説明

ソーワイヤー、ワイヤーソーマシンおよびソーワイヤーの製造方法

【課題】 細小化と長寿命化とを両立させる、あるいはワイヤーソーマシンを用いた切断作業を自動化することに寄与するソーワイヤーおよびワイヤーソーマシンを開発する。
【解決手段】 撚線からなる素線(11)と、その素線(11)を貫通させて等間隔に配置される台筒(12)と、その台筒(12)を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒(12)および前記素線(11)を固定するコーティング剤(14)とを備えるソーワイヤーとする。 前記素線(11)は、直径が4mm以下の鋼製の撚線であり、 前記台筒(12)の表面には、ロウ剤にて固定した砥粒(13)を備える。また、ドライブモータの回転状態データを検出する回転状態検出手段と、その回転状態データによって前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段とを備えたワイヤーソーマシンとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製あるいはアスファルト製等の構造物である被削物を切断する際に用いられて特に好適なワイヤーソー及びそれを用いた切断装置及び切断工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート製あるいはアスファルト製等の建造物の補強や撤去のための切断には、ワイヤーソー(ワイヤーソーマシン)が用いられてきた。
このワイヤーソーは、可撓性のある金属製のワイヤーに、円筒形の台筒に砥粒を固定した刃体(通称「ビーズ」)を所定間隔毎に固定したソーワイヤーを切断刃とし、このソーワイヤーを環状に高速走行させる工具である。前記の「砥粒」にダイヤモンドを採用したソーワイヤーは、切断性能に優れている。
【0003】
一般のソーワイヤーについて、図8および図9を用いて説明する。
炭素鋼のワイヤー100と、そのワイヤー100に対して一定間隔をおいて嵌装される円筒状の円筒刃体200,200・・・と、その円筒刃体200をワイヤー100に固定する固定リング300,300と、前記刃体200,200の間を埋めるようにしてワイヤー100の外周に被覆形成されたワイヤー被覆部材500とからなる。
円筒刃体200は、超硬質の砥粒Wが焼結された切削用砥粒層をその外周に固定している。また、ワイヤー被覆部材500は、ゴムやプラスチック等からなる。
【0004】
円筒刃体200が設けられる周期Pは、約25mm程度とされるものが一般的である。
ワイヤー被覆部材500は、切断作業時の外力からワイヤー100を保護するとともに、円筒刃体200が切削抵抗にて動かないようにする役割をなす。
固定リング300とワイヤー100との固着を確実なものとするため、固定リング300の内周にはネジ部310を設けているが、そのネジ部310とワイヤー100との間にも前記ワイヤー被覆部材500が浸入し、ワイヤー100との固着を更に確実なものとしている。
【0005】
以上のようなソーワイヤーBを用いたワイヤーソーは、被削物Cに巻き掛け、無端状に連結した後、駆動プーリ700を回転駆動して、ワイヤーソーBを走行させることによって、被削物Cを切断する。駆動プーリ700は、駆動装置710とともにテーブル800の上を被削物Cから離れるように移動可能であり、切断時にワイヤーソーBに常に一定の張力を付与し、切削面に円筒刃体200を常に切込ませる。
【0006】
前述した「刃体」の形成において、「台筒」に対する「砥粒」の固定方法としては、メタルボンド式、電気メッキにて電着式、ロウ剤を使って反応させて固定する溶着式などがある。
メタルボンド式は、金属粉末をプレスして焼結させるためのプレス代が必要となるため、台筒の外径寸法を小さくすることに限界がある。一般の技術では、だいたい8mmが最小外径である。工具の寿命としては、一般的には金属粉末焼結をメタルボンド式が最も長い。
電着式では、台筒に通電してメッキ材を積出させるため、台筒の最小外径寸法の制限が緩く、ワイヤーの径(4〜5mm)に合わせて台筒の外径寸法を小さくすることができる。しかし、熱膨張によって砥粒が台筒から外れやすいので、工具寿命が短いという問題がある。電気メッキの制御水準を高めていけば、工具寿命をある程度延ばすことも技術的には可能であるが、コストメリットがなく実用性に乏しい。
【0007】
なお、溶着式に関しては、特許文献1に記載されるような技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−109139号公報
【0008】
