ダイカスト製コンプレッサ羽根車
【課題】 従来の鋳造形成されたコンプレッサ羽根車よりも結晶粒径を微細化して高強度化を可能とし、安価に大量生産できるダイカスト製コンプレッサ羽根車を提供する。
【解決手段】 Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている、ダイカスト製コンプレッサ羽根車である。
【解決手段】 Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている、ダイカスト製コンプレッサ羽根車である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排気ガスを利用し圧縮空気を送る過給機の吸気側に使用されるダイカスト製コンプレッサ羽根車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車や船舶等の内燃機関に組み込まれる過給機は、内燃機関からの排気ガスによって排気側のタービン羽根車を回転させることにより、あるいはクランクシャフト等の回転機構により、タービン羽根車と同軸上にある吸気側のコンプレッサ羽根車を回転させて外気を吸引して圧縮し、この圧縮空気を内燃機関に供給することにより内燃機関の出力を向上させるものである。
【0003】
近年、内燃機関の燃焼効率をさらに向上させる目的で、タービン羽根車およびコンプレッサ羽根車をより高速回転させるための種々の検討がなされている。この過給機に使用されるコンプレッサ羽根車は、使用温度環境が100〜150℃程度であることから従来よりアルミニウム合金が多用されているが、高速回転させるにあたり、アルミニウム製コンプレッサ羽根車のさらなる高強度化が望まれている。
【0004】
一般に、コンプレッサ羽根車は、回転中心軸であるハブ軸から半径方向に延在するハブ・ディスク部のハブ面に、流体力学的曲面を有する複数の羽根部がハブ軸の周囲に放射状に配設された複雑な形状を有している。また、羽根部が長羽根と短羽根とで構成された羽根車や、羽根部に囲まれた空間が、ハブ軸から半径方向外方に向ってアンダーカットとなる複雑な形状の羽根車もある。
【0005】
このようにコンプレッサ羽根車は複雑な形状を有しており、特に羽根部を簡易に形成することは容易ではない。それ故に、従来から各種のコンプレッサ羽根車の製造方法が提案されている。例えば、鍛造成形された羽根車素材から羽根形状を削り出す製造方法(特許文献1)、鋳造可能な形状の羽根車素材を一旦形成した後に羽根部を曲げて矯正する製造方法(特許文献2)、羽根車の羽根部とハブ部とを一体にした消失性模型を用いて形成した耐火物鋳型に鋳造するロストワックス鋳造法(特許文献3)、ゴム模型を用いて石膏鋳型に鋳造するプラスターモールド法(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−48769号公報
【特許文献2】特開昭57−171004号公報
【特許文献3】WO2005−116454号公報
【特許文献4】特開2005−206927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜4のいずれの場合においても、コンプレッサ羽根車の製造工程は長く複雑なものとなる。
具体的には、特許文献1の鍛造素材から削り出す場合には、例えば、まず鋼塊を鋳造し、これを鍛伸または圧延して鍛造素材を得る。次いで、得られた鍛造素材を鍛造して羽根車素材を得る。この後に、得られた羽根車素材から羽根形状を削り出すことにより、最終的にコンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0008】
また、特許文献2の鋳造後に羽根部を曲げ矯正する場合には、例えば、まず羽根部の形状を型抜き可能な形状とした羽根車素材の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型を用いて鋳型を作製する。そして、作製した鋳型に溶湯を鋳造して羽根車素材を得る。この後に、得られた羽根車素材の羽根部をプレス等を用いて曲げ矯正することにより、最終的にコンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0009】
また、特許文献3のロストワックス鋳造法の場合には、例えば、まずワックス等の消失性材料を用いてコンプレッサ羽根車の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型の周りに耐火物をコーティングした後にワックス等を消失させて鋳型を作製する。この後に、作製した鋳型に溶湯を鋳造することにより、コンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0010】
また、特許文献4のプラスターモールド法の場合には、例えば、まずゴム等の大変形可能な弾性材料を用いてコンプレッサ羽根車の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型の周りに石膏(プラスター)をコーティングした後に形状模型を引き抜いて鋳型を作製する。この後に、作製した鋳型に溶湯を鋳造することにより、コンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0011】
よって、コンプレッサ羽根車を供給する上では、上述したような長く複雑な製造工程によるのではなく、生産効率や材料歩留がよく、従来よりも安価に量産可能な新規な製造方法によることが望まれている。また、これとともに、上述したようにコンプレッサ羽根車をさらに高速回転させるにおいて課題とされる軽量化や高強度化が望まれている。
【0012】
羽根車の高強度化に関しては、上述の特許文献1のように、鋳塊の大きな結晶粒が鍛造により微細化された鍛造素材を用いて形成した羽根車は、微細な結晶粒を有することによって機械的強度が向上される。故に、結晶粒が微細である点において、上述した鋳造方法によって得た他の羽根車よりも、鍛造素材から削り出して得た羽根車は優れている。
【0013】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、従来の鋳造形成されたコンプレッサ羽根車よりも結晶粒径を微細化して高強度化を可能とし、安価に大量生産することが可能なダイカスト製コンプレッサ羽根車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、コンプレッサ羽根車に対して、ダイカスト法を適用した製造が可能であること、また、アルミニウム製羽根車であってもダイカスト製羽根車とすることにより結晶粒が微細化されて高強度化が可能であることを見出し本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている、ダイカスト製コンプレッサ羽根車である。
【0016】
本発明においては、質量%で、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金を使用し、ダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0017】
また、本発明においては、質量%で、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金を使用し、ダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0018】
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Ti:0.05〜0.3%、B:0.06%以下を含むことができる。
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Sr:0.005〜0.08%を含むことができる。
【0019】
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3〜0.8%、Fe:0.2%以下を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、ダイカスト法によるので、上述した特許文献1〜4で提案されるような従来の製造方法によるよりも、格段に安価に大量生産することが可能となる。また、羽根車の羽根部や表層には緻密で均一な結晶粒を有する凝固組織が形成されるため、従来のプラスターモールド法等による大きな結晶粒を有する羽根車よりも高強度のアルミニウム製のコンプレッサ羽根車を得ることができ、更なる高速回転に対応可能となる。それ故に本発明は、工業上極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上述した通り、本発明の重要な特徴は、ダイカスト形成されて結晶粒が微細化された羽根車形状を有する成形体を用いてコンプレッサ羽根車を得たことである。
具体的には、ダイカスト形成された成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなる。また、ダイカスト形成された成形体は、隣接する一対の長羽根の間に形成される各ブレード空間には前記ハブ軸部から半径方向外方に向かってアンダーカットを有していてもよい。
【0022】
また、上述の羽根車形状を有する成形体は、ダイカスト形成されて結晶粒が微細化されており、具体的には、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている。
【0023】
本発明における平均結晶粒径とは、切断法(JIS−H0501)を適用して測定されるDAS2(二次デンドライトアームスペーシング)に基づいて求められる平均的な結晶粒径、もしくは、明確なDAS2が観察に難い場合にはDAS2に対応するかのように観察された隣接する結晶粒間の距離に基づいて求められる平均的な結晶粒径を意味する。
【0024】
上述したダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、薄肉で熱容量の小さい羽根部では、急冷された緻密で均一な急冷組織が形成される。また、塊状で熱容量の大きいハブ・ディスク部やハブ軸部では、その深さ5mm以内の表層には、特に深さ2mm以内の表層では顕著であるが、急冷された緻密で均一な結晶粒を有する凝固組織が形成され、中心部近傍には表層よりも大きい結晶粒を有する凝固組織が形成される。
【0025】
このように、羽根車形状をダイカスト形成することにより、羽根車形状を有する成形体において、表面側の凝固速度が格段に高められて急冷され、中心部に向かって凝固速度が次第に低減されて、これにより、成形体の凝固組織において、表面側から中心部に向かって連続的に、微細で均一な結晶粒から、より平均粒径の大きい結晶粒へと変化しながら凝固組織が形成される。
【0026】
これは、ダイカスト形成においては、鋳型として金型を使用するため、プラスターモールド法等で使用する耐火物等よりも冷却能力が格段に高く、薄肉の羽根部や、ディスク部やハブ軸部の表面層では、金型に接触した溶湯が急冷されるからである。
また、ダイカスト形成においては、溶湯を高圧力で金型のキャビティに注入するため、金型表面に対する溶湯の密着性が向上することにより、溶湯の冷却速度が上がる利点もある。
【0027】
上述したように微細で緻密な結晶粒を有する急冷組織を形成することにより、羽根車形状を有する成形体の鋳造組織の硬度や強度を高めることができ、羽根車形状の中心部に向かって表層よりも大きい結晶粒を有する鋳造組織を形成することにより、靭性を持たせることができる。
【0028】
これに加えて、本発明においては、上述した凝固組織を有する形成体に対し、さらにT6処理(JIS−H0001)等の熱処理を施すことにより、緻密な結晶組織の母相が維持されながら溶体化や時効硬化による素材の改質による機械特性の改善効果が付加されることによって、特にハブ軸部やハブ・ディスク部の中心部に近い個所に対してはさらに有効に作用し、より一層の羽根車の高強度化が期待される。
【0029】
例えばT6処理における溶体化処理は、その保持時間を幾つか変えて各々の引張強さや伸びを測定し、好適な保持温度と保持時間を決定する等の手段を採用することができる。例えば、少なくとも7%以上の伸びを確保しようとすると、次工程で施す時効処理による伸びの低下分を勘案し、伸びが8%を超える条件を目安とすることが好ましい。このような条件としては、例えば、ダイカストによって形成される結晶粒径との関係において好適条件は変わるものの、保持温度500〜540℃、保持時間2〜12hの範囲内で組み合せることが好ましく、より好ましい保持温度は525±10℃、保持時間は2〜8hの範囲である。
【0030】
