説明

タンク部品の締結構造

【課題】座面の耐摩耗性を向上させることにより、座面が擦れたり削れたりして異物が生じるのを抑制する。また、異物が生じた場合にも当該異物が口金部の開口部からタンク内に入り込むのを抑制する。
【解決手段】高圧タンク1の口金部2と締結されるためのねじ締結部4と、口金部2と軸方向で接触するタンク部品3側の座面5と、該タンク部品3側の座面5と接触する口金部2側の座面6と、タンク部品3側の座面5と口金部2側の座面6とが接触し合う部分の内周側であって開口部2aの外周側に設けられ、タンク部品3と口金部2との間にスペースを形成する逃げ部7と、該逃げ部7に設けられて口金部2の開口部2aに異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用のシール部材8と、を備える。また、タンク部品3側の座面5および口金部2側の座面6の少なくとも一方の表面には耐磨耗処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク部品の締結構造に関する。さらに詳述すると、本発明は、水素等の貯蔵に利用される高圧タンクにおいてねじを利用してバルブアッセンブリ等の部品を締結するための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の貯蔵に利用される高圧タンクとして、タンク開口部に設けられた口金部にバルブアッセンブリ(高圧バルブ等を内蔵した部品)を取り付ける構造のものが利用されている。また、口金部にバルブアッセンブリを取り付けるにあたっては、口金部のめねじ部分にバルブアッセンブリのおねじ部分を螺合させるというような単純なねじ構造を利用したタンク部品の締結構造が多く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなタンク部品の締結構造の場合、例えば35MPa場合によって70MPaにも至るような高い内圧をねじ締結部だけでなく座面でも受けることになるため、バルブアッセンブリ等のタンク部品の締結荷重をそれに見合う程度にまで大きくする必要がある。
【特許文献1】特開2005−291434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように座面が受ける荷重も相当程度に大きくなるため、タンク部品の着脱時、当該座面が擦れたり削れたりしてしまい、削れカスやバリ、さらには微小なゴミといったような異物が生じることがある。また、このような異物が口金部の開口部から高圧タンク内に侵入してしまう(入り込んでしまう)おそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、座面が擦れたり削れたりして異物が生じるのを抑制することができるようにしたタンク部品の締結構造を提供し、併せて、異物が生じた場合にも当該異物が口金部の開口部からタンク内に入り込むのを抑制することができるようにしたタンク部品の締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、本発明者は種々の検討を行った。重量の嵩みがちな高圧タンクの重量を少しでも軽減するべく口金部分やバルブアッセンブリにアルミニウム材料を適用することがある。ところが、軽量化できる反面、バルブアッセンブリの締め付け時、両者の接触面(例えば口金部の座面)に傷が付いてしまい、場合によっては再利用できなくなる点で問題である。また、傷だけでなく削れカスやバリ、ゴミ等が生じた場合に、これら異物が口金部を通ってタンク内に入り込むおそれがある点も問題となる。この点、現時点では口金部やバルブアッセンブリを軽量化することはひとつの課題であるから、材料を元に戻すだけでは解決策たり得ない。この点、本発明者は傷や異物を生じさせないという観点、また、異物が生じたとしてもタンク内に入り込ませない(侵入させない)という観点からさらに検討を重ね、かかる課題の解決に結びつく技術を知見するに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくものであり、高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、前記口金部と軸方向で接触する前記タンク部品側の座面と、該タンク部品側の座面と接触する前記口金部側の座面と、を備え、前記タンク部品側の座面および前記口金部側の座面の少なくとも一方の表面層が、その基材よりも耐磨耗性を有している層で形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