特許文献1に記載された技術では、台金の表面に各種金属、合金をメッキもしくは溶着することにより、台金と砥粒層の接着状態が向上し、砥粒層の剥離が防止できる、とある。現状では、円筒刃体の外径が10.5mmのものが一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ダイヤモンドを砥粒とするソーワイヤーを用いたワイヤーソーマシンは、切断対象が石英ガラス、鋳物における型のメンテナンスなどに広がりつつある。このようなニーズでは、最小外径の小さなソーワイヤーが求められることが多く、現状では、電着式にて対応せざるを得ない。そのため、工具寿命が短いという欠点を伴ったままである。最小外径の小さなソーワイヤーであることを求められない場合にはメタルボンド式で対応できるが、切断対象が金属である場合には不向きである。
また、特許文献1に記載された技術では、所望される最小外径を達成しつつ長寿命化を図るには、十分な技術ではない。
更に、電着式の欠点として、工具寿命が突然来てしまうので予測ができない、という問題がある。このため、ワイヤーソーマシンを用いた切断作業を自動化することが困難だった。
【0010】
なお、「ワイヤーソー × 自動化」というキーワードにて特許出願文献を検索し、特開平10−44143号公報など3件の文献を得た。しかし、ワイヤーソーマシンを自動化する技術とは無関係であった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、細小化と長寿命化とを両立させる、あるいはワイヤーソーマシンを用いた切断作業を自動化することに寄与するソーワイヤーおよびワイヤーソーマシン関連技術を開発することにある。
請求項1および請求項2に記載の発明は、細小化と長寿命化とを両立させるソーワイヤーを提供することを目的とする。
請求項3から請求項9に記載の発明は、切断作業を自動化することに寄与するワイヤーソーマシンを提供することを目的とする。
請求項10から請求項12に記載の発明は、細小化と長寿命化とを両立させるソーワイヤーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するため、以下のような発明を提供する。
【0013】
(請求項1)
請求項1に記載の発明は、撚線からなる素線(11)と、 その素線(11)を貫通させて等間隔に配置される台筒(12)と、 その台筒(12)を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒(12)および前記素線(11)を固定するコーティング剤(14)とを備えるソーワイヤーに係る。
前記素線(11)は、直径が4mm以下の鋼製の撚線であり、 前記台筒(12)の表面には、ロウ剤にて固定した砥粒(13)を備えたことを特徴とする。いわゆる「溶着式」のソーワイヤーである。
【0014】
(用語説明)
「素線」について、「直径が4mm以下の鋼製」という限定をしたのは、直径が4mm以下の撚線は、ステンレス製が一般的であり、ソーワイヤーとしては張力が低くて不向きだったからである。直径が1〜2mmの鋼製の撚線が、多くの用途に採用可能性がある。
【0015】
「台筒」としては、例えばステンレス鋼にて製造とした場合には、銅メッキまたは真鍮メッキを施したものとしている。コーティング剤との親和性を高め、ソーワイヤー全体としての強度を高めるためである。メッキをしない場合には接着剤を使用することもできるが、塗膜の厚さを制御するには銅メッキまたは真鍮メッキのほうが簡便である。
「コーティング剤」としては、一般的には合成ゴムである。
【0016】
「砥粒」はダイヤモンドを採用することが一般的である。砥粒の台筒への固定方法は、例えば以下の通りである。台筒の表面に、バインダーを含んだ粉末のロウ剤をまぶし、バインダーが乾かないうちに砥粒を付着させ、熱処理によってロウ付けするという手順である。 その後、真空炉の中で、素線の材質および砥粒(ダイヤモンド)との馴染みがよいロウ剤を用い、摂氏1000度程度まで上昇させ、溶かし、冷却する。
【0017】
(作用)
上記したようなソーワイヤーが提供されることにより、電着式でしか製造できなかった細いソーワイヤーにおいて、長寿命化を達成できる。また、被切断物が金属であっても対応可能である。
また、それに伴い、ワイヤーソーマシンの用途が格段に広がることに寄与する。
【0018】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のソーワイヤーを限定したものであり、
前記砥粒の表面には、セラミック系コーティングを施したことを特徴とする。
【0019】
(用語説明)
「セラミック系コーティング」とは、TiN、TiAIN などである。セラミック系コーティングを行うと、ソーワイヤーの寿命が延びることが判明した。このため、細いソーワイヤーでも、長寿命化に寄与する。
【0020】
(請求項3)
