラミックシートを分割し、キャリアフィルムを未焼結セラミックシートから除去することができる。未焼結セラミックシートの均一性を生かすためには、未焼結セラミックシートをわずかな変形でキャリアから除去する必要がある。一実施形態においては、テープを剥がすために使用される方法で、5%を超える変形は生じない。
【0072】
一実施形態においては、未焼結セラミックシートを分割するために、未焼結セラミックシートを真空テーブル上の所定の位置に保持しながら(たとえば、多数の小さな孔を有する平坦な表面が真空ポンプに接続され、真空ポンプによって生じる吸引力によって、未焼結セラミックシートを表面に保持する)、円形の刃を使用して未焼結セラミックシートを分割する。未焼結セラミックシートの亀裂またはその他の損傷を回避するため、この刃は、未焼結セラミックシートに対して約1kg以下、より好ましくは約100g以下、最も好ましくは50g未満の圧力で使用することができる。分割プロセス中、未焼結セラミックシートは、分割中に発生しうる帯電を軽減するためにCurbell製造の5ミル(0.13mm)のAnti−Static Filmなどの帯電防止フィルム上に配置することができる。あるいは、またはこれに加えて、帯電を軽減するために分割中に、イオン放電棒、帯電防止ブロアー、および/または類似の装置などの帯電防止装置を未焼結セラミックシートに対して配置することができる。未焼結セラミックシートを依然として真空装置によって保持したまま、キャリアフィルムを未焼結セラミックシートから剥がすことによってキャリアフィルムを未焼結セラミックシートから剥離することができる。分割したシートをキャリアフィルムから剥離するために、未焼結セラミックシートの表面が剥離キャリアと直接接触するように、分割した未焼結セラミックシートを剥離キャリア(たとえば、紙、帯電防止シートなど)上に配置する。真空解放チャックを使用してキャリアフィルムに対して真空を作用させ、それによってキャリアフィルムが未焼結セラミックシートから取り外される。この剥離プロセス中、静電気拡散装置(たとえば、イオン放電棒、静電気拡散ブラシなど)を使用して未焼結セラミックシートおよび真空解放チャックを接地することで、未焼結セラミックシート上の帯電を回避することができる。分割および剥離プロセス中、未焼結セラミックシートが延伸される量は5%未満、好ましくは約2%未満、より好ましくは約1%未満、最も好ましくは約0.1%未満である。
【0073】
未焼結セラミックシートを分割しキャリアフィルムから剥離した後、未焼結セラミックシートを焼結することで可撓性の焼結セラミックシートが形成される。焼結中、そり、不均一な収縮、および湾曲を回避するために、薄く平坦なセラミックシートに熱を加える必要がある。約800℃を超える温度において、熱伝達の主要な手段は放射熱である。経済的に実行可能な方法にするために、複数の未焼結セラミックシートが薄いセッターボード上で同時に焼成される。電解質シートが上に配置されるセッターは、未焼結セラミックシート間、セッター間に間隙を形成するためのスペーサーを使用して積み重ねられ、加熱炉に入れられる。本発明においては、加熱炉の加熱要素および壁面から、焼成される未焼結セラミックシートへの放射熱の伝達は、スペーサー間の間隙がセッター間の空間の50%を超えるようにスペーサーを配置することによって促進される。
【0074】
窯の中の温度の均一性は、最高温度で約±20℃未満、焼結の応力および変形を制限するための加熱中には約±30℃に維持することができる。窯内部でより大きな勾配が存在すると、焼成セラミックシートの収縮およびそりまたは湾曲に差が生じる。
【0075】
未焼結セラミックシートは、典型的には、3Y TZPの場合、焼結するときの収縮が10%〜30%の間、典型的には20%〜25%の間となる必要がある。したがって、平滑な表面を有するセッターを使用すると、焼成中にセラミックシートが収縮するのが見られる。しかし、平滑な表面のセッター上で焼成すると、未焼結セラミックシートがセッターに焼結して、シートが破壊されることが分かった。したがって、シートの焼結には、ある程度の表面粗さが存在すると好都合であることが分かった。一実施形態においては、研磨された表面、約80%未満の密度、および粗面を有する粗いアルミナ板である。連続した平滑面が存在せず、ある程度の表面粗さを有することで、焼成中にシートが表面をスライド可能になると思われる。別の一実施形態においては、セッター繊維状アルミナであってよい。これらによって、焼結時のシート間の点接触の数が限定され、焼結時にシートが移動可能となる。
【0076】
焼結プロセスは、少なくともクラス100,000、より好ましくは、少なくともクラス10,000の濾過空気環境中、または空気清浄機で濾過された空気環境中の空気雰囲気中で行うことができる。図3に示されるように、未焼結セラミックシート302は、セッター304上にのせて焼結炉中に配置される。セッターは、一般に約2.6cm未満の厚さを有することができる。セッター間の空間が約4cm未満となるように、スペーサー306によって間隔を開けてセッターを配置することができる。さらに、セッターを積み重ねることによって、焼結される未焼結セラミックシートを保持するセッターの開放された周囲が少なくとも50%となる。
【0077】
未焼結セラミックシートを焼結炉中にいれ、所定の加熱計画により焼結炉を最高温度まで加熱することができる。たとえば、一実施形態においては、焼結プロセスの最高温度は約1100℃〜約1600℃、より好ましくは約1300℃〜約1550℃、最も好ましくは約1350℃〜約1500℃の間である。焼結炉が最高温度に到達した後、焼結炉を最高温度で約10時間未満維持する。