タンク部品(例えばバルブアッセンブリ)によるスラスト方向の締付け力は一定に保たれていることが望ましい。通常は、バルブアッセンブリを一定のトルクで締め付けることにより一定の締付け力が得られるようにしている(いわゆるトルク管理)。しかし、例えば検査のためにバルブアッセンブリを一度取り外し再び取り付けたような場合、座面間に異物が介在してしまったりあるいは座面に傷が付いていたりすることがあり、そのままバルブアッセンブリを締め付けると、一定のトルクを与えたとしても締付け力が一定に保たれなくなることがある。これに対し、本発明にかかる締結構造によれば、互いに接触し合う座面どうしの少なくとも一方に関し、表面層をその基材よりも耐磨耗性を有する層で形成することとしているので、例えばタンク部品の締結時、互いに摺接する座面に傷が付くのを抑制することができる。また、座面どうしが摺接した際、細かな削れカスやゴミといったような異物が生じるのを抑制することもできる。
【0009】
本発明の場合、前記口金部または前記タンク部品の少なくとも一方は金属であり、当該金属である側の前記座面の表面層が、その基材に陽極酸化処理が施された酸化膜である。
【0010】
さらに、本発明の場合、前記口金部または前記タンク部品の少なくとも一方はアルミニウムを含む金属であり、当該アルミニウムを含む金属である側の前記座面の表面層がアルミナである。
【0011】
さらに、本発明は、高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、前記口金部と軸方向で接触する前記タンク部品側の座面と、該タンク部品側の座面と接触する前記口金部側の座面と、前記タンク部品側の座面と前記口金部側の座面とが接触し合う部分の内周側であって前記口金部の開口部の外周側に設けられ、前記タンク部品と前記口金部との間にスペースを形成する逃げ部と、該逃げ部に設けられて前記口金部の開口部に異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用のシール部材と、を備えていることを特徴とするものである。この場合、前記タンク部品側の座面および前記口金部側の座面の少なくとも一方の表面に耐磨耗処理が施されていることが好ましい。
【0012】
この締結構造においては、口金部の開口部の周囲に例えば環状の逃げ部が形成され、さらにその周囲に環状の座面(タンク部品と口金部との面当たり部)が形成されている。この場合、タンク部品と口金部との間にスペースを形成する逃げ部は、当該タンク部品と口金部とを摺接させないように機能する。つまり、開口部の周囲においては異物を生じさせないように機能する。したがってこのような締結構造の場合、外周側の座面(面当たり部)どうしが摺接して生じることのある異物(削れカスやバリ、ゴミといったもの)が口金部の開口部に入り込むとすれば、前述のスペースを通過しなければならない。本発明においては、このスペースに設けられているシール部材が、口金部の開口部に異物が入り込むのを抑制する。また、互いに接触し合う座面の少なくとも一方に耐磨耗処理が施されている場合には、座面に傷が付いたり、摺接により異物が生じたりするのを抑制することができる。
【0013】
さらには、前記タンク部品側の座面と前記口金部側の座面とが接触し合う部分の内周側であって前記口金部の開口部の外周側に、前記口金部の開口部に前記異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用の段差が形成されていることも好ましい。このように形成された段差は、座面が摺接することによって異物が生じたとしても、当該異物が口金部の開口部にまで達するのを抑止するストッパとして機能しうる。
【0014】
また、前記異物侵入抑制用のシール部材が、前記段差が形成されている部分に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、座面の耐摩耗性を向上させることにより、座面が擦れたり削れたりして異物が生じるのを抑制することができる。また、このような異物が生じた場合にも、当該異物が口金部の開口部からタンク内に入り込むのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1〜図4に本発明にかかるタンク部品の締結構造の実施形態を示す。本発明にかかるタンク部品3の締結構造は、高圧タンク1の口金部2に取り付けられる例えばバルブアッセンブリなどのタンク部品(以下、バルブアッセンブリともいう)3を締結するためのものである。以下では、このようなバルブアッセンブリ(タンク部品)3の締結構造の一実施形態として、燃料電池自動車用の高圧水素タンクに適用した場合について説明することにする。
【0018】
