説明

ターニングシステム及びターニング方法

【課題】潮流に起因するターニング用の電動モータの破損の可能性を正確に検知できるターニングシステムを提供する。
【解決手段】ターニングシステム100は、減速機94を介して船舶の推進軸92を回転させるターニング用の電動モータ20と、電動モータ20に供給される電流値が電動モータ20にかかる負荷に応じて自動的に変化するように、電動モータ20に供給される供給電源31の電圧及び周波数を一定にして電動モータ20を一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置30と、電動モータ20に供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号41を生成し送信する監視装置40と、監視装置40が送信した警告信号41を受信すると報知する報知装置50と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点検の際などに船舶の推進系システムを回転させるターニングシステム及びターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶に推進力を与えるプロペラは推進軸の先端に取り付けられており、この推進軸は原動機により駆動される。そして、原動機と推進軸の間には低速ディーゼルエンジンによって直結で駆動される場合を除いては、減速機が設けられており、原動機からの出力は、減速機を介して推進軸に伝達される。また、船舶の原動機には、蒸気タービンを利用するタービン駆動タイプのもの、電気を利用するモータ駆動タイプのもの、及びピストンエンジンを用いたものの3種類がある。
【0003】
タービン駆動タイプの原動機は、運転中にタービンが高温となるため、運転後すぐに回転を止めてしまうと、タービンが自重によって変化したまま冷え固まってしまうおそれがある。そこで、これを防ぐために、運転停止後しばらくの間、タービンを比較的小さな回転速度で回転させるターニングが行われる(例えば、特許文献1参照)。このターニングは、ターニング用の電動モータを用いるとともに、減速機を介して行われる。そのため、ターニングを行う際には、タービンだけでなく推進軸やプロペラも同時に回転することになる。なお、ターニングは、原動機の運転停止後のみならず、タービンや減速機などを点検する際にも行われる。
【0004】
一方、モータ駆動タイプの原動機及びピストンエンジンによって駆動される原動機では、タービンを備えていないため運転停止後のターニングを行う必要はないが、これらの原動機であっても減速機や原動機自体の点検を行う際には原動機(メインモータ)とは別の駆動手段でターニングを行う必要がある。そのため、モータ駆動タイプやピストンエンジン駆動タイプの原動機を備えた船舶であっても、原動機自体を回転させるターニングシステムを備えている場合が多い。そして、ターニングシステムの基本構成は、原動機の種類に関係なく同じである。つまり、モータ駆動タイプやピストンエンジン駆動タイプの原動機を回転させるターニングシステムであっても、タービン駆動タイプの原動機を回転させるターニングシステムと同様に、ターニング用の電動モータが推進軸や原動機を回転させるという基本構成を備えている。
【0005】
また、ターニングは、通常一定の回転速度で行われるため、ターニングの際には推進軸も当然ながら一定の回転速度で回転する。ただし、ターニング用の電動モータは減速機を介して推進軸を回転させる場合、プロペラ(推進軸)の回転速度に比して電動モータの回転速度は非常に大きい。例えば、ターニング中、プロペラは8分間に1回転する程度の回転速度で回転するのに対し(タービンの回転速度はこれよりも大きい)、ターニング用の電動モータは一般的なモータの定格回転速度である1000〜2000rpm程度で回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−117344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、ターニングの際には、プロペラを含む推進系システム全体とターニング用の電動モータが接続されているため、潮流の流速が大きくなると条件によってはターニング用の電動モータに不具合が生じ得る。以下、このターニング用の電動モータに生じ得る不具合について説明する。
【0008】
ターニングは、船舶が停泊している間に行われるが、潮流が速くなるとプロペラが潮流から大きな力を受けることにより、推進軸を回転させようとする力が働く。まず、ターニング用の電動モータによる推進軸を回転させようとする方向と、潮流による推進軸を回転させようとする方向が逆である場合は(以下、このときの電動モータの回転方向を「対抗方向」という)、特に不具合は生じない。なぜなら、通常、ターニング用の電動モータは出力に比較的余裕があるものが採用されており、潮流の流速がある程度大きくなったとしても潮流によって生じる力に対抗して推進軸を回転させることができるからである。
