説明

タンパク質の溶解度測定方法、結晶製造方法、及びそのための装置

本発明は、沈殿剤を結晶化パラメーターとしたタンパク質の溶解度を効率的に測定すること、及び、測定した溶解度曲線を利用して良質のタンパク質結晶を製造することを目的とする。
タンパク質結晶を載置し、周囲にタンパク質溶液を満たす。タンパク質溶液中の沈殿剤濃度を上昇させるとともに、結晶周囲のタンパク質溶液の干渉縞を観察し、干渉縞から結晶が溶解・成長・平衡のいずれの状態にあるのかを判定する。それとともに、タンパク質溶液のタンパク質濃度を測定し、干渉縞の観察結果と測定されたタンパク質濃度と沈殿剤濃度とからタンパク質の溶解度を求める。さらに溶解度曲線を作成し、過飽和状態を制御してタンパク質結晶を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
タンパク質やDNAなどの生体高分子の立体構造を高い分解能で解析するためには、まず質のよい生体高分子の単結晶を製造しなければならない。良質な結晶を得るためには、結晶成長過程において生体高分子溶液の過飽和状態を制御する必要があるが、過飽和状態の制御には生体高分子の溶解度の情報が不可欠である。
本発明は、生体高分子、特にタンパク質についての溶解度の測定技術及びタンパク質結晶の製造技術に関する。
タンパク質の結晶化において、温度、タンパク質濃度、沈殿剤濃度、pHなどが結晶化パラメーターとして用いられる。
本発明は、塩類やポリエチレングリコール等の沈殿剤をパラメーターとしたタンパク質溶解度を測定する技術、及び、溶解度の測定により得られた溶解度曲線の情報を利用してタンパク質の結晶を製造する技術に関する。
【背景技術】
21世紀は生命科学の時代であると言われている。生命科学の中でも、ポストゲノムにおいて注目されているのがタンパク質であり、その三次元立体構造を原子解像レベルで明らかにすることはタンパク質の構造と機能との相互関係を解明する上で重要である。
特に、酵素や受容体(レセプター)等のタンパク質は医薬品の主なターゲットであることから、医薬品開発におけるドラッグデザインを行う場合のタンパク質の三次元構造情報は重要となる。
タンパク質の三次元構造を解析するための方法として、最も多く用いられているのがX線結晶構造解析であり、そのためには質の良い単結晶を作製しなければならない。
格子欠陥のない質の高い結晶を用いる程、高い精度の解析が可能となる。しかし、現状ではタンパク質の良質な単結晶を得ることは容易でなく、この点がタンパク質の構造解析におけるボトルネックとなっている。
特に、タンパク質の結晶製造のための基礎データである溶解度の測定を行うことは、極めて重要であるが、それには多量の試料を必要とすることや結果を得るまでに数週間から数ヶ月を要するために殆ど行われていないのが現状である。
近年、比較的少量の試料を用い、短時間で溶解度測定が可能な方法として、二光束干渉計を用いた光干渉法(非特許文献1〜3)、シンチレーション法、マイクロカラム法などが開発されている。
しかしながら、これらの方法は、最終的に溶解度曲線を得るまでには、少量であるとはいっても100mg以上のタンパク質の量を必要としている。
<タンパク質結晶の製造技術>
現在、タンパク質結晶の製造技術の代表的なものとして、タンパク質濃度及び沈殿剤濃度を結晶化パラメーターとした蒸気拡散法と、沈殿剤濃度を結晶化パラメーターとした透析法がある。
(蒸気拡散法) 沈殿剤を添加した高濃度タンパク質溶液を、小液滴状で密閉容器中にセットし、水の蒸発速度を規定する所望の濃度、通常はタンパク質溶液中の沈殿剤濃度の2倍程度に調節した塩溶液を周囲に満たし、タンパク質溶液の液滴から水を徐々に蒸発させて、液滴中にタンパク質の結晶を析出、成長させてタンパク質結晶を製造する方法である。
この方法には、シッティングドロップ法とハンギングドロップ法が知られているが、どちらも液滴からの水の蒸発量の制御が難しい上に、タンパク質溶液が空気層と接触するためタンパク質の酸化変性が進みやすいなどの問題点がある。
(透析法) 半透膜を用いた方法であり、具体的な例示をすれば、小部屋を持ったボタン型のセル(マイクロセルということあり)と半透膜とを用いる方法があり、この方法は、微量、例えば5μlの濃度調整をしたタンパク質溶液(必要により沈殿剤を添加しておく)をセルの小部屋に入れ、その小部屋の入口を半透膜で密封し、このセルを、高濃度の塩溶液中に浸漬し、小部屋中のタンパク質溶液の塩濃度を透析拡散現象を利用して徐々に増加させることにより、小部屋中でタンパク質の結晶を析出、成長させてタンパク質結晶を製造する方法である。
これらの方法は、ひとたび装置をセットしたならば、あとはひたすら結晶の発生と成長を待つだけのものであって、結晶の成長を積極的に制御することは困難である。
この他に、タンパク質結晶の製造方法として、スタート時点から過飽和状態のタンパク質溶液を調製し、これを静置して結晶の発生と成長を期待するバッチ法や、タンパク質溶液と塩溶液とを溶質どうしの拡散により混合させて結晶を製造する液−液拡散法などが知られているが、これまでに開発されている技術は、いずれも良質のタンパク質結晶を作製する上で重要である過飽和度を制御することが困難である。
<文献名>
非特許文献1:G.Sazaki,et al.,J.Crystal Growth,169(1996)355
非特許文献2:G.Sazaki,et al.,J.Crystal Growth,196(1999)204