まず、本実施形態における燃料電池システムの概略について示す(図1参照)。この燃料電池システム10は、燃料電池20と、酸化ガスとしての空気(酸素)を燃料電池20に供給する酸化ガス配管系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池20に供給する燃料ガス配管系40と、システム全体を統括制御する制御部70と、を備えたシステムとして構成されている。
【0019】
燃料電池20は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を備えている。燃料電池20の単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。一方のセパレータの燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池20は電力を発生する。
【0020】
酸化ガス配管系30は、燃料電池20に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池20から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、を有している。供給路11には、フィルタ13を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられている。排出路12を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁16を通って加湿器15で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0021】
燃料ガス配管系40は、燃料供給源としての高圧の水素タンク(本明細書では高圧タンクという)1と、高圧タンク1から燃料電池20に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池20から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続された排出路25と、を有している。
【0022】
高圧タンク1は、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯蔵可能に構成されている。高圧タンク1の主止弁26を開くと、供給路22に水素ガスが流出する。その後、水素ガスは、インジェクタ29により流量及び圧力を調整された後、さらに下流において機械式の調圧弁27その他の減圧弁により、最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池20に供給される。主止弁26及びインジェクタ29は、図1において破線の枠線で示すバルブアッセンブリ3に組み込まれ、バルブアッセンブリ3が高圧タンク1に接続されている。
【0023】
供給路22の合流点Aの上流側には、遮断弁28が設けられている。水素ガスの循環系は、供給路22の合流点Aの下流側流路と、燃料電池20のセパレータに形成される燃料ガス流路と、循環路23とを順番に連通することで構成されている。排出路25上のパージ弁33が燃料電池システム10の運転時に適宜開弁することで、水素オフガス中の不純物が水素オフガスと共に図示省略した水素希釈器に排出される。パージ弁33の開弁により、循環路23内の水素オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環供給される水素オフガス中の水素濃度が上がる。
【0024】
制御部70は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、インジェクタ29の流量制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御部70は、ガス系統(30,40)や図示省略の冷媒系統に用いられる各種の圧力センサや温度センサなどの検出信号を入力し、各構成要素に制御信号を出力する。
【0025】
続いて、タンク部品の締結構造について説明する(図2等参照)。
【0026】
本発明にかかるタンク部品の締結構造は、口金部2とバルブアッセンブリ3のうち少なくとも一方がアルミニウムを含む金属である場合に好適な技術であり、特に両方がアルミニウムを含む金属である場合には磨耗が顕著になるためこれを抑制するための技術として特に好適である。ここで、アルミニウムを含む金属とは、アルミニウム単体、またはマグネシウム、シリコン、亜鉛などから選ばれた少なくとも一種の添加物とアルミニウムとの合金をいう。もっとも、アルミニウムを含まない金属であっても、座面5,6が磨耗しうる材料であればいかなる材料でも本件発明を適用可能である。
