説明

タデを用いたルテインの調製方法、およびタデの生育方法

【課題】 緑黄色野菜よりもルテインを豊富に含むタデから、簡単かつ容易にルテインを調製することのできる調製方法、さらには簡便な生育方法によって、ルテインの含有量を増加させ、ルテインの調製に有効なタデの生育方法と、このルテインの含有量を多くしたタデから、簡単かつ容易にルテインを調製することのできる調製方法を提供する。
【解決手段】 ルテインの含有量が豊富なタデ、特に窒素肥料の施肥量を、窒素として10g/m以上の環境下でタデを生育させて得たルテインの含有量が豊富なタデ、を抽出原料とし、アセトンやエタノールなどの有機溶媒を用いて、ルテインを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医薬あるいは健康食品の原料として公知の化合物であるルテインを、タデから抽出して調製する方法、特に、効果的で簡便なルテインの調製方法に関するものであり、また、その調製の際に有効な、ルテインを比較的多く含むタデの生育方法、さらには、この生育によりルテインを多く含むことになったタデから、ルテインを効果的に抽出するルテインの調製方法に関するもので、ルテインを含有する健康食品調製技術、医薬調製技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルテインは、動植物に広く存在する黄色の色素成分(カロチノイド)で、分子の両端に水酸基を持ち、強力な抗酸化作用を有する化合物である。
このルテインは、人間の体内器官や皮膚にも存在し、特に乳房や子宮頚部に多く存在することが知られ、眼の水晶体と黄斑部には、カロチノイドとしては、ルテインとゼアキサンチンが存在するだけで、これらの部位の機能を正常に働かせるためには、重要な成分であるとされている。
【0003】
このルテインの具体的は薬効としては、たとえば、ルテイン及びゼアキサンチンの摂取により、年齢に関連した黄斑変性において、40%の低減が得られることが報告されている(Seddonら(1994)、J.Amer.Med.Assoc.272(18):1413−1420)。
また、ルテインとゼアキサンチンの摂取による、核性白内障に対する防御作用が示唆されている(Lyle BJら(1999)、Am.J.Epidemiol 149:801−9)。
【0004】
かかるルテインは、体内で合成されるものではなく、体内には、ほうれん草や人参などの黄緑色野菜などから補給されているものである。
それらの野菜に含まれるルテインは、生野菜100g当たり、ケール21.9mg、ほうれん草10.2mg、ブロッコリー1.9mgなどである(Mangelsら、1993)。
【0005】
一方、健康食品や医療用原料としてのルテインは、主として含有量の多いマリーゴールドの花弁(含有量135mg/100g(生):特表2001−505409号公報)から以下のようにして抽出されている。
たとえば、特表平11−508603号公報(特許文献1)には、マリーゴールドの花弁から得た含油樹脂中のルテインジエステルを、鹸化することによりルテイン結晶を製造する方法が提案されている。
【0006】
また、特表2004−518682号公報(特許文献2)には、陰干ししたマリーゴールドの花弁を溶媒で含有成分を抽出し、得られた抽出溶液をアニオン交換樹脂で処理した後、希釈して結晶を取得する方法が提案されている。
【0007】
マリーゴールドの花弁以外の抽出原料としては、クロレラを用いることが、特開2002−223787号公報(特許文献3)に提案されている。
その方法は、クロレラを微粉化したのち鹸化し、ついで、溶媒を用いて含有成分を抽出し、順相カラムクロマトグラフィーで処理してルテインを取得するというものである。
【特許文献1】特表平11−508603号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2004−518682号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−223787号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、眼に対する薬効を有するルテインは、前記したように、基本的にマリーゴールドの花から抽出されているが、発明者らは、マリーゴールドの花以外の植物からルテインを調製ができないかを鋭意検討した。
その結果、福岡県の特産農産物である紅タデおよび紅タデを成長させた植物体に、加齢性黄斑変成症に効果のあるルテインが、野菜より多量に含まれていることを知見し、この発明を完成させたものである。
【0009】