非特許文献3:K.Ninomiya,et al.,J.Crystal Growth,222(2001)311
【図面の簡単な説明】
図1は、透析セルの内容器(ボタン型透析セル)部分の断面図である。
図2は、透析セルの断面図である。
図3は、透析セルの上面図である。
図4は、二光束干渉計による干渉縞測定の状態を示す模式図である。
図5は、リゾチームの吸光スペクトルを示す。
図6は、吸光度のリゾチーム濃度依存性を示す。
図7は、結晶の成長状態に応じた干渉縞を示す図であって、aは結晶が成長している状態の干渉縞の模様、bは結晶が平衡状態にある状態の干渉縞の模様、cは結晶が溶解している状態の干渉縞の模様を示す。
図8は、干渉縞の観測結果を示すグラフである。
図9は、実施例2により製造されたリゾチーム結晶の光学顕微鏡写真である。
図10は、実施例3により製造されたリゾチーム結晶の光学顕微鏡写真である。
【発明の開示】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決しようとするもので、例えば数mgという極めて少ないタンパク質の量で、短時間に、タンパク質の変性のおそれが少なく、かつ、正確に、タンパク質の溶解度を測定するための方法及び装置を提供するものである。
また、本発明は、得られた溶解度の数値を用いて作成された信頼性の高い溶解度曲線を基に、タンパク質結晶の成長条件、特に過飽和度、を制御することにより、良質なタンパク質結晶を確実にかつ極めて効率的に製造することのできる方法及び装置をも提供するものである。
タンパク質の良質な単結晶を得るためには、タンパク質の溶解度に関する情報を得る必要がある。
そこで、本発明者はまずタンパク質の結晶化に最も多用される塩やポリエチレングリコール(PEG)などの沈殿剤をパラメーターとしたタンパク質結晶の溶解度の測定方法及び装置について鋭意検討した結果、下記の発明を完成するに至った。
(1)タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液中の沈殿剤の濃度を上昇または下降させながら、タンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞を二光束干渉計を用いて観察することによって、沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する方法において、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液の濃度を測定するとともに干渉縞の観察を行うことを特徴とする方法。
(2)表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けた石英薄板を用意し、石英薄板の光反射用薄膜を設けた部分にタンパク質結晶を載置し、タンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞を観察するとともに、石英薄板の光反射用薄膜を設けていない部分からタンパク質溶液中のタンパク質濃度を測定することによって、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液の濃度の測定と干渉縞の観察とを行う上記(1)記載の沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する方法。
(3)タンパク質溶液と透析膜を隔てて収容された沈殿剤溶液の濃度を調整することによって、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液中の沈殿剤の濃度を上昇または下降させる上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)二光束干渉計を用いて観察したタンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞が、タンパク質結晶周辺において曲がることなく直線であると判定されたときのタンパク質溶液濃度と沈殿剤濃度から、該タンパク質の溶解度を決定する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)タンパク質溶液中のタンパク質濃度を分光光度計によって測定する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)タンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液のタンパク質濃度を段階的に変化させて、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のタンパク質の溶解度測定を繰り返すことによって複数個の溶解度を求め、沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度曲線を作成する方法。
(7)タンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液濃度の段階的な変化を連続的に行うことによって溶解度曲線を作成する上記(6)記載の方法。
