説明

センサの振動測定方法

【課題】センサに生じる振動を振動検出器で正確に測定できるセンサの振動測定方法を提供する。
【解決手段】この振動測定方法では、ガスセンサ1の重量に対して重量比±1%以下の振動検出器100をガスセンサ1に貼り付ける。これによりガスセンサ1が振動する際に、振動検出器100の重さによる加速度Gのずれや、共振周波数のずれを最小限に抑えることができるので、ガスセンサ1の振動を正確に測定できる。また重量比±1.0%未満の小型の振動検出器を用いるため、自動車の排気管のような狭い空間内でも余裕をもって取り付けられる。更に振動検出器100は、外筒30の外周面におけるグロメット75に相当する位置に貼り付ける。これにより、排気管の剛性の影響まで含んだガスセンサ1の振動状態を最も精度良く測ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に取り付けられるセンサ自身に生ずる振動を測定するためのセンサの振動測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の空燃比フィードバック制御に用いるため、排気ガス中の特定ガス成分(例えば酸素など)の濃度を検出するセンサ素子を備えたガスセンサが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このようなガスセンサは燃焼室から排出される排気ガスの排気管に取り付けて使用されるため、内燃機関の稼働に伴う振動が排気管を介して伝播されるとガスセンサは固有の揺れの形態で振動し(いわゆる振動モード)、伝播された振動の振動周波数がガスセンサの固有振動数と一致すると共振を生ずる。
【0003】
つまり、ガスセンサを開発するにあたって、こうした振動モードがガスセンサの構成部品に与える影響を考慮した設計を行う必要があるため、ガスセンサに生ずる振動の測定が行われている。例えば、振動検出器を内蔵した振動測定用の治具を作製し、その治具を、排気管のガスセンサの取付部にガスセンサの代わりに取り付けて、振動の測定が行われている。
【特許文献1】特開平11−190716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガスセンサに生ずる振動を測定するための治具として、例えば中空の栓部材に振動検出器を貼りつけたものを用いた場合、ガスセンサとは構造が異なるため固有振動数が異なり、ガスセンサの振動モードが再現されない。場合によってはガスセンサが取り付けられる排気管に生ずる振動が測定されてしまうことがあり、ガスセンサの振動を正確に測定することが難しいという問題があった。また、ガスセンサに直接、振動検出器を貼りつけたとしても、振動検出器付きのガスセンサの固有振動数がガスセンサ単体の固有振動数と異なってしまうため、ガスセンサに生ずる振動を正確に測定できなくなる虞があった。
【0005】
その他の振動測定方法として、例えばガスセンサにレーザを照射した際の反射光を検出して振動を測定する方法が知られている。このような方法を用いればガスセンサの振動を正確に測定することが可能ではあるが、そのための測定装置を設置するためのスペースを確保することは困難であり、実車におけるガスセンサの振動の測定は難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、センサに生じる振動を振動検出器で正確に測定できるセンサの振動測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明のセンサの振動測定方法は、内燃機関に取り付けられたセンサに生じる振動を測定するためのセンサの振動測定方法であって、前記センサに対する重量比が±1%以下の振動検出器を、前記センサに取り付け、前記振動検出器の検出結果に基づいて、前記センサの振動を測定することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明のセンサの振動測定方法は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記センサは、前記内燃機関の吸気系に設けられる吸気センサ、又は前記内燃機関の排気系に設けられる排気センサであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明のセンサの振動測定方法は、請求項2に記載の発明の構成に加え、前記センサは、軸線方向に延びると共に自身の先端部に被測定ガス中の特定ガス成分を測定する検出部を有する長尺状のセンサ素子と、当該センサ素子の先端部を突出させつつ、前記センサ素子の径方向周囲を取り囲む筒状の主体金具と、当該主体金具に固定され、前記センサ素子の後端部の径方向周囲を取り囲む筒状の外