説明

ダイシングテープ及び半導体チップの製造方法

【課題】ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮することができるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを用いた半導体チップの製造方法を提供する。
【解決手段】基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープであって、前記基材は、粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有し、前記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内であるダイシングテープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮することができるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを用いた半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体チップは、通常、純度の高い棒状の半導体単結晶等をスライスして半導体ウエハとした後、フォトレジストを利用して半導体ウエハ表面に所定の回路パターンを形成し、次いで半導体ウエハ裏面を研削機により研削して、厚さを100〜300μm程度まで薄くした後、最後にダイシングしてチップ化することにより、製造されている。
【0003】
従来から、ダイシングの際には、半導体ウエハ裏面側にダイシングテープを貼付して、半導体ウエハを接着固定した状態で縦方向及び横方向にダイシングし、個々の半導体チップに分離した後、形成された半導体チップをダイシングテープ側からニードル等で突き上げてピックアップし、ダイパッド上に固定させる方法が採られていた。例えば、特許文献1には、複数の砥石軸を有する研削加工装置を用いて、半導体ウエハの裏面側より、少なくとも一つの砥石軸で半導体ウエハ厚を薄く研削する加工と、他の少なくとも一つの砥石軸で半導体ウエハを矩形状に切断分離する加工とを、同時に行う半導体ウエハの研削加工方法が開示されているが、このような方法にあっても半導体ウエハの位置ずれ等を防止する目的でダイシングテープが用いられている。
【0004】
ダイシングの際に半導体ウエハの位置ずれ等を確実に防止するためには、半導体ウエハを固定するダイシングテープに高い粘着力が求められる。しかしながら、ダイシングテープの粘着力を高く設定すると、ダイシングテープから得られた半導体チップを剥離するのが困難になり、ニードル等で突き上げてピックアップする際に半導体ウエハが損傷してしまうことがあるという問題がある。
【0005】
これに対して、ダイシングテープの粘着剤として硬化型粘着剤を用いる方法が行われていた。この方法によれば、比較的高い粘着力で半導体ウエハを固定してダイシングを行った後、粘着剤を硬化してその粘着力を低下させ、得られた半導体チップをダイシングテープから剥離することができる。しかしながら、硬化型粘着剤を用いたとしても、その粘着力の変化の幅は小さいものであることから、ダイシング時の半導体ウエハの位置ずれ等を充分に防止できる程度に高い粘着力を付与した場合には、硬化後の粘着力もあまり低下せず、やはりニードル等で突き上げてピックアップする際に半導体チップを損傷することなく取り上げることは困難であった。
【0006】
更に、近年ではコスト削減等の要請から高い生産性で半導体チップを生産することが要求されており、各工程においても極限の効率化が求められている。なかでもダイシング後の半導体チップをニードル等で突き上げてピックアップする工程は、ピックアップの速度を上げようとすると破損する半導体チップの数が増加してしまい歩留りに影響することから、生産性向上のための問題点の1つとなっていた。
【0007】
これに対して特許文献2には、光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープを用い、ダイシング後の粘着テープに特定の強度の紫外線を特定の照射時間照射して、ニードルレスピックアップ法により半導体チップを取り上げる半導体チップの製造方法が記載されている。光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層は、剥離工程において紫外線等の光を照射することにより発生した気体が、粘着剤層と半導体チップとの界面に放出され接着面の少なくとも一部を剥がして接着力を低下させる。剥離工程後の半導体チップは、ダイシングテープから剥離して、あたかも粘着テープ上に浮いているような状態になっていることから、従来の方法のようにニードルで突き上げなくとも吸引パッド等の吸引手段を用いて吸引するだけで容易に取り上げることができる。
しかしながら、特許文献2に記載された半導体チップの製造方法を用いても、なおピックアップ安定性が不充分であり、ピックアップミスが発生したり、ピックアップにかかる時間(タクトタイム)が長時間化してしまったりすることがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−78793号公報
【特許文献2】特開2005−191531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮することができるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを用いた半導体チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープであって、前記基材は、粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有し、前記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内であるダイシングテープである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のダイシングテープは、基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有する。
上記基材は特に限定されないが、光を透過又は通過するものであることが好ましく、例えば、アクリル、オレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等が挙げられる。
【0012】
