センサ付車輪用軸受
【課題】車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】この車輪用軸受は、外方部材1と内方部材2の間に複列の転動体5が介在し、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジ1aを有する。この車体取付用フランジ1aの円周方向にボルト孔14が設けられ、このボルト孔14に挿通されたナックルボルト18により、前記車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間に、両者の相対滑りを抑制する摩擦防止手段としてピン21が設けられる。ピン21の代わりにねじ結合部を設けても良い。また、摩擦防止手段として、両者の接触面の静摩擦係数を小さくする固定潤滑剤を介在させても良い。前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する、歪みゲージ19等の荷重検出手段を設ける。
【解決手段】この車輪用軸受は、外方部材1と内方部材2の間に複列の転動体5が介在し、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジ1aを有する。この車体取付用フランジ1aの円周方向にボルト孔14が設けられ、このボルト孔14に挿通されたナックルボルト18により、前記車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間に、両者の相対滑りを抑制する摩擦防止手段としてピン21が設けられる。ピン21の代わりにねじ結合部を設けても良い。また、摩擦防止手段として、両者の接触面の静摩擦係数を小さくする固定潤滑剤を介在させても良い。前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する、歪みゲージ19等の荷重検出手段を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪フランジの外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、固定輪のフランジ部と外径部にわたってL字型部材からなる歪み拡大手段を取付け、その歪み拡大手段の一部に歪みゲージを貼り付けた車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特開2006−077807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間の摩擦や滑りが伴うため、繰返し荷重を印加すると、図13に示すように出力信号にヒステリシスが発生すると言った問題がある。また、特許文献2に開示の技術においても、L字型部材からなる歪み拡大手段のフランジ面に固定されている部位が、フランジ面とナックル面の摩擦や滑りの影響を受けるため、上記と同様の問題が生じる。
これにつき説明する。車輪用軸受は、車体取付用フランジにボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトによりナックルに締め付け固定される。ナックルボルトによる締め付けのため、車輪用軸受とナックルとは、通常は相対滑りが生じないが、作用荷重が最大静止摩擦力を超えると、相対滑りが発生する。ボルト孔の内面とナックルボルトとの間には許容隙間があり、この隙間の範囲で車輪用軸受とナックルとの相対滑りが可能である。また、車輪用軸受の弾性変形により、車輪用軸受とナックルとの相対滑りが発生する。
車輪用軸受に対して、ある方向への作用荷重が大きくなる場合、車輪用軸受の車体取付用フランジのフランジ面とナックル面の間は、最初は作用荷重よりも静止摩擦力の方が大きいために滑らないが、作用荷重がある大きさを超えると、最大静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で作用荷重を抜いて行くと、車輪用軸受の弾性復元力で元の作用荷重と逆方向の荷重が接触面に作用し、やはり最初は滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この部分の変形が作用する部分で荷重を検出しようとすると、出力信号に図13に示すようなヒステリシスが生じる。このヒステリシスは、接触面の状態や温度など、種々の条件によって変わるため、補正が困難であり、そのため精度の良い荷重検出が困難となる。
【0004】
この発明の目的は、外方部材の車体取付用フランジとナックルとの接触面間の摩擦や滑りの影響を緩和でき、車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたものである。
この構成の作用を説明する。車輪用軸受に対して、ある方向への作用荷重が大きくなる場合、車輪用軸受の車体取付用フランジのフランジ面とナックル面の間は、最初は作用荷重よりも静止摩擦力の方が大きいために滑らないが、作用荷重がある大きさを超えると、最大静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で作用荷重が減少すると、車輪用軸受の弾性復元力で元の作用荷重と逆方向の荷重が接触面に作用し、やはり最初は滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この部分の変形が作用する部分で荷重を検出しようとすると、出力信号にヒステリシスが生じる。
しかし、車体取付用フランジとナックルとの間に上記構成の摩擦防止手段を設けることで、上記のヒステリシスが減少し、そのため荷重検出手段による検出が正確に行える。
上記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックル間の相対滑りを抑制するものである場合は、その相対滑りが減少することによって、上記ヒステリシスが減少する。
上記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックル間の静摩擦係数を小さくするものである場合は、上記とは逆に、小さな荷重で相対滑りが生じることで、上記ヒステリシスが減少する。
【0006】
この発明において、前記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックルとに渡って設けられたピンであっても良い。上記ピンは、例えば車体取付用フランジおよびナックルに設けられたピン嵌合孔に渡って密に嵌合させる。
このようにピンを設けると、フランジとナックルの間の接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りの最大滑り量が減少する。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0007】
この発明において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトとは別に、車体取付用フランジとナックルとの間に設けられたねじ結合部であっても良い。
このようにねじ結合部を設けた場合も、フランジとナックルの間の接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りの最大滑り量が減少する。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0008】
この発明において、前記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックルとの接触面間に介在させた固体潤滑剤であっても良い。固体潤滑剤には、例えば二硫化モリブデン等が使用できる。この構成の場合、フランジとナックルの接触面における静摩擦係数が小さくなって、最大静止摩擦力が小さくなる。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0009】
この発明において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の歪みを検出する手段であっても良い。固定側部材の歪みの検出によれば、車輪のタイヤと路面間の作用力や車輪用軸受の予圧量の検出が簡単に行える。この場合に、摩擦防止手段を設けているため、歪み検出の場合のヒステリシスが減少し、精度の良い荷重検出が行える。
【0010】
この発明において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材に対して固定される2つ以上の接触固定部を有し前記固定側部材の歪みを拡大した歪みを発生する歪み拡大手段と、この歪み拡大手段の歪みを検出する歪み検出手段とでなるものであっても良い。
このように歪み拡大手段を設けることで、固定側部材の小さな歪みを拡大して検出することができて、感度良く正確に荷重や予圧量を検出することができる。