また、例えばT6処理における時効処理は、先に決定した条件で溶体化処理を施した後、時効処理における保持時間を幾つか変えて各々の引張強さや伸びを測定する等の手段を採用することができる。そして、常温において、例えば、引張強さが400MPa以上となり、伸びが少なくとも7%以上となる条件を選定すればよい。このような条件としては、例えば、保持温度150〜200℃、保持時間2〜36hの範囲内で組み合せることが好ましく、より好ましい保持温度は160±10℃、保持時間は2〜24hの範囲である。また、時効処理は溶体化処理に比べ保持時間が長いため、生産性向上を図るために短時間で処理することが好ましい。この場合、例えば190±10°と処理温度を上げて保持時間2〜12hの時効処理を行うことにより、生産性向上が期待できる。
【0031】
また、本発明においては、上述した凝固組織を有する形成体に対し、HIP処理(熱間静水圧加圧処理)を施すことも好ましく、鋳造時に生じる内部欠陥を微小化できる。なお、さらに上述のT6処理等の熱処理を施す場合には、HIP処理の後に施すことができる。
なお、上述したT6処理条件やHIP処理条件は、使用するアルミニウム合金の化学成分や成形体の寸法形状などに応じ、適宜調整することが望ましい。
【0032】
上述したダイカスト形成された羽根車に対し、例えば、羽根車のハブ軸部外周に対して切削等の機械加工を施すことや、羽根車自体に対して化成処理や陽極酸化処理、メッキや塗装等の表面処理を施すこともできる。ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、結晶粒径が従来よりも微細化かつ均一化されるため、常温での機械加工性や、表面の被膜形成性が改善される点で有利である。
【0033】
ダイカストでは鋳型として金型を用いるので、ダイカスト製コンプレッサ羽根車の鋳肌は、鋳型として耐火物を用いる場合よりも表面粗さの小さい鋳肌となる。これにより、羽根車表面の空力抵抗が低減し、羽根車の空力学的特性向上に寄与できる。
【0034】
上述した本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、アルミニウム合金を使用し、上述の羽根車形状を有する成形体をダイカスト形成することによって得ることができる。よって、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、高強度な表層および羽根部と、高強度かつ適度な靭性をあわせ持つハブ軸部およびハブ・ディスク部を有することとなり、さらに常温での機械加工性をも有し、空力学的特性向上に寄与できる、優れたコンプレッサ羽根車となる。
【0035】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に好適なアルミニウム合金は、構造用材料の中でもマグネシウム合金に次いで密度が小さく軽量化には好適である。また、アルミニウム合金は、マグネシウム合金よりも原料や溶湯の取り扱いが容易である利点もある。
本発明において好適なアルミニウム合金は、湯流れ等の鋳造性が良好であり、コンプレッサ羽根車に所望される引張強さ、耐力、伸びといった機械的特性を有する、Si、Cu、Mg、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金である。
【0036】
Si含有量の多いアルミニウム合金において、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に望ましくは、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金である。
【0037】
また、Si含有量の少ないアルミニウム合金において、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に望ましくは、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金である。
【0038】
以下、上述した添加元素であるSi、Cu、Mg、さらには添加することが望ましいTiやB、Sr、MnやFeについての好適な化学成分範囲、および、含有されやすい不可避的不純物について、Si含有量の多い合金およびSi含有量の少ない合金を挙げて説明する。なお、各元素の化学成分値は、特別に記載のない限り質量%で示す。
【0039】
Si(珪素)は、湯流れ等の鋳造性向上や機械強度向上のために有効となる添加元素である。
アルミニウム合金において良好な鋳造性を得たい場合には、多量のSiを含有させることが好適であり、Siを8.6〜9.4%の範囲で含有させることが望ましい。但し、Siが8.6%未満では所望する鋳造性が得られないことがあり、Siが9.4%を超えると伸びが低下して脆化しやすくなる。
【0040】
また、アルミニウム合金において良好な伸びを得たい場合には、少量のSiを含有させることが好適であり、Siを1.5%以上4.0%未満の範囲で含有させることが望ましい。このようにSi含有量を減らした場合には鋳造性が低下してしまうものの、鋳造時間つまり鋳型へ溶湯を充填する時間が短いダイカストを適用することにより鋳造品位や鋳造性の劣化を防止できる。
また、伸びを確保した上でさらに強度を高めたい場合には、後述するCuおよびMgとの関係において、Siを2.5〜3.5%の範囲で含有させることが望ましい。
【0041】
Cu(銅)は、Al(アルミニウム)母相中に固溶することで機械強度を向上させる固溶強化の効果、および、鋳造後に実施する熱処理(T6処理:JIS−H0001)において析出強化の効果を発揮させるための重要な添加元素である。これは後述するMgも同様である。
【0042】
上述のSi含有量が多いアルミニウム合金においては、Cuを1.0〜2.5%の範囲で含有させることが望ましく、伸びを阻害することなく十分な引張強さを発揮させることができる。但し、Cuが1.0%未満ではAl母相中への固溶量が不足して十分な引張強さが得られないことがあり、Cuが2.5%を超えるとCuAl2等の金属間化合物が粒界に多量に析出することにより、Siによる影響もあって、伸びを低下させることがある。
【0043】
また、上述のSi含有量が少ないアルミニウム合金においては、Si低減による機械強度の低下を補償するために、Mg、Mn、Feの含有量との関係を考慮しながらCu含有量を2.5〜5.0%の範囲で最適化することが望ましい。すなわち、Mg、Mn、Feの含有量が多い場合にはCuを2.5〜3.5%含有させ、少ない場合にはCuを3.5〜5.0%含有させるなど、必要に応じて適宜選択することが望ましい。但し、Cuが2.5%未満ではAl母相中への固溶量が不足し、Cuが5.0%を超えるとCuAl2等の金属間化合物が粒界に多量に析出して伸びを低下させることがある。
【0044】
Mg(マグネシウム)は、上述したCuと同様に、固溶強化および析出強化の効果を発揮させるための添加元素である。上述したSiおよびCuとの関係においてMgを0.3〜0.7%の範囲で含有させて、伸びを阻害することなく十分な引張強さを発揮させることが望ましい。但し、Mgが0.3%未満ではAl母相中への固溶量が少なすぎてMg2Siの析出量が不足するので十分な引張強さが得られず、Mgが0.7%を超えると伸びを低下させることがある。
【0045】
また、Mg含有量に対し、まずSi含有量を調整し、次いでCu含有量を調整することが、鋳造性や機械特性の変化を確認しやすく望ましい。より望ましくは、Mgを0.4〜0.6%含有とした上でSiおよびCuの含有量を最適化することである。
【0046】
上述のアルミニウム合金においては、鋳造時の凝固組織の微細化つまり結晶粒を微細化させるために、さらにTi(チタニウム)を0.05〜0.3%の範囲で含有させることができる。但し、Tiが0.05%未満では結晶粒を微細化させる効果が小さく、0.3%を超えると伸びを低下させることがある。
【0047】
また、上述のTiの効果をより促進させるBをTi含有量の20%程度含有させることも望ましく、例えばTi含有量0.05〜0.3%に対してBを0.06%以下の範囲で含有させることができる。この場合、Bを0.06%を超えて含有させてもさらなる効果の向上は期待できない。
【0048】
Al−Si−Cu−Mg系合金では、共晶Siが生成され、これが針状や繊維状に成長すると伸びを損ねることとなる。そこで、上述のアルミニウム合金においては、共晶Siの球状化を促進させるためにSr(ストロンチウム)を0.005〜0.08%の範囲で含有させることが望ましい。これにより共晶Siの針状や繊維状への成長が抑制され、伸びの低下が防止される。但し、Srが0.005%未満では共晶Siを球状化させる効果が期待できず、Srが0.08%を超えるとピンホールやヒケといった鋳造不良を発生させることがある。なお、Srと同様の効果は、Sb(アンチモン)やNa(ナトリウム)といった元素によっても得られる。
【0049】
アルミニウム合金の溶湯は、Fe基合金でなる金型の表面との親和性が良く、ダイカストにおいて金型への焼き付きを生じる可能性があることが知られる。そこで、上述のAl−Si−Cu−Mg系合金においては、溶湯の金型への焼き付きの防止を期待し、適量のMn(マンガン)やFe(鉄)を含有させて溶湯と金型表面との親和性を低下させることが望ましい。この場合、Mnを0.3〜0.8%の範囲で含有させ、Feを0.2%以下の含有に抑えることが望ましく、Mnのみを含有させても良い。但し、Mnが0.3%未満では焼き付き防止効果が期待できず、Mnが0.8%を超えると脆化しやすくなる。また、FeはMnに比べると脆化への影響が大きく、できる限り0.2%以下の含有に抑えることが望ましい。
【0050】
次に、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車の形状について具体例を挙げ、図面に基づいて説明する。
図1は、自動車用ターボチャージャの吸気側に使用されるコンプレッサ羽根車1(以下、羽根車1という)の模式図である。羽根車1は、ハブ軸部2と、このハブ軸部2から半径方向に延在するハブ面3を有するハブ・ディスク部4と、ハブ面3に配設された交互に隣接する複数の長羽根5と短羽根6とを有する羽根部とからなり、合計12枚の長羽根5と短羽根6を有する。本発明におけるダイカスト形成された成形体は、図1に示す羽根車1に対応する羽根車形状を有することができる。
【0051】
図2は、羽根車1の羽根部簡略図であり、明確化のため2枚の長羽根5と1枚の短羽根6のみを記載している。また、図2の斜線部は、ハブ面3と、ひとつの短羽根6を含む隣接する2枚の長羽根5のブレード面7とで囲まれたブレード空間8に対応する。長羽根5と短羽根6のブレード面7は、いずれも複雑な流体力学的曲面形状を表裏に有している。また、この羽根車1は、羽根車1の隣接する一対の長羽根5の間に形成される各ブレード空間8には、ハブ軸部2から半径方向外方に向かってアンダーカットを有している。
【0052】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、合計8〜14枚の長羽根と短羽根とを有する羽根部とすることができる。また、羽根車の各部を、外径7〜30mmのハブ軸部と、外径30〜120mmで最外周部肉厚2〜5mmのハブ・ディスク部と、羽根部は、先端付近肉厚0.2〜2mm、中央付近肉厚1〜5mm、ハブ面近傍の付け根付近肉厚1.5〜8mmといった寸法形状に形成することができる。これは、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体においても、加工代などの余肉に対応するだけの寸法形状の差分を有するものも同様である。また、このような羽根車の場合、薄肉である羽根部に対しハブ軸部およびハブ・ディスク部は塊状となり、羽根車に対する羽根部全体の容積を10〜30%に形成してよい。
【0053】
上述した本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、例えば、以下の製造方法によって製造できる。
具体的には、まず、ハブ軸部と、このハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなる、コンプレッサ羽根車の形状に対応するキャビティを有する金型を準備する。次いで、このキャビティ内に溶融材料を1秒以下の充填時間で供給するダイカスト法により、コンプレッサ羽根車の形状に対応する羽根車形状を有する成形体を形成する。望ましくは、上述した溶融材料の充填に引き続き、充填されたキャビティ内の溶融材料に対して20MPa以上の圧力を1秒以上加え、その加圧状態を維持するダイカスト法である。そして、湯道やバリ等を除去して清浄した成形体に対して必要に応じて仕上げ加工や熱処理などを施すことにより、コンプレッサ羽根車が製造される。
【0054】
以下、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を製造するにおいて、コンプレッサ羽根車の形状に対応する羽根車形状を有する成形体を形成するためのダイカスト形成条件につき、詳細に説明する。
