説明

セラミックチップ部品の製造方法および粘着テープ

【課題】ブロッキングによる歩留りの低下を抑制してセラミックチップ部品を製造する方法およびその製造に用いる粘着テープを提供することである。
【解決手段】エキスパンド性を有する基材フィルム1と、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層2とから構成される粘着テープ10をセラミックグリーンシートの積層体20に貼着し、該粘着テープ10を介して積層体20を台座30上に固定する工程と、台座30上に固定された積層体20をギロチン刃31で切断して複数の生チップ21を形成する工程と、粘着テープ10の基材フィルム1をエキスパンドして、互いに隣接する生チップ21同士の間隔を広げる工程とを含むセラミックチップ部品の製造方法である。このセラミックチップ部品の製造方法に使用する粘着テープ10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックチップ部品の製造方法および粘着テープに関し、特に、小型のセラミックチップ部品を製造する方法およびその製造に用いる粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、小型・薄型化とともに高機能・高性能化が進む電子機器に使用される電子部品には、一層の高機能・小型化が要求される。例えば積層セラミックコンデンサ、セラミックインダクタ、セラミックバリスタ等のセラミックチップ部品にも同様の要求があり、中でも積層セラミックコンデンサは、電子機器に使用される数量の多い汎用的な電子部品であり、特に携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の携帯電子機器において、小型の積層セラミックコンデンサの使用が拡大している。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、一般に、下記(a)〜(e)の工程を経て製造される。
(a)セラミック粉末のスラリーをドクターブレードで薄く延ばしてセラミックグリーンシートを形成する工程。
(b)このセラミックグリーンシートの表面に複数の電極を印刷した後、複数のセラミックグリーンシートを積層一体化してセラミックグリーンシートの積層体を形成する工程。
(c)このセラミックグリーンシートの積層体を縦横に切断して複数の生チップを形成する工程。
(d)この生チップを焼成してチップを得る焼成工程。
(e)このチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る工程。
【0004】
ここで、前記(c)の工程において、セラミックグリーンシートの積層体の切断には、一般に、ギロチン刃が用いられる。ギロチン刃が用いられる理由としては、以下の理由が挙げられる。すなわち、セラミックグリーンシートの積層体1つを切断すると、小さな生チップが数万個作成されるが、小型の積層セラミックコンデンサを得る場合には、積層体を切断する間隔は極めて狭く、切断回数は縦方向横方向を合わせて数万回にも及ぶ。
【0005】
このような条件に対し、ギロチン刃での切断は、押し切りによる切断であり、回転刃での切削による切断とは異なり、切断間隔が狭く切断刃による切断溝が発生しないことから、切断された生チップの歩留まりがよいと言われている。また、回転刃による切断は、切断工程中、回転刃による発熱を抑えるために冷却水を刃にかける必要があり、切断後に切断された生チップを乾燥させる必要があり、それらの工程が増えることからも、ギロチン刃による切断が通常行われている。
【0006】
一方、前記(c)の工程では、一般に、粘着テープを用いてセラミックグリーンシートの積層体をシート固定用の台座上に仮固定し、該積層体をギロチン刃により切断した後、生チップを粘着テープから取り出している。特許文献1には、積層体を台座上に固定するための粘着テープに、冷却すると粘着力が低下する所定の粘着テープを用い、積層体を切断した後、所定の温度まで冷却して粘着テープの粘着力を低下させ、生チップを台座表面の粘着テープから取り出した後、焼成工程へ送る製造工程が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているような方法で粘着テープから取り出された生チップを焼成して得られるチップには、複数のチップ同士が固まってブロック状になった、いわゆるブロッキング状態のチップが発生しやすいという問題がある。生チップのブロッキングは、積層セラミックコンデンサの製造時の歩留まりを下げる大きな要因となっており、改善が望まれている。特に、近年、小型の積層セラミックコンデンサを製造する上で、ブロッキングはより大きな問題となっている。
【特許文献1】特許第3565411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ブロッキングによる歩留りの低下を抑制してセラミックチップ部品を製造する方法およびその製造に用いる粘着テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。すなわち、ギロチン刃による切断は、通常、50〜80℃の温度雰囲気下で行われる。これは、50℃より低い温度では、前記セラミックグリーンシートの積層体の剛性が高く、押し切りによる切断では、切断された生チップにひび割れや欠けが発生するからである。また、80℃より高い温度では、積層体が柔らかくなり過ぎ、切断しにくくなるからである。そのため、ギロチン刃による切断は、セラミックグリーンシートの積層体を所定温度に温め、積層体をやや柔軟な状態にして行われる。
【0010】