筒とを備え、前記振動検出器は、前記外筒の外表面に取り付けられることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明のセンサの振動測定方法は、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記センサ素子からの出力を取り出す信号線が、前記外筒の後端開口部から外部に延出されるとともに、前記外筒の前記後端開口部内側には、前記信号線と前記外筒の内表面との間を封止する封止部材が設けられ、前記振動検出器は、前記封止部材の位置に対応する前記外筒の前記外表面に取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明のセンサの振動測定方法では、振動検出器のセンサに対する重量比を±1%以下に規定している。これにより、センサ単体の振動に対する振動検出器の重量の影響を低減でき、センサの振動を良好に測定できる。また、振動検出器は、レーザードップラー計に比べて小型であるので、自動車の排気管のような狭い空間でも取り付け可能であると共に、レーザードップラー計と同レベルの測定結果を得ることができる。なお、「センサの振動を測定する」とはセンサの振動周波数及び/又はG(加速度)を測定することである。
【0012】
また、請求項2に係る発明のセンサの振動測定方法では、請求項1に記載の発明の効果に加え、内燃機関の吸気系や排気系に設けられる吸気センサ、又は排気センサを測定対象としている。内燃機関の稼働に伴って振動する吸気管に取り付けられる吸気センサや、排気管に取り付けられる排気センサは固有の形態で振動し、その振動周波数がセンサの固有振動数と一致すると共振を生ずる。そこで本発明の振動測定方法を用いることによって、吸気センサ又は排気センサの振動をより正確に測定できる。
【0013】
また、請求項3に係る発明のセンサの振動測定方法では、請求項2に記載の発明の効果に加え、振動検出器は、センサの後端側に位置する外筒の外表面に取り付けられる。例えば、主体金具に振動検出器を固定すると、振動源の1つである排気管の近くに振動検出器が固定されるため、排気管の剛性の影響まで含んだセンサの振動状態を精度良く計測できない虞がある。これに対し、排気管から離れた外筒の外表面に振動検出器を取り付けることで、排気管の剛性の影響まで含んだセンサの振動状態を精度良く測ることができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明のセンサの振動測定方法では、請求項3に記載の発明の効果に加え、封止部材は、熱劣化の観点からセンサの中で最も排気管から離れた外筒の後端開口部の内側に設けられる。よって、この封止部材が設けられる位置の外筒の外表面に振動検出器を取り付けることで、排気管の剛性の影響まで含んだセンサの振動状態を最も精度良く測ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態であるガスセンサ1の振動測定方法について、図面を参照して説明する。まず、測定対象であるガスセンサ1の構造について、図1を参照して説明する。図1は、ガスセンサ1の構造を示す縦断面図である。なお、図1において、ガスセンサ1の軸線O方向(1点鎖線で示す。)を上下方向として図示し、内部に保持するセンサ素子10の検出部11側をガスセンサ1の先端側、後端部12側をガスセンサ1の後端側として説明する。
【0016】
図1に示すガスセンサ1は、図示しない自動車の排気管に取り付けられて使用されるものである。このガスセンサ1は、内部に保持するセンサ素子10の検出部11が排気管内を流通する排気ガス中に晒されて、その排気ガス中の酸素濃度から排気ガスの空燃比を検出する全領域空燃比センサである。
【0017】
まず、センサ素子10は、軸線O方向に延びる細幅の板状形状をなし、酸素濃度の検出を行うガス検出体と、そのガス検出体を早期活性化させるために加熱を行うヒータ体とが互いに貼り合わされ、一体化されたものである(図1では、紙面左右方向を板厚方向、紙面表裏方向を板幅方向として図示。)。ガス検出体はジルコニアを主体とする固体電解質体と、白金を主体とする検出電極と(共に図示外)から構成されている。その検出電極は、センサ素子10の先端側の検出部11に配置されている。そして、検出電極を排気ガスによる被毒から保護するために、センサ素子10の検出部11には、その外周面を包むように保護層15が形成されている。また、センサ素子10の後端側の後端部12には、ガス検出体やヒータ体から電極を取り出すための5つの電極パッド16(図1ではそのうちの1つを図示。)が形成されている。
【0018】