特に、固定側部材の車体取付用フランジのボルト孔周辺のような変形が小さい部分と、固定側部材の外径面のような変形が大きい部分とに上記接触固定部を設ければ、歪み拡大手段が変形し易くなる。また、歪み拡大手段に切欠部などを設ければ、その部分に歪みが集中し易くなる。これらによって、より一層感度良く、また正確に荷重や予圧量を検出することができる。
【0011】
この発明において、前記摩擦防止手段を、前記ナックルボルトの取付部の周辺に設けても良い。摩擦防止手段をナックルボルトの取付部の周辺に設けることで、フランジとナックルの間の接触面積の大きい部分で、相対滑りの抑制または摩擦を低減させることができる。そのため、荷重検出手段による検出がより精度良く行える。特に、歪み拡大手段につき、固定側部材の車体取付用フランジのボルト孔周辺のような変形が小さい部分と、固定側部材の外径面のような変形が大きい部分とに上記接触固定部を設ければ、歪み拡大手段に歪みが集中し易くなるため、感度が良く、ヒステリシスのより少ない出力信号が得られる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さく摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたため、固定側部材の車体取付用ブランジのフランジ面とナックル面の間の摩擦もしくは滑りを防止でき、車輪にかかる荷重を精度良く検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0014】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0015】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0016】
図2は、この車輪用軸受のインボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−O−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。これら各突片1aaの基端における円周方向の両側の端面部分は、車体取付用フランジ1aにおける突片1aaの非成形部1abの外径面に対して円弧状の正面形状となって続く円弧面部1aa1とされている。この円弧面部1aa1の外径面に、荷重検出手段として1つ以上(ここでは、各円弧面部1aa1の外径面毎に各1個で合計8個)の歪みゲージ19が貼り付けられている。なお、歪みゲージ19の個数は特に特定されない。ここでは、これらの歪みゲージ19は、外方部材1の周方向の歪みを検出する方向に貼り付けられている。歪みゲージ19として、例えば抵抗線歪みゲージが用いられるが、そのほか半導体歪みゲージを用いても良い。歪みゲージ19には、保護用のカバー等を設けるのが好ましい。
【0017】
前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間には、両者の間の相対滑りを抑制する摩擦防止手段としてピン21が設けられている。ピン21は、フランジ1aとナックル16とにわたって設けられ、これによりフランジ1aとナックル16の接触面方向の自由度が抑制され、相対滑りが減少される。具体的には、フランジ1aの各突片1aaにおけるナックル16との接触面、およびこの接触面に接触するナックル16の接触面におけるナックルボルト18の取付部近傍に、前記ピン21を挿入させる位置決め孔22,23がそれぞれ設けられている。これら両位置決め孔22,23にわたって前記ピン21を嵌合させ、この嵌合を圧入嵌合とするかまたは接着剤による接着を併用することで固定している。
【0018】
前記歪みゲージ19は推定手段20に接続される。推定手段20は、歪みゲージ19の出力信号により、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。推定手段20は、車輪のタイヤと路面間の作用力と歪みゲージ19の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0019】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。このとき、外方部材1のフランジ1aに設けられた突片1aaの位置は、ナックルボルト18により車体の懸架装置におけるナックル16に固定されているのでほとんど変形せず、車体取付用フランジ1aにおける突片1aaの非成形部1abの外径面が外方向へ変形する。これにより、前記円弧面部1aa1に歪みが集中し、荷重により歪み量が大きく変化する。このため、円弧面部1aa1の外径面に貼り付けられた歪みゲージ19は、荷重の印加に伴う外方部材1の歪みを感度良く検出することがきる。この歪みゲージ19の出力信号から、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定手段20で推定するようにしているので、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を正確に検出することができる。
【0020】
とくに、車体取付用フランジ1aとナックル16との間に摩擦防止手段としてピン21を設けているので、フランジ1aおよびナックル16は接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りが減少する。一方、荷重検出手段となる歪みゲージ19は、上記したように車体取付フランジ1aの突片1aaと突片1aaの非成形部1abの相対変位により発生する円弧面部1aa1歪みを検出するので、フランジ1aの突片1aaのボルト孔14の周辺部の滑りを前記ピン21で減少させることにより、歪みゲージ19の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。これにより、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0021】
また、荷重検出手段である歪みゲージ19の取付けにおいては、車輪用軸受への追加工をほとんど必要としないので、軸受剛性を低下させることもない。
また、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0022】
なお、この実施形態では、荷重検出手段として、車体取付用フランジ1aの外径面に複数個の歪みゲージ19を貼り付けた例を示したが、歪みゲージ19を他の部位に取付けても良く、その個数も限定しない。また、荷重検出手段として、変位センサや超音波センサなど他の種類のセンサを用いても良い。例えば、変位センサや超音波センサを車体取付フランジ1aの突片1aaに固定し、突片1aaとその他の部分の相対変位を測定する場合などに有効である。
また、この実施形態では、摩擦防止手段となるピン21を、各ナックルボルト18の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aとナックル16の両接触面にわたって各1本設けた例を示しているが、その数や設置位置についてはとくに限定しない。
【0023】
図3および図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態のセンサ付車輪用軸受では、図1および図2に示す実施形態において、摩擦防止手段としてピン21を用いたのに代えて、ボルト24を用いて、ねじ結合部28を設けている。すなわち、フランジ1aの各突片1aaにおけるナックル16との接触面には前記ボルト24を螺合させるねじ孔25が設けられ、フランジ1aの接触面に接触するナックル16の接触面における前記ねじ孔25に対面する部位には前記ボルト24を挿通させるボルト挿通孔26が設けられる。これらボルト24、ねじ孔25、およびボルト挿通孔26により、上記ねじ結合部28が構成される。このような構造として、ナックル16のインボード側から前記ボルト挿通孔26に挿通したボルト24をフランジ1aの前記ねじ孔25に螺合させることで、ナックルボルト18の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aのナックル16への接触面とナックル16のフランジ1aへの接触面とがボルト24でさらに固定される。ボルト24は、ナックルボルト18に比べて数分の1程度と小径であり、ボルト24とそのボルト挿通孔26との間の許容隙間は、ナックルボルト18とそのボルト挿通孔17との間の許容隙間に比べて十分に小さい。また、フランジ1aとナックル16の間の最大静摩擦力が大きくなる。これにより、フランジ1aとナックル16の間では、接触面方向の自由度と軸方向の自由度とが抑制され、フランジ1aとナックル16の接触面の間で相対滑りが抑制される。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。なお、図3は、図4におけるIII − III矢視断面図を示す。