(8)二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)タンパク質結晶とその周囲に満たされるタンパク質溶液との収容部を有し透析膜を備えた透析セルと、該タンパク質溶液の濃度を測定する手段と、タンパク質結晶周囲の干渉縞を観察するための二光束干渉計と、透析セル中のタンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液における沈殿剤濃度を上昇または下降させる手段と、透析セル中のタンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液における沈殿剤濃度を測定する手段とを含むことを特徴とする沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する装置。
(10)透析セルが、表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とする上記(9)記載の装置。
(11)タンパク質溶液の濃度を測定するための手段が分光光度計である上記(9)または(10)に記載の装置。
(12)分光光度計が、透析セルにおいて、光反射用薄膜を設けていない石英薄板の部分を透過させた透過光の強度を測定するためのものである上記(11)記載の装置。
(13)沈殿剤濃度を連続的に上昇または下降させつつ沈殿剤溶液を透析セルの外容器に送るための手段を有する上記(9)〜(12)のいずれかに記載の装置。
(14)所望の濃度のタンパク質溶液、または希釈溶液を、透析セルを解体することなく透析セル内容器内に導入するための手段を有する上記(9)〜(13)のいずれかに記載の装置。
(15)二光束干渉計による干渉縞を撮影するためのCCDカメラ等の撮影手段を有する上記(9)〜(14)のいずれかに記載の装置。
(16)二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計である上記(9)〜(15)のいずれかに記載の装置。
(17)表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とするタンパク質の溶解度測定装置用の透析セル。
(18)上記(6)または(7)に記載の方法によって作成された溶解度曲線を利用して、成長中のタンパク質結晶の周囲にあるタンパク質溶液の過飽和度を制御しながらタンパク質結晶を製造することを特徴とするタンパク質結晶の製造方法。
(19)タンパク質結晶とその周囲に満たされるタンパク質溶液との収容部を有し透析膜を備えた透析セルと、該タンパク質結晶の周囲における該タンパク質溶液の蛋白質濃度を制御する手段と、該タンパク質結晶の周囲の該タンパク質溶液濃度を測定する手段と、タンパク質結晶周囲の干渉縞を観察するための二光束干渉計と、タンパク質結晶の周囲におけるタンパク質溶液の沈殿剤濃度を制御する手段と、透析セル中の沈殿剤濃度を測定する手段とを含むことを特徴とするタンパク質結晶の製造装置。
(20)透析セルが、表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とする上記(19)記載の装置。
(21)タンパク質溶液の濃度を測定するための手段が分光光度計である上記(19)または(20)に記載の装置。
(22)分光光度計が、透析セルにおいて、光反射用薄膜を設けていない石英薄板の部分を透過させた透過光の強度を測定するためのものである上記(21)記載の装置。
(23)所望の濃度の沈殿剤溶液を透析セルの外容器に送るための手段を有する上記(19)〜(22)のいずれかに記載の装置。
(24)所望の濃度のタンパク質溶液を、透析セルを解体することなく透析セル内容器内に導入するための手段を有する上記(19)〜(23)のいずれかに記載の装置。
(25)二光束干渉計による干渉縞を撮影するためのCCDカメラ等の撮影手段を有する上記(19)〜(24)のいずれかに記載の装置。
(26)二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計である上記(19)〜(25)のいずれかに記載の装置。
(27)表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とするタンパク質結晶製造装置用の透析セル。
[発明の実施の最良の形態]
以下、本発明を図面も参照しながら順次具体的に説明する。
本発明は、レーザー光などの光を用いた二光束干渉計を用いた光干渉法を採用したものであるから、まずこの原理について概略を記載する(第7図参照)。
ある結晶化パラメーターの数値のもとで、タンパク質溶液中でタンパク質結晶が成長している状態では、結晶が周りの溶液から溶質であるタンパク質を取り込むため、結晶周囲の溶液ではそれより外側の溶液よりタンパク質濃度が低下する。
この状態において、スプリッターを用いて2束に分割した光の一方を結晶周辺に当て、他方のミラーから反射してくる光との干渉縞を観察すると、結晶の周囲では光の屈折率が低下し、光学距離が短くなっているので干渉縞が曲がって見る(図7a)。
結晶と溶液が平衡状態にあるときは結晶周囲の溶液とその外側の溶液のタンパク質濃度は同じ濃度となるので、干渉縞は真っ直ぐな平行線に見える(図7b)。
結晶が溶解している状態にあるときは、結晶周囲のタンパク質濃度が上昇しており、成長の場合とは逆の方向に干渉縞が曲がって見える(図7c)。