金型のキャビティに注入する材料の注入温度は、好ましくは液相線温度以上とすることであり、すなわち溶融材料を使用することである。これは、キャビティに到達する前に、注入する材料が凝固してしまうことが防止されるからである。また、注入する材料の温度は、材料の成分を確保でき、鋳造時の材料の飛散やガスの巻き込み等に起因する不具合を生じない限り、幾ら高温であっても構わない。
【0055】
また、金型のキャビティに対する材料の注入は、好ましくは1秒以下の充填時間で供給することである。また、充填時間は、キャビティに十分にかつ円滑に材料を供給でき、鋳造時の材料の飛散やガスの巻き込み等に起因する不具合を生じない限り、幾ら短時間でも構わない。
【0056】
コンプレッサ羽根車の羽根部は、優れた空力学的特性を得るため、ハブ面を有するハブ・ディスク部に比べ、通常は極めて薄肉に設計される。このため、羽根部に対応して画成された金型の羽根部キャビティは、極めて狭隘な深い溝状の空間となる。よって、上述した充填時間で材料を供給することは、金型の羽根部キャビティに対して、速やかに、かつ十分に材料が供給されることとなり、エアーベント等による排気手段を適正に実施することによって羽根部キャビティにおける材料の不廻りやガスの巻き込み等の鋳造欠陥の発生が防止される。これにより、鋳造形成された成形体における羽根部の健全性がより高まることとなる。
【0057】
また、金型のキャビティに対して材料を注入した後は、好ましくは20MPa以上の圧力を1秒以上加え、その加圧状態を維持することである。この操作は、材料の注入後、可能な限り速やかに行うことが好ましい。また、上述の加圧状態を1秒以上継続させた後には圧力を下げてもよい。より好ましくは、材料が完全に凝固し、羽根車が確実に形成されるまで、その加圧状態を維持することである。鋳造後に金型のキャビティを加圧状態で維持するとき、例えばハブ軸部の軸線方向等の凝固収縮しやすい個所に対して局所加圧することも好ましく、これにより溶湯が部分的に補給され、引け等の鋳造欠陥の発生を防止できる。
【0058】
また、金型のキャビティは、予め0.05MPa以下に減圧しておくことが好ましい。ダイカスト形成においては、キャビティに材料を高速で注入するため、キャビティ内の溶湯の湯廻り状態など材料の充填状態によっては空気やガス等の気体を巻き込みやすい。そこで、予め0.05MPa以下に減圧しておき、このような不具合を低減させる。より好ましくは0.01MPa以下、さらに0.005MPa以下に減圧しておくことである。また、ダイカストに用いる溶融材料の酸化防止のため、予めキャビティ内にアルゴン等の不活性ガス、アルゴンと水素との混合ガス、窒素等を充満させて酸素を遮断し、成形体への酸化物の巻き込みを防止することも好ましい。
【0059】
この後、金型のキャビティ内で材料を凝固させて羽根車形状を有する成形体を得る。得られた羽根車形状を有する成形体は、まず薄肉で熱容量の小さい羽根部が凝固形成され、同時に、金型と直接に接触するハブ・ディスク部の最外径部やハブ面、ハブ軸部の端部といった羽根車の表層が凝固形成される。そして、次第にハブ・ディスク部の内部に向かって凝固が進行し、最終的に中心部が凝固形成される。このため、最終凝固部となるハブ・ディスク部の中央辺りには、引け巣等の鋳造欠陥が生じやすい。よって、材料を注入した後に、上述したように加圧状態を維持することにより、もしくは、キャビティを画成する金型の一部や加圧用に設けたピンを押し込むなどの手段により部分加圧することにより、成形体の健全性がより高まることとなる。
【0060】
次に、図1に示す羽根車1に対応する羽根車形状を有する成形体を製造可能とする金型のキャビティについて、一例を挙げて図面に基いて説明する。
図3に金型装置の一例を示す。金型は、羽根車の軸線方向9に開閉自在な可動金型22と固定金型21、および羽根車の軸線方向9に対して半径方向に移動可能なスライド金型23とスライド支持具24とから構成されている。図4は、可動金型22の要部矢視図であり、明確化のためスライド金型23とスライド支持具24とをそれぞれ1個のみ記載している。図5は、スライド金型23の模式図である。
【0061】
スライド金型23は、短羽根形状の有底溝部33(点線で記載)と、短羽根に隣接する2枚の長羽根5で画成される空間に対応する形状体とを有している。すなわち、図2の斜線部で示すブレード空間8に相当する形状を形成するように、羽根車1のハブ面3に相当するハブキャビティ31と、長羽根5に相当するブレードキャビティ32、および短羽根6に相当する有底溝部33を有している。
【0062】
上述した短羽根形状の有底溝部33を有するスライド金型23を用いることにより、短羽根6の基部すなわちハブ面3との付け根部にはパーティングライン(型割線)が形成されることはない。また、同様に、隣接する一対の長羽根5とともにブレード空間8を画成するハブ面3には、パーティングライン(型割線)が形成されることはない。このため、ハブ面3およびブレード面7において流体抵抗を低減することができ、コンプレッサ羽根車の空力学的特性の向上に寄与できる。
【0063】
また、図4に示すように、可動金型22において、軸線方向9に対するスライド金型23の半径方向への可動範囲内の底面にリング状の支持板25を設置し、スライド金型23を支持する。この支持板25は、成形体の軸線方向9への移動が可能になっており、固定金型21と可動金型22の型開き後にスライド金型23と離間する側に移動させ、型締めの際には元の位置に戻す構造になっている。すなわち、固定金型21と可動金型22の型開き後に、スライド金型23はスライド支持具24のみで支持される。
【0064】
上述したスライド金型23を、羽根車1のブレード空間8の個数分だけ図3に示すように固定金型22に環状に配設し、それぞれのスライド金型23と可動金型22および固定金型21を型締めして密接させる。これにより、実質的に羽根車1と同一の形状の金型によるキャビティを形成することができる。そして、このキャビティに、材料を注入して成形体10を成形する。
【0065】
次に、スライド金型23を軸線方向9の半径方向外方に移動させ、冷却凝固して成形された羽根車形状を有する成形体10を離型する。具体的には、成形体10を鋳造成形後、まず可動金型22を固定金型21と離間する側に移動させて型開きし、次いで支持板25をスライド金型23と離間する側に移動させ、スライド金型23をスライド支持具24のみで支持させる。そして、図4に示すように、スライド支持具24を可動金型22に設けた溝26に沿って軸線方向9の半径方向外方に引き出す。このとき、スライド金型23を、スライド支持具24に設けた回転軸27に連結させておくことにより、スライド金型23は回転軸27を中心に自然に回動し、成形体10の長羽根5および短羽根6の表面形状に沿って抵抗少なく離型される。
【0066】
離型後、羽根車形状を有する成形体10から不要な湯道や湯口、バリなどを除去し、さらには化成処理や陽極酸化処理、セラミックコーティング、あるいはメッキや塗装等の表面処理を行ってもよい。また、例えば、熱間静水圧プレス(HIP)や、サンドブラスト、ケミカルピーリングといった処理を行ってもよい。
【0067】
以上、一例として上述したダイカスト法を適用した製造方法によれば、たとえ、複数の羽根部が交互に隣接する長羽根と短羽根からなる複雑な形状を有するコンプレッサ羽根車であっても、羽根車の形状に対応する金型のキャビティが画成可能であって、鋳造成形後に羽根車形状を有する成形体を金型から離型可能であれば、形状精度が良好で緻密な結晶粒による鋳造組織を有する成形体を用いて、高強度であって、更なる高速回転に対応可能な本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0068】
そして、格別の機械加工や鋳造後の形状調整を施すこともなく、羽根車を模した消失性模型を形成することもないため、生産効率や製造コストの点でも格段に改善され、従来よりも廉価なコンプレッサ羽根車の提供が可能となる。
【実施例】
【0069】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車の一例として、図1に示す形状を有する羽根車を、Siなどの含有量の異なる2種類のアルミニウム合金を羽根車の材料として使用し、一例として上述した製造方法によって製造した。
使用したアルミニウム合金のひとつは、化学成分が、質量%で、Si含有量が8.92%と多く、Cu:1.96%、Mg:0.53%を含み、さらにはTi:0.13%、Sr:0.026%、Mn:0.63%、Fe:0.19%を含み、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金(以下、合金Aという)である。
【0070】
また、使用したアルミニウム合金のもうひとつは、化学成分が、質量%で、Si含有量が3.90%と少なく、Cu:1.60%、Mg:0.51%を含み、さらにはTi:0.20%、Sr:0.058%、Mn:0.03%、Fe:0.16%を含み、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金(以下、合金Bという)である。
【0071】
羽根車の製造方法は同様であるので、以下、上述の合金Aを例に挙げて説明する。
まず、上述の合金Aからなる溶湯を準備し、この溶湯を、図3に示す金型装置を配設したダイカスト成形機に供給し、図5に示す複数のスライド金型23等により画成した金型のキャビティ内に注入後、加圧維持して羽根車の成形体を凝固させた。このとき、溶湯注入前のキャビティ内は僅かに大気が残存する雰囲気であって、その真空度はおよそ0.005MPaであった。また、キャビティへの溶湯注入は、金型温度を160℃、溶湯温度を725℃、溶湯の射出速度を最大1.5m/s、鋳造圧力を90MPaに調整し、溶湯充填後は鋳造圧力を保持しながら加圧状態を維持した。
【0072】
この後、溶湯が凝固するまで十分に冷却し、図3に示す可動金型22を固定金型21と離間させた後、図6に示す構造としたスライド金型23を、図7に示す手順により成形体10から離型させ、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体10を得た。
【0073】
図6は、スライド金型23とスライド支持具24との接合構造を示す側面図であり、スライド金型23は、その回転軸27にベアリング28を介して固定ピン29を差込んでスライド支持具24と連結させた。また、スライド支持具24の底部にガイドピン30を設け、スライド支持具24を図4に示す可動金型22に設けた溝26に沿って軸線方向9の半径方向外方に引き出す案内とした。
【0074】
図7は、成形体10からスライド金型23を軸線方向9に対する半径方向外方に移動させつつ回動させて離型させる具体的な動作手順を示す模式図であり、図7(a)〜(d)は、スライド金型23が成形体10から離型していく状態を示している。なお、図7においては、離型動作を説明する便宜上、スライド金型23のキャビティ部分にハッチングを施している。成形体10を離型するためにスライド支持具24を移動させると、スライド金型23は、成形体10の長羽根5および短羽根6の表面形状に沿って移動しながら回転軸27を中心に自然に回動し、最終的に図7(d)のように羽根車形状を有する成形体10から離型した。
【0075】
そして、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体10から不要な湯口や湯道および微細なバリを除去し、長羽根と短羽根を有し、ハブ軸部の外径13mm、ハブ・ディスク部は、外径69mm、最外周部肉厚2.5mm、羽根の肉厚は、羽根先端付近0.5mm、羽根中央付近1.2mm、ハブ面近傍の羽根付け根2.2mm、羽根車に対する羽根部全体の容積13%の形状を有する、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を得た。
【0076】
このようにして得た本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、それ自体が従来にない機械的強度に優れたコンプレッサ羽根車となる。
これに加え、さらに得られた上述の成形体もしくは羽根車に対し、例えば、温度525℃、8時間の溶体化処理後に、温度163℃、16時間の時効処理を行うT6処理(JIS−H0001)を施すことにより、もしくはHIP処理を施した後に前記T6処理を施すことにより、羽根車は、より一層の高強度を備えたコンプレッサ羽根車となることが期待される。
【0077】