また、センサ素子10の胴部13の中央よりやや先端側には、有底筒状をなす金属製の金属カップ20が、自身の内部にセンサ素子10を挿通させ、その検出部11を筒底の開口25から突出させた状態で配置されている。金属カップ20は主体金具50内にセンサ素子10を保持するための部材である。その筒底の縁部分の先端周縁部23は外周面にかけてテーパ状に形成されている。この金属カップ20内には、アルミナ製のセラミックリング21と滑石粉末を圧縮して固めた滑石リング22とが、自身をセンサ素子10に挿通させた状態で収容されている。滑石リング22は金属カップ20内で押し潰されて細部に充填されている。これにより、センサ素子10が金属カップ20内で位置決めされて保持されている。
【0019】
さらに、金属カップ20と一体となったセンサ素子10は、その周囲を筒状の主体金具50に取り囲まれて保持されている。主体金具50はガスセンサ1を自動車の排気管(図示外)の所定部に取り付けて固定するためのものである。主体金具50は、SUS430等の低炭素鋼からなる。主体金具50の外周先端側には、排気管への取り付け用の雄ねじ部51が形成されている。この雄ねじ部51よりも先端側には、後述するプロテクタ8が係合される先端係合部56が形成されている。また、主体金具50の外周中央には取り付け用の工具が係合する工具係合部52が形成されている。その工具係合部52の先端面と雄ねじ部51の後端との間には、排気管に取り付けた際のガス抜けを防止するためのガスケット55が嵌挿されている。さらに、工具係合部52の後端側には、後述する外筒30が係合される後端係合部57が形成されている。その後端側には、主体金具50内にセンサ素子10を加締め保持するための加締め部53が形成されている。
【0020】
また、主体金具50の内周で雄ねじ部51付近には段部54が形成されている。この段部54には、センサ素子10を保持する金属カップ20の先端周縁部23が係止されている。更に、主体金具50の内周には滑石リング26が、自身をセンサ素子10に挿通させた状態で、金属カップ20の後端側から装填されている。そして、滑石リング26を後端側から押さえるように、筒状のスリーブ27が主体金具50内に嵌め込まれている。スリーブ27の後端側外周には段状をなす肩部28が形成されており、その肩部28には、円環状の加締めパッキン29が配置されている。
【0021】
この状態で主体金具50の加締め部53が、加締めパッキン29を介してスリーブ27の肩部28を先端側に向けて押圧するように加締められている。スリーブ27に押圧された滑石リング26は、主体金具50内で押し潰されて細部にわたって充填されている。この滑石リング26と、金属カップ20内にあらかじめ装填された滑石リング22とによって、金属カップ20およびセンサ素子10が主体金具50内で位置決め保持される。主体金具50内の気密は、加締め部53とスリーブ27の肩部28との間に介在される加締めパッキン29によって維持されるため、燃焼ガスの流出が防止される。
【0022】
ところで、センサ素子10は、その後端部12が主体金具50の後端(加締め部53)よりも後方に突出されている。その後端部12には、絶縁性セラミックスからなる筒状のセパレータ60が被せられている。セパレータ60は、センサ素子10の後端部12に形成された5つの電極パッド16とそれぞれ電気的に接続される5つの接続端子61(図1ではそのうちの1つを図示している。)を内部に保持すると共に、それら各接続端子61と、ガスセンサ1の外部に引き出される5本のリード線65(図1ではそのうちの3本を図示している。)との各接続部分を収容して保護している。
【0023】
そして、セパレータ60が嵌められたセンサ素子10の後端部12の周囲を囲うように、筒状の外筒30が配設されている。外筒30はステンレス(例えばSUS304)製であり、主体金具50の後端係合部57の外周に自身の先端側の開口端31が係合されている。その開口端31は、外周側から加締められ、更に外周を一周してレーザ溶接が施されて後端係合部57に接合されており、外筒30と主体金具50とが一体に固定されている。
【0024】
また、外筒30とセパレータ60との間の間隙には、金属製で筒状の保持金具70が配設されている。保持金具70は自身の後端を内側に折り曲げて構成した支持部71を有し、自身の内部に挿通されるセパレータ60の後端側外周に鍔状に設けられた鍔部62を支持部71に係止させて、セパレータ60を支持している。この状態で、保持金具70が配置された部分の外筒30の外周面が加締められ、セパレータ60を支持した保持金具70が外筒30に固定されている。
【0025】
次に、外筒30の後端側の開口には、フッ素系ゴム製のグロメット75が嵌合されている。グロメット75は5つの挿通孔76(図1ではそのうちの1つを図示している。)を有し、各挿通孔76に、セパレータ60から引き出された5本のリード線65が気密に挿通されている。この状態でグロメット75は、セパレータ60を先端側に押圧しつつ、外筒30の外周から加締められて、外筒30の後端に固定されている。