このようにして、結晶周辺に光を当て、透過光の干渉縞を観察することによって、結晶周囲のタンパク質濃度分布がわかり、結果として結晶が成長しているのか、溶解しているのか、または平衡状態にあるのかを判定することができる。
従って、平衡状態にある時の沈殿剤濃度とタンパク質の濃度を決定することにより沈殿剤濃度に対するタンパク質結晶の溶解度を求めることができる。
干渉縞の観察は、肉眼での観察のほか、連続的な自動写真撮影、特にCCDカメラ等を用いた自動記録手段を用いれば効率的に実施できる。
なお、二光束干渉計を用いた光干渉法の原理は、前記非特許文献1〜3にも詳細に記載されている。
次に、本発明におけるタンパク質の溶解度の測定について述べる。
石英または石英ガラス(単に、石英ということあり)の薄板を用意し、石英薄板の表面または裏面の一部、好ましくは片側半分に、光反射用薄膜を形成する。
光反射用薄膜は、光を確実に反射するものであればいかなるものでも良いが、好ましくは、金蒸着により作製することができる。
光反射用薄膜を設けた部分が結晶を載置するところであり、また、干渉縞を測定するための光を反射させる部分でもある。
石英薄板の光反射用薄膜のない部分がタンパク質濃度を測定するための光が通過する部分であり、透過光の分光光度計を用いた吸光分析によりタンパク質濃度が測定される。
次に、測定対象とするタンパク質の結晶を、少量の結晶化母液とともに石英薄板の光反射用薄膜のある部分に載置し、内容器に入れる。
内容器の開口部は、透析膜にて覆う。透析膜を内容器へ固定するには、弾性のあるOリングを用いるのが好ましい。
透析膜のポアサイズは、タンパク質の分子量、形状に応じて、適宜選択する。
タンパク質溶液を透析セル上部のパイプより透析セル内に流入させ、透析セル内容器内に所定濃度のタンパク質溶液を満たす。
タンパク質の溶解度を測定する際の透析セルの具体的例を図1〜3に示す。
図1は、透析セルのタンパク質結晶及びタンパク質溶液を収容する内容器であり、測定用のタンパク質結晶(S)をタンパク質溶液(T)とともに収容した状態を示している。
図1に於いて、1は透析膜、2は透析膜を透析セルに固定するための弾性Oリング、3は表面の一部に光反射用薄膜層(光反射層ということあり)である金蒸着層(Au)を設けた石英薄板である。4はスペーサーを介して配置した石英ガラス薄板、5はフランジ部分、7、8は所望の濃度のタンパク質溶液を、透析セルを解体することなく透析セル内容器に流入するための手段としての、タンパク質溶液の流入用パイプと流出用パイプである。
タンパク質結晶の近傍において、光反射層のところで反転している矢印は、結晶周囲のタンパク質溶液の濃度分布を干渉縞として測定するためのレーザー光線の光路を示しており、光反射層のない石英薄板部分を通過している矢印は、タンパク質溶液のタンパク質濃度を測定するための別光源からの光線の光路を示している。
図2及び図3は、第1図のタンパク質結晶及びタンパク質溶液を収容する内容器と、沈殿剤溶液からなる透析外液を収容する外容器との組み合わせからなる透析セルの側面断面図(図2)と上面図(図3)である。
図2及び図3に於いて、6は透析セル固定板、9は外容器の透析外液室であり、マグネチックスターラーのような透析外液を撹拌する手段が設けられる。10は、透析外液の流入用パイプであり、11は同流出用パイプである。12は透析外液室の底を形成する分光測定用窓ガラスである。
このように組み立てた透析セルを用いて、図4に示すような溶解度測定装置を組み立ててタンパク質の溶解度を測定する。
図4は透析セル内に載置したタンパク質結晶周囲のタンパク質溶液のタンパク質濃度の分布状態をマイケルソン型の二光束干渉計を用いて観測し、観察された干渉縞をCCDカメラを用いて撮影する装置を示した模式図である。
光源(図示していない)からのレーザー光線をビームスプリッターで2分割し、一方の光束を透析セルに送り、もう一方の光束を反射鏡に送る。
透析セルからの反射光と反射鏡からの反射光とを合わせてからCCDカメラに送り干渉縞の状態を撮影する。
<タンパク質の溶解度測定>
溶解度の測定は、恒温室や恒温槽など特定の一定温度条件を維持した状態下において行うのが望ましい。
透析セルの内容器にタンパク質結晶を配置し、その周囲に当該タンパク質結晶の溶解度よりも若干薄い、または、若干濃いと推定されるタンパク質溶液を満たす。
沈殿剤溶液を透析セルの外容器に送る手段を用いて、透析セルの透析外液室内に、沈殿剤の溶液を沈殿剤の濃度を連続的または段階的(stepwise)に上昇または下降させながら導入し、透析セルの内容器内の沈殿剤の濃度を透析膜を通じての沈殿剤の拡散によって上昇させ、または、透析セルの内容器内の沈殿剤の濃度を透析膜を通じての沈殿剤の拡散によって下降させ、これにより内容器内に配置したタンパク質結晶を溶解状態から平衡状態を経て成長状態へ、または成長状態から平衡状態を経て溶解状態へと移行させる。
この結晶の状態の移行過程において、マイケルソン型の二光束干渉計を含む干渉縞を測定する手段を用いて、結晶周囲の干渉縞の形を観察することによって、特定のタンパク質濃度及び特定の沈殿剤濃度において結晶が成長状態にあるのか、溶解状態にあるのかあるいは平衡状態にあるのかを判定する。
パラメーターとして利用する沈殿剤としては、特に限定されないが、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、燐酸塩などの塩類やポリエチレングリコール(PEG)を好ましく使用できる。