上述のようにして得ることができた、羽根車形状を有する合金Aからなる成形体(以下、羽根車Aという)と合金Bからなる成形体(以下、羽根車Bという)につき、それぞれの鋳造組織を観察した。なお、羽根車Aおよび羽根車Bには、HIP処理や熱処理を施しておらず、すなわち、羽根車Aおよび羽根車Bは、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体と同じ鋳造組織を有するものである。
【0078】
そして、羽根車Aと羽根車Bにつき、観察時に、それぞれの羽根部と、ハブ軸部およびハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層と、ハブ軸部およびハブ・ディスク部の中心部とを写真撮影し、撮影した写真を用い、それぞれの鋳造組織における平均結晶粒径を測定した。
【0079】
羽根車Aと羽根車Bの鋳造組織を対象とした平均結晶粒径の測定は、切断法(JIS−H0501)を適用して行った。具体的には、光学顕微鏡により倍率400倍で供試片断面の鋳造組織を観察撮影し、図8に線描で模式的に示すように、まず、撮影した写真上において番号1〜6で示す縦横斜め6本の既知の長さの線分によって区切り、各線分によって完全に切られる結晶粒数を数えた。次いで、番号1〜6で示す線分のそれぞれの長さL1〜L6の合計値である線分全長:Lt(μm)、数えた結晶数の合計値である総結晶粒数:Nt、撮影した写真の倍率換算値:Sを用い、式(1):Da=Lt/Nt/S×1000によって定まる値を平均結晶粒径:Da(μm)として求めた。
【0080】
(羽根車Aの鋳造組織)
羽根車Aの鋳造組織の一例として、図9〜図11に倍率400倍の撮影写真を示す。図9は、ハブ・ディスク部のハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であって、ハブ・ディスク部の最外径部を形成する平面とハブ軸部の軸線方向とが交差する羽根車の中心部付近の鋳造組織である。図10は、ハブ・ディスク部のハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であって、最外径部から内側に20mm、表面から深さ4mm付近の鋳造組織である。図11は、羽根部であって、長羽根におけるハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であり、羽根先端から10mm、肉厚1.2mm付近の鋳造組織である。なお、ハブ軸部は、ハブ・ディスク部との明確な差異が認められなかったため、これを略す。
【0081】
羽根車Aにおける鋳造組織は、羽根部が最も微細化されており、次いでハブ・ディスク部の表層、ハブ・ディスク部の中心部の順であって、羽根車の中心部に向かって結晶粒径が大きく形成されていた。図9〜図11に対応する平均結晶粒径:Da(μm)を表1に示す。
羽根車Aにおいては、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下の4.0μmで形成され、ハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は平均結晶粒径が15μm以下の6.5μmで形成され、ハブ・ディスク部の中心部付近は平均結晶粒径が20μm以下の11.7μmで形成されていた。また、図示は略すが、ハブ・ディスク部の表面から深さ5mm付近の結晶粒分布についても、上述の深さ4mm付近の結晶粒分布との明確な差異は認められなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
(羽根車Bの鋳造組織)
次に、羽根車Bの鋳造組織の一例として、図12〜図14に倍率400倍の撮影写真を示す。図12はハブ・ディスク部の中心部付近、図13はハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近、図14は羽根部の鋳造組織であって、それぞれ図9〜図11に示す羽根車の個所に対応する。なお、ハブ軸部は、羽根車Aの場合と同様に、ハブ・ディスク部との明確な差異が認められなかったため、これを略す。
【0084】
羽根車Bにおける鋳造組織は、羽根車Aの場合と同様に、羽根部が最も微細化されており、次いでハブ・ディスク部の表層、ハブ・ディスク部の中心部の順であって、羽根車の中心部に向かって結晶粒径が大きく形成されていた。図12〜図14に対応する平均結晶粒径:Da(μm)を上述の表1に示す。
羽根車Bにおいては、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下の4.4μmで形成され、ハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は平均結晶粒径が15μm以下の7.1μmで形成され、ハブ・ディスク部の中心部付近は平均結晶粒径が20μm以下の11.3μmで形成されていた。また、図示は略すが、ハブ・ディスク部の表面から深さ5mm付近の結晶粒分布についても、上述の深さ4mm付近の結晶粒分布との明確な差異は認められなかった。
【0085】
(鍛造素材を用いる従来のコンプレッサ羽根車)
鍛造素材を用いて削り出しにより形成された従来のコンプレッサ羽根車(以下、羽根車Cという)を入手し、上述した羽根車Aおよび羽根車Bと同様に鋳造組織を観察撮影し、目視により鋳造組織形態を羽根車Aおよび羽根車Bと比較した。なお、羽根車Cは、米国材料試験協会(ASTM)規定のアルミニウム鍛造合金A2618でなり、質量%で、Cu:2.51%、Ni:1.11%、Mg:1.59%、Si:0.20%、Ti:0.05%、Fe:1.03%、Zn:0.03%、残部Alおよび不可避的不純物を含み、T6処理されたものである。
【0086】
従来の羽根車Cの鍛造組織の一例として、図15〜図17に倍率400倍の撮影写真を示す。図15はハブ・ディスク部の中心部付近、図16はハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近、図17は羽根部の鍛造組織であって、それぞれ図9〜図11また図12〜図14に示す羽根車Aまた羽根車Bのそれぞれの個所に対応する。
従来の羽根車Cにおける鍛造組織は、結晶粒の形状が羽根車Aや羽根車Bほどには明確ではないが、図15に示すハブ・ディスク部の中心部は、羽根車Aや羽根車Bよりも微細に見える結晶粒分布を有する組織が確認された。また、図16に示すハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は、羽根車Aや羽根車Bと同等程度に微細に見える結晶粒分布を有する組織が確認された。これは、図示は略すが、深さ5mm付近でも同様であった。また、図17に示す羽根部は、羽根車Aや羽根車Bよりも粗大に見える結晶粒分布を有する組織が確認され、特に羽根車B(図14)の鋳造組織と比べると、明らかに粗大に見える結晶粒分布を有することが確認された。
【0087】
以上より、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を製造するにおいて、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体である羽根車Aおよび羽根車Bは、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、ハブ・ディスク部やハブ軸部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、ハブ・ディスク部やハブ軸部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている鋳造組織を有することが確認できた。そして、特に、羽根部や羽根車の表層においては、平均結晶粒径が5〜10μmの微細な結晶粒による均一で緻密な急冷された鋳造組織が形成されていることが確認できた。
【0088】
従って、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体を用いて得た、本発明のダイカスト製コンプレサ羽根車は、ダイカスト形成することにより、羽根部や羽根車の表層の結晶粒が従来の羽根車よりも微細化され、かつ、羽根車の中心部に向かって結晶粒が次第に大きくなるような鋳造組織を有することとなって、従来の鍛造素材を用いて形成された羽根車が有する機械的特性と同等か、もしくはこれを超えることも期待される、優れた性能を有するコンプレッサ羽根車となることが確認できた。
【0089】
また、上述した鋳造組織を有する本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に対し、さらに、上述したT6処理(JIS−H0001)を施すことにより、もしくはHIP処理を施した後に前記T6処理を施すことにより、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、より一層の高強度を備えたコンプレッサ羽根車となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えば自動車や船舶等の内燃機関に組み込まれる過給機の吸気側に使用されるコンプレッサ羽根車として利用できる。また、過給機に限らず、コンプレッサ羽根車と類似の形状を有して回転する風車や水車などの各種の羽根車としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】コンプレッサ羽根車の一例を示す模式図である。
【図2】羽根部の一例における簡略図である。
【図3】金型装置の一例を示す全体図である。
【図4】可動金型の一例を示す要部矢視図である。
【図5】スライド金型の一例を示す模式図である。
【図6】スライド金型とスライド支持具との接合構造の一例を示す側面図である。
【図7】スライド金型の離型動作の一例を示す模式図である。
【図8】切断法(JIS−H0501)を適用した平均結晶粒径の測定の概要を示す模式図である。
【図9】羽根車Aの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図10】羽根車Aのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図11】羽根車Aの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図12】羽根車Bの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図13】羽根車Bのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図14】羽根車Bの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図15】羽根車Cの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図16】羽根車Cのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図17】羽根車Cの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1.コンプレッサ羽根車、2.ハブ軸部、3.ハブ面、4.ディスク部、5.長羽根、6.短羽根、7.ブレード面、8.ブレード空間、9.軸線方向、10.成形体、21.固定金型、22.可動金型、23.スライド金型、24.スライド支持具、25.支持板、26.溝、27.回転軸、28.ベアリング、29.固定ピン、30.ガイドピン、31.ハブキャビティ、32.ブレードキャビティ、33.有底溝部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排気ガスを利用し圧縮空気を送る過給機の吸気側に使用されるダイカスト製コンプレッサ羽根車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車や船舶等の内燃機関に組み込まれる過給機は、内燃機関からの排気ガスによって排気側のタービン羽根車を回転させることにより、あるいはクランクシャフト等の回転機構により、タービン羽根車と同軸上にある吸気側のコンプレッサ羽根車を回転させて外気を吸引して圧縮し、この圧縮空気を内燃機関に供給することにより内燃機関の出力を向上させるものである。
【0003】
近年、内燃機関の燃焼効率をさらに向上させる目的で、タービン羽根車およびコンプレッサ羽根車をより高速回転させるための種々の検討がなされている。この過給機に使用されるコンプレッサ羽根車は、使用温度環境が100〜150℃程度であることから従来よりアルミニウム合金が多用されているが、高速回転させるにあたり、アルミニウム製コンプレッサ羽根車のさらなる高強度化が望まれている。
【0004】
一般に、コンプレッサ羽根車は、回転中心軸であるハブ軸から半径方向に延在するハブ・ディスク部のハブ面に、流体力学的曲面を有する複数の羽根部がハブ軸の周囲に放射状に配設された複雑な形状を有している。また、羽根部が長羽根と短羽根とで構成された羽根車や、羽根部に囲まれた空間が、ハブ軸から半径方向外方に向ってアンダーカットとなる複雑な形状の羽根車もある。