【0024】
この実施形態の場合も、ナックルボルト16の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aとナックル16の接触面の間がボルト24で固定されて、両接触面の間で、その接触面方向の自由度と軸方向の自由度が抑制されることで相対滑りが減少するので、歪みゲージ19の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。その結果、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0025】
図5ないし図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、荷重検出手段として、外方部材1の外周部に、図7に部分図として示す歪みセンサ31(図5、図6の歪みセンサは切欠部を有していない)が設けられている。ここでは、図6のように、2つの歪みセンサ31が外方部材1の周方向の等配位置に設けられている。歪みセンサ31は、歪み拡大手段32に、この歪み拡大手段32の歪みを測定する歪み検出手段としてセンサ素子33を取付けたものである。歪み拡大手段32は、固定側部材である外方部材1の歪みを拡大した歪みを発生する手段であり、外方部材1の外径面半径よりも半径の大きい内径面を有する左右一対の円弧状部32aと、これら円弧状部32aの各先端部から軸方向片側に張り出した第1の接触固定部32bと、前記両円弧状部32aの基端部から内径側に突出する第2の接触固定部32cとでなる。そして、各円弧状部32aの内径面における第2接触固定部32cに近い箇所に、それぞれセンサ素子33が取付けられている。センサ素子33の設置部分には、図7に示すように切欠部32dを設けてもよい。なお、図6は外方部材1と歪みセンサ31とをアウトボード側から見た正面図を、図5(A)は図6におけるVa−Va矢視断面図を、図5(B)は図6におけるVb−Vb矢視断面図をそれぞれ示す。
【0026】
第1の接触固定部32bの先端面は、外方部材1のフランジ1aの側面に接触固定させる第1の接触固定面F1とされている。第1の接触固定部32bおよびそれに隣接する各円弧状部32aには、軸方向に貫通するボルト挿通孔41が2箇所に形成されている。また、第2の接触固定部32cの先端面は、外方部材1の外径面に接触固定させる第2接触固定面F2とされている。第2の接触固定部32cには、径方向に貫通するボルト挿通孔42が形成されている。外方部材1のフランジ1aおよび外径面における前記各ボルト挿通孔41,42に対応する箇所には、図5に示すようにねじ孔44,45が形成されている。
【0027】
上記歪みセンサ31は、図5および図6に示すように、前記ボルト挿通孔41,42に挿通したボルト47を外方部材1のねじ孔44,45に螺合させることにより、歪み拡大手段32の第1接触固定面F1を前記フランジ1aの側面におけるボルト孔14の近傍に接触固定させ、かつ第2の接触固定面F2を外方部材1の外径面にそれぞれ接触固定させて、外方部材1に固定される。この固定状態で、第2の接触固定面F2は、第1の接触固定面F1とは周方向の異なる位相に位置している。また、第2の接触固定面F2が接触固定されている外方部材1の外径面は、外周にフランジ1aの突片1aaが存在しない箇所である。図示はしていないが、歪みセンサ31には、保護用のカバー等を設けるのが好ましい。また、歪み拡大手段32を外方部材1の外周部に設置しやすくするために、前記第1および第2の接触固定面F1,F2が固定されるフランジ1aのねじ孔44の付近や、外方部材1の外径面のねじ孔45の付近に、平坦部や溝などを形成しても良い。
【0028】
歪み拡大手段32は、外方部材1への固定により塑性変形を起こさない形状や材質とされている。また、歪み拡大手段32は、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、塑性変形を起こさない形状とする必要がある。上記想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。歪み拡大手段32に塑性変形が生じると、外方部材1の変形が歪み拡大手段32に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすためである。
【0029】
歪みセンサ31の歪み拡大手段32は、例えばプレス加工により製作することができる。歪み拡大手段32をプレス加工品とすると、コストダウンが可能になる。
また、歪み拡大手段32は、金属粉末射出成形による焼結金属品としてもよい。金属粉末射出成形は、金属、金属間化合物等の成形技術の一つであり、金属粉末をバインダーと混練する工程、この混練物を用いて射出成形する工程、成形体の脱脂処理を行なう工程、成形体の焼結を行なう工程を含む。この金属粉末射出成形によれば、一般の粉末冶金に比べて焼結密度の高い焼結体が得られ、焼結金属品を高い寸法精度で製作することができ、また機械的強度も高いという利点がある。
【0030】
センサ素子33としては、種々のものを使用することができる。例えば、センサ素子33が金属箔ストレインゲージで構成されている場合、この金属箔ストレインゲージの耐久性を考慮すると、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、歪み拡大手段32におけるセンサ素子33取付部分の歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。同様の理由から、センサ素子33が半導体ストレインゲージで構成
されている場合は、同歪み量が1000マイクロストレイン以下であることが好ましい。また、センサ素子33が厚膜式センサで構成されている場合は、同歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。
【0031】
車輪用軸受には、センサ素子33の出力を処理するためのセンサ信号処理回路ユニット50が設けられている。このセンサ信号処理回路ユニット50は、図6に示すように、推定手段20および異常判定手段30を有する。異常判定手段30は、推定手段20により推定された車輪用軸受の予圧量またはタイヤと路面間の作用力が、許容値を超えたと判断される場合に、外部に異常信号を出力する。これらの手段20,30は、自動車の電気制御ユニット(ECU)に設けてもよい。
【0032】
この実施形態の場合も、図1および図2に示す実施形態の場合と同様に、前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間に、両者の間の相対滑りを抑制する摩擦防止手段として、フランジ1aとナックル16とにわたってピン21が設けられている。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。
【0033】
上記構成のセンサ付車輪用軸受の作用を説明する。ハブ輪9に荷重が印加されると、転動体5を介して外方部材1が変形し、その変形は外方部材1に取付けられた歪み拡大手段32に伝わり、歪み拡大手段32が変形する。その歪み拡大手段32の歪みをセンサ素子33により測定する。この際、歪み拡大手段32は外方部材1のフランジ1aと外径面の変形に従って変形する。歪み拡大手段32の第1の接触固定面F1と第2の接触固定面F2との径方向位置が異なるため、外方部材1の例えば径方向および軸方向の歪みが歪み拡大手段32に転写かつ拡大して現れやすい。特に、この実施形態の場合、第1の接触固定面F1が接触固定される箇所を、車輪用軸受に荷重がかかってもほとんど変形しないフランジ1aのボルト孔14の近傍としているため、第1の接触固定面F1と第2の接触固定面F2との変形の差が大きく、歪み拡大手段32の一部に歪みが集中して現れる。この歪み拡大手段32に転写かつ拡大して現れた歪みをセンサ素子33で測定するため、外方部材1の歪みを感度良く検出できる。
【0034】
また、この実施形態でも、車体取付用フランジ1aとナックル16との間に摩擦防止手段としてピン21を設けているので、フランジ1aおよびナックル16は接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りが減少する。これにより、歪みセンサ31の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0035】
また、この実施形態では、2つの歪みセンサ21を外方部材1の周方向の等配位置に設けた構成としているので、様々な方向の荷重を推定することができる。
【0036】
