説明

ダイヤフラムアクチュエータ

【課題】排気バイパスバルブの応答遅れを抑制できるダイヤフラムアクチュエータを提供する。
【解決手段】一端に上記排気バイパスバルブ37が連結されると共に、他端に第1ダイヤフラム3が固定され、その第1ダイヤフラム3に所定の圧力が付与されたときに上記排気バイパスバルブ37を全開にする第1シャフト2と、一端に上記第1シャフト2が係合すると共に、他端に上記高圧段ターボ26の過給圧が付与される第2ダイヤフラム5が固定され、その第2ダイヤフラム5に付与される過給圧に応じて上記第1シャフト2を介して上記排気バイパスバルブ37を開弁側に作動させる第2シャフト6とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気バイパスバルブを開閉するためのダイヤフラムアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエンジンの2ステージターボシステムとして、異なる大きさ、特性違いの2個のターボを、高圧段と低圧段とで直列に設けると共に、高圧段ターボのタービンをバイパスする排気バイパス通路を設けたものがある。その2ステージターボシステムでは、排気バイパス通路に設けた排気バイパスバルブの開閉を切り換えることで、エンジンから排出されたガスを、高圧段ターボまたは低圧段ターボのどちらかのタービンに導くようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、この排気バイパスバルブの切り換え機構として、例えば、図4のように、ダイヤフラムアクチュエータを用いたものが知られている。
【0004】
図4において、100は排気バイパス通路、101は排気バイパスバルブ、102はダイヤフラムアクチュエータである。
【0005】
ダイヤフラムアクチュエータ102は、リンク機構103を介して排気バイパスバルブ101に連結されたシャフト104と、そのシャフト104に固定されたダイヤフラム105と、そのダイヤフラム105により内部が上室106と下室107とに区画されたケース108と、そのケース108の上室106に収容されシャフト104を下方(開側)に付勢するスプリング109とを有する。
【0006】
ケース108の上室106には、バキュームポンプに連通する負圧ライン110が接続され、その負圧ライン110には、電子バキュームレギュレーティングバルブ(EVRV)111が設けられる。そのEVRV111は、図示しない車両の電子制御モジュール(ECM)により制御される。
【0007】
この切り換え機構では、バキュームポンプの負圧をEVRV111を介して制御して、ケース108の上室106に供給される負圧値を制御することで、アクチュエータ102のシャフト104を作動させている。
【0008】
すなわち、ECMによりEVRV111が全閉とされると、スプリング109の付勢力によりシャフト104が押し下げられ、排気バイパスバルブ101が全開となる。このときは、排気バイパス通路100が開放されて1段過給が行われる。
【0009】
ECMによりEVRV111が開側に作動されると、ケース108の上室106に負圧がかかり、その負圧によりダイヤフラム105およびシャフト104が引き上げられ、排気バイパスバルブ101が閉側に作動する。さらに、EVRV111が全開となると排気バイパスバルブ101が全閉となり、2段過給が行われる。
【0010】
ここで、2ステージターボシステムでは、排気ガス・燃費をより改善するために、エンジンの排気圧を下げ、かつ排気ガス走行域での高圧段ターボをいかに有効に使うかが一つの鍵となる。
【0011】
例えば、車両走行中に加速アクセル操作により、エンジンの排気圧が過度に高くなると燃費が悪化する。そこで、図4の切り換え機構では、2段過給時に、エンジンの排気圧が過度に上昇したときには、ECMがEVRV111を制御して排気バイパスバルブ101を僅かに開き、エンジンの排気を排気バイパス通路100から逃がして、排気圧を低減するようにしている。
【0012】
【特許文献1】特開2008−133808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の排気バイパスバルブ101の切り換え機構には、エンジンの排気を逃がす際に、排気バイパスバルブ101の応答遅れが生じるという問題があった。
【0014】