【0005】
このようにコンプレッサ羽根車は複雑な形状を有しており、特に羽根部を簡易に形成することは容易ではない。それ故に、従来から各種のコンプレッサ羽根車の製造方法が提案されている。例えば、鍛造成形された羽根車素材から羽根形状を削り出す製造方法(特許文献1)、鋳造可能な形状の羽根車素材を一旦形成した後に羽根部を曲げて矯正する製造方法(特許文献2)、羽根車の羽根部とハブ部とを一体にした消失性模型を用いて形成した耐火物鋳型に鋳造するロストワックス鋳造法(特許文献3)、ゴム模型を用いて石膏鋳型に鋳造するプラスターモールド法(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−48769号公報
【特許文献2】特開昭57−171004号公報
【特許文献3】WO2005−116454号公報
【特許文献4】特開2005−206927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜4のいずれの場合においても、コンプレッサ羽根車の製造工程は長く複雑なものとなる。
具体的には、特許文献1の鍛造素材から削り出す場合には、例えば、まず鋼塊を鋳造し、これを鍛伸または圧延して鍛造素材を得る。次いで、得られた鍛造素材を鍛造して羽根車素材を得る。この後に、得られた羽根車素材から羽根形状を削り出すことにより、最終的にコンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0008】
また、特許文献2の鋳造後に羽根部を曲げ矯正する場合には、例えば、まず羽根部の形状を型抜き可能な形状とした羽根車素材の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型を用いて鋳型を作製する。そして、作製した鋳型に溶湯を鋳造して羽根車素材を得る。この後に、得られた羽根車素材の羽根部をプレス等を用いて曲げ矯正することにより、最終的にコンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0009】
また、特許文献3のロストワックス鋳造法の場合には、例えば、まずワックス等の消失性材料を用いてコンプレッサ羽根車の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型の周りに耐火物をコーティングした後にワックス等を消失させて鋳型を作製する。この後に、作製した鋳型に溶湯を鋳造することにより、コンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0010】
また、特許文献4のプラスターモールド法の場合には、例えば、まずゴム等の大変形可能な弾性材料を用いてコンプレッサ羽根車の形状模型を作製する。次いで、作製した形状模型の周りに石膏(プラスター)をコーティングした後に形状模型を引き抜いて鋳型を作製する。この後に、作製した鋳型に溶湯を鋳造することにより、コンプレッサ羽根車を得るといった製造工程となる。
【0011】
よって、コンプレッサ羽根車を供給する上では、上述したような長く複雑な製造工程によるのではなく、生産効率や材料歩留がよく、従来よりも安価に量産可能な新規な製造方法によることが望まれている。また、これとともに、上述したようにコンプレッサ羽根車をさらに高速回転させるにおいて課題とされる軽量化や高強度化が望まれている。
【0012】
羽根車の高強度化に関しては、上述の特許文献1のように、鋳塊の大きな結晶粒が鍛造により微細化された鍛造素材を用いて形成した羽根車は、微細な結晶粒を有することによって機械的強度が向上される。故に、結晶粒が微細である点において、上述した鋳造方法によって得た他の羽根車よりも、鍛造素材から削り出して得た羽根車は優れている。
【0013】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、従来の鋳造形成されたコンプレッサ羽根車よりも結晶粒径を微細化して高強度化を可能とし、安価に大量生産することが可能なダイカスト製コンプレッサ羽根車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、コンプレッサ羽根車に対して、ダイカスト法を適用した製造が可能であること、また、アルミニウム製羽根車であってもダイカスト製羽根車とすることにより結晶粒が微細化されて高強度化が可能であることを見出し本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている、ダイカスト製コンプレッサ羽根車である。
【0016】
本発明においては、質量%で、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金を使用し、ダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0017】
また、本発明においては、質量%で、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金を使用し、ダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0018】
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Ti:0.05〜0.3%、B:0.06%以下を含むことができる。
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Sr:0.005〜0.08%を含むことができる。
【0019】
また、前記アルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3〜0.8%、Fe:0.2%以下を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、ダイカスト法によるので、上述した特許文献1〜4で提案されるような従来の製造方法によるよりも、格段に安価に大量生産することが可能となる。また、羽根車の羽根部や表層には緻密で均一な結晶粒を有する凝固組織が形成されるため、従来のプラスターモールド法等による大きな結晶粒を有する羽根車よりも高強度のアルミニウム製のコンプレッサ羽根車を得ることができ、更なる高速回転に対応可能となる。それ故に本発明は、工業上極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上述した通り、本発明の重要な特徴は、ダイカスト形成されて結晶粒が微細化された羽根車形状を有する成形体を用いてコンプレッサ羽根車を得たことである。
具体的には、ダイカスト形成された成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなる。また、ダイカスト形成された成形体は、隣接する一対の長羽根の間に形成される各ブレード空間には前記ハブ軸部から半径方向外方に向かってアンダーカットを有していてもよい。
【0022】
また、上述の羽根車形状を有する成形体は、ダイカスト形成されて結晶粒が微細化されており、具体的には、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている。
【0023】
本発明における平均結晶粒径とは、切断法(JIS−H0501)を適用して測定されるDAS2(二次デンドライトアームスペーシング)に基づいて求められる平均的な結晶粒径、もしくは、明確なDAS2が観察に難い場合にはDAS2に対応するかのように観察された隣接する結晶粒間の距離に基づいて求められる平均的な結晶粒径を意味する。
【0024】
上述したダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、薄肉で熱容量の小さい羽根部では、急冷された緻密で均一な急冷組織が形成される。また、塊状で熱容量の大きいハブ・ディスク部やハブ軸部では、その深さ5mm以内の表層には、特に深さ2mm以内の表層では顕著であるが、急冷された緻密で均一な結晶粒を有する凝固組織が形成され、中心部近傍には表層よりも大きい結晶粒を有する凝固組織が形成される。
【0025】
このように、羽根車形状をダイカスト形成することにより、羽根車形状を有する成形体において、表面側の凝固速度が格段に高められて急冷され、中心部に向かって凝固速度が次第に低減されて、これにより、成形体の凝固組織において、表面側から中心部に向かって連続的に、微細で均一な結晶粒から、より平均粒径の大きい結晶粒へと変化しながら凝固組織が形成される。
【0026】
これは、ダイカスト形成においては、鋳型として金型を使用するため、プラスターモールド法等で使用する耐火物等よりも冷却能力が格段に高く、薄肉の羽根部や、ディスク部やハブ軸部の表面層では、金型に接触した溶湯が急冷されるからである。
また、ダイカスト形成においては、溶湯を高圧力で金型のキャビティに注入するため、金型表面に対する溶湯の密着性が向上することにより、溶湯の冷却速度が上がる利点もある。
【0027】
上述したように微細で緻密な結晶粒を有する急冷組織を形成することにより、羽根車形状を有する成形体の鋳造組織の硬度や強度を高めることができ、羽根車形状の中心部に向かって表層よりも大きい結晶粒を有する鋳造組織を形成することにより、靭性を持たせることができる。
【0028】
これに加えて、本発明においては、上述した凝固組織を有する形成体に対し、さらにT6処理(JIS−H0001)等の熱処理を施すことにより、緻密な結晶組織の母相が維持されながら溶体化や時効硬化による素材の改質による機械特性の改善効果が付加されることによって、特にハブ軸部やハブ・ディスク部の中心部に近い個所に対してはさらに有効に作用し、より一層の羽根車の高強度化が期待される。
【0029】
例えばT6処理における溶体化処理は、その保持時間を幾つか変えて各々の引張強さや伸びを測定し、好適な保持温度と保持時間を決定する等の手段を採用することができる。例えば、少なくとも7%以上の伸びを確保しようとすると、次工程で施す時効処理による伸びの低下分を勘案し、伸びが8%を超える条件を目安とすることが好ましい。このような条件としては、例えば、ダイカストによって形成される結晶粒径との関係において好適条件は変わるものの、保持温度500〜540℃、保持時間2〜12hの範囲内で組み合せることが好ましく、より好ましい保持温度は525±10℃、保持時間は2〜8hの範囲である。
【0030】
また、例えばT6処理における時効処理は、先に決定した条件で溶体化処理を施した後、時効処理における保持時間を幾つか変えて各々の引張強さや伸びを測定する等の手段を採用することができる。そして、常温において、例えば、引張強さが400MPa以上となり、伸びが少なくとも7%以上となる条件を選定すればよい。このような条件としては、例えば、保持温度150〜200℃、保持時間2〜36hの範囲内で組み合せることが好ましく、より好ましい保持温度は160±10℃、保持時間は2〜24hの範囲である。また、時効処理は溶体化処理に比べ保持時間が長いため、生産性向上を図るために短時間で処理することが好ましい。この場合、例えば190±10°と処理温度を上げて保持時間2〜12hの時効処理を行うことにより、生産性向上が期待できる。
【0031】
また、本発明においては、上述した凝固組織を有する形成体に対し、HIP処理(熱間静水圧加圧処理)を施すことも好ましく、鋳造時に生じる内部欠陥を微小化できる。なお、さらに上述のT6処理等の熱処理を施す場合には、HIP処理の後に施すことができる。
なお、上述したT6処理条件やHIP処理条件は、使用するアルミニウム合金の化学成分や成形体の寸法形状などに応じ、適宜調整することが望ましい。
【0032】
上述したダイカスト形成された羽根車に対し、例えば、羽根車のハブ軸部外周に対して切削等の機械加工を施すことや、羽根車自体に対して化成処理や陽極酸化処理、メッキや塗装等の表面処理を施すこともできる。ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、結晶粒径が従来よりも微細化かつ均一化されるため、常温での機械加工性や、表面の被膜形成性が改善される点で有利である。
【0033】
ダイカストでは鋳型として金型を用いるので、ダイカスト製コンプレッサ羽根車の鋳肌は、鋳型として耐火物を用いる場合よりも表面粗さの小さい鋳肌となる。これにより、羽根車表面の空力抵抗が低減し、羽根車の空力学的特性向上に寄与できる。
【0034】