【0027】
高圧タンク1は、当該高圧タンク1のボディを構成する密閉円筒状の本体の一端に口金部2が設けられた構造となっている(図2参照)。本体は、内側に形成され、内部に貯蔵されるガスが外部へ透過するのを抑制する樹脂ライナ1aと、この樹脂ライナ1aの外側を覆う例えばCFRPあるいはGFRPからなるシェル1bとの二層構造となっている。また、高圧タンク1の本体内部は水素ガスを高圧で貯蔵する貯蔵空間1cとなっている(図2参照)。なお、本実施形態においては樹脂製のライナ1aを用いるが、この他としては例えばアルミニウムを含む金属ライナ(例えばアルミライナ)等を用いることもできる。
【0028】
口金部2は、例えばアルミニウムを含む金属などで形成され、タンク本体の球面状をした端壁部の中心に設けられている。また、この口金部2の内周面に形成されためねじを介して、バルブアッセンブリ3が当該口金部2にねじ込まれて着脱可能な状態で締結されるようになっている。
【0029】
バルブアッセンブリ3は、高圧タンク1におけるガス排出部を構成している部品である。図中では特に示していないが、直列に配置された高圧バルブやインジェクタを内蔵した構造となっている。また、このバルブアッセンブリ3のハウジングはアルミニウム合金製である。これらも特に図示していないが、このハウジングには、インジェクタ等以外に、安全弁(リリーフ弁、溶栓弁)や逆止弁など他のバルブが設けられてもよい。
【0030】
また、上述のようなバルブアッセンブリ3を高圧タンク1に締結するための構造は、口金部2と締結されるためのねじ締結部4と、口金部2と軸方向で接触するバルブアッセンブリ3側の座面5と、該バルブアッセンブリ3側の座面5と接触する口金部2側の座面6と、バルブアッセンブリ3側の座面5と口金部2側の座面6とが接触し合う部分の内周側であって口金部2の開口部2aの外周側に設けられ、バルブアッセンブリ3と口金部2との間にスペースを形成する逃げ部7と、該逃げ部7に設けられて口金部2の開口部2aに異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用のシール部材8と、を備えたものとなっており、これにより、当該バルブアッセンブリ3を高圧タンク1に着脱可能な状態で締結することを可能としている(図2等参照)。
【0031】
ねじ締結部4は、バルブアッセンブリ3を口金部2に締結するために形成されている部位であり、より具体的には、口金部2の内周面のめねじに螺合するよう当該バルブアッセンブリ3の外周面に形成されたおねじである。例えば本実施形態の場合、バルブアッセンブリ3の一部は口金部2の内側に収まる細径部となっており、この細径部の途中に上述のようなねじ締結部4が形成されている(図2参照)。
【0032】
座面5、座面6は、バルブアッセンブリ3を口金部2に締結させた際に接触し合うための接触面であり、それぞれバルブアッセンブリ3側、口金部2側に形成されている(図2参照)。このうち、口金部2側の座面6は、例えば本実施形態においては、当該口金部2に形成されているフランジ状部分の上面に環状かつ平坦に形成されている。一方、バルブアッセンブリ3側の座面5は、当該バルブアッセンブリ3に形成されているフランジ状部分の下面であって、口金部2側の座面6に接触し合う環状の領域として形成されている。
【0033】
ここで、上述したバルブアッセンブリ3側の座面5および口金部2側の座面6の少なくとも一方の表面には、耐磨耗処理が施される等して、当該基材よりも耐磨耗性を有する表面層が形成されていることが好ましい(図2中の細かな斜線部分参照)。このように、互いに接触し合う座面5,6どうしの少なくとも一方の表面(面当たり部)に耐磨耗のための何らかの処理を施すこととすれば、例えばバルブアッセンブリ3の締結時、互いに摺接する座面5,6に傷が付くのを抑制することができる。また、座面5,6どうしが摺接した際、細かな削れカスやゴミといったような異物が生じるのを抑制することもできる。このような効果を奏しうる耐磨耗処理としては、例えば、座面5(6)にメッキや溶射等の耐摩耗性のある表面処理を行い、さらに必要に応じて表面を平滑になるように加工を施すことを挙げることができる。メッキや溶射のほか、溶着、蒸着、アルマイト法やアルミニウムペイントなどによっても、さらには液状ガスケットのようなグリース状のものを塗布するなどによっても表面に対磨耗性のある薄膜を形成することが可能である。あるいは、これらのように薄膜を形成するばかりではなく、例えば研磨加工や研削加工(除去加工)、はだ焼き処理を行うなどして座面5(6)の肌を細かくし、いわゆる表面粗さを小さくすることも含まれるし、さらには表面のひび割れを生じさせないようにすることも含まれる。
