説明

ダイボンディングペーストおよびそれを用いた半導体装置

【課題】熱時接着強度が高く、かつ、硬化物が応力緩和性に優れ、IC等の大型チップと特に銅フレームとの接着に適した、IC組立工程でのチップクラックやチップの反りによる特性不良を起こさず、低温・速硬化性で可使時間が長く、硬化物においてボイドの発生のないダイボンディングペーストおよび信頼性の高い半導体装置を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂、特定の構造を有するフェノール化合物、アルミニウムキレート化合物、および無機フィラーを必須成分として含有してなるダイボンディングペーストおよびこれを用いてなる半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIC、LSI等の半導体素子(以下、チップと称する場合もある)を金属フレーム等に接合するために用いられる熱時接着強度に優れ、かつ、応力緩和性に優れた硬化物を与えるダイボンディングペーストおよびそれを用いた信頼性の高い半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス業界の最近の著しい発展により、半導体素子はトランジスター、IC、LSI、超LSIと進化してきており、これら半導体素子における回路の集積度が急激に増大するとともに大量生産が可能になり、これらを用いた半導体製品の普及に伴って、大量生産における作業性の向上並びにコストダウンが重要な課題となってきた。従来は半導体素子を金属フレームなどの導体にAu-Si共晶法により接合し、ついではハーメチックシールによって封止して半導体製品とするのが普通であった。しかし、大量生産時の作業性、コストの面より、樹脂封止法が開発され、現在では一般化されている。これに伴い、マウント工程におけるAu-Si共晶法の改良法としてハンダ法や樹脂ペースト、すなわち、マウント用樹脂による方法が取り上げられるようになった。
【0003】
しかし、ハンダ法では信頼性が低いこと、素子の電極の汚染を起こしやすいこと等が欠点とされ、高熱伝導性を要するパワートランジスター、パワーICの素子に使用が限られている。これに対してマウント用樹脂による方法はハンダ法に比較して作業性や信頼性においても優れており、マウント用樹脂の需要が急激に増大している。
【0004】
さらに近年、IC等の集積度の高密度化により、チップが大型化してきており、一方、従来用いられてきたリードフレームである42合金フレームが高価なため、コストダウンの目的で銅フレームが用いられるようになってきた。ここでIC等のチップの大きさが約4〜5mm角より大きくなると、IC等の組立工程での加熱により、マウント工程においてAu-Si共晶法を用いると、チップの熱膨張率と銅フレームの熱膨張率との差からチップのクラックや反りによる特性不良が問題となってきている。
すなわち、これは、チップの材料であるシリコン等の熱膨張率が3×10-6/℃であるのに対し、42合金フレームでは8×10-6/℃であるが、銅フレームでは20×10-6/℃と大きくなるためである。したがって、マウント工程においてマウント用樹脂ペーストを用いる方法が考えられるが、従来のエポキシ樹脂系ペーストでは、主要な樹脂成分であるエポキシ樹脂が熱硬化性樹脂であり、三次元架橋するため硬化物の弾性率が高く、チップと銅フレームとの歪を吸収することができなかった。
【0005】
また、硬化後の架橋密度を小さくするようなエポキシ樹脂、たとえば、モノエポキシ化合物を多量含むペーストを使用すれば硬化物の弾性率を低くすることができるが、接着強度が低下するという問題があった。また、エポキシ樹脂は一般的に粘度が高く、これに無機フィラーを配合すると粘度がさらに高くなり、ディスペンス時の糸ひきが発生して作業性が悪くなるという問題があった。作業性を改良するために多量の溶剤を添加するとボイドが発生するという問題が新たに生じる。それらを改善するためのダイボンディングペーストの提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に記載のダイボンディングペーストは作業性および接着性は良好であるが、硬化後の反りおよび接続信頼性向上の観点から、硬化温度の低減化と諸特性のさらなる改善が望まれている。また、低温・速硬化性のダイボンディングペーストに関してはカチオン重合性硬化剤系の提案がなされているが、十分に要求を満たしていない(たとえば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−106767号公報
【特許文献2】特開2004−87268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、IC等の大型チップと銅フレーム等の組み合わせにおいても熱時接着強度を低下させることなく、チップクラックや反りによるIC等の特性不良が起きない、すなわち、応力緩和性に優れた硬化物を与え、低温・速硬化性で、かつ、可使時間(以下、ポットライフと称することもある)が長く、ボイドの発生のないダイボンディングペーストおよびそれを用いた信頼性の高い半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するためにエポキシ樹脂を主要樹脂成分とするダイボンディングペーストを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特殊な化学構造を有するフェノール化合物を硬化剤として用いることにより、優れた特性を有するダイボンディングペーストおよびそれを用いた信頼性の高い半導体装置が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)(A)エポキシ樹脂、(B)一般式(I)