上記基材は、粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有する。
本発明者は、特許文献2に記載された半導体チップの製造方法においてピックアップミスが発生する原因を検討した。その結果、紫外線等の光を照射する剥離工程時に、図2(b)に記載されたような、いわゆる「半導体チップの片浮き」が発生することが原因であることを突き止めた。特許文献2に記載された半導体チップの製造方法では、剥離工程において紫外線等の光を照射することにより気体発生剤から発生した気体が、粘着剤層と半導体チップとの界面に放出され接着面を剥がして接着力を低下させる。その結果、半導体チップがダイシングテープから剥離して、あたかも粘着テープ上に浮いているような状態になっていることから、吸引パッド等の吸引手段を用いて吸引するだけで容易に取り上げることができる(図2(a))。ところが、放出された気体によって粘着剤層と半導体チップとが剥離する際に、半導体チップの一方の端部が粘着テープに接着したままで剥離が行われると、図2(b)の中央の半導体チップのように、一方の端部が接着したまま他方の端部側のみが剥離して、全体として斜めに傾いた状態となる「片浮き」となる。このような「片浮き」状態の半導体チップは、吸引パッド等の吸引手段で吸引しようとしても、うまく吸引できなくてピックアップミスにつながったり、ピックアップに時間がかかってタクトタイムが長時間化してしまったりする原因となっていた。
【0013】
これに対して本発明者は、鋭意検討の結果、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有する基材上に、光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を形成したダイシングテープを用いることにより、剥離工程において紫外線等の光を照射したときの「片浮き」を防止して、高いピックアップ安定性で、かつ、短いタクトタイムで半導体チップのピックアップを行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明のダイシングテープの剥離の機構を図3を用いて説明する。
図3は、半導体チップ2に貼着された本発明のダイシングテープ1に、光を照射したときの模式図である。図3(a)において、半導体チップ2はダイシングテープ1に接着されている。ここでダイシングテープ1は、基材12の片面に気体発生剤を含有する粘着剤層11が形成されている。そして、粘着剤層11と接する側の基材12の表面は、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部13をドット状に有する。
このような状態でダイシングテープ1に光を照射すると、粘着剤層11に含有される気体発生剤から気体が発生する。発生した気体は粘着剤層11の外に出て、粘着剤層11と半導体チップ2との間の接着界面に放出され、放出された気体の圧力により粘着剤層11と半導体チップ2との間の接着界面が剥がされて、半導体チップ2が剥離される。一方、基材12の表面には低粘着力部13がドット状に設けられており、この部分はその周りに比べて粘着剤層11に対する粘着力が劣る。そのため、粘着剤層11から発生した気体は、低粘着力部13と粘着剤層11との界面にも放出され、低粘着力部13と粘着剤層11との一部を剥離させる。その結果、基材12と粘着剤層11との界面には低粘着力部13に該当する部位に空気溜まり3が形成され、この空気溜まり3の存在によって粘着剤層11が波打った形状に変化する(図3(b))。このように粘着剤層11が波打った形状に変化することにより、剥離後の半導体チップは粘着剤層11に形成された凸部の頂点でもって保持されることから、半導体チップは「片浮き」することなく、容易にピックアップすることができる。
【0015】
上記低粘着力部は、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い部位である。具体的には、上記低粘着力部の粘着力と該低粘着力部以外の周辺部(以下、単に「周辺部」ともいう。)の粘着力とを比較したときに、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力の差が0.5N/25mm以上であることが好ましい。より好ましい粘着力の差は1.0N/25mm以上である。
【0016】
上記低粘着力部は、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力の好ましい下限が0.01N/25mm、好ましい上限が0.5N/25mmである。上記低粘着力部の粘着力が0.01N/25mm未満であると、ダイシングテープ全体としての粘着力が低くなって、ダイシング時に半導体ウエハを充分に固定できないことがあり、0.5N/25mmを超えると、光を照射しても上記の空気溜まりが生成しにくくなり、本発明の効果が得られないことがある。上記低粘着力部の粘着力のより好ましい下限は0.05N/25mm、より好ましい上限は0.3N/25mmである。
なお、上記低粘着力部の粘着力は、低粘着力部を構成する材料により全面が形成された基材を用意し、これに対して上記測定を行うことにより求められる値を意味する。
【0017】
上記周辺部は、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力の好ましい下限が1.0N/25mmである。上記周辺部の粘着力が1.0N/25mm未満であると、ダイシングテープ全体としての粘着力が低くなって、ダイシング時に半導体ウエハを充分に固定できないことがある。上記周辺部の粘着力のより好ましい下限は1.5N/25mmである。
なお、上記周辺部の粘着力は、周辺部を構成する材料により全面が形成された基材を用意し、これに対して上記測定を行うことにより求められる値を意味する。
【0018】
上記低粘着力部は、上記基材の表面にドット状に配置されている。
上述した本発明のダイシングテープの剥離の機構により半導体チップの「片浮き」を防止するためには、上記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内であることが重要である。図1は、後述する実験例の結果である表1のデータをもとに作成したものである。
なお、上記低粘着力部のドットの間隔とは、個々の低粘着部の重心同士の間隔を意味する。
【0019】
半導体チップを、安定したピックアップ性でかつタクトタイムを短縮してピックアップしようとすると、剥離後の個々の半導体チップが、いくつの凸部の頂点でもって保持されるかが重要である。即ち、個々の半導体チップ1個当たり、4〜400個程度の凸部でもって保持されることが好ましい。