しかしながら、生チップを焼成して得られたセラミックチップ(以下、「チップ」とも言う。)を観察すると、複数のチップ同士が固まってブロック状になった、いわゆるブロッキング状態のチップが観察された。これは、切断された生チップが、互いに隣接する生チップと接触しており、かつ生チップの表面が柔らかい状態にあることから、生チップ同士間で再融着が起こり、この状態で焼成されたことによるものと考えられる。すなわち、ギロチン刃による切断後、互いに隣接する生チップ同士で起こる再融着(ブロッキング)が歩留りの低下を招いている。
【0011】
そこで、エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの片面に形成される粘着剤層とから構成される粘着テープをセラミックグリーンシートの積層体に貼着し、該粘着テープを介して台座上に固定された前記積層体をギロチン刃で切断して複数の生チップを形成した後、前記粘着テープの基材フィルムをエキスパンドすることにより、互いに隣接する生チップ同士で再融着(ブロッキング)している該生チップ同士を再分割することができるので、ブロッキングによる歩留りの低下を抑制してセラミックチップ部品を製造することができるというという新たな事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のセラミックチップ部品の製造方法は、以下の構成からなる。
(1)エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される粘着テープをセラミックグリーンシートの積層体に貼着し、該粘着テープを介して前記セラミックグリーンシートの積層体を台座上に固定する工程と、台座上に固定された前記セラミックグリーンシートの積層体をギロチン刃で切断して複数の生チップを形成する工程と、前記粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程とを含むことを特徴とするセラミックチップ部品の製造方法。
【0013】
(2)基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される第1の粘着テープをセラミックグリーンシートの積層体に貼着し、該粘着テープを介して前記セラミックグリーンシートの積層体を台座上に固定する工程と、台座上に固定された前記セラミックグリーンシートの積層体をギロチン刃で切断して複数の生チップを形成する工程と、エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される第2の粘着テープを前記複数の生チップに貼着し、該複数の生チップを第1の粘着テープから第2の粘着テープに転写する工程と、前記第2の粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程とを含むことを特徴とするセラミックチップ部品の製造方法。
【0014】
(3)生チップのサイズが1608未満である前記(1)または(2)記載のセラミックチップ部品の製造方法。
(4)エキスパンド性を有する基材フィルムの厚さが40〜250μmである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
(5)前記粘着テープまたは前記第2の粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程の後、前記粘着テープまたは前記第2の粘着テープの粘着力を低下させて複数の生チップを該粘着テープから取り出す工程と、取り出した生チップを焼成してセラミックチップを得る工程とを含む前記(1)〜(4)のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
(6)歩留りが80%以上である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
【0015】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、前記(5)に記載のセラミックチップ部品の製造方法で得られるセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを製造することを特徴とする。
本発明の粘着テープは、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法に使用するものであることを特徴とする。
前記粘着テープは、エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成されるのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ギロチン刃による切断後、互いに隣接する生チップ同士が再融着(ブロッキング)しても、該ブロッキングした生チップに貼着している粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げるので、ブロッキングした生チップ同士を再分割することができ、その結果、ブロッキングによる歩留りの低下を抑制してセラミックチップ部品を製造することができるという効果がある。しかも、粘着テープから生チップを取り出す際には、各生チップの間隔が広がっているので、取り出し易く、かつ生チップ同士の接触が減ることにより、生チップの損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のセラミックチップ部品の製造方法および粘着テープの一実施形態について、積層セラミックコンデンサを例に挙げ、図面を参照して詳細に説明する。図1(a)〜(d)は、本発明の一実施形態にかかる積層セラミックコンデンサの製造方法を示す概略断面説明図である。
