説明

タレット電子銃及び電子ビーム描画装置

【課題】カソード寿命を改善させることが可能なタレット電子銃及び電子ビーム描画装置を提供すること。
【解決手段】本発明のタレット電子銃は、複数の空気抜き用開口部20が設けられた円筒型の側部151と、この側部の一端に形成され電子ビーム射出用開口部16が設けられた底部を有するウェネルト15と、このウェネルト15の内部に設けられたエミッタ17と、このエミッタ17に電流を供給するフィラメント18を挟み込み、ウェネルトの側部151の他端を封止する碍子を備える複数のカソード14と、複数のカソード14をそれぞれ保持し、ウェネルト15の側部の空気抜き用開口部20においてウェネルト15との間に所定幅の間隙を有する複数の開口部133を側面に備えるバレル13を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の側部に複数のカソードが保持されたタレット電子銃及び、これを用いた電子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、LSI等の回路パターンの微細化が要求されている。この微細な回路パターンは、リソグラフィー技術によって形成されており、このリソグラフィー技術として、優れた解像度を有する電子ビーム描画装置が利用されている。
【0003】
この電子ビーム描画装置は、主に、電子ビームを射出する電子銃と、パターンが描画される試料を載置するステージと、試料上の所望の位置に、所望のパターンを形成するために電子ビームを成形する電子ビーム制御系から構成されている。
【0004】
このような電子ビーム描画装置に用いられる電子銃は、カソードと、カソードに対向配置され、カソードから放出された電子が通過する開口部を有するアノードを有している。そして、カソードに高電圧を印加し、アノードを接地することで、カソードから射出される電子を、カソードとアノードとの間に発生した電界によって加速して外部に射出している。
【0005】
カソードは、電子ビーム射出用開口部を有するウェネルトと、このウェネルトの内部に保持されたエミッタと、このエミッタに外部から電流を供給するためのフィラメントを挟みこみ、ウェネルトの他端を封止する碍子とで構成されており、側部に複数の空気抜き用開口部が設けている(例えば特許文献1など参照)。
【0006】
しかしながら、このような電子銃において、カソードに異常や故障が発生した場合には、電子ビーム描画装置の稼動を停止し、カソードを交換した後に、装置の稼動を再開する必要がある。従って、稼働率が低下してしまう。
【0007】
そこで、カソード交換時間を短縮し、装置ダウンタイムを低減させるために、一つの電子銃に複数のカソードが装着されたタレット電子銃が用いられている(例えば特許文献2など参照)。
【0008】
このようなタレット電子銃においては、カソードに異常や寿命等が発生した場合、バレルを回転させることでカソードを交換することができる。従って、長時間に渡って電子ビーム描画装置の稼動を中断させることなく描画を行うことができる。
【0009】
しかしながら、このようなタレット電子銃において、カソードの側部に形成された空気抜き用の開口部がバレルで塞がれているため、カソードの内部の真空度が悪化するという問題がある。そして、このようにカソードの内部の真空度が悪い場合、エミッタの蒸発速度が速くなるため、カソードの寿命が短くなるという問題がある。
【0010】
そのため、カソードをバレルより突出させ、空気抜き用の開口部を開放することによりカソード内部の真空度を向上させることが考えられる。しかしながら、突出したカソードの端部において、電界が集中し、放電が起こりやすくなるため、カソードにダメージが生じ、カソードの寿命が短くなるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−58424号公報
【特許文献2】特開平5−258703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、タレット電子銃は、カソードの側部の空気抜き用開口部がバレルで塞がれているため、カソードの内部の真空度が悪化する、あるいは、カソードの端部が突出することにより電界集中によるダメージが生じることにより、カソード寿命が短くなるという問題がある。
【0012】
本発明は、カソード寿命を改善させることが可能なタレット電子銃及び電子ビーム描画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のタレット電子銃は、複数の空気抜き用開口部が設けられた円筒型の側部と、この側部の一端に形成され電子ビーム射出用開口部が設けられた底部を有するウェネルトと、このウェネルトの内部に設けられたエミッタと、このエミッタに電流を供給するフィラメントを挟み込み、ウェネルトの側部の他端を封止する碍子を備える複数のカソードと、複数のカソードをそれぞれ保持し、ウェネルトの側部の空気抜き用開口部においてウェネルトとの間に所定幅の間隙を有する複数の開口部を側面に備えるバレルを具備することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のタレット電子銃において、ウェネルト内部の空間と前記ウェネルト外部の空間のコンダクタンスCを、