すなわち、エンジンの排気を逃がすために排気バイパスバルブ101を僅かに開くには、EVRV111をECMからの電気信号で動かしてダイヤフラムアクチュエータ102に供給される負圧値を変える必要があり、この負圧ソース発生のロジックにより、EVRV111を作動させてもダイヤフラムアクチュエータ102に供給される負圧がすぐには低下しないことから排気バイパスバルブ101の応答遅れが発生していた。この排気バイパスバルブ101の応答遅れを極力なくし、微少な開閉制御の応答性を上げることが望まれていた。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、排気バイパスバルブの応答遅れを抑制できるダイヤフラムアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンに高圧段ターボと低圧段ターボとが設けられると共に上記エンジンの排気通路に上記高圧段ターボのタービンをバイパスする排気バイパス通路が設けられ、その排気バイパス通路に設けられた排気バイパスバルブを開閉するためのダイヤフラムアクチュエータにおいて、一端に上記排気バイパスバルブが連結されると共に、他端に第1ダイヤフラムが固定され、その第1ダイヤフラムに所定の圧力が付与されたときに上記排気バイパスバルブを全開にする第1シャフトと、一端に上記第1シャフトが係合すると共に、他端に上記高圧段ターボの過給圧が付与される第2ダイヤフラムが固定され、その第2ダイヤフラムに付与される過給圧に応じて上記第1シャフトを介して上記排気バイパスバルブを開弁側に作動させる第2シャフトとを備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排気バイパスバルブの応答遅れを抑制できるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
本実施形態のダイヤフラムアクチュエータは、例えば、トラックなどの車両に搭載されたディーゼルエンジンの多段ターボシステムに適用される。
【0020】
まず、図1に基づきエンジンおよびターボシステムの概略構造を説明する。
【0021】
図1に示すように、エンジン20は、エンジン本体21と、そのエンジン本体21に吸気を供給する吸気通路22と、エンジン本体21からの排気を排出する排気通路23と、その排気通路23の排気の一部を吸気通路22に戻すEGR装置24と、エンジン20への吸気を加圧、圧縮するための多段ターボシステム25とを備える。
【0022】
図例のエンジン20は、エンジン本体21に複数のシリンダ211(燃焼室)が形成された多気筒ディーゼルエンジンであり、シリンダ211が、吸気通路22の下流端をなす吸気マニフォールド221と排気通路23の上流端をなす排気マニフォールド231とに接続される。
【0023】
EGR装置24は、排気通路23と吸気通路22とを接続するEGR通路241と、そのEGR通路241に設けられたEGRバルブ242とを備える。
【0024】
本実施形態の多段ターボシステム25は、2ステージターボシステムであり、エンジン20の吸排気通路22、23に直列に設けられた高圧段ターボ26および低圧段ターボ27と、高圧段ターボ26の後述する高圧段タービン34をバイパスする排気バイパス通路28と、その排気バイパス通路28を開閉して低圧段ターボ27のみによる1段過給と高圧段ターボ26および低圧段ターボ27による2段過給とを切り換えるための排気切り換え装置29と、その排気切り換え装置29を制御するための電子コントロールモジュール(以下ECMという、図2参照)12とを有する。
【0025】
低圧段ターボ27は、吸気通路22に設けられた低圧段コンプレッサ31と排気通路23に設けられた低圧段タービン32とを有する。高圧段ターボ26は、低圧段コンプレッサ31よりも下流の吸気通路22に設けられた高圧段コンプレッサ33と、低圧段タービン32よりも上流の排気通路23に設けられた高圧段タービン34とを有する。本実施形態の高圧段ターボ26は、低圧段ターボ27よりも大きな容量を有する。
【0026】
高圧段コンプレッサ33の下流の吸気通路22には、高圧段コンプレッサ33(または低圧段コンプレッサ31)で過給された吸気を冷却するためのインタークーラー222が設けられる。
【0027】
排気バイパス通路28は、高圧段タービン34の上流と下流とを連通する。図例では、排気バイパス通路28の上流端が排気マニフォールド231と高圧段タービン34との間の排気通路23に接続され、下流端が高圧段タービン34と低圧段タービン32との間の排気通路23に接続される。