より具体的には、発芽した子葉が「芽ダテ」と称され、刺身のつまやタデ酢として使用されているタデに、多く、すなわち成長タデ葉で50mg/100g(生)以上、施肥を多くして生育した成長タデ葉には80mg/100g(生)以上含まれていることを見出し、さらに、それらのタデ葉から溶剤を使用することにより、容易にルテインが抽出され分離されることを見出して、この発明を完成したのである。
【0010】
すなわち、この発明は、緑黄色野菜よりもルテインが多く存在するタデから、簡単かつ容易にルテインを抽出することによりルテインを調製する方法、さらには、その調製に有効な、ルテインの含有量の多いタデを簡便な方法で生育することのできるタデの生育方法と、このルテインを豊富に含むタデからルテインを調製する方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、この発明の請求項1に記載の発明は、
有機溶媒を用いて、ルテインをタデから抽出すること
を特徴とするルテインの調製方法である。
【0012】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のルテインの調製方法において、
前記有機溶媒が、
ケトンまたはアルコールであること
を特徴とするものである。
【0013】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載のルテインの調製方法において、
前記有機溶媒が、
アセトンまたはエタノールであること
を特徴とするものである。
【0014】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1に記載のルテインの調製方法において、
前記抽出が、
ケトンにより抽出した成分を、アルコールにより成分分離することにより行われるものであること
を特徴とするものである。
【0015】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項1に記載のルテインの調製方法において、
前記タデが、
酢酸浸漬処理の施されたものであること
を特徴とするものである。
【0016】
また、この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項1に記載のルテインの調製方法において、
前記タデが、
生育体であること
を特徴とするものである。
【0017】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載のルテインの調製方法において、
前記タデの生育体が、
窒素肥料の施肥量を多くして生育したことにより、生育体中のルテイン含量が増大したものであること
を特徴とするものである。
【0018】
また、この発明の請求項8に記載の発明は、
窒素肥料の施肥量を多くすることによって、生育体中のルテイン含量を増加させること
を特徴とするタデの生育方法である。
【0019】
また、この発明の請求項9に記載の発明は、
請求項8に記載のタデの生育方法において、
前記窒素肥料の施肥量が、
窒素として10g/m以上であること
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、従来、その発芽した子葉が「芽タデ」と称され、刺身のつまやタデ酢として使用される他には、利用されていなかったタデ、特にその成育体について、その利用方法を提供するもので、タデの農作物としての利用価値を向上させ、農業分野において大きな貢献をするものである。
【0021】
また、この発明のルテインの調製方法は、齢化が主であった従来の抽出手段に比較し、複雑な工程と多様な試薬を必要とすることなく、簡易な工程で純度の高いルテインの抽出物を得ることを可能としたものである。
【0022】
さらに、この発明のタデの生育方法は、従来、ルテインの調製原料としては、実質的に、マリーゴールドの花のみであったものに対し、ルテインの含有量の多さから、ルテインの調製原料の多様化に寄与するもので、医薬品原料、健康食品の原料として、今後使用量の増大が見込まれるルテインの安定供給に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明のルテインの調製方法に用いられる原料はタデである。
このタデは、タデ科タデ属の植物として、北海道から沖縄にわたる日本全土、台湾や中国を含む北半球の温帯から熱帯にかけて広く分布する、河川、沼地などの水辺に生える一年草である。
特に、ヤナギタデに関しては、栽培品種も開発され、上記したように、発芽した子葉を「芽タデ」と称して刺身のツマ用に、さらにタデ酢に摩り下ろして香辛料として添加されるために栽培出荷されている。
【0024】
この発明においては、刺身のツマに用いられるような芽タデも使用可能であるが、発芽したばかりの子葉よりも、生育した葉(生育体)により多くの、ルテインが含まれているため、生育体を調製原料とするのが好ましい。
また、河川、沼地などの水辺に自生しているものも使用可能であるが、供給の安定性の面からは、栽培したものが好ましい。