【0018】
図1(a)に示すように、まず、基材フィルム1と、この基材フィルム1の片面に形成される粘着剤層2とから構成される粘着テープ10をセラミックグリーンシートの積層体20に貼着する。基材フィルム1は、エキスパンド性を有する。これにより、後述する図1(c)に示すように、基材フィルム1を矢印Bに示す方向にエキスパンドして、再融着(ブロッキング)した生チップ21同士の間隔を広げ、ブロッキングした生チップ21同士を再分割することができる。したがって、基材フィルム1が有するエキスパンド性は、再融着(ブロッキング)した生チップ21同士の間隔を広げ、ブロッキングした生チップ21同士を再分割することができる程度のエキスパンド性(伸び性)であればよい。
【0019】
具体的には、基材フィルム1は、後述する図1(b)に示すギロチン刃31による切断工程の温度(50〜80℃)に耐え、かつ所定の力で基材フィルム1をエキスパンドすると、均一に引き伸ばせることが好ましい。したがって、基材フィルム1は、縦方向と横方向のいずれにも均一に伸びることが好ましく、そのような特性を有する基材フィルムが必要となる。
【0020】
このような基材フィルム1としては、高いエキスパンド性を有するポリオレフィンフィルムが適しており、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等の合成樹脂フィルムの単層体またはこれらの複層体等が挙げられる。前記ポリエチレンフィルムとしては、低密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム等が挙げられ、特に、低密度ポリエチレンフィルムが、明確な降伏点がない点から均一なエキスパンド性が得られやすく好適である。また、これらの合成樹脂をブレンドしたポリマーを使用したフィルムや、ブロック化された状態のポリマーを使用したフィルムも採用可能であり、その他、塩化ビニルフィルムや、ポリウレタンフィルム、PBTの様なポリエステルフィルム等を用いてもよい。
【0021】
基材フィルム1の厚さは、基材フィルム1のエキスパンド性を妨げない範囲であることが重要である。その点から、基材フィルム1の厚さは40〜250μm、好ましくは50〜150μmであるのがよい。これに対し、基材フィルム1の厚さが40μmより薄いと、剛性が不足して、積層体20または生チップ21を安定して貼着することができないおそれがあると共に、強度も低下するので、エキスパンドした際にはフィルムが破断するおそれがある。また、基材フィルム1の厚さが250μmより大きいと、剛性が高すぎて十分にエキスパンドできないおそれがある。基材フィルム1の表面には、例えばコロナ処理・プラズマ処理・プライマー処理等の各種の表面処理を施してもよい。
【0022】
粘着剤層2としては、基材フィルム1をエキスパンドするまで、すなわち図1(c)に示す工程までは、積層体20または生チップ21を安定して貼着することができると共に、生チップ21を焼成する際には、粘着力が低下して、図1(d)に示すように、該粘着剤層2から生チップ21を剥離して取り出せる必要がある。このような粘着剤層2を構成する粘着剤としては、例えば側鎖結晶性ポリマーを主成分とする粘着剤、発泡剤を含有した発泡剥離型粘着剤、UV硬化樹脂からなるUV硬化型粘着剤等が挙げられる。
【0023】
前記側鎖結晶性ポリマーを主成分とする粘着剤は、冷却することで粘着力が低下する。すなわち、このポリマーは、所定の温度以上で粘着性を示し、それより低い温度では非粘着性を示すという特性を有する。このことから、粘着剤層2として、該粘着剤を用いると、粘着テープ10から生チップ21を損傷させることなく簡単に取り出すことができる。また、冷却されて粘着力が低下した際には、該粘着剤は結晶化するので、該粘着剤の生チップ21表面への転写が抑制され、生チップ21が粘着剤で汚染されることがない。
【0024】
前記側鎖結晶性ポリマーとしては、側鎖成分として炭素数14〜22の直鎖状アルキル基を有するメタクリル酸エステルやアクリル酸エステル[以下、(メタ)アクリレートという]が使用され、例えばステアリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記側鎖結晶性ポリマーは、例えば特開2000−234079号公報に側鎖結晶化可能ポリマーとして記載されている。
【0025】
前記発泡剥離型粘着剤は、所定の感圧接着剤に発泡剤を含有してなり、加熱処理による発泡剤の膨脹ないし発泡で粘着力が低下するものである。また、UV硬化型粘着剤は、UV(紫外線)が照射されることにより硬化して粘着力が低下するものである。本実施形態にかかる発泡剥離型粘着剤およびUV硬化型粘着剤としては、特に限定されるものではなく、いずれも既知のものが採用可能である。また、粘着剤層2には、必要に応じて例えば架橋剤、老化防止剤、可塑剤、充填剤等を適宜添加してもよい。
【0026】
セラミックグリーンシートの積層体20は、概略150mmラ150mmラ0.7mm程度のシート状であり、セラミック粉末のスラリーをドクターブレードで薄く延ばしてセラミックグリーンシートを形成し、このセラミックグリーンシートの表面に複数の電極を印刷した後、複数のセラミックグリーンシートを積層一体化して得られる。
【0027】
この積層体20に、上記で説明した粘着テープ10を貼着した後、該粘着テープ10を介して積層体20を台座30上に固定する。固定方法としては、特に限定されるものではなく、例えば粘着テープ10の基材フィルム1と、台座30との間に所定の粘着剤や接着剤を介して固定する方法や、台座30として吸着固定できるもの等を採用して固定してもよい。
【0028】