【0009】
他方、ターニング用の電動モータによる推進軸を回転させようとする方向と、潮流による推進軸を回転させようとする方向が同じである場合(以下、このときの電動モータの回転方向を「順方向」という)、不具合が生じ得る。ターニング用の電動モータの回転方向が順方向である場合、プロペラが潮流から力を受けることで潮流に補助される形でターニング用の電動モータはターニングを行う。ところが、ターニング用の電動モータの駆動力が無くともターニングが行える程度にまで潮流の流速が大きくなると、もはやターニング用の電動モータでは推進軸の回転速度は制御できなくなり、推進軸は通常のターニング時における回転速度を超えて回転することになる。そして、上述したように、プロペラの回転速度に比して電動モータの回転速度は非常に大きいため、上記の例でいえばプロペラ(推進軸)が8分間に1回転していたものが2回転する程度であっても、電動モータの回転速度が1800rpmの場合は、2倍の3600rpmとなり、この場合にはターニング用の電動モータが高回転に耐えきれず破損してしまう可能性が高い。
【0010】
以上の説明から理解できるように、ターニング用の電動モータの破損を回避するには、まず、ターニング中において潮流の流れる方向と流速を監視する必要がある。そして、ターニング用の電動モータが破損する可能性が高くなったと判断したときには、電動モータと減速機の接続を切り離してターニングを中止しなければならない。潮流を確認する方法としては乗組員が目視で行う方法があるが、ターニングは通常数時間行われるため、この方法は非効率であるし、乗組員が必ずしも正確に破損の可能性を判断できるとはいえない。また、潮流の流速を測定する流速計を用いる方法もあるが、船体に取付けた流速計では潮流の正確な方向や流速を測定することはできず、また、潮流の流れる方向によってはプロペラに加わる力が異なることからターニング用の電動モータの破損の可能性を正確に予測するのは困難であった。
【0011】
また、船によっては可変ピッチプロペラ(プロペラのピッチを任意に変更できるプロペラ)を採用している場合もあり、この場合は潮流だけでなくその時のプロペラのピッチも考慮しなくてはならず、乗組員の判断に頼るのは困難であった。
【0012】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、潮流に起因するターニング用の電動モータの破損の可能性を正確に検知できるターニングシステムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、潮流に起因するターニング用の電動モータの破損の可能性を検知した後であっても、引続き安定した状態でターニングを行うことができるターニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、本発明に係るターニングシステムは、減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、前記監視装置が送信した前記警告信号を受信すると報知する報知装置と、を備えている。
【0014】
かかる構成では、回転制御装置が電動モータへ供給される供給電源の電圧値及び周波数を調整することにより電動モータの回転速度が一定になるよう制御している。そうすると、電動モータの回転方向が順方向である場合は、小さな電流値で電動モータが回転することになる。そして、潮流の流速が徐々に大きくなると、電動モータに供給される電流値は徐々に小さくなっていく。そのため、監視装置により電動モータの電流値又は電力値が一定以下になったか否かを監視すれば、電動モータの回転方向が順方向で、かつ、潮流の流速が大きくなったか否か、つまり電動モータが破損する可能性が高くなったか否かを検知することができる。そして、電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になった場合、つまり電動モータが破損する可能性が高まった場合には、報知装置により乗組員に報知されるため、その後乗組員は適切な対応をとることができる。
【0015】
また、上記のターニングシステムの報知装置を切換装置に置き換えてもよい。すなわち、本発明に係る他のターニングシステムは、減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、前記監視装置が送信した前記警告信号を受信するとターニングの回転方向を切り換える切換装置と、を備えるようにしてもよい。
【0016】
かかる構成によれば、電動モータが破損する可能性が高まった場合には、乗組員を介さずとも自動でターニングの回転方向を切り換え、電動モータの破損を回避することができる。また、単に電動モータと減速機を切り離すのではなく、ターニングの回転方向を切り換えることで、電動モータが破損する可能性が高まった場合であっても、その後引続き安定したターニングを行うことができる。
【0017】