上記低粘着力部の配置密度が低すぎると、剥離後の個々の半導体チップを保持する凸部の形成が少なすぎ、本発明の効果が得られない。上記低粘着力部の配置密度が高すぎると、低粘着部と周辺部との相違が不明確となり、凸部が形成されなかったり、逆に周辺部を含む広い領域において基材と粘着剤層とが剥離してしまったりすることがある。
一方、上記低粘着力部が適当な密度で配置されていても、配置に偏りがあったりランダムであったりすると、「片浮き」なく剥離できた半導体チップと、「片浮き」して剥離した半導体チップとが混在することになる。
xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内とすることにより、メモリーやロジック等の現在半導体チップとして生産されている、主たるチップの面積である4〜600mmの範囲において、個々の半導体チップ1個当たりが4〜400個程度の凸部でもって保持されるようにすることができ、安定したピックアップ性でかつタクトタイムを短縮してピックアップすることができる。
【0020】
上記低粘着力部の形状は特に限定されず、真円、楕円等の円形状や、正三角形、直角三角形、二等辺三角形、正方形、長方形、平行四辺形等の多角形状等が挙げられる。
【0021】
上記基材は、粘着剤層と接する側の表面に、上記低粘着力部に加えて、更に、面積が0.0003〜0.04mmのドット状の、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部(以下、「微小低粘着部」ともいう。)を有することが好ましい。このような微小低粘着部を有することにより、より短いタクトタイム(例えば、1.0秒未満)でも安定して半導体チップをピックアップすることができる。
なお、本明細書において微小低粘着部とは、上記低粘着力部と同様に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い部位を意味し、具体的には、上記微小低粘着部の粘着力と周辺部(上記低粘着力部以外の周辺部)の粘着力とを比較したときに、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力の差が好ましくは0.5N/25mm以上、より好ましくは1.0N/25mm以上である部位を意味する。また、上記微小低粘着部は、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力の好ましい下限が0.01N/25mm、好ましい上限が0.5N/25mmである。
【0022】
上述のように本発明のダイシングテープでは、光を照射することにより粘着剤層から発生した気体により、基材と粘着剤層との界面には低粘着力部に該当する部位に空気溜まりが形成され、この空気溜まりの存在によって粘着剤層が波打った形状に変化する。ここで、光を照射してから粘着剤層が波打った形状に変化するまでには、若干のタイムラグがある。従って、タクトタイムを極端に短縮した場合には、粘着剤層の形状の変化が間に合わないことがある。しかしながら、上記微小低粘着部を有する場合には、このようなタクトタイムを極端に短縮した場合にも対応可能である。即ち、形成される空気溜りは小さいものの、その出足は速い微小低粘着力部と、出足は遅いものの、大きな空気溜りが形成される低粘着力部とを組み合わせることにより、タクトタイムの極端な短縮にも対応して安定した剥離ができるものと考えられる。
【0023】
上記微小低粘着部を有する場合の本発明のダイシングテープの剥離の機構を、図4を用いて説明する。
図4は、半導体チップ2に貼着された本発明のダイシングテープ1に、光を照射したときの模式図である。図4(a)において、半導体チップ2はダイシングテープ1に接着されている。ここでダイシングテープ1は、基材12の片面に気体発生剤を含有する粘着剤層11が形成されている。そして、粘着剤層11と接する側の基材12の表面は、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低いドット状の低粘着力部13と、微小低粘着部14とを有する。
このような状態でダイシングテープ1に光を照射すると、粘着剤層11に含有される気体発生剤から気体が発生する。発生した気体は粘着剤層11の外に出て、粘着剤層11と半導体チップ2との間の接着界面に放出され、放出された気体の圧力により粘着剤層11と半導体チップ2との間の接着界面が剥がされて、半導体チップ2が剥離される。一方、基材12の表面には低粘着力部13と微小低粘着部14とがドット状に設けられており、この部分はその周りに比べて粘着剤層11に対する粘着力が劣る。そのため、粘着剤層11から発生した気体は、低粘着力部13と粘着剤層11との界面、及び、微小低粘着力部14と粘着剤層11との界面にも放出され、低粘着力部13と粘着剤層11との一部を剥離させる。ここで、まず基材12と粘着剤層11との界面に、微小低粘着力部14に該当する部位に微小空気溜まり4が形成される。この時点で形成される粘着剤層11の波打ち形状は大きなものではないが、一定の「片浮き」発生防止効果は発揮する(図4(b))。次いで、基材12と粘着剤層11との界面の低粘着力部13に該当する部位に空気溜まり3が形成される。この空気溜まり3の存在によって粘着剤層12が波打った形状に変化する(図4(c))。空気溜まり3は充分に大きいものであることから、この時点での波打ち形状は大きなものとなり、充分な「片浮き」発生防止効果を発揮する。
【0024】
上記微小低粘着力部のドットの面積の好ましい下限は0.0003mm、上限は0.04mmである。上記微小低粘着力部のドットの面積が0.0003mm未満であると、光を照射することにより形成される空気溜りが小さすぎて、粘着剤層形状がほとんど変化せず、半導体チップの「方浮き」の発生を防止する効果が全く得られないことがある。上記小低粘着力部のドットの面積が0.04mmを超えると、空気溜りの形成の出足が遅く、タクトタイムの極端な短縮には対応できず、半導体チップの「方浮き」の発生を防止する効果が得られないことがある。上記微小低粘着力部のドットの面積のより好ましい下限は0.001mm、より好ましい上限は0.03mmであり、更に好ましい下限は0.005mm、更に好ましい上限は0.02mmである。
【0025】
上記微小低粘着力部のドットの1cmあたりの個数の好ましい下限は25個、好ましい上限は100個である。上記微小低粘着力部のドットの1cmあたりの個数が25個未満であると、出足の速い波打ち形状の形成が少なく、タクトタイムの極端な短縮に対応できないことがあり、100個を超えると、波打ち形状部分の密着面積が大きすぎて剥離ができなくなったり、糊残りが発生しやすくなったりすることがある。