ついで、台座30上に固定された積層体20を、図1(b)に示すように、ギロチン刃31で矢印Aに示す方向に押し切ることにより切断し、複数の生チップ21を形成する。この際、生チップ21は粘着剤層2に貼着されているので、台座30から飛散することが抑制される。
【0029】
ギロチン刃31による切断は、上記で説明した理由から、50〜80℃の温度雰囲気下で行うのが好ましい。得られる生チップ21のサイズとしては、1608(1.6mm×0.8mm)未満、好ましくは1005(1.0mm×0.5mm)以下、より好ましくは0603(0.6mm×0.3mm)以下であるのがよい。このような小さいサイズの生チップでは、上記した再融着(ブロッキング)の問題が顕著に発生して歩留りが低下するが、下記で説明するように基材フィルム1をエキスパンドして、ブロッキングした生チップ21同士を再分割することができる本発明を用いると、このような小さいサイズの生チップであっても、ブロッキングによる歩留りの低下を抑制することができる。
【0030】
ここで、上記のようにして切断された生チップ21は、互いに隣接する生チップ21と接触しており、かつ生チップ21の表面が柔らかい状態にあることから、生チップ21同士間で再融着(ブロッキング)している。この状態から、図1(c)に示すように、粘着テープ10の基材フィルム1を矢印Bに示す方向にエキスパンドして、互いに隣接する生チップ21同士の間隔を広げる。これにより、ブロッキングした生チップ21同士を再分割することができる。
【0031】
ついで、図1(d)に示すように、粘着テープ10の粘着力を低下させて複数の生チップ21を該粘着テープ10から取り出す。この際、各生チップ21の間隔が広がっているので、取り出し易く、かつ生チップ21同士の接触が減ることにより、生チップ21の損傷を防止することができる。
【0032】
粘着テープ10の粘着力を低下させる方法としては、粘着剤層2に、側鎖結晶性ポリマーを主成分とする粘着剤を用いた場合には、該側鎖結晶性ポリマーの粘着力が低下する温度にまで粘着剤層2を冷却すればよい。また、発泡剥離型粘着剤を用いた場合には、発泡剤が膨張ないし発泡する温度にまで粘着剤層2を加温すればよく、UV硬化型粘着剤を用いた場合には、UVを照射して粘着剤層2を硬化させればよい。このようにして粘着テープ10の粘着力を低下させた後、例えば図1(d)に示すように、台座30を傾斜すると、簡単に複数の生チップ21を粘着テープ10から取り出すことができる。
【0033】
ついで、取り出した生チップを焼成してチップを得、このチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る。上記のようにして得られる積層セラミックコンデンサは、高い歩留りで得られる。具体的には、下記式(I)により算出して得られる歩留りの値が80%以上、好ましくは90%以上となる。
【0034】
【数1】

【0035】
次に、本発明の他の積層セラミックコンデンサの製造方法の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図2(a)〜(d)は、この実施形態にかかる積層セラミックコンデンサの製造方法を示す概略断面説明図である。なお、図2においては、前述した図1の構成と同一または同等な部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0036】
この実施形態にかかる製造方法は、複数の生チップ21を形成する工程に使用する粘着テープと、エキスパンドして、互いに隣接する生チップ21同士の間隔を広げる工程に使用する粘着テープとが異なる粘着テープである点において、上記で説明した製造方法と異なる。
【0037】
具体的には、図2(a)に示すように、基材フィルム3と、この基材フィルム3の片面に形成される粘着剤層4とから構成される第1の粘着テープ11を、セラミックグリーンシートの積層体20に貼着した後、上記で説明した実施形態と同様にして、該粘着テープ11を介して積層体20を台座30上に固定し、該台座30上に固定された積層体20をギロチン刃31で切断して複数の生チップ21を形成する。
【0038】
ここで、基材フィルム3としては、積層体20が切断される際の衝撃緩和や、生チップ21の貼着安定性の上で、剛直なフィルムであるのがよい。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレンエチルアクリレート共重合体フィルム、エチレンポリプロピレン共重合体フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等の合成樹脂フィルムの単層体またはこれらの複層体が挙げられる。基材フィルム3の厚さは50〜250μmが好ましい。
【0039】
ついで、図2(b)に示すように、エキスパンド性を有する基材フィルム5と、この基材フィルム5の片面に形成される粘着剤層6とから構成される第2の粘着テープ12を複数の生チップ21に貼着し、図2(c)に示すように、該複数の生チップ21を第1の粘着テープ11から第2の粘着テープ12に転写する(矢印Cに示す方向)。転写は、例えば第1の粘着テープ11の粘着力と、第2の粘着テープ12の粘着力とを、(第1の粘着テープの粘着力)<(第2の粘着テープの粘着力)の関係にすることにより行うことができる。
【0040】
特に、本実施形態では、転写する際に生チップ21が破損するのを抑制する上で、第1の粘着テープ11の粘着剤層4と、第2の粘着テープ12の粘着剤層6とが、それぞれ側鎖結晶性ポリマーを主成分とする粘着剤からなるのが好ましい。これにより、粘着力が低下する温度に所定の差を設けることで、簡単に生チップ21を第1の粘着テープ11から第2の粘着テープ12に転写することができる。
【0041】