C=C+1[(1/C)+(1/C)]
:電子ビーム射出用開口部のコンダクタンス
:所定幅の間隙のコンダクタンス
:複数の空気抜き用開口部のコンダクタンス
としたとき、コンダクタンスCが、間隙の幅が無限大となるときのコンダクタンスC(∞)の80%〜95%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のタレット電子銃において、バレルの開口部の形状は、真円または回転対称性を有する多角形であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のタレット電子銃において、バレルの開口部の縁は、丸みを有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の電子ビーム描画装置は、複数の空気抜き用開口部が設けられた円筒型の側部と、この側部の一端に形成され電子ビーム射出用開口部が設けられた底部を有するウェネルトと、このウェネルトの内部に設けられたエミッタと、このエミッタに電流を供給するフィラメントを挟み込み、ウェネルトの側部の他端を封止する碍子を備える複数のカソードと、複数のカソードをそれぞれ保持し、ウェネルトの側部の空気抜き用開口部においてウェネルトとの間に所定幅の間隙を有する複数の開口部を側面に備えるバレルと、バレルを回転させる回転機構と、カソードに加速電圧を印加する高圧端子と、カソードに対向して設けられるアノードとを具備し、電子ビームを射出するタレット電子銃と、パターンが描画される基板を載置するステージと、基板上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために電子ビームを成形する電子ビーム制御系を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カソード寿命を改善させることが可能なタレット電子銃及び電子ビーム描画装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0020】
図1(a)は、本実施形態のタレット電子銃の構造断面図を示し、図1(b)は、図1(a)の破線A−A´に沿った構造断面図である。図に示すように、チャンバ11の内部に、チャンバ11を貫通して設けられた回転機構12により回転可能なステンレス(SUS)、Ti、Moなどからなるバレル13が設けられている。このようなバレル13には、円形の開口部133が複数箇所、例えば4箇所に形成されており、これらの円形の開口部133の縁(エッジ)は、丸み(R)を有している。
【0021】
このようなバレルの開口部133の内部には、カソード14が保持されている。回転機構12には、カソード14に加速電圧を印加するための高圧端子22が設けられている。そして、カソード14の下部には、カソード14と対向するようにアノード23が配置され、アノード23には、その中心部にカソード14から放出された電子が通過する開口部24が形成されている。
【0022】
カソード14の断面図を図2に示す。図に示すように、円筒型の側部151と、この側部151の一端に形成された円板状の底部152より構成されたウェネルト15の底部152の中心部に電子ビーム射出用開口部16が形成されている。ウェネルト15の内部には、エミッタ17が保持されている。エミッタ17には、外部から電流を供給するためのフィラメント18が接続され、碍子19によりこのフィラメント18を挟みこみ、ウェネルト15の他端が封止されている。このカソード14において、ウェネルト15の側部151には複数箇所、例えば4箇所に、例えば円柱状に空気抜き用開口部20が設けられている。
【0023】
図3にバレル13にカソード14が保持された状態の断面図を示す。カソード14は、バレルの開口部133において、空気抜き用開口部20がバレル13によって塞がれないように、この開口部の直径dがカソード14の直径dより大きくなっている。すなわち、ウェネルトの側部の空気抜き用開口部において、ウェネルトとの間に所定幅の間隙d−dを有している。そして、カソード14は、カソードの底部152が、バレルの側壁131で定まる周21より内側に位置している。
【0024】
このとき、ウェネルト内部の空間とウェネルト外部の空間のコンダクタンスCの関係は、次の関係式で示される。
【0025】
C=C+1/[(1/C)+(1/C)]
このとき、Cは電子ビーム射出用開口部16のコンダクタンス、Cは空気抜き用開口部20のコンダクタンスを示す。そして、Cは、バレルの開口部133とカソード14との間の間隙のコンダクタンスを示しており、例えば次式で近似することができる。
【0026】
=121K(d−d(d+d)/L
ここで、K=0.854(d/d−0.212(d/d)+1.03、Lはカソードの底部152から空気抜き用開口部20までの距離を示す。
【0027】
ここで、間隙d−dは、例えば、バレルの開口部133の間隙d−dが無限大である場合におけるコンダクタンスC(∞)を100%としたとき、コンダクタンスCが90%となるように決定される。