図8および図9は、図5ないし図7に示す実施形態において、歪みセンサ31を別の歪みセンサ31Aに置き換えた実施形態を示す。図8は外方部材1と歪みセンサ31Aとをアウトボード側から見た正面図、図9は歪みセンサ31Aの一部を示す平面図であり、全体の断面図は省略してある。この実施形態での歪みセンサ31Aは、リング状の歪み拡大手段32Aに複数個(この実施形態では8個)のセンサ素子33を取付けたものである。歪み拡大手段32Aは、外方部材1の外径よりも内径が大きいリング状であり、4つの第1の接触固定面F1および4つの第2の接触固定面F2を有する。4つの第1の接触固定面F1は、円周状部32a’の4箇所からそれぞれ軸方向片側に張り出した第1の接触固定部32bの先端に形成されている。第2の接触固定面F2は、円周状部32a’における隣合う2つの第1の接触固定部32b,32bの中間部に位置し、内径側に突出する第2の接触固定部32cの先端に形成されている。そして、円周状部32a’の内径面における、各第2の接触固定部32cを挟んで両側の第2の接触固定部32cに近い箇所に、計8個のセンサ素子33が取付けられている。
【0037】
この歪みセンサ31Aも、ボルト47により、第1の接触固定面F1をそれぞれ外方部材1のフランジ1aの側面におけるボルト孔14の近傍に接触固定させ、かつ第2の接触固定面F2を外方部材1の外径面に接触固定させて、外方部材1に固定される。固定状態では、隣合う2つの第1の接触固定面F1,F1の中間部に、第2の接触固定面F2が位置する。その位置は、外方部材1の外径面におけるフランジ1aの突片1aaが存在しない箇所とされている。その他の構造は、図5ないし図7に示す実施形態の場合と同様である。
【0038】
この実施形態によれば、歪みセンサ31Aの構成において、1つの歪み拡大手段32Aに複数個のセンサ素子33が取付けられているため、外方部材1の各部の歪みを検出することができ、その検出結果より、様々な方向の荷重を推定することができる。また、外方部材1の歪みの測定精度が高い。さらに、図5ないし図7に示す実施形態と同様に、歪み拡大手段32Aが複数の第1の接触固定面F1により外方部材1における変形の小さい箇所に固定されるため、ボルト47による締め付け力のアンバランスに起因するヒステリシスを減少させることができる。この歪みセンサ31Aの構成とすると、1つの歪み拡大手段32Aに各センサ素子33が取付けられているため、複数のセンサ素子33を外方部材1に設ける場合に、その取り付けが容易である。
【0039】
図10および図11は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、荷重検出手段として、外方部材1の外周部に、図11に部分拡大断面図で示す歪みセンサ31Bが設けられている。この歪みセンサ31Bも、歪み拡大手段32Bに、この歪み拡大手段32Bの歪みを測定するセンサ素子33を取付けたものである。
【0040】
前記歪みセンサ31Bにおいて、歪み拡大手段32Bは、板材をL字状に折り曲げて形成され、外方部材1のフランジ1aにおけるボルト孔14の近傍のアウトボード側に向く側面に対向する径方向片32Baと、外方部材1の外径面に対向する軸方向片32Bbとを有する。センサ素子33は軸方向片32Bbの片面に固定される。この歪み拡大手段32Bは、2つの接触固定部材53,54を介して外方部材1の外周部に、ボルト59で締結される。すなわち、径方向片32Baに形成されたボルト挿通孔51から第1の接触固定部材53のボルト挿通孔55に挿通させたボルト59を、外方部材1のフランジ1aにおけるナックルボルト18用のボルト孔14の近傍に設けられた別のボルト孔57に螺合させ、軸方向片32Bbに形成されたボルト挿通孔52から第2の接触固定部材54のボルト挿通孔56に挿通させたボルト59を、外方部材1の外径面に設けられたボルト孔58に螺合させることで、歪み拡大手段32Bが外方部材1に締結される。
【0041】
また、この実施形態では、摩擦防止手段としてボルト24Aを用いたねじ結合部28Aを設けている。すなわち、外方部材1のフランジ1aにおける歪み拡大手段32Bの固定用のボルト59のボルト孔57に整合するボルト挿通孔60をナックル16に貫通して設け、ナックル16のインボード側から前記ボルト挿通孔60に挿通したボルト24Aを、フランジ1aの前記ボルト孔57に螺合させている。ボルト24Aと、ボルト孔57と、ボルト挿通孔60とで、上記ねじ結合部28Aが構成される。この例においても、ボルト24Aの径は、ナックルボルト18に比べて十分に小径であり、そのボルト挿通孔60との間の許容隙間も、ナックルボルト18に比べて十分に小さい。また、フランジ1aのナックル16の間の最大静摩擦力が大きくなる。これにより、ナックルボルト18の取付部の近傍において、車体取付用フランジ1aのナックル16への接触面とナックル16のフランジ1aへの接触面とがボルト24Aでさらに固定され、フランジ1aとナックル16の間で、接触面方向の自由度と軸方向の自由度とが抑制される。
【0042】
図12は、さらに他の実施形態を示す。この実施形態は、図1に示す第1の実施形態において、摩擦防止手段となるピン21に代えて、フランジ1aとナックル16の両接触面の間に、両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段となる固体潤滑剤29を介在させたものである。固体潤滑剤29には、二硫化モリブデン等が用いられる。
このように固体潤滑剤29を介在させることにより、フランジ1aとナックル16の両接触面間の静摩擦が小さくなり、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。これよっても、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。この実施形態におけるその他の構成,効果は、図1,図2に示す第1の実施形態と同様である。
なお、図3〜図11の各実施形態においても、ピンまたはねじ結合部からなる摩擦防止手段に代えて、図12の例と同様に、フランジ1aとナックル16の両接触面の間に、摩擦防止手段として固体潤滑剤を介在させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受をインボード側から見た正面図である。
【図3】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図4】同センサ付車輪用軸受をインボード側から見た正面図である。
【図5】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図、(B)は同センサ付車輪用軸受における他の周方向での部分断面図である。
【図6】同センサ付車輪用軸受の外方部材と歪みセンサとを示す正面図である。
【図7】(A)は同歪みセンサの部分正面図、(B)はその部分平面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の外方部材と歪みセンサとを示す正面図である。
【図9】同歪みセンサの部分平面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図11】同センサ付車輪用軸受の部分拡大断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図13】従来例における問題点の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1…外方部材
1a…車体取付用フランジ
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
14…ボルト孔
18…ナックルボルト
19…歪みゲージ(荷重検出手段)
21…ピン(摩擦防止手段)
24,24A…ボルト
28,28A…ねじ結合部(摩擦防止手段)
31,31A,31B…歪みセンサ(荷重検出手段)
32,32A,32B…歪み拡大手段
32b,32c…接触固定部
33…センサ素子
53,54…接触固定部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪フランジの外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、固定輪のフランジ部と外径部にわたってL字型部材からなる歪み拡大手段を取付け、その歪み拡大手段の一部に歪みゲージを貼り付けた車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特開2006−077807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間の摩擦や滑りが伴うため、繰返し荷重を印加すると、図13に示すように出力信号にヒステリシスが発生すると言った問題がある。また、特許文献2に開示の技術においても、L字型部材からなる歪み拡大手段のフランジ面に固定されている部位が、フランジ面とナックル面の摩擦や滑りの影響を受けるため、上記と同様の問題が生じる。