また、上記のターニングシステムの切換装置を連結装置に置き換えてもよい。すなわち、本発明に係る他のターニングシステムは、減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、ターニングの際には前記電動モータと前記減速機を接続し、前記監視装置が送信した前記警告信号を受信すると前記電動モータと前記減速機を切り離す連結装置と、を備えるようにしてもよい。
【0018】
かかる構成によれば、電動モータが破損する可能性が高まった場合には、自動で電動モータと減速機の接続を切り離し、電動モータの破損を回避することができる。この場合であっても、ターニングは一旦中断されるが、乗組員を介さずとも自動で電動モータの破損を回避することができる。
【0019】
また、本発明に係るターニング方法は、ターニング用の電動モータにより減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング方法であって、前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御し、前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になるとターニングの回転方向を切り換える。
【0020】
かかる構成によれば、上述のように潮流によって電動モータが破損する可能性が高まったか否かを正確に検知することができ、また、電動モータの破損の可能性がある場合には、ターニングの回転方向を切り換えることで、その後引続き安定した状態でターニングを行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るターニングシステムによれば、電動モータが破損する可能性が高くなったか否かを正確に検知することができる。また、本発明に係るターニング方法によれば、潮流に起因するターニング用の電動モータの破損の可能性を検知した後であっても、引続き安定した状態でターニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るターニングシステムの概念図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るターニング方法の説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るターニングシステムの概念図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るターニングシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るターニングシステムの実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0024】
(第1実施形態)
まず、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るターニングシステム100の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るターニングシステム100は、連結装置10と、ターニング用の電動モータ(以下、単に「電動モータ」という)20と、回転制御装置30と、監視装置40と、報知装置50と、切換装置60と、を備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0025】
連結装置10は、電動モータ20を推進系システム90の減速機94に連結させる装置である。ここでいう推進系システム90とは、船舶を推進させるシステムであって、プロペラ91、プロペラを支持する推進軸92、推進軸92を回転させる原動機93、及び原動機93と推進軸92の間に介在する減速機94が含まれる。なお、原動機93は、タービン駆動タイプであってもよく、モータ駆動タイプであってもよい。本実施形態では、電動モータ20の出力軸21の先端部分に軸方向へ移動可能な連結用ギア22が取り付けられており、連結装置10は作動バー11を用いて(詳細な構成については周知につき説明を省略する)、この連結用ギア22を軸方向に移動させる。これにより、電動モータ20と減速機94を接続することができ、また、電動モータ20と減速機94を切り離すことができる。
【0026】
電動モータ20は、減速機94を介して推進軸92や原動機93をターニングする装置である。上記のように電動モータ20の出力軸21の先端部分には連結用ギア22が取り付けられている。そして、この連結用ギア22は船舶の航行時には減速機94に連結されていないが、ターニングの際には減速機94に連結されている。本実施形態の電動モータ20は、交流タイプの電動モータであり、電動モータ20に供給される供給電源の電圧値および周波数を一定にすることで回転速度を一定に保持することができる。そして、一般的な電動モータの特性上、電動モータ20の電流値は電動モータ20の負荷に応じて適切な電力値となるように自動的に調整される。例えば、出力軸21にかかる負荷が変動する場合であっても、電圧値と周波数を一定に保持しておくことで回転速度は一定に保たれ、電動モータ20の電流値が自動的に追従することで電力値が調整され、出力軸21にかかる負荷の変動に対応することができる。