請求項3に記載の発明は、 無端処理したソーワイヤー(10)と、 そのソーワイヤー(10)を架け渡す複数のプーリと、 その複数のプーリのうちの一つであるドライブプーリ(23)を回転させるドライブモータ(24)と、 そのドライブモータ(24)の回転状態データを検出する回転状態検出手段と、 その回転状態検出手段が検出する回転状態データによって前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段(25)とを備えたワイヤーソーマシンに係る。
その寿命判定手段(25)は、ドライブモータ(24)の回転状態データを継続的に測定し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤー(10)の寿命の相関関係データとの比較演算し、寿命であると判定した場合にはドライブモータ(24)の停止信号を出力する。
前記ソーワイヤー(10)は、 撚線からなる鉄鋼製の素線(11)と、 その素線(11)を貫通させて等間隔に配置されるとともにロウ剤にて固定した砥粒(13)を備えた台筒(12)と、 その台筒(12)を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒(12)および前記素線(11)を固定するコーティング剤(14)とを備えたことを特徴とする。
【0021】
(用語説明)
「回転状態データおよび寿命の相関関係データ」とは、本願のワイヤーソーマシンに用いるソーワイヤーにて被切断物を連続的に計測し、ソーワイヤーの寿命との相関関係を得たデータである。「回転状態データ」とは、代表的にはドライブモータ(24)を駆動させるための電流値である。ソーワイヤーをいわゆる溶着式としたことにより、「回転状態データおよび寿命の相関関係データ」との関係を把握できるようになった。
なお、電着式では細いソーワイヤーの製造が可能であるものの、そもそもの寿命が短い上に、砥粒やメッキが突然剥がれ落ちることがあり、寿命と回転状態データとの相関関係データを把握することが困難であった。
【0022】
(作用)
撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにロウ剤にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたソーワイヤーを形成し、無端処理する。そして、そのソーワイヤーを複数のプーリに架け渡し、ドライブモータを回転させることによってソーワイヤーを回転させる。これによって、被切断物の切断が可能となる。
切断中は、ドライブモータの回転状態データを継続的に測定し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤーの寿命の相関関係データとの比較演算し、ソーワイヤーが寿命に達していないかどうかを判断する。寿命である場合には、ドライブモータの回転を停止させる。
以上により、ソーワイヤーが寿命に達したら自動的に運転を停止でき、たとえばドライブモータの無負荷運転やワイヤーソーマシンの損傷などを未然に防止する。
【0023】
(請求項4)
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明における溶着式ソーワイヤーの代わりに、メタルボンド式ソーワイヤーを採用した構成をなす。
【0024】
(作用)
メタルボンド式ソーワイヤーを採用することによって、請求項2に記載のワイヤーソーマシンにて可能な細いソーワイヤーを採用したワイヤーソーマシンを提供することはできないものの、溶着式よりも長寿命のソーワイヤーを採用することができる。しかも、そのワイヤーソーマシンには寿命判定手段が備えられているので、ソーワイヤーが寿命に達したら自動的に運転を停止でき、たとえばドライブモータの無負荷運転やワイヤーソーマシンの損傷などを未然に防止する。
また、この技術は、切断作業の自動化に寄与する。
【0025】
(請求項5)
請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4にて記載したワイヤーソーマシンと異なり、遠隔操作装置(30)を構成要件に備える。
すなわち、 無端処理したソーワイヤー(10)と、 そのソーワイヤー(10)を架け渡す複数のプーリ(21,22,23)と、 その複数のプーリのうちの一つであるドライブプーリ(23)を回転させるドライブモータ(24)と、 そのドライブモータ(24)の回転状態データを検出する回転状態検出手段と、 その回転状態検出手段が検出する回転状態データを送信する送信手段(26)と、 その送信手段(26)から送信された回転状態データを受信して前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定が可能な遠隔操作装置(30)とを備える。 その遠隔操作装置(30)は、前記ソーワイヤー(10)の寿命が寿命に達したと判定した場合には、ドライブモータ(24)の回転を停止させる停止信号を送信可能であり、 前記ドライブモータ(24)は、前記停止信号を受信することによって停止可能なワイヤーソーマシンに係る。