特に、栽培に際して、窒素肥料の施肥量を多くして生育させたものは、その生育体中のルテインの含有量が著しく増加するので、この発明のルテインの調製方法にとり好ましいものである。
【0025】
また、タデには、通常、マタデ、ホンタデとも呼ばれるヤナギタデ、その栽培品種である紅タデ(ムラサキタデ)、アザブタデ、ホソバタデ等が存在するが、この発明にとりいずれの種でも利用可能であるが、栽培種の紅タデの生育体が、紅タデの有効利用の面から、この発明に好ましいものである。
【0026】
この発明においては、タデは、乾燥し水分を取り除き、粉砕した乾燥粉末として用いるのが、抽出効率の面から好ましい。また、さらに、乾燥粉末を酢酸水溶液に浸漬し、酢酸水溶液により抽出されるものを除去したのち、有機溶媒による、抽出を行なうのが、抽出効率の面から好ましい。
【0027】
抽出溶媒としては、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒、クロロホルムなどの塩素系溶剤なども用いられるが、抽出効率の面から、この発明にとり好ましい溶媒は、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒が好ましい。
特に、タデをアセトンによる抽出をまず行い、さらに、それをエタノールにより分別する方法を採用すると、目的とするルテインが、効率よく、また高純度で、得られるので好ましい方法である。
【0028】
この発明における処理条件としては、酢酸水溶液による原料乾燥タデ粉末の処理に、低温下に1〜4日程度浸漬状態を保って、酢酸による抽出処理する以外には、格別な条件は存在せず、通常行われている抽出処理、例えば、温度10〜50℃で0.5〜2時間、必要に応じて攪拌しながら行うようにすることで問題はない。
【0029】
酢酸による抽出処理は、まず、合成酢酸や醸造酢を濃縮した濃厚酢酸など90%濃度の酢酸水溶液に浸漬することから初めて、水により酢酸を希釈しながら処理するのが好ましく、最終的には、抽出液の酢酸濃度を4.5%程度とする、希酢酸処理という形態をとるのが好ましい。
【実施例】
【0030】
<ルテインの調製1>
凍結保存された生長タデ葉2kgを、温度38〜50℃で通風乾燥し、粉砕し、篩い分けして、タデ葉粉末乾燥品442.8gを得た。
このタデ葉粉末を95%酢酸450ml中に投入し、攪拌しながら水1800mlを加え、攪拌したのち、混合品を冷房室に3.7日間放置した。
これに水4l加え、40分間攪拌した後、遠心分離し濾過した。
濾液を分離して得られた残渣に、水3.5l加えて攪拌濾過し、得られた残渣を超音波処理により50%エタノールに分散させ攪拌後遠心濾過した。
その残渣を、超音波処理により80%エタノールに分散させ攪拌後遠心濾過し、得られた濾液と残渣に、再度80%エタノールを加え攪拌濾過して得られた濾液を併せて、減圧濃縮することにより沈着物を得、イオン水で洗浄して、ルテインを10.067%含む画分を17.02g得た。
得られた画分の吸収スペクトル(図1)と、HPLCパターン(図2)を以下に示す。
なお、得られたルテイン総量は1.713gで、乾燥葉からの収率は0.387%であった。
【0031】
<ルテインの調製2>
凍結保存の生長タデ葉1kgを、温度50℃で約5時間したのち、温度37℃で一夜通風乾燥した。
手もみで、葉枝を除去した後、ホモゲナイザーで粉砕し、タデ葉粉末205gを得た。
このタデ葉粉末を90%酢酸200ml中に投入し、水400mlを加え、50分間攪拌した。その後、さらに水400mlを加え、冷蔵室に22時間放置した。
これにアセトン1l加え30分間攪拌した後、遠心分離し濾過した。
この濾液と残渣に、アセトン1.5l加えて攪拌濾過したのち、得た濾液を合せて減圧濃縮し、15.44gの沈着物を得た。
この沈着物を、超音波処理により80%エタノールに溶解し、再度減圧濃縮することにより、析出させ、イオン水で洗浄して、ルテインを14.04%含む画分を7.93g得た。
得られた画分の吸収スペクトル(図3)と、HPLCパターン(図4)を以下に示す。
なお、得られたルテイン総量は1.113gで、乾燥葉からの収率は0.543%であった。
【0032】
<比較例>
ルテインの調製2の方法を用い、マリーゴールド(花)からルテインの抽出を行った結果を、図5および図6のHPLCパターンに示す。
その結果、タデからはルテインは抽出されるが(図5)、マリーゴールド(花)からのルテインの抽出は殆んど認められなかった(図6)。
【0033】
<タデの生育1>
2004年5月11日に雨よけハウスを用いてタデを播種し、播種後9日、21日、49日、79日、112日に相当する、5月20日、6月1日、6月29日、7月29日、8月30日に一部を収穫し、それぞれの葉について、ルテイン含量を測定し、図7に示した。