【0027】
回転制御装置30は、電動モータ20への供給電源31の電流値を測定する電流計32を有している。電流計32は、電動モータ20に供給されている電流値に関する電流値信号33を生成し、この電流値信号33を監視装置40へと送信する。また、電動モータ20に供給される供給電源の電圧値および周波数は、この回転制御装置30により制御される。
【0028】
監視装置40は、電動モータ20へ供給される電流値を監視する装置である。具体的には、監視装置40は回転制御装置30から送信された電流値信号33を受信し、この電流値信号33に基づいて電流値が一定以下になったと判断した場合には警告信号41を生成して報知装置50に送信する。上記のように、電動モータ20の負荷が小さくなると電動モータ20の電流値が小さくなるが、負荷が小さくなるということは、電動モータ20の回転方向が順方向(潮流によりプロペラが回転される方向)であるということを意味する。そして、供給電源31の電流値が非常に小さいということは、潮流の流速が大きいということを意味する。つまり、供給電源31の電流値が非常に小さいということは、電動モータ20の破損の可能性が高いということを意味するのである。そのため、電動モータ20への供給電源31の電流値が小さいか否かを監視することにより、電動モータ20の破損の可能性が高いか否かを正確に判断することができる。また、ここで説明した電流値信号33に代えて消費電力を示す信号を用いるようにしても良い。回転速度が一定に保持された状態では、電動モータ20の消費電力は、電動モータ20の負荷に追従するため、消費電力を監視することによっても、電動モータ20の負荷が小さくなったことを監視することができる。
【0029】
報知装置50は、電動モータ20の破損の可能性が高くなっていることを報知する装置である。報知装置50は、監視装置40が送信した警告信号41を受信できるように構成されており、警告信号41を受信すると乗組員に報知する。報知の方法としては、種々のものがある。音声を発生することにより乗組員に報知する方法、ランプを点灯することにより乗組員に報知する方法、振動する端末を各乗組員に与え、この端末を振動させることで乗組員に報知する方法などがこれに含まれる。いずれにしろ報知装置50は、報知を行うことによりそれを乗組員が認識できるような構成であればよい。これにより、乗組員は電動モータ20の破損の可能性が高くなっていることを認識し、電動モータ20の破損を回避するための適切な対応をとることができる。
【0030】
切換装置60は、ターニングの回転方向を切り換える装置である。本実施形態に係る切換装置60は手動で操作が可能であって、乗組員は自らの意思でターニングの回転方向を切り換えることができる。また、本実施形態に係る切換装置60は、ターニングの回転方向を電気的に切り換える方法を採用している。すなわち、切換装置60は、電動モータ20と回転制御装置30の間に位置し、電動モータ20に供給される供給電源の流れ方向を変えることで電動モータ20自体の回転方向を変化させ、ターニングの回転方向を切り換えるのである。ただし、切換装置60は、ターニングの回転方向を機械的に切り換える構成であってもよい。例えば、正転用のギアと逆転用のギアの2種類のギアを有する切換装置を、電動モータと減速機の間に位置させ、上記の2種類のギアのうちどちらかのギアに噛み合わせるかにより、ターニングの回転方向を切り換える構成としてもよい。
【0031】
以上が本実施形態に係るターニングシステム100の構成である。本実施形態では、電動モータ20の破損の可能性についての判断指標として電動モータ20へ供給される電流値を利用している。このように、電動モータ20の破損の可能性についての明確な判断指標を用いることで、電動モータ20の破損の可能性が高くなっているか否かを正確に、かつ画一的に検知することができる。
【0032】
なお、上記の構成に加え、本実施形態に係るターニングシステム100は、潮流の方向と流速を計測する潮流計(図示せず)を船体に設けるとともに、電動モータ20の電流値や潮流計からのデータを表示する表示装置(図示せず)を備えるようにしてもよい。船体に設けられた潮流計は、必ずしも正確な測定値が得られるわけではないが、監視装置40が正しく作動しているか否かの程度であれば、潮流計で測定したデータによって十分確認するこができる。
【0033】
次に、本実施形態に係るターニング方法について説明する。なお、本実施形態では、上述したターニングシステム100を利用して乗組員が手動操作でターニングを行うものとする。また、電動モータ20は、最大潮流時であってもその潮流による力に対抗してターニングを行える十分な出力を有するものが採用されていることとする。なお、通常、船舶は停泊する港を想定したうえで設計がなされるため、各港の最大潮流にあわせて適切な電動モータ20が採用される。また、監視装置40は電動モータ20の電流値が1アンペア以下になった場合には警告信号41を報知装置50に送信するように設定されているものとする。