上述した本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、アルミニウム合金を使用し、上述の羽根車形状を有する成形体をダイカスト形成することによって得ることができる。よって、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、高強度な表層および羽根部と、高強度かつ適度な靭性をあわせ持つハブ軸部およびハブ・ディスク部を有することとなり、さらに常温での機械加工性をも有し、空力学的特性向上に寄与できる、優れたコンプレッサ羽根車となる。
【0035】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に好適なアルミニウム合金は、構造用材料の中でもマグネシウム合金に次いで密度が小さく軽量化には好適である。また、アルミニウム合金は、マグネシウム合金よりも原料や溶湯の取り扱いが容易である利点もある。
本発明において好適なアルミニウム合金は、湯流れ等の鋳造性が良好であり、コンプレッサ羽根車に所望される引張強さ、耐力、伸びといった機械的特性を有する、Si、Cu、Mg、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金である。
【0036】
Si含有量の多いアルミニウム合金において、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に望ましくは、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金である。
【0037】
また、Si含有量の少ないアルミニウム合金において、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に望ましくは、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含む、アルミニウム合金である。
【0038】
以下、上述した添加元素であるSi、Cu、Mg、さらには添加することが望ましいTiやB、Sr、MnやFeについての好適な化学成分範囲、および、含有されやすい不可避的不純物について、Si含有量の多い合金およびSi含有量の少ない合金を挙げて説明する。なお、各元素の化学成分値は、特別に記載のない限り質量%で示す。
【0039】
Si(珪素)は、湯流れ等の鋳造性向上や機械強度向上のために有効となる添加元素である。
アルミニウム合金において良好な鋳造性を得たい場合には、多量のSiを含有させることが好適であり、Siを8.6〜9.4%の範囲で含有させることが望ましい。但し、Siが8.6%未満では所望する鋳造性が得られないことがあり、Siが9.4%を超えると伸びが低下して脆化しやすくなる。
【0040】
また、アルミニウム合金において良好な伸びを得たい場合には、少量のSiを含有させることが好適であり、Siを1.5%以上4.0%未満の範囲で含有させることが望ましい。このようにSi含有量を減らした場合には鋳造性が低下してしまうものの、鋳造時間つまり鋳型へ溶湯を充填する時間が短いダイカストを適用することにより鋳造品位や鋳造性の劣化を防止できる。
また、伸びを確保した上でさらに強度を高めたい場合には、後述するCuおよびMgとの関係において、Siを2.5〜3.5%の範囲で含有させることが望ましい。
【0041】
Cu(銅)は、Al(アルミニウム)母相中に固溶することで機械強度を向上させる固溶強化の効果、および、鋳造後に実施する熱処理(T6処理:JIS−H0001)において析出強化の効果を発揮させるための重要な添加元素である。これは後述するMgも同様である。
【0042】
上述のSi含有量が多いアルミニウム合金においては、Cuを1.0〜2.5%の範囲で含有させることが望ましく、伸びを阻害することなく十分な引張強さを発揮させることができる。但し、Cuが1.0%未満ではAl母相中への固溶量が不足して十分な引張強さが得られないことがあり、Cuが2.5%を超えるとCuAl2等の金属間化合物が粒界に多量に析出することにより、Siによる影響もあって、伸びを低下させることがある。
【0043】
また、上述のSi含有量が少ないアルミニウム合金においては、Si低減による機械強度の低下を補償するために、Mg、Mn、Feの含有量との関係を考慮しながらCu含有量を2.5〜5.0%の範囲で最適化することが望ましい。すなわち、Mg、Mn、Feの含有量が多い場合にはCuを2.5〜3.5%含有させ、少ない場合にはCuを3.5〜5.0%含有させるなど、必要に応じて適宜選択することが望ましい。但し、Cuが2.5%未満ではAl母相中への固溶量が不足し、Cuが5.0%を超えるとCuAl2等の金属間化合物が粒界に多量に析出して伸びを低下させることがある。
【0044】
Mg(マグネシウム)は、上述したCuと同様に、固溶強化および析出強化の効果を発揮させるための添加元素である。上述したSiおよびCuとの関係においてMgを0.3〜0.7%の範囲で含有させて、伸びを阻害することなく十分な引張強さを発揮させることが望ましい。但し、Mgが0.3%未満ではAl母相中への固溶量が少なすぎてMg2Siの析出量が不足するので十分な引張強さが得られず、Mgが0.7%を超えると伸びを低下させることがある。
【0045】
また、Mg含有量に対し、まずSi含有量を調整し、次いでCu含有量を調整することが、鋳造性や機械特性の変化を確認しやすく望ましい。より望ましくは、Mgを0.4〜0.6%含有とした上でSiおよびCuの含有量を最適化することである。
【0046】
上述のアルミニウム合金においては、鋳造時の凝固組織の微細化つまり結晶粒を微細化させるために、さらにTi(チタニウム)を0.05〜0.3%の範囲で含有させることができる。但し、Tiが0.05%未満では結晶粒を微細化させる効果が小さく、0.3%を超えると伸びを低下させることがある。
【0047】
また、上述のTiの効果をより促進させるBをTi含有量の20%程度含有させることも望ましく、例えばTi含有量0.05〜0.3%に対してBを0.06%以下の範囲で含有させることができる。この場合、Bを0.06%を超えて含有させてもさらなる効果の向上は期待できない。
【0048】
Al−Si−Cu−Mg系合金では、共晶Siが生成され、これが針状や繊維状に成長すると伸びを損ねることとなる。そこで、上述のアルミニウム合金においては、共晶Siの球状化を促進させるためにSr(ストロンチウム)を0.005〜0.08%の範囲で含有させることが望ましい。これにより共晶Siの針状や繊維状への成長が抑制され、伸びの低下が防止される。但し、Srが0.005%未満では共晶Siを球状化させる効果が期待できず、Srが0.08%を超えるとピンホールやヒケといった鋳造不良を発生させることがある。なお、Srと同様の効果は、Sb(アンチモン)やNa(ナトリウム)といった元素によっても得られる。
【0049】
アルミニウム合金の溶湯は、Fe基合金でなる金型の表面との親和性が良く、ダイカストにおいて金型への焼き付きを生じる可能性があることが知られる。そこで、上述のAl−Si−Cu−Mg系合金においては、溶湯の金型への焼き付きの防止を期待し、適量のMn(マンガン)やFe(鉄)を含有させて溶湯と金型表面との親和性を低下させることが望ましい。この場合、Mnを0.3〜0.8%の範囲で含有させ、Feを0.2%以下の含有に抑えることが望ましく、Mnのみを含有させても良い。但し、Mnが0.3%未満では焼き付き防止効果が期待できず、Mnが0.8%を超えると脆化しやすくなる。また、FeはMnに比べると脆化への影響が大きく、できる限り0.2%以下の含有に抑えることが望ましい。
【0050】
次に、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車の形状について具体例を挙げ、図面に基づいて説明する。
図1は、自動車用ターボチャージャの吸気側に使用されるコンプレッサ羽根車1(以下、羽根車1という)の模式図である。羽根車1は、ハブ軸部2と、このハブ軸部2から半径方向に延在するハブ面3を有するハブ・ディスク部4と、ハブ面3に配設された交互に隣接する複数の長羽根5と短羽根6とを有する羽根部とからなり、合計12枚の長羽根5と短羽根6を有する。本発明におけるダイカスト形成された成形体は、図1に示す羽根車1に対応する羽根車形状を有することができる。
【0051】
図2は、羽根車1の羽根部簡略図であり、明確化のため2枚の長羽根5と1枚の短羽根6のみを記載している。また、図2の斜線部は、ハブ面3と、ひとつの短羽根6を含む隣接する2枚の長羽根5のブレード面7とで囲まれたブレード空間8に対応する。長羽根5と短羽根6のブレード面7は、いずれも複雑な流体力学的曲面形状を表裏に有している。また、この羽根車1は、羽根車1の隣接する一対の長羽根5の間に形成される各ブレード空間8には、ハブ軸部2から半径方向外方に向かってアンダーカットを有している。
【0052】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、合計8〜14枚の長羽根と短羽根とを有する羽根部とすることができる。また、羽根車の各部を、外径7〜30mmのハブ軸部と、外径30〜120mmで最外周部肉厚2〜5mmのハブ・ディスク部と、羽根部は、先端付近肉厚0.2〜2mm、中央付近肉厚1〜5mm、ハブ面近傍の付け根付近肉厚1.5〜8mmといった寸法形状に形成することができる。これは、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体においても、加工代などの余肉に対応するだけの寸法形状の差分を有するものも同様である。また、このような羽根車の場合、薄肉である羽根部に対しハブ軸部およびハブ・ディスク部は塊状となり、羽根車に対する羽根部全体の容積を10〜30%に形成してよい。
【0053】
上述した本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、例えば、以下の製造方法によって製造できる。
具体的には、まず、ハブ軸部と、このハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなる、コンプレッサ羽根車の形状に対応するキャビティを有する金型を準備する。次いで、このキャビティ内に溶融材料を1秒以下の充填時間で供給するダイカスト法により、コンプレッサ羽根車の形状に対応する羽根車形状を有する成形体を形成する。望ましくは、上述した溶融材料の充填に引き続き、充填されたキャビティ内の溶融材料に対して20MPa以上の圧力を1秒以上加え、その加圧状態を維持するダイカスト法である。そして、湯道やバリ等を除去して清浄した成形体に対して必要に応じて仕上げ加工や熱処理などを施すことにより、コンプレッサ羽根車が製造される。
【0054】
以下、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を製造するにおいて、コンプレッサ羽根車の形状に対応する羽根車形状を有する成形体を形成するためのダイカスト形成条件につき、詳細に説明する。
金型のキャビティに注入する材料の注入温度は、好ましくは液相線温度以上とすることであり、すなわち溶融材料を使用することである。これは、キャビティに到達する前に、注入する材料が凝固してしまうことが防止されるからである。また、注入する材料の温度は、材料の成分を確保でき、鋳造時の材料の飛散やガスの巻き込み等に起因する不具合を生じない限り、幾ら高温であっても構わない。
【0055】
また、金型のキャビティに対する材料の注入は、好ましくは1秒以下の充填時間で供給することである。また、充填時間は、キャビティに十分にかつ円滑に材料を供給でき、鋳造時の材料の飛散やガスの巻き込み等に起因する不具合を生じない限り、幾ら短時間でも構わない。
【0056】
コンプレッサ羽根車の羽根部は、優れた空力学的特性を得るため、ハブ面を有するハブ・ディスク部に比べ、通常は極めて薄肉に設計される。このため、羽根部に対応して画成された金型の羽根部キャビティは、極めて狭隘な深い溝状の空間となる。よって、上述した充填時間で材料を供給することは、金型の羽根部キャビティに対して、速やかに、かつ十分に材料が供給されることとなり、エアーベント等による排気手段を適正に実施することによって羽根部キャビティにおける材料の不廻りやガスの巻き込み等の鋳造欠陥の発生が防止される。これにより、鋳造形成された成形体における羽根部の健全性がより高まることとなる。
【0057】
また、金型のキャビティに対して材料を注入した後は、好ましくは20MPa以上の圧力を1秒以上加え、その加圧状態を維持することである。この操作は、材料の注入後、可能な限り速やかに行うことが好ましい。また、上述の加圧状態を1秒以上継続させた後には圧力を下げてもよい。より好ましくは、材料が完全に凝固し、羽根車が確実に形成されるまで、その加圧状態を維持することである。鋳造後に金型のキャビティを加圧状態で維持するとき、例えばハブ軸部の軸線方向等の凝固収縮しやすい個所に対して局所加圧することも好ましく、これにより溶湯が部分的に補給され、引け等の鋳造欠陥の発生を防止できる。