【0026】
(用語説明)
「遠隔操作装置」とは、前記送信手段から送信された回転状態データを受信する受信手段、前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段、その寿命判定手段の判定結果を出力または送信する判定結果出力手段を備えた演算装置、例えばパーソナルコンピュータである。ここで、「寿命判定手段」とは、ドライブモータの回転状態データを継続的に測定して入力し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤーの寿命の相関関係データとの比較演算を実行し、寿命か否かを判定する手段であり、例えば前記のパーソナルコンピュータにおいて実行される。
【0027】
(作用)
無端処理されたソーワイヤーを複数のプーリに架け渡し、ドライブモータを回転させることによってソーワイヤーを回転させる。 被切断物の切断中は、ドライブモータの回転状態データを回転状態検出手段が継続的に測定し、その回転状態検出手段が検出する回転状態データを遠隔操作装置に送信する。
遠隔操作装置は、送信手段から送信された回転状態データを受信してソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定が可能である。ソーワイヤーの寿命が寿命に達したと判定した場合には、ドライブモータの回転を停止させる停止信号を送信する。すると、ドライブモータは、前記停止信号を受信することによって停止させる。
ワイヤーソーマシンおよび被切断物と離れた場所からワイヤーソーマシンを操作可能となるので、操作者に危険がおよばないような場所で使用できる。
【0028】
(請求項6)
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のワイヤーソーマシンを限定したものである。
すなわち、前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにロウ剤にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とする。
【0029】
(作用)
ソーワイヤーにいわゆる溶着式を採用したので、ソーワイヤーの径が細いものでも採用することができ、結果としてワイヤーソーマシンの小型化に寄与する。ソーワイヤーの径が太いと、切断工程において反力が大きく、プーリやそれを支える部品などに強度が要求され、結果としてワイヤーソー全体を小型化することが困難だからである。
【0030】
(請求項7)
請求項7に記載の発明もまた、請求項5に記載のワイヤーソーマシンを限定したものである。
すなわち、前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにメタルボンド式にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とする。
【0031】
(作用)
ソーワイヤーにいわゆるメタルボンド式を採用したので、長寿命のワイヤーソーマシンを提供することができる。したがって、遠隔操作に係るワイヤーソーマシンを長時間連続して使用することができる。
【0032】
(請求項8)
請求項8に記載の発明は、請求項3から請求項7のいずれかに記載のワイヤーソーマシンを限定したものである。
すなわち、前記ソーワイヤーは、前記砥粒の表面にセラミック系コーティングを施したことを特徴とする。
【0033】
(請求項9)
請求項9に記載の発明は、請求項3から請求項8のいずれかに記載のワイヤーソーマシンを限定したものである。
すなわち、複数のプーリは、3つとし、 ドライブプーリ以外のプーリに挟まれた区間を切断部して構成したことを特徴とする。
【0034】
ドライブプーリ以外のプーリは、互いの間隔を変更することができる機構を採用していることが望ましい。「切断部」の大きさを変えることができると、被切断物の大きさによって適切なサイズに変更できるからである。
【0035】
(請求項10)
請求項10に記載の発明は、 撚線からなる直径4ミリメートル以下の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置される台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えるソーワイヤーの製造方法に係る。