【0034】
まず、ターニングを行うに際して、乗組員は連結装置10を操作して電動モータ20と減速機94を連結する。そして、電動モータ20と減速機94を連結した後、電動モータ20を一定の回転速度で回転させる。例えば、電動モータ20を1800rpmで回転させる。上記のように電動モータ20の回転速度の制御は、回転制御装置30の電圧値及び周波数を一定に保つことによって自動で行われる。ここまでは、一般に行われているターニング方法と同じである。
【0035】
続いて、潮流が図2(b)に示すように大きく変動するような場合には次のようにターニングを行う。なお、図2(a)は電動モータ20の電流値の変動を示したものであって、横軸は時間を表し、縦軸は電動モータ20の電流値を表している。なお、上述したように、電動モータ20の電流値は、監視装置40によって監視されている。また、図2(b)は潮流の状況を示しており、横軸は時間を表し、縦軸は潮流の流速を表している。潮流の流速が正である場合(折れ線が図2(b)の上半分の領域にある場合)には船首から船尾へと潮流が流れていることを示し、潮流の流速が負である場合(折れ線が図2(b)の下半分の領域にある場合)には船尾から船首へと潮流が流れていることを示している。なお、潮流が無い場合には、6アンペアの電流値で電動モータ20を所定の回転速度(1800rpm)で回転させることができる。
【0036】
まず、時間t0のときは、図2(b)に示すように潮流は船尾から船首に向かう方向に流れ、その流速は約2.3ノットである。このとき、電動モータ20の回転方向は順方向であり、そのため潮流が無い場合の6アンペアよりもやや小さい5アンペアの電流値で電動モータ20を回転させることができる。
【0037】
その後、徐々に潮流の流速が大きくなっていくと、より小さな電流値でも電動モータ20を回転させることができる。そして、時間t1に至り、電動モータ20の電流値が1アンペアまで下がると、監視装置40は警告信号41を報知装置50に送信する。つまり、監視装置40は、電動モータ20の破損の可能性が高くなっていることを検知したのである。なお、電動モータ20の電流値が小さくなりすぎると、電動モータ20の破損の可能性が高くなっていると判断できる理由は、上述したとおりである。
【0038】
その後、監視装置40が送信した警告信号41を受信した報知装置50は、音声などにより乗組員に報知する。これにより、乗組員は電動モータ20の破損の可能性が高くなっていることを認識し、すぐに切換装置60を操作してターニングの回転方向を切り換える。図2(a)に示すように、ターニングの回転方向を切り換えた瞬間は一時的に電動モータ20の電流値が大きくなるが、すぐに安定する。ターニングの回転方向を切り換えると、電動モータ20の回転方向は対抗方向となるため、潮流が無い場合の6アンペアよりも大きい9.5アンペアの電流値によって電動モータ20を回転させることになる。
【0039】
その後、さらに潮流の流速が大きくなり、時間t2に至ると、潮流は船尾から船首に流れる場合の最大流速である6ノットに達する。上述したように、本実施形態に係る電動モータ20は、最大流速時であってもその潮流による力に対向してターニングを行えるため、所定の回転速度(1800rpm)を維持したままターニングを続けることができる。
【0040】
その後、徐々に船尾から船首に流れる潮流の流速が小さくなってゆき、時間t3を境界に船尾から船首へと流れていた潮流が、船首から船尾へと流れる潮流へと変わる。それとともに、相対的に、電動モータ20の回転方向が対抗方向から順方向へと変化する。そのため、時間t2から徐々に下がり続けていた電動モータ20の電流値は、時間t3を超えると潮流が無い場合の電流値である6アンペアを下回ることになる。
【0041】
その後、時間t3を過ぎると、船首から船尾への潮流の流速はさらに大きくなり、これに伴って電動モータ20への電流値も下がり、時間t4に至ると、ついには供給電源31の電流値が1アンペアにまで達する。そうすると、時間t1の場合と同じように、監視装置40は警告信号41を報知装置50に送信し、警告信号41を受信した報知装置50は、音声などにより乗組員に報知する。これにより、乗組員は電動モータ20の破損の可能性が高くなっていることを認識し、すぐに切換装置60を操作してターニングの回転方向を切り換える。そして、時間t1の直後と同じようにターニングの回転方向を切り換えた瞬間は、一時的に電動モータ20への電流値が大きくなるが、すぐに安定する。
【0042】
その後、さらに潮流の流速が大きくなって、時間t5に至ると、潮流は船首から船尾に流れる場合の最大流速である6ノットに達する。その後、徐々に船首から船尾に流れる潮流の流速が小さくなってゆき、電動モータ20の電流値も小さくなる。なお、時間t2と時間t5の場合を比べると、潮流の流速が同じ6ノットにもかかわらず電動モータ20の電流値が異なっているが、これは同じ流速であっても潮流の流れる方向によってプロペラ91が受ける力が異なるためである。