【0078】
一実施形態においては、以下の加熱計画により焼結炉を加熱することによって最高温度に到達させることができる:約220℃まで6時間かけて加熱(たとえば約0.5℃/分の速度で加熱)し、1時間維持し;次に焼結炉を約320℃まで200分かけて加熱(たとえば約0.5℃/分の速度で加熱)し、1時間維持し;次に焼結炉を約400℃まで2時間かけて加熱(たとえば、約0.66℃/分の速度で加熱)し、40分間維持し;次に焼結炉を約700℃まで10時間かけて加熱(たとえば、約0.5℃/分の速度で加熱)し;次に最高温度(1100℃〜1600℃)まで25時間かけて加熱(たとえば、約0.27℃/分〜約0.6℃/分の速度で加熱)し、2時間維持する。その後、こうして焼結したセラミックシートを室温まで冷却する。一実施形態においては、焼結炉は、900℃まで135分かけて冷却(たとえば約1.5℃/分〜約5.2℃/分の速度で冷却)し、次に600℃まで約75分かけて冷却(たとえば、約4℃/分の速度で冷却)し、最後に25℃まで120分かけて冷却(たとえば、約4.8℃/分の速度で冷却)することができる。
【0079】
焼結後、焼結した可撓性セラミックシートの遠端部をレーザートリミングして、シートの均一性を改善することができる。この結果得られる薄く可撓性の焼結セラミックシートは、幅が約12cmを超え、好ましくは厚さが約150μm未満であり、より好ましくは厚さが約100μm未満、最も好ましくは厚さが約45μm未満であってよい。
【0080】
焼結中、特にシートの周辺部またはその付近において未焼結セラミックシートのわずかな変形が生じることがある。残留変形は、3つの方法のいずれかまたはそれらの種々の組み合わせによって対処できることが分かった。一実施形態においては、焼成の後期段階中にある程度のクリープを生じさせるのに十分高い温度でシートを焼成することができ、それによって湾曲を解消または緩和することができる。シートの厚さがわずかであるため、重力および非常に小さな(わずかな%値)のクリープのみを使用してシートを平坦化することができる。別の一実施形態においては、テープの空気露出面およびキャスティングフィルム表面との間にわずかな密度勾配が生じることがあり、それによって、焼成後に一方向または別方向にテープがわずかに湾曲する。この湾曲は、セッター上にシートを配置し、テープが湾曲する可能性がある方向に向けることによって調節することができる。すなわち、キャスティングフィルムと接触する表面に向かってテープが湾曲する可能性がある場合、フィルムからはがした後で、キャスティングフィルムに向かっていたテープ表面を、焼成中にセッターの方向に向けてテープを焼成する。さらに、またはこれとは別に、国際公開第2008/054774A2号パンフレットに記載されるレーザー切断方法を使用して、焼成後に縁端部の湾曲を除去することができる。
【0081】
本明細書に記載の方法および装置を使用して、薄く可撓性の焼結セラミックシートを形成するために使用できることを理解されたであろう。本明細書に記載の方法、技術、および設備は、幅が少なくとも12cmであり好ましくは厚さが約150μm未満、より好ましくは厚さが約100μm未満、最も好ましくは厚さが約45μm未満である薄く可撓性の焼結セラミックシートを形成するために特に好都合である。さらに、本明細書に記載の方法、技術、および設備を使用して、直径が10μmを超える非周期的な孔、直径が約10μmを超える非周期的な点欠陥、および幅が10μmを超える亀裂を全く有さない薄く可撓性の焼結セラミックシートを製造することができる。これは、少なくとも部分的には、使用されるセラミック粒子の小さな微結晶サイズと、セラミックスリップをキャリアフィルム上に堆積する前の大きなセラミック粒子凝集物をセラミックスリップから除去するためのセラミックスリップの濾過とによるものである。さらに、キャスティングベッドの上方まで上昇させ、静電気拡散装置を使用することによって、キャリアフィルムの損傷を回避することができ、それによって、キャリアフィルム上に形成された未焼結セラミックシート中の欠陥の数が減少する。
【0082】
さらに、本発明において使用される方法および装置は、発生する欠陥の数が減少し、未焼結セラミックシートの形成によって廃棄物が減少し生産量が改善されるので、未焼結セラミックシートの効率および経済性の改善に寄与することができる。
【0083】
本明細書に記載の方法および装置は、固体酸化物燃料電池とともに使用することができる薄く可撓性のイットリア安定化ジルコニアセラミックシートの製造に特に適していることも理解されよう。
【0084】
本発明の意図および範囲から逸脱することなく種々の修正および変形を本発明に対して行えることは当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲内となるのであれば、本発明の修正および変形が本発明に含まれることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄い自立セラミックシートの製造方法であって:
キャリアフィルムを、約2cm/分〜約500cm/分の速度で、キャスティングヘッドに近接して、かつテープキャスターのキャスティングベッドを通過するように引張る工程と;