【化2】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立に−Hまたは−CH3を示す。Xは−CH2−、−C(CH32−、−CH(CH3)−、−C(CF32−、−C O−、−SO2−または−O−を示す。mおよびnはそれぞれ0から4の整数であり、どちらか一方は必ず1以上である。]
で示されるフェノール化合物、(C)アルミニウムキレート化合物、および(D)無機フィラーを必須成分として含有し、(A)成分100質量部に対して(B)成分を1〜200質量部、(C)成分を0.1〜40質量部、および、(D)成分を100〜10000質量部の割合で含むことを特徴とするダイボンディングペースト、
(2)さらに、(E)(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を、ペースト硬化物量に基づき0.01〜2.0質量%の割合で含む上記(1)に記載のダイボンディングペースト、
(3)さらに、(F)アルコキシ基を有するシラン化合物をペースト硬化物量に基づき0.01〜30質量%の割合で含む上記(1)又は(2)に記載のダイボンディングペースト、
(4)無機フィラーが銀粉末である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のダイボンディングペースト、
(5)さらに反応性希釈剤を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載のダイボンディングペーストおよび
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のダイボンディングペーストを用いてなる半導体装置
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイボンディングペーストは熱時接着強度を低下させることなく、作業性に優れ、かつ、低温・速硬化性を有し、応力緩和性に優れた硬化物を与える。また、可使時間が長く、硬化物の接着強度が良好でチップやフレームとの間で界面剥離を生じることがない。このダイボンディングペーストを用いることにより極めて信頼性の高い半導体装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のダイボンディングペーストにおいて、(A)成分であるエポキシ樹脂は1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、常温(23℃)で固形状、液状のいずれでもよく、いかなるエポキシ樹脂でも使用することができる。例えばビスフェノールAグリシジルエーテルのようなビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFグリシジルエーテルのようなビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、特殊多官能型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、硬化物の架橋密度、物性などの面から、好ましくは100〜1000、より好ましくは150〜250である。
【0013】
さらに、本発明においては、前記(A)成分のエポキシ樹脂と共に、応力の緩和や密着性付与などの目的で、効果を損なわない範囲において、他の樹脂を併用することができる。他の樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
他の樹脂の配合量は(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して通常0〜50質量部の範囲である。
【0014】
本発明のダイボンディングペーストにおいて、硬化剤として用いられる(B)成分のフェノール化合物は下記一般式(I)で表される。
【化3】

上記一般式(I)において、R1およびR2はそれぞれ独立に−Hまたは−CH3を示す。Xは−CH2−、−C(CH32−、−CH(CH3)−、−C(CF32−、−C O−、−SO2−、または−O−を示す。mおよびnはそれぞれ0から4の整数であり、どちらか一方は必ず1以上である。
【0015】
当該化合物としては、たとえば、2,2´-ジアリルビスフェノールF、2,2´-ジアリル-6,6´-ジメチルビスフェノールF、2,2´-ジアリルビスフェノールA、2,2´-ジアリル-6,6´-ジメチルビスフェノールA、2,2´-ジアリルビスフェノールAD、2,2´-ジアリル-6,6´-ジアリルビスフェノールADなどが挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B)成分であるフェノール化合物の配合部数は(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して1〜200質量部であり、好ましくは、50〜150質量部である。1質量部以上であれば、期待する効果を発現することができ、200質量部以下であれば硬化物中にフェノール性の水酸基の残存量が少なく良好な接着強度、耐湿性等が得られる。(A)成分と(B)成分の配合比率は、化学量論的には(A)成分のエポキシ樹脂中のエポキシ基1モルあたり(B)成分中の水酸基が0.5〜1.5モルになるように調整するのが好ましい。