【0026】
上記表面に低粘着力部や微小低粘着力部をドット状に有する基材を製造する方法は特に限定されず、例えば、基材の表面に所定の面積、間隔にて粘着力を低下させる離型処理を施す方法や、基材の表面に所定の面積、間隔を除いて粘着力を向上させる粘着力向上処理を施す方法等が挙げられる。
【0027】
上記離型処理は特に限定されず、例えば、シリコン系、長鎖アルキル系、フッ素系等の離型剤をスクリーン印刷やグラビア印刷等により処理する方法が挙げられる。
上記長鎖アルキル系離型剤は、例えば、一方社油脂工業社製のピーロイル1050、ピーロイル406等が挙げられる。
上記シリコン系離型剤は、例えば、信越化学工業社製のKM722T、KF412SP等が挙げられる。
上記フッ素系離型剤は、例えば、スリーエム社製のEGC−1720、日進化成社製のダイフリー等が挙げられる。
【0028】
上記粘着力向上処理としては、例えば、上記低粘着力部に対応する部位を遮蔽したうえでコロナ処理、プラズマ処理を施す方法や、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ゴム系等の合成樹脂からなるアンカー剤をスクリーン印刷やグラビア印刷等により処理する方法等が挙げられる。
【0029】
上記基材の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は30μm、好ましい上限は200μmである。30μm未満であると、上記ダイシングテープの自立性が不足しハンドリングが困難になることがあり、200μmを超えると、上記ダイシングテープを剥離する際に不具合が生じることがある。
【0030】
上記粘着剤層は、光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する。このような粘着剤層を有することにより、ダイシング工程において半導体ウエハが位置ずれ等を起こさない程度に充分な粘着力を有する場合であっても、剥離時に紫外線等の光を照射すれば、気体発生剤から発生した気体が粘着剤層と半導体ウエハとの界面に放出され、接着面を剥がし接着力を低下させるため、容易に半導体ウエハからダイシングテープを剥離することができ、半導体チップを損傷することのないニードルレスピックアップ法によるピックアップを実現することができる。
【0031】
上記光を照射することにより気体を発生する気体発生剤としては特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、アジド化合物が好適に用いられる。
上記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルプロピル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−プロピル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−エチル−2
−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミジン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。
これらのアゾ化合物は、光、とりわけ波長365nm程度の紫外線を照射することにより窒素ガスを発生する。
【0032】
上記アゾ化合物は、10時間半減期温度が80℃以上であることが好ましい。10時間半減期温度が80℃未満であると、本発明のダイシングテープは、キャストにより粘着剤層を形成して乾燥する際に発泡を生じてしまったり、経時的に分解反応を生じて分解残渣がブリードアウトしてしまったり、経時的に気体を発生して貼り合わせた被着体との界面に浮きを生じさせてしまったりすることがある。10時間半減期温度が80℃以上であれば、耐熱性に優れていることから、高温での使用及び安定した貯蔵が可能である。
【0033】
10時間半減期温度が80℃以上であるアゾ化合物としては、下記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物等が挙げられる。下記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物は、耐熱性に優れていることに加え、後述するアクリル酸アルキルエステルポリマー等の粘着性を有するポリマーへの溶解性にも優れ、粘着剤層中に溶解させることができる。
【0034】
【化1】

【0035】
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ同一又は異なる低級アルキル基を表し、Rは、炭素数2以上の飽和アルキル基を表す。
式(1)中、R及びRは、それぞれ炭素数が3以下の低級アルキル基を表し、Rは、炭素数2以上の飽和アルキル基を表す。なお、RとRは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0036】
上記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−
メチルプロピル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−プロピル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−エチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]等が挙げられる。なかでも、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)及び2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]は、溶剤への溶解性に特に優れていることから好適に用いられる。
【0037】
上記アジド化合物としては、例えば、3−アジドメチル−3−メチルオキセタン、テレフタルアジド、p−tert−ブチルベンズアジドや、3−アジドメチル−3−メチルオキセタンを開環重合することにより得られるグリシジルアジドポリマー等のアジド基を有するポリマー等が挙げられる。これらのアジド化合物は、光、とりわけ波長365nm程度の紫外線を照射することにより窒素ガスを発生する。
【0038】