前記キャスティングヘッドを使用して、セラミックスリップの薄膜を前記キャリアフィルム上に堆積する工程であって、前記キャリアフィルム上に堆積される前記セラミックスリップの薄膜が、厚さ約150μm未満かつ幅約15cm超であり、前記セラミックスリップが少なくとも体積当たり約20重量%のセラミック固形分分率を有するように流体媒体中に分散した約10μm未満の最終微結晶サイズを有するセラミック粉末を含む工程と;
前記キャリアフィルムが前記テープキャスターの乾燥室を通して引張られる時に、前記キャリアフィルム上に堆積した前記セラミックスリップを乾燥させて、未焼結セラミックシートを前記キャリアフィルム上に形成する工程であって、約40フィート/分(約12m/分)〜約3,000フィート/分(約910m/分)の速度で前記乾燥室に空気を通過させて前記乾燥室を約150℃未満の温度に維持する工程と;
前記未焼結セラミックシートを粗面化されたセッター上で焼結する工程であって、焼結中には前記未焼結セラミックシート上に追加の重量は加えられない工程と;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記キャリアフィルムが厚さ約25μm〜厚さ約250μmであり、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、コーティングされたポリテトラフルオロエチレンフィルム、積層されたポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、超高分子量ポリエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、または類似のポリマーフィルムを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリアフィルムの帯電を軽減するために、前記キャリアフィルムを少なくとも1つの静電気拡散装置の近傍を通過させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キャスティングヘッドが、約25μm〜約250μmに調節することができるスロット間隙を含むスロットダイを含み;
前記スロットダイが、約300μm未満だけ前記キャリアフィルムから離れ、
水平に対して約−25度〜約25度の角度方向を含み;
約0.01ml/cm/分〜約2.2ml/cm/分の速度で前記セラミックスリップが前記キャリアフィルム上に堆積されるように、ギヤポンプを含むスリップ計量装置を使用して前記セラミックスリップが前記スロットダイに送出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記スリップ計量装置が、ギヤポンプと、前記スリップを収容するための加圧リザーバーとを含み;および/または(ii)方法が、前記セラミックスリップを製造する工程をさらに含み、前記セラミックスリップを製造する工程が:
分散剤とともに前記セラミック粉末をスリップ媒体中に分散させる工程と;
前記スリップ媒体中に分散したセラミック粉末に電荷調整剤を加える工程と;
バインダーおよび可塑剤を前記流体媒体に加える工程と;
前記セラミック粉末を前記スリップ媒体中に均質化させる工程と;
を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(i)前記スリップ媒体が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−メトキシエタノール、25℃における蒸気圧が5Torr(670Pa)を超え沸点が100℃未満である溶媒、またはそれらの組み合わせを含み;および/または
(ii)前記分散剤がリン酸エステルを含み;および/または
(iii)前記電荷調整剤が酢酸を含み;および/または
(iv)前記バインダーが:
ポリビニルアルコール、アクリル類、ポリビニルブチラール、種々の分子量のポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコール、あるいはポリビニルピロリドン;
ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体類;
寒天ゴムまたはアラビアゴムなどのゴム類、アクリル類、ビニルアクリル類、アクリル酸類、ポリアクリルアミド類、またはデンプン類;
水性液体バインダー前駆体とのアクリルエマルジョンなどのエマルジョン、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル類、あるいは多官能性酸類およびグリコール類などの縮合ポリマーであって、前記セラミックスリップが1種類以上のバインダー前駆体を含み、加熱、乾燥、または放射線への曝露、あるいはそれらの組み合わせによって、前記バインダー前駆体が前記縮合ポリマーとともに前記バインダーを形成する縮合ポリマー;あるいはそれらの種々の組み合わせを含み;および/または
(v)前記可塑剤が、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルフェニル、低分子量ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記セラミック粉末が、約1μm未満の平均直径を有する微結晶を含むジルコニア粉末を含み;
前記セラミックスリップが、体積当たり約45重量%を超えるジルコニア固形分分率を有し;