【0034】
また、アルマイト処理等についての説明を以下に加えておく。例えば、硫酸溶液などの電解質液中で、座面5を有する部材(アルミバルブ)を陽極として電気分解(すなわち陽極酸化処理)することにより、当該座面5の表面に酸化膜が形成される。一般的にこの種の酸化膜は基材よりも硬質なため、基材と比して耐磨耗性に優れている。ここで、部材がアルミニウムを含む金属であれば、その表面にアルミナ(Al2O3)が形成される。このような陽極酸化処理によれば、表面層(酸化膜)と基材との密着性が高いため耐久性が高い点や、電解質溶液を別にすれば新たなコート材が不要となるため経済性が高い点で有利である。
【0035】
なお、陽極酸化処理は、バルブアッセンブリ3または口金部2のすべての表面に施してもよいが、ここまで説明したような所定の作用効果を得るには少なくとも一方の座面5(6)のみに施すこととすれば足りる。また、バルブアッセンブリ3または口金部2のうち螺合する部分には電解質液が接触しないようにマスキングして陽極酸化処理を行ってもよい。
【0036】
さらに、本発明の場合、口金部またはタンク部品の少なくとも一方はアルミニウムを含む金属であり、当該アルミニウムを含む金属である側の座面の表面層がアルミナである。
【0037】
また、本実施形態においては、口金部2の開口部2aの周囲に環状の逃げ部7を形成することとしている(図2参照)。このように形成されている逃げ部7は、口金部2(開口部2a)とバルブアッセンブリ3との間に環状(より具体的にいえば、孔開きのコインのような形状)のスペースを形成するから、当該逃げ部7が形成されている領域においては対向する口金部2とバルブアッセンブリ3とを接触させないように機能する。このため、開口部2aの周囲の領域においては、口金部2とバルブアッセンブリ3とが接触し合って異物(削れカスやバリ、ゴミといったもの)が生じるというようなことがない。異物が生じるとすれば、互いに接触し合う領域、つまり最外周側の座面(面当たり部)5,6どうしが摺接し場合である。仮にこのようにして異物が生じたとしても、当該異物は、上述の逃げ部7によって形成されているスペースを通過しなければ開口部2aに入り込むことはない。なお、以上のように異物が移動して開口部2aへ入り込むのを抑えるという観点からすれば、当該逃げ部7によって形成されるクリアランスは狭いほうが好ましい。
【0038】
さらに、本実施形態においては、逃げ部7によって形成されている環状(孔開きのコインのような形状)のスペースに、口金部2の開口部2aに異物が入り込むのを抑制するためのシール部材8を設けている(図2参照)。例えば上述のように座面5と座面6とが摺接することによって異物が生じたとしても、このシール部材8が開口部2aまわりにおける壁として機能し、異物がそれよりも内側に移動しないようにする。したがって、生じた異物が開口2aを通って高圧タンク1内に入り込むこともない。
【0039】
このようなシール部材8の具体的な構造は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態では、口金部2のうち開口部2aの周囲に環状の溝を形成し、この環状溝に嵌め込んだOリングをシール部材8として機能させることとしている(図2参照)。なお、本実施形態では断面形状が略円形のOリングを用いることとしているがこれは一例に過ぎず、例えば断面六角形といった他の形状としても構わない。要は、口金部2にバルブアッセンブリ3を締結した(取り付けた)とき、当該シール部材8が変形して口金部2とバルブアッセンブリ3の両方に圧接した状態となっていれば足りる。換言すれば、シール部材8の厚みが、逃げ部7のクリアランスと環状溝の深さの和を超える程度となっていればよい。また、本実施形態では口金部2の方に環状溝を設けてそこにOリングを嵌め込むようにしたが、逆にバルブアッセンブリ3の方に環状溝を設けても構わないし、あるいは両者に同様の環状溝を設けてOリングが両溝に嵌り込むようにしても構わない。
【0040】
なお、バルブアッセンブリ3の細径部のタンク本体側となる先端部(ねじ締結部4よりも高圧タンク1寄りの部分)には、高圧タンク1内に高圧(例えば35MPaまたは70MPa)で貯蔵される水素ガスをタンク内に密封するための封止用シール部材17が設けられている(図2参照)。封止用シール部材17は、例えばバルブアッセンブリ3の細径部の環状溝に嵌まり込むOリングによって構成される。
【0041】
以上のような締結構造を備えた本実施形態の高圧タンク1においては、互いに接触し合う座面5,6どうしの少なくとも一方の表面(面当たり部)に耐磨耗処理が施されているから、例えばバルブアッセンブリ3の締結時、互いに摺接する座面5,6に傷が付くのを抑制することができる。また、座面5,6どうしが摺接した際、細かな削れカスやゴミといったような異物が生じるのを抑制することもできる。