これにつき説明する。車輪用軸受は、車体取付用フランジにボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトによりナックルに締め付け固定される。ナックルボルトによる締め付けのため、車輪用軸受とナックルとは、通常は相対滑りが生じないが、作用荷重が最大静止摩擦力を超えると、相対滑りが発生する。ボルト孔の内面とナックルボルトとの間には許容隙間があり、この隙間の範囲で車輪用軸受とナックルとの相対滑りが可能である。また、車輪用軸受の弾性変形により、車輪用軸受とナックルとの相対滑りが発生する。
車輪用軸受に対して、ある方向への作用荷重が大きくなる場合、車輪用軸受の車体取付用フランジのフランジ面とナックル面の間は、最初は作用荷重よりも静止摩擦力の方が大きいために滑らないが、作用荷重がある大きさを超えると、最大静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で作用荷重を抜いて行くと、車輪用軸受の弾性復元力で元の作用荷重と逆方向の荷重が接触面に作用し、やはり最初は滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この部分の変形が作用する部分で荷重を検出しようとすると、出力信号に図13に示すようなヒステリシスが生じる。このヒステリシスは、接触面の状態や温度など、種々の条件によって変わるため、補正が困難であり、そのため精度の良い荷重検出が困難となる。
【0004】
この発明の目的は、外方部材の車体取付用フランジとナックルとの接触面間の摩擦や滑りの影響を緩和でき、車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたものである。
この構成の作用を説明する。車輪用軸受に対して、ある方向への作用荷重が大きくなる場合、車輪用軸受の車体取付用フランジのフランジ面とナックル面の間は、最初は作用荷重よりも静止摩擦力の方が大きいために滑らないが、作用荷重がある大きさを超えると、最大静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で作用荷重が減少すると、車輪用軸受の弾性復元力で元の作用荷重と逆方向の荷重が接触面に作用し、やはり最初は滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この部分の変形が作用する部分で荷重を検出しようとすると、出力信号にヒステリシスが生じる。
しかし、車体取付用フランジとナックルとの間に上記構成の摩擦防止手段を設けることで、上記のヒステリシスが減少し、そのため荷重検出手段による検出が正確に行える。
上記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックル間の相対滑りを抑制するものである場合は、その相対滑りが減少することによって、上記ヒステリシスが減少する。
上記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックル間の静摩擦係数を小さくするものである場合は、上記とは逆に、小さな荷重で相対滑りが生じることで、上記ヒステリシスが減少する。
【0006】
この発明において、前記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックルとに渡って設けられたピンであっても良い。上記ピンは、例えば車体取付用フランジおよびナックルに設けられたピン嵌合孔に渡って密に嵌合させる。
このようにピンを設けると、フランジとナックルの間の接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りの最大滑り量が減少する。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0007】
この発明において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトとは別に、車体取付用フランジとナックルとの間に設けられたねじ結合部であっても良い。
このようにねじ結合部を設けた場合も、フランジとナックルの間の接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りの最大滑り量が減少する。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0008】
この発明において、前記摩擦防止手段が、車体取付用フランジとナックルとの接触面間に介在させた固体潤滑剤であっても良い。固体潤滑剤には、例えば二硫化モリブデン等が使用できる。この構成の場合、フランジとナックルの接触面における静摩擦係数が小さくなって、最大静止摩擦力が小さくなる。このため、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、荷重検出手段による検出が精度良く行える。
【0009】
この発明において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の歪みを検出する手段であっても良い。固定側部材の歪みの検出によれば、車輪のタイヤと路面間の作用力や車輪用軸受の予圧量の検出が簡単に行える。この場合に、摩擦防止手段を設けているため、歪み検出の場合のヒステリシスが減少し、精度の良い荷重検出が行える。
【0010】
この発明において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材に対して固定される2つ以上の接触固定部を有し前記固定側部材の歪みを拡大した歪みを発生する歪み拡大手段と、この歪み拡大手段の歪みを検出する歪み検出手段とでなるものであっても良い。
このように歪み拡大手段を設けることで、固定側部材の小さな歪みを拡大して検出することができて、感度良く正確に荷重や予圧量を検出することができる。
特に、固定側部材の車体取付用フランジのボルト孔周辺のような変形が小さい部分と、固定側部材の外径面のような変形が大きい部分とに上記接触固定部を設ければ、歪み拡大手段が変形し易くなる。また、歪み拡大手段に切欠部などを設ければ、その部分に歪みが集中し易くなる。これらによって、より一層感度良く、また正確に荷重や予圧量を検出することができる。
【0011】
この発明において、前記摩擦防止手段を、前記ナックルボルトの取付部の周辺に設けても良い。摩擦防止手段をナックルボルトの取付部の周辺に設けることで、フランジとナックルの間の接触面積の大きい部分で、相対滑りの抑制または摩擦を低減させることができる。そのため、荷重検出手段による検出がより精度良く行える。特に、歪み拡大手段につき、固定側部材の車体取付用フランジのボルト孔周辺のような変形が小さい部分と、固定側部材の外径面のような変形が大きい部分とに上記接触固定部を設ければ、歪み拡大手段に歪みが集中し易くなるため、感度が良く、ヒステリシスのより少ない出力信号が得られる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さく摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたため、固定側部材の車体取付用ブランジのフランジ面とナックル面の間の摩擦もしくは滑りを防止でき、車輪にかかる荷重を精度良く検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0014】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0015】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0016】
図2は、この車輪用軸受のインボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−O−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。これら各突片1aaの基端における円周方向の両側の端面部分は、車体取付用フランジ1aにおける突片1aaの非成形部1abの外径面に対して円弧状の正面形状となって続く円弧面部1aa1とされている。この円弧面部1aa1の外径面に、荷重検出手段として1つ以上(ここでは、各円弧面部1aa1の外径面毎に各1個で合計8個)の歪みゲージ19が貼り付けられている。なお、歪みゲージ19の個数は特に特定されない。ここでは、これらの歪みゲージ19は、外方部材1の周方向の歪みを検出する方向に貼り付けられている。歪みゲージ19として、例えば抵抗線歪みゲージが用いられるが、そのほか半導体歪みゲージを用いても良い。歪みゲージ19には、保護用のカバー等を設けるのが好ましい。