前記スリップ媒体が、前記セラミックスリップの重量%の単位で、70重量%を超えるエタノール、約10重量%〜約20重量%のブタノール、および6重量%未満のプロピレングリコールを含み;
前記分散剤が、前記セラミック粉末の重量%の単位で、約6重量%未満のリン酸エステルを含み;
前記電荷調整剤が、2−プロパノールで1:1の比率で希釈された酢酸を含み;
前記バインダーが、前記セラミックスリップの重量%の単位で、約10重量%未満のポリビニルブチラールを含み;
前記可塑剤が、前記バインダー対前記可塑剤の比が約0.5〜約3.5となるような、セラミックスリップの重量%の量でフタル酸ジブチルを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記セラミックスリップが前記キャリアフィルム上に堆積される前に、前記セラミックスリップが、第1のフィルターおよび第2のフィルターを含む2段フィルターで濾過され、ここで、前記第1のフィルターは、約20μm未満のセラミック粒子凝集物を通過させ、前記第2のフィルターは、約10μm未満のセラミック粒子凝集物を通過させ、それによって前記セラミックスリップは約10μm未満のセラミック粒子凝集物を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
i)前記未焼結セラミックシートを焼結する工程が:
前記未焼結セラミックシートを、焼結炉中のセッター上に配置する工程であって、前記セッターが、2.6cm未満の厚さを有し、セッター間が4cm未満の間隔で離されており、焼結されているセラミックを保持する前記セッターにより、少なくとも50%の開放された周囲が得られる工程と;
前記焼結炉を約1100℃〜約1600℃の最高温度まで加熱し、前記焼結炉を前記最高温度で約10時間未満維持することによって、前記未焼結セラミックシートを空気環境中で焼結する工程と;
を含み;および/または
(ii)前記未焼結セラミックシートを分割する工程が:
前記未焼結セラミックシートに向けられた帯電防止装置の近傍で前記未焼結セラミックシートを帯電防止フィルム上に配置する工程と;
前記未焼結セラミックシートを真空ホルダーで保持する工程と;
円形の刃で前記未焼結セラミックシートを切断する工程と;
前記未焼結セラミックシートを前記キャリアフィルムから剥離する工程であって:
前記分割した未焼結セラミックシートを真空ホルダーで保持する工程と;
前記未焼結セラミックシートが約5%未満延伸されるように、前記キャリアフィルムを前記分割された未焼結セラミックシートから取り外す工程と;
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
薄い自立の未焼結セラミックシートを形成するためのキャスティング装置であって、キャスティングベッド、キャスティングヘッド、キャリアフィルム支持体、乾燥室、キャリアフィルム送出ロール、キャリアフィルム巻き取りロール、および静電気拡散装置を含み:
前記乾燥室が、前記キャスティングベッドを覆って前記キャスティングベッドを取り囲んで配置され、排気口を含み、前記乾燥室の内部が、約0℃〜約150℃の温度に維持され、前記排気口は、約40フィート/分(約12m/分)〜約3,000フィート/分(約910m/分)で前記乾燥室を空気が通過するように操作可能であり;
前記キャスティングベッドを通過して引張られるキャリアフィルムが持ち上げられて、少なくとも50%の前記キャスティングベッドの上で支持されるように、前記キャリアフィルム支持体が前記乾燥室の中および前記テープキャスターの前記キャスティングベッドの上に配置され、;
前記キャリアフィルム送出ロールが前記キャスティングベッドの入口の近傍に配置され;
前記キャリアフィルム巻き取りロールが、前記キャスティングベッドの出口の近傍に配置され、キャリアフィルムが約2cm/分〜約500cm/分で前記キャスティングベッドを通過して引張られるように操作可能であり;
前記キャリアフィルムが前記静電気拡散装置に近接して通過するように、前記静電気拡散装置が、前記キャリアフィルム送出ロールまたは前記キャリアフィルム巻き取りロールの近傍に配置され;
前記キャリアフィルム送出ロールから引張られたキャリアフィルムが前記キャスティングベッドに入る前に前記キャスティングヘッドの近傍を通過するように、前記キャスティングヘッドが前記キャリアフィルム送出ロールの近傍に配置され、前記キャスティングヘッドは、前記キャリアフィルム上にセラミックスリップの薄膜を堆積するように操作可能であり、前記セラミックスリップは、前記セラミックスリップが体積当たり約20重量%を超えるセラミック固形分分率を有するように流体媒体中に分散した約10μm未満の最終微結晶サイズを有するセラミック粉末を含み、前記セラミックスリップの薄膜が、約150μm未満の厚さおよび約15cmを超える幅を有することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−507420(P2012−507420A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534741(P2011−534741)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/062495
【国際公開番号】WO2010/051345
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】