【0026】
一方、主体金具50に保持されたセンサ素子10の検出部11は、主体金具50の先端部(先端係合部56)より突出されている。この先端係合部56には、センサ素子10の検出部11を、排気ガス中のデポジット(燃料灰分やオイル成分など被毒性の付着物質)による汚損や被水などによる折損等から保護するためのプロテクタ8が嵌められ、スポット溶接やレーザ溶接によって固定されている。
【0027】
プロテクタ8は、側面に複数の孔を有した有底筒状の内側プロテクタ90と、内側プロテクタ90の外周面との間に空隙を有した状態で内側プロテクタ90の径方向周囲を取り囲む筒状をなし、側面に複数の孔を有した外側プロテクタ80とから構成される2重構造を有する。
【0028】
次に、上記構成からなるガスセンサ1の振動測定方法について、図2を参照して説明する。図2は、ガスセンサ1の振動測定方法を示す図である。ガスセンサ1の振動測定には、ガスセンサ1を振動させる加振器120と、ガスセンサ1の振動を測定する振動測定器110とが使用される。加振器120には治具121を介してガスセンサ1が固定される。振動測定器110は、圧電式の振動検出器100と、チャージアンプ125と、FFTアナライザー126とから構成されている。振動検出器100は1軸同時方向の振動を検出して電荷信号に変換する機器である。チャージアンプ125は、振動検出器100に信号線101を介して接続され、振動検出器100から出力される電荷信号を電圧信号に変化するための機器である。
【0029】
また、FFTアナライザー126は、チャージアンプ125に接続され、チャージアンプ125から出力された電圧信号の信号波形を周波数軸の信号に変換して表示する機器である。このFFTアナライザー126では、チャージアンプ125から出力された信号波形がディジタル的(離散的)にサンプリングされ、データとして記憶される。そして、そのデータからFFTを使って短時間でフーリエ係数が求められてその結果が表示される。ここでFFTとは、高速フーリエ変換のことをいい、時系列信号を周波数軸の信号に変換する方式を意味する。
【0030】
次に、振動検出器100の固定位置について、図1を参照して説明する。ガスセンサ1の振動は、振動検出器100を固定する位置によって異なる。例えば、主体金具50に振動検出器100を固定すると、振動源の1つである自動車の排気管の近くに振動検出器100が固定されるため、自動車の排気管の剛性の影響まで含んだガスセンサ1の振動状態を精度良く計測できない虞がある。また、ガスセンサ1の先端側は自動車の排気管の内側に晒されて高温になるため、振動検出器100を固定することができない。これに対し、排気管から最も離れる部位に振動検出器100を取り付けることで、排気管の剛性の影響まで含んだガスセンサ1の振動状態を精度良く測ることができる。
【0031】
そこで、主体金具50よりも後端側である外筒30の外周面において、外筒30の後端側の開口を封止するグロメット75に相当する位置に振動検出器100を接着剤で固定する。この外筒30のグロメット75に相当する位置に振動検出器100を固定することによって、排気管の剛性の影響まで含んだガスセンサ1の振動状態を最も精度良く測ることができる。
【0032】
次に、振動検出器100を取り付けた場合のガスセンサ1の振動に与える影響について、図3乃至図5を参照して説明する。図3は、加速度Gのずれを示した概念図であり、図4は、共振周波数のずれを示した概念図であり、図5は、ガスセンサ1の振動における加速度Gと周波数との関係を示したチャート図である。
【0033】
まず、ガスセンサ1に振動検出器100を取り付けた場合、その重さの作用によって、ガスセンサ1の振動特性が変化する。具体的には、外部振動によって振動するガスセンサ1に加わる加速度Gと共振周波数(Hz)とがずれるといった影響が考えられる。例えば、加速度Gのずれについては、図3に示すように、ガスセンサ1の重量が重くなるほど加速度Gは大きくなるので、プラス(+)方向にずれる。その反対に、重量が軽くなるほど加速度Gは小さくなるので、マイナス(−)方向にずれる。一方、共振周波数のずれについては、図4に示すように、ガスセンサ1の重量が重くなるほど共振周波数は低周波側にずれる。その反対に、重量が軽くなるほど共振周波数は高周波側にずれる。従って、ガスセンサ1に振動検出器100を貼り付けた場合は、ガスセンサ1の重量が重くなるので、加速度Gはプラス(+)方向にずれ、共振周波数は低周波側にずれる影響が懸念される。
【0034】