本発明においては、干渉縞の測定に好ましくはマイケルソン型の二光束干渉計を用いているので、透析セルに送った光は試料溶液に入射し次いで光反射用薄膜で反射し、光が試料溶液中を単に通過するものと比べて2倍の距離を通過させることができる。
したがって、本発明においては、濃度分布の測定精度、すなわち干渉縞の測定精度が向上している。
<タンパク質濃度の測定手段>
結晶周囲のタンパク質濃度の測定は、光反射層を施していない石英薄板部分のタンパク質溶液を透過させた透過光の強度について分光光度計を用いて行う。タンパク質濃度の測定に使用する波長は、通常280nmであるが、タンパク質の溶解度測定においてはタンパク質濃度が高いため、短い光路長であってもこの波長での測定が難しい場合が多い。
例えば、図5に示すとおり、光路長0.30mmにおいてもリゾチーム濃度が20mg/mlを超えると280nmでの測定は困難である。
そこで、本発明者は、例えば、リゾチームの濃度測定に於いて、光路長0.30mmで295nm及び300nmの波長を用いると、図6に示すとおり100mg/mlまで直線性のある濃度測定が可能であることを確認した。
<透析外液の沈殿剤濃度の測定手段>
本発明において、透析セル内容器内の沈殿剤の濃度と透析セル外容器の透析外液の沈殿剤濃度が平衡状態になるまで、沈殿剤の透析膜を通じての拡散がなされなければならない。
そのためには、内容器の透析膜の面積を大きくし、収容するタンパク質溶液を少なくすることが効果的であり、また、透析外液を撹拌することが好ましい。
透析セルの内容器内のタンパク質溶液を、例えば小さなスターラーバーを用いるなどして撹拌することによりさらに短い時間で平衡状態とすることができる。
例えば、本発明の透析セルの場合、直径0.3mm以下、長さ5mm程度のステンレス棒を石英ガラス薄板3,4の間でスターラーを用いて回転させることができる。
なお、タンパク質溶液の撹拌は干渉縞を観察するときは停止する。
そして、透析セル内容器内の沈殿剤濃度は直接測定する必要はなく、透析セル内容器内の溶液と平衡状態にある透析外液の沈殿剤濃度を測定すればよい。
すなわち、外容器から排出されてくる平衡状態にある透析外液の沈殿剤濃度を測定する手段を設ければよい。
沈殿剤濃度を測定する手段としては、例えば、沈殿剤が塩溶液であり、透析膜の内外溶液が沈殿剤塩溶液に関して平衡状態であれば、外容器から排出されてくる透析外液の電気伝導度を測定して沈殿剤の濃度測定することができる。
沈殿剤がPEGなど塩溶液でない場合には、高濃度のPEG溶液(濃度既知)と緩衝液をポンプを用いて適度な比で混合することによりPEG濃度を決定することができる。
このようにして、タンパク質結晶の溶解状態を示す干渉縞の測定結果と、そのタンパク質結晶の周囲のタンパク質濃度の測定値と、沈殿剤の濃度とから、タンパク質の溶解度を、少ない試料で、短時間に、正確に測定することができる。
<溶解度の複数測定>
1回の溶解度の測定が終了したら、次に、透析セルの内容器内に1回目と異なる濃度を持つタンパク質溶液を流入用パイプを用いて満たし、上記と同様の測定を実施することにより、沈殿剤濃度をパラメーターとした異なるタンパク質濃度の箇所でのタンパク質の溶解度を測定できる。
以降、所望する回数の溶解度の測定を実施すれば所望個数の溶解度の数値が測定できる。
複数箇所での溶解度が測定できれば、それら溶解度の数値を結ぶだけで溶解度曲線を容易に作成できる。
使用するタンパク質の量を可能な限り少なくして測定するためには、高濃度のタンパク質溶液を用いて1回目の測定を実施し、次に少量の希釈液を透析セルの内容器内に導入してタンパク質溶液の濃度を低下させてから2回目の測定を行う。このようにして3回目以降、順次タンパク質溶液の濃度を段階的に低下させて測定を実施するというものである。この場合、使用するのは、最初に透析セルにセットしたタンパク質結晶と100μl程度のタンパク質溶液だけである。
切替弁の作動を、干渉縞の読みとり装置と制御システムを介して連動させることにより、タンパク質溶液と希釈液との切替ができ、干渉縞の観測データに対応してタンパク質濃度の切り替えと沈殿剤濃度の切り替えを自動的に行えるようにすることもでき、このようにして全自動でタンパク質の溶解度曲線を作製することができる。
<タンパク質結晶の製造>
タンパク質の結晶化においては、結晶を製造する系におけるタンパク質溶液のタンパク質の過飽和度の大小が、直ちに結晶化駆動力の大小になる。
そして、過飽和度が小さい状態で結晶が成長する場合に、タンパク質結晶の渦巻き成長が起こって結晶格子に欠陥のない良質な結晶が成長してくる。過飽和度が増加するとともに二次元核成長や付着成長が発生して結晶格子に乱れが生じて良質な結晶が得られなくなる。
したがって、良質なタンパク質結晶を製造するためには、過飽和度の小さい状態を維持することが必要であり、そのためには信頼性の高い溶解度の情報、正確な溶解度曲線の情報が必要となる。
本発明では、上記タンパク質の溶解度測定において用いたのと類似の構成からなる装置を用いてタンパク質の結晶を製造する。
すなわち、結晶化すべき所望のタンパク質の種結晶を石英薄板の光反射層上に載置して、この種結晶が成長も溶解もしない状態、すなわち平衡状態を検出し、その状態における沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を求める。