【0028】
例えば、電子ビーム射出用開口部16の直径を4mm、空気抜き用開口部20の直径を3mm、カソード14の断面の直径dを20mm、カソードの底部152から空気抜き用開口部20までの距離Lを10mmとし、さらに空気抜き用開口部20が4箇所に設けられているとする。この場合において、バレルの開口部133の直径dとコンダクタンスCは、図4に示すような関係になる。この結果より、コンダクタンスCが、コンダクタンスC(∞)、すなわちコンダクタンスCの収束値(C(100))の90%となるように(C(90))、バレルの開口部133の直径dを求めると、dは27mmとなる。
【0029】
このように構成されたタレット電子銃において、バレル13の外部からフィラメント18に電流を流し、エミッタ17を加熱することにより、電子が放出される。そして、カソード出た電子は、高圧端子22により例えば−50Vの加速電圧が印加されたカソード14と、接地されたアノード23との間に発生する電界によって加速され、開口部24を通過して、射出される。
【0030】
そして、このようなタレット電子銃は、例えば図5に示すような電子ビーム描画装置に用いられる。
【0031】
図に示すように、タレット電子銃61と、この電子銃61から射出した電子ビーム62を二等辺三角形または正方形に成形する電子ビーム制御系63と、この電子ビーム制御系63によって成形された電子ビーム62が照射され、描画処理されるガラス基板などの基板64が載置されるステージ65より構成されている。
【0032】
また、電子ビーム制御系63は、正方形の開口部を有する第1のアパーチャー631と、この第1のアパーチャー631全体に電子ビームを照射するための第1のレンズ632とを有している。さらにこの第1のアパーチャー631の下方には、カギ穴型の開口部を有し、正方形に成形された電子ビーム62をさらに成形するための第2のアパーチャー633と、この第2のアパーチャー633の任意の箇所に電子ビームを照射するための第1の偏向器634及び第2のレンズ635とを有している。さらに、第2のアパーチャー633の下方には、正方形または二等辺三角形に成形された電子ビームを縮小するための第3、第4のレンズ636、637と、これらのレンズ636、637によって縮小された電子ビームをステージ65上に載置された基板64の所定の箇所に照射するための第2の偏向器638とを有している。
【0033】
このような電子ビーム描画装置を用いて、以下のようにして、基板64に描画処理が施される。先ず、タレット電子銃61から射出された電子ビーム62は、初めに、第1のレンズ632によって第1のアパーチャー631全体に照射され、第1のアパーチャー631が有する正方形の開口部に対応した正方形に成形される。
【0034】
次に、正方形に成形された電子ビーム62は、第1の偏向器634及び第2のレンズ635によって、第2のアパーチャー633が有するカギ穴型の開口部の所定の箇所に照射され、正方形または二等辺三角形に成形される。
【0035】
そして、正方形または二等辺三角形に成形された電子ビーム62は、第3、第4のレンズ636、637によって縮小され、さらに第2の偏向器638によって基板64の所定の箇所に照射される。
【0036】
これら一連の動作を、ステージ65をX−Y方向に制御して移動しながら行うことで、基板64上に、所望のパターンが描画される。
【0037】
本実施形態によれば、タレット電子銃のカソードの側部に形成された空気抜き用開口部が、このカソードを保持するバレルによって塞がれていないため、カソードの内部の真空度を高く維持することができ、エミッタの蒸発速度を遅くすることができる。また、カソードがバレルの側壁で定まる周より内側に位置しているため、カソード端部における放電を、カソードを突出させたときの1/10程度まで抑制することができる。従って、カソードの寿命を改善させること可能となる。
【0038】
また、タレット電子銃のカソードの寿命が改善されることにより、これを電子ビーム描画装置に用いたとき、カソードの交換頻度を低減することができるため、さらにカソードの交換時間を短縮し、装置ダウンタイムを低減させることができる。
【0039】
以上に本発明の実施の形態について述べたが、実施の形態はこれに限るものではなく、様々に変形可能である。
【0040】
例えば、本実施形態においては、一例として、間隙d−dをコンダクタンスC(∞)を100%としたとき、コンダクタンスCが90%となるように決定しているが、80%〜95%に設定すればよい。80%未満であると十分なコンダクタンスが得られず、カソード内部の真空度が低下してしまう。一方、95%を越えると、カソード端部での放電を十分押さえることが困難となる。
【0041】
また、本実施形態においては、バレルの側壁に設けられた開口部の形状を真円としたが、バレルの開口部の形状は、回転対称性を有する多角形であってもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、バレルの開口部を4箇所としたが、4箇所以上であってもよく、例えば8箇所に設けられていてもよい。