すなわち、台筒の表面に、バインダーを含んだ粉末のロウ剤をまぶし、バインダーが乾かないうちにダイヤモンド砥粒を付着させ、熱処理によってロウ付けする台筒作成手順と、 素線の材質およびダイヤモンド砥粒との馴染みがよいロウ剤を用いて真空炉内で加熱した後に冷却する加熱冷却手順と、 その加熱冷却手順を経た台筒を素線に通し、素線にテンションを掛けながら可撓性樹脂をコーティングするコーティング手順とを含んだソーワイヤーの製造方法である。
【0036】
(用語説明)
「バインダー」としては、たとえば、炭化水素系バインダー、アクリル系バインダーなどを用いる。
「ロウ剤」としては、たとえば、活性化銀ロウ、ニッケルロウなどを用いる。
【0037】
(請求項11)
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のソーワイヤーの製造方法を限定したものである。
すなわち、前記台筒にはステンレス鋼を採用し、前記コーティング剤には合成ゴムを採用するとともに、 前記台筒作成手順の前または後に、当該台筒に銅または真鍮のメッキを施すメッキ手順を含むこととしたことを特徴とする。
【0038】
(用語説明)
銅または真鍮のメッキを施すのは、コーティング剤として採用した合成ゴムとの馴染みが良いからである。
メッキ手順は、台筒作成手順の前または後のいずれでもよいが、ダイヤモンド砥粒が台筒に固定された後のほうが、製造上は合理的であることが多い。
【0039】
(請求項12)
請求項12に記載の発明は、請求項10または請求項11のいずれかに記載のソーワイヤーの製造方法を限定したものである。
すなわち、前記砥粒の表面には、セラミック系コーティングを施す砥粒コーティング手順を含むことしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、細小化と長寿命化とを両立させるソーワイヤーを提供することができた。
請求項3から請求項9に記載の発明によれば、切断作業を自動化することに寄与するワイヤーソーマシンを提供することができた。
請求項10から請求項12に記載の発明によれば、細小化と長寿命化とを両立させるソーワイヤーの製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本願発明を、実施形態および図面を用いて更に詳しく説明する。ここで使用する図面は図1から図7である。
【0042】
(図1)
図1に示すのは、本発明の実施形態に係るソーワイヤー10である。このソーワイヤー10は、撚線からなる素線11と、 その素線11を貫通させて等間隔に配置される台筒12と、 その台筒12を多数配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒12および前記素線11を固定するコーティング剤14とからなる。
【0043】
前記素線11は、図1中の直径(d)が4mm以下の鋼製の撚線である。直径が1〜2mmの鋼製の撚線が、多くの用途に採用される。
前記台筒12の表面には、ロウ剤にて固定した砥粒13を備える。この砥粒13は、本実施形態においてはダイヤモンドチップが採用される。
【0044】
台筒12は、ステンレス鋼にて製造し、銅メッキまたは真鍮メッキを施している。コーティング剤との親和性を高め、ソーワイヤー全体としての強度を高めるためである。
コーティング剤14は、合成ゴムを採用している。コーティング剤14が施された状態のソーワイヤー10の直径(D)は、例えば、d=2mmの場合に約4mmとなる。
【0045】
上記したようなソーワイヤー10は、電着式でしか製造できなかった細いソーワイヤーに比べて長寿命化を達成できる。また、メタルボンド式のソーワイヤーには不向きである金属の被切断物であっても対応可能である。
これに伴い、ワイヤーソーマシンの用途が格段に広がることに寄与する。
【0046】
(図2)
図2は、図1に示したソーワイヤー10を採用した、本発明の実施形態に係るワイヤーソーマシン20を概念的に示したものである。
このワイヤーソーマシン20は、無端処理したソーワイヤー10と、 そのソーワイヤー10を架け渡す3つのプーリ21,22,23と、 それらプーリのうちの一つであるドライブプーリ23を回転させるドライブモータ24と、 そのドライブモータ24の回転状態データである電流値を検出する回転状態検出手段と、 その回転状態検出手段が検出する回転状態データによって前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段25とを備える。
その寿命判定手段25は、ドライブモータ24の電流値を継続的に測定し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤー10の寿命の相関関係データとの比較演算し、寿命であると判定した場合にはドライブモータ24の停止信号を出力する。
【0047】