【0017】
前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間には、両者の間の相対滑りを抑制する摩擦防止手段としてピン21が設けられている。ピン21は、フランジ1aとナックル16とにわたって設けられ、これによりフランジ1aとナックル16の接触面方向の自由度が抑制され、相対滑りが減少される。具体的には、フランジ1aの各突片1aaにおけるナックル16との接触面、およびこの接触面に接触するナックル16の接触面におけるナックルボルト18の取付部近傍に、前記ピン21を挿入させる位置決め孔22,23がそれぞれ設けられている。これら両位置決め孔22,23にわたって前記ピン21を嵌合させ、この嵌合を圧入嵌合とするかまたは接着剤による接着を併用することで固定している。
【0018】
前記歪みゲージ19は推定手段20に接続される。推定手段20は、歪みゲージ19の出力信号により、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。推定手段20は、車輪のタイヤと路面間の作用力と歪みゲージ19の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0019】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。このとき、外方部材1のフランジ1aに設けられた突片1aaの位置は、ナックルボルト18により車体の懸架装置におけるナックル16に固定されているのでほとんど変形せず、車体取付用フランジ1aにおける突片1aaの非成形部1abの外径面が外方向へ変形する。これにより、前記円弧面部1aa1に歪みが集中し、荷重により歪み量が大きく変化する。このため、円弧面部1aa1の外径面に貼り付けられた歪みゲージ19は、荷重の印加に伴う外方部材1の歪みを感度良く検出することがきる。この歪みゲージ19の出力信号から、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定手段20で推定するようにしているので、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を正確に検出することができる。
【0020】
とくに、車体取付用フランジ1aとナックル16との間に摩擦防止手段としてピン21を設けているので、フランジ1aおよびナックル16は接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りが減少する。一方、荷重検出手段となる歪みゲージ19は、上記したように車体取付フランジ1aの突片1aaと突片1aaの非成形部1abの相対変位により発生する円弧面部1aa1歪みを検出するので、フランジ1aの突片1aaのボルト孔14の周辺部の滑りを前記ピン21で減少させることにより、歪みゲージ19の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。これにより、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0021】
また、荷重検出手段である歪みゲージ19の取付けにおいては、車輪用軸受への追加工をほとんど必要としないので、軸受剛性を低下させることもない。
また、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0022】
なお、この実施形態では、荷重検出手段として、車体取付用フランジ1aの外径面に複数個の歪みゲージ19を貼り付けた例を示したが、歪みゲージ19を他の部位に取付けても良く、その個数も限定しない。また、荷重検出手段として、変位センサや超音波センサなど他の種類のセンサを用いても良い。例えば、変位センサや超音波センサを車体取付フランジ1aの突片1aaに固定し、突片1aaとその他の部分の相対変位を測定する場合などに有効である。
また、この実施形態では、摩擦防止手段となるピン21を、各ナックルボルト18の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aとナックル16の両接触面にわたって各1本設けた例を示しているが、その数や設置位置についてはとくに限定しない。
【0023】
図3および図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態のセンサ付車輪用軸受では、図1および図2に示す実施形態において、摩擦防止手段としてピン21を用いたのに代えて、ボルト24を用いて、ねじ結合部28を設けている。すなわち、フランジ1aの各突片1aaにおけるナックル16との接触面には前記ボルト24を螺合させるねじ孔25が設けられ、フランジ1aの接触面に接触するナックル16の接触面における前記ねじ孔25に対面する部位には前記ボルト24を挿通させるボルト挿通孔26が設けられる。これらボルト24、ねじ孔25、およびボルト挿通孔26により、上記ねじ結合部28が構成される。このような構造として、ナックル16のインボード側から前記ボルト挿通孔26に挿通したボルト24をフランジ1aの前記ねじ孔25に螺合させることで、ナックルボルト18の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aのナックル16への接触面とナックル16のフランジ1aへの接触面とがボルト24でさらに固定される。ボルト24は、ナックルボルト18に比べて数分の1程度と小径であり、ボルト24とそのボルト挿通孔26との間の許容隙間は、ナックルボルト18とそのボルト挿通孔17との間の許容隙間に比べて十分に小さい。また、フランジ1aとナックル16の間の最大静摩擦力が大きくなる。これにより、フランジ1aとナックル16の間では、接触面方向の自由度と軸方向の自由度とが抑制され、フランジ1aとナックル16の接触面の間で相対滑りが抑制される。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。なお、図3は、図4におけるIII − III矢視断面図を示す。
【0024】
この実施形態の場合も、ナックルボルト16の取付部近傍において、車体取付用フランジ1aとナックル16の接触面の間がボルト24で固定されて、両接触面の間で、その接触面方向の自由度と軸方向の自由度が抑制されることで相対滑りが減少するので、歪みゲージ19の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。その結果、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0025】
図5ないし図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、荷重検出手段として、外方部材1の外周部に、図7に部分図として示す歪みセンサ31(図5、図6の歪みセンサは切欠部を有していない)が設けられている。ここでは、図6のように、2つの歪みセンサ31が外方部材1の周方向の等配位置に設けられている。歪みセンサ31は、歪み拡大手段32に、この歪み拡大手段32の歪みを測定する歪み検出手段としてセンサ素子33を取付けたものである。歪み拡大手段32は、固定側部材である外方部材1の歪みを拡大した歪みを発生する手段であり、外方部材1の外径面半径よりも半径の大きい内径面を有する左右一対の円弧状部32aと、これら円弧状部32aの各先端部から軸方向片側に張り出した第1の接触固定部32bと、前記両円弧状部32aの基端部から内径側に突出する第2の接触固定部32cとでなる。そして、各円弧状部32aの内径面における第2接触固定部32cに近い箇所に、それぞれセンサ素子33が取付けられている。センサ素子33の設置部分には、図7に示すように切欠部32dを設けてもよい。なお、図6は外方部材1と歪みセンサ31とをアウトボード側から見た正面図を、図5(A)は図6におけるVa−Va矢視断面図を、図5(B)は図6におけるVb−Vb矢視断面図をそれぞれ示す。
【0026】
第1の接触固定部32bの先端面は、外方部材1のフランジ1aの側面に接触固定させる第1の接触固定面F1とされている。第1の接触固定部32bおよびそれに隣接する各円弧状部32aには、軸方向に貫通するボルト挿通孔41が2箇所に形成されている。また、第2の接触固定部32cの先端面は、外方部材1の外径面に接触固定させる第2接触固定面F2とされている。第2の接触固定部32cには、径方向に貫通するボルト挿通孔42が形成されている。外方部材1のフランジ1aおよび外径面における前記各ボルト挿通孔41,42に対応する箇所には、図5に示すようにねじ孔44,45が形成されている。