ここで、ガスセンサ1に重量比の異なる振動検出器100を貼り付けた場合の加速度Gのずれについて検証する。図2に示すように、本体重量35gのガスセンサ1に重量0.2g(重量比0.6%)、0.6g(重量比1.7%)、2.4g(重量比6.9%)の3種類の振動検出器100をそれぞれ貼り付けて加速度Gを測定し、レーザードップラー計130による測定結果との比較を行った。レーザードップラー計130は、物体にレーザー(電磁波)を当てて物体の速さを計測する装置であり、振動測定器110と同様に、FFTアナライザー131によって測定結果が表示される。なお、レーザードップラー計130から照射されるレーザーは、ガスセンサ1の振動検出器100が貼り付けられる外筒30の後端部に照準を合わせている。これにより、測定部位による振動の誤差を無くすことができる。そして、振動検出器100が貼り付けられていないガスセンサ1をレーザードップラー計130で測定した結果を基準として評価した。
【0035】
図5に示すように、レーザードップラー計130による加速度Gの測定結果に対して、振動検出器100が重ければ重いほど(ガスセンサ1に対する重量比が高ければ高いほど)、ガスセンサ1に加わる加速度Gは高くなる傾向を示した。つまり、ガスセンサ1の振動を振動検出器100を用いて測定する場合、振動検出器100の重さがガスセンサ1の固有の振動に影響することが実証された。そこで、振動検出器100を用いる振動測定方法において、レーザードップラー計130による振動結果とほぼ同レベルの結果が得られる条件を導き出すために以下の3つの試験を行った。
【0036】
(試験1)
まず、試験1について説明する。試験1では、加速度Gのずれによるガスセンサ1にかかる負荷の変動について調べた。この試験には、上記した加振器120と振動測定器110とを用いた。まず、振動検出器100を取り付けていないガスセンサ1を45時間振動させ、24本中12本のガスセンサ1が出力断線する所定振動周波数Hz及び所定加速度Gを基準条件とした。これは、部品生存率が50%である所定振動周波数Hz及び所定加速度Gを基準条件とするためである。そして、加振器120による振動を調整することで、基準条件の加速度Gに対して、加速度Gを−10%、−5%、+5%、+10%それぞれずらして同じ振動条件後の部品生存率(%)を各々算出した。
【0037】
試験1の結果について、図6を参照して説明する。図6は、加速度Gのずれと部品生存率(%)との関係を示した表である。基準条件の部品生存率が50%に対し、加速度Gが−10%ずれたガスセンサ1の部品生存率は80%であった。加速度Gが−5%ずれたガスセンサ1の部品生存率は50%であった。加速度Gが+5%ずれたガスセンサ1の部品生存率は50%であった。加速度Gが+10%ずれたガスセンサ1の部品生存率は15%であった。つまり、ガスセンサ1に加わる加速度Gが大きければ大きいほど、ガスセンサ1にかかる負荷は大きくなるため、部品生存率が低くなったと推測される。一方、ガスセンサ1に加わる加速度Gが小さければ小さいほど、ガスセンサ1にかかる負荷は小さくなるため、部品生存率が高くなったと推測される。
【0038】
以上の結果より、測定した加速度Gが実際の加速度Gよりも高い方にずれている場合には、測定対象物であるガスセンサ1に対して厳しい評価を下すことになる。その反対に実際の加速度Gよりも低い方にずれている場合には、ガスセンサ1に対し緩い評価を下すことになる。従って、加速度Gのずれが少なくとも±5%の範囲内にあれば、基準条件と同じ部品生存率が得られるため、正しい評価ができることがわかった。
【0039】
(試験2)
次に、試験2について説明する。試験2では、共振周波数のずれによるガスセンサ1にかかる負荷の変動について調べた。この試験にも、上記した加振器120と振動測定器110とを用いた。なお、ガスセンサ1の振動条件と基準条件とは試験1と同じである。そして、加振器120による振動を調節することによって、基準条件の共振周波数に対して、共振周波数を−5%、−1%、+1%、+5%それぞれずらして同じ振動条件後の部品生存率(%)を各々算出した。
【0040】
試験2の結果について、図7を参照して説明する。図7は、共振周波数のずれと部品生存率(%)との関係を示した表である。基準条件の部品生存率が50%に対し、共振周波数が−5%ずれたガスセンサ1の部品生存率は10%であった。共振周波数が−1%ずれたガスセンサ1の部品生存率は50%であった。共振周波数が+1%ずれたガスセンサ1の部品生存率は50%であった。共振周波数が+5%ずれたガスセンサ1の部品生存率は90%であった。つまり、共振周波数が低周波側にずれると、ガスセンサ1にかかる負荷(応力)が大きくなるため、部品生存率が低くなったと推測される。一方、共振周波数が高周波側にずれると、ガスセンサ1にかかる負荷が小さくなるので、部品生存率は高くなったと推測される。
【0041】