前記ソーワイヤー10を採用したワイヤーソーマシン20を用いて、被切断物を切断しながらドライブモータ24の回転状態データを継続的に測定すると、抵抗値が少ない状態から大きな状態へ変化する初期段階、抵抗値の変化がほとんど無い安定段階、抵抗値が再び変化して大きくなる遷移段階に分かれる。これらのデータを蓄積し、前記した寿命判定手段25の一部である記憶装置に記憶させておく。
【0048】
回転状態検出手段が初期段階または安定段階であると判断する場合には、制御用信号出力手段は、ドライブモータ24に対して特に信号を発しない。そのため、ワイヤーソーマシン20は継続的に運転される。
回転状態検出手段が遷移段階に移行したと判断した場合には、制御用信号出力手段がドライブモータ24の停止信号を出力する。ワイヤーソーマシン20を停止させたら、ソーワイヤー10を交換する。
【0049】
もし、ソーワイヤー10が破断すると同時に、ワイヤーに通されていた台筒がワイヤーの鞭打ち運動とともに弾丸状になって飛散する。この飛散する台筒は、現場の作業者にとっては非常に危険である。あるいは、ソーワイヤー10が破断するとワイヤーソーマシン20と被切断物とが接触するなどして、ワイヤーソーマシン20に大きな負担が掛かり、破損するおそれもある。
本実施形態に係るワイヤーソーマシン20は、ソーワイヤー10の破断を未然に防止する。
【0050】
なお、被切断物がコンクリートなどである場合には、このワイヤーソーマシン20のソーワイヤーは、メタルボンド式ソーワイヤーを採用することもできる。前記した溶着式のソーワイヤー10よりも長寿命となる。
【0051】
(図3)
図3に示すのは、遠隔操作装置30を備えることによって遠隔操作が可能なワイヤーソーマシン20である。
すなわち、 ドライブモータ24の回転状態データを検出する回転状態検出手段と、 その回転状態検出手段が検出する回転状態データを送信する送受信手段26と、 その送受信手段26から送信された回転状態データを受信してソーワイヤー10の寿命を判定する寿命判定が可能な遠隔操作装置30とを備える。
この遠隔操作装置30は、前記ソーワイヤー10の寿命が寿命に達したと判定した場合には、ドライブモータ24の回転を停止させる停止信号を送信可能であり、 前記ドライブモータ24は、前記送受信手段26によって当該停止信号を受信し、それによって停止可能である。
【0052】
「遠隔操作装置」とは、前記送信手段から送信された回転状態データを受信する受信手段、前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段、その寿命判定手段の判定結果を出力または送信する判定結果出力手段を備えたパーソナルコンピュータである。ドライブモータの回転状態データ(電流値)を継続的に測定して入力し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤーの寿命の相関関係データとの比較演算を実行し、寿命か否かを判定する前記パーソナルコンピュータにおいて実行される。
【0053】
本実施形態によれば、ワイヤーソーマシン20および被切断物と離れた場所からワイヤーソーマシン20を操作可能となるので、操作者に危険がおよばない場所にて使用できる。
【0054】
(図4)
図4は、切断部29のサイズを変更可能なワイヤーソーマシン20を示す。
テンションプーリ21,22の位置を拡げたり、狭めたりするのであるが、各プーリに架け渡された無端のソーワイヤーは一定のテンションが必要なので、ドライブプーリ23の位置も変更される。
なお、こうしたプーリの位置変更が可能な機構については、一般的な技術であるので図示を省略する。
【0055】
図4に示す実施形態によれば、被切断物のサイズに応じて適切な切断部の寸法に調整が可能である。
【0056】
(図5)
図5に示すのは、ワイヤーソーマシンと被切断物との関係を図示した例である。
壁41に近接して床に固定された被切断物40は、その壁41と、その壁41の反対側に位置させた駆動機構50との間に架け渡されるソーワイヤー10によって切断される。
壁41には、テンションプーリ21が、上下動可能であるように上下動用レール42に固定されている。
また、ドライブプーリ23が固定された駆動機構50には、そのドライブプーリ23を駆動させるモータを内蔵するとともに、ドライブプーリ23を上下動させることが可能なリンク機構をも備えている。
【0057】
以上のように構成されるワイヤーソーマシンによれば、被切断物40を縦に切断することができる。例えば、原子炉内において解体が必要な構造物に応用できる。
なお、前述した遠隔操作装置を備えたワイヤーソーマシンであれば、作業者が被切断物40に近づかなくても作業が可能である。
【0058】
(図6)
図6は、電着式で作製したダイヤモンド砥石と、溶着式で作製したダイヤモンド砥石(シングルレイヤー)とを性能比較したものである。