図7から明らかなように、播種後の生育日数が多い(収穫日が遅い)と、ルテイン含量は増加した。
なお、生育試験条件は、1区1m、株間10cm、条間50cm、2条播き、1本立てで、肥料としては堆肥(2t/10a)のみ投入した。
【0034】
<タデの生育2>
上記と同様に雨よけハウスを用いてタデを、5月11日、5月25日、6月8日、6月22日、7月6日、7月20日、8月3日、8月17日、8月31日に播種し、それぞれ播種後9日、23日、37日、51日、65日、79日、93日、107日、121日に相当する、9月9日に一斉に収穫し、それぞれの葉について、ルテイン含量を測定し、図8に示した。
図7と図8から明らかなように、播種時期が早く生育日数が多いほど、ルテイン含量が増加するが、播種後93日以降は一定であった。
【0035】
<タデの生育3>
露地栽培にした以外は上記と同様にして、5月20日に播種して、肥料を以下のようにして施肥し、7月6日に収穫し、それぞれの葉について、ルテイン含量を測定し、図9に示した。
1:堆肥のみ(施肥窒素量:10Ng/m
2:堆肥+有機配合肥料(施肥窒素量:14.8Ng/m
3:堆肥+有機配合肥料+硫安(施肥窒素量:27.4Ng/m
図8から明らかなように、同一生育時期では、窒素施肥量が多いほどルテイン含量が増加した。
【0036】
この発明によれば、医薬あるいは健康食品の原料として有用な化合物であるルテインの新しい調製方法が提供されるので、ルテインを原料として理由する健康食品業界、医薬品業界に利用されるばかりでなく、原料供給という面から、農業分野でも利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ルテインの調製1で得たルテイン画分の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】ルテインの調製1で得たルテイン画分のHPLCパターンを示す図である。
【図3】ルテインの調製2で得たルテイン画分の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】ルテインの調製2で得たルテイン画分のHPLCパターンを示す図である。
【図5】タデからの抽出物のHPLCパターンを示す図である。
【図6】マリーゴールド(花)からの抽出物のHPLCパターンを示す図である。
【図7】生育日数の違いによるタデ中のルテインの含有量を示す図である。
【図8】播種時期の違いによるタデ中のルテインの含有量を示す図である。
【図9】施肥窒素量の違いによるタデ中のルテインの含有量を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を用いて、ルテインをタデから抽出すること
を特徴とするルテインの調製方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、
ケトンまたはアルコールであること
を特徴とする請求項1に記載のルテインの調製方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、
アセトンまたはエタノールであること
を特徴とする請求項1に記載のルテインの調製方法。
【請求項4】
前記抽出が、
ケトンにより抽出した成分を、アルコールにより成分分離することにより行われるものであること
を特徴とする請求項1に記載のルテインの調製方法。
【請求項5】
前記タデが、
酢酸浸漬処理の施されたものであること
を特徴とする請求項1に記載のルテインの調製方法。
【請求項6】
前記タデが、
生育体であること
を特徴とする請求項1に記載のルテインの調製方法。
【請求項7】
前記タデの生育体が、
窒素肥料の施肥量を多くして生育したことにより、生育体中のルテイン含量が増大したものであること
を特徴とする請求項6に記載のルテインの調製方法。
【請求項8】
窒素肥料の施肥量を多くすることによって、生育体中のルテイン含量を増加させること
を特徴とするタデの生育方法。
【請求項9】
前記窒素肥料の施肥量が、
窒素として10g/m以上であること
を特徴とする請求項8に記載のタデの生育方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−7462(P2008−7462A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179775(P2006−179775)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(506224894)株式会社 福岡園芸 (1)
【出願人】(501441913)筑前あさくら農業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】