【0043】
以上が、本実施形態に係るターニング方法である。このように、本実施形態に係るターニング方法は、電動モータ20へ供給される供給電源31の電圧及び周波数を一定とすることで電動モータ20を一定の回転速度に維持し、その時の電動モータ20の電流値が一定以下になると電動モータ20の破損の可能性が高まったと判断してターニングの回転方向を切り換えるというターニング方法である。
【0044】
かかる構成によれば、電動モータ20の破損の可能性が高まったときに電動モータ20と減速機94をすぐに切り離すわけではないので、回転方向自体は切り替わるものの、潮流の状況が変化してもターニングの回転速度を一定に維持することができる。そのため、潮流の状況にかかわらず、ターニングは中断されることなく、また、タービン駆動タイプの原動機93であれば、運転直後のターニングを適切な回転速度を維持したまま続けることができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、図3を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るターニングシステム200について説明する。本実施形態に係るターニングシステム200は、報知装置50を備えておらず、監視装置40から切換装置260へ警告信号41が送信される点で、第1実施形態に係るターニングシステム100と構成が異なる。その他の点については、両システム100、200の構成は基本的に同じである。より具体的には次の通りである。
【0046】
本実施形態に係る監視装置40は、第1実施形態の場合と同様に、回転制御装置30が送信する電流値信号33を受信し、電流値信号33に基づいて電動モータ20の電流値が一定以下になったと判断した場合には警告信号41を生成し送信する。ただし、警告信号41は、報知装置50でなく、切換装置260へ送信される。そして、本実施形態に係る切換装置260は、監視装置40から送信された警告信号41を受信するとターニングの回転方向を切り換えるように構成されている。つまり、第1実施形態では、乗組員が報知装置50からの報知により、手動で切換装置60を用いてターニングの回転方向を切り換えていたのに対し、本実施形態では切換装置260によりターニングの回転方向の切り換えが自動で行われるように構成されているのである。
【0047】
以上から理解できるように、本実施形態に係るターニング方法は、電動モータ20へ供給される供給電源31の電圧及び周波数を一定とすることで電動モータ20を一定の回転速度に維持し、その時の電動モータ20の電流値が一定以下になると電動モータ20の破損の可能性が高まったと判断してターニングの回転方向を切り換えるという点では第1実施形態に係るターニング方法と同じである。ただし、乗組員を介さずに自動的にターニングの回転方向を切り換えるという点で第1実施形態に係るターニング方法と異なる。本実施形態によれば、乗組員を介さずに自動的にターニングの回転方向が切り換えられるため、より効率良くターニングを行うことができる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、図4を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るターニングシステム300について説明する。本実施形態に係るターニングシステム300は、切換装置260を備えておらず、監視装置40から連結装置310へ警告信号41が送信される点で、第2実施形態に係るターニングシステム200と構成が異なる。その他の点については、両システム200、300の構成は基本的に同じである。より具体的には次の通りである。
【0049】
本実施形態に係る監視装置40は、第2実施形態の場合と同様に、回転制御装置30が送信する電流値信号33を受信し、電流値信号33に基づいて電動モータ20の電流値が一定以下になったと判断した場合には警告信号41を生成し送信する。ただし、警告信号41は、切換装置260でなく、連結装置310へ送信される。そして、本実施形態に係る連結装置310は、監視装置40から送信された警告信号41を受信すると電動モータ20と減速機94を切り離すように構成されている。つまり、本実施形態では、電動モータ20の破損の可能性が高まると、ターニングの回転方向を切り換えるのではなく、電動モータ20と減速機94を切り離すのである。また同時に、電動モータ20へ供給されていた供給電源31を遮断する。
【0050】
以上から理解できるように、本実施形態に係るターニング方法は、電動モータ20へ供給される供給電源31の電圧及び周波数を一定とすることで電動モータ20を一定の回転速度に維持し、その時の電動モータ20の電流値が一定以下になると電動モータの破損の可能性が高まったと判断するという点で、第1実施形態及び第2実施形態に係るターニング方法と同じである。ただし、ターニングの回転方向を変換するのではなく、電動モータ20と減速機94を切り離す点で第1実施形態及び第2実施形態に係るターニング方法と異なる。この場合であっても、第2実施形態の場合と同様に、乗組員を介さずとも自動的に電動モータ20の破損は回避されるためターニングを効率的に行うことができる。本実施形態の構成は、切換装置が含まれていないようなターニングシステムを電動モータの破損を自動的に回避するシステムに改修するような場合には特に有効である。