いずれも回転式の砥石であり、同じ切削物を切削した場合における抵抗値および寿命までの時間をグラフ化している。
【0059】
この図6からは、電着式においては寿命が短く、抵抗値の変化を継続的に捉えていても、いつ寿命に達するのかを把握することは困難である。一方、溶着式においては、遷移領域、安定領域、加速領域が現れるので、安定領域から加速領域に移行した辺りを寿命として捉えることができる。
この原理を用いたのが、前述した寿命判定手段である。
【0060】
(図7)
図7においては、ダイヤモンド砥粒の表面に対するセラミック系コーティングを施したソーワイヤー(TiN−1−#40、TiALN−1−#40)、施さないソーワイヤー(MBS960−1−#40)、コーティングを施さずに特殊な熱処理を施したソーワイヤー(I.Nix−1−#40)の4種類について、被切断対象に対するドライブモータの電流値を測定したものである。
【0061】
寿命と判定されるまでの回数を比較すると、セラミック系コーティングを施さないソーワイヤー(MBS960−1−#40)は184回で寿命となり、コーティングを施さずに特殊な熱処理を施したソーワイヤー(I.Nix−1−#40)は214回で寿命となった。
しかし、TiNのセラミックコーティングを施したソーワイヤーは234回、TiALNのセラミックコーティングを施したソーワイヤーは325回まで、寿命が延びた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願発明は、ワイヤーソーマシンを用いる建築土木業、石英ガラスなどの硬質材料を切断する必要のある製造業、鋳鉄を用いる製造業における金型のメンテナンス業、ワイヤーソーマシンを自動化する生産技術や情報処理に関するサービス業などにおいて、利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係るソーワイヤーの断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るワイヤーソーマシンを示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る遠隔操作可能なワイヤーソーマシンを示す概念図である。
【図4】切断部のサイズを変更可能なワイヤーソーマシンを示す概念図である。
【図5】ワイヤーソーマシンと被切断物との関係を示す側面図である。
【図6】電着式のダイヤモンド砥石と溶着式のダイヤモンド砥粒との性能比較をしたグラフである。
【図7】砥粒(ダイヤモンド)の表面にセラミック系コーティングを施した場合の寿命測定のグラフである。
【図8】従来のソーワイヤーを示す断面図である。
【図9】従来のワイヤーソーマシンを示す概念図である。
【符号の説明】
【0064】
10 ソーワイヤー 11 素線
12 台筒 13 砥粒(ダイヤモンドチップ)
20 ワイヤーソーマシン 21,22 テンションプーリ
23 ドライブプーリ 24 ドライブモータ
25 寿命判定手段 26 送受信手段
28 カバー 29 切断部
30 遠隔操作装置 35 寿命判定手段
40 被切断物 41 壁
42 上下動用レール
50 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚線からなる素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置される台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えるソーワイヤーであって、
前記素線は、直径が4mm以下の鉄鋼製の撚線であり、
前記台筒の表面には、ロウ剤にて固定した砥粒を備えたことを特徴とするソーワイヤー。
【請求項2】
前記砥粒の表面には、セラミック系コーティングを施したことを特徴とする請求項1に記載のソーワイヤー。
【請求項3】
無端処理したソーワイヤーと、
そのソーワイヤーを架け渡す複数のプーリと、
その複数のプーリのうちの一つであるドライブプーリを回転させるドライブモータと、
そのドライブモータの回転状態データを検出する回転状態検出手段と、
その回転状態検出手段が検出する回転状態データによって前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段とを備え、
その寿命判定手段は、ドライブモータの回転状態データを継続的に測定し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤーの寿命の相関関係データとの比較演算し、寿命であると判定した場合にはドライブモータの停止信号を出力するものであり、
前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにロウ剤にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とするワイヤーソーマシン。