具体的には、第1の粘着テープ11の粘着剤層4の粘着力が低下する温度T1と、第2の粘着テープ12の粘着剤層6の粘着力が低下する温度T2との温度差が、(T1−T2)≧10℃の値を有するのが好ましい。例えば、T1が40℃であり、T2が30℃であるときに、第1および第2の粘着テープ11,12を40℃まで冷却すると、第1の粘着テープ11の粘着力は低下するが、第2の粘着テープ12の粘着力は低下していないので、生チップ21を第1の粘着テープ11から第2の粘着テープ12に転写することができる。
【0042】
上記のようにして、生チップ21を第1の粘着テープ11から第2の粘着テープ12に転写した後、図2(d)に示すように、第2の粘着テープ12を介して生チップ21を台座30上に固定する。ついで、上記で説明した実施形態と同様にして、第2の粘着テープ12の基材フィルム5を矢印Bに示す方向にエキスパンドして、互いに隣接する生チップ21同士の間隔を広げ、ブロッキングした生チップ21同士を再分割する。したがって、このような方法であっても、上記で説明した実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記した以外の構成は、上記で説明した実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更や改良したものにも適用できることは言うまでもない。例えば、上記の実施形態では、セラミックチップ部品として積層セラミックコンデンサの場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばセラミックインダクタ、セラミックバリスタ等のセラミックチップ部品についても、上記した積層セラミックコンデンサと同様にして製造することができる。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(粘着テープの作成)
冷却により粘着力が低下する側鎖結晶性ポリマーAを主成分とする粘着剤を作成し、厚さ100μmのエキスパンド性を有する低密度ポリエチレンの基材フィルムに、上記で作成した粘着剤を塗布して乾燥し、粘着テープを得た。なお、前記側鎖結晶性ポリマーAの側鎖成分としては、炭素数が18のアクリル酸エステル(ステアリルアクリレート)を使用した。また、この側鎖結晶性ポリマーの粘着力が低下する温度は37℃であった。
【0046】
(歩留りの評価)
上記で得た粘着テープを用いて積層セラミックコンデンサを作成し、歩留りを測定した。具体的には、まず、セラミック粉末のスラリーをドクターブレードで薄く延ばしてセラミックグリーンシートを形成し、このセラミックグリーンシートの表面に複数の電極を印刷した後、複数のセラミックグリーンシートを積層一体化して、セラミックグリーンシートの積層体を得た。この積層体の形状は、150mmラ150mmラ0.7mmのシート状であった。
【0047】
ついで、この積層体に上記で得た粘着テープを貼着し、該粘着テープを介して前記積層体を台座上にバキュームチャックにより固定した。ついで、約70℃の温度に昇温して該温度雰囲気下において、ギロチン刃で前記積層体を切断して、複数の生チップを形成した。形成した生チップの個数は33800個であり、生チップの形状は、1005であった。
【0048】
ついで、粘着テープの基材フィルムを水平に縦横方向へ引き伸ばして(エキスパンド)、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げた。
【0049】
この状態で、25℃に冷却して粘着剤層の粘着力を低下させた後、複数の生チップを粘着テープから取り出した。取り出された複数の生チップを焼成してチップを得た後、このチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得た。得られた積層セラミックコンデンサの個数は32100個であった。生チップの個数および得られた積層セラミックコンデンサの個数を、上記式(I)に当てはめて歩留りを算出した。その結果を、表1に示す。なお、表1中、基材フィルムの「エキスパンド性」は、上記のエキスパンド条件でエキスパンドされ、互いに隣接する生チップ同士に間隔を生じることができたものを「○」、できないものを「×」とした。
【実施例2】
【0050】
基材フィルムを、エキスパンド性を有する低密度ポリエチレンに代えて、エキスパンド性を有するポリプロピレンを使用した以外は、前記実施例1と同様にして粘着テープを得た。ついで、この粘着テープを用いて、前記実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作成して歩留りを評価した。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0051】
側鎖結晶性ポリマーの側鎖成分を、炭素数が18のアクリル酸エステル(ステアリルアクリレート)に代えて、炭素数が16のメタクリル酸エステル(セチルアクリレート)を使用した側鎖結晶性ポリマーBにし、基材フィルムの厚さを、100μmに代えて50μmにした以外は、前記実施例1と同様にして粘着テープを得た。ついで、この粘着テープを用いて、前記実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作成して歩留りを評価した。その結果を、表1に示す。
【0052】
[比較例1]
基材フィルムを、エキスパンド性を有する低密度ポリエチレンに代えて、エキスパンド性がないポリエチレンテレフタレートを使用した以外は、前記実施例1と同様にして粘着テープを得た。ついで、この粘着テープを用いて、前記実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作成して歩留りを評価した。その結果を表1に示す。なお、エキスパンドは、前記実施例1と同様にして行ったが、互いに隣接する生チップ同士に間隔を生じることができなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