【0016】
本発明のダイボンディングペーストにおいて、(C)成分のアルミニウムキレート化合物はエポキシ樹脂とフェノール化合物との反応を促進するための触媒として用いられる。具体的には、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテートのようなアルミニウムアセテート錯体、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩などが挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。(C)成分の配合部数は(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜40質量部であり、好ましくは、5〜30質量部である。1質量部以上であれば硬化促進効果が発現され、40質量部以下であれば十分なポットライフを有し、また、良好な接着強度、耐湿性等が得られる。
【0017】
本発明のダイボンディングペーストにおける(D)成分の無機フィラーとしては、銀粉末や銅粉末等の金属粉末、アルミナ粉末およびシリカフィラー等がある。銀粉末等の金属粉末はダイボンディングペースト硬化物に導電性を付与するために用いられるものであり、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオン等のイオン性不純物の含有量は20ppm以下であることが好ましい。金属粉末等の形状としては、鱗片状、フレーク状、球状等いずれでもかまわない。金属粉末の粒径は要求されるペーストの粘度によって異なるが、平均粒径は通常1〜15μm、好ましくは1〜10μm、許容される最大粒径は50μm程度である。平均粒径が1μm以上であれば、ペーストは適度な粘度を有し、15μm以下であればペーストを塗布する際および硬化時において、(A)成分のエポキシ樹脂のブリードが抑制される。また、金属粉末は比較的粗いものと細かいものを混合して用いることもでき、形状についても上記各種のものを適宜混合して用いてもよい。
シリカフィラーの平均粒径は通常1〜25μm、好ましくは1〜10μm、許容される最大粒径は50μm程度である。平均粒径が1μm以上であれば、ペーストは適度な粘度を有し、25μm以下であればペーストを塗布する際および硬化時において(A)成分のエポキシ樹脂のブリードが抑制される。
金属粉末およびシリカフィラーいずれにおいても、最大粒径が50μmを大幅に超えるとディスペンサーでペーストを塗布する際、ニードルの出口を閉塞するため長時間の連続使用ができない。また、シリカフィラーの場合も比較的粗いものと細かいものを混合して用いることもでき、形状についても上記金属粉末と同じような各種のものを適宜混合して用いてもよい。さらに、必要とされる特性を付与するために金属粉末やシリカフィラー以外の無機フィラーを混合してもよい。
【0018】
(D)成分の無機フィラーの配合部数は(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して100〜10000質量部であり、好ましくは、100〜5000質量部、より好ましくは、300〜1000質量部である。無機フィラーの配合部数が100質量部以上であれば、ペースト硬化物の膨張係数が大きくなりすぎることがなく、接続の信頼性が良好となる。
【0019】
本発明のダイボンディングペーストには、さらに(E)成分として、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を添加することができる。該シランカップリング剤は、良好な接着性を得る観点より、(メタ)アクリロイル基を含有するものであれば、特に限定されることはないが、例えば3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記シランカップリング剤の含有量は本発明のダイボンディングペーストの硬化物量に基づき0.01〜2.0質量%の範囲であることが好ましく、
0.1〜1.5質量%がより好ましい。0.01質量%以上とすることにより十分な接着性を発現し、2.0質量%以下とすることによりアウトガス、すなわち、シランカップリング剤に起因する気泡の発生を抑制することができるため十分な接着性を発現させることができる。
【0020】
本発明のダイボンディングペーストには、さらに(F)成分として、アルコキシ基を有するシラン化合物を添加することができる。加水分解性を有するシラン化合物(加水分解により、シラノール化合物になることが必要である)も添加可能であり、特に限定されることはない。たとえば、ジフェニルジメトキシシランおよびジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。これらのシラン化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのシラン化合物の含有量はペースト硬化物量に基づき0.01〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲であることがより好ましい。0.01質量%以上とすることにより(C)成分のアルミニウムキレート化合物を活性化させることができ、30質量%以下とすることによりペーストのポットライフを確保することができる。
【0021】