【請求項4】
無端処理したソーワイヤーと、
そのソーワイヤーを架け渡す複数のプーリと、
その複数のプーリのうちの一つであるドライブプーリを回転させるドライブモータと、
そのドライブモータの回転状態データを検出する回転状態検出手段と、
その回転状態検出手段が検出する回転状態データによって前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定手段とを備え、
その寿命判定手段は、ドライブモータの回転状態データを継続的に測定し、予め記憶してある回転状態データおよびソーワイヤーの寿命の相関関係データとの比較演算し、寿命であると判定した場合にはドライブモータの停止信号を出力するものであり、
前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにメタルボンド式にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とするワイヤーソーマシン。
【請求項5】
無端処理したソーワイヤーと、
そのソーワイヤーを架け渡す複数のプーリと、
その複数のプーリのうちの一つであるドライブプーリを回転させるドライブモータと、
そのドライブモータの回転状態データを検出する回転状態検出手段と、
その回転状態検出手段が検出する回転状態データを送信する送信手段と、
その送信手段から送信された回転状態データを受信して前記ソーワイヤーの寿命を判定する寿命判定が可能な遠隔操作装置とを備え、
前記遠隔操作装置は、前記ソーワイヤーの寿命が寿命に達したと判定した場合には、ドライブモータの回転を停止させる停止信号を送信可能であり、
前記ドライブモータは、前記停止信号を受信することによって停止可能としたことを特徴とするワイヤーソーマシン。
【請求項6】
前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにロウ剤にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とする請求項5に記載のワイヤーソーマシン。
【請求項7】
前記ソーワイヤーは、 撚線からなる鉄鋼製の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置されるとともにメタルボンド式にて固定した砥粒を備えた台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えたことを特徴とする請求項5に記載のワイヤーソーマシン。
【請求項8】
前記ソーワイヤーは、前記砥粒の表面にセラミック系コーティングを施したことを特徴とする請求項3から請求項7のいずれかに記載のワイヤーソーマシン。
【請求項9】
複数のプーリは、3つとし、
ドライブプーリ以外のプーリに挟まれた区間を切断部して構成したことを特徴とする請求項3から請求項8のいずれかに記載のワイヤーソーマシン。
【請求項10】
撚線からなる直径4ミリメートル以下の素線と、 その素線を貫通させて等間隔に配置される台筒と、 その台筒を配置した状態で可撓性樹脂をコーティングすることによってその台筒および前記素線を固定するコーティング剤とを備えるソーワイヤーの製造方法であって、
台筒の表面に、バインダーを含んだ粉末のロウ剤をまぶし、バインダーが乾かないうちにダイヤモンド砥粒を付着させ、熱処理によってロウ付けする台筒作成手順と、
素線の材質およびダイヤモンド砥粒との馴染みがよいロウ剤を用いて真空炉内で加熱した後に冷却する加熱冷却手順と、
その加熱冷却手順を経た台筒を素線に通し、素線にテンションを掛けながら可撓性樹脂をコーティングするコーティング手順とを含んだソーワイヤーの製造方法。
【請求項11】
前記台筒にはステンレス鋼を採用し、前記コーティング剤には合成ゴムを採用するとともに、
前記台筒作成手順の前または後に、当該台筒に銅または真鍮のメッキを施すメッキ手順を含むこととした請求項10に記載のソーワイヤーの製造方法。
【請求項12】
前記砥粒の表面には、セラミック系コーティングを施す砥粒コーティング手順を含むことしたことを特徴とする請求項10または請求項11のいずれかに記載のソーワイヤーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−161973(P2008−161973A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354018(P2006−354018)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(507002217)エヌシーダイヤモンド株式会社 (3)
【Fターム(参考)】