表2から明らかなように、エキスパンド性を有する基材フィルムを用いた粘着テープを使用して積層セラミックコンデンサを作成した実施例1〜3は、比較例1に対して、高い歩留りを示しているのがわかる。この結果から、粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げると、ギロチン刃による切断後、互いに隣接する生チップ同士が再融着(ブロッキング)しても、該生チップ同士を再分割することができ、ブロッキングによる歩留りの低下を抑制できるといえる。
【0055】
一方、基材フィルムにポリエチレンテレフタレートを用いた粘着テープを使用して積層セラミックコンデンサを作成した比較例1では、実施例1〜3と同様にしてエキスパンドを行ったが、該基材フィルムが硬いことから、ブロッキングした生チップ同士の間隔を広げてブロッキングした生チップ同士を再分割することができず、焼成後のチップにブロッキングが多数発生しており、歩留まりが悪い結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態にかかる積層セラミックコンデンサの製造方法を示す概略断面説明図である。
【図2】本発明の他の積層セラミックコンデンサの製造方法の一実施形態にかかる製造方法を示す概略断面説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1,5 エキスパンド性を有する基材フィルム
2,4,6 粘着剤層
3 基材フィルム
10 粘着テープ
11 第1の粘着テープ
12 第2の粘着テープ
20 セラミックグリーンシートの積層体
21 生チップ
30 台座
31 ギロチン刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される粘着テープをセラミックグリーンシートの積層体に貼着し、該粘着テープを介して前記セラミックグリーンシートの積層体を台座上に固定する工程と、
台座上に固定された前記セラミックグリーンシートの積層体をギロチン刃で切断して複数の生チップを形成する工程と、
前記粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程とを含むことを特徴とするセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項2】
基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される第1の粘着テープをセラミックグリーンシートの積層体に貼着し、該粘着テープを介して前記セラミックグリーンシートの積層体を台座上に固定する工程と、
台座上に固定された前記セラミックグリーンシートの積層体をギロチン刃で切断して複数の生チップを形成する工程と、
エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される第2の粘着テープを前記複数の生チップに貼着し、該複数の生チップを第1の粘着テープから第2の粘着テープに転写する工程と、
前記第2の粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程とを含むことを特徴とするセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項3】
生チップのサイズが1608未満である請求項1または2記載のセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項4】
エキスパンド性を有する基材フィルムの厚さが40〜250μmである請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項5】
前記粘着テープまたは前記第2の粘着テープの基材フィルムをエキスパンドして、互いに隣接する生チップ同士の間隔を広げる工程の後、
前記粘着テープまたは前記第2の粘着テープの粘着力を低下させて複数の生チップを該粘着テープから取り出す工程と、
取り出した生チップを焼成してセラミックチップを得る工程とを含む請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項6】
歩留りが80%以上である請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のセラミックチップ部品の製造方法で得られるセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを製造することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のセラミックチップ部品の製造方法に使用することを特徴とする粘着テープ。
【請求項9】
前記粘着テープが、エキスパンド性を有する基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも片面に形成される粘着剤層とから構成される請求項8記載の粘着テープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−49512(P2008−49512A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226148(P2006−226148)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】