これらの気体発生剤のうち、上記アジド化合物は衝撃を与えることによっても容易に分解して窒素ガスを放出することから、取り扱いが困難であるという問題がある。更に、上記アジド化合物は、いったん分解が始まると連鎖反応を起こして爆発的に窒素ガスを放出しその制御ができないことから、爆発的に発生した窒素ガスによって被着体が損傷することがあるという問題もある。このような問題から上記アジド化合物の使用量は限定されるが、限定された使用量では充分な効果が得られないことがある。
【0039】
一方、上記アゾ化合物は、アジド化合物とは異なり衝撃によっては気体を発生しないことから取り扱いが極めて容易である。また、連鎖反応を起こして爆発的に気体を発生することもないため被着体を損傷することもなく、光の照射を中断すれば気体の発生も中断できることから、用途に合わせた接着性の制御が可能であるという利点もある。従って、上記気体発生剤としては、アゾ化合物を用いることがより好ましい。
【0040】
上記気体発生剤は、上記粘着剤層中に溶解していることが好ましい。上記気体発生剤が粘着剤層中に溶解していることにより、光を照射したときに気体発生剤から発生した気体が効率よく粘着剤層の外に放出される。上記粘着剤層中に気体発生剤が粒子として存在すると、局所的に発生した気体が粘着剤層を発泡させてしまい、気体が粘着剤層外に放出されにくくなることがある。更に、光を照射したときに粒子の界面で光が散乱して気体発生効率が低くなってしまったり、粘着剤層の表面平滑性が悪くなったりすることがある。なお、上記気体発生剤が粘着剤層中に溶解していることは、電子顕微鏡により粘着剤層を観察したときに気体発生剤の粒子が見あたらないことにより確認することができる。
【0041】
上記気体発生剤を粘着剤層中に溶解させるためには、上記粘着剤層を構成する粘着剤に溶解する気体発生剤を選択すればよい。なお、粘着剤に溶解しない気体発生剤を選択する場合には、例えば、分散機を用いたり、分散剤を併用したりすることにより粘着剤層中に気体発生剤をできるかぎり微分散させることが好ましい。粘着剤層中に気体発生剤を微分散させるためには、気体発生剤は、微小な粒子であることが好ましく、更に、これらの微粒子は、例えば、分散機や混練装置等を用いて必要に応じてより細かい微粒子とすることが好ましい。即ち、電子顕微鏡により上記粘着剤層を観察したときに気体発生剤を確認することができない状態まで分散させることがより好ましい。
【0042】
本発明のダイシングテープでは、上記気体発生剤から発生した気体は粘着剤層の外へ放出されることが好ましい。これにより、半導体チップに貼付したダイシングテープの粘着剤層に光を照射すると気体発生剤から発生した気体が半導体チップから接着面を剥がし接着力を低下させるため、容易に剥離することができる。この際、気体発生剤から発生した気体の大部分は粘着剤層の外へ放出されることが好ましい。上記気体発生剤から発生した気体の大部分が粘着剤層の外へ放出されないと、粘着剤層が気体発生剤から発生した気体により全体的に発泡してしまい、接着力を低下させる効果を充分に得ることができず、半導体チップ上に糊残りを生じさせてしまうことがある。なお、半導体チップ上に糊残りを生じさせない程度であれば、気体発生剤から発生した気体の一部が粘着剤層中に溶け込んでいたり、気泡として粘着剤層中に存在していたりしてもかまわない。
【0043】
上記粘着剤層中の上記気体発生剤の配合量は、粘着剤100重量部に対して好ましい下限が3重量部、好ましい上限が40重量部である。上記気体発生剤の配合量が3重量部未満であると、半導体チップを剥離させたり空気溜まりを形成させるだけの気体が発生しなかったりすることがあり、40重量部を超えると、粘着剤への相溶性が悪化して、製品安定性に欠けることがある。上記気体発生剤の配合量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0044】
上記粘着剤層を構成する粘着剤は、刺激により架橋して弾性率が上昇するものであることが好ましい。このような粘着剤を用いれば、剥離時に刺激を与えて弾性率を上昇させることにより、粘着力が低下して剥離をより容易にすることができる。更に、剥離の際に気体を発生させるのに先立って架橋させれば粘着剤層全体の弾性率が上昇し、弾性率が上昇した硬い硬化物中で気体発生剤から気体を発生させると、発生した気体の大半は外部に放出され、放出された気体は、半導体チップから粘着剤層の接着面の少なくとも一部を剥がし接着力を低下させる。
上記粘着剤を架橋させる刺激は、上記気体発生剤から気体を発生させる刺激と同一であってもよいし、異なっていてもよい。刺激が異なる場合には、剥離の際、気体発生剤から気体を発生させる刺激を与える前に架橋成分を架橋させる刺激を与える。
【0045】
このような粘着剤としては、例えば、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有してなるアクリル酸アルキルエステル系及び/又はメタクリル酸アルキルエステル系の重合性ポリマーを主成分とし、必要に応じて光重合開始剤を含んでなる光硬化型粘着剤や、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有してなるアクリル酸アルキルエステル系及び/又はメタクリル酸アルキルエステル系の重合性ポリマーを主成分とし、熱重合開始剤を含んでなる熱硬化型粘着剤等からなるものが挙げられる。
【0046】
このような光硬化型粘着剤又は熱硬化型粘着剤等の後硬化型粘着剤からなる粘着剤層は、光の照射又は加熱により粘着剤層の全体が均一にかつ速やかに重合架橋して一体化するため、重合硬化による弾性率の上昇が著しくなり、粘着力が大きく低下する。また、弾性率の上昇した硬い硬化物中で気体発生剤から気体を発生させると、発生した気体の大半は外部に放出され、放出された気体は、半導体チップから粘着剤の接着面の少なくとも一部を剥がし接着力を低下させる。
【0047】
上記重合性ポリマーは、例えば、分子内に官能基を持った(メタ)アクリル系ポリマー(以下、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーという)をあらかじめ合成し、分子内に上記の官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、官能基含有不飽和化合物という)と反応させることにより得ることができる。