【0058】
また、金型のキャビティは、予め0.05MPa以下に減圧しておくことが好ましい。ダイカスト形成においては、キャビティに材料を高速で注入するため、キャビティ内の溶湯の湯廻り状態など材料の充填状態によっては空気やガス等の気体を巻き込みやすい。そこで、予め0.05MPa以下に減圧しておき、このような不具合を低減させる。より好ましくは0.01MPa以下、さらに0.005MPa以下に減圧しておくことである。また、ダイカストに用いる溶融材料の酸化防止のため、予めキャビティ内にアルゴン等の不活性ガス、アルゴンと水素との混合ガス、窒素等を充満させて酸素を遮断し、成形体への酸化物の巻き込みを防止することも好ましい。
【0059】
この後、金型のキャビティ内で材料を凝固させて羽根車形状を有する成形体を得る。得られた羽根車形状を有する成形体は、まず薄肉で熱容量の小さい羽根部が凝固形成され、同時に、金型と直接に接触するハブ・ディスク部の最外径部やハブ面、ハブ軸部の端部といった羽根車の表層が凝固形成される。そして、次第にハブ・ディスク部の内部に向かって凝固が進行し、最終的に中心部が凝固形成される。このため、最終凝固部となるハブ・ディスク部の中央辺りには、引け巣等の鋳造欠陥が生じやすい。よって、材料を注入した後に、上述したように加圧状態を維持することにより、もしくは、キャビティを画成する金型の一部や加圧用に設けたピンを押し込むなどの手段により部分加圧することにより、成形体の健全性がより高まることとなる。
【0060】
次に、図1に示す羽根車1に対応する羽根車形状を有する成形体を製造可能とする金型のキャビティについて、一例を挙げて図面に基いて説明する。
図3に金型装置の一例を示す。金型は、羽根車の軸線方向9に開閉自在な可動金型22と固定金型21、および羽根車の軸線方向9に対して半径方向に移動可能なスライド金型23とスライド支持具24とから構成されている。図4は、可動金型22の要部矢視図であり、明確化のためスライド金型23とスライド支持具24とをそれぞれ1個のみ記載している。図5は、スライド金型23の模式図である。
【0061】
スライド金型23は、短羽根形状の有底溝部33(点線で記載)と、短羽根に隣接する2枚の長羽根5で画成される空間に対応する形状体とを有している。すなわち、図2の斜線部で示すブレード空間8に相当する形状を形成するように、羽根車1のハブ面3に相当するハブキャビティ31と、長羽根5に相当するブレードキャビティ32、および短羽根6に相当する有底溝部33を有している。
【0062】
上述した短羽根形状の有底溝部33を有するスライド金型23を用いることにより、短羽根6の基部すなわちハブ面3との付け根部にはパーティングライン(型割線)が形成されることはない。また、同様に、隣接する一対の長羽根5とともにブレード空間8を画成するハブ面3には、パーティングライン(型割線)が形成されることはない。このため、ハブ面3およびブレード面7において流体抵抗を低減することができ、コンプレッサ羽根車の空力学的特性の向上に寄与できる。
【0063】
また、図4に示すように、可動金型22において、軸線方向9に対するスライド金型23の半径方向への可動範囲内の底面にリング状の支持板25を設置し、スライド金型23を支持する。この支持板25は、成形体の軸線方向9への移動が可能になっており、固定金型21と可動金型22の型開き後にスライド金型23と離間する側に移動させ、型締めの際には元の位置に戻す構造になっている。すなわち、固定金型21と可動金型22の型開き後に、スライド金型23はスライド支持具24のみで支持される。
【0064】
上述したスライド金型23を、羽根車1のブレード空間8の個数分だけ図3に示すように固定金型22に環状に配設し、それぞれのスライド金型23と可動金型22および固定金型21を型締めして密接させる。これにより、実質的に羽根車1と同一の形状の金型によるキャビティを形成することができる。そして、このキャビティに、材料を注入して成形体10を成形する。
【0065】
次に、スライド金型23を軸線方向9の半径方向外方に移動させ、冷却凝固して成形された羽根車形状を有する成形体10を離型する。具体的には、成形体10を鋳造成形後、まず可動金型22を固定金型21と離間する側に移動させて型開きし、次いで支持板25をスライド金型23と離間する側に移動させ、スライド金型23をスライド支持具24のみで支持させる。そして、図4に示すように、スライド支持具24を可動金型22に設けた溝26に沿って軸線方向9の半径方向外方に引き出す。このとき、スライド金型23を、スライド支持具24に設けた回転軸27に連結させておくことにより、スライド金型23は回転軸27を中心に自然に回動し、成形体10の長羽根5および短羽根6の表面形状に沿って抵抗少なく離型される。
【0066】
離型後、羽根車形状を有する成形体10から不要な湯道や湯口、バリなどを除去し、さらには化成処理や陽極酸化処理、セラミックコーティング、あるいはメッキや塗装等の表面処理を行ってもよい。また、例えば、熱間静水圧プレス(HIP)や、サンドブラスト、ケミカルピーリングといった処理を行ってもよい。
【0067】
以上、一例として上述したダイカスト法を適用した製造方法によれば、たとえ、複数の羽根部が交互に隣接する長羽根と短羽根からなる複雑な形状を有するコンプレッサ羽根車であっても、羽根車の形状に対応する金型のキャビティが画成可能であって、鋳造成形後に羽根車形状を有する成形体を金型から離型可能であれば、形状精度が良好で緻密な結晶粒による鋳造組織を有する成形体を用いて、高強度であって、更なる高速回転に対応可能な本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を得ることができる。
【0068】
そして、格別の機械加工や鋳造後の形状調整を施すこともなく、羽根車を模した消失性模型を形成することもないため、生産効率や製造コストの点でも格段に改善され、従来よりも廉価なコンプレッサ羽根車の提供が可能となる。
【実施例】
【0069】
本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車の一例として、図1に示す形状を有する羽根車を、Siなどの含有量の異なる2種類のアルミニウム合金を羽根車の材料として使用し、一例として上述した製造方法によって製造した。
使用したアルミニウム合金のひとつは、化学成分が、質量%で、Si含有量が8.92%と多く、Cu:1.96%、Mg:0.53%を含み、さらにはTi:0.13%、Sr:0.026%、Mn:0.63%、Fe:0.19%を含み、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金(以下、合金Aという)である。
【0070】
また、使用したアルミニウム合金のもうひとつは、化学成分が、質量%で、Si含有量が3.90%と少なく、Cu:1.60%、Mg:0.51%を含み、さらにはTi:0.20%、Sr:0.058%、Mn:0.03%、Fe:0.16%を含み、残部Alおよび不可避的不純物を含むアルミニウム合金(以下、合金Bという)である。
【0071】
羽根車の製造方法は同様であるので、以下、上述の合金Aを例に挙げて説明する。
まず、上述の合金Aからなる溶湯を準備し、この溶湯を、図3に示す金型装置を配設したダイカスト成形機に供給し、図5に示す複数のスライド金型23等により画成した金型のキャビティ内に注入後、加圧維持して羽根車の成形体を凝固させた。このとき、溶湯注入前のキャビティ内は僅かに大気が残存する雰囲気であって、その真空度はおよそ0.005MPaであった。また、キャビティへの溶湯注入は、金型温度を160℃、溶湯温度を725℃、溶湯の射出速度を最大1.5m/s、鋳造圧力を90MPaに調整し、溶湯充填後は鋳造圧力を保持しながら加圧状態を維持した。
【0072】
この後、溶湯が凝固するまで十分に冷却し、図3に示す可動金型22を固定金型21と離間させた後、図6に示す構造としたスライド金型23を、図7に示す手順により成形体10から離型させ、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体10を得た。
【0073】
図6は、スライド金型23とスライド支持具24との接合構造を示す側面図であり、スライド金型23は、その回転軸27にベアリング28を介して固定ピン29を差込んでスライド支持具24と連結させた。また、スライド支持具24の底部にガイドピン30を設け、スライド支持具24を図4に示す可動金型22に設けた溝26に沿って軸線方向9の半径方向外方に引き出す案内とした。
【0074】
図7は、成形体10からスライド金型23を軸線方向9に対する半径方向外方に移動させつつ回動させて離型させる具体的な動作手順を示す模式図であり、図7(a)〜(d)は、スライド金型23が成形体10から離型していく状態を示している。なお、図7においては、離型動作を説明する便宜上、スライド金型23のキャビティ部分にハッチングを施している。成形体10を離型するためにスライド支持具24を移動させると、スライド金型23は、成形体10の長羽根5および短羽根6の表面形状に沿って移動しながら回転軸27を中心に自然に回動し、最終的に図7(d)のように羽根車形状を有する成形体10から離型した。
【0075】
そして、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体10から不要な湯口や湯道および微細なバリを除去し、長羽根と短羽根を有し、ハブ軸部の外径13mm、ハブ・ディスク部は、外径69mm、最外周部肉厚2.5mm、羽根の肉厚は、羽根先端付近0.5mm、羽根中央付近1.2mm、ハブ面近傍の羽根付け根2.2mm、羽根車に対する羽根部全体の容積13%の形状を有する、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を得た。
【0076】
このようにして得た本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、それ自体が従来にない機械的強度に優れたコンプレッサ羽根車となる。
これに加え、さらに得られた上述の成形体もしくは羽根車に対し、例えば、温度525℃、8時間の溶体化処理後に、温度163℃、16時間の時効処理を行うT6処理(JIS−H0001)を施すことにより、もしくはHIP処理を施した後に前記T6処理を施すことにより、羽根車は、より一層の高強度を備えたコンプレッサ羽根車となることが期待される。
【0077】
上述のようにして得ることができた、羽根車形状を有する合金Aからなる成形体(以下、羽根車Aという)と合金Bからなる成形体(以下、羽根車Bという)につき、それぞれの鋳造組織を観察した。なお、羽根車Aおよび羽根車Bには、HIP処理や熱処理を施しておらず、すなわち、羽根車Aおよび羽根車Bは、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体と同じ鋳造組織を有するものである。
【0078】
そして、羽根車Aと羽根車Bにつき、観察時に、それぞれの羽根部と、ハブ軸部およびハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層と、ハブ軸部およびハブ・ディスク部の中心部とを写真撮影し、撮影した写真を用い、それぞれの鋳造組織における平均結晶粒径を測定した。
【0079】
羽根車Aと羽根車Bの鋳造組織を対象とした平均結晶粒径の測定は、切断法(JIS−H0501)を適用して行った。具体的には、光学顕微鏡により倍率400倍で供試片断面の鋳造組織を観察撮影し、図8に線描で模式的に示すように、まず、撮影した写真上において番号1〜6で示す縦横斜め6本の既知の長さの線分によって区切り、各線分によって完全に切られる結晶粒数を数えた。次いで、番号1〜6で示す線分のそれぞれの長さL1〜L6の合計値である線分全長:Lt(μm)、数えた結晶数の合計値である総結晶粒数:Nt、撮影した写真の倍率換算値:Sを用い、式(1):Da=Lt/Nt/S×1000によって定まる値を平均結晶粒径:Da(μm)として求めた。
【0080】
(羽根車Aの鋳造組織)
羽根車Aの鋳造組織の一例として、図9〜図11に倍率400倍の撮影写真を示す。図9は、ハブ・ディスク部のハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であって、ハブ・ディスク部の最外径部を形成する平面とハブ軸部の軸線方向とが交差する羽根車の中心部付近の鋳造組織である。図10は、ハブ・ディスク部のハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であって、最外径部から内側に20mm、表面から深さ4mm付近の鋳造組織である。図11は、羽根部であって、長羽根におけるハブ軸部の軸線方向にほぼ垂直な断面であり、羽根先端から10mm、肉厚1.2mm付近の鋳造組織である。なお、ハブ軸部は、ハブ・ディスク部との明確な差異が認められなかったため、これを略す。