【0027】
上記歪みセンサ31は、図5および図6に示すように、前記ボルト挿通孔41,42に挿通したボルト47を外方部材1のねじ孔44,45に螺合させることにより、歪み拡大手段32の第1接触固定面F1を前記フランジ1aの側面におけるボルト孔14の近傍に接触固定させ、かつ第2の接触固定面F2を外方部材1の外径面にそれぞれ接触固定させて、外方部材1に固定される。この固定状態で、第2の接触固定面F2は、第1の接触固定面F1とは周方向の異なる位相に位置している。また、第2の接触固定面F2が接触固定されている外方部材1の外径面は、外周にフランジ1aの突片1aaが存在しない箇所である。図示はしていないが、歪みセンサ31には、保護用のカバー等を設けるのが好ましい。また、歪み拡大手段32を外方部材1の外周部に設置しやすくするために、前記第1および第2の接触固定面F1,F2が固定されるフランジ1aのねじ孔44の付近や、外方部材1の外径面のねじ孔45の付近に、平坦部や溝などを形成しても良い。
【0028】
歪み拡大手段32は、外方部材1への固定により塑性変形を起こさない形状や材質とされている。また、歪み拡大手段32は、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、塑性変形を起こさない形状とする必要がある。上記想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。歪み拡大手段32に塑性変形が生じると、外方部材1の変形が歪み拡大手段32に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすためである。
【0029】
歪みセンサ31の歪み拡大手段32は、例えばプレス加工により製作することができる。歪み拡大手段32をプレス加工品とすると、コストダウンが可能になる。
また、歪み拡大手段32は、金属粉末射出成形による焼結金属品としてもよい。金属粉末射出成形は、金属、金属間化合物等の成形技術の一つであり、金属粉末をバインダーと混練する工程、この混練物を用いて射出成形する工程、成形体の脱脂処理を行なう工程、成形体の焼結を行なう工程を含む。この金属粉末射出成形によれば、一般の粉末冶金に比べて焼結密度の高い焼結体が得られ、焼結金属品を高い寸法精度で製作することができ、また機械的強度も高いという利点がある。
【0030】
センサ素子33としては、種々のものを使用することができる。例えば、センサ素子33が金属箔ストレインゲージで構成されている場合、この金属箔ストレインゲージの耐久性を考慮すると、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、歪み拡大手段32におけるセンサ素子33取付部分の歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。同様の理由から、センサ素子33が半導体ストレインゲージで構成
されている場合は、同歪み量が1000マイクロストレイン以下であることが好ましい。また、センサ素子33が厚膜式センサで構成されている場合は、同歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。
【0031】
車輪用軸受には、センサ素子33の出力を処理するためのセンサ信号処理回路ユニット50が設けられている。このセンサ信号処理回路ユニット50は、図6に示すように、推定手段20および異常判定手段30を有する。異常判定手段30は、推定手段20により推定された車輪用軸受の予圧量またはタイヤと路面間の作用力が、許容値を超えたと判断される場合に、外部に異常信号を出力する。これらの手段20,30は、自動車の電気制御ユニット(ECU)に設けてもよい。
【0032】
この実施形態の場合も、図1および図2に示す実施形態の場合と同様に、前記車体取付用フランジ1aとナックル16との間に、両者の間の相対滑りを抑制する摩擦防止手段として、フランジ1aとナックル16とにわたってピン21が設けられている。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と同様である。
【0033】
上記構成のセンサ付車輪用軸受の作用を説明する。ハブ輪9に荷重が印加されると、転動体5を介して外方部材1が変形し、その変形は外方部材1に取付けられた歪み拡大手段32に伝わり、歪み拡大手段32が変形する。その歪み拡大手段32の歪みをセンサ素子33により測定する。この際、歪み拡大手段32は外方部材1のフランジ1aと外径面の変形に従って変形する。歪み拡大手段32の第1の接触固定面F1と第2の接触固定面F2との径方向位置が異なるため、外方部材1の例えば径方向および軸方向の歪みが歪み拡大手段32に転写かつ拡大して現れやすい。特に、この実施形態の場合、第1の接触固定面F1が接触固定される箇所を、車輪用軸受に荷重がかかってもほとんど変形しないフランジ1aのボルト孔14の近傍としているため、第1の接触固定面F1と第2の接触固定面F2との変形の差が大きく、歪み拡大手段32の一部に歪みが集中して現れる。この歪み拡大手段32に転写かつ拡大して現れた歪みをセンサ素子33で測定するため、外方部材1の歪みを感度良く検出できる。
【0034】
また、この実施形態でも、車体取付用フランジ1aとナックル16との間に摩擦防止手段としてピン21を設けているので、フランジ1aおよびナックル16は接触面方向への自由度が抑制され、相対滑りが減少する。これにより、歪みセンサ31の出力信号のヒステリシスを小さくすることができ、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。
【0035】
また、この実施形態では、2つの歪みセンサ21を外方部材1の周方向の等配位置に設けた構成としているので、様々な方向の荷重を推定することができる。
【0036】
図8および図9は、図5ないし図7に示す実施形態において、歪みセンサ31を別の歪みセンサ31Aに置き換えた実施形態を示す。図8は外方部材1と歪みセンサ31Aとをアウトボード側から見た正面図、図9は歪みセンサ31Aの一部を示す平面図であり、全体の断面図は省略してある。この実施形態での歪みセンサ31Aは、リング状の歪み拡大手段32Aに複数個(この実施形態では8個)のセンサ素子33を取付けたものである。歪み拡大手段32Aは、外方部材1の外径よりも内径が大きいリング状であり、4つの第1の接触固定面F1および4つの第2の接触固定面F2を有する。4つの第1の接触固定面F1は、円周状部32a’の4箇所からそれぞれ軸方向片側に張り出した第1の接触固定部32bの先端に形成されている。第2の接触固定面F2は、円周状部32a’における隣合う2つの第1の接触固定部32b,32bの中間部に位置し、内径側に突出する第2の接触固定部32cの先端に形成されている。そして、円周状部32a’の内径面における、各第2の接触固定部32cを挟んで両側の第2の接触固定部32cに近い箇所に、計8個のセンサ素子33が取付けられている。
【0037】
この歪みセンサ31Aも、ボルト47により、第1の接触固定面F1をそれぞれ外方部材1のフランジ1aの側面におけるボルト孔14の近傍に接触固定させ、かつ第2の接触固定面F2を外方部材1の外径面に接触固定させて、外方部材1に固定される。固定状態では、隣合う2つの第1の接触固定面F1,F1の中間部に、第2の接触固定面F2が位置する。その位置は、外方部材1の外径面におけるフランジ1aの突片1aaが存在しない箇所とされている。その他の構造は、図5ないし図7に示す実施形態の場合と同様である。
【0038】
この実施形態によれば、歪みセンサ31Aの構成において、1つの歪み拡大手段32Aに複数個のセンサ素子33が取付けられているため、外方部材1の各部の歪みを検出することができ、その検出結果より、様々な方向の荷重を推定することができる。また、外方部材1の歪みの測定精度が高い。さらに、図5ないし図7に示す実施形態と同様に、歪み拡大手段32Aが複数の第1の接触固定面F1により外方部材1における変形の小さい箇所に固定されるため、ボルト47による締め付け力のアンバランスに起因するヒステリシスを減少させることができる。この歪みセンサ31Aの構成とすると、1つの歪み拡大手段32Aに各センサ素子33が取付けられているため、複数のセンサ素子33を外方部材1に設ける場合に、その取り付けが容易である。
【0039】
図10および図11は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、荷重検出手段として、外方部材1の外周部に、図11に部分拡大断面図で示す歪みセンサ31Bが設けられている。この歪みセンサ31Bも、歪み拡大手段32Bに、この歪み拡大手段32Bの歪みを測定するセンサ素子33を取付けたものである。
【0040】