【0048】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、常温で粘着性を有するポリマーとして、一般の(メタ)アクリル系ポリマーの場合と同様に、アルキル基の炭素数が通常2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主モノマーとし、これと官能基含有モノマーと、更に必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを常法により共重合させることにより得られるものである。上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は通常20万〜200万程度である。
【0049】
上記官能基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーや、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマーや、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマーや、アクリル酸イソシアネートエチル、メタクリル酸イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有モノマーや、アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
上記共重合可能な他の改質用モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の一般の(メタ)アクリル系ポリマーに用いられている各種のモノマーが挙げられる。
【0050】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーに反応させる官能基含有不飽和化合物としては、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基に応じて上述した官能基含有モノマーと同様のものを使用できる。例えば、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基がカルボキシル基の場合はエポキシ基含有モノマーやイソシアネート基含有モノマーが用いられ、同官能基がヒドロキシル基の場合はイソシアネート基含有モノマーが用いられ、同官能基がエポキシ基の場合はカルボキシル基含有モノマーやアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが用いられ、同官能基がアミノ基の場合はエポキシ基含有モノマーが用いられる。
【0051】
上記光硬化型粘着剤又は熱硬化型粘着剤等の後硬化型粘着剤は、ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを含有してもよい。
上記多官能オリゴマー又はモノマーとしては、分子量が1万以下であるものが好ましく、より好ましくは加熱又は光の照射による粘着剤層の三次元網状化が効率よくなされるように、その分子量が5,000以下でかつ分子内のラジカル重合性の不飽和結合の数が2〜20個のものである。このようなより好ましい多官能オリゴマー又はモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。その他、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。これらの多官能オリゴマー又はモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
上記光重合開始剤としては、例えば、250〜800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられ、このような光重合開始剤としては、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物;ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記光重合開始剤を用いる場合には、酸素による上記後硬化型粘着剤の硬化阻害を防止するために、2phr以上配合することが好ましい。
【0053】
上記熱重合開始剤としては、熱により分解し、重合硬化を開始する活性ラジカルを発生するものが挙げられ、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパ
ーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。なかでも、熱分解温度が高いことから、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が好適である。これらの熱重合開始剤のうち市販されているものとしては特に限定されないが、例えば、パーブチルD、パーブチルH、パーブチルP、パーメンタH(以上いずれも日本油脂製)等が好適である。これら熱重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
上記後硬化型粘着剤には、以上の成分のほか、粘着剤としての凝集力の調節を図る目的で、所望によりイソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物等の一般の粘着剤に配合される各種の多官能性化合物を適宜配合してもよい。また、可塑剤、樹脂、界面活性剤、ワックス、微粒子充填剤等の公知の添加剤を加えることもできる。
【0055】
上記粘着剤は、帯電防止処理が施されていてもよい。上記ダイシングテープが静電気等で帯電すると、後述するように自己剥離した半導体チップをピックアップすることができなくなったり、空気中に浮遊する微粒子等を引き寄せ半導体チップの製造に悪影響を与えたりすることがある。上記粘着剤に帯電防止処理を施す方法としては特に限定されないが、例えば、イオン型の界面活性剤や金属微粒子等を粘着剤中に配合する方法等が挙げられる。なかでも、金属微粒子や高分子型のイオン型界面活性剤を配合することが、粘着力に悪影響を及ぼさないことから好ましい。
【0056】
光照射前の上記粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力の好ましい下限は0.5N/25mm、好ましい上限は10N/25mmである。0.5N/25mm未満であると、粘着力が不充分でダイシング時に半導体ウエハが動いてしまうことがあり、10N/25mmを超えると、光を照射してもピックアップ可能な程度にまで粘着力が低減しないことがある。
【0057】
光照射前の上記粘着剤層の23℃における剪断弾性率の好ましい下限は5×10Paである。5×10Pa未満であると、半導体ウエハを正確にダイシングできないことがある。