【0028】
図2および図3に示すように、排気切り換え装置29は、排気バイパス通路28に設けられた排気バイパスバルブ37と、その排気バイパスバルブ37を駆動するダイヤフラムアクチュエータ1とを有する。
【0029】
排気バイパスバルブ37は、所謂スイング弁であり、弁体41と、その弁体41を保持するアーム42と、ダイヤフラムアクチュエータ1の後述する第1シャフト2に連結されたレバー43と、それらアーム42とレバー43とが固定された回動自在な回動軸44とを有し、第1シャフト2が軸方向に沿って移動することで、レバー43とアーム42とが回動軸44を支点に一体的に回動して弁体41が排気バイパス通路28を開閉するように構成される。また、排気バイパス通路28には、弁体41を着座させるための弁座45が形成される。
【0030】
より詳細には、排気バイパスバルブ37は、ノーマルクローズであり、弁体41が弁座45に着座した状態(排気バイパス通路28が閉塞した状態)から、第1シャフト2が軸方向に沿って下方に移動すると、レバー43およびアーム42が反時計回りに回転して弁体41が弁座45から離間し、排気バイパス通路28が開放される。このとき、開放される排気バイパス通路28の面積(排気バイパスバルブ37の開度)は、第1シャフト2の移動量が大きいほど大きくなる。
【0031】
本実施形態のダイヤフラムアクチュエータ1は、一端に排気バイパスバルブ37が連結されると共に他端に第1ダイヤフラム3が固定され第1ダイヤフラム3に所定の圧力(本実施形態では負圧)が付与されたときに排気バイパスバルブ37を全開にする第1シャフト2と、その第1シャフト2を閉弁側に付勢する第1スプリング4と、一端に第1シャフト2が係合すると共に他端に高圧段ターボ26の過給圧が付与される第2ダイヤフラム5が固定され第2ダイヤフラム5に付与される過給圧に応じて第1シャフト2を介して排気バイパスバルブ37を開弁側に作動させる第2シャフト6と、その第2シャフト6を閉弁側に付勢する第2スプリング7と、第1ダイヤフラム3および第2ダイヤフラム5を収容するケース8とを備える。
【0032】
以下の説明では、図2の上下方向が第1シャフト2の軸方向であり、図2の上方が開弁側、下方が閉弁側である。
【0033】
ケース8は、上下方向に延び第1シャフト2および第2シャフト6を囲う筒状に形成される。図例のケース8は、複数の筒状のケース部材を上下方向に連結して構成され、下方から順に第1ケース部材81と第2ケース部材82と第3ケース部材83とを有する。
【0034】
第1ケース部材81は、上下方向に延びる円筒状の筒体部811と、その筒体部811の下端を閉塞する底部812とを有する。
【0035】
第1ケース部材81の底部812には、第1シャフト2が上下に貫通する貫通穴813と、第1シャフト2に摺動し貫通穴813(および後述する第1負圧室9)を気密に保つための環状のシール部材51と、第1シャフト2を軸方向に移動可能に支持する環状のガイド部材52とが設けられる。図例では、底部812の上面に形成された凹部814内に第1シャフト2を囲うようにボス部815が形成され、そのボス部815に貫通穴813が形成されると共に、ボス部815内にシール部材51とガイド部材52とが配置される。
【0036】
第1ケース部材81の筒体部811の上端には、第2ケース部材82を取り付けるためのフランジ816が形成される。そのフランジ816は、後述する第2ケース部材82のフランジ824に突き合わされ接合(図例ではボルト接合)される。それら第1ケース部材81と第2ケース部材82との間には、第1ダイヤフラム3が配置される。
【0037】
第1ダイヤフラム3は、ほぼ円板状に形成され、その周縁部が、第1ケース部材81と第2ケース部材82との間に挟み込まれて保持される。また、第1ダイヤフラム3の中心部は、第1シャフト2の上端部に固定される。
【0038】
この第1ダイヤフラム3により、第1ケース部材81が上方から閉塞され、第1ケース部材81内に第1ダイヤフラム3に上記所定負圧を付与するための第1負圧室9が形成される。
【0039】
より具体的には、第1負圧室9は、第1ダイヤフラム3の下面と筒体部811の内面と底部812の上面とにより区画形成され、筒体部811に設けられた供給口817とその供給口817に接続された負圧ライン39とを介して負圧源38に接続される。その第1負圧室9内には、第1スプリング4が配置される。
【0040】