【0042】
したがって、本実施形態にかかる高圧タンク1ではタンク部品を締結する際の締付けトルクが安定するという利点がある。すなわち、タンク部品(例えばバルブアッセンブリ)3におけるスラスト方向の締付け力は一定に保たれていることが望ましく、通常は、当該バルブアッセンブリ3を一定のトルクで締め付けることにより一定の締付け力が得られるようにしている(いわゆるトルク管理)。その一方で、例えば検査のためにバルブアッセンブリ3を一度取り外し、再び取り付けたような場合、座面5,6間に異物が介在してしまったりあるいは座面5,6に傷が付いていたりすることがあり、そのままバルブアッセンブリ3を締め付けると一定のトルクを与えたとしても締付け力が一定に保たれなくなることがある。この点、本実施形態の高圧タンク1によれば座面5,6どうしが摺接した際に異物が生じるのを抑制することができるから、当該座面5,6に傷が付く等するのを回避し、摩擦係数が変わるのを抑えて締付けトルクを安定させることが可能である。したがってトルク管理を継続して行うことが可能となる。また、タンク部品(バルブアッセンブリ)3を着脱しても再利用することが可能となる。
【0043】
しかも、本実施形態においては、口金部2とバルブアッセンブリ3の互いに対向する面のうちの外周側、つまり開口部2aから離れた部分に座面5,6を形成し、さらに当該座面5,6と開口部2aとの間には逃げ部7からなるスペースを形成しているから、外周側でのみ面当たりするようになっている。換言すれば、仮に異物が生じたとしてもそれは開口部2aから離れた領域だということになるから、仮に座面5,6にて異物が生じたとしても開口部2aに入り込み難くなっている。しかも、逃げ部7には異物侵入抑制用のシール部材8を設けているから、異物が開口部2aにまで移動してそこからタンク内に入り込むのを効果的に抑制することが可能となっている。
【0044】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、アルミニウム製あるいはアルミニウムを含む合金製のバルブアッセンブリ3や口金部2に本発明を適用した形態について説明したが、本発明の適用対象はこれらに限られることはなく、当該表面が磨耗する可能性のある材料を基材とするバルブ部品等に適用して所定の作用効果を得ることができる。
【0045】
また、上述した実施形態においては口金部2側に逃げ部7を設ける場合について説明したが、反対にバルブアッセンブリ(タンク部品3)側に逃げ部7を設けてもよいし、あるいは両方に逃げ部7を設けてスペースが形成されるようにしてもよい。
【0046】
さらには、バルブアッセンブリ3側の座面5と口金部2側の座面6とが接触し合う部分の内周側であって口金部2の開口部2aの外周側に、開口部2aから異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用の段差9が形成されていることも好ましい。このように形成された段差9は、座面5,6が摺接することによって異物が生じたとしても、当該異物が口金部2の開口部2aにまで達するのを抑止するストッパとして機能しうる。具体的な形態の一例を示すと、例えば図3に示すように、座面5,6と逃げ部7との間に段差9を設けてストッパとして機能させることができる。この場合、図3に示すようにバルブアッセンブリ3に向かって高くなる段差9としてもよいし、これとは逆に高圧タンク1側に向かって低くなる段差9としてもよい。
【0047】
また、上述のように段差9を設けた場合、当該段差9を設けた部分に異物侵入抑制用のシール部材8を配置することとしてもよい(図4参照)。タンク部品(バルブアッセンブリ)3の締結時、座面5,6間で異物が生じたとしても、段差9の部分においてシール部材8の機能も発揮させ、いわば二重で異物侵入(異物が入り込むこと)を抑制することが可能である。
【0048】
なお、ここまで説明したようなシール部材8や段差9といった異物侵入抑制用の構成は、本実施形態において説明したようなアルミニウム材料(アルミニウム合金)からなるタンク部品3のみならず、それ以外のタンク部品の締結構造として適用することも可能である。例えば、SUSなどで形成された従前のタンク部品3に適用した場合にも、種々の異物が口金部2の開口部2aから入り込む(侵入する)のを抑制することが可能になるという利点がある。
【0049】