【0058】
上記粘着剤層の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は3μm、好ましい上限は50μmである。3μm未満であると、接着力が不足しダイシング時にチップとびが発生することがあり、50μmを超えると、接着力が高すぎるために剥離性が低下し、良好に剥離することができないことがある。
【0059】
本発明のダイシングテープを製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記基材の低粘着力部を有する側の表面に、上記気体発生剤等を含有する粘着剤等をドクターナイフやスピンコーター等を用いて塗工する方法等が挙げられる。
【0060】
本発明のダイシングテープを用いれば、ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮した半導体チップの製造を行うことができる。
基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープが貼付された半導体ウエハをダイシングして、個々の半導体チップに分割するダイシング工程と、上記ダイシングテープの粘着剤層に紫外線を照射して、ダイシングテープから半導体チップを剥離する剥離工程と、上記半導体チップをニードルレスピックアップ法により取り上げるピックアップ工程とを有する半導体チップの製造方法であって、上記ダイシングテープは、基材の粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有し、上記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内にある半導体チップの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0061】
本発明の半導体チップの製造方法は、本発明のダイシングテープが貼付された半導体ウエハをダイシングして、個々の半導体チップに分割するダイシング工程を有する。
上記ダイシングの方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の砥石等を用いて切断分離する方法等を用いることができる。
【0062】
上記半導体ウエハとしては、従来公知の方法により調製されたものを用いることができ、例えば、半導体単結晶等をスライスして得たウエハの表面にフォトレジストを利用して回路パターンを形成した後、所定の厚さにまで研削したもの等が挙げられる。
上記半導体ウエハの厚さとしては特に限定されず、従来の100〜300μm程度のものから、50μm以下のものでも用いることができる。本発明の半導体チップの製造方法は、特に厚さが50μm以下の半導体ウエハから半導体チップを高い生産性で製造するのに適している。
【0063】
本発明の半導体チップの製造方法は、上記ダイシングテープの粘着剤層に紫外線を照射して、ダイシングテープから半導体チップを剥離する剥離工程を有する。
上述のように本発明のダイシングテープを用いることにより、「片浮き」を生じることなく半導体チップが剥離される。
【0064】
上記紫外線照射は、スポット照射でもよく、全面照射でもよい。
紫外線の照射強度の好ましい下限は500mW/cm、好ましい上限は10000mW/cmである。紫外線の照射強度が500mW/cm未満であると、照射時間を延長してもニードルレスピックアップ法による確実な半導体チップの取り上げが実現できないことがあり、10000mW/cmを超えると、照射装置等にようする費用が著しく増大し、現実的ではない。コスト等を勘案すれば、実際の生産現場においては、5000mW/cm程度が事実上の上限であると考えられる。
紫外線の照射時間は、照射強度によって異なるが、好ましい下限は0.1秒、好ましい上限は2.5秒である。
【0065】
本発明の半導体チップの製造方法は、上記半導体チップをニードルレスピックアップ法により取り上げるピックアップ工程を有する。
本明細書においてニードルレスピックアップ法とは、ニードルを用いて半導体チップを突き上げてピックアップを行う方法以外の方法を意味し、例えば、吸引パッド等の吸引手段や水等の液体を付着させた吸着治具による吸着手段、緩衝機構を有したピンセット等によりチップを挟み込んで取り上げる手段等が挙げられる。
【発明の効果】
【0066】
本発明によれば、ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮することができるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを用いた半導体チップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】低粘着力部のドットの面積x(mm)、ドットの間隔y(mm)として、xとyとを変化させた場合の半導体チップのピックアップ性の評価結果を表すグラフである。
【図2】従来のダイシングテープを用いたときにピックアップミスが発生する原因を説明する模式図である。
【図3】本発明のダイシングテープの剥離の機構を説明する模式図である。
【図4】微小低粘着力部を有する本発明のダイシングテープの剥離の機構を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0069】
(実験例1)
(1)基材の調製
片面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、離型剤として長鎖アルキル系ピーロイル1050(一方社油脂社製)を用い、グラビア印刷によりドット状に塗布後、乾燥することにより低粘着力部を形成した。このとき、グラビア版形状を制御することにより、ドットの面積xとドットの間隔yとを、表1に示したように調整した。
【0070】
(2)ダイシングテープの製造
下記の化合物を酢酸エチルに溶解させ、紫外線を照射して重合を行い、重量平均分子量70万のアクリル共重合体を得た。
得られたアクリル共重合体を含む酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、2−イソシアナトエチルメタクリレート3.5重量部を加えて反応させ、更に、反応後の酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、U324A(新中村化学社製)40重量部、光重合開始剤(イルガキュア651)5重量部、ポリイソシアネート0.5重量部を混合し粘着剤の酢酸エチル溶液を調製した。
ブチルアクリレート 79重量部