第1スプリング4は、例えば、コイルスプリングからなり、第1シャフト2の上端の後述するスプリングリテーナ55と第1ケース部材81との間に、上下方向に伸縮可能に配置される。第1スプリング4の下端は第1ケース部材81のボス部815に嵌め合わされ、上端は、スプリングリテーナ55に係合する。
【0041】
第1シャフト2は、第1ケース部材81と同心的に配置され、第1ダイヤフラム3のほぼ中心から下方に延び、第1ケース部材81を貫通して第1ケース部材81から下方に突出する。
【0042】
第1シャフト2の下端は、上述した排気バイパスバルブ37のレバー43に回動自在に取り付けられる。また、第1シャフト2の下端部(第1ケース部材81から突出する部分)に、第1シャフト2の長さを調整するためのターンバックル59が設けられる。
【0043】
第1シャフト2の上端部には、第1スプリング4を保持するためのスプリングリテーナ55が設けられると共に、そのスプリングリテーナ55との間に第1ダイヤフラム3を挟持するためのダイヤフラムリテーナ56が設けられる。
【0044】
スプリングリテーナ55は、上端が閉塞された円筒状に形成され、その上端面に、下方に突出し第1スプリング4の上端を囲繞する環状の突出部が形成される。
【0045】
ダイヤフラムリテーナ56は、下端が閉塞された円筒状に形成され、そのダイヤフラムリテーナ56の下端面と、スプリングリテーナ55の上端面との間に第1ダイヤフラム3が挟み込まれる。
【0046】
第2ケース部材82は、第1ケース部材81から上方に延びる円筒状の大径部821と、その大径部821の上端を閉塞する仕切部822と、その仕切部822から上方に延びる円筒状の小径部823とを有する。
【0047】
大径部821は、第1ケース部材81の筒体部811とほぼ同じ内径を有し、その筒体部811と同心的に配置される。大径部821の下端には、第1ケース部材81のフランジ818に接合されるフランジ824が形成される。
【0048】
大径部821の内面と仕切部822の下面と第1ダイヤフラム3の上面とにより、大気開放された大気圧室14が区画形成される。大径部821には、大気圧室14内を大気圧に保つための、外部に連通する開放口825が形成される。
【0049】
仕切部822には、第2シャフト6が上下に貫通する貫通穴826と、第2シャフト6に摺動し貫通穴826(および後述する第2負圧室10)を気密に保つための環状のシール部材51と、第1シャフト2を軸方向に移動可能に支持する環状のガイド部材52とが設けられる。図例では、仕切部822の上面に第2シャフト6を囲うようにボス部827が形成され、そのボス部827に貫通穴826が形成されると共に、ボス部827内にシール部材51とガイド部材52とが配置される。
【0050】
小径部823は、大径部821よりも小さな内径を有し、大径部821と同心的に形成される。小径部823の上端には、第3ケース部材83を取り付けるためのフランジ828が形成される。そのフランジ828と第3ケース部材83の後述するフランジ833とが互いに接合(図例ではボルト接合)される。それら小径部823と第3ケース部材83との間には、第2ダイヤフラム5が配置される。
【0051】
第2ダイヤフラム5は、第1ダイヤフラム3よりも小径のほぼ円板状に形成され、その周縁部が、第2ケース部材82の上端と第3ケース部材83の下端との間に挟まれて保持される。また、第2ダイヤフラム5の中心部は、第2シャフト6の上端部に固定される。
【0052】
この第2ダイヤフラム5により、第2ケース部材82の小径部823が上方から閉塞され、第2ケース部材82内に第2ダイヤフラム5に負圧を付与するための第2負圧室10が形成される。
【0053】
より具体的には、第2負圧室10は、第2ダイヤフラム5の下面と小径部823の内面と仕切部822の上面とにより区画形成される。本実施形態では、第2負圧室10に、第1負圧室9と同じ大きさの負圧が供給される。第2負圧室10は、小径部823に設けられた供給口829とその供給口829に接続された負圧ライン39とを介して負圧源38に接続される。その第2負圧室10内には、第2スプリング7が配置される。
【0054】
第2スプリング7は、例えば、コイルスプリングからなり、第2シャフト6の上端の後述するスプリングリテーナ57と第2ケース部材82の仕切部822との間に、上下方向に伸縮可能に配置される。第2スプリング7は、下端が第2ケース部材82のボス部827に嵌め合わされ、上端がスプリングリテーナ57に係合する。
【0055】