また、いうまでもないが、説明したシール部材8や段差9といった構成は必須というわけではない。上述したようにタンク部品等の座面に対磨耗性処理を施し、あるいは当該タンク部品等にその基材よりも耐磨耗性を有する表面層を設けることとすれば所望の作用効果を得ることができるのであり、この場合にシール部材8や段差9を併設することとすれば更なる作用効果を得ることが可能となる。
【0050】
また、本発明にかかるタンク部品の締結構造は、螺合部分の軸力を受ける座面5(6)を有するような高圧タンク用の部材であればいかなる構成のタンクに対しても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態における燃料電池システムの概略を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すバルブアッセンブリ等の断面図である。
【図3】逃げ部に段差を設けた場合の締結構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【図4】逃げ部に段差を設け、さらに当該段差部分に異物侵入抑制用のシール部材を配置した締結構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…高圧タンク、2…口金部、2a…開口部、3…バルブアッセンブリ(タンク部品)、4…ねじ締結部、5…タンク部品側の座面、6…口金部側の座面、7…逃げ部、8…シール部材、9…段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、
前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、
前記口金部と軸方向で接触する前記タンク部品側の座面と、
該タンク部品側の座面と接触する前記口金部側の座面と、
を備え、
前記タンク部品側の座面および前記口金部側の座面の少なくとも一方の表面層が、その基材よりも耐磨耗性を有している層で形成されている
ことを特徴とするタンク部品の締結構造。
【請求項2】
前記口金部または前記タンク部品の少なくとも一方は金属であり、当該金属である側の前記座面の表面層が、その基材に陽極酸化処理が施された酸化膜であることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項3】
前記口金部または前記タンク部品の少なくとも一方はアルミニウムを含む金属であり、当該アルミニウムを含む金属である側の前記座面の表面層がアルミナであることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項4】
高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、
前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、
前記口金部と軸方向で接触する前記タンク部品側の座面と、
該タンク部品側の座面と接触する前記口金部側の座面と、
前記タンク部品側の座面と前記口金部側の座面とが接触し合う部分の内周側であって前記口金部の開口部の外周側に設けられ、前記タンク部品と前記口金部との間にスペースを形成する逃げ部と、
該逃げ部に設けられて前記口金部の開口部に異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用のシール部材と、
を備えていることを特徴とするタンク部品の締結構造。
【請求項5】
前記タンク部品側の座面および前記口金部側の座面の少なくとも一方の表面に耐磨耗処理が施されていることを特徴とする請求項4に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項6】
前記タンク部品側の座面と前記口金部側の座面とが接触し合う部分の内周側であって前記口金部の開口部の外周側に、前記口金部の開口部に前記異物が入り込むのを抑制する異物侵入抑制用の段差が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のタンク部品の締結構造。
【請求項7】
前記異物侵入抑制用のシール部材が、前記段差が形成されている部分に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のタンク部品の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−278460(P2007−278460A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108610(P2006−108610)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】