以上の結果より、測定した共振周波数が実際の共振周波数よりも低周波側にずれていた場合には、測定対象物であるガスセンサ1に対して厳しい評価を下すことになる。その反対に高周波側にずれていた場合には、ガスセンサ1に対し緩い評価を下すことになる。従って、共振周波数のずれが少なくとも±−1%の範囲内にあれば、基準条件と同じ部品生存率が得られるため、正しい評価ができることがわかった。
【0042】
(試験3)
次に、試験3について説明する。試験3では、上記した試験1,2の結果を利用して、レーザードップラー計130と同レベルの結果が得られる振動検出器100の重量比の許容範囲について調べた。この試験には、上記した加振器120と、振動測定器110と、レーザードップラー計130とを用いた。そして、図2に示すように、加振器120に治具121を介してガスセンサ1を取り付け、ガスセンサ1の外筒30の所定部位に、重量比0.6%、重量比0.75%、重量比1.2%、重量比1.7%、重量比2.4%の5種類の振動検出器100をそれぞれ貼り付けた。さらに、加速度G=9.4G、周波数=3900Hzの条件で振動させ、各振動検出器100で計測された加速度Gと周波数とがどれだけずれたかをそれぞれ算出した。なお、レーザードップラー計130から照射されるレーザーは、ガスセンサ1の振動検出器100が貼り付けられる外筒30の後端部に照準を合わせた。このレーザードップラー計130で計測したガスセンサ1(振動検出器100は貼り付けていない。)の加速度Gは9.4G、共振周波数は3900Hzであった。よってこれらの値を基準値とした。
【0043】
試験3の結果について、図8を参照して説明する。図8は、振動検出器100の重量比と、加速度Gおよび共振周波数のずれとの関係を示した表である。まず、加速度Gの結果から説明する。重量比0.6%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の加速度Gのずれは、基準値と比較して−1.1%のずれであった。重量比0.75%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の加速度Gのずれは、基準値と比較して−2.0%のずれであった。重量比1.2%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の加速度Gのずれは、基準値と比較して−3.4%のずれであった。重量比1.7%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の加速度Gのずれは、基準値と比較して−7.0%のずれであった。重量比2.4%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の加速度Gのずれは、基準値と比較して−12.0%のずれであった。
【0044】
次に、共振周波数の結果について説明する。重量比0.6%の振動検出器100を取り付けたガスセンサ1の共振周波数のずれは、基準値と比較して−0.2%のずれであった。重量比0.75%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の共振周波数のずれは、基準値と比較して−0.2%のずれであった。重量比1.2%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の共振周波数のずれは、基準値と比較して−1.2%のずれであった。重量比1.7%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の共振周波数のずれは、基準値と比較して−2.5%のずれであった。重量比2.4%の振動検出器を取り付けたガスセンサ1の共振周波数のずれは、基準値と比較して−7.0%のずれであった。
【0045】
次に、以上の結果の中から、試験1の結果から導かれた加速度Gのずれの許容範囲(±5%以内)と、試験2の結果から導かれた共振周波数のずれの許容範囲(±1%以内)とを満たす重量比について検討する。まず、加速度Gのずれの許容範囲を満たす重量比は0.6%、0.75%、1.2%の3種類であった。一方、共振周波数のずれの許容範囲を満たす重量比は、0.6%、0.75%の2種類のみであった。従って、加速度Gのずれの許容範囲と、共振周波数の許容範囲との両方を満たす重量比は、0.6%、0.75%の2種類であることがわかった。つまり、ガスセンサ1に対する重量比が±1.0%以下の振動検出器100を用いることによって、レーザードップラー計130と同レベルの評価を下せることがわかった。
【0046】