第2シャフト6は、第1シャフト2のほぼ真上に位置し、第1シャフト2と上下に一列に並ぶように配置される。第2シャフト6は、第2ダイヤフラム5のほぼ中心から下方に延び、第2ケース部材82の仕切部822を貫通して、第1シャフト2(第1ダイヤフラム3)まで延びる。第2シャフト6の下端は、第1シャフト2を下方に押圧すべく第1シャフト2の上端に係合する。本実施形態では、第2シャフト6の下端が、第1シャフト2の上端と離間可能に当接する。
【0056】
第2シャフト6の上端部には、第2スプリング7を保持するためのスプリングリテーナ57が設けられると共に、そのスプリングリテーナ57との間に第2ダイヤフラム5を挟み保持するダイヤフラムリテーナ58が設けられる。それらスプリングリテーナ57およびダイヤフラムリテーナ58は、第1シャフト2のものと同様の構造を有し、ダイヤフラムリテーナ58の下端面とスプリングリテーナ57の上端面との間に第2ダイヤフラム5が挟み込まれる。
【0057】
第3ケース部材83は、上下方向に延びる円筒状の筒体部831と、その筒体部831の上端を閉塞する天井部832とを有する。筒体部831の下端には、第2ケース部材82のフランジ828に接合されるフランジ833が形成される。
【0058】
第3ケース部材83の天井部832の下面と筒体部811の内面と第2ダイヤフラム5の上面とにより、第2ダイヤフラム5に高圧段コンプレッサ33の過給圧(正圧)を付与するための過給圧室11が区画形成される。
【0059】
過給圧室11は、第3ケース部材83の天井部832に設けられた供給口834とその供給口834に接続された過給圧ライン15とを介して高圧段コンプレッサ33の下流に接続される。供給口834は、天井部832の下面のほぼ中心部に形成され、その供給口834を囲うように天井部832の下面に下方に突出する環状部835が形成される。本実施形態の過給圧ライン15は、図1に示すように、高圧段コンプレッサ33とエンジン本体21との間の吸気通路22に接続される。
【0060】
負圧源38は、例えば、車両に搭載されエンジン本体21により駆動されるバキュームポンプや、そのバキュームポンプによる負圧を貯めるバキュームタンクなどからなる。
【0061】
負圧ライン39は、一端が負圧源38に接続され、他端が2つに分岐して第1負圧室9および第2負圧室10に各々接続される。負圧ライン39には、第1負圧室9および第2負圧室10に負圧を供給するか否かを切り換えるためのバキュームスイッチングバルブ(以下、VSVという)13が設けられる。
【0062】
VSV13は、ECM12に電気的に接続され、そのECM12からのECM信号により制御される。VSV13は、ノーマルクローズ型のON/OFF弁であり、ECM信号を受信していないときに負圧ライン39を閉塞し、ECM信号を受信したときに負圧ライン39を開放する。
【0063】
ECM12には、VSV13などの各種アクチュエータ類や、図示しないエンジン回転数センサ、アクセル開度センサなどの各種センサ類が電気的に接続される。
【0064】
ECM12は、エンジン回転数センサやアクセル開度センサの検出信号からエンジン20の運転状態(エンジン回転数、エンジン負荷)を求め、その求めたエンジン20の運転状態に基づいて1段過給と2段過給とを切り換えるべく、VSV13をON/OFF制御する。
【0065】
以上のように、本実施形態のダイヤフラムアクチュエータ1では、第2スプリング7と過給圧室11と第2ダイヤフラム5とにより正圧(過給圧)で動作するアクチュエータが構成され、第1スプリング4、第1負圧室9および第1ダイヤフラム3と、第2スプリング7、第2負圧室10および第2ダイヤフラム5とにより負圧で動作するアクチュエータが構成され、これらのアクチュエータの2段階のアクションで第1シャフト2および第2シャフト6を介し排気バイパスバルブ37が制御される。
【0066】
詳しくは後述するが、ダイヤフラムアクチュエータ1は、初期(エンジン低回転出力域)の排気バイパスバルブ37の微少開度を、コンプレッサの過給圧(正圧)を過給圧室11にかけることで、自動に微少開度制御し、エンジン高回転出力域では、排気ガスの全量を低圧段ターボ27へ導く必要があるため、第1負圧室9および第2負圧室10に負圧を掛け、排気バイパスバルブ37を全開とする。この第1負圧室9および第2負圧室10にかける負圧は、VSV13で制御される。
【0067】
次に、図2および図3に基づき本実施形態のダイヤフラムアクチュエータ1の作用を説明する。