【0051】
以上、本発明に係る第1〜3実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では電動モータ20の電流値が1アンペア以下になると監視装置40が警告信号41を生成し送信する場合について説明したが、必ずしも警告信号41が送信される電流値(閾値となる電流値)は1つに定める必要はない。すなわち、電動モータ20の電流値が2アンペア以下になった場合に第1の警告信号を送信し、さらに1アンペア以下になった場合に第2の警告信号を送信するといったように構成してもよい。また、この監視のパラメータに電力値を用いてもよい。
【0052】
また、上述した実施例を組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態に係るターニングシステム100と第2実施形態に係るターニングシステム200を組み合わせて、監視装置40から警告信号41が送信されると報知装置50により乗組員に報知するとともに、切換装置260により自動的にターニングの回転方向を切り換えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るターニングシステムによれば、潮流に起因するターニング用の電動モータの破損の可能性を正確に検知できる。また、本発明に係るターニング方法によれば、ターニング用の電動モータの破損の可能性を検知した後であっても、引続き安定した状態でターニングを行うことができる。よって、本発明は、船舶のターニングシステムの技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0054】
10、310 連結装置
20 ターニング用電動モータ
30 回転制御装置
31 供給電源
40 監視装置
41 警告信号
50 報知装置
60、260 切換装置
92 推進軸
94 減速機
100、200、300 ターニングシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、
前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、
前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、
前記監視装置が送信した前記警告信号を受信すると報知する報知装置と、
を備えたターニングシステム。
【請求項2】
減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、
前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、
前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、
前記監視装置が送信した前記警告信号を受信するとターニングの回転方向を切り換える切換装置と、
を備えたターニングシステム。
【請求項3】
減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング用の電動モータと、
前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御する回転制御装置と、
前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になると警告信号を生成し送信する監視装置と、
ターニングの際には前記電動モータと前記減速機を接続し、前記監視装置が送信した前記警告信号を受信すると前記電動モータと前記減速機を切り離す連結装置と、
を備えたターニングシステム。
【請求項4】
ターニング用の電動モータにより減速機を介して船舶の推進軸を回転させるターニング方法であって、前記電動モータに供給される電流値が前記電動モータにかかる負荷に応じて自動的に変化するように、前記電動モータに供給される供給電源の電圧値及び周波数を一定にして前記電動モータを一定の回転速度に維持するよう制御し、前記電動モータに供給される電流値又は電力値が一定以下になるとターニングの回転方向を切り換える、ターニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56501(P2012−56501A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202957(P2010−202957)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】