【0081】
羽根車Aにおける鋳造組織は、羽根部が最も微細化されており、次いでハブ・ディスク部の表層、ハブ・ディスク部の中心部の順であって、羽根車の中心部に向かって結晶粒径が大きく形成されていた。図9〜図11に対応する平均結晶粒径:Da(μm)を表1に示す。
羽根車Aにおいては、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下の4.0μmで形成され、ハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は平均結晶粒径が15μm以下の6.5μmで形成され、ハブ・ディスク部の中心部付近は平均結晶粒径が20μm以下の11.7μmで形成されていた。また、図示は略すが、ハブ・ディスク部の表面から深さ5mm付近の結晶粒分布についても、上述の深さ4mm付近の結晶粒分布との明確な差異は認められなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
(羽根車Bの鋳造組織)
次に、羽根車Bの鋳造組織の一例として、図12〜図14に倍率400倍の撮影写真を示す。図12はハブ・ディスク部の中心部付近、図13はハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近、図14は羽根部の鋳造組織であって、それぞれ図9〜図11に示す羽根車の個所に対応する。なお、ハブ軸部は、羽根車Aの場合と同様に、ハブ・ディスク部との明確な差異が認められなかったため、これを略す。
【0084】
羽根車Bにおける鋳造組織は、羽根車Aの場合と同様に、羽根部が最も微細化されており、次いでハブ・ディスク部の表層、ハブ・ディスク部の中心部の順であって、羽根車の中心部に向かって結晶粒径が大きく形成されていた。図12〜図14に対応する平均結晶粒径:Da(μm)を上述の表1に示す。
羽根車Bにおいては、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下の4.4μmで形成され、ハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は平均結晶粒径が15μm以下の7.1μmで形成され、ハブ・ディスク部の中心部付近は平均結晶粒径が20μm以下の11.3μmで形成されていた。また、図示は略すが、ハブ・ディスク部の表面から深さ5mm付近の結晶粒分布についても、上述の深さ4mm付近の結晶粒分布との明確な差異は認められなかった。
【0085】
(鍛造素材を用いる従来のコンプレッサ羽根車)
鍛造素材を用いて削り出しにより形成された従来のコンプレッサ羽根車(以下、羽根車Cという)を入手し、上述した羽根車Aおよび羽根車Bと同様に鋳造組織を観察撮影し、目視により鋳造組織形態を羽根車Aおよび羽根車Bと比較した。なお、羽根車Cは、米国材料試験協会(ASTM)規定のアルミニウム鍛造合金A2618でなり、質量%で、Cu:2.51%、Ni:1.11%、Mg:1.59%、Si:0.20%、Ti:0.05%、Fe:1.03%、Zn:0.03%、残部Alおよび不可避的不純物を含み、T6処理されたものである。
【0086】
従来の羽根車Cの鍛造組織の一例として、図15〜図17に倍率400倍の撮影写真を示す。図15はハブ・ディスク部の中心部付近、図16はハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近、図17は羽根部の鍛造組織であって、それぞれ図9〜図11また図12〜図14に示す羽根車Aまた羽根車Bのそれぞれの個所に対応する。
従来の羽根車Cにおける鍛造組織は、結晶粒の形状が羽根車Aや羽根車Bほどには明確ではないが、図15に示すハブ・ディスク部の中心部は、羽根車Aや羽根車Bよりも微細に見える結晶粒分布を有する組織が確認された。また、図16に示すハブ・ディスク部の表面から深さ4mm付近は、羽根車Aや羽根車Bと同等程度に微細に見える結晶粒分布を有する組織が確認された。これは、図示は略すが、深さ5mm付近でも同様であった。また、図17に示す羽根部は、羽根車Aや羽根車Bよりも粗大に見える結晶粒分布を有する組織が確認され、特に羽根車B(図14)の鋳造組織と比べると、明らかに粗大に見える結晶粒分布を有することが確認された。
【0087】
以上より、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車を製造するにおいて、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体である羽根車Aおよび羽根車Bは、羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、ハブ・ディスク部やハブ軸部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、ハブ・ディスク部やハブ軸部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されている鋳造組織を有することが確認できた。そして、特に、羽根部や羽根車の表層においては、平均結晶粒径が5〜10μmの微細な結晶粒による均一で緻密な急冷された鋳造組織が形成されていることが確認できた。
【0088】
従って、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体を用いて得た、本発明のダイカスト製コンプレサ羽根車は、ダイカスト形成することにより、羽根部や羽根車の表層の結晶粒が従来の羽根車よりも微細化され、かつ、羽根車の中心部に向かって結晶粒が次第に大きくなるような鋳造組織を有することとなって、従来の鍛造素材を用いて形成された羽根車が有する機械的特性と同等か、もしくはこれを超えることも期待される、優れた性能を有するコンプレッサ羽根車となることが確認できた。
【0089】
また、上述した鋳造組織を有する本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車に対し、さらに、上述したT6処理(JIS−H0001)を施すことにより、もしくはHIP処理を施した後に前記T6処理を施すことにより、本発明のダイカスト製コンプレッサ羽根車は、より一層の高強度を備えたコンプレッサ羽根車となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えば自動車や船舶等の内燃機関に組み込まれる過給機の吸気側に使用されるコンプレッサ羽根車として利用できる。また、過給機に限らず、コンプレッサ羽根車と類似の形状を有して回転する風車や水車などの各種の羽根車としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】コンプレッサ羽根車の一例を示す模式図である。
【図2】羽根部の一例における簡略図である。
【図3】金型装置の一例を示す全体図である。
【図4】可動金型の一例を示す要部矢視図である。
【図5】スライド金型の一例を示す模式図である。
【図6】スライド金型とスライド支持具との接合構造の一例を示す側面図である。
【図7】スライド金型の離型動作の一例を示す模式図である。
【図8】切断法(JIS−H0501)を適用した平均結晶粒径の測定の概要を示す模式図である。
【図9】羽根車Aの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図10】羽根車Aのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図11】羽根車Aの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図12】羽根車Bの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図13】羽根車Bのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図14】羽根車Bの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図15】羽根車Cの中心部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図16】羽根車Cのハブ・ディスク部の断面の表面から深さ4mm付近の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【図17】羽根車Cの羽根部の断面の鋳造組織の一例(写真)を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1.コンプレッサ羽根車、2.ハブ軸部、3.ハブ面、4.ディスク部、5.長羽根、6.短羽根、7.ブレード面、8.ブレード空間、9.軸線方向、10.成形体、21.固定金型、22.可動金型、23.スライド金型、24.スライド支持具、25.支持板、26.溝、27.回転軸、28.ベアリング、29.固定ピン、30.ガイドピン、31.ハブキャビティ、32.ブレードキャビティ、33.有底溝部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されていることを特徴とするダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Ti:0.05〜0.3%、B:0.06%以下を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Sr:0.005〜0.08%を含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項6】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3〜0.8%、Fe:0.2%以下を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項1】
Si、Cu、Mgを含むアルミニウム合金でなるダイカスト製コンプレッサ羽根車であって、ダイカスト形成された羽根車形状を有する成形体は、ハブ軸部と、該ハブ軸部から半径方向に延在するハブ面を有するハブ・ディスク部と、前記ハブ面に配設された交互に隣接する複数の長羽根と短羽根とを有する羽根部とからなり、前記羽根部は平均結晶粒径が10μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の深さ5mm以内の表層は平均結晶粒径が15μm以下で形成され、前記ハブ軸部および前記ハブ・ディスク部の中心部は平均結晶粒径が20μm以下で形成されていることを特徴とするダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Si:8.6〜9.4%、Cu:1.0〜2.5%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Si:1.5%以上4.0%未満、Cu:2.5〜5.0%、Mg:0.3〜0.7%、残部がAlおよび不可避的不純物を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Ti:0.05〜0.3%、B:0.06%以下を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Sr:0.005〜0.08%を含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【請求項6】
前記アルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3〜0.8%、Fe:0.2%以下を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のダイカスト製コンプレッサ羽根車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−53743(P2010−53743A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218422(P2008−218422)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(305022598)株式会社日立メタルプレシジョン (69)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(305022598)株式会社日立メタルプレシジョン (69)
【Fターム(参考)】
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