本発明のダイボンディングペーストにおいては、前記した各成分以外に、イミダゾール類などの硬化促進剤、ダイボンディングペーストの粘度を調整するための溶剤、開環重合性を有するエポキシ基含有反応性希釈剤、さらにはカップリング剤や酸無水物などの接着力向上剤、微細シリカ粉末、消泡剤、その他各種の添加剤を、ダイボンディングペーストの機能を妨げない範囲で配合することができる。
【0022】
前記溶剤としては、例えば酢酸セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
反応性希釈剤としては、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明のダイボンディングペーストは、前記した(A)成分のエポキシ樹脂、(B)成分の前記一般式(I)で表されるフェノール化合物、(C)成分のアルミニウムキレート化合物、(D)成分の無機フィラー及び必要に応じて用いられる(E)成分のシランカップリング剤、(F)成分のシラン化合物、硬化促進剤、溶剤、反応性希釈剤などを加えて十分に混合したのち、さらにディスパース、ニーダー、3本ロールミルなどにより混練処理を行い、次いで脱泡することにより、容易に調製することができる。
【0025】
このようにして得られた本発明のダイボンディングペーストは糸引き性や広がり性が少ないため作業性に優れ、IC等の大型チップと銅フレーム等の組み合わせにおいても熱時接着強度を低下させることなく、チップクラックや反りによるIC等の特性不良が起きない、すなわち、応力緩和性に優れた硬化物を与え、低温・速硬化性で、かつ、可使時間が長く、硬化物においてボイドの発生のないダイボンディングペーストを提供することができる。
【0026】
本発明のダイボンディングペーストを、例えば、シリンジに充填し、ディスペンサーを用いて基板上に塗布後、半導体素子を装着し、ペーストの硬化により半導体素子を基板上に接合することができる。さらにワイヤボンディングを行い、封止剤である樹脂を用いて封止することにより、樹脂封止型の本発明の半導体装置を製造することができる。なお、本発明のダイボンディングペーストを使用すれば、従来達成できなかった100℃以下という低温での硬化が可能となる。硬化は100℃程度で1〜2時間の範囲で加熱して行うことが好ましいが、それ以上の温度、時間で硬化を行っても接着性能等の特性を十分達成することができる。硬化物における残留応力を低減させ、チップの反りを少なくして優れた熱時接着強度を達成するという観点では低温での硬化が有効である。実用的には、生産性や熱時接着強度等を考慮して硬化温度と硬化時間を決定すべきである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で用いた成分は以下のとおりである。
(1)エポキシ樹脂A[アリル変性ビスフェノールA型グリシジルエーテル:「日本化薬(株)社」製RE−810NM、エポキシ当量220]
(2)エポキシ樹脂B[ビスフェノールFグリシジルエーテル:「ジャパンエポキシレジン(株)社」製YL983U、エポキシ当量170]
(3)フェノール化合物A[2,2´-ジアリルビスフェノールA:「エーピーアイコーポレーション社」製DABPA]
(4)フェノール化合物B[ビスフェノールA:「和光純薬(株)社」製]
(5)アルミニウムキレート化合物 [エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート:「川研ファインケミカル(株)社」製アルミキレートALCHまたはN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩:「和光純薬(株)社」製Q−1301]
(6)銀粉末(鱗片状、タップ密度4.2g/cm3、比表面積0.6m2/g)
(7)反応性希釈剤 [t−ブチルフェニルグリシジルエーテル:「日本化薬(株)社」製TGE-H]
(8)シラン化合物 [ジメトキシジフェニルシラン、「信越化学(株)社」製LS−5300]
(9)カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
(10)硬化剤 [ジシアンジアミド:「日本カーバイド(株)社」製]
(11)硬化促進剤[イミダゾール:「四国化成工業(株)社」製2E4MZ−CN]
(12)シリカ粉末 [平均粒径2μmの球状シリカ:「(株)アドマテックス社」製 SO−E5]
【0028】
実施例1〜7及び比較例1〜5
表1及び表2に示す種類と量の各成分を十分に混合し、さらに3本ロールを用いて25℃で混練してダイボンディングペーストを調製し、その特性(粘度、作業性)を、以下に示す方法で求めた。結果を表1及び表2に示す。
次に、前記で得られたダイボンディングペーストを用いて、半導体チップと基板とを接着硬化させ、硬化物特性(チップ接着強度、熱伝導率、吸水率)を、以下に示す方法で求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0029】
[ダイボンディングペーストの特性]
(1)粘度
E型粘度計(3°コーン、0.5rpmおよび5rpm)を用い、温度25℃の粘度を測定し、表1および表2には0.5rpm時の粘度のみ記載した(単位:Pa・s)。
(2)チキソトロピック性
前記粘度の0.5rpmと5rpmにおける数値の比をチキソトロピック性の指標とした。
(3)作業性
(イ)糸引き性
ディスペンス糸引き性を、下記の判定基準で評価した。
○:糸引きなし
△:若干糸引きあり
×:糸引き発生が多数あり
(ロ)拡がり性