【0068】
そのダイヤフラムアクチュエータ1は、多段ターボシステム25を2段過給と1段過給とで切り換えるべくECM12により制御される。
【0069】
まず、2段過給について説明する。
【0070】
2段過給は、エンジン20が低回転領域(および/または低負荷領域)で運転されるときに行われる。その2段過給が行われる際、ECM12はVSV13を全閉にし、これによりダイヤフラムアクチュエータ1の第1負圧室9と第2負圧室10とが大気開放される。また、過給圧室11には、高圧段コンプレッサ33の下流からの過給圧が付与(印可)され、その過給圧室11の過給圧が第2ダイヤフラム5の上面に下向きに作用する。
【0071】
第2シャフト6には、第2ダイヤフラム5からの下向き(開弁側)の力と第2スプリング7からの上向き(閉弁側)の力とが作用し、第1シャフト2には、その第2シャフト6からの下向きの力と、第1スプリング4からの上向きの力とが作用する。
【0072】
ここで、通常時(車両の定速走行時など)は、第2ダイヤフラム5の下向きの力が、第1スプリング4と第2スプリング7とによる上向きの力以下であり、第1シャフト2は、最も上方に位置して排気バイパスバルブ37を全閉にする(図2参照)。その排気バイパスバルブ37により排気バイパス通路28が閉塞され、排気マニフォールド231からの排気はほぼ全量が高圧段タービン34に導入され、その後、高圧段タービン34から低圧段タービン32へと導入される。
【0073】
これにより、高圧段ターボ26と低圧段ターボ27との両方が作動し、それらによる2段過給が行われる。
【0074】
一方、車両の加速時に、過給圧および排気圧が瞬間的に過度に上昇したときは、過給圧による第2ダイヤフラム5の下向きの力が、第1スプリング4と第2スプリング7とによる上向きの力を超え、その超えた分だけ第1シャフト2が排気バイパスバルブ37を開弁させる。
【0075】
これにより、排気バイパス通路28が一部開放され、その排気バイパス通路28を通りエンジン20の排気が排出されることで、排気マニフォールド231内の排気圧が低減される。
【0076】
より具体的には、車両加速時の燃費悪化を防止すべく過給圧の制限値が予め設定されており、その制限値を基に、第1スプリング4と第2スプリング7とのバネ力が、過給圧が制限値のときに第2ダイヤフラム5に作用する力と釣り合うように設定される。なお、本実施形態の制限値は、上記所定の負圧の絶対値よりも大きい。
【0077】
このように、本実施形態では、ダイヤフラムアクチュエータ1を、2段過給の実行時に過給圧が制限値以下のときに排気バイパスバルブ37を閉弁し、制限値を超えるときに排気バイパスバルブ37を過給圧に応じた微少開度にて開弁するように構成したので、排気バイパスバルブ37の応答遅れを抑制することができる。
【0078】
すなわち、図4に示す従来のアクチュエータ102は、排気バイパスバルブ101がノーマルオープンとなるように構成されており、2段過給を行う場合は、アクチュエータ102に負圧をかけることで排気バイパスバルブ101を全閉保持し、車両加速時に排気マニフォールド圧上昇による燃費悪化を防ぐ必要があるときには、排気バイパスバルブ101を一瞬、少量開け、再度全閉するようにしている。その排気バイパスバルブ101の作動は、負圧アクチュエータ102にかける負圧を一瞬抜き、再度かけるという負圧の制御をEVRV111でECMからの信号で制御するので、その信号の出力やEVRV111の作動のために、排気バイパスバルブ101を全閉−少量開−全閉とする動作に時間を要していた。
【0079】
これに対して、本実施形態のダイヤフラムアクチュエータ1は、排気バイパスバルブ37がノーマルクローズとなるように構成されており、過給圧室11にかかるターボコンプレッサ圧(過給圧)のみでの排気バイパスバルブ37の全閉−少量開−全閉と動作させることができ、ECM信号とEVRVとを介さないので、それら作動の時間の分だけ、応答性を向上させることができる。その結果、2ステージターボシステムの高圧段ターボ26の過給を有効とできる。
【0080】
次に、1段過給について説明する。
【0081】
1段過給は、エンジン20が、高回転領域(および/または高負荷領域)で運転されるときに行われる。その1段過給が行われる際、ECM12は、VSV13にECM信号を送信して、VSV13を全開にする。これにより、第1負圧室9と第2負圧室10とに所定の負圧が各々付与され、その第1負圧室9内の負圧が第1ダイヤフラム3の下面に上向きに作用し、第2負圧室10内の負圧が第2ダイヤフラム5の下面に上向きに作用する。また、上述したように、過給圧室11の過給圧が第2ダイヤフラム5の上面に下向きに作用する。