前記歪みセンサ31Bにおいて、歪み拡大手段32Bは、板材をL字状に折り曲げて形成され、外方部材1のフランジ1aにおけるボルト孔14の近傍のアウトボード側に向く側面に対向する径方向片32Baと、外方部材1の外径面に対向する軸方向片32Bbとを有する。センサ素子33は軸方向片32Bbの片面に固定される。この歪み拡大手段32Bは、2つの接触固定部材53,54を介して外方部材1の外周部に、ボルト59で締結される。すなわち、径方向片32Baに形成されたボルト挿通孔51から第1の接触固定部材53のボルト挿通孔55に挿通させたボルト59を、外方部材1のフランジ1aにおけるナックルボルト18用のボルト孔14の近傍に設けられた別のボルト孔57に螺合させ、軸方向片32Bbに形成されたボルト挿通孔52から第2の接触固定部材54のボルト挿通孔56に挿通させたボルト59を、外方部材1の外径面に設けられたボルト孔58に螺合させることで、歪み拡大手段32Bが外方部材1に締結される。
【0041】
また、この実施形態では、摩擦防止手段としてボルト24Aを用いたねじ結合部28Aを設けている。すなわち、外方部材1のフランジ1aにおける歪み拡大手段32Bの固定用のボルト59のボルト孔57に整合するボルト挿通孔60をナックル16に貫通して設け、ナックル16のインボード側から前記ボルト挿通孔60に挿通したボルト24Aを、フランジ1aの前記ボルト孔57に螺合させている。ボルト24Aと、ボルト孔57と、ボルト挿通孔60とで、上記ねじ結合部28Aが構成される。この例においても、ボルト24Aの径は、ナックルボルト18に比べて十分に小径であり、そのボルト挿通孔60との間の許容隙間も、ナックルボルト18に比べて十分に小さい。また、フランジ1aのナックル16の間の最大静摩擦力が大きくなる。これにより、ナックルボルト18の取付部の近傍において、車体取付用フランジ1aのナックル16への接触面とナックル16のフランジ1aへの接触面とがボルト24Aでさらに固定され、フランジ1aとナックル16の間で、接触面方向の自由度と軸方向の自由度とが抑制される。
【0042】
図12は、さらに他の実施形態を示す。この実施形態は、図1に示す第1の実施形態において、摩擦防止手段となるピン21に代えて、フランジ1aとナックル16の両接触面の間に、両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段となる固体潤滑剤29を介在させたものである。固体潤滑剤29には、二硫化モリブデン等が用いられる。
このように固体潤滑剤29を介在させることにより、フランジ1aとナックル16の両接触面間の静摩擦が小さくなり、荷重検出手段の出力信号のヒステリシスを小さくすることができる。これよっても、車輪とタイヤの路面間の作用力を精度良く検出することができる。この実施形態におけるその他の構成,効果は、図1,図2に示す第1の実施形態と同様である。
なお、図3〜図11の各実施形態においても、ピンまたはねじ結合部からなる摩擦防止手段に代えて、図12の例と同様に、フランジ1aとナックル16の両接触面の間に、摩擦防止手段として固体潤滑剤を介在させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受をインボード側から見た正面図である。
【図3】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図4】同センサ付車輪用軸受をインボード側から見た正面図である。
【図5】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図、(B)は同センサ付車輪用軸受における他の周方向での部分断面図である。
【図6】同センサ付車輪用軸受の外方部材と歪みセンサとを示す正面図である。
【図7】(A)は同歪みセンサの部分正面図、(B)はその部分平面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の外方部材と歪みセンサとを示す正面図である。
【図9】同歪みセンサの部分平面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図11】同センサ付車輪用軸受の部分拡大断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図13】従来例における問題点の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1…外方部材
1a…車体取付用フランジ
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
14…ボルト孔
18…ナックルボルト
19…歪みゲージ(荷重検出手段)
21…ピン(摩擦防止手段)
24,24A…ボルト
28,28A…ねじ結合部(摩擦防止手段)
31,31A,31B…歪みセンサ(荷重検出手段)
32,32A,32B…歪み拡大手段
32b,32c…接触固定部
33…センサ素子
53,54…接触固定部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、
前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、車体取付用フランジとナックルとに渡って設けられたピンであるセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトとは別に、車体取付用フランジとナックルとの間に設けられたねじ結合部であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、車体取付用フランジとナックルとの接触面間に介在させた固体潤滑剤であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の歪みを検出する手段であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材に対して固定される2つ以上の接触固定部を有し前記固定側部材の歪みを拡大した歪みを発生する歪み拡大手段と、この歪み拡大手段の歪みを検出する歪み検出手段とでなるセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトの取付部の周辺に設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外周に車体取付用フランジを有し、この車体取付用フランジの円周方向の複数箇所にボルト孔が設けられ、このボルト孔に挿通されたナックルボルトにより、前記車体取付用フランジがナックルに取付けられた車輪用軸受において、
前記車体取付用フランジとナックルとの間に、両者の間の相対滑りを抑制するか、または両者の接触面の静摩擦係数を小さくする摩擦防止手段を設け、前記車輪用軸受に取付けられる車輪のタイヤと路面間の作用力、または前記車輪用軸受の予圧量を検出する荷重検出手段を設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、車体取付用フランジとナックルとに渡って設けられたピンであるセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトとは別に、車体取付用フランジとナックルとの間に設けられたねじ結合部であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1において、前記摩擦防止手段は、車体取付用フランジとナックルとの接触面間に介在させた固体潤滑剤であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の歪みを検出する手段であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材に対して固定される2つ以上の接触固定部を有し前記固定側部材の歪みを拡大した歪みを発生する歪み拡大手段と、この歪み拡大手段の歪みを検出する歪み検出手段とでなるセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記摩擦防止手段は、前記ナックルボルトの取付部の周辺に設けたセンサ付車輪用軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−286220(P2008−286220A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128968(P2007−128968)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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