次いで、この種結晶に渦巻き成長を起こさせて、高品質のタンパク質単結晶を製造するために、上記したとおり、結晶周囲のタンパク質の濃度を、その条件での溶解度からみて所望する過飽和状態に制御する。
この所望する過飽和状態を維持制御するためには、この透析外液の沈殿剤の平衡状態時の濃度をやや高めてその濃度をそのまま一定に維持制御し、透析セル内のタンパク質溶液のタンパク質濃度は平衡状態時のまま維持するか、または、透析外液の沈殿剤の平衡状態時の濃度をそのまま維持し、一方で透析セル内のタンパク質溶液のタンパク質濃度をやや高めてその濃度をそのまま一定に維持制御することで達成できる。
また、多少制御が複雑になるが、本発明により作成されたタンパク質の溶解度曲線に基づき、タンパク質濃度と沈殿剤濃度の両方を、溶解度曲線に沿って上方または下方に移動させるようにしてもよい。
結晶周囲のタンパク質溶液の濃度の測定は、透析セルにおける光反射層のない石英薄板部分を用いて実施できる。
沈殿剤の濃度の測定は、直接実施することは困難であるけれども、透析セル外容器からの排出液における沈殿剤の濃度が透析セルの内容器内の沈殿剤の濃度と同じであるとみなせるので、この排出液での濃度を測定することにより代行することができる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
リゾチーム結晶の溶解度測定
石英薄板、アクリル板及び透析膜などを用いて図1に示す直径20mm、深さ0.5mmのボタン型透析セル(内容器)を作製した。
透析膜1は、スペクトルラボラトリ社(Spectrum Laboratories,Inc.)のSpectra/Por(登録商標)Membrane MWCO:2,000を用いた。
表面の一部(長辺に沿って約半分の表面)に金蒸着(Au)した厚さ0.2mmの石英薄板3(8×17mm)を用意し、測定対象である鶏卵白リゾチームの単結晶S(約0.2mm立方)を石英薄板上の金蒸着した部分に載置した。測定に用いた鶏卵白リゾチームの結晶は蒸気拡散法(ハンギングドロップ法)で作成した。この石英薄板を高さ0.31mmの石英ガラスのスペーサ(図示せず)を介して、厚さ1mmの石英ガラス板4と重ねて内容器内にセットし、これを図2及び図3に示すように透析外液の貯留室を持つ外容器と組み合わせて透析セルを形成した。
内容器と外容器との間にはシリコンゴムなどのシール材(図示せず)を配置して透析外液が漏れないようにした。
透析セルを、図4(二光束干渉計による干渉縞を測定する部分の模式図)に示すように溶解度測定装置に組み込んだ。
透析セルの内容器内に100mg/mlのリゾチーム濃度、0.1モルのNaCl濃度、0.05モルの酢酸ナトリウム濃度であるpH4.5の溶液を、溶液流入用パイプ7から流入させた。
一方、予め透析外液室(内容量3.6ml)に0.1モルのNaClを含むpH4.5の緩衝液を満たし、容器沈殿剤濃度の上昇手段である2台の送液ポンプを用いた二液混合システムを用いて塩化ナトリウムの濃度をスタートの0.1モルから徐々に上昇させながら、流量2.0ml/minで透析外液室内に沈殿剤溶液を透析外液流入用パイプ7から導入した。
二液混合は、1モルのNaCl溶液と、NaClを含まない溶液を用いて行った。
これらの溶液は、すべてpH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液である透析外液は、スターラーを用いて撹拌した。透析液外液流出パイプ11から排出されてくる溶液の塩化ナトリウム濃度をコンダクタンスモニターを用いて測定した。
透析外液の沈殿剤の濃度を徐々に上昇させることにより、結晶を溶解状態から平衡状態を経て成長状態まで変化させた。マイケルソン型の二光束干渉計(ニコン2.5×0.075 TI)を用いて金蒸着した石英薄板上の結晶周囲の干渉縞の形を観察することによって、結晶が溶解状態、平衡状態、あるいは成長状態にあるのかを判定した。
二光束干渉計の光源として、He−Neレーザーを用いた。
結晶の状態変化をCCDカメラで撮影した結果を図7に示す。
図7aは、結晶が成長状態にある時の干渉縞の形であり、図7cは、結晶が溶解状態にある時の干渉縞の形であり、図7bは、結晶が平衡状態にある時の干渉縞の形である。結晶が平衡状態にあるときには、結晶周辺で曲がっていない状態で平行線の干渉縞が観察される。
リゾチーム結晶周囲のリゾチーム溶液の濃度は、金蒸着していない部分の石英板の部分を光路として、分光光度計で、300nmの波長を用いて測定した。
なお、使用した透析膜の300nmでの光吸収は0.35以下であり測定の障害にはならなかった。
第1回目の測定が終了した後、内容器内のタンパク質溶液の濃度を80mg/mlに低下させ、1回目と同様の方法で2回目の測定を実施した。
沈殿剤の濃度は第1回目よりも幾分高くした。このようにして、8回の測定を実施した。
内容器内のタンパク質溶液の濃度は、結果的に100mg/mlから5mg/mlまで低下させ、沈殿剤のNaCl濃度は0.1モルから0.7モルまで上昇させた。NaCl濃度は20〜30mモルづつ段階的に上昇させることが好ましい。
複数のリゾチーム濃度を用いて干渉縞の形を観察した結果を図8に示す。
白丸は溶解状態を、半月は平衡状態を、黒丸は成長状態を表している。
図8に於ける平衡状態を意味する半月部分の点を結ぶことにより塩化ナトリウム濃度をパラメーターとしたリゾチームの溶解度曲線が作成できた。
この得られた、溶解度曲線を従来知られているリゾチームの溶解度曲線と比較したところ、ほぼ一致しており、本発明のシステムの妥当性が確認できた。