以上説明したように、本実施形態であるガスセンサ1の振動測定方法では、ガスセンサ1の重量に対して、重量比が±1%以下の振動検出器100をガスセンサ1に貼り付けて行う。これにより、ガスセンサ1が振動する際に、振動検出器100の重さによる加速度Gのずれや、共振周波数のずれを最小限に抑えることができるので、ガスセンサ1の振動を正確に測定することができる。さらに、重量比±1.0%未満の小型で扱いやすい振動検出器を用いるため、自動車の排気管のような狭い空間内でも余裕をもって取り付けることができる。また、振動検出器100は、ガスセンサ1の外筒30の外周面におけるグロメット75に相当する位置に貼り付ける。この外筒30のグロメット75に相当する位置に振動検出器100を固定することによって、排気管の剛性の影響まで含んだガスセンサ1の振動状態を最も精度良く測ることができる。
【0047】
なお、本発明は各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、上記実施形態のガスセンサ1は、主体金具50に外筒30のみが溶接されたタイプであるが、図9に示すガスセンサ200のように、主体金具150にが外筒160が固定され、その外筒160の後端側に保護外筒170が加締められたタイプにも本発明の適用が可能である。この場合、保護外筒170の後端側の外周面において、グロメット175に対応する位置に、振動検出器100を貼り付ければよい。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、自動車の排気管内のガス濃度(例えば、O、NO等)を検出するためのガスセンサ1を一例として説明したが、内燃機関の吸気系に設けられる吸気センサにも適用可能である。さらに、排気センサ吸気センサの他に、温度を計測する温度センサにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ガスセンサ1の構造を示す縦断面図である。
【図2】ガスセンサ1の振動測定方法を示す図である。
【図3】加速度Gのずれを示した概念図である。
【図4】共振周波数のずれを示した概念図である。
【図5】ガスセンサ1の振動における加速度Gと周波数との関係を示したチャート図である。
【図6】加速度Gのずれと部品生存率(%)との関係を示した表である。
【図7】共振周波数のずれと部品生存率(%)との関係を示した表である。
【図8】振動検出器100の重量比と、加速度Gおよび共振周波数のずれとの関係を示した表である。
【図9】変形例であるガスセンサ200に振動検出器100を取り付けた状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ガスセンサ
10 センサ素子
30 外筒
50 主体金具
65 リード線
75 グロメット
100 振動検出器
110 振動測定器
120 加振器
125 チャージアンプ
126 FFTアナライザー
130 レーザードップラー計
131 FFTアナライザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に取り付けられたセンサに生じる振動を測定するためのセンサの振動測定方法であって、
前記センサに対する重量比が±1%以下の振動検出器を、前記センサに取り付け、前記振動検出器の検出結果に基づいて、前記センサの振動を測定することを特徴とするセンサの振動測定方法。
【請求項2】
前記センサは、前記内燃機関の吸気系に設けられる吸気センサ、又は前記内燃機関の排気系に設けられる排気センサであることを特徴とする請求項1に記載のセンサの振動測定方法。
【請求項3】
前記センサは、軸線方向に延びると共に自身の先端部に被測定ガス中の特定ガス成分を測定する検出部を有する長尺状のセンサ素子と、当該センサ素子の先端部を突出させつつ、前記センサ素子の径方向周囲を取り囲む筒状の主体金具と、当該主体金具に固定され、前記センサ素子の後端部の径方向周囲を取り囲む筒状の外筒とを備え、
前記振動検出器は、前記外筒の外表面に取り付けられることを特徴とする請求項2に記載のセンサの振動測定方法。
【請求項4】
前記センサ素子からの出力を取り出す信号線が、前記外筒の後端開口部から外部に延出されるとともに、
前記外筒の前記後端開口部内側には、前記信号線と前記外筒の内表面との間を封止する封止部材が設けられ、
前記振動検出器は、前記封止部材の位置に対応する前記外筒の前記外表面に取り付けられることを特徴とする請求項3に記載のセンサの振動測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145253(P2009−145253A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324303(P2007−324303)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】