エチルアクリレート 15重量部
アクリル酸 1重量部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 5重量部
光重合開始剤 0.2重量部
(イルガキュア651、50%酢酸エチル溶液)
ラウリルメルカプタン 0.01重量部
得られた粘着剤の酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)30重量部、及び、2,4−ジエチルチオキサントン3.6重量部を混合して、気体発生剤を含有する粘着剤の酢酸エチル溶液を調製した。
【0071】
得られた気体発生剤を含有する粘着剤の酢酸エチル溶液を、得られた基材の低粘着力部を形成された側の面上に乾燥皮膜の厚さが約30μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して溶剤を揮発させ塗工溶液を乾燥させた。乾燥後の粘着剤層は乾燥状態で粘着性を示した。その後、40℃、3日間静置して養生を行い、ダイシングテープを得た。
【0072】
(3)ピックアップ性の評価
常温常圧のもと、得られたダイシングテープに厚さ50μmのシリコンウエハを貼付した。次いで、シリコンウエハを5.0mm×5.0mmにダイシングして半導体チップを得た。
得られたダイシングテープが貼付された半導体チップを半導体チップが上面になるように置き、その1つに吸引ノズルを接触させた状態で、ダイシングテープ側から強度2000mw/cmの紫外線を1.5秒間照射した。
この紫外線照射により、半導体チップはダイシングテープから剥離した。次いで、剥離した半導体チップを吸引ノズルで吸引してピックアップした。
【0073】
以上の操作を、10個のダイシングテープが貼付された半導体チップに対して半導体チップ1個当たり約1.0秒間の速度で連続して行い、ピックアップ時に破損した半導体チップの割合を調べた。その結果、全ての半導体チップを破損することなくピックアップできた場合を「○」、ピックアップ時に1個又は2個の半導体チップが破損した場合を「△」、ピックアップ時に3個以上の半導体チップが破損した場合を「×」と評価した。
評価結果を表1に示した。
【0074】
(実験例2)
片面にコロナ処理を施した厚さ70μmの透明なポリオレフィン(PO)フィルムの一方の面に、易接着剤としてウレタンアクリレート系アンカー剤(ユニチカ社製、UVSS24)を用い、ドット状部分だけ塗布されないように(低粘着力部)グラビア印刷し、乾燥することにより低粘着力部を形成した。このとき、グラビア版形状を制御することにより、ドットの面積xとドットの間隔yとを、表1に示したように調整した基材を得た。
得られた基材を用いた以外は実験例1と同様にしてダイシングテープを製造し、ピックアップ性の評価を行ったところ、同様の結果が得られた。
【0075】
(実験例3)
厚さ50μmの透明なポリオレフィン(PO)フィルムの一方の面に、易接着剤としてウレタンアクリレート系アンカー剤(ユニチカ社製、UVSS24)を用い、ドット状部分だけ塗布されないように(低粘着力部)グラビア印刷し、乾燥することにより低粘着力部を形成した。このとき、グラビア版形状を制御することにより、ドットの面積xとドットの間隔yとを、表1に示したように調整した基材を得た。
得られた基材を用いた以外は実験例1と同様にしてダイシングテープを製造し、ピックアップ性の評価を行ったところ、同様の結果が得られた。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、ピックアップ安定性に優れ、かつ、タクトタイムを短縮することができるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを用いた半導体チップの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 ダイシングテープ
4 微小空気溜まり
11 光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層
12 基材
13 低粘着力部
14 微小低粘着部
2 半導体チップ
3 空気溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープであって、
前記基材は、粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有し、前記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内である
ことを特徴とするダイシングテープ。
【請求項2】
低粘着力部は、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)品番405)を貼付し、引張速度300mm/minの条件で180°ピール試験を行って得られる粘着力が0.01〜0.5N/25mmであることを特徴とする請求項1記載のダイシングテープ。
【請求項3】
基材は、粘着剤層と接する側の表面に、更に、面積が0.0003〜0.04mmのドット状の、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部を有することを特徴とする請求項1又は2記載のダイシングテープ。
【請求項4】
基材の片面に光を照射することにより気体を発生する気体発生剤を含有する粘着剤層を有するダイシングテープが貼付された半導体ウエハをダイシングして、個々の半導体チップに分割するダイシング工程と、
前記ダイシングテープの粘着剤層に紫外線を照射して、ダイシングテープから半導体チップを剥離する剥離工程と、
前記半導体チップをニードルレスピックアップ法により取り上げるピックアップ工程とを有する半導体チップの製造方法であって、
前記ダイシングテープは、基材の粘着剤層と接する側の表面に、周辺に比べて粘着剤層に対する粘着力の低い低粘着力部をドット状に有し、前記低粘着力部のドットの面積をx(mm)、低粘着力部のドットの間隔をy(mm)として両対数グラフにプロットしたときに、xとyとが図1の破線で囲まれた範囲内にある
ことを特徴とする半導体チップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−151459(P2012−151459A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280188(P2011−280188)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】