【実施例2】
リゾチーム結晶の製造
透析セルの内容器内に、鶏卵白リゾチーム濃度50mg/ml、NaCl濃度0.3モル、酢酸ナトリウム濃度0.05モル、pH4.5の鶏卵白リゾチーム溶液70マイクロリットルをセットした。透析外液室には、予め、NaCl濃度0.3モル、酢酸ナトリウム濃度0.05モル、pH4.5の緩衝液を満たした。液体クロマト装置のミキシング機能を用いて、沈殿剤溶液(1.0モルNaCl、0.05モル酢酸ナトリウム、pH4.5)と緩衝剤溶液(05モル酢酸ナトリウム、pH4.5)の混合比を変えながら、0.1ml/minの流速で、内容器内のNaCl濃度を0.30Mから0.40Mまで48時間かけて徐々に増加させた。この方法は、実施例1で得られた溶解度曲線(図8参照)の結果に基づいて、溶解度曲線上の1点(卵白リゾチーム濃度50mg/ml、NaCl濃度0.3モル、リゾチーム溶液の過飽和度1.0)から出発して、リゾチーム溶液の過飽和度が2.5まで徐々に上昇させたことになる。なお、過飽和度とは、透析セル内のタンパク質濃度をC、そのときの沈殿剤濃度(NaCl濃度)における溶解度曲線上のタンパク質濃度をCとするときの、C/Cの値である。
その結果、0.05mm〜0.1mm立方の良質なリゾチーム結晶が多数得られた。得られたリゾチーム結晶は、X線結晶解析用に十分適する大きさであった。得られた結晶の光学顕微鏡写真を図9に示した。
【実施例3】
リゾチーム結晶の製造
約0.2mm立方のリゾチーム結晶1個を卵白リゾチーム溶液70マイクロリットルと共に透析セル内容器内の金蒸着面上にセットした。内容器内の鶏卵白リゾチーム溶液、透析外液室に満たす緩衝液は、実施例2と同じである。実施例2と同様に、沈殿剤溶液と緩衝剤溶液の混合比を変えることで、内容器内のNaCl濃度を制御した。実施例1で得られたリゾチームの溶解度曲線の情報(図8参照)を基にして、タンパク質濃度とNaCl濃度を同時に測定しながら過飽和度を1.0から1.5以内に保ちつつ結晶を成長させたところ、約1mm立方の比較的大きな質の良い結晶が得られた。得られた結晶の光学顕微鏡写真を図10に示した。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、極めて少ないタンパク質の使用量で、短時間に、タンパク質の変性のおそれなく、かつ、正確に、タンパク質結晶の溶解度を測定することができる。
また、本発明は、得られた溶解度の正確な数値を用いて作成された信頼性の高い溶解度曲線を用いて、タンパク質結晶の成長条件、特に過飽和度、を所望の条件に制御することにより、良質なタンパク質結晶を確実にかつ極めて効率的に製造することができるという優れた効果を有する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液中の沈殿剤の濃度を上昇または下降させながら、タンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞を二光束干渉計を用いて観察することによって、沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する方法において、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液の濃度を測定するとともに干渉縞の観察を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けた石英薄板を用意し、石英薄板の光反射用薄膜を設けた部分にタンパク質結晶を載置し、タンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞を観察するとともに、石英薄板の光反射用薄膜を設けていない部分からタンパク質溶液中のタンパク質濃度を測定することによって、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液の濃度の測定と干渉縞の観察とを行う請求項1記載の沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する方法。
【請求項3】
タンパク質溶液と透析膜を隔てて収容された沈殿剤溶液の濃度を調整することによって、タンパク質結晶の周囲に満たされた該タンパク質溶液中の沈殿剤の濃度を上昇または下降させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
二光束干渉計を用いて観察したタンパク質結晶の周囲に形成される干渉縞が、タンパク質結晶周辺において曲がることなく直線であると判定されたときのタンパク質溶液濃度と沈殿剤濃度から、該タンパク質の溶解度を決定する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
タンパク質溶液中のタンパク質濃度を分光光度計によって測定する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
タンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液のタンパク質濃度を段階的に変化させて、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質の溶解度測定を繰り返すことによって複数個の溶解度を求め、沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度曲線を作成する方法。