【0043】
さらに、本実施形態においては、エミッタの空気抜き用開口部を4箇所に設けているが、4箇所以上であってもよく、例えば8箇所に設けられていてもよい。また、開口部の形状についても、円柱状に限定されるものではなく、十分なコンダクタンスが取れれば、円錐状など、他の形状であってもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、エミッタは電子放出源であった。しかし、エミッタは、イオン放出源であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1(a)】本発明の一態様の電子銃を示す構造断面図である。
【図1(b)】図1(a)の破線A−A´に沿った構造断面図である。
【図2】本発明の一態様の電子銃に係るカソードを示す構造断面図である。
【図3】本発明の一態様の電子銃に係るバレルとこれに保持されるカソードとの関係を示す構造断面図である。
【図4】本発明の一態様の電子銃に係るバレルの開口部の直径と、ウェネルト内部の空間とウェネルト外部の空間のコンダクタンスとの関係を示す説明図である。
【図5】本発明の一態様に係る電子銃を使用した電子ビーム描画装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
11…チャンバ
12…回転機構
13…バレル
131…バレルの側壁
133…バレルの開口部
14…カソード
15…ウェネルト
151…ウェネルトの側部
152…ウェネルトの底部
16…電子ビーム射出用開口部
17…エミッタ
18…フィラメント
19…碍子
20…空気抜き用開口部
21…バレルの側壁で定まる周
22…高圧端子
23…アノード
24…開口部
61…タレット電子銃
62…電子ビーム
63…電子ビーム制御系
64…基板
65…ステージ
631…第1のアパーチャー
632…第1のレンズ
633…第2のアパーチャー
634…第1の偏向器
635…第2のレンズ
636…第3のレンズ
637…第4のレンズ
638…第2の偏向器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空気抜き用開口部が設けられた円筒型の側部と、この側部の一端に形成され電子ビーム射出用開口部が設けられた底部を有するウェネルトと、このウェネルトの内部に設けられたエミッタと、このエミッタに電流を供給するフィラメントを挟み込み、前記ウェネルトの側部の他端を封止する碍子を備える複数のカソードと、
前記複数のカソードをそれぞれ保持し、前記ウェネルトの側部の前記空気抜き用開口部において前記ウェネルトとの間に所定幅の間隙を有する複数の開口部を側面に備えるバレルを具備することを特徴とするタレット電子銃。
【請求項2】
前記ウェネルト内部の空間と前記ウェネルト外部の空間のコンダクタンスCを、
C=C+1[(1/C)+(1/C)]
:電子ビーム射出用開口部のコンダクタンス
:所定幅の間隙のコンダクタンス
:複数の空気抜き用開口部のコンダクタンス
としたとき、コンダクタンスCが、前記間隙の幅が無限大となるときのコンダクタンスC(∞)の80%〜95%であることを特徴とする請求項1に記載のタレット電子銃。
【請求項3】
前記バレルの開口部の形状は、真円または回転対称性を有する多角形であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタレット電子銃。
【請求項4】
前記バレルの開口部の縁は、丸みを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタレット電子銃。
【請求項5】
複数の空気抜き用開口部が設けられた円筒型の側部と、この側部の一端に形成され電子ビーム射出用開口部が設けられた底部を有するウェネルトと、このウェネルトの内部に設けられたエミッタと、このエミッタに電流を供給するフィラメントを挟み込み、前記ウェネルトの側部の他端を封止する碍子を備える複数のカソードと、
前記複数のカソードをそれぞれ保持し、前記ウェネルトの側部の前記空気抜き用開口部において前記ウェネルトとの間に所定幅の間隙を有する複数の開口部を側面に備えるバレルと、
前記バレルを回転させる回転機構と、
前記カソードに加速電圧を印加する高圧端子と、
前記カソードに対向して設けられるアノードと、
を具備し、電子ビームを射出するタレット電子銃と、
パターンが描画される基板を載置するステージと、
前記基板上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために前記電子ビームを成形する電子ビーム制御系を備えることを特徴とする電子ビーム描画装置。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−231102(P2009−231102A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76023(P2008−76023)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】