表面を銀メッキ処理した銅フレーム上にペーストを0.1mm3塗布し、すぐにプレパラート(18mm角ガラス板)をペーストの上に被せ、196mNの荷重を10秒間かけた際の、ペーストの広がり面積の直径を測定し、下記の判定基準で評価した。なお、測定は25℃の室内で行った。
○:5mm以上
△:3〜5mm
×:3mm未満
(4)ポットライフ
温度25℃、24時間後の粘度を測定し、配合直後の粘度に対する上昇率をポットライフの指標とした。
【0030】
[ダイボンディングペースト硬化物の特性]
(1)ボイド
接着強度測定前のサンプルについて軟X線透過法によりボイドの観察を行った。
(2)チップ接着強度
シリコンチップ(4mm口)と基板(Cu/Agメッキリードフレーム)との接着強度を、温度:260℃、測定方法:ダイシェア強度の条件で測定した(単位:N)。
表中の接着強度の表示中、Si vs Cu/AgはシリコンチップとCu/Agメッキリードフレームとの接着強度、Si vs PPFはシリコンチップとPPFフレームとの接着強度、Au vs PPFはシリコンチップとシリコン裏面AuメッキチップとPPFフレームとのの接着強度を示す。
(3)剪断破壊モード
(2)のチップ接着強度評価試験で破壊したペースト硬化物の状況を目視にて確認した。
○:ペースト硬化物層凝集破壊
×:界面剥離
(4)弾性率
熱分析装置DMA(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン、DMAQ800)により、25℃および260℃で引っ張りモードの弾性率を測定した。昇温速度は10℃/分である(単位:Gpa)。
(5)吸水率
85℃、RH85%の環境下に24時間曝露後の質量変化率を測定し、吸水率とした(単位:質量%)。
(6)チップの反り
銅フレームにペーストを塗布し、塗布面に8×8mmシリコンチップを装着後、ペーストを接着硬化させて反り量を測定した(単位:μm)。硬化は実施例1〜7および比較例1〜3で使用したサンプルについては100℃で2.0時間、比較例4および5で使用したサンプルについては170℃で2.0時間行った。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1及び表2から分かるように、前記一般式(I)で示されるフェノール化合物を用いた実施例のダイボンディングペーストは、それを用いていない比較例のペーストに比べて、糸引き性や拡がり性が少ない。したがって、作業性が良好であり、かつ、低温・速硬化性である。比較例においては、硬化促進剤が使用されているにもかかわらず、硬化物の特性が悪い(特に、比較例2においては、ダイボンディングペーストの硬化不良のため硬化物の特性は測定不可)。
特に100℃以下の温度での硬化でも十分に特性を発揮する。また、可使時間が長く、チップとフレームの種々の組み合わせにおいても良好なチップ接着強度を示すとともに、ペースト硬化物とチップまたはフレーム(基板)の間で界面剥離が生じることなく良好な剪断破壊モードを示した。さらに、本発明のダイボンディングペーストの硬化物は吸水率が低く、チップの反りも小さく、優れた特性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のダイボンディングペーストは作業性が良好で、応力緩和性等に優れた硬化物を与え、このダイボンディングペーストを用いることにより半導体装置の信頼性を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)一般式(I)
【化1】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立に−Hまたは−CH3を示す。Xは−CH2−、−C(CH32−、−CH(CH3)−、−C(CF32−、−C O−、−SO2−または−O−を示す。mおよびnはそれぞれ0から4の整数であり、どちらか一方は必ず1以上である。]
で示されるフェノール化合物、(C)アルミニウムキレート化合物、および(D)無機フィラーを必須成分として含有し、(A)成分100質量部に対して(B)成分を1〜200質量部、(C)成分を0.1〜40質量部、および、(D)成分を100〜10000質量部の割合で含むことを特徴とするダイボンディングペースト。
【請求項2】
さらに、(E)(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を、ペースト硬化物量に基づき0.01〜2.0質量%の割合で含む請求項1に記載のダイボンディングペースト。
【請求項3】
さらに、(F)アルコキシ基を有するシラン化合物をペースト硬化物量に基づき0.01〜30質量%の割合で含む請求項1又は2に記載のダイボンディングペースト。
【請求項4】
無機フィラーが銀粉末である請求項1〜3のいずれかに記載のダイボンディングペースト。
【請求項5】
さらに反応性希釈剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載のダイボンディングペースト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のダイボンディングペーストを用いてなる半導体装置。

【公開番号】特開2007−142117(P2007−142117A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333266(P2005−333266)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】