【請求項7】
タンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液濃度の段階的な変化を連続的に行うことによって溶解度曲線を作成する請求項6記載の方法。
【請求項8】
二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
タンパク質結晶とその周囲に満たされるタンパク質溶液との収容部を有し透析膜を備えた透析セルと、該タンパク質溶液の濃度を測定する手段と、タンパク質結晶周囲の干渉縞を観察するための二光束干渉計と、透析セル中のタンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液における沈殿剤濃度を上昇または下降させる手段と、透析セル中のタンパク質結晶の周囲に満たされるタンパク質溶液における沈殿剤濃度を測定する手段とを含むことを特徴とする沈殿剤濃度に対するタンパク質の溶解度を測定する装置。
【請求項10】
透析セルが、表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とする請求項9記載の装置。
【請求項11】
タンパク質溶液の濃度を測定するための手段が分光光度計である請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
分光光度計が、透析セルにおいて、光反射用薄膜を設けていない石英薄板の部分を透過させた透過光の強度を測定するためのものである請求項11記載の装置。
【請求項13】
沈殿剤濃度を連続的に上昇または下降させつつ沈殿剤溶液を透析セルの外容器に送るための手段を有する請求項9〜12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
所望の濃度のタンパク質溶液、または希釈溶液を、透析セルを解体することなく透析セル内容器内に導入するための手段を有する請求項9〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
二光束干渉計による干渉縞を撮影するためのCCDカメラ等の撮影手段を有する請求項9〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計である請求項9〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とするタンパク質の溶解度測定装置用の透析セル。
【請求項18】
請求項6または7に記載の方法によって作成された溶解度曲線を利用して、成長中のタンパク質結晶の周囲にあるタンパク質溶液の過飽和度を制御しながらタンパク質結晶を製造することを特徴とするタンパク質結晶の製造方法。
【請求項19】
タンパク質結晶とその周囲に満たされるタンパク質溶液との収容部を有し透析膜を備えた透析セルと、該タンパク質結晶の周囲における該タンパク質溶液の蛋白質濃度を制御する手段と、該タンパク質結晶の周囲の該タンパク質溶液濃度を測定する手段と、タンパク質結晶周囲の干渉縞を観察するための二光束干渉計と、タンパク質結晶の周囲におけるタンパク質溶液の沈殿剤濃度を制御する手段と、透析セル中の沈殿剤濃度を測定する手段とを含むことを特徴とするタンパク質結晶の製造装置。
【請求項20】
透析セルが、表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とする請求項19記載の装置。
【請求項21】
タンパク質溶液の濃度を測定するための手段が分光光度計である請求項19または20に記載の装置。
【請求項22】
分光光度計が、透析セルにおいて、光反射用薄膜を設けていない石英薄板の部分を透過させた透過光の強度を測定するためのものである請求項21記載の装置。
【請求項23】
所望の濃度の沈殿剤溶液を透析セルの外容器に送るための手段を有する請求項19〜22のいずれかに記載の装置。
【請求項24】
所望の濃度のタンパク質溶液を、透析セルを解体することなく透析セル内容器内に導入するための手段を有する請求項19〜23のいずれかに記載の装置。
【請求項25】
二光束干渉計による干渉縞を撮影するためのCCDカメラ等の撮影手段を有する請求項19〜24のいずれかに記載の装置。
【請求項26】
二光束干渉計が、マイケルソン型二光束干渉計である請求項19〜25のいずれかに記載の装置。
【請求項27】
表面または裏面の一部に光反射用薄膜を設けたタンパク質結晶を載置するための石英薄板と、この石英薄板を内部に収容し透析膜で覆われた表面部分を備え内部にタンパク質溶液を満たす内容器と、透析膜の外部にタンパク質沈殿剤の溶液を満たす外容器からなることを特徴とするタンパク質結晶製造装置用の透析セル。

【国際公開番号】WO2004/090515
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570568(P2004−570568)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013057
【国際出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】