【0082】
第2シャフト6には、過給圧および負圧による第2ダイヤフラム5からの下向きの力と第2スプリング7からの上向き(閉弁側)の力とが作用し、第2シャフト6が、下方に付勢される。
【0083】
第1シャフト2には、第2シャフト6からの下向きの力と、負圧による第1ダイヤフラム3からの下向きの力と、第1スプリング4とからの上向きの力とが作用し、第1シャフト2は、最も下方に位置して排気バイパスバルブ37を全開にする(図3参照)。その排気バイパスバルブ37により排気バイパス通路28が開放されると、エンジン20からの排気は高圧段タービン34を迂回してほぼ全量が低圧段タービン32に導入される。
【0084】
これにより、高圧段ターボ26が非作動となり低圧段ターボ27のみが作動し、1段過給が行われる。
【0085】
以上のように、本実施形態のダイヤフラムアクチュエータ1は、排気バイパスバルブ37の応答遅れを抑制することができる。
【0086】
また、シリンダ211内に供給する過給された空気圧(過給圧)により、高圧段ターボ26と低圧段ターボ27とへの排気ガスの分配を自動に行え、エキゾーストマニフォールド内圧も自動で抑えることができ、燃費面、排ガス面での改善が期待できる。特に、車両加速時に、アクセルが開いた状態から閉じたときの排気バイパスバルブ37の全閉応答が上がることで、EGR装置24によるEGR制御の応答も上がりスモークの改善も見込まれる。
【0087】
また、EVRVに比べて安価なVSV13により制御できるので、EVRVが不要となりコストを低減できる。
【0088】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0089】
上述の実施形態では、第1ダイヤフラムに負圧を付与することで排気バイパスバルブを全開にしたが、これに限定されない。例えば、図2の第1負圧室を大気開放すると共に、図2の大気圧室を正圧源に接続し、その正圧源からの正圧により排気バイパスバルブを全開にすることも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態による2ステージターボシステムの模式図である。
【図2】図2は、本実施形態のダイヤフラムアクチュエータの概略断面図であり、排気バイパスバルブが全閉のときの状態を示す。
【図3】図3は、本実施形態のダイヤフラムアクチュエータの概略断面図であり、排気バイパスバルブが全開のときの状態を示す。
【図4】図4は、従来のダイヤフラムアクチュエータの概略断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ダイヤフラムアクチュエータ
2 第1シャフト
3 第1ダイヤフラム
5 第2ダイヤフラム
6 第2シャフト
20 エンジン
22 吸気通路
23 排気通路
26 高圧段ターボ
27 低圧段ターボ
28 排気バイパス通路
37 排気バイパスバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに高圧段ターボと低圧段ターボとが設けられると共に上記エンジンの排気通路に上記高圧段ターボのタービンをバイパスする排気バイパス通路が設けられ、その排気バイパス通路に設けられた排気バイパスバルブを開閉するためのダイヤフラムアクチュエータにおいて、
一端に上記排気バイパスバルブが連結されると共に、他端に第1ダイヤフラムが固定され、その第1ダイヤフラムに所定の圧力が付与されたときに上記排気バイパスバルブを全開にする第1シャフトと、
一端に上記第1シャフトが係合すると共に、他端に上記高圧段ターボの過給圧が付与される第2ダイヤフラムが固定され、その第2ダイヤフラムに付与される過給圧に応じて上記第1シャフトを介して上記排気バイパスバルブを開弁側に作動させる第2シャフトとを備えたことを特徴とするダイヤフラムアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90766(P2010−90766A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260491(P2008−260491)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】